2023.06.30

私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」-楽しい読書344号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
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 本来は、月末で
 古典の紹介(現在は「漢詩を読んでみよう」)の号ですが、
 今月は岩波文庫のフェアが始まっていますので、
 過去何回か取り上げています。
 最近のものでは↓

2022(令和4)年6月15日号(No.320)
「私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―『語録』『要録』
―<2022年岩波文庫フェア>名著・名作再発見!から」
2022.6.15
私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―<2022年岩波文庫フェア>から-楽しい読書320号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/06/post-98be91.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6a52aba9e4f9468c46611a84cd31f14f

2019(令和元)年6月30日号(No.250)-190630-
「2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...」
2019.6.30
2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...
―第250号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/06/post-b015ac.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e3a5116ac2b0a7abfec291e180ec97ce

 夏の文庫三社のフェア同様、毎年恒例にしたいと思いつつ、
 情報を集め損ねて、飛び飛びになっています。

 今年はなんとか間に合ったようです。

 

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 - 異類男女の恋情 -

  ~ 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」 ~

  2023年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から
 
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 ●2023年岩波文庫フェア

2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」

ご好評をいただいている「岩波文庫フェア」を、
今年も「名著・名作再発見! 小さな一冊を楽しもう!」
と題してお届けいたします。

 岩波文庫は古今東西の典籍を手軽に読むことが出来る、
古典を中心とした唯一の文庫です。読書の面白さ、
感動を味わうには古典ほど確かで豊かなものはありません。
岩波文庫では出来るだけ多くの皆さまに
名著・名作に親しんでいただけるよう、本文の組み方を見直し、
新しい書目も加えより読みやすい文庫をと心がけてまいりました。

 いつか読もうと思っていた一冊、誰もが知っている名著、
意外と知られていない名作──
岩波文庫のエッセンスが詰まった当フェアで、
読書という人生の大きな楽しみの一つを
存分に堪能していただければと思います。

※2023年5月27日発売(小社出庫日)

 

<対象書目>
――本誌で過去に取り上げた書目:■

■茶の本【青115-1】  岡倉覚三/村岡 博 訳
古寺巡礼【青144-1】  和辻哲郎
君たちはどう生きるか【青158-1】  吉野源三郎
忘れられた日本人【青164-1】  宮本常一
■論語【青202-1】  金谷 治 訳注
■新訂 孫子【青207-1】  金谷 治 訳注
■ブッダのことば──スッタニパータ【青301-1】  中村 元 訳
■歎異抄【青318-2】  金子大栄 校注
■ソクラテスの弁明・クリトン【青601-1】  プラトン/久保 勉 訳
■生の短さについて 他二篇【青607-1】  セネカ/大西英文 訳
■マルクス・アウレーリウス 自省録【青610-1】  神谷美恵子 訳
方法序説【青613-1】  デカルト/谷川多佳子 訳
スピノザ エチカ 倫理学(上)【青615-4】  畠中尚志 訳
スピノザ エチカ 倫理学(下)【青615-5】  畠中尚志 訳
■読書について 他二篇【青632-2】
  ショウペンハウエル/斎藤忍随 訳
■アラン 幸福論【青656-2】  神谷幹夫 訳
論理哲学論考【青689-1】  ウィトゲンシュタイン/野矢茂樹 訳
旧約聖書 創世記【青801-1】  関根正雄 訳
生物から見た世界【青943-1】
  ユクスキュル、クリサート/日高敏隆、羽田節子 訳
精神と自然──生きた世界の認識論【青N604-1】
  グレゴリー・ベイトソン/佐藤良明 訳
万葉集(一)【黄5-1】
  佐竹昭広、山田英雄、工藤力男、大谷雅夫、山崎福之 校注
■源氏物語(一) 桐壺―末摘花【黄15-10】  柳井 滋、室伏信助、
        大朝雄二、鈴木日出男、藤井貞和、今西祐一郎 校注
枕草子【黄16-1】  清少納言/池田亀鑑 校訂
芭蕉自筆 奥の細道【黄206-11】  上野洋三、櫻井武次郎 校注
雨月物語【黄220-3】  上田秋成/長島弘明 校注
■山椒大夫・高瀬舟 他四篇【緑5-7】 森 鷗外
三四郎【緑10-6】  夏目漱石
仰臥漫録【緑13-5】  正岡子規
摘録 断腸亭日乗(上)【緑42-0】  永井荷風/磯田光一 編
摘録 断腸亭日乗(下)【緑42-1】  永井荷風/磯田光一 編
久保田万太郎俳句集【緑65-4】  恩田侑布子 編
中原中也詩集【緑97-1】  大岡昇平 編
山月記・李陵 他九篇【緑145-1】  中島 敦
堕落論・日本文化私観 他二十二篇【緑182-1】  坂口安吾
茨木のり子詩集【緑195-1】  谷川俊太郎 選
大江健三郎自選短篇【緑197-1】  大江健三郎
石垣りん詩集【緑200-1】  伊藤比呂美 編
まっくら──女坑夫からの聞き書き【緑226-1】  森崎和江
君主論【白3-1】  マキアヴェッリ/河島英昭 訳
アメリカの黒人演説集──キング・マルコムX・モリスン 他【白26-1】
  荒 このみ 編訳
マルクス 資本論(一)【白125-1】  エンゲルス 編/向坂逸郎 訳
職業としての学問【白209-5】  マックス・ウェーバー/尾高邦雄 訳
贈与論 他二篇【白228-1】  マルセル・モース/森山 工 訳
大衆の反逆【白231-1】  オルテガ・イ・ガセット/佐々木 孝 訳
■楚辞【赤1-1】  小南一郎 訳注
菜根譚【赤23-1】  洪自誠/今井宇三郎 訳注
阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊)【赤25-2】  魯迅/竹内 好 訳
■バガヴァッド・ギーター【赤68-1】  上村勝彦 訳
■ホメロス イリアス(上)【赤102-1】  松平千秋 訳
■ホメロス イリアス(下)【赤102-2】  松平千秋 訳
ハムレット【赤204-9】  シェイクスピア/野島秀勝 訳
■森の生活──ウォールデン (上)【赤307-1】
  ソロー/飯田 実 訳
■森の生活──ウォールデン (下)【赤307-2】
  ソロー/飯田 実 訳
オー・ヘンリー傑作選【赤330-1】  大津栄一郎 訳
変身・断食芸人【赤438-1】  カフカ/山下 肇、山下萬里 訳
カフカ短篇集【赤438-3】  池内 紀 編訳
対訳 ランボー詩集──フランス詩人選(1)【赤552-2】
  中地義和 編
トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇【赤619-1】
  中村白葉 訳
タタール人の砂漠【赤719-1】  ブッツァーティ/脇 功 訳
ペスト【赤N518-1】  カミュ/三野博司 訳

 

以上55点59冊のうち、15点ほどを取り上げています。
関連も含めますと、あと5点ほど見つかります。
(詳細は、「編集後記」末尾にでも付記しておきます。)

その多くは、宗教・思想・哲学といった
リアル系の古典を取り上げてきました。

そこで今回は、文学作品を取り上げましょう。

私の大好きな作品が含まれていましたので、それを紹介します。

 

 ●私が日本で一番好きな小説――上田秋成『雨月物語』

江戸時代の読本(よみほん)、上田秋成の怪異譚短編集『雨月物語』から
一番長い短編作品「蛇性の婬(じゃせいのいん)」を取り上げます。

上田秋成『雨月物語』は、日本文学のなかで私の大好きな作品で、
以前「私をつくった本・かえた本」でも紹介しました。

・2017(平成29)年3月15日号(No.195)-170315-
「私の読書論91-私をつくった本・かえた本(2)小説への目覚め編」

私の読書論91-私をつくった本・かえた本(2)小説への目覚め編―第195号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

・講談社『少年少女新世界文学全集第37巻 日本古典編(2)』
(長編「太平記」「八犬伝」「東海道中膝栗毛」、短篇集「雨月物語」、
 江戸時代の俳句(芭蕉や蕪村、一茶など)収録)

《怪奇幻想ものの読本(よみほん)である、
 上田秋成作「雨月物語」青江舜二郎訳
 (1768年(明和5)成稿、76年(安永5)刊。「白峰」以下9編)》

 

子供の頃から、怖がりのくせに、怖い物見たさというのでしょうか、
こういうお話が好きでした。

子供の頃は、テレビで怪談話やホラー映画など結構見てました。
吸血鬼ドラキュラや狼人間やミイラ男だといった映画や、
アメリカ製のテレビドラマで、異界もの? や
ダーク・ファンタジーのようなもの、日本でも「ウルトラQ」みたいな。

で、この『少年少女新世界文学全集第37巻 日本古典編(2)』のなかでも、
「雨月物語」も短編集で、当時長いものを読むのが苦手だった私には、
とてもフィットした物語であったといえましょう。

今でも長編は苦手で、読み出すまでにちょっと敷居の高さを感じます。
短編集を読むのもしんどい部分はあります。
一本ずつ一本ずつ読み起こす感じで、
その世界に入るのに集中力がいるというわけですが。

余談はさておき、
『雨月物語』全9短編中、一番好きなのが「蛇性の婬」です。
今回はこの作品を取り上げます。

 

*<2023年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」>から
『雨月物語』【黄220-3】上田秋成/長島弘明 校注 2018/2/17

 

 ●上田秋成『雨月物語』巻之四「蛇性の婬」

『雨月物語』は、翻案小説とも言われるもので、
下敷きになるお話があり、
それをもとに上田秋成が自分の世界を展開するものです。

「蛇性の婬」は、異類婚姻譚に分類されます。

蛇の妖怪の女と人間の青年との恋物語というところでしょうか。

この小説には、中国の原話があります。
白話小説集『警世通言(けいせいつうげん)』中の「白娘子永鎮雷峰塔
(はくじょうしながくらいほうとうにしずまる)」。

 《白蛇が美女に化けて男と契るという、
  中国の白蛇伝説の系譜にある一話である。》
   『雨月物語』上田秋成/長島弘明 校注より「解説」p.254

 《「白蛇伝」説話は、
  白蛇が美女に化け、男を誘惑して契りを結ぶ異類婚姻譚であるが、
  古くは唐代伝奇の「白蛇記」(『太平広記』所収)があり、
  宋・元・明・清とさまざまな小説や戯曲になり、
  さらには今日まで及んでいる。「白娘子永鎮雷峰塔」は、
  その「白蛇伝」説話の中でも最も著名な作品の一つで、
  類話に『西湖佳話(せいこかわ)』の「雷峰怪蹟(らいほうかいせき)」
  がある。》
   『雨月物語の世界』長島弘明 ちくま学芸文庫 より
     「第九章 蛇性の婬」p.265

前半は主にこの作品を下敷きに、日本の和歌山に舞台を移し、
冒頭の「いつの時代(ときよ)なりけん」という書き出しは、
まさに『源氏物語』の「いづれの御時にか」を連想させるもので、
一話全体も古代の物語風の雰囲気を持たせています。

 

*『雨月物語の世界』長島 弘明/著 ちくま学芸文庫 1998/4/1

――岩波文庫『雨月物語』校注者による初学者向け入門書・解説書

 

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 ●東映動画『白蛇伝』

ここで、思い出すのが、子供の頃に見たアニメ、
東映動画の『白蛇伝』です。

『ウィキペディア(Wikipedia)』によりますと、
1958年10月22日公開といいます。

私は子供時代にテレビの放送で見た記憶があります。

春休みや夏休みや冬休みなどに子供向け番組として、
一連の東映動画の放送がありました。
『白蛇伝』『安寿と厨子王丸』『わんわん忠臣蔵』『西遊記』
『わんぱく王子の大蛇(おろち)退治』等々。

記憶で書きますと、
人間の青年に恋した白蛇が美女に化けて近づき、両者は恋に落ちます。
青年は化け物に騙されているのだと信じた高僧によって、
その法力で娘を攻撃し、二人の邪魔をします……。

互いに愛し合いながら、相手が異類であるということで認められず、
仲を引き裂かれるという理不尽な物語――という印象が残っています。

この高僧をとても憎く感じたものでした。

愛し合う二人を引き裂くにっくき野郎! という感じで。

本来この動画は、文部省推薦の子供向け・家族向けの企画なので、
基本的に勧善懲悪というわけでなく、
誤解を解いてみんなで仲良くしましょう、的な映画だと思うのです。

それだけに、「なんかかわいそう」というイメージがありました。

私自身、左利きで○○で××でもあり、そういう「一般人」ではない、
「異類の存在だ」という意識がありますので、
そういう世間一般のひとではない「異類」である、
というだけの理由で、その恋仲を裂かれるというのは、
悲劇以外の何物でもない、と思えるのです。

 

*参考:東映動画『白蛇伝』
白蛇伝 [DVD]
森繁久彌 (出演), 宮城まり子 (出演), 藪下泰司 (監督)

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 ●「蛇性の婬」の豊雄に、大人の男の悪い面を見る?

「蛇性の婬」では、中国の白蛇伝説に、『道成寺縁起』などに見られる
<道成寺伝説>を取り混ぜたものだといわれています。

 《中国の、愛欲のために女に変身した蛇の話に、
  日本の、同じく愛欲のために蛇身になってしまった女の話を、
  重ね合わせている。》同上

安珍・清姫の伝説として知られる話です。

 ・・・

「蛇性の婬」では、主人公の青年・豊雄は、和歌山の漁師の網元の次男。
長男が跡取りで、姉は奈良に嫁に行っている。
豊雄は、都にあこがれ、雅好きで、学問を師について習っている。
父親は、家財を分けても人に取られるか、他家を継がせようとしても、
困ったことになるだけだろうし、博士にでも法師にでもなれ、
生きているうちは兄のやっかいになればいい、と考えている。

そんなとき、師の元からの帰り道、雨に降られ、雨宿りしていると、
二十歳に満たぬ美女・真女子(まなこ)と
十四、五の童女の二人連れに出会う。
で、このふたりこそ蛇の化身。
豊雄もまんざらではなく、好意を持つようになる。

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 ・・・

その後の詳しいストーリーを紹介してもいいのですが、
ここではそれはやめて、単純に私の感想を綴っておきましょう。

異類である白蛇の化身である女と人間の青年の恋なのですが、
今回、読み直しますと、男の態度がどうも気に入りません。

蛇身の女が一方的に恋したような始まりになっています。
しかし始まりはどうであれ、
自分も相手を気に入って恋仲になっているにもかかわらず、
まわりから何か言われると、
ついつい相手を裏切るような行動を取ります。

そうでありながら、何かきっかけがあるごとに、
彼女のことを思っているかのように振る舞います。

結果、自分だけが助かるのです。

どうも気に入りません。
アニメ版の『白蛇伝』のイメージが残っているのか、
このような男の姿が、いまいち、好きになれません。

 

長島さんは『雨月物語の世界』の「第9章 蛇性の婬」の末尾
<男の性と女の性>で、

 《真女子が豊雄の夢と恋(エロス)が描いた幻像であったならば、
  豊雄は自らの夢と恋情を殺すことによって、
  丈夫となったということができる。大人になり、
  また余計者の身から抜け出して社会的存在となるためには、
  私情を切り捨てる通過儀礼が必要とされたのである。
  そして、切り捨てられた私情とは、女性である。
  土中深く封じ込められた蛇は、女性であり、
  また豊雄の夢であったことになる。
  生き永らえたという豊雄は、その後、
  はたして夢をみることがあったのかどうか。》p.296

と結んでいます。

私も、この終わり方で豊雄は本当に満足だったのだろうか、
と思わずにはいられません。

私情を捨てること、夢をあきらめること、
まわりに合わせて生きることが、大人になる、ということなのか?

もしそうだとしたら、ちょっと寂しい、
残念なことといわねばなりません。

もちろん、私自身も同じように、色々あきらめた上で、
今日まで生きてきたのは事実です。

しかし、だからこれで終わっていいと思っているわけでもありません。
生きている限り、なにかできるのではないか、
という思いだけは、今も持っています。

 

*参考文献:
『改訂 雨月物語 現代語訳付き』上田 秋成/著 鵜月 洋/訳
角川ソフィア文庫 2006/7/25

『雨月物語』上田 秋成/著 高田 衛, 稲田 篤信/訳 ちくま学芸文庫
1997/10/1

『雨月物語―現代語訳対照』上田 秋成/著 大輪 靖宏/訳 旺文社文庫
1960/1/1

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本誌では、「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」と題して、今回は全文転載紹介です。

本誌では「蛇性の婬」飲みの紹介となっています。
本文中にも書いていますように、歴史ものの怪異譚全9編からなる短編集です。

中でも男女の仲に関するものとしては、この「蛇性の婬」以外にも、「浅茅が宿」「吉備津の釜」があります。
どちらもなかなかのできで、人間性のおどろおどろしさを描いて秀逸です。

善くも悪くもやはり男女の仲というものが一番おもしろいような気がします。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
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2022.11.15

私の読書論162-小説の王道-恋愛小説(2)ハッピーエンド型・悲恋型-「楽しい読書」第330号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2022(令和3)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」
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 今回も、「小説の王道とは恋愛小説か」の2回目。
 いずれ、
 私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」
 を発表する予定ですが、
 まずはその前に、もう少し恋愛小説について見ておこうと思います。

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  ~ 小説の王道は恋愛小説である ~
 「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試みへの序(2)
  恋愛小説の2パターン――ハッピーエンド型・悲恋型
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 ●恋愛小説の2パターン

恋愛小説には大きく分けて二種類あると思います。

 

一つは、最後に愛し合う二人が結ばれるハッピーエンド型で、
もう一つは、片方の死によって恋が終わる悲恋型です。

ハッピーエンド型の代表は、
古代ギリシアのロンゴス『ダフニスとクロエー』や、
日本の三島由紀夫『潮騒』
(三島由紀夫版『ダフニスとクロエー』と呼ばれる)など。

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』もそうですね。
映画で知られる、私の好きな『フレンズ―ポールとミシェル』も、
いろいろと苦難の末に結ばれる訳で、ハッピーエンド型です。

 

一方、悲恋型の代表は(小説ではないのですが)、
イギリスのシェイクスピア『ロミオとジュリエット』や、
日本では、伊藤左千夫『野菊の墓』が代表格でしょう。

私の大好きな小説である、
北杜夫版『ダフニスとクロエー』といわれる『神々の消えた土地』や、
ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』も恋人の死で終わる悲恋型。

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どちらが王道かと問われると困るのですが、
どちらも王道で、まあ、所詮、恋愛というものは、
成就するか破綻するかでしょうし、
そうしますと、結末はハッピーエンドか悲恋かでしょう。
どちらもそれぞれに意義のある内容になります。

 

 ●失恋ものは?

今ふっと思ったのですが、ある意味悲恋ともいえますが、
失恋ものもありましたね。

失恋ものは、悲恋型ではないでしょう。

失恋は、二人の気持ちがすれ違うところに原因があるのでしょうから、
二人の力でなんとか出来る可能性のあるものでしょう。

江國香織さんと辻仁成さんの共作?になっている
『冷静と情熱のあいだ』のように、
一旦分かれてもまた結ばれる?ものもあるように。

*江國 香織『冷静と情熱のあいだ Rosso』角川文庫 2001/9/25

*辻 仁成『冷静と情熱のあいだ Blu』角川文庫 2001/9/20

*江國 香織, 辻 仁成『愛蔵版 冷静と情熱のあいだ』角川書店 2001/6/1

 

フィリップ・ロスの『さよならコロンバス』も失恋ものの代表格。
身分違いのといいますか、別れの原因として、
宗教の違いが根本にある点が複雑な気分にさせます。

 

一方、悲恋ものは、死という不可抗力によって二人が引き離され、
結果的に恋愛が破綻するものです。

やり直すことの出来ない一方通行の、
いわば<死すべき人間>ならではの<人生そのもの>という悲劇です。

それ故に、悲劇性は高く、人の心を打つものとなるのでしょう。

失恋そのものは人の命を奪うことはありません。
それに心折れたときのみ、命の問題となるでしょうけれど。

その辺のところが違ってきます。

 

 ●悲劇性

失恋は、当人にとっては悲劇かもしれません。
しかし、他人から見れば、喜劇になるかもしれませんよね。

それに引き比べ、引き裂かれる恋愛であっても、
死による別れに伴う悲恋は、単なる失恋とは違い、
愛し合っているにもかかわらず訪れる、まさに悲劇です。

先に挙げた『ロミオとジュリエット』や『野菊の墓』などは、
なんともいえず、人の心に食い込むものがあります。

私の好きな『ジェニーの肖像』も、
<時間を超える恋>ものである点以外にも、
この死による別れという悲劇性が心を打ちます。

ナポレオンも愛読したといわれる
サン=ピエールの『ポールとヴィルジニー』も、
『ダフニスとクロエー』型の、自然の中で育った幼なじみの恋人たちが
あれこれあったのち、死によって引き離される物語です。

『ジェニーの肖像』のラストは、この作品のラストを思い起こさせます。

*『ポールとヴィルジニー』サン=ピエール 鈴木 雅生/訳
光文社古典新訳文庫 2014/7/10

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死による別れといいますと、
ここまではどちらか一方の、というものでしたが、
プレヴォ『マノン・レスコー』の場合は、
二人の死によるラストだったかと思います。
(記憶で書いていますので、誤りがあるかもしれません。)

『マノン・レスコー』型の小説としては、
小デュマ(デュマ・フィス)の『椿姫』も死による別れの悲恋ですね。

*『マノン・レスコー』アントワーヌ・フランソワ プレヴォ
野崎 歓/訳 光文社古典新訳文庫 2017/12/7

*『椿姫』アレクサンドル デュマ・フィス 永田 千奈/訳
光文社古典新訳文庫 2018/2/8

 

 ●恋愛小説パターン(メモ)

ここで簡単に恋愛小説のパターンと流れをメモしておきましょう。

〔自然育ちの幼なじみの恋人たちもの〕
・『ダフニスとクロエー』(幸)――『ポールとヴィルジニー』(悲)
   ┗『フレンズ』(幸)     ┗『ジェニーの肖像』(悲)
  ┗『潮騒』(幸)       ┗『野菊の墓』(悲)
                ┗『神々の消えた土地』(悲)
               ┗『世界の中心で、愛をさけぶ』(悲)
〔娼婦との恋愛もの〕
・『マノン・レスコー』(悲)――『椿姫』(悲)
〔中流地主階級の男女の恋愛〕
・『高慢と偏見』(幸)――(?)『ロミオとジュリエット』(悲)

 

世の恋愛小説はもっとたくさんありますが、
私はあまり読んでいませんので、
これ程度にしかリストアップできません。
何かしら参考になれば、幸いです。

片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』は、昔でいえば、
1964年の年間ベストセラー、大島みち子・河野実『愛と死をみつめて』
の現代版というところでしょう。

*『世界の中心で、愛をさけぶ』片山 恭一 小学館文庫 2006/7/6

*『愛と死をみつめて ポケット版』大島みち子, 河野実 だいわ文庫
2006/2/9

もっと色々と多くの作品を読んでいれば、と悔やまれます。

 ・・・

いよいよ次回から
私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」を
紹介してみようと思います。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2) ハッピーエンド型・悲恋型」と題して、今回も全文転載紹介です。

<私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」>への助走として、恋愛小説について語っています。
なにしろ、恋愛小説の読書量が少ないので、あまり適切な例を挙げられず、説得力のない文章になっています。
今更どうこう言っても仕方がないので、少しずつでも新規に有名な作品を読み足しながら進めていこう、と思います。

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2022.09.15

私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?-「楽しい読書」第326号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-326号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年9月15日号(No.326)
「私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?」

 

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2022(令和3)年9月15日号(No.326)
「私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?」
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 今回は、「文学の」といってもいいかもしれませんが、
 「小説の王道とは恋愛小説ではないか」
 という疑問について考えてみます。

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  ~ 小説の王道は恋愛小説である ~
 「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試みへの序
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 ●小説とは、人生を描くもの

 ●恋愛小説のパターン

 ●モーム『世界の十大小説』では

 ●「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試み

 ●例(1)――ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』

*ロバート・ネイサン/著『ジェニーの肖像』
(井上 一夫/訳 ハヤカワ文庫 1975/3)

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(大友香奈子/訳 創元推理文庫 2005/5/23)
―妻を亡くし幼子を抱える童話作家と、妻であり母であった女性を
 思わせる海の精との日々を描く『それゆえに愛は戻る』を併録。
 『ジェニーの肖像』は新しい訳でこちらの方がいいかも……。

 

 ●例(2)――北杜夫『神々の消えた土地』

『神々の消えた土地』北杜夫/著 新潮文庫 1995/8
―《幻の処女作を四十年ぶりに完成した瑞々しい長編》。

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『ダフニスとクロエー―牧人の恋がたり』呉茂一訳 角川文庫 1951年

 

 ●例(3)――ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』

ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』
村上 博基/訳 ハヤカワ文庫NV 1973/7/1

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 ●例・特別編――「野菊の墓」、『高慢と偏見』

伊藤左千夫『野菊の墓』新潮文庫 1955/10/27

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』小尾 芙佐/訳
光文社古典新訳文庫 2011/11/10
〈上〉(359ページ)

〈下〉(375ページ)

ジェイン・オースティン『自負と偏見』小山 太一/訳
新潮文庫 2014/6/27 (649ページ)

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本誌では、「私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?」と題して、今回は見出しのみの紹介です。

中身はあまりないので、といいますとウソになりますが、あまり文章としてまとまっていないので購読者限定(!?)とします。

もし気になりましたら、ぜひ定期購読を!

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