『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』別冊編集後記
第624号(No.624) 2022/8/13
「2022年8月合併号―「8月13日は国際左利きの日」―」
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【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン
右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第624号(No.624) 2022/8/13
「2022年8月合併号―「8月13日は国際左利きの日」―」
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今月、8月13日(土)は、世界的な左利きの日
「国際左利きの日」INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY です。
毎年、この前後に、この「左利きの日」を記念した
新たなブログ記事を書いてきました。
今年も何か書く予定でいましたが、
そうしますと、三週続けて左利きについて書くことになります。
正直今の私には、その余力がありません。
そこで、メルマガを一ヶ月通じての合併号とすることで、
一つの記事で済ませることにしました。
勝手ながらご容赦ください。
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2022年8月合併号
―「8月13日は国際左利きの日(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)」―
左利きとアイデンティティ
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●1976年から47回目の2022年8月13日「国際左利きの日」
今年も8月13日「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」
が近づいています。
毎年毎年書いていることですが、
日本語で「左利きの日(8月13日)」とネット検索しますと、
難儀なほど、多数の
《1992年8月13日、イギリスにある「Left-Handers Club」により制定》
という記事が出てきます。
日本語版 Wikipedia「左利きの日」の受け売りが大半なのでしょう
けれど、困ったことです。
最も昔からやっているのですよ、といいたいのです。
なにしろ同じ「Wikipedia」でも英語版で
「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」で検索しますと、
英語版Wikipedia「International Lefthanders Day」
https://en.wikipedia.org/wiki/International_Lefthanders_Day
冒頭に、
《International Left Handers Day is an international day
observed annually on August 13 to celebrate the uniqueness
and differences of left-handed individuals.
The day was first observed in 1976 by Dean R. Campbell,
founder of Lefthanders International, Inc.》
と出てきます。
(画像:英語版ウィキペディアの「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」の項目冒頭――下線部分の筆者訳:「国際左利きの日」は「レフトハンダー・インターナショナル」の創設者ディーン・R・キャンベルによって1976年に最初の祝祭が行われた)
それ以外にも、いくつものサイトで
この「1976年キャンベル起源説」が出てきます。
私自身、昔購読していたのが、
このキャンベルさんがチェアマンをしていた
「LEFTHANDERS INTERNATIONAL」という組織が発行する
「LEFTHANDER MAGAZIN」という左利きの人のための雑誌でした。
これは、1991(平成3)年3月発行の
『モノ・マガジン』1991年4月2日号 No.188
「特集/左を制するものは時代を制す/左利きの商品学」
(ワールド・フォトプレス)に掲載されていたもので、
1993(平成5)年に、英語を勉強して連絡を取り、
定期購読していたものでした(1993年11・12月号~1996年3・4月号)。
そこには、アメリカでのイベントのリポートなども掲載されていました。
ちなみに、雑誌で知ったイギリスの左利き用品専門店
「Anything Left-Handed」の顧客が参加できる、
前述の「Left-handers Club」の会員になり、
機関誌「The Left-hander」も定期購読していました
(1994(平成6)年No.16~1997年10月No.27)。
もちろん現在、世界的に唯一かもしれない、活動中の
「lefthandersday」サイト「https://www.lefthandersday.com/」では、
自身が始めた1992年を起源としています。
今年のサイトには、
《Welcome to the official site for the 30th annual Left Handers Day! August 13th is a chance to tell your family and friends how proud you are of being left-handed, and also raise awareness of the everyday issues that lefties face as we live in a world designed for right-handers.》
「30th」と書かれています。
これはあくまでも、先週の<号外>でも書きましたように、
そちら側の「主張」です。
本当の歴史的事実は、違います。
●記念日制定の趣旨は同じ――左利き生活向上のため
キャンベルさんもご自身左利きで、
アメリカのカンザス州トピカで左利き用品店を始め、
開店一周年のこの8月13日に、左利きの人のための会(前述の)
「LEFTHANDERS INTERNATIONAL」を開設、
左利きの人の生活向上のために左利き用品の普及を目指して、
この記念日を制定したわけです。
ですから、制定の趣旨は同じです。
この「国際左利きの日(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)」は、
本来外国の記念日ですから、日本語で調べるだけではなく、
英語で「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」と調べれば、
より正確であろう情報に出会える、と考える方が自然でしょう。
と、私なら思うのですが、
大半の人は、日本語で調べただけで納得してしまうのでしょうか。
結果として、多くの人が間違った情報を広めています。
裏付けにこだわらない、という態度は、不思議です。
●私の左利きの活動のきっかけも……
上にも書きましたように、「左利きの日」制定の趣旨は、
左利きの人の生活向上を願って、左利き用品を普及させることでした。
そういう目的を持っています。
この日を機会に、左利きの人について、その生活について考えてもらう。
左利きの人の生活上の不便や困り事を解決する手段の一つとして、
道具を工夫すること、左利きの人に使いやすい道具を用意すること、
があげられます。
もちろん、そういう物理的な問題解決だけではなく、
といいますか、それ以前の問題として、
左利きについて知ってもらい、左利きに忌避感をもたないように、
という精神的な問題解決の面もあります。
また道具の開発や普及のためには、
多数派である右利きの人たちの協力や理解が必要です。
左利きの人だけで解決できる問題ではありません。
そういう意味からも、左利きの人のみならず、
右利きの人の側の意識改革が必要になります。
その機会としての「左利きの日」でもあるのです。
とはいえ、
まずは具体的な生活上の利便性の向上を図らねばなりません。
私が左利きの活動を始めたのも、左利きとして生きてきたなかで、
苦労したこと、不都合に感じたことなどの多くは、
道具を得ることで解決できるという意識があり、
上にも紹介しました1991年3月発行の
『モノ・マガジン』1991年4月2日号・左利き特集号 でみた
左利き用品の数々を集め、実際に使ってみて、
いいものはまわりの左利きの人に紹介しよう、と考えたからでした。
左手・左利き用品――道具から始まったのですね。
そういう意味では、「国際左利きの日」や
「左利きグッズの日」の制定の趣旨と同じ方向性ですね。
●左利きというコンプレックス
ただ、それ以前に、
精神性の問題も重要であることに変わりはありません。
私は「左利きである」ということにコンプレックスを持っていました。
「いました」と過去形で書きましたが、
本当は今でも根強く残っています。
それがそもそもの左利き活動の推進力であり、源泉でもあったわけです。
では、
そもそも左利きであることに関するコンプレックスとは何だったのか、
そして、
それはどういう形で現在の活動につながっているのでしょうか。
これを語り始めると長くなります。
今簡単に言えることは、
二十代に読んだ、箱崎総一先生の著書、
『左利きの秘密』(立風書房・マンボウブックス 1979)
によって、
「間違っているのは自分ではなく社会の方だ」
と認識できたこと。
「変えるべきなのは、自分自身ではなく社会の方だ」ということ。
「右利き(偏重/優先)社会に順応できない左利きの自分自身ではなく、
そういう左利きの人を容認できない――
受け入れられない社会の方に問題があるのだ」
ということですね。
この社会の在り方を変えていかなければならない、
という思いが、左利き活動に進ませたのです。
●ゼナ・ヘンダースン《同胞(ピープル)》シリーズ
ここで、すこし話題を変えましょう。
左利きとアイデンティティについて考えて見ます。
ゼナ・ヘンダースンというアメリカのSF作家さんがいました。
1950年代から60年代にかけて主に活躍した人といっていいかと思います。
実際には、70年代に入っても活躍していたようですが、
日本で知られる代表作は大半が1950~60年代の短編です。
いちばんの人気作であり代表作といえるのは、
<ピープル>シリーズと呼ばれる一連の短編シリーズで、
『果てしなき旅路』(短編をまとめて長編に仕立ててある)と
『血は異ならず』(短編集)の2冊が出ています。
*ゼナ・ヘンダースン<ピープル>シリーズ
1.『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1
2.『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン/著 宇佐川晶子, 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF 500 ピープル・シリーズ) 1977/12/1
私がこの作品が好きなのは、ここに登場する人たちが、
みな、社会から疎外された「一人ぼっち」の孤独な存在で、
その理解者との出会いとそれによる、
精神的な「孤独からの解放」を描いたような作品だったから、でしょう。
自分でそういう理由を自覚できたのは、
図書館で見つけた赤木かん子さんの本を読んだからでした。
『こころの傷を読み解くための800冊の本 総解説』
赤木 かん子/著 自由國民社 2001/5/1
この本の紹介文はこうなっています。
《アダルト・チルドレン(AC)という言葉は
90年代初めにブームになりましたが、
今ひとつ、理解しづらいものでした。
そのアダルト・チルドレンの理解に役に立つように、
そしてその理解によって、
本人もまわりの人も少し楽になれることを願って、
小説やマンガや児童書やミステリや専門書など、
幅広い分野から本を集めて紹介します。
生きにくいと感じて、アルコール依存、虐待、共依存…など、
さまざまな問題を抱えている、そんな人たちの、
こころの傷を読み解くために―。》
《「アダルト・チルドレン(AC)――
子ども時代に必要な愛情と安らぎを得られずに育ち、
傷ついた心を抱え、癒されぬまま大人になっている人たち」
をテーマにしたブックガイド。》
この本の中の「第2章 アイデンティティ」<差別>で、
『果てしなき旅路』が取り上げられていました。
お話そのものは、《故郷》の星が破滅の危機に陥り、
宇宙船で脱出した異星人《同胞(ピープル)》たちが
新たな生活の場を求めて移動中、地球に突入する際に、宇宙船が壊れ、
散り散りになった彼らは、世界中(大半がアメリカの山中)に
ばらばらに住み着きます。
自分たちの優れた能力(人類から見れば超能力)を封印して、
地球人らしく振る舞うことで、地球人の社会に順応しようとするのです。
超能力の持ち主であることが分かれば――異星人という、
地球人とは違った存在だと分かれば――社会から排除されたり、
抹殺されたり、迫害されるという歴史があったからです。
しかし、真の自分を偽り、身を隠すような生き方は、
心が苦しむものです。
「人とは違う」という事実は、
特に大人の事情が理解できない子供には多大な影響を与えます。
結果的に様々な問題を引き起こすことになるのです。
この本に関する説明文を読んだ時、
初めて自分がどういう理由でこの本を好んでいたのか、
ということが理解できました。
《数家族で放り出され、谷間に住みついた一族は
自分のアイデンティティには悩まなくてすみました……
でも子どものときに、一人ぼっちになり、
つまり自分が何者なのか教えてもらえなかったために悩み、怯え、
うっかり力をつかっては気味悪がられ、
そのために州中の学校で拒否されて、
自分は“違うのだ”ということで絶望してその谷へやってきて
同朋とめぐりあった女教師のような人々の物語……、
ピープルがピープルと出会い、自分は一人ではないということ、
本当の自分をさらけだして生きてもいいのだということを知った時
どんなに嬉しかったか、という話が、ある晩、ある山のふもとで
交替で語られるのです。
それは個人の歴史であると同時に一族の歴史であり、
集まってきた人々すべてを共感で満たし、
今までの傷を癒やす作業でもあるのでした――。》p.69
要するに、社会から受け入れられず、迫害を受けている人々が、
同じ立場の人や思いやりのある理解者という味方を得て、
精神的に立ち直り、新たな人生に取り組んでいく、という物語です。
こういう背景は、ある意味で左利きであること――
右利きの「普通の人」とは違うということで、
色々な嫌な思いを経験してきた私自身と重なるものがあったのです。
続けてこう書いています。
《これって……そのまんま、ACの物語でしょう?/
私はこれが、大好きでした。このテの話が……。
自分はまわりと違う、という孤独感と孤立感に悩まされ、
不安で不幸な人々が自分と同じ人々と出会い、救われ、解放され、
幸福になる……そういう話が――。そうしてそのテの物語を、
“ピープル・タイプ”と呼んでいました。それは今考えればみな、
アダルト・チルドレンの物語だったのです。/
当時のSF作家たちは超能力者だけではない
いろいろなSF的手法を使って、
ACの癒やしの物語を紡いでいたのでした。なぜか……?!
彼ら自身がそうだったから……、そしてそうやって
自分自身を癒やそうとしたのではないかと私は思います。》p.69
《自分はまわりと違う、という孤独感と孤立感に悩まされ、
不安で不幸な人々》
まさに、当時の私は、そういう「不幸な左利きの一人」だったのです。
そんな
《人々が自分と同じ人々と出会い、救われ、解放され、幸福になる》
としたら、どうでしょうか。
こんな素晴らしいお話は他にはありませんよね。
・・・
ここまで書いたところで、もうかなりの行数になりました。
本来は、
「左利きとアイデンティティ」について書くつもりだったのですが、
前半に少し行数をとられてしまったようです。
「国際左利きの日」について語ることも大事なのですが、
「なぜ制定されたのか?」という根本的な部分が
「左利きの人の生活向上には適切な道具は大事だよ」
だけで終わっています。
それ以前に、
「どうして左利きの人は必要な道具が手に入れにくいのか」
という部分が説明されていない、ように思います。
必要なのに、適切な道具が手に入れにくいのか、
それは、
「左利きの人の必要とする道具がどういうものかよく知られていない」
という理由が、一つあります。
それは、
「左利きの人の必要なものが右利きの人の必要なものとは違うのだ」
という事実が知られていないからでしょう。
それは、結局、右利きの人と左利きの人との「違い」の認識の問題です。
それが左利きとアイデンティティに関わることだと思うのです。
その辺をお話ししたかったのですけれど。
もう一度、来月の第一土曜日発行分で、
今回の続きを書きたいと思います。
ゼナ・ヘンダースンさんの<ピープル>シリーズと
赤木かん子さんの本の記述をもう少し紹介して、
作品を通して具体的な「疎外者」の意識を、
私のような左利きの人が感じていたであろうそれと比較して、
考えていただけるようにしようと思っています。
・・・
要は、ゼナ・ヘンダースンさんの<ピープル>シリーズについて
語りたいだけなのかもしれません……。
*参照:「レフティやすおのお茶でっせ」
過去の「8月13日は<国際左利きの日>」の関連記事
↓
カテゴリ:8月13日国際左利きの日
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「★600号までの道のり」は、お休みです。
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本誌では、「2022年8月合併号―8月13日 国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY―」と題して、今回も全紹介です。
ゼナ・ヘンダースンについて少し書いておきます。
私の好きなSF作家の一人で、短編派の作家では、ロバート・F・ヤングと並ん部存在というところです。
以前、ハヤカワ文庫50周年の時に、もう一つのメルマガ『レフティやすおの楽しい読書』で「ハヤカワ文庫の50冊」という企画をやった際にあげた「【私のお気に入り7】」に、
ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』に次いで、
2.ゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』 3.ロバート・F・ヤング『ジョナサンと宇宙クジラ』 にあげています。
他には、
4.ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』 5.シャーリイ・ジャクスン『野蛮人との生活―スラップスティック式育児法』 6.クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』 7.ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』 です。
というように、非常に愛好する作家の一人で、世界的な大作家さんでもなければ、世界の名作文学というわけではないかもしれません。
しかし、単にお話がおもしろいとか、表現や文章がうまいとか、センス・オブ・ワンダーに優れているとか、なんやかんやといった小説のもつ面白さだけではなく、プラスアルファの部分が非常に心に響く作品を書く作家さんという印象です。
ぜひ、機会を作って読んでいただきたい作家さんの一人です。
・・・
弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。
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