2023.03.15

私の読書論168-丸谷才一『文学のレッスン』から(1)-楽しい読書338号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年3月15日号(No.338)
「私の読書論168-丸谷才一『文学のレッスン』から(1)」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年3月15日号(No.338)
「私の読書論168-丸谷才一『文学のレッスン』から(1)」
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 この「私の読書論」は、
 本好きで読書好きで若い頃には本屋で働いていたという経歴の私が
 本について、読書について、あれこれと思うところを書き綴る
 コーナーです。

 今までにいくつかの企画ものを連続的に書いてきました。
 中途で終わっているものもいくつかありますが、
 その都度、書きたいことを書く、という方針に変更し、
 現在に至っています。

 それぞれのシリーズものも、
 そのうちまた気が向いたら色々書いていこうと思います。

 今回は、小説、評論、エッセイ、翻訳と幅広い文筆活動で知られる
 丸谷才一さんのインタヴューものの文学論
 『文学のレッスン』聞き手・湯川豊(新潮文庫)から、
 気になる部分をピックアップして紹介します。

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 - 物語を読むように歴史を、学問を… -

  ~ 【伝記・自伝】【歴史】【批評】 ~

  丸谷才一『文学のレッスン』聞き手・湯川豊(新潮文庫)から(1)

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 ●『文学のレッスン』――八つの文学ジャンルの文学論

『文学のレッスン』の目次は、以下の通り。

【短篇小説】もしも雑誌がなかったら
【長篇小説】どこからきてどこへゆくのか
【伝記・自伝】伝記はなぜイギリスで繁栄したのか
【歴史】物語を読むように歴史を読む
【批評】学問とエッセイの重なるところ
【エッセイ】定義に挑戦するもの
【戯曲】芝居には色気が大事
【詩】詩は酒の肴になる

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この8ジャンルから、
小説に関してはいずれまた何かの機会に扱うとして、
それ以外のジャンルから、
私がこれはと思う、気になる部分を紹介しましょう。


『文学のレッスン』丸谷才一 聞き手・湯川豊 新潮文庫 2013/9/28

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(以下の《》内の引用は、基本的にみな丸谷さんの発言です。)

 

 ●【伝記・自伝】伝記はなぜイギリスで繁栄したのか

短篇小説、長篇小説と来て、その流れを受けて、
伝記・自伝に関する文章という感じです。

...(略)...

 ●【歴史】物語を読むように歴史を読む

歴史が学問になったのは、十九世紀以後、それまでは読み物だった、
そういうものだった、といいます。
読み物としての歴史は文人が書いた、といいます。

...(略)...

 ●【批評】学問とエッセイの重なるところ

このレッスンでは、批評に続き、エッセイが語られるのですが、
この批評とエッセイの違いについて――

...(略)...

というところで、今回はここまで。
次回は、
【エッセイ】【戯曲】【詩】について、
気になった部分を紹介しましょう。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。
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本誌では、「私の読書論168-丸谷才一『文学のレッスン』から(1)-楽しい読書338号」と題して、今回は冒頭の部分と見出しのみの紹介です。

特に理由はありません。

あまり読むところがない? まあ、そうもいえますか。
出し惜しみ? それもあります。

いつもいつも全文転載では、購読する意味がなくなってしまいかねません。
少なくとも、購読者の皆様をそういう気分にさせないために、時には出し惜しみするのも、大事かな、と思います。

もし弊誌にご興味を持たれましたら、ぜひ、以下から弊誌ご購読の登録をお願い致します。
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2023.02.28

中国の古典編―漢詩を読んでみよう(20)漂白の魂―曹植(2)-楽しい読書337号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年2月28日号(No.337)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(20)漂白の魂―曹植(2)」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年2月28日号(No.337)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(20)漂白の魂―曹植(2)」
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 昨年10月以来の「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」で、
 20回目です。

 今回も引き続き、
 曹操の息子で、父・曹操、次男・曹丕(そうひ)と共に
 「三曹」と呼ばれる、四男・曹植(そうしょく)の詩から、
 「七歩の詩」、および「七哀の詩」を取り上げます。

 

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◆ 漂白の魂 ◆

 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(20)

   三曹(さんそう)から曹操の息子

  ~ 四男・曹植(そうしょく)その2「七歩の詩」「七哀の詩」 ~

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今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「六、抵抗と逃避のあいだに――三国時代から魏へ」より

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 ●曹植(そうしょく)「七歩の詩」

《南朝時代に編まれた有名人のエピソード集
 『世説新語(せせつしんご)』に載っている詩で、
 前後に説明がついています。》(p.214)

 

 七歩の詩(ななほのうた) 曹植

文帝嘗令東阿王七歩中作詩。不成者行大法。応声便為詩。曰、

 文帝(ぶんてい) 嘗(かつ)て東阿王(とうあおう)をして
 七歩(しちほ)の中(うち)に詩(し)を作(つく)ら令(し)む。
 成(な)らざる者(もの)は大法(たいほう)を行(おこな)はんとす。
 声(こえ)に応じて便(すなは)ち詩(し)を為(つく)る。曰(いは)く、

煮豆持作羹 漉豉以為汁 

 豆(まめ)を煮(に)て持(もつ)て羹(あつもの)と作(な)し
 鼓(し)を漉(こ)して以(もつ)て汁(しる)と為(な)す

萁在釜下然 豆在釜中泣

 萁(まめがら)は釜下(ふか)に在(あ)りて然(も)え
 豆(まめ)は釜中(ふちゆう)に在(あ)りて泣(な)く

本自同根生 相煎何太急

 本(もと) 同根(どうこん)より生(しょう)ずるに
 相(あひ)煎(に)ること何(なん)ぞ太(はなは)だ急(きゆう)なると

帝深有慚色。

 帝(てい)深(ふか)く慚(は)づる色(いろ)有(あ)り

 

 「文帝曹丕が以前、曹植に命令して、
  七歩あるくうちに詩を作らせた」
 「出来なければ大法を行うぞと言った」
 それを聞いた曹植は、
 「命令に応じてすぐ次の詩を作った」

「豆を煮て濃い汁物を作り、豆で作った調味料を滴らせて味を調える」
「豆がらは鍋の下で燃え続け、一方、豆は鍋の中で煮られて泣いている。
 豆がらはどうして豆をそんなに激しく煮立てるのでしょう」

 「その歌を聞いた文帝は、深く恥ずかしがる表情を見せた」

 

王である曹丕が豆柄で、曹植が豆に例えられていて、
このような詩をみせられて、このような態度を取るとは思えません。

『三国志』にも登場するエピソードだそうですが、
曹植の個人の文集には入っていないので、
どうやら偽作と考えられています。
ただ、唐の時代には曹植の作として伝えられていた、といいます。

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(画像:『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』(平凡社)より、
挿絵「兄の曹丕に命じられて「七歩の詩」をつくる曹植(『三国志通俗演義』より)」)

 

 ●「七哀の詩」

七哀詩  七哀(しちあい)の詩(し)  曹植

明月照高楼  明月(めいげつ) 高楼(こうろう)を照(てら)し
流光正徘徊  流光(りゅうこう) 正(まさ)に徘徊(はいかい)す
上有愁思婦  上(かみ)に愁思(しゅうし)の婦(ふ)有(あ)り
悲歎有余哀  悲歎(ひたん) 余哀(よあい)有(あ)り

借問歎者誰  借問(しゃくもん)す 歎(たん)ずる者(もの)は誰(た)ぞと
言是宕子妻  言(い)ふ 是(こ)れ 宕子(とうし)の妻(つま)なりと
君行踰十年  君(きみ) 行(ゆ)きて十年(じゆうねん)を踰(こ)え
孤妾常独棲  孤妾(こしよう) 常(つね)に独(ひと)り棲(す)む

君若清路塵  君(きみ)は清路(せいろ)の塵(ちり)の若(ごと)く
妾若濁水泥  妾(しよう)は濁水(だくすい)の泥(どろ)の若(ごと)し
浮沈各異勢  浮沈(ふちん)
        各ゝ(おのおの)勢(いきほ)ひを異(こと)にす
会合何時諧  会合(かいごう) 何(いづ)れの時(とき)か諧(かな)はん

願為西南風  願(ねが)はくは西南(せいなん)の風(かぜ)と為(な)り
長逝入君懐  長逝(ちようせい)して
        君(きみ)が懐(ふところ)に入(い)らん
君懐良不開  君(きみ)が懐(ふところ)良(まこと)に開(ひら)かずんば
賤妾当何依  賤妾(せんしよう)
        当(まさ)に何(いづ)くにか依(よ)るべき

 

第一句では、高楼に指す月の明かりのなか、一人の人妻がいます。

 明るい月が高楼を照らし、降り注ぐ光はまるでゆらめくようだ
 高楼の上の部屋に悲しそうな人妻がいて、
 その歎きは、尽きることのない悲しみを伝えて来る

第二段では、問いかけに答えて人妻が自己紹介します。

 ちょっとお尋ねするが、そこで歎いているのはどなたでしょうか
 彼女は答えて、私はさすらい人の妻でございます
 あの人は出かけたきりもう十年以上たち、
 孤独な私はそれ以来ずっと一人暮らしなのです

第三段もこの人妻の告白、夫との境遇の隔たりを、
曹植得意のたとえを使って述べている、といいます。

 あの人はきれいな道路の上の塵のように、
  ふらふらとさまよいがちです
 私は濁った水たまりのそこの泥のように、
  ただじっとしているしかない
 さまようあの人と、沈み込む私と、
  お互いの状況がまったく違ってしまいましたが、
 再会はいつになったら叶えられるのでしょうか

第四段は、願望で結びます。

 できることなら西南から吹く風に乗って、
  遙かに空を吹き渡り、あの人の胸の中に飛び込みたい
 しかしあの人の懐がずっと開かないままで終わってしまったら、
 この私はいったい何にすがればいいのでしょう

 

宇野直人さんは、曹植の作風のひとつの特徴として、
「主題と変奏」を挙げています。

 《すでに知られている作品に基づいて、
  そこに自分の個性を加えてゆく作り方》

「七哀の詩」は元歌の「古詩十九首」其の十九だそうです。

 《夫が旅に出てなかなか帰ってこない奥さんが主人公で、
  月夜の晩に眠れず悩むという内容》

 《古詩の方はその状況や悲しむようすを横から見ているような
  単純な描写である》

「七哀の詩」は、

 《主人公の奥さんが曹植自身のたとえで、
  最後の「あの人」は魏の都そのもの、或いは兄の曹丕、
  またはその跡を継いだ息子の曹叡を指しているんでしょう。》

曹植には、こういう作品が多く、

 《不幸な女性に自身をたとえて“どうにかならないものか”
  と訴えるパターンが目立ちます。》

といい、

 《不幸な女性に自分の自分の気持ちや主張を託する閨怨詩は、以後、
  曹植が確立したジャンルとして受け継がれてゆきました。》

このような女性を「思婦(しふ)」と呼ぶそうです。

 ・・・

兄も曹丕も詩を書いており、
建安時代の文壇のリーダーとして活躍しました。
次回はその曹丕の作品を紹介する予定です。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(20)漂白の魂―曹植(2)」と題して、今回も全文転載紹介です。

またまた、10月以来の漢詩編です。

曹植の二回目で、『三国志』にも登場する「七歩の詩」(『三国志』のものとは少し異なるところもあるようですが)と「七哀の詩」を取り上げました。

 ・・・

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2023.02.15

私の読書論167-愉快で…な老人探偵小説『木曜殺人クラブ~』他-楽しい読書336号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】


2023(令和5)年2月15日号(No.336)「私の読書論167-
愉快で…な老人探偵小説『木曜殺人クラブ~』他」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年2月15日号(No.336)「私の読書論167-
愉快で…な老人探偵小説『木曜殺人クラブ~』他」
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 前号の「私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)」で
 紹介しました<初読ベスト3>の(1)位の
 『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン
 および、選外のマイクル・Z・リューインの『祖父の祈り』は、
 ともに、老人が主人公の小説でした。


 今回、
 『木曜殺人クラブ』のシリーズ第二作
 『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』を読みました。
 これも当然ですが、老人たちを主人公とする物語でした。


 私自身老人となり、これらの登場人物たちのことが
 非常に心に響くことに気付きました。


 今回はこれらについて書いてみようと思います。


【前号】――


古典から始める レフティやすおの楽しい読書
2023(令和5)年1月31日号(No.335)「私の読書論166-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)再読編&初読編」


2023.1.31
私の読書論166-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後)初読編
-楽しい読書335号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/01/post-059ad0.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3d8f4210a27677ac55d433cea1778596


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 - 身近に感じるようになった老人小説 -


  ~ 愉快で…な老人探偵小説『木曜殺人クラブ~』他 ~


  古い「男」像を守る男と昔を忘れず今風に馴染もうとする老人たち


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 ●『木曜殺人クラブ』と『祖父の祈り』


まずは、前号の文章を再録しておきます。


--
『木曜殺人クラブ』『祖父の祈り』のふたつは、
老人が主人公となるお話で、今や老人の一人となった私にとっても、
興味深い内容でした。


前者は、高級老人ホームで起きた殺人事件をミステリ好きのメンバーが
探偵に乗り出すというストーリー。過去の事件の影が長い尾を引く物語。
各人の過去の人生の秘密が暴かれて行き、それぞれに興味深い内容で、
人生の重さといったものを改めて実感させられます。


後者は、コロナ禍を思わせるパンデミック下の近未来のアメリカを
思わせる町が舞台とする作品。
感染して亡くなった妻との約束を守るため、
同じく亡くなった娘の夫に代わり、
祖父が娘とその息子(孫の少年)を守り抜くという決意を貫く物語。
男の役割といったものを全うしようとする老人の戦い。
--


以上が簡単な概説で、のちに個々の作品について、
引用文を含めて紹介しました。


昨年読んだ老人の小説としましては、再読編の方でも、
『老人と海』ヘミングウェイ を読んでいます。
文字通り老人が主人公のお話で、
老漁師と大きなカジキとの一騎打ちの物語。


ここでも、老人の人生をプレイバックしながら、
今の老人の姿を克明に綴っています。
そのあたりもグッとくるものがありました。


先にも書きましたが、私自身、一昨年春にぎっくり腰から無理をして、
腰の痛みと左足の痛みが出、一ヶ月杖をついて歩くようになり、
また秋には、高齢男性特有の病気、前立腺肥大症により、
頻尿等の症状が出、生活上、やっかいなことになりました。


自分でもはっきりと「遂に老人になったな」と実感したものでした。


それ以来、読む小説にしても、老人ものに気が向くようになりました。


 


 ●『祖父の祈り』マイクル・Z・リューイン


前号の文章――


--
『祖父の祈り』は、上にも書きましたように、老人が家族を守るお話。
まだまだ俺にもやれる、といった独白もあり、
年老いた男の生き方の一つの在り方を描きます。
今や老人となってしまった私の心に響くものがありました。


p.70(田口俊樹訳)
《生きていくことこそなにより重要なことだ。それが妻との約束だった。
 息を引き取る直前に(略)「あの子たちをお願いね」/
 「任せておけ」老人はそう約束したのだった。》


p.66(同)
《あの男はおれを欲しがってたんだ。このおれを! 
 まだまだおれは現役だということだ。》


p.76(同)
《自分の仕事をきちんとやってのけたのだ。おれは役に立った。》


p.151(同)
《老人の望みはここから出ることだった。
 家族みんなでここを逃れることだ。それができないなら、
 せめて今いる場所でより安全に暮らせるよう努力するしかない。
 壁を強化して、ドアも補強して……
 そういうことこそおれの“役割”だ。》


p.198(同)
《任務はまだ完了していない。今はまだ。
 それでも老人には証明できた
 ――家族のために脱出のチャンスをつくるだけの力は
 おれにはまだ残されている。》
--


 


「まだまだおれは現役だ」「おれは役に立った」
「おれにはまだ残されている」


こういう思いは、今の私にひしひしと伝わってきます。


「衰えゆく自分の力、でもまだやれることがある!」という実感。
それは老人自身にとって、とても貴重な経験であり、
残された人生を生きる活力となるものでしょう。


 


『祖父の祈り』マイクル・Z・リューイン 田口俊樹/訳
 ハヤカワ・ミステリ 2022


220921mzr80


(画像:マイクル・Z・リューイン生誕80周年記念出版――『祖父の祈り』(ハヤカワ・ミステリ 2022)『父親たちにまつわる疑問』(ハヤカワ・ミステリ文庫 2022)『ミステリマガジン』2022年9月号(No.754) 特集:マイケル・Z・リューイン生誕80周年(早川書房 2022.7.25))


 


 ●『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン


次に紹介しますのは、謎解きミステリです。


上にも書きましたが、
本編の主人公たちは、70代の高級老人ホームに住む人々で、
<木曜探偵クラブ>という「老人探偵団」「老年探偵団」
「高齢者探偵団」といいますか、
まあ「年寄探偵団」と呼ぶのが一番ふさわしいでしょうか――
に所属する探偵趣味のある人たちです。
ふだんは、クラブの創始者の元刑事が引退時に持ち出した
未解決事件のファイルを推理するのでしたが、
この施設で実際の殺人事件が発生し、探偵ごっこを始めるという物語。


前号の文章から――


--
『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン


(略)
それはさておき、上にも書きましたように、この長編は、
老人の探偵クラブの謎解きゴッコなのですが、
それぞれの登場人物の過去が暴かれるなかで、人生の重さといいますか、
人の世の浮き沈みと生き方、その心情の動きなど、
なかなか読ませるものがありました。


p.29(羽田詩津子訳)
《人はある年齢を超えたら、やりたいことはほとんどできる。
 医者や子どもたちを除けば、やめろと言う人もいない。》


p.59(羽田詩津子訳)
《トニーは運を信じていない。彼が信じているのは努力だ。
 準備がおろそかになれば、失敗は目に見えている。
 トニーが教わった年老いた英語教師はかつてそう言った。
 それを忘れたことは一度もない。》


p.118(羽田詩津子訳)
《人生では、よい日を数えるようにしなくてはならない。
 そういう日をポケットにしまって、
 いつも持ち歩かなくてはいけない。》
230214mokuyou-tantei-kurabu-p118


 


p.200(羽田詩津子訳)
《おれたち全員が弱ってきている、(略)ちょろいもんだ。
 ひとひねりだ。そうだろ? 造作もないにちがいない。
 だが、いいか、ここには人生で何事かを成し遂げた人もいるんだ。
 ちがうか?》
230214mokuyou-tantei-kurabu-p200


 


p.283 (羽田詩津子訳)
《よく時が傷を癒やすと言うが、人生にはいったん壊れたら、
 決して治せないものがある。》


p.436(羽田詩津子訳)
《自分は一人でやりたいことをして、満足している人間なのか? 
 それとも、手に入れたものだけでどうにか納得しようとしている、
 孤独な人間なのか? 一人なのか孤独なのか?》


等々、気になる文章が出てきます。


次の作品も出版され好評のようです。また読んでみたいものです。
--


 


以下、上の引用文に今の私のコメントを付していきましょう。


《人はある年齢を超えたら、やりたいことはほとんどできる。》


――でも、その勇気があるかどうか、です。


《人生では、よい日を数えるようにしなくてはならない。
 そういう日をポケットにしまって、
 いつも持ち歩かなくてはいけない。》


――そう、そのとおり。
こういう自分に力を与えてくれるような瞬間をいつも持っていないと、
自分が潰れてしまうような時があります。


《おれたち全員が弱ってきている、(略)
 だが、いいか、ここには人生で何事かを成し遂げた人もいるんだ。
 ちがうか?》


――確かに、私たちは、大なり小なり何事かを為してきたのです。
それを自信に残りの人生を生きてゆくべきなのです。


《よく時が傷を癒やすと言うが、人生にはいったん壊れたら、
 決して治せないものがある。》


――耐えるしかない、忘れるしかない事柄があります。
でも、耐えることが、忘れることができない、
そういうこともあるのです。
そういう事柄も抱えながら生きてゆくのが、老人の人生なのです。


《自分は一人でやりたいことをして、満足している人間なのか? 
 それとも、手に入れたものだけでどうにか納得しようとしている、
 孤独な人間なのか? 一人なのか孤独なのか?》


――これは、まだ50歳の独身中年男性の独白です。
まだ、老境に入る前の、まだやり直しのきく年齢。
そこで「孤立」に落ち込むか、「独立」した人格を維持できるか、
その瀬戸際の立ち位置です。


ここでなんとか踏み留まれれば、
悲しい老後にならずにすむのでしょう。


 


『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳
 ハヤカワ・ミステリ 2021


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 ●第二作『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』リチャード・オスマン


好評だった前作に続き、第二作が翻訳刊行されましたので、
読んでみました。


『木曜殺人クラブ 二度死んだ男』リチャード・オスマン
 羽田詩津子/訳 ハヤカワ・ミステリ 2022/11/2


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第二作では、年寄探偵団四人のメンバーの一人、
元精神科医のイブラヒムが一人で町に出て、スマホを使ったり、
セルフ・レジにチャレンジしたり、新しい生活に馴染んでいこう、
としますが、なんと自転車で通りかかった若者たちにスマホを取られ、
袋だたきに遭い、あわや命も……というピンチに。


犯人の一人の名を覚えていたので逮捕はされるが、証拠不十分で……。
しかもどこかへ逃走され、行方不明に。


しかし探偵団は、前回の事件で知り合った地元警察から情報を集め、
娘からスマホのSNSの使い方を教えてもらった、元看護師のジョイスは、
SNSを使って犯人の青年を見つけ出す。


一方、リーダー格のエリザベスは元情報員で、
元夫のMI5の諜報員ダグラスから、
仕事中にギャングの家で偶然見つけたダイヤを盗み、
ギャングとMI5の両方から追われる身になり助けてくれ、
という手紙をもらう。
しかし、ダイヤを盗んだダグラスと
MI5から送り込まれた見張り役の新米女性ポピーは、
何者かに頭を打ち抜かれ殺される。
彼らの隠れ家を知っているのは、MI5の上司の女とダイヤ事件の際の同僚。


地元の警察は、麻薬のディーラーを逮捕するべく網を張るが、
尻尾をつかめない。


で、エリザベス、ジョイス、イブラヒム、
元労働組合の幹部ロン(ロンの孫も手柄を立てます)ら探偵団は、
イブラヒムの復讐と、ダグラスとポピー殺しの犯人逮捕、
ダグラスの隠したダイヤ探しのため、警察とMI5を利用し、
ギャングと足を出さない麻薬ディーラー、イブラヒムの襲撃犯、
ダイヤの持ち主であるニューヨークから来るマフィアらを一堂に集め、 
噛ましあいをさせて事件を解決し、隠されたダイヤも発見する。


それぞれの人物の描写もしっかりしていて、
三人称の章とジョイス一人称の章が織り込まれて進むのですが、
ジョイスの章がなかなかおもしろいのです。
饒舌といいますか、話があちこちするなかで、
真実を見いだすところなど。


ストーリーや謎解きはもちろんですが、
ユーモアとペーソスといいますか、
人生の重さといったなんやかんやについてのお年寄りたちの語り。
500ページも全く長く感じない小説です。


 


 ●イブラヒムにまつわる人生談義


イブラヒムを中心に登場人物の老人たちの人生模様からの引用文――


《「利用しよう、さもないと失ってしまう」たしかにそのとおり。
 だからこそ、イブラヒムはここにいるのだ。騒音のまっただ中に。
 車が横を走り過ぎ、ティーンエイジャーたちが叫び、
 建築業者たちがわめいている。イブラヒムは気分がいい。
 恐怖も薄れている。脳が活性化している。
 利用しよう、さもないと失ってしまう。》p.40(羽田詩津子訳)
230214nido-sinda-otoko-p40


――元精神科医のイブラヒムは、お気に入りの独立系の本屋さんの
レジの壁に掲げてあった看板の標語「地元の書店を利用しよう、
さもないと失ってしまう」をみてそう思うのです。


余談ですが、私も元町の本屋の店員として、
地元の本屋さんをできるだけ利用しています。
まあ、どうしてもAmazonに頼ってしまうケースもあるのですけれど、ね。
左利き関係の本など、一般の町の本屋では入手困難な本が欲しいとき。


年齢に負けず、新規な取り組みに挑むべく街に出てきたイブラヒム。
ところが、非力なお年寄りとして若者に襲われてしまうのです。
そして、外傷後なんとやらに取り憑かれ、萎縮してしまうのですね。


 


《復讐は直線ではなく、円だ。
 復讐は自分がまだ部屋にいるあいだに爆発する手榴弾で、
 自分自身も爆風を受けずにはいられない。》p.105(同)


《復讐するときは慎重にならなければならないが、
 イブラヒムは人生の大半を慎重のうえにも慎重に過ごしてきた。
 ただし、人間として成長したければ、
 ときにはちがう行動をとる必要がある。》p.107(同)


――一方で、復讐を考えもするのです。
仲間たちはもちろん、ですが。


 


《ここの人たちは来ては去り、また来ては去っていく。
 ここは人生の最期を過ごす場所だとわかっているので、
 みんな生き生きしているのだ。彼らの足どりはのろのろしているが、
 その時間は急ぎ足で過ぎていく。(略)彼らはいずれ死ぬだろうが、
 誰でもいつか死ぬ。死ぬときは一瞬だから、
 人は最期のときを待ちながら生きるしかない。騒ぎを起こすもよし、
 チェスをするもよし、何でも好きにやればいい。》p.131(同)


――これは探偵クラブの面々の協力者で、
彼らのためならなんでもしようというボグダンの独白。
彼らの日常を観察しての、人生に対する考えです。


 


《「『困難は人を強くする』と言うのはけっこうだ。賞賛に値する。
 しかし、八十歳になると、もうそれは当てにはまらない。
 八十歳だと、どんな困難であれ、それは人を次のドアへ連れていく。
 それから次のドア、さらに次のドアへ。
 そして、そうしたドアはすべて背後でしまってしまう。
 もはや回復はありえない。
 若さの引力は消え、ただ上へ上へと漂っていくだけなんだ」》p.(同)
230214nido-sinda-otoko-p165


――イブラヒムの自嘲的な言葉。


 


《「時間は戻ってこないことは知っているね? 
 友人、自由、可能性も?」
 (略)
 時間を取り戻すことはあきらめよう。
 過去は幸せだった時間として記憶するんだ。きみは山の頂上にいた。
 今は谷間にいる。今後も数えきれないほど、
 そういうことは起きるだろう」/
 「じゃあ、今は何をすればいいんですか?」/
 「もちろん、次の山を登るんだ」》pp.358-359(同)
230214nido-sinda-otoko-p358


――元精神科医のイブラヒムに相談する地元警察の女性警官ドナ。
元精神科医らしい彼女に対する助言ですけれど、それはそのまま、
事件後のイブラヒムへの助言ともなります。
「次の山を登れ」と。「前を見て、後ろを振り返るな」という。


 


《人はずっと夢を見ていなくてはならない。
 エリザベスはそのことを知っている。ダグラスもそれを知っていた。
 イブラヒムは忘れてしまったけど、わたしがいるのだから、
 時機をみはからって、いずれ思い出させてあげよう。》p.386(同)


――誰もが仲間のためを思い、勇気づけようとします。
「人はずっと夢を見ていなくてはならない」というのは、
私も自分に言い聞かせている言葉です。


 


《「野原にいる馬をみるのが大好きなの」ジョイスは言う。
 「馬たちが幸せだってわかるから。
 幸福は人生のすべてでしょ、そう思わない」/
 イブラヒムは首を振る。「賛成できない。人生の秘密は死だ。
 何もかも死に関係している、わかるだろ」
 (略)
 「本質的には、われわれの存在は死のためだけに意味を持つ。
 死はわれわれの物語に意味を与えてくれる。
 われわれの旅が行き着く先は常に死だ。行動の理由は、死を恐れるか、
 死を否定しようとするか、どちらかだ。一年に一度は、
 この場所を通り過ぎているが、馬もわれわれも若返ることは
 決してない。すべては死なんだ」/
 「それって、一方的なものの見方だと思うわ」
 (略)
 「当然、すべてが死に関係しているなら、
 何ひとつ死に関係していないってことよね?」
 (略)
 「すべてが青いなら、『青い』って言葉は必要ないでしょ?」
 「そのとおりだ」イブラヒムは認める。/
 「そして、青いという言葉がないなら、
 何ひとつ青にはならないんじゃない、どう?」
 (略)
 それで救われた、というのも
 ジョイスはいわば確信を突いていたからだ。》pp.479-480(同)


――「幸福は人生のすべてでしょ」と、人生を肯定的に捉えるジョイス。
私も案外そちら派かもしれません。
結構言われます、楽天的と。


「幸福は人生のすべて」「人はずっと夢を見ていなくてはならない」
「利用しよう、さもないと失ってしまう」――
みんなひとつの方向を示しているように思います。


 


「老いたればこそわかる人生の真実」
のようなものがあるのではないでしょうか。


案外ありきたりな結論になるかもしれませんけれど。


これら、老人小説を読んでみて、
とにかく「生きている限りジタバタしてみる」のがよいのでないか、
とそう思います。


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 ★創刊300号への道のり はお休みです
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本誌では、「私の読書論167-愉快で…な老人探偵小説『木曜殺人クラブ~』他」と題して、今回も全文転載紹介です。


ズバリ読んでもらったそのまんまです。
他にこれといってお話することはありません。


とにかく『木曜殺人クラブ』二作はどちらも500ページ弱ですが、おもしろいので苦にならないと思います。
持って読むには手が疲れるかもしれませんけれど。


謎解きミステリ好きも楽しめますし、人生に一言いいたくなる一言居士も納得の小説ではないかという気がします。


『祖父の祈り』は、前号の後記でも書いています。
コロナ禍の今読む本といった趣もありますが、昔の「男」像の延長なので、その点を不満に思う人がいるかもしれません。
でも、われわれ老人男性には、これが標準だったという意味で、受け止めていただければ、と思います。


これらは、作品のストーリー的にも、人間物語的味付けも優れたものでした。
機会があれば、ぜひお読みください。


 ・・・


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2023.01.31

私の読書論166-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後)初読編-楽しい読書335号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年1月31日号(No.335)「私の読書論166-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)再読編&初読編」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年1月31日号(No.335)「私の読書論166-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)再読編&初読編」
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 今年も「私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)」です。

 <フィクション系>は、文字通りフィクション、
 小説等の創作物を指します。

 まずは、<再読編ベスト3>、次に<初読編ベスト3>を。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 - 懐かしの冒険サスペンスと懐かしの人生?ミステリ -

  ~ 私の年間ベスト3・2022フィクション系(後編) ~

  <再読編ベスト3>&<初読編ベスト3>

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ●<再読ベスト3>

再読24冊から、前号で<再読ベスト3>の候補をあげています。

『果てしなき旅路』『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン
『マンハンター』ジョー・ゴアズ
『縮みゆく人間』『地獄の家』リチャード・マシスン
『きみの血を』シオドア・スタージョン
『鳥』ダフネ・デュ・モーリア
『怪奇幻想の文学 I 深紅の法悦』紀田順一郎、荒俣宏/編
『ドラキュラのライヴァルたち』マイケル・パリー編
『闇の展覧会1・2』カービー・マッコーリー/編

 

ここから<再読ベスト3>を発表します。

(3)『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン

前号でも紹介しましたように、左利きの問題との関連で、
私にとって忘れられない作品です。
地球に不時着した異星人が、地球人のなかでの生活になじむべく、
超能力を封じて暮らす、というお話。
詳しくは、↓

第625号(No.625) 2022/9/3
「2022年8月13日国際左利きの日合併号(続)
左利きとアイデンティティ ~《ピープル》シリーズから考える」
2022.9.3
2022年8月13日国際左利きの日合併号(続)左利きとアイデンティティ
-週刊ヒッキイ第625号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/09/post-bbbde2.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/4db1239925b49f49fc58073cbe1d5f73

 

(2)『縮みゆく人間』リチャード・マシスン

ある事情で身体が縮んでしまうようになった男性の物語。
冒険サスペンスものでありながら、人間とは何か、夫婦とか家族とか、
人間関係とは? といった問題を考えさせる。
ラスト、いよいよ命の終わりかと思うと、実は……、という傑作。
生きるってことは大変なことなのです。

(1)『マンハンター』ジョー・ゴアズ

アクションたっぷりのハードボイルド・ミステリながら、
いや、それだからか、学生時代の女の子との思いを胸に、
汚れた世界で一人奮闘し、悪と戦う男の姿が、美しい物語です。

 

★☆★☆ <再読ベスト3> ★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

・『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1(1959)

220812people

 

・『縮みゆく人間』リチャード・マシスン 吉田誠一/訳
 ハヤカワ文庫NV 1977

 

・『マンハンター』ジョー・ゴアズ 山中誠人/訳 角川文庫 1978

230125saidoku

☆★☆★☆★☆★☆★ ☆★☆★☆★☆★☆★ ☆★☆★☆★☆★☆★

 

 ●<初読ベスト3>候補

次に初読21冊から<初読ベスト3>候補を挙げてみましょう。

『バーニーよ銃を取れ』トニー・ケンリック
『ハメット』ジョー・ゴアズ
『探偵コナン・ドイル』ブラッドリー・ハーパー
『オクトーバー・リスト』ジェフリー・ディーヴァー
『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン
『祖父の祈り』『父親たちにまつわる疑問』マイクル・Z・リューイン
『硝子のハンマー』貴志祐介
『下町ロケット ガウディ計画』池井戸潤
『ある日どこかで』リチャード・マシスン

まあ、こんなところでしょうか。

『バーニーよ銃を取れ』は、
ひょんことからギャングの親分を敵に回すことになった
一般人の男三人の戦い。
プロの軍人を教官に訓練に励み、決戦を迎えるが……。

次の二つは、作家ハメットとコナン・ドイルが探偵役となるミステリ。
それぞれ事実と虚構が相まっておもしろいものになっていました。

ラストのどんでん返しが魅力のディーヴァーの意欲作、
『オクトーバー・リスト』は、逆進行のミステリ、スゴイの一語。

『硝子のハンマー』は、テレビ・ドラマで見た作品の原作。
密室殺人の謎解きと、犯人側のドラマと二倍楽しめ、かつ意外なラスト。

『下町ロケット ガウディ計画』は、『下町ロケット』の続編で、
私は、工業高校の機械科卒で、級友にも町工場の社長の息子などいて、
そういう部分での興味もあり、物作りにかける思いといった内容も、
楽しめるものでした。
(そういう意味では、朝ドラの『舞いあがれ』も、
 わが故郷、中小企業の町、東大阪が舞台の一つであり、
 町工場を継いだ父親の夢を実現しようと奮闘する主人公、
 という面も含めて、興味深く毎朝視聴しています。)

 

『ある日どこかで』は、時間の壁を超えて出会う男女の恋物語。
映画化もされ、宝塚歌劇でも上演されたという作品の原作です。
しかし、これは死を宣告された青年の狂喜が生み出した妄想なのか、
実際に起きた奇跡なのか、どちらにも解釈される仕掛けが、
この作家らしいといいますか……。

『木曜殺人クラブ』『祖父の祈り』のふたつは、
老人が主人公となるお話で、今や老人の一人となった私にとっても、
興味深い内容でした。

前者は、高級老人ホームで起きた殺人事件をミステリ好きのメンバーが
探偵に乗り出すというストーリー。過去の事件の影が長い尾を引く物語。
各人の過去の人生の秘密が暴かれて行き、それぞれに興味深い内容で、
人生の重さといったものを改めて実感させられます。

後者は、コロナ禍を思わせるパンデミック下の近未来のアメリカを
思わせる町が舞台とする作品。
感染して亡くなった妻との約束を守るため、
同じく亡くなった娘の夫に代わり、
祖父が娘とその息子(孫の少年)を守り抜くという決意を貫く物語。
男の役割といったものを全うしようとする老人の戦い。

再読したダフネ・デュ・モーリア『鳥』中の表題作「鳥」も、
妻と子供たちを守る夫のお話で、
カービー・マッコーリー/編のホラー・アンソロジー『闇の展覧会1』
巻末の短い長編ともいうべきキングの「霧」も、
息子を守る父親の戦う姿が描かれている作品でした。
こういう物語には、グッとくるものがあります。

『父親たちにまつわる疑問』は、
異星人を名乗る心優しい青年にまつわる事件を、“心優しき私立探偵”
アルバート・サムスンが解決する、心優しいお話。

 

 ●<初読ベスト3>

では、<初読ベスト3>の発表。

(3)『バーニーよ銃を取れ』トニー・ケンリック
他人の講座から預金を盗み取ったものの、相手はギャングの親分。
追い込まれたバーニーたちは銃を取るが……。
鬼軍曹を教官に特訓を受け、作戦を練り、対決する!
この過程と実際の決戦がおもしろい冒険サスペンス。

 

(2)『ある日どこかで』リチャード・マシスン

私は、ジャック・フィニイのノルタルジック・ファンタジーとでも
呼ぶのでしょうか、一連の短編が好きで、大切にしています。
彼には時間を超えるファンタジーの長編もあります。
この『ある日どこかで』も
そういうフィニイの長編をリスペクトした作品になっています。
実はフィニイの作品も未読で、ずっと将来の楽しみに取ってあるのです。
この長編も実は、そういう一冊だったのですが、
このたび、他のマシスンの本を整理するので、これも読んでみました。

ラストの仕掛けをどう評価するのか、というところが分かれ目か?

 

(1)『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン

偶然ですが、こちらもリチャードさんですね。
それはさておき、上にも書きましたように、この長編は、
老人の探偵クラブの謎解きゴッコなのですが、
それぞれの登場人物の過去が暴かれるなかで、人生の重さといいますか、
人の世の浮き沈みと生き方、その心情の動きなど、
なかなか読ませるものがありました。

p.29(羽田詩津子訳)
《人はある年齢を超えたら、やりたいことはほとんどできる。
 医者や子どもたちを除けば、やめろと言う人もいない。》

p.59(羽田詩津子訳)
《トニーは運を信じていない。彼が信じているのは努力だ。
 準備がおろそかになれば、失敗は目に見えている。
 トニーが教わった年老いた英語教師はかつてそう言った。
 それを忘れたことは一度もない。》

p.118(羽田詩津子訳)
《人生では、よい日を数えるようにしなくてはならない。
 そういう日をポケットにしまって、
 いつも持ち歩かなくてはいけない。》

p.200(羽田詩津子訳)
《おれたち全員が弱ってきている、(略)ちょろいもんだ。
 ひとひねりだ。そうだろ? 造作もないにちがいない。
 だが、いいか、ここには人生で何事かを成し遂げた人もいるんだ。
 ちがうか?》

p.283 (羽田詩津子訳)
《よく時が傷を癒やすと言うが、人生にはいったん壊れたら、
 決して治せないものがある。》

p.436(羽田詩津子訳)
《自分は一人でやりたいことをして、満足している人間なのか? 
 それとも、手に入れたものだけでどうにか納得しようとしている、
 孤独な人間なのか? 一人なのか孤独なのか?》

等々、気になる文章が出てきます。

次の作品も出版され好評のようです。また読んでみたいものです。

 

☆★☆★ <初読ベスト3> ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆

・『バーニーよ銃を取れ』トニー・ケンリック 上田公子/訳
 角川文庫 1982

・『ある日どこかで』リチャード・マシスン 尾之上浩司/訳
 創元推理文庫 2002

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・『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン 羽田詩津子/訳
 ハヤカワ・ミステリ 2021

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★☆★☆★☆★☆★☆ ★☆★☆★☆★☆★☆ ★☆★☆★☆★☆★☆

 

 ●選外――マイクル・Z・リューイン

220921mzr80

選外として、やはり特筆したいのが、マイクル・Z・リューインの作品
『祖父の祈り』と『父親たちにまつわる疑問』です。

・『祖父の祈り』マイクル・Z・リューイン 田口俊樹/訳
 ハヤカワ・ミステリ 2022

・『父親たちにまつわる疑問』マイクル・Z・リューイン 武藤陽生/訳
 ハヤカワ・ミステリ文庫 2022

・『ミステリマガジン』2022年9月号(No.754)
特集:マイケル・Z・リューイン生誕80周年(早川書房 2022.7.25)

《リーロイ・パウダー警部補ものの本邦初訳の短篇と
 私立探偵アルバート・サムスンものの書籍未収録短篇の再録、
 リューインからの特別メッセージと近況、
 リューイン・ファンの作家たちによるエッセイなどで、
 巨匠の魅力を再確認していく》――という特集号も。

 

『祖父の祈り』は、上にも書きましたように、老人が家族を守るお話。
まだまだ俺にもやれる、といった独白もあり、
年老いた男の生き方の一つの在り方を描きます。
今や老人となってしまった私の心に響くものがありました。

p.70(田口俊樹訳)
《生きていくことこそなにより重要なことだ。それが妻との約束だった。
 息を引き取る直前に(略)「あの子たちをお願いね」/
 「任せておけ」老人はそう約束したのだった。》

p.66(同)
《あの男はおれを欲しがってたんだ。このおれを! 
 まだまだおれは現役だということだ。》

p.76(同)
《自分の仕事をきちんとやってのけたのだ。おれは役に立った。》

p.151(同)
《老人の望みはここから出ることだった。
 家族みんなでここを逃れることだ。それができないなら、
 せめて今いる場所でより安全に暮らせるよう努力するしかない。
 壁を強化して、ドアも補強して……
 そういうことこそおれの“役割”だ。》

p.198(同)
《任務はまだ完了していない。今はまだ。
 それでも老人には証明できた
 ――家族のために脱出のチャンスをつくるだけの力は
 おれにはまだ残されている。》

 

『父親たちにまつわる疑問』は、かつて私が大好きだった
“心優しき私立探偵”アルバート・サムスンの最新作。
久しぶりの新作の翻訳の登場で、おおいに期待しました。
短編集なので、そういう意味ではちょっと物足りないともいえますが、
事件の依頼者の性格といいますか、人間性がまたサムスンと合っていて、
この二人の絡みがおもしろいものでした。

初めての人もぜひ読んでいただきたい、
心優しい気持ちになることでしょう。

 

【追記】――<左利きミステリ>

前回、「●(3)小説や左利き本等著作のための勉強本」
の段で、<左利きミステリ>を二点紹介しました。

もう一つ忘れていたものがあるので、追加しておきます。
<初読ベスト3>にも選んだ

『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン

です。

事件の捜査に当たる地方警察の女性警官ドナーの妄想として、
<左利きネタ>が登場します。
手柄をたてて刑事になりたい彼女は、
実は、老人探偵クラブの警察側の情報源として、
クラブの面々の企みによって捜査にくわえてもらえたのでした。

p.125(羽田詩津子訳)
《「鑑識に筆跡を調べてもらったら、何がわかったと思いますか?」
 クリスは興味がなさそうなふりをするだろうが、
 実はそうではないことはわかっている。
 「トニー・カランは実は左利きだったんです」》

よくある<左利きネタ>です。

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 ★創刊300号への道のり はお休みです
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本誌では、「「私の読書論166-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(後編)再読編&初読編」」と題して、今回も全文転載紹介です。

再読編と初読編のベスト3の紹介でした。
初読編は選外として、マイクル・Z・リューインの新作を紹介しました。
これもオススメです。
『祖父の祈り』は、コロナ禍に関する本は読んでこなかったので、初めての作品でした。
そういう意味でも家族を守る男/老人(祖父)の本としても、心に残る作品でした。

家族を守る男(父親)の物語としましては、再読本の中に、キングの「壁」や、デュ・モーリアの「鳥」などがありました。
これらは、作品のストーリー的にも優れたものでした。
機会があれば、ぜひお読みください。

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2023.01.15

私の読書論165-私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前)総リスト&再読編-楽しい読書334号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年1月15日号(No.334)「私の読書論165-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前編)総リスト&再読編」

 

例年のことですが、
遅くなりましたが、
明けましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

レフティやすお <(_ _)>

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年1月15日号(No.334)「私の読書論165-
私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前編)総リスト&再読編」
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 今年の一発目になります。
 今年も「私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前編)」です。

 <フィクション系>は、文字通りフィクション、
 小説等の創作物を指します。

 まずは、「再読編」から。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 昔の感覚に間違いはなかった!? -
  ~ 私の年間ベスト3・2022フィクション系(前編) ~
  2022年フィクション系ほぼ全書名紹介&<再読編ベスト3>候補作
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●傾向と分類

今年は、冊数そのものは、例年に負けない50冊程度でした。
ただ、再読ものが多数(20冊)となりました。

そこで今年は、<再読編ベスト3>と<初読編ベスト3>とに分けて
紹介してみましょう。

 ・・・

例年のように簡単に分類してみましょう。

(1)メルマガ用のお勉強の本
(2)それ以外の古典の名作
(3)小説や左利き本等著作のための勉強本
(4)個人的な趣味で、好きな作家、
 ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

*(再):自分の蔵書の再読本、[再]:作品そのものは再読、本は新本

2022年は、コロナで中断していた本の整理を再開しようということで、
再読ものが増えました。
何十年ぶりかに改めて読み直して不要なものは処分する、ということで、
過去には聖域として除外していた本も、思いきって……。

そこで怪奇・恐怖もの(海外のホラー)をかなり読んでみました。
他にも推理小説(海外ミステリ)も読みました。

 

 ●(1)メルマガ用のお勉強の本

「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から」向けの本から――

・[再]『老人と海』ヘミングウェイ 高見浩訳
 新潮文庫 2020/6/24

・[再]『老人と海』アーネスト ヘミングウェイ 小川 高義/訳 
光文社古典新訳文庫 2014/9/11

2022(令和3)年7月15日号(No.322)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)
新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)」
2022.7.15
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(1)新潮文庫『老人と海』-「楽しい読書」第322号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/07/post-0bc97e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a3c96264c4e3a66832a5f013d7dfd965

・[再]『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』森鴎外 角川文庫 1967/2022

2022(令和3)年7月31日号(No.323)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(2)角川文庫『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』森鴎外」
2022.7.31
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(2)
角川文庫『山椒大夫~』森鴎外-「楽しい読書」第323号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/07/post-b6a16c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/68c6961aff920da9831353e34d8a34e3

・『光の帝国 常野物語』恩田陸 集英社文庫 2000/9/20(1997) 

・『蒲公英(たんぽぽ)草紙 常野物語』恩田陸 集英社文庫 2008/5/20(2005)
・『エンドゲーム 常野物語』恩田陸 集英社文庫 2009/5/20(2006)

2022(令和3)年8月31日号(No.325)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(3)集英社文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸」
2022.8.31
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(3)集英文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸
-「楽しい読書」第324号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/08/post-8cf420.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/5d442e3e2fd0fe6a283a313a5147da3d

・(再)『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1(1959)

・(再)『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン/著 宇佐川晶子, 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF 500 ピープル・シリーズ) 1982(1967)

220812people

『左利きを考える 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第624号(No.624) 2022/8/13
「2022年8月合併号―8月13日 国際左利きの日
 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY―」
2022.8.13
2022年8月13日左利きの日INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY合併号
-週刊ヒッキイ第624号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/08/post-54feef.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e993c67c3ad6bbfb1ae083afb30873aa
第625号(No.625) 2022/9/3
「2022年8月13日国際左利きの日合併号(続)
左利きとアイデンティティ ~《ピープル》シリーズから考える」
2022.9.3
2022年8月13日国際左利きの日合併号(続)左利きとアイデンティティ
-週刊ヒッキイ第625号

恩田陸さんの<常野物語>は、
ゼナ・ヘンダースンの<ピープル>シリーズに触発された物語でもあり、
そういう意味で参考文献的に、この本も読みました。
そのまえに、私のもう一つのメルマガ
『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』でも、
少数派と差別、多様性といった面から取り上げていました。

 

「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試み のための本から――

・[再]『潮騒』三島由紀夫 新潮文庫 新版 2020/10/28

2022(令和4)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162 x161 -小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」
2022.11.15
私の読書論162-小説の王道-恋愛小説(2)ハッピーエンド型・悲恋型
-「楽しい読書」第330号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/11/post-f4ce33.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/02969a20ac7c9b91e9e8615f7da6ee3c

この企画は、
今年の「私の読書論」で、閑をみて書いていこうと考えています。

そういう候補作の一つでもあります。
これは、新版が出ているというので、読んでみました。
解説が「〔新解説〕重松清」に変わっているところが異なります。
本編はもちろん変わりません。

 

 ●(2)それ以外の古典の名作

これといってなし。
1950年代、60年代も今では古典ともいえますが、
自分の感覚としましては、つい昨日読んだ本のイメージがあって、
古典にはしづらいものがあります。

一つだけあげれば――

・(再)『怪奇幻想の文学 I 深紅の法悦』紀田順一郎、荒俣宏/編
 新人物往来社 新装版 1979

私の蔵書は、1979年の新装版ですが、元の版は1969年出版で、
吸血鬼ものの怪奇・恐怖小説(ホラー)の短編アンソロジーです。
その収録作には、ジョン・ポリドリ「吸血鬼」(1819)や、
レ・ファニュの「吸血鬼カーミラ」(1872)などの
古典と呼んでいい作品があります。

・(再)『妖怪博士ジョン・サイレンス』アルジャーノン・ブラックウッド
 国書刊行会<ドラキュラ叢書 第三巻> 1976

も、1908年刊のオカルト探偵もののホラー短編集
(<シャーロック・ホームズのライバルたち>の変種といったところ)
もありました。

 

 ●(3)小説や左利き本等著作のための勉強本

「勉強のため」といいますと、考え方により、何でも挙げられます。
特にこれ、というものはありませんでした。

<左利きミステリ>
・『探偵コナン・ドイル』ブラッドリー・ハーパー ハヤカワ・ミステリ
 2020

――「左利きの殺人鬼」として知られるジャック・ザ・リッパー
(切り裂きジャック)を、名探偵ホームズの生みの親コナン・ドイルが、
ホームズ流推理のモデルといわれる医学の恩師ベル博士、
同じく作家の女性マーガレットの三銃士で追いかける時代ミステリ。
・(再)『強盗プロフェッショナル』ドナルド・E・ウェストレーク
 角川文庫 1975

――2012年の<クリスマス・ストーリーをあなたに~>で紹介しました、
天才的犯罪プランナーにして職業的窃盗の第一人者、哀愁の中年泥棒
<ドートマンダー>ものの長編に登場する、
仲間の一人の甥の青年が抱く妄想の中のヒーローが左利き。

2021(令和3)年11月30日号(No.307)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」
2021.11.30
クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」
-楽しい読書307号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/11/post-89135b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/18c776f043925c645747d63c43d02f2c

 

 ●(4)個人的な趣味で、好きな作家、
   ミステリ(推理小説)やSF、冒険小説など

<海外ミステリ>
・(再)『リリアンと悪党ども』トニー・ケンリック 角川文庫 1980
・『マイ・フェア・レディース』トニー・ケンリック 角川文庫 1981
・『バーニーよ銃を取れ』トニー・ケンリック 角川文庫 1982

・『暗くなるまで待て』トニー・ケンリック 角川文庫 1984
・『俺たちには今日がある』トニー・ケンリック 角川文庫 1985

 

――トニー・ケンリックは、1974年『スカイジャック』という、
ジャンボ機ともども300人超の乗員乗客を誘拐するという
とんでもないアイデアをひっさげて登場した作家。
その後ボチボチと新作が刊行され、私も次々と買いました。
でも初めの3作は読んだものの、それ以後は買っただけで積ん読でした。
今回、蔵書整理の一貫でまとめて読みました。やっぱりおもしろい。
コメディタッチのサスペンスものから、冒険ものに移行しています。

・(再)『マンハンター』ジョー・ゴアズ 角川文庫 1978

・『ハメット』ジョー・ゴアズ 角川文庫 1985

アメリカの元探偵会社の探偵出身という経歴のハードボイルド系作家。
前者は、金持ちのお嬢さんを麻薬中毒に引き込んだ連中を罰するべく
活動する、しがない私立探偵の物語。その仕掛けがすごくて、かつ……。
後者は、同じく元探偵で作家となったハードボイルド系作家ハメットを
主人公にしたハードボイルド・ミステリ作品。

・(再)『堕ちる天使』ウィリアム・ヒョーツバーグ ハヤカワ文庫NV
 1981
・(再)『ポーをめぐる殺人』ウィリアム・ヒョーツバーグ
 扶桑社ミステリー 1998

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――ヒョーツバーグも、時折、意外な仕掛けのミステリを発表する。
前者は、オカルトもので、後者も一部オカルトがらみで、
コナン・ドイルのアメリカ公演旅行中の事件を描く。
ドイルと共に脱出王ハリー・フーディニが探偵として活躍し、
のちに作家となる新聞記者デイモン・ラニアン、
そしてドイルにしか見えない存在としてポーの亡霊が現れる、
など有名人たちが登場する。

・『タラント氏の事件簿』デイリー・キング 創元推理文庫 2018
――1930年代の短編集。<ホームズのライバル>ものとして読んでみた。
・『サム・ホーソーンの事件簿II』エドワード・D・ホック
 創元推理文庫 2002
――1000編もの短編ミステリを書いたと言われる著者ホックの
田舎医者の名探偵ぶりを描く本格謎解き時代ミステリ第二弾。
・『オクトーバー・リスト』ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫 2021
――事件の終わりから逆に遡って描くという大逆転発想のミステリ。
・『木曜殺人クラブ』リチャード・オスマン ハヤカワ・ミステリ 2021

――老人テーマの小説。養老院のクラブの一つ探偵クラブのメンバーが、
経営者の一人が殺されるという実際の事件を解決に導く物語。
各人の過去が織り込まれた物語が読ませる。

・『祖父の祈り』マイクル・Z・リューイン ハヤカワ・ミステリ 2022

・『父親たちにまつわる疑問』マイクル・Z・リューイン
 ハヤカワ・ミステリ文庫 2022

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――マイクル・Z・リューイン生誕80周年記念出版のうちの新作二冊。
前者は、コロナ禍を思わせるパンデミック下の近未来アメリカを舞台に、
妻と娘の夫を亡くした祖父が、娘と孫の少年を守り抜こうとする物語。
後者は、心優しき私立探偵〈アルバート・サムスン〉シリーズ最新作、
エイリアンだと自称する青年にまつわる事件、連作四中編。

・(再)『世界ショートショート傑作選1』各務三郎/編 講談社文庫
 1978
――海外作家による、<クライム&ミステリー>、<怪奇&幻想>、
<コント>の三部からなるショートショートの傑作アンソロジー。

<SF>
・(再)『世界SFパロディ傑作選』風見潤、安田均編 講談社文庫 1980
――海外作家によるSFのパロディ短編アンソロジー。

<怪奇/恐怖小説(ホラー)>
・(再)『ドラキュラのライヴァルたち』マイケル・パリー編
 ハヤカワ文庫NV 1980

――吸血鬼の短編アンソロジー。古典から1970年代の現代ものまで。
・(再)『きみの血を』シオドア・スタージョン ハヤカワ・ミステリ 1971
――吸血鬼ものの変種。意外な青年のラブ・ロマンスもの。
・(再)『鳥』ダフネ・デュ・モーリア ハヤカワ・ミステリ 1963

――表題作はヒッチコックの映画の原作で、鳥が人を襲うというホラー。
家族を守り抜く父親/夫の活躍。他に二作の心理ものホラー収録。

・(再)『地球最後の男』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV 1977
・(再)『縮みゆく人間』リチャード・マシスン ハヤカワ文庫NV 1977

・(再)『地獄の家』リチャード・マシスン ハヤカワ・ノヴェルズ 1972

・『ある日どこかで』リチャード・マシスン 創元推理文庫 2002

――リチャード・マシスンは、近年再評価の動きがあるという
アメリカのSF系ホラー作家。『地球――』は吸血鬼もののSF。
『縮みゆく――』は身体が徐々に縮んでしまうという人間の冒険物語。
『地獄――』は幽霊屋敷ものに科学を持ち込んだ本格サスペンス。
『ある日――』は時間旅行による恋物語。

・(再)『ロイガーの復活』コリン・ウイルソン ハヤカワ文庫NV 1977
――『賢者の石』以前の「クトゥールー神話」ものの中編。
・(再)『怪奇な恋の物語』ヘンリー・クレメント ハヤカワ・ノヴェルズ
 1970
――不調の青年画家が田舎の屋敷で出会った戦争で死んだ少女の幻影。
・(再)『闇の展覧会1』カービー・マッコーリー/編 ハヤカワ文庫NV
 1982

――キングの短い長編「霧」を含む怪奇恐怖小説のアンソロジー一冊目。
・(再)『闇の展覧会2』カービー・マッコーリー/編 ハヤカワ文庫NV
 1982

――SFやファンタジー系などの作家によるオリジナル・アンソロジーの2。

<国内ミステリ>
・『リラ荘殺人事件』鮎川哲也 角川文庫 2016
――芸大学生の連続殺人事件の謎を解く本格推理小説。
・『硝子のハンマー』貴志祐介 角川文庫 2007

――テレビドラマ化もされた「防犯探偵・榎本」シリーズの傑作長編。
・『しのぶセンセにサヨナラ』東野圭吾 講談社文庫 1996
――「浪花少年探偵団」シリーズ第二弾、休職中のセンセの事件簿。

<その他一般小説>
・『下町ロケット ガウディ計画』池井戸潤 小学館文庫 2018

・『下町ロケット ゴースト』池井戸潤 小学館文庫 2021

――池井戸さんは、2019年の新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェアで
『陸王』を読んだのが最初で、図書館でこのシリーズ作が並んでいて
『下町ロケット』から順に。私は工業高校の機械科卒なので級友にも
町工場の息子がいたりして、必ずしも他人事でもなく、楽しめました。

2019(令和元)年7月31日号(No.252)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2019から」
2019.7.31
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2019から―『陸王』他
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/07/post-e5f434.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/f113ad87a21f783d36d0d35c255ab158

 

 ●<再読ベスト3>の候補

再読24冊、初読21冊というところでしょうか。
他にもあるのですが、ヒ・ミ・ツということで。

今回は<再読ベスト3>を、と考えていたのですが、
詳細なリスト作りに手を取られ、その紹介ができませんでした。
次回に<初読ベスト3>ともども紹介します。

最後に、<再読ベスト3>の候補の書名のみあげておきます。

『果てしなき旅路』『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン
『マンハンター』ジョー・ゴアズ
『ポーをめぐる殺人』ウィリアム・ヒョーツバーグ
『縮みゆく人間』『地獄の家』リチャード・マシスン
『鳥』ダフネ・デュ・モーリア
『怪奇幻想の文学 I 深紅の法悦』紀田順一郎、荒俣宏/編
『ドラキュラのライヴァルたち』マイケル・パリー編
『闇の展覧会1・2』カービー・マッコーリー/編

 

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 ★創刊300号への道のり はお休みです
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本誌では、「私の年間ベスト3・2022年フィクション系(前編)総リスト&再読編」と題して、今回も全文転載紹介です。

今年は、コロナ禍で滞っていた蔵書整理の再開で、初読よりも再読本が多くなりました。
読み直して、やはり残しておくべきか否か判断しよう、というわけです。

昔から好みが変わっていたり、価値観の変化が起きているのか等、再確認しています。

案外、好みに変化がなかったものでした。
また当時どうしてこの本が気になっていたのか分からなかった点が今回の再読で理解できた、という経験もありました。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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2023.01.03

明けましておめでとうございます-2023(令和5)年

(三日になってしまいましたが、)
明けましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。

昨年はお医者通い二年目となり、薬がまた一種類増えましたが、なんとか「やれやれ」状態です。
健診の結果は、一応は異常はなく、「健康」でありました。
ただし、糖尿病の数値(空腹時血糖値、HbA1c)が「要注意」状態でした。

他には、昨年もまた、やり残したこと山積みです。
でも、私のメルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』年内最終発行の

・2022(令和4)年12月31日号(No.333)「私の読書論164-
 私の年間ベスト3・2022年リアル系(後編)『生きがい』他」

・【別冊 編集後記】2022.12.31
私の読書論164-私の年間ベスト3・2022年リアル系(後)『生きがい』他-楽しい読書333号

(「新しい生活」版)

の冒頭にも書きましたように、

《やり残したこともたくさんありますが、
 まずは、やり遂げたこと、やり通せたことを思い返し、
 自分を褒めてやりたいものです。》

というわけで、
メルマガを二誌一年完遂ということで、これは褒めておきましょう。

昨年を漢字一文字で示しますと、何はともあれ「やり通した」という意味で、
「通」
でしょうか。

あるいは、「生き延びた」という意味で「延」でしょうか。
人生の「延」長戦で、なんとか結果を出せれば、というところです。

さて、今年の抱負としましては、
「勝負はここからだ!」
としておきましょう。

2022(令和5)年1月3日
レフティやすお <(_ _)>

 

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(画像:2023(令和5)年の年賀状より)

 

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2022.12.31

私の読書論164-私の年間ベスト3・2022年リアル系(後)『生きがい』他-楽しい読書333号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2022(令和4)年12月31日号(No.333)「私の読書論164-
私の年間ベスト3・2022年リアル系(後編)『生きがい』他」


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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和4)年12月31日号(No.333)「私の読書論164-
私の年間ベスト3・2022年リアル系(後編)『生きがい』他」
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 今年もいよいよラストになりました。
 やり残したこともたくさんありますが、
 まずは、やり遂げたこと、やり通せたことを思い返し、
 自分を褒めてやりたいものです。

 「私の年間ベスト3・2022年リアル系(後編)」です。

 その年、もしくは前年に私が読んだ本から
 オススメの「私の年間ベスト3」を選ぶという企画です。

 まずは、「リアル系」のその前編から。


 「リアル系」とは、いわゆる論文やエッセイ系の著作、
 実用書のような解説系のものも含めて、を言います。

 それに対して、小説や詩等の文芸作品は「フィクション系」。

 「フィクション」に対しては
 「ノン・フィクション」という言葉があります。

 でも「ノン・フィクション」というと、
 またそれで一つのジャンルのようになってしまうので、
 あえて、どなたかが使っていた
 「リアル系」という言葉を使っています。

 エッセイの中には、フィクションと見まがうような、
 ホラ話的な内容の境界線上の作品もありますけれど。

 まあ、ここでは、論文に準ずるような著作とお考えください。
 言わんとすることは分かりますよね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 人生を考え、哲学する人のための人生談義 -
  ~ 私の年間ベスト3・2021リアル系(後編) ~
 『生きがい』『哲人たちの人生談義』『「空気」を読んでも従わない』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●まず候補から――『ロウソクの科学』

今年は本当に読んでいる冊数が少ないので、
いきなりですが、早速「ベスト3」を挙げてしまいましょう。

前回ラスト、候補を挙げておきました。

・『奴隷の哲学者エピクトテス 人生の授業』荻野弘之 ダイヤモンド社
・『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎 新潮文庫
・『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』鴻上尚史
 岩波ジュニア新書
・『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』國方栄二 岩波新書
――(現在進行形で読書中の本ですが、入れておきます。)
・『ロウソクの科学』ファラデー 岩波文庫

古典的名著といえば、なんといっても最後の『ロウソクの科学』です。
これはやはり一度は読んでいて欲しい本といえましょう。

特に現代でも科学的思考のできない人が多いように思います。

例えば、新型コロナに関しても、
科学的思考から外れたような解説? 意見? を述べる
メディアのコメンテーターがいたりしました。

当初、全く正体不明な病気でした。
しかし、徐々にその真実の姿が明らかになってゆきました。
それでも分からないことがたくさんあり、
例えば、当初の従来種では、日本人の感染が少ないのとBCGの関係や、
人種の違いに原因があるのでは、とか色々言われました。
実際今でも分からないことが色々あります。

ワクチンに関してもそうです。
今私たちが接種しているワクチンは、
従来のものとは全く違う種類のワクチンです。
そういう意味ではもっと長いスパンでみていかなければ、
その影響がどのようなものとなるかは分からない、といえるでしょう。

しかし、これも科学的にみていかなければ、意味がありません。

では、科学的思考とはどういうものでしょうか。

それを教えてくれるのが、この『ロウソクの科学』です。
ロウソクの燃焼という日常的な題材で、
科学的にものを考えていくとはどういうことかを
順を追って紹介してくれます。


 ●人生論という哲学書

それ以外の候補は、基本的に人生論といったものです。

『奴隷の哲学者エピクトテス 人生の授業』と
『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』は、
ローマ時代の後期ストア派の哲学者たちの著作を扱ったものです。

特にエピクトテスを扱ったものが、近年、増えています。

『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』と
『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』は、
前者は、脳科学者からみた日本人の生き方論を英語で書いた小著の翻訳、
後者はジュニア向けの日本的な悩みの解消法を説いた生き方論です。


 ●<私の年間ベスト3・2021リアル系>

今年はとにかく本を読んでいませんので、
数少ないなかでのベスト3です。
でも、前回も書きましたように、まさに少数精鋭で、
ベスト3候補はみな、かなりのハイレベルの争いでした。


(3)『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』
 鴻上尚史 岩波ジュニア新書 2019/4/20
―まわりの「空気」に惑わされず、自分らしく生きる方法を説く。

「はじめに」にこうあります。

 《よりいい生き方を見つけ、楽になるために考えるのです。/
  ですから、あなたの生き苦しさのヒミツも考えるのです。》p.vi

日本では、まわりに合わせることを強要される、といいます。
「同調圧力」という言葉は、このコロナ禍でもよく聞きました。

だれでも人なら、まわりに、世間に決められたくない、
という思いがあるものです。
それでも、それを世間が許してくれない、というムードがあり、
そこで自分を失ってしまい、結果的に生き苦しくなってしまう……。

まあ、そういう状況から逃れるための方法を教えてくれる本です。

まずは、自分を大切にすることが大事です。
自分の人生を決めるのは、自分。

実際には、他人は自分が考えているほど、
自分のことを気にしてはいない、という事実があるのです。
「世間」も同じで、大半は自分の「思い込み」だといいます。

そうはいっても、「世間」はなかなか変わらないものでもあります。
そういう「世間」を変えるためには、
小さな戦いを続けていくしかないのです。

 《「世間」はなかなか変わらないと悲しむのではなく、
  変わらない「世間」のルールをうまく使って戦うのです。》p.139

そして、

 《あなたの戦いは、あなただけの戦いではない。(略)
  あなたの「世間」や「空気」との戦いを心から応援します。》p.189


私も、もう一つのメルマガにおいて、左利きの問題で戦っています。
小さな戦いですが、もう何十年か、
メルマガだけでも18年ぐらい続けています。

いつの日か、この戦いに勝利する日を夢見て!


(2)『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』國方栄二 岩波新書
2022/7/21
―近年の哲学者が話題にしない「幸福とは何か」を古代ストア派の哲学者
 ――エピクテトス、セネカ、マルクス・アウレリウス等の言葉から
 <よく生きる>を哲学する。

「序章」冒頭、
 《哲学者が幸福について語らなくなって久しい。》(p.2)
といい、
 《巷には幸福になるための自己啓発本が溢れかえっているが、
  現今の哲学者は概して幸福論を語りたがらない。》(同)
と続け、
三木清の『人生論ノート』の「幸福について」から引用しています。

この文章は昭和13年(1938)頃のもので、
今の哲学界においてもそれほど変わっていない、といいます。
しかし、
 《古代の哲人たちは人生談義を幸福論から始めることが多かった。》(同)
と。

 《幸福の追求は過去の多くの哲学の出発点であった。》(p.4)
とも。

こうして、ヨーロッパにおいて長きにわたって読み継がれてきた
ストア派の哲人たちの著作から人生論的な哲学思想を紹介しています。

 《古代の哲学を学びたい人は
  プラトンやアリストテレスの書物を読むだろう。
  しかし、人生論といえば、ローマ時代のストア派の哲人の書物を
  繙くことが多い。それはなぜかと言うと、
  哲人たちの言葉が私たちの心の琴線にふれるからであろう。》(p.208)
と。

例えば「死」について――

 《人びとを不安にするのは、
  事柄ではなく、事柄についての思いである。
  例えば、死はなんら恐るべきものではなく――そうでなければ、
  ソクラテスにも恐ろしいと思われたであろう――、
  むしろ死は恐ろしいものだという死についての思い、
  これが恐ろしいものなのだ。》『要録』5 [下巻 364頁](p.172)

『要録』とは、
奴隷の子に生まれた元奴隷で、のちに解放され哲学者となった
足の悪いエピクテトス(後50年年頃-135年頃)、
その弟子のアリアノス(後86/90頃-175頃)が残した著作の二点のうち、
講義の内容を著作にまとめたものが『語録』と呼ばれ、
その思想の要約の方が『要録』と呼ばれるもので、その後者をいいます。

 《エピクテトスが哲学に求めたのは、
  「人はいかにして精神の自由を得ることができるか」
  という問いに尽きている。》

それは『要録』の冒頭にある、

 《物事のうちで、あるものはわれわれの力の及ぶものであり、
  あるものはわれわれの力の及ばないものである。(略)
  そして、われわれの力の及ぶものは本性上自由であり、
  妨げられも邪魔されもしないが、われわれの力の及ばないものは
  脆弱で隷属的で妨げられるものであり、本来は自分のものではない。
  『要録』1 [下巻 360頁]》(pp.101-102)

この一文に集約されます。

自分の力でコントロールできるものとできないものに分けて考えろ、
というのです。

多くの人が言い、実践していることです。

*エピクテトス『人生談義』(上下) 國方栄二/訳 岩波文庫
(上巻=『語録』第一・第二巻
 下巻=第三・第四巻、断片、『要録』を収録)
『エピクテトス 人生談義 (上)』岩波文庫 2020/12/17

『エピクテトス 人生談義 (下)』岩波文庫 2021/2/18

*参照:『要録』に関して、「ベスト3」候補の一冊――
『奴隷の哲学者エピクトテス 人生の授業
 ――この生きづらい世の中で「よく生きる」ために』荻野弘之
  かおり&ゆかり/漫画 ダイヤモンド社 2019/9/12
―漫画と共に、元奴隷の哲学者エピクテトスの哲学を解説する。


(1)『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎
 恩蔵 絢子/訳 新潮文庫 2022.5.1
―脳科学者が英語で世界に向けて出した日本人の生き方をめぐる小著。

西欧でブームになっていたという<IKIGAI>を
日本人から説明して欲しいと、
茂木健一郎さんが英語での本をオファーされ、
2017年にロンドンで出版された

 THE LITTLE BOOK OF IKIGAI:
  THE ESSENTIAL JAPANESE WAY TO FINDING YOUR PURPOSE IN LIFE

の日本語訳の文庫版。

日本の本質を知るためには、一度日本を離れ外から見る必要がある、
英語で書くことはその一つの方法である、というのです。

こうして書かれた内容は、寿司、大相撲、雅楽、伊勢神宮、コミケ、
アニメ、ラジオ体操といった、現代日本の様々な日常を取り上げながら、
<生きがい>という概念を分析、それらを通して見える、
日本人の生活と文化といった日本らしさと、
日本人の生き方について追求し、幸福に生きる方法を考える本。

冒頭に<生きがい>に大事な五本柱として、

 柱1:小さく始める 
 柱2:自分を解放する
 柱3:持続可能にするために調和する
 柱4:小さな喜びを持つ
 柱5:<今ここ>にいる

 《それぞれの柱は、<生きがい>が花開くための支えとなり、
  <生きがい>の基礎を作るもの》(p.12)

だといいます。

<生きがい>についての研究論文(曽根ら『日本における、
生きるに値する人生の感覚(IKIGAI)と死亡率の関係:大崎研究』2008)
によりますと、

 《<生きがい>を持っていることは、
  幸せで活動的な人生を築くことができる
  と感じる精神状態にあることを指す、と言えそうだ。》(第一章p.24)

といいます。

 《<生きがい>は、あなたに頑張る力をもたらし、
  あなたの人生に目的を与えるものである。》(同p.25)

と。

<生きがい>は、自分の専門分野で成功をおさめている人でなくても
使うことのできる言葉であり、《どんな人にも開かれている》もので、
《生き方の多様性を讃美している、とても民主的な概念》だ(p.19)、と。

 《<生きがい>とは、自分にとって意味がある、人生の喜びを発見し、
  定義し、楽しむということにつきる。》(p.29)

この本で自分の人生を見直し、<生きがい>が与えてくれる
健康や長寿についてのヒントを得られる、と。

以下の二つの質問に答えることで、

 《もっと幸せで、もっと実り多い人生にするために、
  あなた自身の<生きがい>を見つけよう。》(同p.30)

・あなたが心の中で一番大事にしているものは何か?
・あなたに喜びを与える小さなことは何か?


さて、あなたにとっての<生きがい>とは何でしょうか。

私の場合は、このメルマガ(ともう一つのメルマガ)でしょうか。

とにもかくにも、このメルマガが300号超、もうひとつの方がが600号超、
10年以上続けています。

何かしら自分に「生きる力」を与えてくれています。
(これもひとえに、読者の皆様の存在のお陰ですけれど。)
「自分のために、(かつ)誰かのために」という。


 ●私の年間ベスト3・2021年〈フィクション系〉ベスト1――

今年のベスト1は、やはりこれでしょう。

小著にこそ価値がある、といいますと、言い過ぎな感じですが、
簡潔にまとめるという面からいいますと、
やはり小著が優るという気がしませんか。

小説より詩、詩の中でも短詩系の究極的な短歌や俳句となりますと、
簡潔にズバリとポイントを押さえている表現になります。

で、一見そのようでありながら、
一語一語に創造力の広がりがある表現にもなっています。
読む人それぞれに受け止め方が変わってきます。
自分で想像する余地も生まれてきますよね。

小著には、そういう部分もあります。
要点を押さえながらも、
読者自身が過去の経験に照らして、読み取れる部分が。


うすっぺらい本だと何かしら頼りない印象があるでしょうね。
分厚い本で活字がぎっしり詰まっている本は、
確かに充実感があり、頼りがいがあるように思えます。

しかし、その分読み終えるのに、ハードルが高くなります。

どんなにいい本でも、最後まで読み終えなければ、価値は半減します。

一冊通して書かれたものですから、
部分だけでは理解できなくても当然でしょう。

ポイントだけ拾い読めばいいと思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、どこを読めばいいのか、などということは、
実際に読み込んでみないと分かりませんよね。
どこに大事なことが書かれているか、読んでみないと分かりませんから。


なにしろ、小著には、まず一番に、
とにかく、早く読み終えられる、という利点があります。

多少読みづらく感じても、一息ガマンするだけで読み終えられます。
読み終えてみれば、あれこれいいところが見つかり、読んでよかった、
という気になれるでしょう。

ムダな文章が少なく、
ポイントだけを取り上げて書かれていることが多いので、
要点を取りやすい、というのも小著の利点です。

例を挙げて説明するのは、一見わかりやすそうに思えますが、
ポイントのずれた例だったりすると、マイナスにしかなりませんし、
適切な例でなければ、話がまわりくどくなったり、
冗長になってしまうこともあります。

念のためにと例外事項まで羅列した結果、
ムダに話の展開が間延びすることもあります。


要点だけを順序よくまとめられた小著を読むのが、
一番手っ取り早いものです。

物事を初めて勉強するときも、
微に入り細を穿つような、すべてを網羅したゴッツイ教科書より、
ますは、小著を読んでみましょう。
ポイントだけをコンパクトに押さえた本で、
全体像のイメージを知ってから個々の部分に進んで行くのがベストです。


そこで、この『生きがい』という、
薄っぺらい本を
「私の年間ベスト3・2021年〈フィクション系〉ベスト1」
に挙げておきましょう。


 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡

 (1)『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎
      恩蔵 絢子/訳 新潮文庫 2022.5.1

 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡 ☆彡 ★彡


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 ★創刊300号への道のり はお休みです

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本誌では、「私の読書論164-私の年間ベスト3・2022年リアル系(後編)『生きがい』他」と題して、今回も全文転載紹介です。

今年はとにかく数を読んでいないので、まさに少数精鋭の中からの「ベスト3」ですので、意外にレブエルは上がっているようです。

騙されたとおもって一度読んでいただきたいものです。

で、今号で創刊以来333号となりました。
東京タワー到達です。
次は、スカイツリーの634号を目指します!

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

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2022.12.15

私の読書論163-私の年間ベスト3・2022年リアル系(前)幸福論を読む-楽しい読書332号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2022(令和4)年12月15日号(No.332)「私の読書論163-
私の年間ベスト3・2022年リアル系(前編)幸福論を読む 」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和4)年12月15日号(No.332)「私の読書論163-
私の年間ベスト3・2022年リアル系(前編)幸福論を読む 」
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 今年も早12月半ば、ということで、年末年始恒例の
「私の年間ベスト3」を。

 その年、もしくは前年に私が読んだ本から
 オススメの「私の年間ベスト3」を選ぶという企画です。

 まずは、「リアル系」のその前編から。

 

 「リアル系」とは、いわゆる論文やエッセイ系の著作、
 実用書のような解説系のものも含めて、を言います。

 それに対して、小説や詩等の文芸作品は「フィクション系」。

 「フィクション」に対しては
 「ノン・フィクション」という言葉があります。

 でも「ノン・フィクション」というと、
 またそれで一つのジャンルのようになってしまうので、
 あえて、どなたかが使っていた
 「リアル系」という言葉を使っています。

 エッセイの中には、フィクションと見まがうような、
 ホラ話的な内容の境界線上の作品もありますけれど。

 まあ、ここでは、論文に準ずるような著作とお考えください。
 言わんとすることは分かりますよね。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 少数精鋭? -
  ~ 私の年間ベスト3・2021リアル系(前編) ~
  哲人たちの「幸福論」を読む
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 ●2022年の傾向

2020年のコロナ禍からこっち読書量が減っています。
それまでの年間100冊以上から、およそ半減、
せいぜい60冊程度です。
特に今年の場合は、リアル系の本の読書量が激減。

今年はなんと10冊程度。

例年通り内訳を振り返るにも数が少なくて……。

 

 ●(1)メルマガ用のお勉強本―中国漢詩、読書、左利き関連

(★:読みかけ)

【読書】
・『喰らう読書術――一番おもしろい本の読み方』荒俣宏
  ワニブックスPLUS新書 2014/6/9

2022(令和4)年3月15日号(No.314)「私の読書論155-
荒俣宏『喰らう読書術』から~本の価値」
2022.3.15
私の読書論155-荒俣宏『喰らう読書術』から~本の価値-楽しい読書314号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/03/post-c33fbc.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/1cfcd5bcb6d62b6a070756144306bac1

 

【哲学・思想】
・『90分でわかるアリストテレス』ポール・ストラザーン/著
 浅見昇吾/訳 WAVE出版 2014/5/1
―こちらは<90分でわかる哲学者>シリーズの一冊。「生涯と作品」
 「言葉」など小著ながらそれなりにポイントを抑えている。

★『トマス・アクィナス 理性と神秘』山本芳久 岩波新書 2017/12/21
―下のNHKテキストの参考ともなる山本さんの著作。

・『NHK100分de名著 アリストテレス ニコマコス倫理学』
山本芳久 (NHKテキスト) NHK出版 2022/4/25
―NHK番組のテキスト、アリストテレス『ニコマコス倫理学』を読み解く。

2022(令和4)年5月31日号(No.319)
「私の読書論158-アリストテレス『ニコマコス倫理学』
―<NHK100de名著>から」
2022.5.31
私の読書論158-アリストテレス『ニコマコス倫理学』
―<NHK100de名著>から-楽しい読書319号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/05/post-3cd76c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/25a944dfa2089cd33359bb104ed0c522

 

【科学】
★『マンウォッチング(上)』デズモンド・モリス 藤田統/訳
 小学館ライブラリー13 1991.12.20(1991/11/1)
―動物行動学の権威が人間の行動を観察し、日常生活の中の見慣れた
 ジェスチャーや表情の意味を解き明かす世界的ベストセラー。

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』第627号 別冊編集後記
2022.10.1
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)
楽器における左利きの世界(6)不利な楽器-週刊ヒッキイ第627号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-6d2221.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7142edd7f782a8478966aa6006f16d06

 

【歴史】
★『世界の音 楽器の歴史と文化』郡司すみ/著
(講談社学術文庫 2022/11/10)

第631号(No.631) 2022/12/3
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(8)利き手と非利き手の役割 」
2022.12.3
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)楽器における左利きの世界(8)利き手の役割-週刊ヒッキイ第631号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/12/post-a25936.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/c81018b1d59dc648cf8da15566740dc2

 

 ●(2)その他の古典系のお勉強本

【哲学・思想】
★『教養としての世界の名言365』佐藤優/監修 宝島SUGOI文庫
 2021/11/5
―偉人・有名人の名言を10のカテゴリーごとに見開き2ページで解説。

 

・『何のための「教養」か』桑子敏雄 ちくまプリマー新書 2019/7/5
―教養とは命綱だというアリストテレスの言葉をもとに、教養を説く。

・『奴隷の哲学者エピクトテス 人生の授業
――この生きづらい世の中で「よく生きる」ために』荻野弘之
 かおり&ゆかり/漫画 ダイヤモンド社 2019/9/12
―漫画と共に、元奴隷の哲学者エピクテトスの哲学を解説する。

・『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎 恩蔵 絢子/訳 新潮文庫
 2022.5.1
―脳科学者が英語で世界に向けて出した日本人の生き方をめぐる小著。

・『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』鴻上尚史
 岩波ジュニア新書 2019/4/20
―まわりの「空気」に惑わされず、自分らしく生きる方法を説く。

★『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』國方栄二 岩波新書
2022/7/21
―近年の哲学者が話題にしない「幸福とは何か」を古代ストア派の哲学者
 ――エピクテトス、セネカ、マルクス・アウレリウス等の言葉から
 <よく生きる>を哲学する。

 

【科学】
・『ロウソクの科学』ファラデー 竹内 敬人/訳 岩波文庫 2010/9/17
―一本のロウソクの燃焼から科学する方法を解説する古典の名著。
 新訳版で、現代の読者のための解説付き。

 

 ●(3)小説や左利き本等著作のためのお勉強本

【小説・書くこと】【ブック・ガイド】
(x未読)『あなたの小説にはたくらみがない 超実践的創作講座』
佐藤誠一郎 新潮新書 2022/9/20
―ベテラン編集者が解説する「小説家には書けない」小説の書き方。

 

 ●(4)個人的な趣味、仏教や空海・弘法大師に関する本

【仏教】【空海】
(x未読)『空海』松永有慶 岩波新書 2022/6/21
―密教研究の第一人者によるロングセラー『密教』『高野山』に続く、
 第三弾。空海の思想を解き明かす。

以上共に、今年はなし。
本は買っていますが、まだ読んでいません。

 

 ●今年の傾向

傾向といいましても、とにかく本を読めていないので、
【哲学・思想】系の本がその中でも多かったということになります。

國方栄二さんのストア派哲学に関する本を、2020年の後半に読み、
その後、エピクテトスの著作(正確いいますと、弟子がまとめたもの)
の國方さんの翻訳本も含めて、ここ2年ほど、ストア派、なかでも
エピクテトスの著作に関する本をよく読んでいます。

実際に、エピクテトス関連の本が最近、よく出ています。

セネカの本も含めて、ストア派哲学が見直されている、
という印象を受けます。

コロナ禍といい、日本の経済状況も長年、デフレで所得が減少気味、
今年はさらにロシアによるウクライナ侵攻もあり、
北朝鮮のミサイル発射など、世界平和が脅かされています。

これらの不安を乗り越えるための方策として、
このストア派の哲学――なかでもエピクテトスの
「自分の力の及ぶものと及ばないものとを分けて考える」
というものの考え方、取り組み方が
脚光を浴びる状況になっているのかもしれません。

 

 ●私の2022年〈リアル系〉ベスト3候補

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『奴隷の哲学者エピクトテス 人生の授業』荻野弘之 ダイヤモンド社
『生きがい―世界が驚く日本の幸せの秘訣―』茂木健一郎 新潮文庫
『「空気」を読んでも従わない 生き苦しさからラクになる』鴻上尚史
 岩波ジュニア新書
『哲人たちの人生談義 ストア哲学をよむ』國方栄二 岩波新書
――(現在進行形で読書中の本ですが、入れておきます。)
『ロウソクの科学』ファラデー 岩波文庫

以上、この辺が今年の候補ですね。

昔から私は「幸福論」と呼ばれるものが好きで、よく読んできました。

哲学書の三大「幸福論」と呼ばれる、
ヒルティ『幸福論』(全三巻、幸福に関する短文集、仕事の有用性、他)、
アラン『幸福論』(幸福をテートとするプロポと呼ばれる短文集)、
ラッセル『幸福論』(幸福は自分の力で得られるという長編論文)
を筆頭に、ショーペンハウエルの『幸福について』という本もあります。
古代ギリシアの哲学者プラトンの、<よく生きる>について書いた
初期ソクラテス対話集の「クリトン」や、
幸福は<最高善>であるというアリストテレスの『ニコマコス倫理学』、
自分の力の及ぶものと及ばないものを分けるのが大事というストア派の
エピクテトス『人生談義』等々、読んできました。

哲学的な「幸福論」というだけでなく、
ごく一般的な「人生論」「処世論」といったものも含めて、
心理学系の本も好きで読んできました。
また、宗教書になる、初期仏教や空海に関する本も、
たぶんに「幸福論」的に読んできました。

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今回も、そういう本が気になっています。

この中では『ロウソクの科学』だけが純粋な科学解説本ですね。

あとは、哲学・思想といったものです。

さて、次回はこの中からベスト3を選んでみます。

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 ★創刊300号への道のり はお休みです

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本誌では、「私の読書論163-私の年間ベスト3・2022年リアル系(前編)幸福論を読む」と題して、今回も全文転載紹介です。

2013年から毎年毎年紹介してきた<○○年に読んだ本から>~<私の年間ベスト3>ですが、今年で10年になります。

その間にオススメした本は何冊になるのでしょうか。
当初は数を絞らずに紹介していました。
その後、「ベスト1」になり、「ベスト3」になってからはまだ四回目ですね。

50歳になって、ブログを始めて、自分の教養のなさにガックリし、改めて読書と取り組んだわけです。
朝読を始めて年間100冊超の本を読むようになりました。
そのうちの半分を<リアル系>の本を読むようにしました。

それまでは、もっぱら小説ばかり読んでいました。
それも、SFやミステリといったエンタメ系のものばかりでした。

これではやはりダメで、もっと硬い本を読もうと考えたわけです。
同じ小説を読むのでも、古典の名作を、といったように。

50歳から19年たちました。
コロナ禍になってから読書量が激減し、三桁に届かなくなったのですが、19年でのべ2000冊超の本を読んだ計算になります。
その内の約訳半分がリアル系で、主に哲学・思想・宗教系の本になっています。
哲学にしろ宗教(主に仏教)系の本にしろ、たいていはまだ古代編で、哲学などは全く近代以降のものは未読に近い状態です。
その辺は反省すべきところでしょうか。

また一般の教養としては、科学系も歴史系もその他諸々の分野も全くといっていいほど未開拓なので、この辺は将来への宿題でしょう。

 

*参照:
・一番初めの年間読書オススメ紹介~<○○年に読んだ本から>――
2013(平成25)年12月31日号(No.119)-131231-  
“今年(2013年)読んだ本・買った本”から (1)教養編
(別冊 編集後記)2013.12.31
“今年(2013年)読んだ本・買った本”から (1)教養編
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2013/12/2013-1-236b.html
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11739419082.html

・最初の<私の年間ベスト3>紹介――
2019(令和元)年12月15日号(No.261)「私の読書論126-
読書生活書籍購入50年(5)リアル編
-50代以降・世界の四聖編ベスト3(前編)」
(別冊 編集後記)2019.12.15
私の読書論126-読書生活書籍購入50年(5)リアル編-50代以降世界の四聖編ベスト3(前)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/12/post-cd9e66.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/15c4e4828b0055d6ddf7d0c0807508d8

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2022.11.30

クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」-楽しい読書331号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2022(令和4)年11月30日号(No.331)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-
「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和4)年11月30日号(No.331)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-
「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」
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 今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。

 昨年は現代編でしたので、今回は古典編です。
 クリスマスらしいハート・ウォーミングな短編を紹介しましょう。

 

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-クリスマス・ストーリーをあなたに (12)- 2022
  ~ 売れ残ったクリスマス・ツリーの運命は……? ~
 「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー

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 ●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~

1◆2011(平成23)年11月30日号(No.70)-111130-善意の季節
『あるクリスマス』カポーティ
善意の季節『あるクリスマス』カポーティ
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2011/11/post-2b5f.html

2◆2012(平成24)年11月30日号(No.94)-121130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星』から
クリスマス・ストーリーをあなたに ―第94号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2012/11/post-4575.html
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11415827315.html

3◆2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
・クリスマス・ストーリーをあなたに~
『サンタクロースの冒険』ボーム
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11713521094.html
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2013/11/post-2e56.html

4◆2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」
・クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス ―第140号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-11958011368.html
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2014/11/post-e7fb.html

5◆2015(平成27)年11月30日号(No.164)-151130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『まれびとこぞりて』コニー・ウィリス」
・クリスマス・ストーリーをあなたに―
「まれびとこぞりて」コニー・ウィリス ―第164号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12101006584.html
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2015/11/post-108a.html

6◆2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」
・クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』 ―第188号
「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12224275324.html
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2016/11/post-2cc0.html

7◆2017(平成29)年11月30日号(No.212)-171130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治」
・クリスマス・ストーリーをあなたに~(7)
「クリスマス・プレゼント」梶尾真治
―第212号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-12332325526.html
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2017/11/7-eb88.html

8◆2018(平成30)年11月30日号(No.236)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング」
・クリスマス・ストーリーをあなたに~(8)
『昔なつかしいクリスマス』ワシントン・アーヴィング
―第236号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2018/11/8-9bc1.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3a5c8cbafc52eca791e8a99a100b9644

9◆2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」
・クリスマス・ストーリーをあなたに(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ
―第260号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/11/post-2d509d.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e0b43669289d5be0dd6bc01509240c60

10◆2020(令和2)年11月30日号(No.283)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」メアリー・E・ペン」
・クリスマス・ストーリーをあなたに~(10)
「ファンダーハーフェン老人の遺言状」ペン-楽しい読書283号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/11/post-b1f27c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/32ad800de583f407aaa4dab7f8b3c849

11◆2021(令和3)年11月30日号(No.307)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-
「パーティー族」ドナルド・E・ウェストレイク」
・クリスマス・ストーリーをあなたに~(11)-2021-「パーティー族」
-楽しい読書307号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/11/post-89135b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/18c776f043925c645747d63c43d02f2c

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。

【古典編】
 チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
 ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
 ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」

【現代編】
 トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
 アガサ・クリスティー「水上バス」
 コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
 梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
 ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」

 

 ●『ミステリ・マガジン』<クリスマス・ストーリー集>より

今年の【古典編】は、今から100年近く前に発表された小品です。

2020(令和2)年、第10回<クリスマス・ストーリーをあなたに~>の
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」に続き、
<クリスマス・ストーリー>の存在を教えてくれた
文芸雑誌(かつては長年、海外ミステリ専門誌として知られ、
海外の文化――主に英米の――を知らしめる役割も負っていた)
『ミステリ・マガジン』掲載作を紹介します。

アメリカの作家・エッセイストの
クリストファー・モーリー(Christopher Morley、1890~1957)が
1925年に発表した短編「飾られなかったクリスマス・ツリー」です。

売れ残ったクリスマス・ツリーの悲しいけれど、暖かい物語です。

クリストファー・モーリーは、Amazonによりますと、
『取り憑かれた本屋』(2020/1/28)
『ロジャーミフリンの旅する本屋パルナッソス』(2021/12/3)
の2冊の邦訳があります(Kindle版 (電子書籍)もあり)。

 

 ●クリストファー・モーリー「飾られなかったクリスマス・ツリー」

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*「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー
浅倉久志/訳
 『ミステリ・マガジン』1997年12月号(no.501)
   <クリスマス・ストーリイ集>より

 《(略)年老いた高木は――とりわけモミの木は――
  なにかをささやいている。彼らは若木たちに
  “飾られなかったクリスマス・ツリー”の話を
  してやっているところなのだ。
  それは悲しい物語のように聞こえるし、
  古木たちの声にも心なしか厳粛なひびきがある。
  しかし、それは若木たちを励ます物語だ。(略)
  おおぜいの若い常緑樹はこの物語で勇気づけられる。》

 

そのお話とは――?
今まで誰も書かなかった物語だというのですけれど……。

 

 ●ストーリー~ 山から切り出されたツリー

この物語の主役をつとめるツリーは、
そもそも切られたのが間違いでした。
普通なら切られずにすむはずの木だったのですが、
夕暮れ近く、斧を持った男は、斧の切れ味に酔い、
ついつい多くの木を切りたくなってしまい、
その木も切ってしまったのです。

その木は、すくすく育った若木だったのですが、
年齢の割に背が高く、枝も不揃いでした。
もしそのままそこに残されていたら、立派な大木になったことでしょう。

今は、中途半端な年齢で、人々がクリスマス・ツリーに求める、
先細りの形に枝葉もむらなく密生していない、
まっすぐすらりとした円錐形ではなく、いくぶん横に傾き、
梢がふたまたに分かれていました。

運び込まれた大勢の仲間たちと青物屋の壁にもたれていると、
そんなことも分からなかったのです。
寒い12月の日々、やがて訪れるお祭りを夢に描いて、
彼はとても幸せでした。

クリスマス・イヴの楽しさは、ふだんから話にきいていました。

ピカピカ光る玉や星、色とりどりのおもちゃ、ねじり飴、
ロウソク代わりの電球などなど。

 《きっとぼくはとても見栄えがするぞ。
  感心してくれる子供たちがいるといいけど、
  その子供たちが靴下をぼくの枝に吊るすときは、
  すごくいい気分だろうな!》

当初彼は、
買い手が付いて運び去れるモミの木たちを気の毒に思っていました。
クリスマス・イヴまでここに残っていた方がいい。
きらびやかな夜が来れば誰かに選ばれて、
大きな家のギフトの包みの山がの中に颯爽と立つ彼をみて、誰からいう。
「ああ、なんて美しいツリー!」

 

 ●売れ残るツリー

しかし、何日かが過ぎ、次々と買われていくと、
彼も心中穏やかではいられません。

どのお客も彼には厳しい言葉をかけます。

「背が高すぎるわ」
「この木はダメ、枝が貧弱」

青物屋は「てっぺんをちょん切りましょうか」といい、
何本かの枝をねじ曲げましたので、彼は痛くてたまりません。

店の前には10セント・ストアがあり、
飾り窓にはツリーを飾る様々な品物が置かれ、
人々のにぎやかな話し声が聞こえてきます。
クリスマスが近づくにつれ、見てくれのいいツリーが前列に並べられ、
仲間たちが次々に買われていきます。
さすがに、街の賑わいが身にしみて感じられました。

ツリーを安く手に入れたい婦人の前に引き出され、
「このツリーなら1ドルにおまけしますよ」と青物屋がいますが、
その値段は当初の三分の一でした。
それでも婦人には売れませんでした。
青物屋が乱暴の押し戻したため、彼は横倒しになってしまいました。

 

とうとうクリスマス・イヴの日がやってきました。

店の横の道は積もった雪が人々に踏み荒らされぬかるみになり、
壊れた空き箱やヒイラギの切れっ端と共に、
彼はそこに横倒しになったまま、自己憐憫と腹立ちに身震いしました。
「ぼくにはおもちゃも靴下もない」

その晩、
青物屋の主人は売れ残った二、三のツリーを地下室の放り込みます。

クリスマスの翌日、墓地のお飾りに緑の枝を求める客に、
青物屋は、斧を持ってツリーの枝をちょん切って運び去りました。

こうして我々のツリー、いやツリーのなれの果ては、
たっぷり考える時間ができました。

 

 ●売れ残ったツリーの行き先は

さて、売れ残ったツリーがどうなるのか、といいますと、
実は、期以降の農夫たちが、豆の支柱やブドウ棚の支柱にするため、
一本5セントで買っていくのでした。

ですから、最後には、このツリーたちの方が、
サンタクロースのために飾り付けられたツリーたちより幸せだ、
といえるかもしれません。

なぜなら、新鮮で湿った春の土の上に戻され、
太陽が暑く照りつけるころには、蔓が幹を這い上り、
クリスマスの飾り付けにも劣らぬ
美しい赤い豆の花やブドウの青く小さな粒に飾られるのですから。

枝葉のなくなった彼もまた、
ほかのモミの木と共にトラックの荷台に乗せられ田舎へ。

農家の奥さんがこの木を見て、「そういうのが欲しかったのよ」と。
物干し用の柱に、というわけです。

われらの我らのツリーが初めて褒められたのです。

クリスマスの星を飾るには不向きな二股の梢も
物干しにはおあつらえ向き。

農家の奥さんは、そこに色とりどりの子供のたちの靴下を干しました。

クリスマスには飾られなかったモミの木でしたが、
明るい色の小さな衣類が風をはらむのを、
ウキウキしながら見つめていました。

ある日、この柱を移そうとした奥さんは、
「この柱は動かせないわ」といいました。
なんと朝顔の蔓が巻き付いていたのです。
程なく、われらのはだかの柱には、美しい青や赤の花に彩られました。

 《飾られなかったツリーにはなにかすばらしいことが起きる、
  とモミの古木たちは信じている。
  そして、豆の木をよじ登った少年が巨人を倒した
  というおとぎ話にあるように、
  いつかはクリスマス・ツリーから作られた豆の支柱が、
  新しい魔法の豆の木の出発点になると信じている。
  もしもそうなったときには、
  そこから新しいおとぎ話がふたたびはじまることだろう。》

 

 ●飾られなかたツリーにもセカンド・チャンスがある

売れ残った、飾られなかったツリーにも、
また違った生き方(活かし方)があるものなのですね。

人も同じ、華やかな一生をすごす人もいれば、
隠れた場所で、それなりの花を咲かす人もいるのです。

人それぞれに魅力があり、価値があり、活躍の場があるものなのです。

腐らず、チャンスを待ち、来たるべき時には飛躍できるように、
準備を怠らないことが大事でしょうね。

セカンド・チャンスは必ずある、と信じて!

「待て、そして希望せよ」というのは、
『モンテ・クリスト伯』の言葉でした。

必ず報われるときがあるものです。

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 ★創刊300号への道のり はお休みです

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本誌では、「クリスマス・ストーリーをあなたに~(12)-2022-「飾られなかったクリスマス・ツリー」クリストファー・モーリー」と題して、今回も全文転載紹介です。

クリスマスのために切られたモミの木でも、見栄えのよいものから売れてゆき、最後に売れ残ってしまったモミの木はどうなるのでしょうか。
そのお話が今回の作品です。

モミの木に限らず、人間の場合も、見場のいい人悪い人、運のいい人悪い人がいます。
能力があっても、活かされる機会のないままに腐ってしまう場合もあります。

しかし、本文にも書きましたように、人それぞれに価値があり、また、そのそれぞれの価値を求める人がいる、というのが現実です。
あとはただマッチングだけです。

大切なのは、本文にも書きましたように、「待て、そして希望せよ」ですね。

生きていれば何かが起こるもの、だと思います。
諦めると、その時点で終わりです。

先日のワールドカップの日本代表も、ドイツ戦では見事な逆転勝利でした。
果敢に攻めた結果でしたよね。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

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2022.11.15

私の読書論162-小説の王道-恋愛小説(2)ハッピーエンド型・悲恋型-「楽しい読書」第330号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2022(令和3)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」
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 今回も、「小説の王道とは恋愛小説か」の2回目。
 いずれ、
 私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」
 を発表する予定ですが、
 まずはその前に、もう少し恋愛小説について見ておこうと思います。

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  ~ 小説の王道は恋愛小説である ~
 「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試みへの序(2)
  恋愛小説の2パターン――ハッピーエンド型・悲恋型
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 ●恋愛小説の2パターン

恋愛小説には大きく分けて二種類あると思います。

 

一つは、最後に愛し合う二人が結ばれるハッピーエンド型で、
もう一つは、片方の死によって恋が終わる悲恋型です。

ハッピーエンド型の代表は、
古代ギリシアのロンゴス『ダフニスとクロエー』や、
日本の三島由紀夫『潮騒』
(三島由紀夫版『ダフニスとクロエー』と呼ばれる)など。

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』もそうですね。
映画で知られる、私の好きな『フレンズ―ポールとミシェル』も、
いろいろと苦難の末に結ばれる訳で、ハッピーエンド型です。

 

一方、悲恋型の代表は(小説ではないのですが)、
イギリスのシェイクスピア『ロミオとジュリエット』や、
日本では、伊藤左千夫『野菊の墓』が代表格でしょう。

私の大好きな小説である、
北杜夫版『ダフニスとクロエー』といわれる『神々の消えた土地』や、
ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』も恋人の死で終わる悲恋型。

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どちらが王道かと問われると困るのですが、
どちらも王道で、まあ、所詮、恋愛というものは、
成就するか破綻するかでしょうし、
そうしますと、結末はハッピーエンドか悲恋かでしょう。
どちらもそれぞれに意義のある内容になります。

 

 ●失恋ものは?

今ふっと思ったのですが、ある意味悲恋ともいえますが、
失恋ものもありましたね。

失恋ものは、悲恋型ではないでしょう。

失恋は、二人の気持ちがすれ違うところに原因があるのでしょうから、
二人の力でなんとか出来る可能性のあるものでしょう。

江國香織さんと辻仁成さんの共作?になっている
『冷静と情熱のあいだ』のように、
一旦分かれてもまた結ばれる?ものもあるように。

*江國 香織『冷静と情熱のあいだ Rosso』角川文庫 2001/9/25

*辻 仁成『冷静と情熱のあいだ Blu』角川文庫 2001/9/20

*江國 香織, 辻 仁成『愛蔵版 冷静と情熱のあいだ』角川書店 2001/6/1

 

フィリップ・ロスの『さよならコロンバス』も失恋ものの代表格。
身分違いのといいますか、別れの原因として、
宗教の違いが根本にある点が複雑な気分にさせます。

 

一方、悲恋ものは、死という不可抗力によって二人が引き離され、
結果的に恋愛が破綻するものです。

やり直すことの出来ない一方通行の、
いわば<死すべき人間>ならではの<人生そのもの>という悲劇です。

それ故に、悲劇性は高く、人の心を打つものとなるのでしょう。

失恋そのものは人の命を奪うことはありません。
それに心折れたときのみ、命の問題となるでしょうけれど。

その辺のところが違ってきます。

 

 ●悲劇性

失恋は、当人にとっては悲劇かもしれません。
しかし、他人から見れば、喜劇になるかもしれませんよね。

それに引き比べ、引き裂かれる恋愛であっても、
死による別れに伴う悲恋は、単なる失恋とは違い、
愛し合っているにもかかわらず訪れる、まさに悲劇です。

先に挙げた『ロミオとジュリエット』や『野菊の墓』などは、
なんともいえず、人の心に食い込むものがあります。

私の好きな『ジェニーの肖像』も、
<時間を超える恋>ものである点以外にも、
この死による別れという悲劇性が心を打ちます。

ナポレオンも愛読したといわれる
サン=ピエールの『ポールとヴィルジニー』も、
『ダフニスとクロエー』型の、自然の中で育った幼なじみの恋人たちが
あれこれあったのち、死によって引き離される物語です。

『ジェニーの肖像』のラストは、この作品のラストを思い起こさせます。

*『ポールとヴィルジニー』サン=ピエール 鈴木 雅生/訳
光文社古典新訳文庫 2014/7/10

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死による別れといいますと、
ここまではどちらか一方の、というものでしたが、
プレヴォ『マノン・レスコー』の場合は、
二人の死によるラストだったかと思います。
(記憶で書いていますので、誤りがあるかもしれません。)

『マノン・レスコー』型の小説としては、
小デュマ(デュマ・フィス)の『椿姫』も死による別れの悲恋ですね。

*『マノン・レスコー』アントワーヌ・フランソワ プレヴォ
野崎 歓/訳 光文社古典新訳文庫 2017/12/7

*『椿姫』アレクサンドル デュマ・フィス 永田 千奈/訳
光文社古典新訳文庫 2018/2/8

 

 ●恋愛小説パターン(メモ)

ここで簡単に恋愛小説のパターンと流れをメモしておきましょう。

〔自然育ちの幼なじみの恋人たちもの〕
・『ダフニスとクロエー』(幸)――『ポールとヴィルジニー』(悲)
   ┗『フレンズ』(幸)     ┗『ジェニーの肖像』(悲)
  ┗『潮騒』(幸)       ┗『野菊の墓』(悲)
                ┗『神々の消えた土地』(悲)
               ┗『世界の中心で、愛をさけぶ』(悲)
〔娼婦との恋愛もの〕
・『マノン・レスコー』(悲)――『椿姫』(悲)
〔中流地主階級の男女の恋愛〕
・『高慢と偏見』(幸)――(?)『ロミオとジュリエット』(悲)

 

世の恋愛小説はもっとたくさんありますが、
私はあまり読んでいませんので、
これ程度にしかリストアップできません。
何かしら参考になれば、幸いです。

片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』は、昔でいえば、
1964年の年間ベストセラー、大島みち子・河野実『愛と死をみつめて』
の現代版というところでしょう。

*『世界の中心で、愛をさけぶ』片山 恭一 小学館文庫 2006/7/6

*『愛と死をみつめて ポケット版』大島みち子, 河野実 だいわ文庫
2006/2/9

もっと色々と多くの作品を読んでいれば、と悔やまれます。

 ・・・

いよいよ次回から
私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」を
紹介してみようと思います。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2) ハッピーエンド型・悲恋型」と題して、今回も全文転載紹介です。

<私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」>への助走として、恋愛小説について語っています。
なにしろ、恋愛小説の読書量が少ないので、あまり適切な例を挙げられず、説得力のない文章になっています。
今更どうこう言っても仕方がないので、少しずつでも新規に有名な作品を読み足しながら進めていこう、と思います。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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