2025.07.31

<夏の文庫>フェア2025から(2)集英社文庫『存在の耐えられない軽さ』

古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)

【最新号・告知】

2025(令和7)年7月31日号(vol.18 no.13/No.393)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(2)集英社文庫・
『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ~一回限りの人生~」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年7月31日号(vol.18 no.13/No.393)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(2)集英社文庫・
『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ~一回限りの人生~」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2025から――。

 今年も、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 今年のテーマは、大阪関西万博の年ということで、
 「大阪」もしくは、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」
 ということで、大阪ものの小説や「いのち」に絡んだ作品に
 取り組んでみましょう。

 二本目は、集英社文庫から、一回限りの人生についての物語、
 ミラン・クンデラさんの作品『存在の耐えられない軽さ』を。

 

角川文庫夏フェア2025 | カドブン
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

ナツイチ2025 広くて深い、言葉の海へ| web 集英社文庫
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2025 | 集英社文庫
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/

新潮文庫の100冊 2025
https://100satsu.com/

2025-natubunko-sansha

 

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 ◆ 2025年テーマ:<大阪関西万博2025> ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(2)

  ~一回限りの人生~

  集英社文庫―『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ

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●集英社文庫ナツイチ2025 広くて深い、言葉の海へ

ナツイチ2025
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250731-2025shuuei

 

2025年テーマ
言葉は海にそっくりだ。
水平線のようにつづく世界。
深海より底のしれない一行。
ビーチみたいにしずかな時間。
とおくまで泳ぐのも、じっくり潜るのもいい。
さあ、よまにゃ。

 

(対象書目 86点)

すべてを書き写すスペースはもったいないので、
気になる作品、既読作品をピックアップしてみましょう。

・映像化する本 よまにゃ (5)
水滸伝 一 曙光の章 北方 謙三

・心ふるえる本 よまにゃ (21)
塞王の楯 〈上〉〈下〉今村 翔吾
チンギス紀 一 火眼 北方 謙三
幻夜 東野 圭吾
N 道尾 秀介

・手に汗にぎる本 よまにゃ (26)
帰去来 大沢 在昌
真夜中のマリオネット 知念 実希人
布武の果て 上田 秀人
ハヤブサ消防団 池井戸 潤

・心ときめく本 よまにゃ (11)
午前0時の忘れもの 赤川 次郎
愛じゃないならこれは何 斜線堂 有紀

・じっくり浸る本 よまにゃ (23)
地獄変 芥川 龍之介
存在の耐えられない軽さ ミラン・クンデラ
星の王子さま サンテグジュペリ
人間失格 太宰 治
こころ 夏目 漱石
うまれることば、しぬことば 酒井 順子

――以上、やっぱり古典といいますか名作と呼ばれるもの以外は、
ほとんど読んでいません。

 

 ●<じっくり浸る本 よまにゃ> から『存在の耐えられない軽さ』

『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ/ 千野 栄一/訳
集英社文庫 1998/11/20
(Amazonで見る)

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 《女たらしの外科医トマーシュと純朴なテレザは愛し合うが、
  「プラハの春」へのソ連軍事介入に運命を翻弄される。
  チェコの悲劇を背景にした純愛大河小説》

とあります。

今年のテーマから「いのち」をの本としてこれを取り上げてみました。
以前私は、文学の王道は恋愛小説ではないか、というお話をしたか、
と思います。
この本を選んだ理由の一つでもあります。

Amazonには、

 《苦悩する恋人たち。不思議な三角関係。
  男は、ひとりの男に特別な感情を抱いた。鮮烈でエロチック…。
  プラハの悲劇的政治状況下での男と女のかぎりない愛と転落を、
  美しく描きだす哲学的恋愛小説。

  フィリップ・カウフマン監督、主人公トマシュに
  ダニエル・デイ=ルイス、テレーザにジュリエット・ビノシュを迎え、
  1988年に映画公開された原作小説。》

とありました。

で、まずは全巻読み終えての感想です。
読み終えての結論的なものとも言えます。

 

 ●感動的なラスト

いきなり、結末までバラしてしまうのはどうかという気もしますが、
推理小説のようなエンタメ作品ではないので、
感動した部分を素直に書いてしまってもいいのではないか、と思います。

冒頭、ニーチェの永劫回帰という言葉が出てきます。
これは結構キツいぞ、と思いながら読み続けますと、
著者と思われる“私”が登場してあれこれとものをいいます。
これが哲学的な文章です。

最初は少し戸惑いましたが、とにかく最後まで読み切ってしまおう。
評価はそれから、ということで。

で、色々と難しい文章もありますが、最終的な着地点というのが、
主人公たち二人のカップルが、女性の飼い犬と二人と一匹で、
牧歌的な田舎で暮らし、土地の人ともお付き合いをします。

しかし、二人の愛犬カレーニンが癌におかされ、
日々衰えながらもけなげに生きていき、最後には安楽死――。

この二人と一匹の悲しいけれど、美しいラストが、感動的です。

それまでの難しい政治的な論理や人の心の愛情の問題や、
何やかやの展開もすべて流し去って、
美しい思い出だけが残るラストになっています。

 

 ●登場人物とストーリー

では、簡単にストーリーを紹介しましょう。

登場人物は、登場人物表にもありますように、主な登場人物は、
外科医のトマーシュ、その恋人のテレザ、
トマーシュの愛人のサビナ、サビナの愛人のフランツ、
フランツの前妻との息子シモン、そしてテレザの愛犬カレーニン。

次に、目次 です。

第I部 軽さと重さ
第II部 心と体
第III部 理解されなかったことば
第IV部 心と体
第V部 軽さと重さ
第VI部 大行進
第VII部 カレーニンの微笑

 

「第I部 軽さと重さ」は、プラハでのトマーシュとテレザの関係。
トマーシュは優秀な外科医で、女たらしで、
愛人を次々ととっかえひっかえしています。
一方で、テレザがいないと生きていけないというのです。

 《 トマーシュは、女と愛し合うのと、いっしょに眠るのとは、
  まったく違う二つの情熱であるばかりか、対立するとさえいえるもの
  だといっていた。愛というものは愛し合うことを望むのではなく
  (この望みは数えきれないほどの多数の女と関係する)、
  いっしょに眠ることを望むである(この望みはただ一人の女と関係する)。》p.22

ソ連がチェコに侵攻したのち、二人と一匹はチューリッヒへ移ります。

 《(略)かたつむりが自分の家を運ぶように、自分の生き方を運んで
  いると彼は幸福そうにつぶやいた。テレザとサビナは彼の生活の
  二つの極、遠く離れた極、和解しがたく、しかもともに美しい極を
  代表していた。》pp.39-40

しかし、この生活は長くは続きません。
テレザは、ソ連の侵攻に抵抗する人々の姿を写真に撮ったものを、
西側の新聞や雑誌に売り込みに行きますが、相手にされません。
テレザは、祖国への思いからプラハに帰ってしまいます。
当座、独り身の「軽さ」を覚えたトマーシュでした。
サビナと会うときも嘘の出張話を持ち出す必要もないのですから。
ところが、半年もするとテレザのいない生活には耐えられず、
彼もプラハに帰って行きます。

 

「第II部 心と体」は、テレザとトマーシュとの出会いと、
テレザのそれまでのお話。
トマーシュは二人の出会いには六つのありえない偶然があった、と。
テレザは、トマーシュの《一夫多妻生活の第二の自己になる》ことを
意識して、トマーシュの愛人であるサビナに接近し、カメラに撮ります。

 

「第III部 理解されなかったことば」は、サビナと愛人のフランツとの
関係です。
サビナにとって女であることは自分が選んだ運命ではなかったのです。
フランツにとっては妻マリー=クロードのなかの女を大事にしなければ
ならないと考えていました。

 《 人生のドラマというものはいつも重さというメタファーで表現
  できる。われわれはある人間が重荷を負わされたという。その人間は
  その重荷に耐えられずにその下敷きになるか、それと争い、
  敗(ま)けるか勝つかする。しかしいったい何がサビナに起こったので
  あろうか? 何も。(略)彼女のドラマは重さのドラマではなく、
  軽さのであった。サビナに落ちてきたのは重荷ではなく、存在の
  耐えられない軽さであった。》p.156

 

「第IV部 心と体」は、テレザとトマーシュの生活です。
テレザは、トマーシュの髪に女のデルタの臭いを嗅ぎとります。
バーで働くテレザはある時、男の誘いに乗り、浮気をします。
男の部屋でソフォクレースの『オイディプース』の翻訳本を見つけます。
テレザはトマーシュに復讐しようというわけではなかったのです。

 

「第V部 軽さと重さ」で、トマーシュは『オイディプース』にヒントを
得て書いた文章を週刊新聞に送ると、編集部から呼ばれ掲載されます。
ロシア人の軍隊による占領を招いた共産主義者たちは、公然と自分たちの
目を刺すべきだ、というトマーシュの意見に対して圧力をかけてきます。
しかし「あれ以上大事なものはありません」と拒否したトマーシュは、
外科医の職を奪われ、地位の低い地方病院の医者に、さらに窓掃除人に。
そこでも彼の名は知られていて、反体制派の人物が接触してきます。
そこにトマーシュの息子も。前妻は共産主義だが、息子は違いました。
サビナはプラハは嫌な町になったといい、トマーシュに田舎へ引っ越そう
と話します。彼にとってサビナは『饗宴』でいう片割れなのでしょうか? 

 《 トマーシュはプラトンの有名なシンポジオンという神話を思い出し
  た。人びとは最初、男女両性具有者であったが、神がそれを二等分
  したので、その半身はそれ以来世の中をさまよい、お互いを探し求め
  ている。愛とは我々自身の失われた半身への憧れである。》p.304

この後、アメリカへ移民したサビナの話や、政治的な話が出てきます。

 

 ●『存在の耐えられない軽さ』とは?

ストーリーを追うのはこのへんにして、私なりの感想を書いていこうか
と思います。

男女の愛と性をめぐるお話と、チェコの民主化を阻むソ連軍や
それに迎合する共産主義者によって、祖国を守ろうとする人々や
政治犯とされる人々が追い込まれていく政治的なお話が展開されます。

人間にとって大事なことは、男女の愛(と性)の生活なのか、政治的に
自由な生活なのか、<存在の耐えられない軽さ>とは何なのか。
正直なところ、よくわかりません。

「第VI部 大行進」で、

 《(略)テレザとトマーシュは重さの印の下で死んだ。彼女(引用者注
  ・サビナ)は軽さの印の下で死にたいのである。彼女は空気よりも
  軽くなる。これはパルメニデースによれば、否定的なものから
  肯定的なものへの変化である。》p.344

とあります。
確かに、トマーシュは発言を撤回させず、社会から抹殺されていきます。
トマーシュは銃殺され、最後にはテレザも死んでしまったようです。
それは思想的な理由で殺される重い死だったようですし、
それに比べれば、アメリカに逃れた? サビナの最期はまた違ったものに
できるのでしょう。

 

 ●「第VII部 カレーニンの微笑」

しかし、先にも書きましたように、
そのラストは非常に感動的なものでした。
その場面での存在のなかには、男女以外に愛犬がいました。

 《(略)カレーニンとテレザの愛は、彼女とトマーシュとの間のそれ
  よりもよいという考えである。よりよいのであって、より大きいと
  いうのではない。(略)》p.372

 《 犬への愛は無欲のものである。テレザはカレーニンに、何も要求
  しない。愛すらも求めない。私を愛している? 誰か私より好き
  だった? 私が彼を愛しているより、彼は私のことを好きかしら?
  というような二人の人間を苦しめる問いを発することはなかった。
  愛を測り、調べ、明らかにし、救うために発する問いはすべて、愛を
  急に終わらせるかもしれない。(略)》p.373

 《(略)テレザはカレーニンをあるがままに受け入れ、自分の思う
  ように変えることを望まず、あらかじめ、カレーニンの犬の世界に
  同意し、それを奪おうとはせず、カレーニンの秘め事にも
  嫉妬しなかった。犬を(男が自分の妻を作り直そう、女が自分の
  亭主を作り直そうとするように)作り直そうとはしないで、ただ
  理解し合っていっしょに暮せるような基本的な言語を学べるように
  と育てた。/ さらにいえば、犬への愛はだれかがテレザに強いた
  のではなく、自由意志に基づくものである。(略)》p.373

 《(略)人間の時間は輪となってめぐることはなく、直線に沿って
  前へと走るのである。これが人間が幸福になれない理由である。
  幸福は繰り返しへの憧れなのだからである。/ そう、幸福とは
  繰り返しへの憧れであると、テレザは独りごとをいう。》p.374

カレーニンとの暮らしは、基本的に毎朝、同じことの繰り返しでした。
そして、時が来てカレーニンにお迎えが来て、安楽死させた二人は
決めていたリンゴの木の間に埋葬します。

考えてみれば、私たちの暮らしというものも、基本、同じことを繰り返し
続けられるうちが花で、しあわせな日々といえるのかも知れません。

トマーシュは、外科医を辞めさせられ、愛人との生活も失われ、
テレザとカレーニンとの田舎での暮らしとなりました。

そ時には、トマーシュのために着飾ったテレザを見た若い男と農場長たちと
ホテルのバーのダンスホールに出かけ、楽しい時間をすごしました。

テレザが真に彼の失われた片割れであったかどうかはわかりません。
しかし、最終的に彼らが選んだのは、二人(と一匹)の生活でした。

 《(略)人生はたった一度かぎりだ。それゆえわれわれのどの決断が
  正しかったか、どの決断が誤っていたかを確認することはけっして
  できない。所与の状況でたったの一度しか決断できない。いろいろ
  な決断を比較するための、第二、第三、第四の人生は与えられて
  いないのである。/ 歴史も、個人の人生と似たようなものである。
  チェコ人の歴史はたった一度しかない。トマーシュの人生と同じよう
  にある日終わりを告げ、二度繰り返すことはできないであろう。》
   p.284(「第V部 軽さと重さ」)

 ・・・

色々と考えさせられる小説でした。
難しいといえば難しいですし、こういう展開の仕方はストーリーとして
どうなんだ? と問われたら、こういうのもありなんでしょうね、
としかいえません。

とにかく、一度は読んでおきたい小説です。
みなさまもどうぞ、機会があれば!

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(2)集英社文庫・『存在の耐えられない軽さ』ミラン・クンデラ~一回限りの人生~」と題して、今回も全文転載紹介です。

本文中にも書きましたように、人生というのは一回ポッキリのもので、やり直しはできません。
セカンド・チャンスはありません。

それだけにその時その時の決断というものが重要になって来ます。

しかし、考えすぎては、チャンスを逃がすことにもなりかねません。
難しいものです、何十年生きてきても。

でも、それだからこそ「人生はおもしろい」とも言えるのかも知れません。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおの新しい生活を始めよう』に転載しています。
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2025.07.15

<夏の文庫>フェア2025から(1)角川文庫『天衣無縫』織田作之助-楽しい読書392号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)

【最新号・告知】

 

2025(令和7)年7月15日号(vol.18 no.12/No.392)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・
『天衣無縫』織田作之助~大阪の作家~」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年7月15日号(vol.18 no.12/No.392)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2024から(1)角川文庫・
『天衣無縫』織田作之助~大阪の作家~」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2025から――。

 今年も、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 今年のテーマは、大阪関西万博の年ということで、
 「大阪」もしくは、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」
 ということで、大阪ものの小説や「いのち」に絡んだ作品に
 取り組んでみましょう。

 一本目は、角川文庫から「大阪」ものの作家とされる、
 織田作之助さんの作品集『天衣無縫』を。

 

角川文庫夏フェア2025 | カドブン
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

ナツイチ2025 広くて深い、言葉の海へ| web 集英社文庫
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よまにゃチャンネル - ナツイチ2025 | 集英社文庫
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新潮文庫の100冊 2025
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2025-natubunko-sansha

 

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 ◆ 2025年テーマ:<大阪関西万博2025> ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(1)

  ~大阪の作家~ 角川文庫―『天衣無縫』織田作之助
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●角川文庫夏フェア2025 | カドブン

まずは、<角川文庫夏フェア2025>の対象94点を見ておきましょう。
といっても全部紹介するのはスペース的にキツくなりますので、
私の気になった作品、読んだ作品を上げておきます。

 ・・・

【角川文庫夏フェア2025】 対象94件

▼感 ヒューマンドラマ!――泣いたり、笑ったり、怒ったり 12件
・この夏の星を見る 上下(辻村 深月)
・オオルリ流星群(伊与原 新)

▼怖 こわ~い本!――蒸し暑い夏、冷や汗がポトリ 8件
・おそろし 三島屋変調百物語事始(宮部 みゆき)
・火喰鳥を、喰う(原 浩)

▼謎 ミステリ&サスペンス!――謎、心理戦、どんでん返しの嵐 12件
・黒牢城(米澤 穂信)

▼懐 あの頃流行ったベストセラー~時代を彩る名作たち~
 ――年代別にプレイバック
--1970年代 5
・復活の日(小松左京)・時をかける少女〈新装版〉(筒井康隆)
--1980年代 4
・セーラー服と機関銃(赤川次郎)
あわせて読みたい名作!1950〜1960年代 2
・女生徒(太宰治)・銀河鉄道の夜(宮沢賢治)
--1990年代 4
・リング(鈴木光司)・キッチン(吉本ばなな)
あわせて読みたい名作!1990年代 1
・アルケミスト 夢を旅した少年(パウロ・コエーリョ)
--2000年代 4
・バッテリー(あさのあつこ)
--2010年代 6
・小説 君の名は。(新海誠)
--2020年代 3
・小説 すずめの戸締まり(新海誠)
あわせて読みたい名作!2010〜2020年代 3
・ナミヤ雑貨店の奇蹟(東野圭吾)

▼細田守監督 原作小説特集 4件
・おおかみこどもの雨と雪(細田 守)

▼「かまわぬ」和柄カバー 6件
・こゝろ(夏目 漱石)・吾輩は猫である(夏目 漱石)
・注文の多い料理店(宮沢 賢治)

▼おすすめファンタジー3選
・烏衣の華(白川 紺子)
▼おすすめ時代小説2選
・江戸の探偵(鈴木 英治)
▼おすすめ100分読書4選
・100分間で楽しむ名作小説 人間椅子(江戸川 乱歩)
・100分間で楽しむ名作小説 瓶詰の地獄(夢野 久作)
▼おすすめまなびの2選
・(読んだふりしたけど)ぶっちゃけよく分からん、
あの名作小説を面白く読む方法(三宅 香帆)
▼「文豪ストレイドッグス」コラボカバー 8件
・羅生門・鼻・芋粥(芥川 龍之介)・D坂の殺人事件(江戸川 乱歩)
・青春の逆説・可能性の文学(織田 作之助)
・天衣無縫(織田 作之助)・斜陽(太宰 治)・晩年(太宰 治)

 

 ●『天衣無縫』――アニメ「文豪ストレイドッグス」コラボカバー

アニメ「文豪ストレイドッグス」コラボカバー
『文豪ストレイドッグス』は、横浜を舞台に、文豪をモチーフにした
キャラクターたちが繰り広げる異能バトルアクション漫画。
そのアニメ版のキャラクターが角川文庫の文豪名作とコラボ!
©️朝霧カフカ・春河35/KADOKAWA/文豪ストレイドッグス製作委員会

 ・・・

天衣無縫
著者 織田 作之助
定価: 704円 (本体640円+税)
発売日:2016年10月06日 判型:文庫判 ページ数:304
ISBN:9784041049136

戦中・戦後に無頼派として活躍した著者の、大阪の魅力溢れる名短編集!
太宰治、坂口安吾とともに無頼派として活躍し、大阪という土地の空気と
そこで生きる人々の姿を巧みに描き出した短編の名手による表題作を始め
「夫婦善哉」「俗臭」「世相」など代表的作品を集めた傑作選。

 

――以上、サイトより。

本書のカバー見た目は、劇画かなにかのようですが、
主人公たちは、そこまでかっこいいか、といいますと……。

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 ●「大阪の作家」の作品集――『天衣無縫』織田 作之助

『天衣無縫』織田 作之助 角川文庫 (2016/10/6)

(Amazonで見る)

 

さて、まずは目次を――。
底本の、岩波文庫版『夫婦善哉 正続 他十二篇』(1.2.4.収録)と
『六白金星・可能性の文学 他十一篇』(5.-9.収録)を参考に、
それぞれの発表誌と発表年代、初出単行本をメモしておきました。
(「天衣無縫」は、ちくま文庫『名短篇ほりだしもの』2011年1月刊より)

1.夫婦善哉(めおとぜんざい):「海風」昭和15年4月、
 『夫婦善哉』創元社 昭和15年刊
2.俗臭:「海風」昭和14年9月、『夫婦善哉』創元社 昭和15年刊
3.天衣無縫:「文芸」1942(昭和17)年4月、
 『天衣無縫』新生活社 昭和22年刊
4.放浪:「文学界」昭和15年6月、『夫婦善哉』創元社 昭和15年刊
5.女の橋:「漫画日本」昭和21年4月
6.船場の娘:「新生活」昭和21年1月
7.大阪の女:発表誌未詳、昭和21年頃か、
  以上三作『船場の娘』コバルト社 昭和22年刊
8.世相:「人間」昭和21年4月
9.アド・バルーン:「新文学」昭和21年3月
  以上二作『世相』八雲書店 昭和21年刊

 

*参照:(底本)
・『夫婦善哉 正続 他十二篇』織田 作之助 岩波文庫 2013/7/18
(Amazonで見る)

・『六白金星・可能性の文学 他十一篇』織田 作之助 岩波文庫 2009/8/18
(Amazonで見る)

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次に、作者・織田作之助について――

戦後、太宰治、坂口安吾らと共に「無頼派」「新戯作派」と呼ばれ、
「オダサク」の愛称で親しまれました。
大阪の市井の人々を大阪弁の台詞を交えたテンポの良い文体で活写した
「大阪の作家」と認められています。

大阪市南区生玉前町(現・天王寺区)の生国魂神社近くの裏店「魚鶴」の
子として生まれ、大阪府立高津中学(現・高津高校)卒業まで、この地で
育ち、京都の第三高等学校(現・京都大学)に進学します。
家業を嫌い、生育環境からの脱出を図ったのでした。
そこで、様々な人と出会い、作家へと進んでゆきます。
卒業を前に結核にかかり、白浜で転地療養をしますが、
そのまま中途退学したそうです。
のちに東京に出て行きますが、結核で享年33歳で亡くなりました。
実働7年ほどの作家生活となります。

オダサクの生まれ育った地、高津や生国魂神社周辺などは、
私も多少は知っている土地でもあります。
作品の舞台となっている難波や道頓堀、心斎橋、日本橋、黒門市場周辺
なども知っています。
そういう親近感から、彼の作品に親しめる下地となっているのでしょう。

 

 ●『天衣無縫』9篇から「夫婦善哉」

内容について書いておきます。
なんといっても代表作とされる「夫婦善哉」があります。

蝶子は、天麩羅屋・種吉とお辰の娘。小学校を出ると女中奉公に出され、
その後、持ち前の陽気好きの気性が環境に染まって芸者に――。
妻子持ちの三十一歳の維康柳吉(これやす りゅうきち)という、
梅田新道にある安化粧品問屋の息子といい仲になりますが、
遊び好きの柳吉は父親から勘当され、二人は東京へ駆け落ちします。
東京で集金した金で熱海に芸者遊びに行き、関東大震災に遭遇、
大阪に帰ることに。避難列車でやっと大阪に帰り、種吉の元へ。
蝶子は抱主(かかえぬし)に無断で飛び出したため、借金の300円を
種吉は月賦で払うといいます。
二人は黒門市場の路地裏に二階借りして所帯を持つのですが、
柳吉に職がないので暮らしに困り、蝶子が稼ぎに出ることになりました。
おきんという年増芸者でヤトナ芸者(芸者の花代より安い、臨時雇の
宴会の有芸仲居)の周旋屋の世話になるのでした。

柳吉というだらしない、遊び好きの坊ん坊ん(ぼんぼん)と、一回り年下の
しっかり者の蝶子という夫婦の物語です。
蝶子は、柳吉の実家の父親に嫁として認めてもらおうと、
二人で店を持ち独立しようと頑張ります。
柳吉のほうは、機会を見ては実家の跡継ぎに戻ろうという魂胆。
店を始めてもすぐに飽きてしまい、稼ぎも蝶子の貯金も遊びに費やす。
その都度、蝶子は昔の仲間から借金しては、何度もお店を出しては売り、
を繰り返します。
そうこうするうちに、実家では柳吉の娘の母親代わりの妹が婿をもらって
跡を継ぎます。そして、父親が危篤と呼びに来ました。
女と別れるといっては実家からお金をせびっていた柳吉。
いろんなつてをたどっては、お金を工面して、ダメな夫をもり立て、
嫁として認めてもらおうとしていた蝶子。
死の間際に認められることを願っていたものの夫は女と別れるといって、
遺産を分けてもらうつもりだった、といいます。蝶子は本当だと思った。
そして二人は、「うまいもん食いにいこか」という柳吉の誘いで、
法善寺境内の「めおとぜんざい」へ食べに行きます。

《(略)「こ、こ、ここの善哉はなんで、二、二、二杯ずつ持って来よる
  か知ってるか、知らんやろ。こら昔何とか大夫ちゅう浄瑠璃のお師匠
  はんがひらいた店でな、一杯山盛にするより、ちょっとずつ二杯に
  する方が沢山(ぎょうさん)はいってるように見えるやろ、そこを
  うまいこと考えよったのや」蝶子は「一人より女夫の方がええいう
  ことでっしゃろ」(略)》

なんともいえぬ関係の夫婦。

とにかく、この柳吉という男は、ええとこの坊ん坊ん(ぼんぼん)ゆえに、
芸者遊び好きで、食べ物にもうるさく、といっても高級料理というより、
南の庶民的な名店の名物料理をよく知っています。
ラストの「夫婦善哉」もそんな一つ。
他には「自由軒」のカレーもあります。

 

 ●「俗臭」「放浪」、表題作「天衣無縫」

「俗臭」は、和歌山県有田郡の魚問屋の息子が様々な仕事に手を出し、
金を儲けて、父の放蕩でちりぢりになった家族を、「俗臭」溢れる野心で
再興する、めずらしいことにサクセス・ストーリーです。

「放浪」は、両親が亡くなり、弟は大阪の仕出し屋の叔父叔母にもらわれ
板場の修業。娘の妊娠から名だけの夫となりますが、兄の死などがあり、
嫌になった順平は家を出、チンピラと知り合い、というふうに放浪――。
しかし板場の腕があれば生きていける、と。

表題作「天衣無縫」は、友だちに誘われて断れず、見合いの席に遅れて
くるような頼りない、お人好しで爺むさい男と所帯を持つ娘が主人公。

《 私は生まれて来る子供のためにもあの人に偉くなって貰わねばと
 思い、以前よりまして声をはげまして、あの人にそう言うように
 なったが、あの人はちっとも偉くならない。(略)》

そんなにまでして偉くならんといかんのか、といつになく怖い顔をして
私をにらみつけた、というラスト。

 

 ●「女の橋」「船場の娘」「大阪の女」

この三作は、一つずつ独立した短篇であり、かつ女三代の連作。

「女の橋」――伊吹屋の番頭は坊ン坊ン(ぼんぼん)恭助の遊び相手の
芸者小鈴を遠ざけ、嫁を探し、器量は悪いが家柄のいい嫁を取らせます。
が、小鈴は妊娠し、その娘を引き取ります。何も知らずに育った娘雪子、
女学校の卒業と共に名取になる披露の席で、話を聞いた小鈴は病の身を
おし三味線を弾きたいと申し出、身代わりとなりますが、死んでしまい
ます。そのとき、事情を知った雪子は、太左衛門橋を渡りながら、

《「うちは阿呆やった。うちは阿呆やった……」と、呟きながら、
 自分はもう船場とは何の縁もない人間だという想いが、
 ふっと頭をかすめた。》

 

「船場の娘」――伊吹屋の一人娘(実は妾の子・芸者の子)雪子と、
前科者の息子の丁稚秀吉の恋物語。父が弁護士を雇えていたら、という
思いから弁護士をめざし英語の勉強をしている秀吉に雪子は好意を持ち、
縁談を前に駆け落ちしようとします。が直前に、番頭に阻止されます。
東京へ行った秀吉から電話が来ます。住所を告げる前に、関東大震災。
五年後、雪子は芸者の子と知られ、嫁入り先から離縁され、実家も没落、
芸者になっていました。ある日、太左衛門橋で、ルンペンとなり大阪に
戻った秀吉と出会います。しかし、秀吉はすでに妻帯者……。

《 雪子は何ごともなかったような表情で、大和屋の玄関にはいって
 行った。》

 

「大阪の女」――戦後大阪に復員してきた、大阪船場道修町の薬屋の息子
島村は、雪子の喫茶店「千草」に来ます。雪子は娘の葉子と空襲のなか
太左衛門橋を渡って避難し生き延びたと話します。常連となった島村は
葉子が目当て。理想の仕事が見つかったので東京へ行くという島村。
島村は葉子に芸者の子でもかまわない結婚しよう、親は説得するというの
ですが、いつになっても報告に来ません。雪子は自分の過去の経験から
船場の坊ン坊ンとの結婚は難しいと分かっていたので、反対でした。
二人は駆け落ちしようとします。反対していた雪子でしたが、葉子の
「行きたい、行かせて!」の言葉に、考えを改め送ってゆきます。

《(略)雪子はふと葉子の覚悟や島村の理想はたとえ夢であるにしても、
 今はこの夢のほかに何を信じていいのだろうか、そうだ、自分はこの
 夢を信じようと、呟いた。》

 ・・・

底本となっている岩波文庫版『六白金星 可能性の文学 他十一篇』の
佐藤秀明さんの巻末解説「可能性の「織田作」」には、

《(略)いずれも通俗味の勝った読み物小説だが、女の一生を左右する
 微視的な時間と、それを時代の流れの一齣に見せてしまう巨視的な時間
 とをより合わせたところに、織田作ならではの手法を感じ取ることが
 できよう。(略)》

その背後の構造に船場の商家の伝統がある、といいます。
また、太左衛門橋が点景として描かれ、移りゆく時代と人の定点として、
効果を上げている、とも。

三作中では、やはり最後の「大阪の女」がいいですね。
先の二篇を踏まえて、戦後の自由と民主主義の新時代に期待する、
という当時の時代の気風を受けた、苦労人の雪子の、
「この夢を信じ期待する」という希望を感じさせるところが、
美しいラストでした。

先の佐藤秀明さんの解説では、代表作ではない、ということですが、
この短編集中でも気持ちよく読めた一篇でした。

 

 ●「世相」「アド・バルーン」

「世相」は、織田作之助自身を語り手に、「阿部定」事件を小説にしよう
と考え、公判記録を持つ男に借りるが、時が経ちすぎていることで、
結局は書けないという。文学論的な様々な小説のパターンを示しながら
構想を語り、作家としての悩みや事情を描くお話。

「アド・バルーン」は、人生双六のドラマを描き、オダサクの小説には
珍しい幸福なラストの美談です。落語家の息子に生まれたものの、里子に
出され、丁稚となっても店を転々とする私。そして、お金もなく、死のう
と思っていたとき、拾い屋の男に助けられ、仕事を始め、禁酒会に入り、
貯金の紙芝居をするのならと貯金もし、いつか命の恩人に会ったときに、
この貯金通帳を渡そうと心に決めます。この話を聞いた人から新聞記者に
話が伝わり、五年後、ついに恩人と出会うことに。そして再び、十年後の
約束を取り付けて……。

 

 ●大阪と放浪の物語

歴代の大阪の作家といえば、江戸時代の井原西鶴の名がまず上がりそう
です。代表作は『好色一代男』(1682年)『好色五人女』(1686年)
『好色一代女』(1686年)『日本永代蔵』(1688年)『世間胸算用』
(1692年)、生国魂神社で発句をしたことでも知られています。

そして、戦前・戦中・戦後の数年という短い時期でしたが、織田作之助が
います。

当時の特に、生玉から難波にかけての繁華街を舞台にした一連の作品。
おおむね頼りない男としっかり者の女の組み合わせが、下町の風情と
ともにおもしろい夫婦の物語となっています。

通俗的な物語を材に取りながら、そこに「可能性の文学」をめざそうと
する、オダサクの世界があるようです。

《一つの偶然が一人の人間の人生を変えてしまう可能性》
を書こうとした「アド・バルーン」のような作品。

「夫婦善哉」もまた、同じような変転の物語です。

《人生の変転は必ずしも転落にはならない》という物語。
 (岩波文庫版『六白金星 可能性の文学 他十一篇』佐藤秀明さんの
  巻末解説「可能性の「織田作」」より)

 

面白く読ませる小説が多く、底本となった文庫の作品なども、
少し読んでみました。

将棋の坂田三吉を扱った作品「聴雨」「勝負師」も楽しめました。

ただ、男たちの頼りなさと大阪弁で言う「へんこ」さ加減が、
人間的な魅力にもつながっているようで、
その辺がオダサクのおもしろさの一つかも知れません。

自分のことで精一杯という男の生き方の下手さ加減が、
頼りなさの原因なのでしょうけれど、そういう男に愛想を尽かさず、
付き合ってくれる女がいれば、そこに一つの夫婦ができるのでしょうか。

まあ、そんな気がします。

とにかく、男と女の間は難しいものです。

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(1)角川文庫・『天衣無縫』織田作之助~大阪の作家~」と題して、今回も全文転載紹介です。

今年のテーマは、大阪関西万博の年ということで、「大阪」もしくは、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」です。
そこで、大阪ものの小説や「いのち」に絡んだ作品を、と考えていました。
角川文庫の夏フェアの小冊子を見ますと、「大阪の作家」として知られる、織田作之助の本が出ていましたので、これを採用しました。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおの新しい生活を始めよう』に転載しています。
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2023.06.30

私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」-楽しい読書344号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
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 本来は、月末で
 古典の紹介(現在は「漢詩を読んでみよう」)の号ですが、
 今月は岩波文庫のフェアが始まっていますので、
 過去何回か取り上げています。
 最近のものでは↓

2022(令和4)年6月15日号(No.320)
「私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―『語録』『要録』
―<2022年岩波文庫フェア>名著・名作再発見!から」
2022.6.15
私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―<2022年岩波文庫フェア>から-楽しい読書320号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/06/post-98be91.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6a52aba9e4f9468c46611a84cd31f14f

2019(令和元)年6月30日号(No.250)-190630-
「2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...」
2019.6.30
2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...
―第250号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/06/post-b015ac.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e3a5116ac2b0a7abfec291e180ec97ce

 夏の文庫三社のフェア同様、毎年恒例にしたいと思いつつ、
 情報を集め損ねて、飛び飛びになっています。

 今年はなんとか間に合ったようです。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 - 異類男女の恋情 -

  ~ 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」 ~

  2023年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から
 
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 ●2023年岩波文庫フェア

2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」

ご好評をいただいている「岩波文庫フェア」を、
今年も「名著・名作再発見! 小さな一冊を楽しもう!」
と題してお届けいたします。

 岩波文庫は古今東西の典籍を手軽に読むことが出来る、
古典を中心とした唯一の文庫です。読書の面白さ、
感動を味わうには古典ほど確かで豊かなものはありません。
岩波文庫では出来るだけ多くの皆さまに
名著・名作に親しんでいただけるよう、本文の組み方を見直し、
新しい書目も加えより読みやすい文庫をと心がけてまいりました。

 いつか読もうと思っていた一冊、誰もが知っている名著、
意外と知られていない名作──
岩波文庫のエッセンスが詰まった当フェアで、
読書という人生の大きな楽しみの一つを
存分に堪能していただければと思います。

※2023年5月27日発売(小社出庫日)

 

<対象書目>
――本誌で過去に取り上げた書目:■

■茶の本【青115-1】  岡倉覚三/村岡 博 訳
古寺巡礼【青144-1】  和辻哲郎
君たちはどう生きるか【青158-1】  吉野源三郎
忘れられた日本人【青164-1】  宮本常一
■論語【青202-1】  金谷 治 訳注
■新訂 孫子【青207-1】  金谷 治 訳注
■ブッダのことば──スッタニパータ【青301-1】  中村 元 訳
■歎異抄【青318-2】  金子大栄 校注
■ソクラテスの弁明・クリトン【青601-1】  プラトン/久保 勉 訳
■生の短さについて 他二篇【青607-1】  セネカ/大西英文 訳
■マルクス・アウレーリウス 自省録【青610-1】  神谷美恵子 訳
方法序説【青613-1】  デカルト/谷川多佳子 訳
スピノザ エチカ 倫理学(上)【青615-4】  畠中尚志 訳
スピノザ エチカ 倫理学(下)【青615-5】  畠中尚志 訳
■読書について 他二篇【青632-2】
  ショウペンハウエル/斎藤忍随 訳
■アラン 幸福論【青656-2】  神谷幹夫 訳
論理哲学論考【青689-1】  ウィトゲンシュタイン/野矢茂樹 訳
旧約聖書 創世記【青801-1】  関根正雄 訳
生物から見た世界【青943-1】
  ユクスキュル、クリサート/日高敏隆、羽田節子 訳
精神と自然──生きた世界の認識論【青N604-1】
  グレゴリー・ベイトソン/佐藤良明 訳
万葉集(一)【黄5-1】
  佐竹昭広、山田英雄、工藤力男、大谷雅夫、山崎福之 校注
■源氏物語(一) 桐壺―末摘花【黄15-10】  柳井 滋、室伏信助、
        大朝雄二、鈴木日出男、藤井貞和、今西祐一郎 校注
枕草子【黄16-1】  清少納言/池田亀鑑 校訂
芭蕉自筆 奥の細道【黄206-11】  上野洋三、櫻井武次郎 校注
雨月物語【黄220-3】  上田秋成/長島弘明 校注
■山椒大夫・高瀬舟 他四篇【緑5-7】 森 鷗外
三四郎【緑10-6】  夏目漱石
仰臥漫録【緑13-5】  正岡子規
摘録 断腸亭日乗(上)【緑42-0】  永井荷風/磯田光一 編
摘録 断腸亭日乗(下)【緑42-1】  永井荷風/磯田光一 編
久保田万太郎俳句集【緑65-4】  恩田侑布子 編
中原中也詩集【緑97-1】  大岡昇平 編
山月記・李陵 他九篇【緑145-1】  中島 敦
堕落論・日本文化私観 他二十二篇【緑182-1】  坂口安吾
茨木のり子詩集【緑195-1】  谷川俊太郎 選
大江健三郎自選短篇【緑197-1】  大江健三郎
石垣りん詩集【緑200-1】  伊藤比呂美 編
まっくら──女坑夫からの聞き書き【緑226-1】  森崎和江
君主論【白3-1】  マキアヴェッリ/河島英昭 訳
アメリカの黒人演説集──キング・マルコムX・モリスン 他【白26-1】
  荒 このみ 編訳
マルクス 資本論(一)【白125-1】  エンゲルス 編/向坂逸郎 訳
職業としての学問【白209-5】  マックス・ウェーバー/尾高邦雄 訳
贈与論 他二篇【白228-1】  マルセル・モース/森山 工 訳
大衆の反逆【白231-1】  オルテガ・イ・ガセット/佐々木 孝 訳
■楚辞【赤1-1】  小南一郎 訳注
菜根譚【赤23-1】  洪自誠/今井宇三郎 訳注
阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊)【赤25-2】  魯迅/竹内 好 訳
■バガヴァッド・ギーター【赤68-1】  上村勝彦 訳
■ホメロス イリアス(上)【赤102-1】  松平千秋 訳
■ホメロス イリアス(下)【赤102-2】  松平千秋 訳
ハムレット【赤204-9】  シェイクスピア/野島秀勝 訳
■森の生活──ウォールデン (上)【赤307-1】
  ソロー/飯田 実 訳
■森の生活──ウォールデン (下)【赤307-2】
  ソロー/飯田 実 訳
オー・ヘンリー傑作選【赤330-1】  大津栄一郎 訳
変身・断食芸人【赤438-1】  カフカ/山下 肇、山下萬里 訳
カフカ短篇集【赤438-3】  池内 紀 編訳
対訳 ランボー詩集──フランス詩人選(1)【赤552-2】
  中地義和 編
トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇【赤619-1】
  中村白葉 訳
タタール人の砂漠【赤719-1】  ブッツァーティ/脇 功 訳
ペスト【赤N518-1】  カミュ/三野博司 訳

 

以上55点59冊のうち、15点ほどを取り上げています。
関連も含めますと、あと5点ほど見つかります。
(詳細は、「編集後記」末尾にでも付記しておきます。)

その多くは、宗教・思想・哲学といった
リアル系の古典を取り上げてきました。

そこで今回は、文学作品を取り上げましょう。

私の大好きな作品が含まれていましたので、それを紹介します。

 

 ●私が日本で一番好きな小説――上田秋成『雨月物語』

江戸時代の読本(よみほん)、上田秋成の怪異譚短編集『雨月物語』から
一番長い短編作品「蛇性の婬(じゃせいのいん)」を取り上げます。

上田秋成『雨月物語』は、日本文学のなかで私の大好きな作品で、
以前「私をつくった本・かえた本」でも紹介しました。

・2017(平成29)年3月15日号(No.195)-170315-
「私の読書論91-私をつくった本・かえた本(2)小説への目覚め編」

私の読書論91-私をつくった本・かえた本(2)小説への目覚め編―第195号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

・講談社『少年少女新世界文学全集第37巻 日本古典編(2)』
(長編「太平記」「八犬伝」「東海道中膝栗毛」、短篇集「雨月物語」、
 江戸時代の俳句(芭蕉や蕪村、一茶など)収録)

《怪奇幻想ものの読本(よみほん)である、
 上田秋成作「雨月物語」青江舜二郎訳
 (1768年(明和5)成稿、76年(安永5)刊。「白峰」以下9編)》

 

子供の頃から、怖がりのくせに、怖い物見たさというのでしょうか、
こういうお話が好きでした。

子供の頃は、テレビで怪談話やホラー映画など結構見てました。
吸血鬼ドラキュラや狼人間やミイラ男だといった映画や、
アメリカ製のテレビドラマで、異界もの? や
ダーク・ファンタジーのようなもの、日本でも「ウルトラQ」みたいな。

で、この『少年少女新世界文学全集第37巻 日本古典編(2)』のなかでも、
「雨月物語」も短編集で、当時長いものを読むのが苦手だった私には、
とてもフィットした物語であったといえましょう。

今でも長編は苦手で、読み出すまでにちょっと敷居の高さを感じます。
短編集を読むのもしんどい部分はあります。
一本ずつ一本ずつ読み起こす感じで、
その世界に入るのに集中力がいるというわけですが。

余談はさておき、
『雨月物語』全9短編中、一番好きなのが「蛇性の婬」です。
今回はこの作品を取り上げます。

 

*<2023年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」>から
『雨月物語』【黄220-3】上田秋成/長島弘明 校注 2018/2/17

 

 ●上田秋成『雨月物語』巻之四「蛇性の婬」

『雨月物語』は、翻案小説とも言われるもので、
下敷きになるお話があり、
それをもとに上田秋成が自分の世界を展開するものです。

「蛇性の婬」は、異類婚姻譚に分類されます。

蛇の妖怪の女と人間の青年との恋物語というところでしょうか。

この小説には、中国の原話があります。
白話小説集『警世通言(けいせいつうげん)』中の「白娘子永鎮雷峰塔
(はくじょうしながくらいほうとうにしずまる)」。

 《白蛇が美女に化けて男と契るという、
  中国の白蛇伝説の系譜にある一話である。》
   『雨月物語』上田秋成/長島弘明 校注より「解説」p.254

 《「白蛇伝」説話は、
  白蛇が美女に化け、男を誘惑して契りを結ぶ異類婚姻譚であるが、
  古くは唐代伝奇の「白蛇記」(『太平広記』所収)があり、
  宋・元・明・清とさまざまな小説や戯曲になり、
  さらには今日まで及んでいる。「白娘子永鎮雷峰塔」は、
  その「白蛇伝」説話の中でも最も著名な作品の一つで、
  類話に『西湖佳話(せいこかわ)』の「雷峰怪蹟(らいほうかいせき)」
  がある。》
   『雨月物語の世界』長島弘明 ちくま学芸文庫 より
     「第九章 蛇性の婬」p.265

前半は主にこの作品を下敷きに、日本の和歌山に舞台を移し、
冒頭の「いつの時代(ときよ)なりけん」という書き出しは、
まさに『源氏物語』の「いづれの御時にか」を連想させるもので、
一話全体も古代の物語風の雰囲気を持たせています。

 

*『雨月物語の世界』長島 弘明/著 ちくま学芸文庫 1998/4/1

――岩波文庫『雨月物語』校注者による初学者向け入門書・解説書

 

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 ●東映動画『白蛇伝』

ここで、思い出すのが、子供の頃に見たアニメ、
東映動画の『白蛇伝』です。

『ウィキペディア(Wikipedia)』によりますと、
1958年10月22日公開といいます。

私は子供時代にテレビの放送で見た記憶があります。

春休みや夏休みや冬休みなどに子供向け番組として、
一連の東映動画の放送がありました。
『白蛇伝』『安寿と厨子王丸』『わんわん忠臣蔵』『西遊記』
『わんぱく王子の大蛇(おろち)退治』等々。

記憶で書きますと、
人間の青年に恋した白蛇が美女に化けて近づき、両者は恋に落ちます。
青年は化け物に騙されているのだと信じた高僧によって、
その法力で娘を攻撃し、二人の邪魔をします……。

互いに愛し合いながら、相手が異類であるということで認められず、
仲を引き裂かれるという理不尽な物語――という印象が残っています。

この高僧をとても憎く感じたものでした。

愛し合う二人を引き裂くにっくき野郎! という感じで。

本来この動画は、文部省推薦の子供向け・家族向けの企画なので、
基本的に勧善懲悪というわけでなく、
誤解を解いてみんなで仲良くしましょう、的な映画だと思うのです。

それだけに、「なんかかわいそう」というイメージがありました。

私自身、左利きで○○で××でもあり、そういう「一般人」ではない、
「異類の存在だ」という意識がありますので、
そういう世間一般のひとではない「異類」である、
というだけの理由で、その恋仲を裂かれるというのは、
悲劇以外の何物でもない、と思えるのです。

 

*参考:東映動画『白蛇伝』
白蛇伝 [DVD]
森繁久彌 (出演), 宮城まり子 (出演), 藪下泰司 (監督)

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 ●「蛇性の婬」の豊雄に、大人の男の悪い面を見る?

「蛇性の婬」では、中国の白蛇伝説に、『道成寺縁起』などに見られる
<道成寺伝説>を取り混ぜたものだといわれています。

 《中国の、愛欲のために女に変身した蛇の話に、
  日本の、同じく愛欲のために蛇身になってしまった女の話を、
  重ね合わせている。》同上

安珍・清姫の伝説として知られる話です。

 ・・・

「蛇性の婬」では、主人公の青年・豊雄は、和歌山の漁師の網元の次男。
長男が跡取りで、姉は奈良に嫁に行っている。
豊雄は、都にあこがれ、雅好きで、学問を師について習っている。
父親は、家財を分けても人に取られるか、他家を継がせようとしても、
困ったことになるだけだろうし、博士にでも法師にでもなれ、
生きているうちは兄のやっかいになればいい、と考えている。

そんなとき、師の元からの帰り道、雨に降られ、雨宿りしていると、
二十歳に満たぬ美女・真女子(まなこ)と
十四、五の童女の二人連れに出会う。
で、このふたりこそ蛇の化身。
豊雄もまんざらではなく、好意を持つようになる。

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 ・・・

その後の詳しいストーリーを紹介してもいいのですが、
ここではそれはやめて、単純に私の感想を綴っておきましょう。

異類である白蛇の化身である女と人間の青年の恋なのですが、
今回、読み直しますと、男の態度がどうも気に入りません。

蛇身の女が一方的に恋したような始まりになっています。
しかし始まりはどうであれ、
自分も相手を気に入って恋仲になっているにもかかわらず、
まわりから何か言われると、
ついつい相手を裏切るような行動を取ります。

そうでありながら、何かきっかけがあるごとに、
彼女のことを思っているかのように振る舞います。

結果、自分だけが助かるのです。

どうも気に入りません。
アニメ版の『白蛇伝』のイメージが残っているのか、
このような男の姿が、いまいち、好きになれません。

 

長島さんは『雨月物語の世界』の「第9章 蛇性の婬」の末尾
<男の性と女の性>で、

 《真女子が豊雄の夢と恋(エロス)が描いた幻像であったならば、
  豊雄は自らの夢と恋情を殺すことによって、
  丈夫となったということができる。大人になり、
  また余計者の身から抜け出して社会的存在となるためには、
  私情を切り捨てる通過儀礼が必要とされたのである。
  そして、切り捨てられた私情とは、女性である。
  土中深く封じ込められた蛇は、女性であり、
  また豊雄の夢であったことになる。
  生き永らえたという豊雄は、その後、
  はたして夢をみることがあったのかどうか。》p.296

と結んでいます。

私も、この終わり方で豊雄は本当に満足だったのだろうか、
と思わずにはいられません。

私情を捨てること、夢をあきらめること、
まわりに合わせて生きることが、大人になる、ということなのか?

もしそうだとしたら、ちょっと寂しい、
残念なことといわねばなりません。

もちろん、私自身も同じように、色々あきらめた上で、
今日まで生きてきたのは事実です。

しかし、だからこれで終わっていいと思っているわけでもありません。
生きている限り、なにかできるのではないか、
という思いだけは、今も持っています。

 

*参考文献:
『改訂 雨月物語 現代語訳付き』上田 秋成/著 鵜月 洋/訳
角川ソフィア文庫 2006/7/25

『雨月物語』上田 秋成/著 高田 衛, 稲田 篤信/訳 ちくま学芸文庫
1997/10/1

『雨月物語―現代語訳対照』上田 秋成/著 大輪 靖宏/訳 旺文社文庫
1960/1/1

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本誌では、「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」と題して、今回は全文転載紹介です。

本誌では「蛇性の婬」飲みの紹介となっています。
本文中にも書いていますように、歴史ものの怪異譚全9編からなる短編集です。

中でも男女の仲に関するものとしては、この「蛇性の婬」以外にも、「浅茅が宿」「吉備津の釜」があります。
どちらもなかなかのできで、人間性のおどろおどろしさを描いて秀逸です。

善くも悪くもやはり男女の仲というものが一番おもしろいような気がします。

 ・・・

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2022.11.15

私の読書論162-小説の王道-恋愛小説(2)ハッピーエンド型・悲恋型-「楽しい読書」第330号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2022(令和3)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年11月15日号(No.330)
「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2)
ハッピーエンド型・悲恋型」
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 今回も、「小説の王道とは恋愛小説か」の2回目。
 いずれ、
 私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」
 を発表する予定ですが、
 まずはその前に、もう少し恋愛小説について見ておこうと思います。

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  ~ 小説の王道は恋愛小説である ~
 「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試みへの序(2)
  恋愛小説の2パターン――ハッピーエンド型・悲恋型
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 ●恋愛小説の2パターン

恋愛小説には大きく分けて二種類あると思います。

 

一つは、最後に愛し合う二人が結ばれるハッピーエンド型で、
もう一つは、片方の死によって恋が終わる悲恋型です。

ハッピーエンド型の代表は、
古代ギリシアのロンゴス『ダフニスとクロエー』や、
日本の三島由紀夫『潮騒』
(三島由紀夫版『ダフニスとクロエー』と呼ばれる)など。

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』もそうですね。
映画で知られる、私の好きな『フレンズ―ポールとミシェル』も、
いろいろと苦難の末に結ばれる訳で、ハッピーエンド型です。

 

一方、悲恋型の代表は(小説ではないのですが)、
イギリスのシェイクスピア『ロミオとジュリエット』や、
日本では、伊藤左千夫『野菊の墓』が代表格でしょう。

私の大好きな小説である、
北杜夫版『ダフニスとクロエー』といわれる『神々の消えた土地』や、
ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』も恋人の死で終わる悲恋型。

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どちらが王道かと問われると困るのですが、
どちらも王道で、まあ、所詮、恋愛というものは、
成就するか破綻するかでしょうし、
そうしますと、結末はハッピーエンドか悲恋かでしょう。
どちらもそれぞれに意義のある内容になります。

 

 ●失恋ものは?

今ふっと思ったのですが、ある意味悲恋ともいえますが、
失恋ものもありましたね。

失恋ものは、悲恋型ではないでしょう。

失恋は、二人の気持ちがすれ違うところに原因があるのでしょうから、
二人の力でなんとか出来る可能性のあるものでしょう。

江國香織さんと辻仁成さんの共作?になっている
『冷静と情熱のあいだ』のように、
一旦分かれてもまた結ばれる?ものもあるように。

*江國 香織『冷静と情熱のあいだ Rosso』角川文庫 2001/9/25

*辻 仁成『冷静と情熱のあいだ Blu』角川文庫 2001/9/20

*江國 香織, 辻 仁成『愛蔵版 冷静と情熱のあいだ』角川書店 2001/6/1

 

フィリップ・ロスの『さよならコロンバス』も失恋ものの代表格。
身分違いのといいますか、別れの原因として、
宗教の違いが根本にある点が複雑な気分にさせます。

 

一方、悲恋ものは、死という不可抗力によって二人が引き離され、
結果的に恋愛が破綻するものです。

やり直すことの出来ない一方通行の、
いわば<死すべき人間>ならではの<人生そのもの>という悲劇です。

それ故に、悲劇性は高く、人の心を打つものとなるのでしょう。

失恋そのものは人の命を奪うことはありません。
それに心折れたときのみ、命の問題となるでしょうけれど。

その辺のところが違ってきます。

 

 ●悲劇性

失恋は、当人にとっては悲劇かもしれません。
しかし、他人から見れば、喜劇になるかもしれませんよね。

それに引き比べ、引き裂かれる恋愛であっても、
死による別れに伴う悲恋は、単なる失恋とは違い、
愛し合っているにもかかわらず訪れる、まさに悲劇です。

先に挙げた『ロミオとジュリエット』や『野菊の墓』などは、
なんともいえず、人の心に食い込むものがあります。

私の好きな『ジェニーの肖像』も、
<時間を超える恋>ものである点以外にも、
この死による別れという悲劇性が心を打ちます。

ナポレオンも愛読したといわれる
サン=ピエールの『ポールとヴィルジニー』も、
『ダフニスとクロエー』型の、自然の中で育った幼なじみの恋人たちが
あれこれあったのち、死によって引き離される物語です。

『ジェニーの肖像』のラストは、この作品のラストを思い起こさせます。

*『ポールとヴィルジニー』サン=ピエール 鈴木 雅生/訳
光文社古典新訳文庫 2014/7/10

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死による別れといいますと、
ここまではどちらか一方の、というものでしたが、
プレヴォ『マノン・レスコー』の場合は、
二人の死によるラストだったかと思います。
(記憶で書いていますので、誤りがあるかもしれません。)

『マノン・レスコー』型の小説としては、
小デュマ(デュマ・フィス)の『椿姫』も死による別れの悲恋ですね。

*『マノン・レスコー』アントワーヌ・フランソワ プレヴォ
野崎 歓/訳 光文社古典新訳文庫 2017/12/7

*『椿姫』アレクサンドル デュマ・フィス 永田 千奈/訳
光文社古典新訳文庫 2018/2/8

 

 ●恋愛小説パターン(メモ)

ここで簡単に恋愛小説のパターンと流れをメモしておきましょう。

〔自然育ちの幼なじみの恋人たちもの〕
・『ダフニスとクロエー』(幸)――『ポールとヴィルジニー』(悲)
   ┗『フレンズ』(幸)     ┗『ジェニーの肖像』(悲)
  ┗『潮騒』(幸)       ┗『野菊の墓』(悲)
                ┗『神々の消えた土地』(悲)
               ┗『世界の中心で、愛をさけぶ』(悲)
〔娼婦との恋愛もの〕
・『マノン・レスコー』(悲)――『椿姫』(悲)
〔中流地主階級の男女の恋愛〕
・『高慢と偏見』(幸)――(?)『ロミオとジュリエット』(悲)

 

世の恋愛小説はもっとたくさんありますが、
私はあまり読んでいませんので、
これ程度にしかリストアップできません。
何かしら参考になれば、幸いです。

片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』は、昔でいえば、
1964年の年間ベストセラー、大島みち子・河野実『愛と死をみつめて』
の現代版というところでしょう。

*『世界の中心で、愛をさけぶ』片山 恭一 小学館文庫 2006/7/6

*『愛と死をみつめて ポケット版』大島みち子, 河野実 だいわ文庫
2006/2/9

もっと色々と多くの作品を読んでいれば、と悔やまれます。

 ・・・

いよいよ次回から
私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」を
紹介してみようと思います。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「私の読書論162-小説の王道、それは恋愛小説か?(2) ハッピーエンド型・悲恋型」と題して、今回も全文転載紹介です。

<私の選ぶ「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」>への助走として、恋愛小説について語っています。
なにしろ、恋愛小説の読書量が少ないので、あまり適切な例を挙げられず、説得力のない文章になっています。
今更どうこう言っても仕方がないので、少しずつでも新規に有名な作品を読み足しながら進めていこう、と思います。

 ・・・

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2022.09.15

私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?-「楽しい読書」第326号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-326号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年9月15日号(No.326)
「私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年9月15日号(No.326)
「私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?」
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 今回は、「文学の」といってもいいかもしれませんが、
 「小説の王道とは恋愛小説ではないか」
 という疑問について考えてみます。

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  ~ 小説の王道は恋愛小説である ~
 「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試みへの序
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●小説とは、人生を描くもの

 ●恋愛小説のパターン

 ●モーム『世界の十大小説』では

 ●「世界の十大(重大?)[小]恋愛小説」の試み

 ●例(1)――ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』

*ロバート・ネイサン/著『ジェニーの肖像』
(井上 一夫/訳 ハヤカワ文庫 1975/3)

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(大友香奈子/訳 創元推理文庫 2005/5/23)
―妻を亡くし幼子を抱える童話作家と、妻であり母であった女性を
 思わせる海の精との日々を描く『それゆえに愛は戻る』を併録。
 『ジェニーの肖像』は新しい訳でこちらの方がいいかも……。

 

 ●例(2)――北杜夫『神々の消えた土地』

『神々の消えた土地』北杜夫/著 新潮文庫 1995/8
―《幻の処女作を四十年ぶりに完成した瑞々しい長編》。

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『ダフニスとクロエー―牧人の恋がたり』呉茂一訳 角川文庫 1951年

 

 ●例(3)――ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』

ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』
村上 博基/訳 ハヤカワ文庫NV 1973/7/1

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 ●例・特別編――「野菊の墓」、『高慢と偏見』

伊藤左千夫『野菊の墓』新潮文庫 1955/10/27

ジェイン・オースティン『高慢と偏見』小尾 芙佐/訳
光文社古典新訳文庫 2011/11/10
〈上〉(359ページ)

〈下〉(375ページ)

ジェイン・オースティン『自負と偏見』小山 太一/訳
新潮文庫 2014/6/27 (649ページ)

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「私の読書論160-小説の王道、それは恋愛小説か?」と題して、今回は見出しのみの紹介です。

中身はあまりないので、といいますとウソになりますが、あまり文章としてまとまっていないので購読者限定(!?)とします。

もし気になりましたら、ぜひ定期購読を!

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