古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】
2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2023(令和5)年10月15日号(No.352)
「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
前回に引き続き、本と本屋の世界といいますか、業界について、
「元本屋の兄ちゃん」として、本好き・読書好きの人間として、
私なりに考えていることを書いてみようと思います。
前回は、朝日新聞の記事「本屋ない市町村、全国で26%~」を基に、
書店が生き残る方法など、私なりの考えを書きました。
再販制度をやめよとか、雑誌販売についてとか、
書店の選書について等々。
今回はその続きで、出版業界における改革について、
私なりの案を書いてみましょう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
- 日本の本は安い!? -
~ より良い本作りのために ~
本の価格を1.5倍に、著者・出版社・書店に厚く配分する
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
●日本の本は安い!?
以前読んだ雑誌の記事によりますと、
海外の本の値段を日本のそれと比べてみると、
およそ1.5倍だというのです。
どのように比較したかといいますと、
どんな作品だったかは忘れましたが、
日本でも海外でも翻訳されている古典の名作を比較したわけです。
たとえていえば、ドストエフスキーだとか、ですね。
日本なら文庫本で出ていますが、
海外でもポケットブック判で出ていたりするわけです。
それを比較する。
翻訳作品ですから、著書以外に翻訳者の翻訳料も含まれるわけです。
編集や営業やらなんやらの出版社の取り分と、
それに物の本としての原材料費のようなものが加算されます。
そこに、流通業者の取次や書店の取り分が加算されたものが、
最終的な本の値段になるわけです。
日本の本は海外のものに比べて安い、というわけです。
本の値段が安いと何が問題かといいますと、
それぞれの段階で取り分が少なくなる、ということです。
取り分が少なくなれば、それだけ経済的に生活が苦しくなる、
ということになります。
●本の値段を上げてみれば?
そこで、本の値段を上げてやれば、それぞれの取り分が増え、
余裕ができ、やたらと仕事をしなくても生活が楽になるわけです。
本を書く人(著者や翻訳家など)は、
じっくり時間をかけて作品と取り組むことができます。
出版社は、下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとばかりに、
本をやたら点数出す必要もなくなります。
売れる本の冊数が少なくなっても一冊当たりの取り分が増えれば、
その分補うことができます。
こうして著者や出版社側の条件をよくすることができます。
すると、よりよい作品が生まれる可能性が高まります。
次に、流通側です。
流通側の取次は、現状では基本的に本を動かせば(送品・返品)、
お金が入ることになっています。
また、どちらかといえば、比較的大きな会社がやっていますので、
現状でも本さえ出版され、時に売れれば、もうけは出るはずです。
取次は現状のままでも本の値段が上げれば、
もちろん、取り分も少しは上がるはずです。
問題は、今急速に減少している本屋さん(書店)です。
パパママストア的な地方の小さな書店や、
それに毛が生えたような中小の書店でも、
本が売れにくい現状で、一方で出版社がやたら本の点数を出すので、
一冊の本をじっくりと時間をかけて売ることができにくくなっています。
新刊本でいい本があったとして、
次々と本が送られてくるので、限られたスペースでは置ききれず、
一定の期間でどんどん本を置き換えていくことになり、
口コミで徐々に読者が増えてきている状態になったとしても、
すでに地元の本屋さんには現物がない、という状況が生まれてきます。
また、都市部の繁華街にある大手の有力書店でも、
店舗の賃貸料が高騰し、本屋の取り分だけでは
もうけが出ない状況になってきています。
そこで今、新刊書店では、粗利の多い他の物品販売と組み合わせたり、
カフェなどを併設したりして、
もうけの取り分を増やすように工夫しています。
しかし、これも新たな業態への転換といっていいわけで、
新たな勉強が必要になります。
もちろん他の業界でも同じようなことが起きています。
何も書店だけのことではありません。
しかし、従来から大きく変化している業界の一つであることは事実です。
●本の価格を1.5倍に
まずは、本の価格を50%ほど値上げします。
で、増やした分の20%を書店の取り分に、
10%を著者に、15%を出版社に、残りの5%を取次に、と分配する。
細かな数字は別にして、大雑把に言ってこんな感じです。
現状では書店のもうけが少なすぎる(22%程度)ので、
専門家を雇うというのが、むずかしくなっています。
パパママストアや店主とアルバイトやパートさんでやっている、
という小さな本屋さんも少なくありません。
すると専門家は店主ぐらいで、後は経営はおろか、
本の知識も十分でない人が店頭に立つ、ということになります。
なにしろ本はあらゆるジャンルにまたがっているのですから。
文学は分かっても科学は分からないとか、
絵本や児童書、学習参考書が分からない、
今はやりのゲーム本やコミックが分からない、
ビジネス書や教養書や実用書のなんたるかが分からないとか、
専門書に至っては……。
スーパーの粗利が25%ぐらいといわれています。
22%ならそれほど変わらないじゃないか、といわれるかもしれません。
本は置いておいても腐らないし、毎日入れ替える必要もないだろう、と。
実は本も生ものなのです。
旬というものがあります。
雑誌はもちろん、新刊書籍であっても。
コロナ禍の際に、怪しげな内容のものも含めて、
いろんな感染症の本が出ました。
タイムリーにその時その時、読者が求めているものを供給する、
というのも出版の在り方です。
人気作家の売れ行き良好書や人気シリーズ、
古典だ名作だといった定番商品だけ置いていても、商売にはなりません。
インチキ本や怪しい本も色々出版されますし、ボーダーの本もあります。
そんななかで、
新しい時代の名著名作をフォローしていかなくてはいけません。
見極めるための勉強が必要になります。
本が売れない時代だといわれながらも、
一方で、爆発的に売れる本――ベストセラーが生まれることもあります。
何が売れるか分からない部分があります。
だからこそ、下手な鉄砲式に出版社はあれこれと点数を出すのです。
書店のことはその辺にして、次に進みましょう。
●より良い本作りが可能に
出版社と著書について。
著者の取り分は、印税と呼ばれて、平均10%といわれていました。
ところが、昨今ではこれがだんだんと下がってきているといわれます。
特に新規の(実績のない)著者の場合はかなり押さえられる、と。
これではいい本を書こうとしても、時間をかけて資料を準備し、
文章を推敲し、よりよい原稿にしようすることがむずかしくなります。
日本の場合は、出版エージェントといった職業がないので、
多くの作家が個別に出版社と交渉することになります。
どうしても作家側の力関係は弱くなり、
専業作家は数をこなすような仕事になり、自転車操業になってしまい、
よりよい作品を生み出すことがむずかしくなります。
出版社は、本の部数が出れば出るほど、一点の本が売れれば売れるほど、
もうけが増えるようになっています。
ベストセラーのような本が出れば、初めてもうけが増えるのです。
本が売れないといわれる時代になり、一点当たりの売上部数が減り、
本の価格が低ければ、もうけも減ってしまいます。
そこで、本の点数を増やして一発を当てようとするのです。
あるいは、数でなんとかもうけを出そうとします。
著者への印税を押さえ、経費を節減して。
出版社が点数を出す理由の一つに、
各書店の売場の割り当てを確保する、という意味合いもあります。
大手といわれる出版社の場合、
新刊売場の自社の面積を確保・維持するために
毎月同数の本を出す必要があるわけです。
そのため、常に一定の水準の本を確保するというのはむずかしいもので、
実績のある人に原稿を依頼するということが多くなります。
結果、同じ著者の似たような本があちこちから出る、
という現象がおきます。
せめて本の価格が高くなれば、
経費を差し引いたその分、もうけの幅が増えます。
本のもうけが増えれば、
ムダに本の出版点数を増やす必要もなくなります。
いい本だけを出そう、とすることが可能になります。
●「軽い」本は電子版で
今の出版社は、先ほども書きましたように
「下手な鉄砲数撃ちゃ当たる」というような傾向を感じます。
とにかく点数を出して一発当ててやろう的な。
この業界は一発当たれば一気に儲かる、
という仕組みになっているそうです。
しかし、実際にはそんなに玉はないものです。
確かにネットにはいろんな文章があります。
名のある人が色々と書いているのは事実です。
それらを適当にまとめても本になります。
そんな風に作られた本もかなりあります。
あるいは、
昔なら総合雑誌などに一本の記事として出されたような文章が、
色々と実例やデータを交えたり、
イラストや図表をいれてよりビジュアル的にわかりやすく読みやすく、
ズバリ言えば水増しをして一冊にまとめる、
といった本作りもされています。
そういう私から見ると、軽い本が多く出されています。
こういう本は紙の本で出す必要はありません。
どうしても出したいのなら、電子版で出せば、
資源の無駄遣いも減るだろうと思います。
それでも売れるような「良い本」と認められれば、
その時点で「紙で残す」という選択肢を採ればいいのです。
電子版についていいますと、
日本の電子版は紙の本に比べてお高いようです。
といいますか、紙の本の方が安いという言い方もできますね。
●「良い本」を作れる環境を!
まとめ的にいいますと、
現状ではまず本の値段を上げてそれぞれの取り分を増やす。
そうして、著者・出版社の「良い本」を作れる環境を整え、
書店がそれらの「良い本」をじっくり時間をかけて売れる状況にする。
――というところでしょうか。
・・・
書店の改革といいますか、最近の書店の傾向といいますか、
カフェを併設するとか、専門店化するといったことについては、
また次の機会に考えて見たいと思います。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
本誌では、「私の読書論175-出版業界―または本と本屋のこと」と題して、今回も全文転載紹介です。
今回は、主に書店側から出版社・著者について考えてみました。
ふだんから思っていることの一つが、本を出しすぎじゃないか、ということでした。
35年ほど前、本屋さんで働いていたころから感じていることです。
当時で、年間4万点ぐらいだったかと思います。
それでも多いと感じていたのですが、今では8万点を越えているそうです。
それでも最近では少し反省されたのか、横ばいになっているとか。
色々なレベルの本が出るのはいいことですが、点数が多くなりますと一般の書店では置ききれません。
売れる前に返品せざるを得ないというケースも出てきます。
そうしないと毎月次々と新刊が送られてくるからです。
この本は売れると持っても、次の新刊が出て来ると考えなければいけなくなります。
お客様が新聞の書評など切り抜いて、この本ありますか、と来られるのは、本が出てたいてい二ヶ月後ぐらいです。
書評が新聞や雑誌に出るころには、書店の店頭にはない、というケースも少なくありません。
その際、注文を出してもこの段階では返品にまわっているケースが多く、出版社品切れで帰ってくることもよくありました。
本を選んで出して欲しい、というのが書店員側の希望でしたね。
今も同じです。
著者や編集者のみなさまでどうしても出したい本があるというのなら、まずは電子版で出して、ようすを見るというのをオススメしたいものです。
それで「売れ(てい)る」となったら、紙で出す、というぐらいでちょうどいいのではないか、という気がします。
・・・
*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ
Recent Comments