2023.08.31

<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-楽しい読書349号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
 東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年8月31日号(No.349)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・
 東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」
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 一回遅れてしまいましたが、
 「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から」の三回目
 「集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。」
 からの一冊を紹介します。

 先号でも書きましたように、

 大阪も連日35度を超え、時に37度、38度といった猛暑の日々、
 予定していた、東野圭吾『白夜行』が読み切れず――
 文庫本860ページ、十年ほど前に一度読んでいるので大丈夫、
 と軽く見ていたのですが、メモ取りしながら読むと……。

 時間切れとなり、予定を変更することになってしまいました。

 
新潮文庫の100冊 2023
https://100satsu.com/

角川文庫 カドブン夏推し2023
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2023 | 集英社文庫
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/

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 ◆ 2023年テーマ:青春の思い出も背景に散りばめられた一冊 ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)

  集英社文庫・東野圭吾『白夜行』-昼と夜または光と闇、明と暗-

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 ●集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。

どんな作品が選ばれているのかといいますと――

★映像化する本よまにゃ(3) [既読作品]0

★ワクワクな本よまにゃ(18)0

★ハラハラな本よまにゃ(19)人間失格 白夜行

★ドキドキな本よまにゃ(15)0

★フムフムな本よまにゃ(26)23分間の奇跡 舞姫 星の王子さま
                夢十夜・草枕    

全81冊中、既読作品は、6冊だけ。
海外作品や古典的名作が選ばれていない
ということも理由ではありますが、ただただ、私自身、
最近の日本の作家の作品をほとんど読んでいない、ということですね。

新たな作家さんと出会ういい機会なはずなのですが、
今年は、子供の頃や思い出をテーマに選んだ感じですので、
少ない既読作品の中から、最も最近の作品である、
東野圭吾さんの『白夜行』を取り上げます。

 

・東野圭吾『白夜行』集英社文庫 2002/5/25

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 ●東野圭吾『白夜行』

前回の角川文庫は、「わが青春の思い出の一冊」として、
筒井康隆『時をかける少女』を紹介しました。

今回は、わが青春の日々の思い出を背景に散りばめた、
といいますか、
私の青春時代の1970年代辺りから90年代辺りまでの
約20年を背景にしたクライム・ストーリーです。

巻末解説の馳星周さんによれば、ノワールとのこと。
ノワールというのは、私の思うところでは、
暗黒界、闇の世界の住人たちによるクライム・ストーリー
というところでしょうか。

11歳の小学生時代から30歳まで19年にわたり
太陽の光の下を歩いたことのないという、少年と少女の日々の物語。

19年の歴史を綴るわけですから、
やっぱり文庫本で860ページは必然だったのでしょうね。

読み応え十分で、あっという間に読み終えられる名作です。
(こういうと、ちょっと矛盾を感じるかもしれませんね。
 でも、年のせいなのか、集中力がないのですね。)

 

 ●始まりは19年前、主人公たちは小学5年生

冒頭、いきなり「近鉄布施駅」が登場します。
私の家の最寄り駅でもあります。
小説では、駅を出ると西に行くのですが、私の家は東です。

西へ行きますと、わが故郷・東大阪市ではなく、大阪市になります。
東野圭吾さんは大阪市出身ですので、いってみれば、
故郷を描くということになるのでしょうか。

230823byakuyakou-fuseeki

「第一章」
「事件」の舞台も、わが故郷に近い場所で、
描かれる時代も、わが青春の日々の1970年代のようです。
《三月に熊本水俣病の判決がいい渡され、新潟水俣病、四日市大気汚染、
 イタイイタイ病と合わせた四大公害裁判が結審した》とありますので、
これは昭和48年(1973)のこととわかります。

公園近くの、今では子供の秘密の遊び場となっている、
工事途中で廃ビルになった建物で、近所の質屋の主人・桐原洋介が
細身の刃物で刺し殺される事件が起きます。

これが発端。

担当刑事の笹垣らが、捜査に当たります。
質屋の主人には妻・弥生子と一人の小学5年生の息子・亮司がいて、
店には店長の松浦がいた。

桐原は当日、銀行で100万円をおろしたのち、手土産にプリンを買って、
店の常連客の一人、小学5年生ながら美人の雪穂という娘を持つ、
シングルマザー・西本文代の元を訪れていた……。

結局、事件は迷宮入りとなり、
容疑者とも目された西本文代はガス中毒事故で死亡。
発見者は娘の雪穂と部屋の鍵を開けた不動産屋。

 

「第二章」
雪穂は、母の死後、
父方のお花やお茶の先生をしている親戚の上品な婦人の養女となり、
今や私立女子校の中学三年生となっていた。
他校の男子生徒から盗撮されるほどの美人の人気者であった。
テニス部の美少女が襲われ、偶然発見したのは、雪穂と友人の江利子。
一方、桐原の息子・亮司は地元の荒れた公立大江中学校の生徒であった。
ここの生徒が雪穂の盗撮をしていたのだった。

 

 ●ストーリーの時代背景

こういう風にストーリーを追っていると、
いくらスペースがあっても追いつきませんので、
物語の背景などについて書いてみましょう。

冒頭の四大公害裁判の結審に現れているような、
その時代を示す社会的出来事の記述が各所で登場します。

何しろ19年の流れを持つ小説ですので、
その時代時代の背景がストーリーにも適宜織り込まれることで、
臨場感といいますか、時代感覚が明らかになります。

また、主人公たちの成長が、特に亮司の生業が
ちょうどパソコンやゲームの普及や発展の歴史と相まっていて、
インベーダーゲームや、ワープロ、PCなどの固有名詞が
時代背景を現実的にみせています。

私のようにそれなりに、
この時代を青春時代のひとときとして過ごしてきたものには、
とても郷愁の湧くものがあります。

松田聖子の聖子ちゃんカットなんていうのも出てきましたね。

 

 ●昼・光・明の雪穂と夜・闇・暗の亮司

雪穂は、お花やお茶の先生をしているという、
上品なご婦人の養女となり、家庭教師を付けてもらったり、
私立のお嬢さま学校に進学、中学高校大学と進んでゆきます。

そして、大学のソシアルダンス部に入部、
合同練習相手の永明大学の大企業の御曹司のエリート男性と知り合う。
結婚後も貪欲に自分の夢の実現に向けて努力を続け、
自分の資産で遂にアパレルの店を持ち、離婚後も事業を拡大、
経営者として成功を収める。

というように、
雪穂は光、昼日中花咲く明るい世界を歩んでいるように見えます。

 

一方、亮司は、荒れた地元の公立の中学に進学し、
危ない世界にも足を踏み込んでゆきます。

1985年(事件から12年後)の年末12月31日、
当時一緒にやっていたパソコンやゲームの店『MUGEN』の閉店後、
同僚の従業員の友彦や弘恵が来年の抱負を話すとき、

 《亮司の答えは、「昼間に歩きたい」というものだった。/
  小学生みたい、といって弘恵は桐原の回答を笑った。
  「桐原さん、そんなに不規則な生活をしてるの?」/
  「俺の人生は、白夜の中を歩いてるようなもんやからな」》p.436

ともらすように、亮司は日の当たらぬ闇、暗い世界の住人のようです。

「俺の人生は、白夜の中を歩いてるようなもんやからな」――
まさにこれがタイトルになっているのですね。

230823byakuya

 

 ●雪穂の場合

しかし、そんな雪穂も、物語の終わりの方で、こう言います。

 《「(略)人生にも昼と夜がある。(略)人によっては、
  太陽がいっぱいの中を生き続けられる人がいる。
  ずっと真っ暗な深夜を生きていかなきゃならない人もいる。
  で、人は何を怖がるかというと、それまで出ていた太陽が
  沈んでしまうこと。自分が浴びている光が消えることを、
  すごく恐れてしまうわけ。(略)」》

 《「あたしはね」と雪穂は続けた。
  「太陽の下を生きたことなんかないの」/
  「まさか」(略)「社長こそ、太陽がいっぱいじゃないですか」/
  だが雪穂は首を振った。
  その目には真摯な思いが込められていたので、夏美も笑いを消した。
  「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。
  でも暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから。
  太陽ほど明るくはないけれど、あたしには十分だった。
  あたしはその光によって、夜を昼と思って生きてくることが
  できたの。わかるわね。あたしには最初から太陽なんかなかった。
  だから失う恐怖もないの」/
  「その太陽に代わるものって何ですか」/
  「さあ、何かしらね。夏美ちゃんも、
   いつかわかる時が来るかもしれない」》p.826

230823byakuya-taiyou

「太陽の下を生きたことなんかないの」
「あたしの上には太陽なんかなかった。いつも夜。」といい、
それでも「暗くはなかった。太陽に代わるものがあったから」と。
太陽に代わるものが何かはわかりませんが、
「その光によって、夜を昼と思って生きてくることができたの」
といいます。
さらに、
「あたしには最初から太陽なんかなかった。だから失う恐怖もないの」
という。

こういう振り切った生き方をすることになる原因とは何だったのか、
そして、
そんな自分に力をくれた太陽に代わるものとは何だったのでしょうか。

いよいよラストでは、謎解かれる部分もあれば、
何だったのか明らかにされない部分もあり、
深い内容の物語です。

 

 ●現実に負けないで戦う者同士?

全編、主人公を視点にするのではなく、周辺の人物を視点に、
主人公たちの行動を垣間見せてゆくという技法を取っています。

この手法が時に謎を深めながら、時に謎解きをほのめかせながら、
読者を引っ張ってゆく力になっています。

最終的に、雪穂と亮司の関係はどうだったのでしょうか。
明らかにされているのは、小学生時代、図書館で二人は会っていた、
同じ本を読んでいたということ、ぐらいです。

二人の関係は、
昼と夜または光と闇、明と暗の補完しあう関係だったのでしょうか。

あるいは、闇の中を光を求めて、互いに手に手を取り合い、
助け合って歩む者同士、という関係だったのでしょうか。

それとも全く違う形の何かであったのでしょうか。

作者は何も書いていませんので、私たち読者にはわかりません。
ただ自分なりに想像するだけです。

ラストを思いますと、なんらかの形で、ほのかな希望を胸に、
反骨精神でもって、現実の社会の重さに負けないように、
歯を食いしばって上を目指す者同士だったように思います。

そして、その戦いはまだ終わってはいないようです。

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(3)集英社文庫・東野圭吾『白夜行』青春の思い出も背景に散りばめられた一冊」と題して、今回も全文転載紹介です。

わが青春時代の思い出が色々と時代背景の説明として登場する一編です。
冒頭、わが故郷である東大阪市一の繁華街を持つ近鉄布施駅が登場します。
1973年から始まる19年間の物語で、主人公の一人の少年~青年は、パソコンやゲームの世界を背景に生きていくので、インベーダー・ゲームやスーパーマリオ、ワープロやPCなどの固有名詞が出てきます。
松田聖子の聖子ちゃんカットや、ソノレゾレノ時代を代表する歌手の名なども次々と出てきます。
オイル・ショックの時のトイレット・ペーパー騒動なども背景の話として登場します。

ストーリーそのものではないのですが、こういう時代を思い返す読み方も楽しいものです。

映画やドラマにもなったようですが、私は見ていないので、本文中でもふれていません。
見ていたら、また別の楽しみもあるのでしょうね。
あの役はこの俳優さんじゃないよとか、この俳優さんがよかったとか。
「見てから読むか、読んでから見るか」みたいな……。

 ・・・

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2023.08.12

8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文-週刊ヒッキイ第647号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』【別冊 編集後記】

第647号(No.647) 2023/8/12
「8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文」

 

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  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第647号(No.647) 2023/8/12
「8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文」
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 今年も、暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
 今年はまた一段と暑い夏となっています。
 大阪でも連日35度以上、37度、38度という日もあります。

 で、昨年同様、今年の八月も勝手ながら、合併号として、
 第二土曜日(12日、<国際左利きの日>の前日)にお届けします。

 ・・・

 8月13日<国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY>を前に、
 この記念日について、および
 この日に対するマスメディアの報道への注文(?)を
 書いておきましょう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ◆ 始まりは1976年アメリカ ◆

 8月13日は「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」

-メディアに注文-
  左利き問題への本質的な取り組みを根底に置いて欲しい

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」について

昨年も書いたことなのですが、
8月13日は「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」です。

毎年この日に関しては、ブログ等で書いていますように、
日本語版 Wikipedia「左利きの日」等で紹介されている、

《1992年8月13日、イギリスにある「Left-Handers Club」により制定》

という、“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説は、
あくまでもこの会の「主張」であって、真実ではありません。

正しくは、1976年アメリカで始まった、が正解です。

英語の「International Lefthanders Day」
「International Lefthander's Day」等で検索しますと現れます、
英語版のWikipediaやその他の左利き系サイトには、

(私の英語読解力に誤りなければ)
1976年、アメリカ・カンザス州の州都トピカに開店した
左利き用品店のオーナー、ご自身左利きである、
ディーン・キャンベル(Dean R. Campbell)さんが、
開店一周年を機に左利きの人の会(Lefthanders International)を始め、
左利きの人の生活向上のために左利き用品の普及を目指し、
開店記念日にあたる<8月13日>を
「国際左利きの日」(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)という
記念日に制定したのです。

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(画像:英語版ウィキペディアの「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」の項目冒頭――下線部分:「国際左利きの日」は「レフトハンダー・インターナショナル」の創設者ディーン・R・キャンベルによって1976年に最初の祝祭が行われた)

 

イギリスの「Left-Handers Club」は、
イギリスの左利き用品専門店「Anything Left-Handed」の顧客を
もとにした左利きの人の会です。
「Anything Left-Handed」は、2018年に開店50周年を迎えたという、
1968年創業の老舗ですが、
当初は右利きの人が始めた隙間狙いの業態でした。
その後、左利きの人がオーナーとなり現在に至るのでした。
ロンドンという大都会での営業ということで、
特に宣伝に知恵を絞らなくても、世界中からお客さんが集まり、
結構経営的には、そこそこだったのでしょうね。

 

一方、州都とはいえ、アメリカの田舎での営業ということで、
1975年に開業した後発のお店であるキャンベルさんの左利き用品店は、
色々な工夫と宣伝が必要だったのかもしれません。

そこで、こういうイベントを考案されたのでしょうか。

イギリスの方は、キャンベルさんちが一足先に始めた
この記念日にあとからのっかったという形でしょうか。
(ほんとうのところは存じませんが……。)

 

 ●<国際左利きの日>の日本での報道について

さて、この8月13日の<国際左利きの日>ですが、
当日、テレビのニュース番組やネットのSNS等で、
「今日は何の日?」的に紹介、取り扱われることがよくあります。

そんな今までに見たテレビや雑誌、ネットの報道や投稿等について、
私の思うところを書いてみます。

 ・・・

先ほども書きましたように、
この日のテレビ番組やネットの投稿などでよくあるのは、
「今日は何の日?」的なニュースです。
それらではもっぱら次のような扱いが為されてきました。

まずはこの記念日について、

(1)「8月13日は<国際左利きの日>ですといい、
左利き用品の普及や生活向上を考える記念日で、先に書きました、
“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説を紹介する。

次に、左利きの人の日常生活での不便について、

(2)左利きの人の日常の不便の具体的な例として、
左利きの人は右手用のハサミの扱いで困るとか、
自動改札機が使いにくいとか、ファミレスのお玉が使いにくい等――
左利きの人の証言を流す。

という形が多いのですね。

(2)に関しましては、もちろん間違いではないのですが、
そもそもなぜ子おような現象が起きるのか、
どのような理由でこれらの左利きの人の不便が生まれるのか、
という根本の考察が見られません。

現象面のみが取り上げられるだけで、
それでは根本的な解決にはつながりません。

ただ単に記念日を取り上げただけの、
「気遣いましたよ」というポーズだけの発信です。

 

 ●「左利きの日」についてのメディア・発信者への注文

ここで、私からの注文です。

(あ)“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説をやめ、
 “1976年アメリカのキャンベル”説の正しい情報に差し替える。

(い)左利き用品の紹介の前に、なぜそのようなものが必要か、
 を「利き手の違い」という本質から解説する。
  
(う)現状の社会は、右利き優先/偏重の社会――「右利き社会」だ、
 という事実を示し、右利きの人は多数派ゆえに「恵まれた存在」だ、
 という認識を明らかにする。

 

 ●誤りを正したいという願い

(あ)“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説をやめ、
 “1976年アメリカのキャンベル”説の正しい情報に差し替える。

冒頭に書きましたように、
日本語版 Wikipedia「左利きの日」等で紹介されている
「1992年イギリス制定」説を鵜呑みにしたかのような、
情報を垂れ流している人たちがいる、というのが
いつも気になっているのです。

とにかく、この日本での「1992年イギリス制定」説はなんとかしたい、
という願いです。
それは何も、イギリスの左利きの会の人がマネした、とかパクったとか、
非難するというのではなく、もっと単純に
「もっと長い歴史があるのですよ」と強調したいということです。

左利きの人たちは、
「もっと昔から不便を解消しようと努力してきたのだ」
という事実を明らかにしてほしいのです。

日本語版 Wikipediaをチェックする係の人もいるらしいのですけれど、
どこにいえばいいのかわかりません。

 

 ●利き手の違いという本質論を

(い)左利き用品の紹介の前に、なぜそのようなものが必要か、
 を「利き手の違い」という本質から解説する。

テレビ番組の「左利きの日」のトピックとして、
左利きの不便について、右利き用の道具を左手で使ったり、
左利きの人のインタヴューを交えたりした動画を流す場合もあります。

左利きの不便について、現象面として確かにそのとおりなのですが、
そもそもなぜそういう状況になっているのか、
という本質について考えて欲しいのです。

 

前号

第646号(No.646) 2023/7/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
 新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
 左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」
2023.7.15
左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ『ぼくはイエローで…』
-週刊ヒッキイ第646号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/07/post-e456f6.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/bef4ad5a52cfa242388eb430fbc39b3f

 

で、ブレイディみかこさんの
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のなかの、
エンパシーについて「自分で誰か人の靴を履いてみること」
という場面があります。

それに対して左利きの問題は、
「靴の左右を入れ替えて履く」ようなものだ、と書きました。

「右利き優先/偏重社会」で生きてゆく左利きの生活は、
左右の靴を入れ替えて履くような違和感があるものだ、という意味です。

以前、音楽に関しての号では、『マンウォッチング』にあった、
指組の例を挙げました。

第627号(No.627) 2022/10/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(6)左利きは楽器演奏に不利か?」
2022.10.1
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)
楽器における左利きの世界(6)不利な楽器-週刊ヒッキイ第627号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-6d2221.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7142edd7f782a8478966aa6006f16d06

 

指組も人により、決まった組み方があり、右手の親指が上になる人、
逆に左手の親指が上になる人がいます。
それを逆に組むと何かしら違和感があり、しっくりきません。
それが利き手の違いに似たようなものだ、と説明しました。
 

『マンウォッチング(上)』デズモンド・モリス 藤田統/訳
 小学館ライブラリー13 1991/11/1
「動作」p.20の指組イラスト

220930manwatching-yubigumi 220930manwatching-yubigumi-2

 

 

昔、左利きの不便について右利きの人に話した際に言われたことは、
「(左利き用の道具がなくて不便だというけれど、
 右手があるのだから、右手用を)右手で使えば済む問題」と。

「利き手・利き側とはなにか」という本質を知解していない発言です。

右利きの人に「どうして右手を使うのですか」と問いかけたとき、
こう答える人がいました。
「右手を使うように教えられたから」と。

例えば箸を使うとか字を書くとかの場合は、
そういうこともあるかもしれません。

実際に、字を書くのは右だけれど、箸は左という左利きの人がいます。
箸を使うというのは食事の際の行動で、早い段階から利用するものです。
一方、字を書くのは小学校に入る前、4、5歳ぐらいからでしょうか。

しかし、そもそも右利きの人の場合は、教えられなくても、
まず右手でものをつかむという行動に出ます。
左利きの子は、自然と左手が出ます。

教える教えないという段階よりも前に、そういう動作をするものです。

そういう利き手・利き側の性質をまずはしっかり理解できるように、
解説してほしいものです。

その上で、「右利き優先/偏重社会」で生きている
左利きの人の不便を伝えて欲しいのです。

 

 ●現状は「右利き優先/偏重社会」という「右利き天国」

(う)現状の社会は、右利き優先/偏重の社会――「右利き社会」だ、
 という事実を示し、右利きの人は多数派ゆえに「恵まれた存在」だ、
 という認識を明らかにする。

「左利きの不便」を裏から見れば、それは「右利きの便利」そのもので、
社会のあらゆる場面で、右利きを想定した状況が作られているのだ、
という事実をしっかり示し、右利きの人がいかに廻られた存在であるか、
ということを明確に示して、理解してほしいものです。

人は、自分が恵まれていると自覚したとき、余裕を持てたとき、
初めて人に「施す」という気持ちになるものです。

恵まれているからこそ、その一部でも人に分けてあげたい、
人と分かち合いたい、と思うものなのです。

右利きの恵まれた現状を知ることで、
他の立場の人への思いが生まれてくるものなのです。

 

今、右利きの人たちの多くは、自分たちの置かれている状況を、
「ふつう」と捉えているのではないでしょうか。

実は、それは「ふつう」ではなく、
主流派の、多数派の、優遇された立場なのだということを、
しっかり自覚して欲しいものです。

そういう報道をメディアの人たちには、心掛けて欲しい、
と私は思います。

 

 ●最後に――左利きの人のための実用書をもっと出版して欲しい

この手のニュースなどでは、
左利き用品のあれこれが紹介されるケースもあります。
それはいいのですけれど、たいていはありきたりなもので、
そんなの知ってるよ、というものも結構あります。

反面、左利きの本の紹介などはほとんど見られません。
その点をいつも残念に思ってきました。

ネットで、YouTubeなどの動画で、
なんでも勉強できる時代ではありますが、
いつでも手元に置いて参照できる紙の本の力は、
まだまだ捨てきれないものがあります。

 

昔から、左利きや利き手・利き側に関する科学的な研究本は
色々と出版されています。
とはいえ、最新の本といえるものがほとんどない状況です。

(2022年)
『左対右 きき手大研究』八田 武志/著 DOJIN文庫 2022/5/16
――日本の利き手研究の第一人者による、2008年発行のDOJIN選書版の
 増補文庫版

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(2021年)
『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き
「選ばれた才能」を120%活かす方法』加藤俊徳/著 ダイヤモンド社
2021/9/29
――左利き・利き側の科学解説書というより、<左利きの脳内科医>に
 よる“左利き応援本”というのが本当のところでしょうか。

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ただ最近では、ポツポツとではありますが、
左利き用の実用書の類いが出るようになっています。

左利き用のペン字練習帳とか、ギターのコード・ブックとか。

こういう本の方が、まさに実用性が高く、
科学的な解説書より需要があって、便利なものかもしれません。

 

(2021年)
『左利きギター専用! ギターコードブック』
ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス 2021/3/14

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(2020年)
『左利き用 誰でも一瞬で字がうまくなる大人のペン字練習帳』
萩原 季実子/著 アスコム 2020/7/23

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今年7月には、編み物の本が出ました。

編み物というのも、左利きの人にはむずかしいところがあるようです。

両手に針を持って編むものもあるでしょうけれど、
片手に針を持ってするという編み方もあるようです。

その場合、右手に針を持ってどうするこうする――
という教え方が基本になっているため、
左利きの人は二の足を踏むことも多いようです。

そういう人に朗報ですね。

(2023年)
『左利きさんのためのはじめてのかぎ針編み』佐野 純子/著
日東書院本社 2023/7/19

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《手芸好きの左利きさん必携の一冊ができました!
 【左利き専用】かぎ針編み入門書
 編み物を諦めていた左利きの担当編集者が、
 どうしても編めるようになりたくて作った一冊》

 

著者は、《右利きの母から初めて編み物を習》ったという、
文部省認定毛糸編物技能認定1級で、人形作家、左利きの佐野純子さん。

 ・・・

今後ともこういう左利きの人のための実用書が、
様々ジャンルにおいて出版されることを期待します。

 ・・・

毎年書いてきました過去の
<8月13日国際左利きの日>に関するブログ記事は、
以下↓のカテゴリからご覧になれます。

*『レフティやすおのお茶でっせ』〈8月13日国際左利きの日〉カテゴリ 

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本誌では、「8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文」と題して、今回も全紹介です。

<国際左利きの日>を前に、この記念日をニュース等で取り上げてくださるテレビ番組や、メディア、SNS等で個人的に発信してくださる人たちには、感謝の気持ちを表明しておきましょう。

しかし、これらのせっかくの好意に、どうしても素直になれない自分がいます。

それはなぜかと考えますと、やはり本当のところ、どうも当事者である私の心に響かない部分がある、ということです。

正確な事実が反映されていなかったり、現象面を撫でるだけで、本質に踏み込まない報道になっているからではないか、と思います。

そこで、今回こういう注文を書いてみました。

ご理解いただけると嬉しいのですけれど……。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』〈左利きメルマガ〉カテゴリ

 

 

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2023.07.31

<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・筒井康隆『時をかける少女』-楽しい読書347号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年7月31日号(No.347)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・
筒井康隆『時をかける少女』わが青春の思い出の一冊」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年7月31日号(No.347)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・
筒井康隆『時をかける少女』わが青春の思い出の一冊」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2023から――。

 昨年同様、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。

 第二回は、角川文庫から筒井康隆『時をかける少女』を取り上げます。

 

新潮文庫の100冊 2023
https://100satsu.com/

角川文庫 カドブン夏推し2023
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

集英社文庫 ナツイチ2023 この夏、一冊分おおきくなろう。
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2023 | 集英社文庫
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/

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(画像:新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023小冊子3点)

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 ◆ 2023年テーマ:わが青春の思い出の一冊 ◆

  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(2)
  角川文庫・筒井康隆『時をかける少女』
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 ●角川文庫 カドブン夏推し2023

カドブン夏推し2023/しらない世界とつながる!
13点 既読:0

カドブン夏推し2023/驚きの謎とつながる!
15点 既読:0

カドブン夏推し2023/語りつがれる想いとつながる!
22点 既読:D坂の殺人事件、蜘蛛の糸・地獄変、海と毒薬、檸檬、
      吾輩は猫である、坊っちゃん、こころ、走れメロス、
      少女地獄、注文の多い料理店、銀河鉄道の夜、馬鹿一、
      羅生門・鼻・芋粥、人間失格、
      ビギナーズ・クラシックス源氏物語(15点)

カドブン夏推し2023/心揺さぶるラストへつながる!
20点 既読:0

カドブン夏推し2023/大人も子どももみんながつながる!
25点 既読:アルケミスト、時をかける少女(2点)

五つのジャンルで95点の中から選べます。

既読といっても、角川文庫版ばかりではなく、
他社版も含めてのもので、近代の日本文学の名作ぐらいですね。
短編集に関しては、内容はそれぞれですので、表題作に関して、
というところです。

最近の作家やその作品は、私にとって、
結構知らない、読んだことのない作家・作品ばかり、
ほとんど手つかず状態です。
そこから選ぶのは非常にむずかしい。

というわけで、未読の作家・作品を選ぶのがいいのでしょうけれど、
新潮文庫では新顔作家を取り上げましたので、
今回は、思い出の作品ということで、既読の本の中から選びましょう。

 

 ●大人も子どももみんながつながる!―『時をかける少女』筒井 康隆

そんな中から選んだのは、
<大人も子どももみんながつながる!>25点中から

 ↓

『時をかける少女』筒井 康隆 角川文庫 新装版 2006/5/25

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(画像:筒井康隆『時をかける少女』と「角川文庫 カドブン夏推し2023」フェア小冊子)
(画像:筒井康隆『時をかける少女』と「角川文庫 カドブン夏推し2023」フェア小冊子の該当ページ)
 

思い出の一冊です。

ある意味で、古典中の古典ともいうべき一冊ですね。

1960年代のジュブナイルSFの名作で、
1970年代から、初々しいヒロインによる青春ドラマとして、
度々テレビ・ドラマに映画にアニメに、
と映像化され続けてきた作品です。

中学時代からSF作品には触れていましたが、
この作品もそういう中学生向けのジュブナイルSFでした
(原作は、学年別学習雑誌、学習研究社『中学3年コース』
 1965年11月号~『高校一年コース』1966年5月号連載)。

 ・・・

映像化作品については、本書の巻末の江藤茂博さんの解説
(「時をかける少女」の文彩(フィギュール))で紹介されています。

まずは、それら映像作品について書いておきましょう。

 

 ●「NHK少年ドラマシリーズ」第一作『タイム・トラベラー』

私が最初に見たのは、1972年1月1日~2月5日(6回)放送
「NHK少年ドラマシリーズ」の一作、『タイム・トラベラー』
(脚本:石山透 主演:島田淳子=浅野真弓)でした。

放送は、私が高校の三年生のお正月からですね。
毎回楽しみに見ていました。

この時間帯(夕方6時代)は昔から子供向け番組が放送されていました。
『ひょっこりひょうたん島』など人形劇が有名でしたが、
それまでの時間帯にドラマが放送されました。

好評で続編『続 タイム・トラベラー』
(昭和47年11月4日~12月2日/5回)も作られました。

『タイム・トラベラー』は、全6話。
原作よりも多くの登場人物を配置し、精神科のお医者さんらも登場、
早い段階でネタ――自分で発明した薬品で、
27世紀の未来からタイム・リープ(時間跳躍)してきた、
ケン・ソゴルが未来へ帰るための秘薬の実験の事故で、
中学三年生のヒロイン芳山和子がタイム・トラベラーとなった――
を割り、ヒロインと未来人の男性のタイム・トラベルの冒険を
科学者が解明しようとしたり、複雑なストーリーに仕立てています。
最終的な結末――過去や未来は変えられない――は同じなのですけれど。

 

今回、何十年ぶりかでシナリオを読んでみますと、
こういう内容だったか、と記憶のなさにびっくり。
印象が変わってきました。

原作は、文庫本100ページぐらいのが中編で、
割とストレートにストーリーが進みます。

連続ドラマということで、膨らませた部分があるということですね。

当時の男の子はタイム・トラベルのSFの部分とその冒険に、
女の子はヒロインの異常な事態による不安と「彼」との冒険に
心ときめかしたのでしょう。

 ・・・

「NHK少年ドラマシリーズ」では、もう一作、
筒井康隆の作品を原作とする名作がありました。

多岐川裕美主演で、テレパス(精神感応者)の七瀬と、
その仲間となる超能力者たちの冒険物語『七瀬ふたたび』です。
これは、人の心が読めるテレパスの飛田七瀬のシリーズ全三作の第二作。

私の選ぶ「NHK少年ドラマシリーズ」のベスト3の一つです。
(残りの一つは、新田次郎原作の『つぶやき岩の秘密』――
 石川セリが歌った主題歌「遠い海の記憶」が印象的でした。)

*参照:
・『タイム・トラベラー』石山透 大和書房 1984/2/1

――1972年、NHKドラマ『タイム・トラベラー』全6話、と
 続編『続・タイム・トラベラー 』全5話のシナリオ集。巻末に
 「NHK少年ドラマシリーズ放送作品リスト」、主題歌楽譜を収録。

・『タイム・トラベラー』石山 透 復刊ドットコム 新装版 2016/12/13

・雑誌『東京おとなクラブ 5号』(1985年6月1日)
 <タイムトラベラーと少年ドラマシリーズ>特集・号
――「NHK少年ドラマシリーズ」のリストと解説や、
 第一作『タイム・トラベラー』制作者のインタビューなど。

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(画像:角川文庫・筒井康隆『時をかける少女』(2006年新装版)と
「NHK少年ドラマシリーズ」シナリオ集『タイム・トラベラー』石山透・著(大和書房 1984/2/1)と
『カドカワ フィルム ストーリー 時をかける少女』原田知世主演 大林宣彦監督作品 角川文庫 ‎1984/11/1と
雑誌『東京おとなクラブ』5号(「NHK少年ドラマシリーズ」特集から『タイム・トラベラー』の一シーン写真)

・『七瀬ふたたび』筒井 康隆 新潮文庫 改版 1978/12/22
――テレパス(精神感応者)飛田七瀬シリーズ全三作の第二作の長編。
 第一作・連作短編集『家族八景』第三作・長編『エディプスの恋人』。

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(画像:筒井康隆『時をかける少女』と
テレパス(精神感応者)飛田七瀬シリーズ全三作の第二作の長編『七瀬ふたたび』(筒井 康隆 新潮文庫 改版 1978/12/22) 第一作・連作短編集『家族八景』 第三作・長編『エディプスの恋人』)

 ●大林宣彦監督、原田知世主演『時をかける少女』

二度目の映像化が、1983年7月公開の角川映画による
大林宣彦監督、原田知世主演『時をかける少女』でした。

連続ドラマと違い、一気に見せる映画ですので、
ストーリーも比較的ストレートに進行します。

主人公・芳山和子は高校生となり、
舞台も尾道と限定され、また違った雰囲気のお話になっています。

私はラストの薬学教室へ向かう場面で、
タイム・トラベルに関する記憶を奪われた、
大人になった芳山和子が“再来”したケン・ソゴルと出くわし、
何かを感じる和子の様子が印象的でした。

・『カドカワ フィルム ストーリー 時をかける少女』筒井康隆原作
大林宣彦監督作品 角川文庫 昭和59年 ‎1984/11/1

 

 ●その他の映像化作品

その他の映像化作品については、見ていません。

内田有紀主演のフジテレビ系の連続テレビ・ドラマがありました。
それは知っています。

また、この文庫本の新装版のカバーになっている、
劇場版アニメのことも知ってはいます。

懐かしさを感じたものの、改めてみるということはありませんでしたね。

私の場合、先の二作のイメージが強烈に残っていて、
他の作品を受け入れるのは、ちょっと……という気持ちだった、
ということでしょうか。

 

 ●『時をかける少女』の切なさと希望

改めて原作の『時をかける少女』にもどりましょう。

この作品の急所といいますか、象徴的存在がラベンダーの香りです。

文中にもありますように、香水に使われたりして、
よく知られた香りなのでしょうけれど、
私が思い浮かべるのは、北海道のラベンダー畑ですね。

ドラマ『タイム・トラベラー』では、実際にケン・ソゴルが北海道へ、
ラベンダーを探しに行きます。

このラベンダーの香りというのが、
この作品を非常にロマンチックなものにしています。

お花と少女と、幼い頃からの同級生だったはずの男の子――
その彼との別れとともに、共に過ごしたはずのその記憶すら失われる、
という切ない初恋の物語。

《ただ、ラベンダーのにおいが、やわらかく和子のからだをとりまく時、
 かの女はいつもこう思うのだ。/
 ――いつか、だれかすばらしい人物が、
 わたしの前にあらわれるような気がする。
 その人は、わたしを知っている。
 そしてわたしも、その人を知っているのだ……。/
 どんな人なのか、いつあらわれるのか、それは知らない。
 でも、きっと会えるのだ。そのすばらしい人に……
 いつか……どこかで……。》p.115

 

切なくも優しい物語です。

多くの人は映像化作品でストーリーはご存知だったろうと思います。
しかし、実際に読んでみるのとではまた違うでしょう。

小説の方が、もっと心優しいお話、という感じがするのは、
私だけでしょうか。

他の筒井康隆さんの小説をほとんど読んでいませんので、
よくわかりませんが、筒井さんのものとしては、
本当にストレートな小説なのかもしれません。
ジュブナイルならでは、かもしれませんけれど。

若い人も老いたる人も、一度は読んでいただきたいものです。

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(2)角川文庫・筒井康隆『時をかける少女』わが青春の思い出の一冊」と題して、今回も全文転載紹介です。

青春時代の思い出の一冊でもあり、私より下の世代の方にも映像化作品でおなじみの一作ではないでしょうか。
それぞれの世代毎に作品は違っているでしょうけれど、それぞれの思い出をお持ちのことと思います。
しばしの間、思い出に浸るのもよいかと思います。

 ・・・

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2023.06.30

私の読書論172-2023年岩波文庫フェアから上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」-楽しい読書344号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】

2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年6月30日号(No.345)
「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!
 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」
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 本来は、月末で
 古典の紹介(現在は「漢詩を読んでみよう」)の号ですが、
 今月は岩波文庫のフェアが始まっていますので、
 過去何回か取り上げています。
 最近のものでは↓

2022(令和4)年6月15日号(No.320)
「私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―『語録』『要録』
―<2022年岩波文庫フェア>名著・名作再発見!から」
2022.6.15
私の読書論159-エピクテトス『人生談義』―<2022年岩波文庫フェア>から-楽しい読書320号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/06/post-98be91.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6a52aba9e4f9468c46611a84cd31f14f

2019(令和元)年6月30日号(No.250)-190630-
「2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...」
2019.6.30
2019年岩波文庫フェア「名著・名作再発見!」小さな一冊...
―第250号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2019/06/post-b015ac.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e3a5116ac2b0a7abfec291e180ec97ce

 夏の文庫三社のフェア同様、毎年恒例にしたいと思いつつ、
 情報を集め損ねて、飛び飛びになっています。

 今年はなんとか間に合ったようです。

 

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 - 異類男女の恋情 -

  ~ 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」 ~

  2023年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から
 
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 ●2023年岩波文庫フェア

2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」

ご好評をいただいている「岩波文庫フェア」を、
今年も「名著・名作再発見! 小さな一冊を楽しもう!」
と題してお届けいたします。

 岩波文庫は古今東西の典籍を手軽に読むことが出来る、
古典を中心とした唯一の文庫です。読書の面白さ、
感動を味わうには古典ほど確かで豊かなものはありません。
岩波文庫では出来るだけ多くの皆さまに
名著・名作に親しんでいただけるよう、本文の組み方を見直し、
新しい書目も加えより読みやすい文庫をと心がけてまいりました。

 いつか読もうと思っていた一冊、誰もが知っている名著、
意外と知られていない名作──
岩波文庫のエッセンスが詰まった当フェアで、
読書という人生の大きな楽しみの一つを
存分に堪能していただければと思います。

※2023年5月27日発売(小社出庫日)

 

<対象書目>
――本誌で過去に取り上げた書目:■

■茶の本【青115-1】  岡倉覚三/村岡 博 訳
古寺巡礼【青144-1】  和辻哲郎
君たちはどう生きるか【青158-1】  吉野源三郎
忘れられた日本人【青164-1】  宮本常一
■論語【青202-1】  金谷 治 訳注
■新訂 孫子【青207-1】  金谷 治 訳注
■ブッダのことば──スッタニパータ【青301-1】  中村 元 訳
■歎異抄【青318-2】  金子大栄 校注
■ソクラテスの弁明・クリトン【青601-1】  プラトン/久保 勉 訳
■生の短さについて 他二篇【青607-1】  セネカ/大西英文 訳
■マルクス・アウレーリウス 自省録【青610-1】  神谷美恵子 訳
方法序説【青613-1】  デカルト/谷川多佳子 訳
スピノザ エチカ 倫理学(上)【青615-4】  畠中尚志 訳
スピノザ エチカ 倫理学(下)【青615-5】  畠中尚志 訳
■読書について 他二篇【青632-2】
  ショウペンハウエル/斎藤忍随 訳
■アラン 幸福論【青656-2】  神谷幹夫 訳
論理哲学論考【青689-1】  ウィトゲンシュタイン/野矢茂樹 訳
旧約聖書 創世記【青801-1】  関根正雄 訳
生物から見た世界【青943-1】
  ユクスキュル、クリサート/日高敏隆、羽田節子 訳
精神と自然──生きた世界の認識論【青N604-1】
  グレゴリー・ベイトソン/佐藤良明 訳
万葉集(一)【黄5-1】
  佐竹昭広、山田英雄、工藤力男、大谷雅夫、山崎福之 校注
■源氏物語(一) 桐壺―末摘花【黄15-10】  柳井 滋、室伏信助、
        大朝雄二、鈴木日出男、藤井貞和、今西祐一郎 校注
枕草子【黄16-1】  清少納言/池田亀鑑 校訂
芭蕉自筆 奥の細道【黄206-11】  上野洋三、櫻井武次郎 校注
雨月物語【黄220-3】  上田秋成/長島弘明 校注
■山椒大夫・高瀬舟 他四篇【緑5-7】 森 鷗外
三四郎【緑10-6】  夏目漱石
仰臥漫録【緑13-5】  正岡子規
摘録 断腸亭日乗(上)【緑42-0】  永井荷風/磯田光一 編
摘録 断腸亭日乗(下)【緑42-1】  永井荷風/磯田光一 編
久保田万太郎俳句集【緑65-4】  恩田侑布子 編
中原中也詩集【緑97-1】  大岡昇平 編
山月記・李陵 他九篇【緑145-1】  中島 敦
堕落論・日本文化私観 他二十二篇【緑182-1】  坂口安吾
茨木のり子詩集【緑195-1】  谷川俊太郎 選
大江健三郎自選短篇【緑197-1】  大江健三郎
石垣りん詩集【緑200-1】  伊藤比呂美 編
まっくら──女坑夫からの聞き書き【緑226-1】  森崎和江
君主論【白3-1】  マキアヴェッリ/河島英昭 訳
アメリカの黒人演説集──キング・マルコムX・モリスン 他【白26-1】
  荒 このみ 編訳
マルクス 資本論(一)【白125-1】  エンゲルス 編/向坂逸郎 訳
職業としての学問【白209-5】  マックス・ウェーバー/尾高邦雄 訳
贈与論 他二篇【白228-1】  マルセル・モース/森山 工 訳
大衆の反逆【白231-1】  オルテガ・イ・ガセット/佐々木 孝 訳
■楚辞【赤1-1】  小南一郎 訳注
菜根譚【赤23-1】  洪自誠/今井宇三郎 訳注
阿Q正伝・狂人日記 他十二篇(吶喊)【赤25-2】  魯迅/竹内 好 訳
■バガヴァッド・ギーター【赤68-1】  上村勝彦 訳
■ホメロス イリアス(上)【赤102-1】  松平千秋 訳
■ホメロス イリアス(下)【赤102-2】  松平千秋 訳
ハムレット【赤204-9】  シェイクスピア/野島秀勝 訳
■森の生活──ウォールデン (上)【赤307-1】
  ソロー/飯田 実 訳
■森の生活──ウォールデン (下)【赤307-2】
  ソロー/飯田 実 訳
オー・ヘンリー傑作選【赤330-1】  大津栄一郎 訳
変身・断食芸人【赤438-1】  カフカ/山下 肇、山下萬里 訳
カフカ短篇集【赤438-3】  池内 紀 編訳
対訳 ランボー詩集──フランス詩人選(1)【赤552-2】
  中地義和 編
トルストイ民話集 人はなんで生きるか 他四篇【赤619-1】
  中村白葉 訳
タタール人の砂漠【赤719-1】  ブッツァーティ/脇 功 訳
ペスト【赤N518-1】  カミュ/三野博司 訳

 

以上55点59冊のうち、15点ほどを取り上げています。
関連も含めますと、あと5点ほど見つかります。
(詳細は、「編集後記」末尾にでも付記しておきます。)

その多くは、宗教・思想・哲学といった
リアル系の古典を取り上げてきました。

そこで今回は、文学作品を取り上げましょう。

私の大好きな作品が含まれていましたので、それを紹介します。

 

 ●私が日本で一番好きな小説――上田秋成『雨月物語』

江戸時代の読本(よみほん)、上田秋成の怪異譚短編集『雨月物語』から
一番長い短編作品「蛇性の婬(じゃせいのいん)」を取り上げます。

上田秋成『雨月物語』は、日本文学のなかで私の大好きな作品で、
以前「私をつくった本・かえた本」でも紹介しました。

・2017(平成29)年3月15日号(No.195)-170315-
「私の読書論91-私をつくった本・かえた本(2)小説への目覚め編」

私の読書論91-私をつくった本・かえた本(2)小説への目覚め編―第195号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

・講談社『少年少女新世界文学全集第37巻 日本古典編(2)』
(長編「太平記」「八犬伝」「東海道中膝栗毛」、短篇集「雨月物語」、
 江戸時代の俳句(芭蕉や蕪村、一茶など)収録)

《怪奇幻想ものの読本(よみほん)である、
 上田秋成作「雨月物語」青江舜二郎訳
 (1768年(明和5)成稿、76年(安永5)刊。「白峰」以下9編)》

 

子供の頃から、怖がりのくせに、怖い物見たさというのでしょうか、
こういうお話が好きでした。

子供の頃は、テレビで怪談話やホラー映画など結構見てました。
吸血鬼ドラキュラや狼人間やミイラ男だといった映画や、
アメリカ製のテレビドラマで、異界もの? や
ダーク・ファンタジーのようなもの、日本でも「ウルトラQ」みたいな。

で、この『少年少女新世界文学全集第37巻 日本古典編(2)』のなかでも、
「雨月物語」も短編集で、当時長いものを読むのが苦手だった私には、
とてもフィットした物語であったといえましょう。

今でも長編は苦手で、読み出すまでにちょっと敷居の高さを感じます。
短編集を読むのもしんどい部分はあります。
一本ずつ一本ずつ読み起こす感じで、
その世界に入るのに集中力がいるというわけですが。

余談はさておき、
『雨月物語』全9短編中、一番好きなのが「蛇性の婬」です。
今回はこの作品を取り上げます。

 

*<2023年岩波文庫フェア
「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」>から
『雨月物語』【黄220-3】上田秋成/長島弘明 校注 2018/2/17

 

 ●上田秋成『雨月物語』巻之四「蛇性の婬」

『雨月物語』は、翻案小説とも言われるもので、
下敷きになるお話があり、
それをもとに上田秋成が自分の世界を展開するものです。

「蛇性の婬」は、異類婚姻譚に分類されます。

蛇の妖怪の女と人間の青年との恋物語というところでしょうか。

この小説には、中国の原話があります。
白話小説集『警世通言(けいせいつうげん)』中の「白娘子永鎮雷峰塔
(はくじょうしながくらいほうとうにしずまる)」。

 《白蛇が美女に化けて男と契るという、
  中国の白蛇伝説の系譜にある一話である。》
   『雨月物語』上田秋成/長島弘明 校注より「解説」p.254

 《「白蛇伝」説話は、
  白蛇が美女に化け、男を誘惑して契りを結ぶ異類婚姻譚であるが、
  古くは唐代伝奇の「白蛇記」(『太平広記』所収)があり、
  宋・元・明・清とさまざまな小説や戯曲になり、
  さらには今日まで及んでいる。「白娘子永鎮雷峰塔」は、
  その「白蛇伝」説話の中でも最も著名な作品の一つで、
  類話に『西湖佳話(せいこかわ)』の「雷峰怪蹟(らいほうかいせき)」
  がある。》
   『雨月物語の世界』長島弘明 ちくま学芸文庫 より
     「第九章 蛇性の婬」p.265

前半は主にこの作品を下敷きに、日本の和歌山に舞台を移し、
冒頭の「いつの時代(ときよ)なりけん」という書き出しは、
まさに『源氏物語』の「いづれの御時にか」を連想させるもので、
一話全体も古代の物語風の雰囲気を持たせています。

 

*『雨月物語の世界』長島 弘明/著 ちくま学芸文庫 1998/4/1

――岩波文庫『雨月物語』校注者による初学者向け入門書・解説書

 

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 ●東映動画『白蛇伝』

ここで、思い出すのが、子供の頃に見たアニメ、
東映動画の『白蛇伝』です。

『ウィキペディア(Wikipedia)』によりますと、
1958年10月22日公開といいます。

私は子供時代にテレビの放送で見た記憶があります。

春休みや夏休みや冬休みなどに子供向け番組として、
一連の東映動画の放送がありました。
『白蛇伝』『安寿と厨子王丸』『わんわん忠臣蔵』『西遊記』
『わんぱく王子の大蛇(おろち)退治』等々。

記憶で書きますと、
人間の青年に恋した白蛇が美女に化けて近づき、両者は恋に落ちます。
青年は化け物に騙されているのだと信じた高僧によって、
その法力で娘を攻撃し、二人の邪魔をします……。

互いに愛し合いながら、相手が異類であるということで認められず、
仲を引き裂かれるという理不尽な物語――という印象が残っています。

この高僧をとても憎く感じたものでした。

愛し合う二人を引き裂くにっくき野郎! という感じで。

本来この動画は、文部省推薦の子供向け・家族向けの企画なので、
基本的に勧善懲悪というわけでなく、
誤解を解いてみんなで仲良くしましょう、的な映画だと思うのです。

それだけに、「なんかかわいそう」というイメージがありました。

私自身、左利きで○○で××でもあり、そういう「一般人」ではない、
「異類の存在だ」という意識がありますので、
そういう世間一般のひとではない「異類」である、
というだけの理由で、その恋仲を裂かれるというのは、
悲劇以外の何物でもない、と思えるのです。

 

*参考:東映動画『白蛇伝』
白蛇伝 [DVD]
森繁久彌 (出演), 宮城まり子 (出演), 藪下泰司 (監督)

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 ●「蛇性の婬」の豊雄に、大人の男の悪い面を見る?

「蛇性の婬」では、中国の白蛇伝説に、『道成寺縁起』などに見られる
<道成寺伝説>を取り混ぜたものだといわれています。

 《中国の、愛欲のために女に変身した蛇の話に、
  日本の、同じく愛欲のために蛇身になってしまった女の話を、
  重ね合わせている。》同上

安珍・清姫の伝説として知られる話です。

 ・・・

「蛇性の婬」では、主人公の青年・豊雄は、和歌山の漁師の網元の次男。
長男が跡取りで、姉は奈良に嫁に行っている。
豊雄は、都にあこがれ、雅好きで、学問を師について習っている。
父親は、家財を分けても人に取られるか、他家を継がせようとしても、
困ったことになるだけだろうし、博士にでも法師にでもなれ、
生きているうちは兄のやっかいになればいい、と考えている。

そんなとき、師の元からの帰り道、雨に降られ、雨宿りしていると、
二十歳に満たぬ美女・真女子(まなこ)と
十四、五の童女の二人連れに出会う。
で、このふたりこそ蛇の化身。
豊雄もまんざらではなく、好意を持つようになる。

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 ・・・

その後の詳しいストーリーを紹介してもいいのですが、
ここではそれはやめて、単純に私の感想を綴っておきましょう。

異類である白蛇の化身である女と人間の青年の恋なのですが、
今回、読み直しますと、男の態度がどうも気に入りません。

蛇身の女が一方的に恋したような始まりになっています。
しかし始まりはどうであれ、
自分も相手を気に入って恋仲になっているにもかかわらず、
まわりから何か言われると、
ついつい相手を裏切るような行動を取ります。

そうでありながら、何かきっかけがあるごとに、
彼女のことを思っているかのように振る舞います。

結果、自分だけが助かるのです。

どうも気に入りません。
アニメ版の『白蛇伝』のイメージが残っているのか、
このような男の姿が、いまいち、好きになれません。

 

長島さんは『雨月物語の世界』の「第9章 蛇性の婬」の末尾
<男の性と女の性>で、

 《真女子が豊雄の夢と恋(エロス)が描いた幻像であったならば、
  豊雄は自らの夢と恋情を殺すことによって、
  丈夫となったということができる。大人になり、
  また余計者の身から抜け出して社会的存在となるためには、
  私情を切り捨てる通過儀礼が必要とされたのである。
  そして、切り捨てられた私情とは、女性である。
  土中深く封じ込められた蛇は、女性であり、
  また豊雄の夢であったことになる。
  生き永らえたという豊雄は、その後、
  はたして夢をみることがあったのかどうか。》p.296

と結んでいます。

私も、この終わり方で豊雄は本当に満足だったのだろうか、
と思わずにはいられません。

私情を捨てること、夢をあきらめること、
まわりに合わせて生きることが、大人になる、ということなのか?

もしそうだとしたら、ちょっと寂しい、
残念なことといわねばなりません。

もちろん、私自身も同じように、色々あきらめた上で、
今日まで生きてきたのは事実です。

しかし、だからこれで終わっていいと思っているわけでもありません。
生きている限り、なにかできるのではないか、
という思いだけは、今も持っています。

 

*参考文献:
『改訂 雨月物語 現代語訳付き』上田 秋成/著 鵜月 洋/訳
角川ソフィア文庫 2006/7/25

『雨月物語』上田 秋成/著 高田 衛, 稲田 篤信/訳 ちくま学芸文庫
1997/10/1

『雨月物語―現代語訳対照』上田 秋成/著 大輪 靖宏/訳 旺文社文庫
1960/1/1

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━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論172- 2023年岩波文庫フェア「名著・名作再発見! 小さな一冊をたのしもう」から 上田秋成『雨月物語』「蛇性の婬」」と題して、今回は全文転載紹介です。

本誌では「蛇性の婬」飲みの紹介となっています。
本文中にも書いていますように、歴史ものの怪異譚全9編からなる短編集です。

中でも男女の仲に関するものとしては、この「蛇性の婬」以外にも、「浅茅が宿」「吉備津の釜」があります。
どちらもなかなかのできで、人間性のおどろおどろしさを描いて秀逸です。

善くも悪くもやはり男女の仲というものが一番おもしろいような気がします。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』
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2022.05.31

私の読書論158-アリストテレス『ニコマコス倫理学』―<NHK100de名著>から-楽しい読書319号

 ―第319号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★ 2022(令和4)年5月31日号(No.319)
「私の読書論158-アリストテレス『ニコマコス倫理学』
―<NHK100de名著>から」

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         ― 読書で豊かな人生を! ―
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2022(令和4)年5月31日号(No.319)
「私の読書論158-アリストテレス『ニコマコス倫理学』
―<NHK100de名著>から」
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 本来ですと、月末は古典の紹介、
 現在は「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」で、
 その17回目なのですが、今回はお休みさせていただきます。

 今回は特別編で、

  私の読書論158-アリストテレス『ニコマコス倫理学』
   ―<NHK100de名著>から

 をお届けします。

 

 <NHK100de名著>に関しましては、
 以前、ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』で
 私のお気に入りの名著・名作を取り上げてきました。

 『レフティやすおのお茶でっせ』カテゴリ:
NHK100分de名著

 をご覧ください。

 5月の放送が、私のお気に入りの名著の一つ
 (内容を「理解」できているかどうかは別ですよ!?)
 「アリストテレス『ニコマコス倫理学』」で、
 久しぶりに取り上げようと思ったのですが、時間的に無理でした。

 とはいえ、日にちがたってしまってもどうか、と思い、
 あえてこちらで取り上げてみようと思います。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 私の読書論158 -
  ◆ 人生の究極目的を問う ◆
  ~ 幸福とは? 友愛とは? ~
  アリストテレス『ニコマコス倫理学』
   <NHK100de名著>2022年5月――から
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●<NHK100de名著>と私

<NHK100de名著>は、
月曜日の夜、10時台のEテレで放送されている番組です。
以前は結構見ていました。
気になる名著・名作を扱った分は、ブログで紹介してきました。

ところが、ここ何年かは、全くといっていいほど見ていませんでした。

気になるタイトルを扱っていないということもありました。
しかし、それだけではなく、
何となく視聴習慣がなくなってしまった、というのが理由でしょう。

 

結局今回も、私は放送をほとんど見ることができませんでした。
第4回の最後の10分程度だけ。

一度視聴習慣を失うと、そういうものでしょうね。
もちろん、録画して見るという便利な方法が
この世の中にはあるらしいのですが……。

そこでここでは、テキストの内容を中心に、
私が以前この本を読んだ時の印象などを交えて、
この名著を紹介してみようと思います。

 

 ●<NHK100de名著>2022年5月―アリストテレス『ニコマコス倫理学』

まずは、<NHK100分de名著>のサイトの情報から――

名著119「ニコマコス倫理学」アリストテレス 2022年4月28日 午前11:58 公開

プロデューサーAのおもわく。

 《天文学、生物学、詩学、政治学、論理学、形而上学など
  あらゆる分野の学問の基礎を確立し、「万学の祖」と呼ばれる
  古代ギリシアの哲学者アリストテレス(前384- 前322)。
  そんな彼が「倫理学」という学問を史上初めて体系化し、
  その後の「倫理学」の「原点」となったともいえる名著が
  「ニコマコス倫理学」です。新生活がスタートしてまもない五月。
  「五月病」など職場や学校に適応できず人生に悩む人が多い
  この時期に、「幸福」や「生き方」を深く考察する
  この著作をわかりやすく読み解くことで、
  現代に通じるメッセージを掘り起こします。

  アリストテレスは、幸福が人間がもっている本来の固有の能力を
  発揮することにあり、その能力を十全に発揮するためには、
  外的な幸運を生かすための内的な力である「徳(アレテ―)」を
  身につける必要があると考えました。
  この「徳」は一定の行動を何度も繰り返し習慣化することで、
  「性格」として身につけることができるといいます。
  いわば、彼の倫理学は、
  義務や禁止などの堅苦しいルールを学ぶ学問ではなく、
  人間が幸福になるための知の体系なのです。

  ただし、この書物は単に偉大な哲学者の豊かな思索の跡を
  読者にたどらせてくれるだけではありません。
  現代において私たち一人ひとりが
  「よく生きる」「充実して生きる」ことを目指す際に活用できる
  豊かな洞察が散りばめられた書物でもあります。
  哲学研究者の山本芳久さんによれば、千年単位で受け継がれてきた
  この名著のエッセンスを読み解いていくと、
  単に倫理の知識を学ぶにととまらず、読者の一人ひとりが
  それぞれの人生において活用していくことのできる
  生きた知恵を学ぶことができるといいます。

  番組では、山本芳久さんを指南役として招き、
  ギリシア哲学の名著「ニコマコス倫理学」を分り易く解説。
  アリストテレスの倫理学を現代につなげて解釈するとともに、
  そこにこめられた【幸福論】や【生き方論】、
  【友情論】などを学んでいく。》

【指南役】山本芳久(東京大学大学院教授)
…「トマス・アクィナス 理性と神秘」でサントリー学芸賞受賞。

【朗読】小林聡美(俳優)【語り】小坂由里子【声】羽室満

アリストテレス『ニコマコス倫理学』 2022年5月 (NHKテキスト)
NHK出版 2022/4/25

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(画像:<NHK100de名著>テキストと私の持っている『ニコマコス倫理学』光文社古典新訳文庫版の訳本)

 ●テキスト――【はじめに】「いかによく生きるか」を考える学問

冒頭、山本さんは、

 《哲学とは、言葉による思索を通じて
  物事を根本から理解し直そうとする学問》

だとし、フランスの哲学史家ピエール・アドによると、

近代のそれは、専門家向けの難解なものになっているが、
古代のそれは、万人に対して開かれた仕方で、人々に生の技法、
「生き方」を教えてくれるものだといいます。

その「生の技法」を教えてくれる代表的な一冊が
この『ニコマコス倫理学』だというわけです。

私がこの『ニコマコス倫理学』がお気に入りの一冊というのも、
そういうところにあります。

私が哲学に期待するものは、「いかに生きるか」であり、
「いかにして幸福となるか」です。

古代ギリシアの哲学で私の識名ものは、
プラトンのソクラテス対話篇の初期の『ソクラテスの弁明』や
『クリトン』や『饗宴』に『メノン』など。
特に『クリトン』における「よく生きる」というくだりですね。

 ・・・

このあと、山本さんの哲学読書歴を紹介されています。
『ニコマコス倫理学』は三回に渡って出会っているといい、
一回目は大学生の時。

高校時代から哲学に興味を持ち、

 《様々な入門書やプラトンの対話篇やニーチェの著作など、
  比較的読みやすい作品を読んでいた》

そうで、この辺は、私の50代以降の哲学読書と共通の遍歴です。

そして、本格的な哲学の古典として初めて「通読」したのが、
これだったそうです。

「通読」したというのは、それまでにもカントやハイデガーなどで、
挫折を経験していたから。

しかし、この『ニコマコス倫理学』は、
途中で分からないところもありながらも、
最後まで読み通すことができた本だった、といい、
哲学研究者としての出発点といったものだったそうです。

それは、そこに書かれていた「幸福とは何か」「人生の目的とは何か」
といった内容が、自分自身の関心と重なり合っていたから。

この辺も少し私と似ていますね。

そういう意味でも『ニコマコス倫理学』は、
多くの人にとっても哲学への入口になる本といえそうです。

 ・・・

古代ギリシアのアリストテレス(前384-前322)が著わした全十巻からなる
『ニコマコス倫理学』は、史上初の体系的な倫理学の本で、
倫理学とは、哲学の一分野で、「いかによく生きるか」を考える学問。

 《単に考えるだけでなく、
  それを実践に応用することに力点を置く学問でもある》

といい、「実践哲学」と呼ばれることもある、というものです。

 

 ●第1回 倫理学とは何か

【放送時間】2022年5月2日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ

 《「ニコマコス倫理学」は、
哲学史上初めて「倫理学」を体系化した書物である。
「倫理学」と訳されているギリシア語は、語源的には、
「人柄に関わる事柄」という意味である。
どのような人柄を形成すれば幸福な人生、
充実した人生を送ることができるのかを考察するのが
アリストテレスの倫理学なのである。
第一回は、「倫理学」とはどのような学問なのか、
「倫理学」を学ぶことにはどのような意味があるのかを、
「理論的学」と「実践的学」の区別という
アリストテレスの学問論に基づいて明らかにする。》

アリストテレスの倫理学は、「幸福論的倫理学」と呼ばれるそうで、
「幸福と何か」「どうすればそれを実現できるか」を考える倫理学で、
違った角度から「徳倫理学」ともいわれる。
「徳」とはギリシア語で「アレテー」といい、
「卓越性」「力量」と訳される言葉。

 《アリストテレスは、人は徳を身につけてこそ初めて
  幸福を実現できると考えました。》

 《アリストテレスの倫理学では、
  人間としての力量である徳を身につけることが核となってきます。》

「幸福論的倫理学」は、「目的論的倫理学」ともいわれます。

それは、人間の存在や行為というものの究極的な目的は、
幸福にあると考え、どのように実現してゆくかを考える倫理学だ、
ということです。

そこでは「善」という言葉がキーワードとなります。
「幸福とは最高善である」という言い方がされ、
幸福という最高に善いものを探求してゆくという立場が
「幸福論的倫理学」です。

これと対比されるのが、「義務論的倫理学」で、
「○○すべきだ」といった義務や、
「○○してはいけない」といった禁止に基づいて考えるもので、
カントなどに代表される学問です。

倫理学に関するイメージとしてはこちらの方が強いかもしれません。
しかし、ここでは、人生を前向きに生きるための知恵を獲得しよう
というのが、このテキストでの狙いだそうです。

私もそういう方が好きです。

 ・・・

このあといよいよ本題に入り、
第一巻第一章の有名な冒頭の一節が引用され、
第二章の冒頭の引用へと続きます。

この回の結論的には、

 《アリストテレスの倫理学は、「徳」を身につけることで、
  「性格」をよりよい方向に変容させていき、
  それによって「幸福」を実現するという基本構造を有しています。》

人間の「性格」や「人柄」は、
「習慣」の積み重ねによって形成される。
勇敢な行為を積み重ねることで、勇敢な人間になる、というように。

 

そして、「倫理学」とは、

 《どのような人柄を形成すれば幸福な人生を送ることができるか、
  を考察する学問。》

だといいます。

 

 ●第2回 幸福とは何か

【放送時間】2022年5月9日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ

 《アリストテレスの倫理学は、「幸福」という
古今東西の誰もが深く願うテーマを軸に展開している。
だからこそ、二千数百年の時を超えて
現代においても深く影響を与え続けているのだ。
「幸福になりたい」という願望は誰もが抱くものだが、
実際に「幸福」になるのは容易なことではない。
真に幸福になるための地道で手堅い道筋を示しているのが
『ニコマコス倫理学』なのである。
第二回は、「義務」や「禁止」といった概念を軸にした
堅苦しい倫理学(義務論的倫理学)ではなく、
幸福な人生の実現へと読者を導いてくれる実践的な指南の書として
『ニコマコス倫理学』の全体像に迫りつつ、
「社会的生活」と「観想的生活」という、
幸福な人生の二つの類型について明らかにしていく。》

第一巻第四章、第五章からの引用とともに、
ここでは「最高善」とされる「幸福」とはいかなるものかについて。

「善」という言葉が『ニコマコス倫理学』におけるキーワードの一つで、
「幸福とは何か」とは、「善とは何か」という意味でもあるのです。

「何らかの善を目指している」のが人間で、
それが究極目的としての「幸福」というものであり、
それは単にはるか遠くにあるのではなく、
「いま、ここ」の自分の行為に常によっている。

第二回の結論としては、
 
 《人間が持っている可能性・能力を
  可能なかぎり現実化していくことによって達成される
  充実した在り方、そこにおいてこそ幸福が見いだされる》

 《徳を身につけることが
  幸福な人生を送るための不可欠な条件になる。》

「徳」はギリシア語で「アレテー」といい、
「卓越性」「力量」などと訳されます。

馬の「アレテー」は、速く走ること。
ナイフの「アレテー」はよく切れること。

優れた働きを為すことがでできるように高められていること、
それを「徳」と呼びます。

 

 ●第3回 「徳」と「悪徳」

【放送時間】2022年5月16日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ

 《アリストテレスの説く「幸福」は、
単なる「幸運」とは大きく異なっている。
幸運にも高額の宝くじに当選した人の中にも、
堅実な人生の軌道から逸れ、
「不幸」な人生を送ってしまう人もいる。「幸福」になるためには、
外的な幸運を真に生かすための内的な力が必要なのだ。
その力のことを、アリストテレスは「徳(アレテー)」と呼び、
それが一定の行動を何度も繰り返し習慣化することで、
「性格」として身についていくという。
第三回は、勇気、節制、正義、賢慮といった、
現代でもそのまま活用することができる様々な「徳」と、
それに対立する「悪徳」を分類しつつ、
「徳」を身につける方途を探っていく。》

 

第二巻第一章からの引用とともに、
知的な能力・可能性を育てることで身についてくる「力」を
「思考の徳」と呼び、私たちが一般的に思い浮かべる、
人柄の在り方に関わるものについては「性格の徳」と呼びます。

徳を身につけるのは、技術を身につけるとのと同じだといい、
一回の成功体験が二回目以降の上達につながりやすいといい、
素早くできることと喜びを感じることが、
その技術が身についた証拠だアリストテレスはいいます。

 《一回一回善い選択肢を選び取り続けていくことによって、
  どういう選択肢を選んで生きていきたいかという
  基本的な心の在り方自体を成熟させていくことができるのです。》

人間には欲望がありますが、その欲望自体を変容させることができる。
当初は節制のない人でも、欲望の在り方を整え、選択を重ねることで、
コントロールすることができるようになるというのです。

 《アリストテレスに従えば、徳を身につけることで
  はじめて達成することができる充実があります。そうした仕方で
  人間存在としての可能性を十全に実現した在り方こそ、
  彼が言うところの幸福な人生なのです。》

 

 ●第4回 「友愛」とは何か

【放送時間】2022年5月23日(月)午後10時25分~10時50分/Eテレ

 《人間は「社会的動物」であり、
人間と人間との深いつながりなしには、幸福な人生は考えにくい。
そのような人間同士の相互的な絆のことを、
  アリストテレスは「友愛(フィリア)」と呼んでいる。
  「人柄のよさに基づいた友愛」「快楽に基づいた友愛」
  「有用性に基づいた友愛」という友愛の三分類や、
  「友愛は、愛されることよりも、愛することにその本質がある」
  という愛の本質についての分析、自己愛と友愛の関係などなど、
  『ニコマコス倫理学』の友愛論は、
  「愛」について考察するための豊かな素材に満ちている。
  第四回は、人類の思想史のなかで最も有名な友情論
  と言っても過言でないアリストテレスの友愛論を紹介して、
  人間にとって、真の「友情」とは何か、
  真の「愛」とは何かに迫っていく。》

『ニコマコス倫理学』第八巻と第九巻で論じられる「友愛」について。

まず、友愛が成立する条件を挙げます。

(1)相手に好意を抱く
(2)その好意が相互的なものである
(3)互いに気づかれている

この三つがそろったときだといいます。

アリストテレスの言葉では、(1)は「相手に善を願う」となります。
これがアリストテレスの友愛の核となります。
善が人と人をつなぐ紐帯となる。
善には、「道徳的善」「有用的善」「快楽的善」の三つがあり、

それに従い、友愛にも三つある。

(1)人柄の善さに基づいた友愛
(2)有用性に基づいた友愛
(3)快楽に基づいた友愛

(2)や(3)の友愛は、
あくまでも「自分にとって」善いものが得られるから愛しているのだ、
という限定がある、条件付きの友愛だといいます。

自分にとって相手が快いものでなくなれば、有用なものでなくなれば、
その友愛は消えてしまう。
そういう自己中心的な観点があり、持続性・安定性がない。

ただ、快楽的友愛は、互いにいっしょにいたいと思い、
いっしょにいることに喜びがある点で、友愛らしい側面がある。

一方、(1)人柄の善さに基づいた友愛 は、相手を全体として愛する。
人柄に基づくものなので、持続的であり、安定性がある。
そして、人柄の善い人は、一緒にいても快い存在であり、
また困ったときにも無条件で助けてくれる有用な人でもある。
(2)も(3)も兼ね備えた存在で、完全な友愛だというのです。

しかし反面、そういう優れた関係はまれなものでもある、と。

では、アリストテレスは、
これらの友愛をどう評価しているのでしょうか。

山下さんは、アリストテレスは
(2)や(3)の有用性や快楽に基づく友愛を否定していない、
と考えているといいます。

真の友人は、(1)人柄の善さに基づいた友愛 のみで、
それ以外は本当の友人ではない、として排除するのではなく、
不十分な友愛ではあるが、それを自覚した上で、
人生にとって重要な人間関係として認め、
友愛の在り方のグラデーションをつけた上で、全体を友愛として認める。

そういう懐の広さがアリストテレスのテキストにはある、
と読み解きます。

 ・・・

さて、番組テキストには、他にも名著の名著たる所以ともいうべき、
有用性についても書かれています。

日常生活とは無縁に思われる古典の中に、
なにかしら人生についての「気づき」を与えられることがある、と。

理解できるできないにかかわらず、
自分に合った哲学書を見つける知の旅を続ける機会にして欲しい、
と結んでいます。

 

 ●読みやすい哲学書について

私の感想をひとこと。

第一回の山下さんの読みやすい哲学書の読書歴に、
プラトンのソクラテス対話篇やニーチェの本をあげていました。

私もそういうところを読んできました。
もちろん、理解云々はなんともいえませんが、
『クリトン』の「よく生きる」についてのソクラテスの対話とか、
ニーチェの『ツァラトゥストラ――』とか『善悪の彼岸』のような
アフォリズムのような本、『この人を見よ』のような小著などは、
とっつきやすい。

私は先の「よく生きる」というような、
幸福論的な生き方論を読むのが好きです。
そういうものが哲学書だと思い込んでいる部分があります。

そういうものこそ、真に役に立つ実用本位の本だと。

三大幸福論と呼ばれる――アランやラッセル、ヒルティの『幸福論』。
ショーペンハウエルの『幸福について』、
ヒルティ『幸福論 第一部』に紹介されている
エピクテトスの『語録』等の後期ストア派の本――セネカや
ローマ帝国の皇帝マルクス・アウレリウス『自省録』など。

そしてこのアリストテレス『ニコマコス倫理学』。

こういう本が好きで読んできました。

こういう本は目的がはっきりしていますので、読みやすいと思います。

アラン『幸福論』は短文集ですし、
エピクテトスや『自省録』は語録といったもの。
短い文読みや牛氏、すべてを理解できなくても、わかる部分もあります。

そして、機会があるたびにポチポチと読んだり、見たりしていると、
そういう読み方を続けるうちに、何となく理解が進むのかもしれません。

まあ、お試しを。

 

参考:
【山下芳久さんの本】
『トマス・アクィナス 理性と神秘』山下芳久/著 岩波新書 2017/12/21
―アリストテレスの思想とキリスト教学を統合したアクィナスの入門書

『ニコマコス倫理学』アリストテレス/著 朴 一功/訳
京都大学学術出版会 西洋古典叢書 2002/7/1
―<NHK100de名著>テキストで山下さんが引用している翻訳

【アリストテレスに関する入門書】
『90分でわかるアリストテレス』ポール・ストラザーン/著
 浅見昇吾/訳 WAVE出版 2014/5/1
―こちらは<90分でわかる哲学者>シリーズの一冊。「生涯と作品」
 「言葉」など小著ながらそれなりにポイントを抑えている。

【私の持っているアリストテレスの本】
『ニコマコス倫理学(上)』アリストテレス/著
渡辺 邦夫, 立花 幸司/訳 光文社古典新訳文庫 2015/12/8

『ニコマコス倫理学(下)』アリストテレス/著
渡辺 邦夫, 立花 幸司/訳 光文社古典新訳文庫 2016/1/8

『詩学』アリストテレス/著 三浦 洋/訳 光文社古典新訳文庫 2019/3/8

『アリストテレース詩学/ホラーティウス詩論』アリストテレース/著
F.Q. ホラーティウス/著 松本 仁助/訳 岩波文庫 1997/1/16

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「私の読書論157-読むのは「内容」か「文章」か―『ミステリマガジン』連載コラム[本の話]第4回から」をお届けしています。

今回は全文紹介です。
ブログの<NHK100de名著>の紹介記事に準じた形で、2022年5月分のアリストテレス『ニコマコス倫理学』についてテキストを中心に私なりに気になった部分を紹介しています。

 ・・・

アリストテレス『ニコマコス倫理学』にこんな言葉があります。

「平和な生活を求めて、戦争をする」(第十巻 1177b,5-6)

 『90分でわかるアリストテレス』ポール・ストラザーン/著
  浅見昇吾/訳 WAVE出版 2014/5/1 p.94)

ウクライナ側からいえば、まさに平和な生活のために戦う、という状況なのでしょう。

 

この後に続く部分に、こうあります。

(なぜなら、だれ一人として、戦争をすることを目的として戦争をしたり、戦争を企てたりしないからである。
  実際、もし人が戦闘と殺戮が起こるべく友人を敵にする、というようなことをするなら、その人こそまったくの「血の汚れがしみついた輩」であると思われるだろう)

 『ニコマコス倫理学(下)』アリストテレス/著
   渡辺 邦夫, 立花 幸司/訳 光文社古典新訳文庫 2016/1/8 p.404
と。

ロシアによるウクライナ侵攻がはじまって三ヶ月。
どういう目的で始めた戦争なのか、私にはよくわかりません。
しかし、もう遅いかもしれませんが、少なくとも、上に書かれたような輩と思われたくなければ、プーチンさんには早急に戦闘をやめて欲しいものです。

 ・・・

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 ・・・

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『レフティやすおのお茶でっせ』

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2022.02.09

2月10日〈左利きグッズの日〉を前にTBSテレビ【新・情報7daysニュースキャスター】で左利き情報

実は、私のブログ(この『レフティやすおのお茶でっせ』&『レフティやすおの新しい生活を始めよう!』)の閲覧者が5日の夜から急激に増え、何があったのかと思っていたのです。
すると、左利きの友人からの連絡で、
TBSテレビ「新・情報7daysニュースキャスター」“SDGs的左利きへの配慮広がる” というのをやっていたというのです。
それの影響だったのですね。

今ネットで調べてみたところ、こういうのが当たりました。
(それぞれのページで、放送内容の一部が紹介されています。)

2022/02/05 TBSテレビ 【新・情報7daysニュースキャスター】

“SDGs”で世の中に変化・左利きへの配慮広がる

――「日ペンの美子ちゃん」のボールペン習字講座に左利き用教材導入
  学文社通信教育事業部・宮本美春のコメント

02/05 22時台 “苦労が絶えない”左利き・生活の中で大変なことは?

――日本語が書きづらい、理由は左から右へが多い書き順

02/05 22時台 “SDGs”で世の中に変化・左利きへの配慮広がる

――左利きのコーナーを設けている文具店
  菊屋浦上商事株式会社・浦上裕生のコメント

02/05 22時台 “苦労が絶えない”左利き・生活の中で大変なことは?

――特に気を使うのが食事の際の座り位置

02/05 22時台 “苦労が絶えない”左利き・生活の中で大変なことは?

――左利きの苦労を発信している人
「悲しくも笑える左利きの人々」を出版した渡瀬謙

*右利き社会での左利き生活の不便さ解説本:

『悲しくも笑える 左利きの人々』渡瀬 けん/著 中経の文庫 2009.1
―左利きの著者による、右利き偏重社会における左利きの人の不便「あるある!」エッセイ集。

『悲しくも笑える 左利きの人々』 (中経の文庫) Kindle版

 

02/05 22時台 “苦労が絶えない”左利き・生活の中で大変なことは?

――2年前「え、右利きなの?展」を開いた左利きの女子大生・下村えりか、左利きの友人・吉川結衣
《もし左利きがマジョリティだったらというテーマで、左利きの苦労を右利きに知ってもらおうというもの。左側にタッチのある改札や、左利きの間に挟まれて座るという大変さを右利きにしてもらった。》
なかや・中川秀晃のコメント

02/05 22時台 2月10日は「左利きの日」・“SDGs的”不平等解消への動き

――2月10日は左利きの日
《不平等をなくそうというSDGsの流れもあり、左利きへの配慮が広がっている。左利きの世界を取材すると知られざる苦悩と変化する社会が見えてきた。》
菊屋浦上商事株式会社・浦上裕生社長のコメント

 ・・・

で、私のツイッターに2月2日、
この番組のディレクターなる人から、
《今回、2月10日が「左利きの日」ということで、
 左利きの日常で不便さや左利きでの生活の大変さ等何か具体的な例などあれば、
 直接DMでやりとりしたいです。ご検討よろしくお願いします。》
と連絡が来ていました。

ここんところ、ツイッターを見ていなかったので気がつきませんでした。
思えばチャンスだったのに……。

ブログには、専用のメールアドレスを入れてあるのですが、そちらからだったらすぐに気がついたのですけれど。
最近はツイッターとかいわゆるSNSからのダイレクトメールで連絡を取るようなのですね。

発言の機会があれば、いいたかったことは、
今月初めのメルマガ――

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第612号(No.612) 2022/2/5
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(11)
 見えない差別(4)楽器」

『レフティやすおのお茶でっせ』2022.2.5
左利きの人生を考える(11)見えない差別(4)楽器-週刊ヒッキイ第612号 「新生活」版

にも書いた、「心の栄養」としての芸術の世界等における左利き対応の道具、音楽でいえば楽器における左利き対応品の普及です。

┏━━━━━━━━━━━━━┓
 ♪(ギターだけでなく)♪
 #左利き対応楽器     
   (#○○)が欲しい!

┗━━━━━━━━━━━━━┛
(「○○」には、ご自分の欲しい楽器名を入れましょう。)

拡散希望です!

 ・・・

「なぜ楽器の左利き用なのか?」についての詳しい理由は、次の記事に書いてみようと思います。

 

*『レフティやすおのお茶でっせ』過去の2月10日「左利きグッズの日」の記事:

・2008.12.28
2月10日は左利きグッズの日、日本記念日協会で認定される

・2009.2.10
今日2月10日は“左利きグッズの日”

・2011.2.8
左手書字考(1)左手で字を書くこと―再考:週刊ヒッキイhikkii249

・2011.2.9
「左利きグッズの日」記念「第5回<LYグランプリ>2011」読者大賞アンケート

・2012.2.9
2月10日は「左利きグッズの日」ですが…メルマガ「左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii」298号告知

・2012.2.10
2月10日「左利きグッズの日」記念<LYGP>第6回2012:メルマガ「左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii」299号予告

・2013.2.10
今年もまた<左利きグッズの日>でした

・2015.2.10
2月10日は改称7年目の〈左利きグッズの日〉

・2016.2.9
2月10日は左利きグッズの日

・2016.2.10
2月10日は左利きグッズの日―普及の前提

・2017.2.9
2月10日〈左利きグッズの日〉をまえに左来人(Right Hidari)『左利きあるある 右利きないない』を買う読む

・2017.2.10
左手左利き専用グッズ開発「レフティー21プロジェクト」菊屋浦上商事呼びかけ

・2018.2.10
2月10日は「左利きグッズの日」―どこまで進む「左利き」容認―産経新聞投書から

・2019.2.10
2月10日は「左利きグッズの日」―に思うこと

(新生活版)2月10日は「左利きグッズの日」―に思うこと

・2020.2.8
2020年2月10日は令和初の〈左利きグッズの日〉-文末に嬉しい情報あり

(新生活版)2020年2月10日は令和初の〈左利きグッズの日〉-文末に嬉しい情報あり

・2021.2.8
〈日本版左利きの日〉から20年、2月10日は〈左利きグッズの日〉

(新生活版)〈日本版左利きの日〉から20年、2月10日は〈左利きグッズの日〉

 

『レフティやすおのお茶でっせ』カテゴリ――
2月10日左利きグッズの日

 

 

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2021.08.25

笑福亭仁鶴さんの思い出―ラジオで“デビュー作”を朗読してもらう

上方落語を代表する関西芸能界の大御所、
笑福亭仁鶴さんが17日にご逝去されました。
謹んで哀悼の意を表します。

YouTube
【訃報】上方落語の発展に生涯を捧げた落語家 笑福亭仁鶴さん死去
2021/08/20

さて、私にとって仁鶴師匠は、私の“デビュー作”を朗読してくださった方でした。
私が何歳だったでしょうか。
二十歳前後でしょうか。

ラジオの番組――深夜(といっても午後11時から翌1時まで、だったと思います。)の
OBCラジオ大阪の「ヒットでヒット バチョンといこう」(だったかな)の
パーソナリティーをされていたとき、
「メルヘン・コーナー」という聴取者からの投稿作品を朗読するコーナーがありました。
400字詰め原稿用紙二、三枚程度の作品です。

これを投稿して採用され、仁鶴師匠に朗読していただいたのです。

「ブタとサルの話」という「さるかに合戦」風の昔話的な作品でした。

腹を減らしたサルが柿の実のなった木の下を通ったとき、
サルが枝の上で柿の実を食べているを見て、一つおくれと頼んだのに、
食べかけた実を投げつけてきたので、
怒ったブタがそれを投げ返すと見事命中し、サルはお尻から落下。
それ以来、ブタはブーブーと鳴き、サルのお尻は真っ赤っか。
――といったお話でした。

今でもはっきり覚えているのは、読み終えた仁鶴師匠の感想です。

本当に腹が減っていたら、たとえかじりかけの実でも、
投げ返さずに食べてしまうものだろう、
という意味の発言をされました。

なるほど。

戦後の食糧難の時代に育ち盛りをすごされた方の言葉として、
実感がありました。


その時にもらったデニム生地の手提げ袋「バチョンバッグ」は
今もどこかに大切にしまってあります。
番組名と当時の各曜日のパーソナリティの名前が印刷されていました。

当時もう一人の人気若手落語家、
大学出でスマートな印象の桂三枝さん(現・六代目桂文枝師匠)とは違って、
仁鶴師匠は、エラの張った四角い顔でちょっと泥臭いようなイメージがあり、
私と同じ左利きで工業高校出身ということも手伝って、
あの独特のキャラクターが好きでした。

人間国宝の桂米朝師匠ともども「上方落語の四天王」と称された
師匠の六代目松鶴さんがなくなられたとき、七代目襲名の話があったのに、
「松鶴」は松竹芸能の看板だから吉本興業の自分が継ぐものではない、
と仁鶴師匠が固辞されたそうです。
筋を通すというのか、誠実な性格を著わすエピソードでしょう。

米朝師匠同様、自分の手で「仁鶴」という名を大きくしたいと思われたのか、
あるいは単に自分の名に愛着があったということかもしれません。

昔あったという歌声喫茶でロシア民謡をよく歌っていたという仁鶴師匠。
大ヒット曲「おばちゃんのブルース」とか
深夜の定期便トラック運転手の歌「花の定期便」とかも味があります。

大塚食品「ボンカレー」のCMとか、
NHKの土曜日お昼の「バラエティー生活笑百科」もよく見ていました。

今でも読売テレビの「大阪ほんわかテレビ」のタイトルコールは
仁鶴師匠の声のまま放送されています。

次回の放送はどうなるのか、楽しみ半分寂しさ半分です。

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読売テレビ「大阪ほんわかテレビ」

笑福亭仁鶴師匠のご逝去にあたり、心からご冥福をお祈り申し上げます

突然の悲報に接し、悲しみにたえません。1993年の番組開始当初からご出演いただき、 番組の父のような存在として、 出演者・スタッフ全員を温かい笑顔で包み込んでくれていました。
2017年より番組への出演をお休みされており、 再び元気な姿で仁鶴師匠が戻って来られる日を、皆心待ちにしておりましたが、 残念ながらこのようなことになり、あまりにも突然のことで言葉が見つかりません。
謹んでお悔やみ申し上げます。

大阪ほんわかテレビ スタッフ一同

8月27日(金)放送
なお、今週の放送は1時間全編に渡り、 仁鶴師匠のこれまでの様々な名場面とともに、出演者の皆様と ほんわかテレビらしく明るく仁鶴師匠を偲ぶ特別企画をお送りする予定です。


YouTube
おばちゃんのブルース(1969年12月)

大阪は第二の故郷 笑福亭仁鶴(1970年11月)

男・赤壁周庵先生 笑福亭仁鶴(1971年11月)

花の定期便 (笑福亭仁鶴)(1972年4月)

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2021.02.15

私の読書論141-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(5)ハヤカワ文庫の50冊(3)NVの数々-楽しい読書288号

 ―第288号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★ 2021(令和3)年2月15日号(No.288)
「私の読書論141-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(5)
ハヤカワ文庫の50冊(3) 」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2021(令和3)年2月15日号(No.288)
「私の読書論141-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(5)
ハヤカワ文庫の50冊(3)NVの数々」
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 またまた久しぶりに、
 「私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年」
 に戻ります。

 ハヤカワ文庫創刊が7月でしたから、
 まだ「50周年」の一年は過ぎていないので、
 良しとしましょう。

 昨年、1970(昭和45)年に創刊された早川書房の文庫
 「ハヤカワ文庫」が50周年を迎え、
 15歳からの私の読書生活52年のほぼ全てをカバーしている
 「ハヤカワ文庫」のお気に入りや、読んできた本の内、
 心に残る本を紹介してきました。

 ※ すべて今現在私の手元にある本から選んでいます。

   過去に持っていたけれど、押し出し整理法により、
   処分した本は除外しています。

  (図書館で借りて読んだものも除外しています。)

 前回までのおさらい――

私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年

【1】2020(令和2)年9月15日号(No.278)
「私の読書論135-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(1)」
2020.9.15
私の読書論135-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(1)
-楽しい読書278号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/09/post-93a384.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3df333247f5640e098891d55ddaaccd5
【最初の6冊】
1.SF『征服王コナン』ロバート・E・ハワード
団 精二/訳(荒俣宏さんの若い頃の翻訳者名)
2.NV『ローズマリーの赤ちゃん』アイラ・レヴィン
高橋 泰邦/訳

3.NV『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン
村上 博基/訳

4.HM『重賞』ディック・フランシス
菊池 光/訳

5.HM『死の接吻』アイラ・レヴィン
中田 耕治/訳

6.FT『夢の10セント銀貨』ジャック・フィニイ
山田 順子/訳

 

【2】2020(令和2)年10月15日号(No.280)
「私の読書論136-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(2)」
2020.10.15
私の読書論136-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(2)
私のお気に入り7-楽しい読書280号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/10/post-0f243e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/56a232216e800eaf561dd1f4904b2cce
【私のお気に入り7】
(1)ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』
福島 正実/訳 ハヤカワ文庫FT 1980/11/1

(2)ゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』
深町 眞理子/訳 ハヤカワ文庫SF 1978/7/1

(3)ロバート・F・ヤング『ジョナサンと宇宙クジラ』
伊藤 典夫/訳 ハヤカワ文庫SF 2006/10/6

(4)ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』
井上 一夫/訳 ハヤカワ文庫NV 1975/3/1

(5)シャーリイ・ジャクスン
『野蛮人との生活―スラップスティック式育児法』
深町 眞理子/訳 ハヤカワ文庫NV 1974/5/1

(6)クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』
長谷川 修二 ハヤカワ・ミステリHM文庫 1984/10/1

(7)ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』
村上 博基/訳 ハヤカワ文庫NV 1973/7/1

 

【3】2020(令和2)年11月15日号(No.282)
「私の読書論137-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(3)
【私のお気に入り7】に続くもの ハヤカワ文庫の50冊(1)」
2020.11.15
私の読書論137-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(3)
ハヤカワ文庫の50冊(1)-楽しい読書282号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/11/post-3a6f3e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/85364a4c9cf932ced296000daefccee2
◎準【私のお気に入り7】
 ――続編および同一作家の他の名作・佳作
1’(8)『夢の10セント銀貨』ジャック・フィニイ山田 順子/訳
(ハヤカワ文庫FT 1979/2/1)

2’(9)『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン, 宇佐川晶子他/訳
(ハヤカワ文庫SF 1977/12/1)。

3’(10)『時をとめた少女』ロバート・F・ヤング 小尾芙佐,
深町眞理子, 岡部宏之, 山田順子/訳 (ハヤカワ文庫SF 2017/2/23)

5’(11)『山荘綺談』シャーリイ・ジャクスン 小倉多加志/訳
(ハヤカワ文庫NV モダンホラー・セレクション 1972/6/1)

7’(12)『続・フレンズ―ポールとミシェル』ルイス・ギルバート
村上 博基/訳 (ハヤカワ文庫NV 1981/2/1)

(13)ロバート・J・ソウヤー『フレームシフト』内田昌之/訳
ハヤカワ文庫SF 2000/3/1 (文庫SF)

(14)エイミー・トムスン『ヴァーチャル・ガール』田中一江/訳
ハヤカワ文庫SF 1994/10/1 (文庫SF)

(15)ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア
『たったひとつの冴えたやりかた』浅倉久志/訳 ハヤカワ文庫SF
1987/10/1 (文庫SF)

(16)ポール・アンダースン『魔界の紋章』豊田有恒/訳
ハヤカワ文庫SF 1978/2/1 (文庫SF)

(17)ウィリアム・ホープ・ホジスン『異次元を覗く家』団 精二/訳
ハヤカワ文庫SF 1972/5/1 (文庫SF)

(18)ロバート・A・ハインライン『夏への扉』福島 正実/訳
 (文庫SF)

(19)ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を〔新版〕』
小尾芙佐訳 ハヤカワ文庫NV 2015/3/13 (文庫NV)

(20)カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』土屋政雄/訳
ハヤカワepi文庫 2008/8/1 (epi文庫)

 

【4】2020(令和2)年12月15日号(No.284)
「私の読書論138-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(4)
ハヤカワ文庫の50冊(2)SF系の拾遺」
2020.12.15
私の読書論138-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(4)
ハヤカワ文庫の50冊(2)SF系の拾遺-楽しい読書284号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/12/post-6dcf8b.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/d5d58cdf2b456f12649ebad3b8f8c3d5
SF系の拾遺――シリーズもの三つ
▼C・L・ムーア +(イラスト)松本零士
<ノースウェスト・スミス>シリーズ
(21)『大宇宙の魔女』仁賀克雄訳 ハヤカワ文庫 SF36 1971/9/1

(22)『異次元の女王』同 ハヤカワ文庫 SF62 1972/9/1

(23)『暗黒界の妖精』同 ハヤカワ文庫 SF82 1973/2/1

<処女戦士ジレル>シリーズ
(24)同 ハヤカワ文庫 SF139 1974/3/1

▼ポール・アンダースン&ゴードン・R・ディクスン
 <ホーカ>シリーズ +(イラスト)天野嘉孝(あまの よしたか)
(25)『地球人のお荷物』稲葉明雄・伊藤典夫訳 ハヤカワ文庫 SF68
1972/9/1

(26)『くたばれスネイクス』稲葉明雄・他訳 ハヤカワ文庫SF
1987/6/1

(27)『がんばれチャーリー』宇佐川 晶子訳 ハヤカワ文庫SF
1988/10/1

▼火浦功<みのりちゃん>シリーズ +(イラスト)いしかわ じゅん
(28)『日曜日には宇宙人とお茶を』ハヤカワ文庫JA190 1984/7/1

(29)『大冒険はおべんと持って』ハヤカワ文庫JA234 1987/1/1

「文庫JA」
(30)『S-Fマガジン・セレクション1981』早川書房編集部編

(31)『美亜へ贈る真珠〔新版〕』梶尾真治 ハヤカワ文庫JA
2016/12/20

「文庫NV」
(33)『時の地図 上・下』フェリクス・J・パルマ 宮崎 真紀訳
ハヤカワ文庫 NV 2010/10/8

 

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  ◆ 「お子ちゃま」読者時代からのお友達 ◆
  私の読書論141-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(5)
   ―― ハヤカワ文庫の50冊(3) NVの数々 ――
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●「文庫NV」とは

(略)

 ●「文庫NV」から選んでみると――冒険小説

まずは、冒険小説から――冒険小説といえば、本場はイギリス。
イギリス人作家のふたりから始めましょう。

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(画像:ハヤカワ文庫NV(書影)『ナヴァロンの要塞』『女王陛下のユリシーズ号』アリステア・マクリーン)

 

(34)『ナヴァロンの要塞』アリステア・マクリーン
平井 イサク/訳 1977/2/1

(略)

210214hayakawa-bonko-nv-ho

(画像:ハヤカワ文庫NV(書影)『スペイン要塞を撃滅せよ』『トルコ沖の砲煙』『パナマの死闘』セシル・スコット・フォレスター(海の男ホーンブロワー・シリーズ 2,4,5))

 

(35)『スペイン要塞を撃滅せよ』セシル・スコット・フォレスター
 高橋 泰邦/訳
(ハヤカワ文庫 NV 58 海の男ホーンブロワー・シリーズ 2)1973/12/1

『トルコ沖の砲煙』高橋 泰邦/訳
(ハヤカワ文庫 NV 70 海の男ホーンブロワー・シリーズ 4)1974/6/1

『パナマの死闘』高橋 泰邦/訳
(ハヤカワ文庫 NV 80 海の男ホーンブロワー・シリーズ 5)1974/11/1

(略)

 ●「文庫NV」から選んでみると――ホラー:アンソロジー

ホラー部門では、先に挙げている2冊以外に
アンソロジーを――

(36)『闇の展覧会〔1〕〔2〕』カービー・マッコーリー編

『闇の展覧会〔1〕』では、
スティーヴン・キングの中編「霧」が名作。

(略)

『ナイトヴィジョン スニーカー』キング他
ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション 1990/5/1

キング、ダン・シモンズの中短編と、
ジョージ・R・R・マーティンの
89年度世界幻想文学大賞中篇部門賞受賞作「皮剥ぎ人」収録。

「皮剥ぎ人」がいい。
アメリカの田舎のまちを牛耳るボスと対決する探偵のお話と、
人狼ものをミックスした傑作中編。

 ●「文庫NV」から選んでみると――ホラー:マシスン

(略)

『激突!』リチャード・マシスン 小鷹 信光/訳
ハヤカワ文庫 NV 37 1973/3/1

(略)

(37)『地球最後の男』リチャード・マシスン 田中 小実昌/訳
ハヤカワ文庫 NV 151 モダンホラー・セレクション 1977/9/1

(略)

 ●「文庫NV」から選んでみると――ホラー・幻想など

(略)

『ドラキュラのライヴァルたち』マイケル・パリー/編
小倉 多加志/訳 ハヤカワ文庫―NV 1980/9/1

(略)

(38)『地図にない町 ディック幻想短篇集』
フィリップ・K・ディック 仁賀 克雄/編・訳
ハヤカワ文庫 NV 122 1976/8/1

(略)

210214hayakawa-bonko-nv

(画像:ハヤカワ文庫NV(書影)『闇の展覧会〔1〕〔2〕』カービー・マッコーリー編、『ナイトヴィジョン スニーカー』、『地球最後の男』『激突!』リチャード・マシスン、『ドラキュラのライヴァルたち』マイケル・パリー/編、『地図にない町 ディック幻想短篇集』フィリップ・K・ディック)

 

 ●「文庫NV」から選んでみると――サスペンス

210214hayakawa-bonko-nv-s

(画像:ハヤカワ文庫NV(書影)『堕ちる天使』ウィリアム・ヒョーツバーグ、『GATACA(上)(下)』フランク・ティリエ)

(略)

(39)『堕ちる天使』ウィリアム・ヒョーツバーグ 佐和 誠/訳
ハヤカワ文庫NV 1981/2/1

(略)

次に、〈左利きミステリ〉でもあるフランスの作品で、

(40)『GATACA(上)(下)』フランク・ティリエ 平岡 敦/訳
ハヤカワ文庫NV 2013/5/24

シリーズもので、前作の謎?を明らかにする部分は、凄い。
楽しみな連作のようです。

今回は、左利きにまつわるお話で、凶悪な殺人者が生まれるのは、
遺伝的な要素があるのだという。
で、左利きもその特徴の一つだと。
(この辺は左利きの私には非常に面白くない部分ですが。)

映画化もされたようで、左利き研究20年のイギリス人科学者の著書
『非対称の起源』(クリス・マクマナス 講談社ブルーバックス)

という左利きの研究書の中でもふれていたという記憶があります。

お話は面白いのでその辺はオススメです。

 ・・・

今回はこの辺で。
次回は、いよいよ「文庫ミステリ」編です。

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本誌では、「私の読書論141-私を育てたハヤカワ文庫創刊50周年(5) ハヤカワ文庫の50冊(3) 」と題して、ハヤカワ文庫の読書歴とともに、“ハヤカワ文庫の50冊”の3回目として「文庫NV」から冒険もの、ホラー系、サスペンスもののを紹介しています。

コメントの類いは基本省略しています。

もうすぐ50冊になってしまうのですが、まだまだ書きたい本、
紹介したい本があるので、どうなるのでしょうか。

まあ、最悪は、「ハヤカワ文庫の100冊」にすれば済む問題ですので。

お楽しみに! ということで……。

 ・・・

では、詳細は本誌で!

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2020.12.05

左利きの人生を考える(3)「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(2)-週刊ヒッキイ第584号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』第584号 別冊編集後記

第584号(No.582) 2020/12/5
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(3)
 「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(2)」

 

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よろしくお願い申し上げます。(゚゚)(。。)ペコッ

 

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・ 2014年7月より
  月二回(第一・第三土曜日)の発行に変更しました。
・ 2019年10月より
  第一・第三土曜日の発行は、新規配信
  第二・第四土曜日の発行は、バックナンバーからの再配信
  に変更しました。

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引き続き、再配信はしばらくお休みとします。

 

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左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第584号(No.582) 2020/12/5
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(3)
 「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(2)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「左利き本のために――左利きの人生を考える」
 の第3回目です。

 今回は、私の左利き体験を中心に、
 過去における左利きへの偏見について見ておこう、
 と思います。

 つきましては、10月7日に逝去されました作曲家、
 筒美京平さんの作曲された「わたしの彼は左きき」について、
 発表当時の左利き事情を、私の経験と照らし合わせながら、
 あれこれ書いてみます。

 1回目は↓

第580号(No.580) 2020/10/3
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(1)」

左利きの人生を考える(1)「左利きライフ」ってなんだ?
-週刊ヒッキイ第580号
『お茶でっせ』版 『新生活』版

 2回目は↓

第582号(No.582) 2020/11/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(2)
 「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(1)」

2020.11.7
左利きの人生を考える(2)「わたしの彼は左きき」の時代:
1970年代(1)-週刊ヒッキイ第582号
『お茶でっせ』版 『新生活』版

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
  (左利き本のために)――左利きの人生を考える(2)
  ◆ 1970年代は日本における左利きの転換点 ◆
   ~ 「わたしの彼は左きき」の時代(2) ~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「(左利き本のために)――左利きの人生を考える」では、
左利き人生をしあわせに生きるための方法を考えます。

右利き偏重の社会において、左利き人生とはどういうものか、
どういう意味があるのか、どのように展開すべきなのか、
それらを考えてみたいのです。

まずは、過去における「左利きの苦い思い出」を振り返り、
現状にいたるまでの左利き観の変化を見ておこうと思います。

 ・・・

前回は、10月に亡くなられた筒美京平さんの作曲された
麻丘めぐみのヒット曲「わたしの彼は左きき」に関連して、
左利きの人たちが置かれていた当時の状況を
麻丘さんの言葉など紹介しながら見てきました。

今回はその続きです。

 ●ヨネスケさんの左手箸のこと

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(画像:『突撃! 隣の晩ごはん』のしゃもじを持つヨネスケさん) 

「左利きがタブーだった時代、ヨネスケは箸を右手で持つように」 2017.08.26 07:00  女性セブン

(略)

 《「高齢の視聴者から
  “左手でお箸を持つのはいかがなものか!?”
  とクレームが数多く入り、
  途中からヨネスケさんは右手で箸を持つようになったんです」
  (当時を知る日テレ関係者)》

 ●前田敦子さんの場合
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(画像:2011年、前田敦子さんの丸美屋「家族のお茶漬け」シリーズCM)


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(画像:2012年、前田敦子さんの日清「カップヌードル」CM)


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(画像:2009年12月11日の前田敦子さんのブログより、右手で箸を使う練習をするところ)

 ●左手で箸を使うこと
 ●日清食品「どん兵衛 きつねうどん」CMの話
 ●左利きに関する「違和感」について

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、<strong>「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24― 左利き本のために――左利きの人生を考える(3)「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(2)」と題し、前回に引き続き、ヨネスケ師匠の左手箸について、そして、タレントさんの左手箸CMについてなど、書いています。

右利きの人たちが感じるという、左利きの人たちの左手使いについての「違和感」に関しては、次回に改めて書いてみます。

日清食品「どん兵衛 きつねうどん」CMに関しては、私自身、左利きに関してコンプレックスを持っていただけに、山城新伍さんと川谷拓三さんのお二人が左手に箸を持って「どん兵衛」を食べるシーンに、大いに勇気づけられたものでした。
非常に嬉しいCMだったのですが、また世間的にも大いに人気を博したものだったのですが、一方で、左手で箸を使う姿をテレビで公にすることに批判的な意見もあったということです。

今はかなり世間の目も変化してきたという気がします。

 ・・・

詳細は、本誌で。

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2017.11.06

努力で幸福になれる―ラッセル「幸福論」NHK100分de名著2017年11月

11月のNHK100分de名著は、バートランド・ラッセルの「幸福論」です。

名著70 バートランド・ラッセル「幸福論」

プロデューサーAのおもわく。

ラッセルの「幸福論」のキーワードは「外界への興味」と「バランス感覚」。人はどんなときにでも、この二つを忘れず実践すれば、悠々と人生を歩んでいけるといいます。そして、それらを実践するために必要な思考法や物事の見方などを、具体例を通して細やかに指南してくれるのです。まさに、この本は、人生の達人たるラッセルの智慧の宝庫といえるでしょう。

【講師】小川仁志(山口大学准教授)
【朗読】荒川良々(俳優)
【語り】墨屋 那津子(元NHKアナウンサー)

第1回 11月6日放送
自分を不幸にする原因ラッセル自身の人生の歩みを紹介しながら、人々を不幸にしてしまう原因を明らかにしていく。

第2回 11月13日放送
思考をコントロールせよ不幸に傾きがちなベクトルをプラスに転換する「思考のコントロール方法」を学ぶ。

第3回 11月20日放送
バランスこそ幸福の条件極端に走りがちな人間の傾向性にブレーキをかける、ラッセル流のバランス感覚を学んでいく。

第4回 11月27日放送
他者と関わり、世界とつながれ!ラッセルのその後の平和活動にもつながる、自我と社会との統合を理想とした、独自の幸福観を明らかにしていく。

 

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
『ラッセル『幸福論』 2017年11月』小川 仁志

―客観的に生きよ
 「自分」のなかに閉じこもる――それが不幸の原因だ。

自分の「外部」に没頭せよ
核兵器の廃絶と科学技術の平和利用を訴えた「ラッセルアインシュタイン宣言」でも知られる知の巨人、バートランド・ラッセル。彼が自らの人生を通じて実証した、幸福を「獲得」する方法とは? 「究極のポジティブシンキング」で、論理的に幸福をつかめ!

 

 

【講師:小川仁志さんの関連著作】
小川 仁志『ポジティブ哲学! ―三大幸福論で幸せになる―』清流出版 2015/6/19
―アラン、ヒルティ、ラッセルの「三大幸福論」から得る幸せの見つけ方

 

『幸福論』 B・ラッセル/著 堀秀彦/訳 角川ソフィア文庫 2017/10/25
―解説:小川 仁志

 

 

 

 ●三大幸福論

哲学の三大幸福論と言われるのが、フランスの哲学者・アラン『幸福論』(1925)、スイスの哲学者ヒルティ『幸福論』(全三巻 1891-99)と、イギリスの哲学者・ラッセルの本書です。

一番とっつきやすいのは、アラン『幸福論』でしょう。
文庫本で2~3ページという短文を集めたもので、読みやすいというのが特徴の一つです。

内容は、哲学的・文学的で、アランの主張は、自分で作る幸福は決して裏切らない(「47アリストテレス」)といい、自分が幸福になるのは義務だ(「92幸福になる義務」)といい、子供には幸福になる方法を教えるべきだ(「91幸福となる方法」)といい、幸福になるにはまず気持ちの持ち方である(「66ストイシズム」)といい、幸福だから笑うのではなく笑うから幸福になるのだ(「77友情」)、と教えます。

 

*参照:『お茶でっせ』記事 2011.10.31
アラン『幸福論』喜びは、行動とともにある!

 

 

ヒルティ『幸福論』も各巻8本ずつの論文が集められたものです。
キリスト教的な見地からの実用的な幸福論という気がします。

「人間だれ一人として幸福を求めないものはない」(第三部「二種類の幸福」)といい、「幸福こそ、人間の生活目標なのだ」(第一部「幸福」)といい、「仕事は人間の幸福のひとつの大きな要素だ」といい、「あなたは額に汗してパンを食べねばならぬ」(創世記三の一九/同)と。
第一部が「仕事の上手な仕方」で始まるように、幸福への道は、まず仕事に励むこと、といいます。

そして、不幸は人生につきものであり、逆説的にいえば、不幸は幸福のために必要だ、とも言います。

第三部「二種類の幸福」で、「価値の低い幸福」に至る道については古くから述べられているといい、彼は「永続的な幸福」について書いています。
それは、「神のそば近くにあること」「偉大で真実な思想に生きる」ことだと言います。

 

 ●『ラッセル幸福論』

これらの著作と異なり、本書は、一冊を費やして幸福について論を張る長編の論文です。

「はしがき」によりますと、自身の経験と観察によって確かめられた処方箋で、《周到な努力によれば幸福になりうる》(『ラッセル幸福論』安藤貞雄/訳 岩波文庫より―以下同じ―p.5)という信念に基づき、本書を書いたといいます。

この本の目的は、

普通の日常的な不幸に対して、一つの治療法を提案することにある。》p.14

といいます。

いかにして幸福を獲得するか? その積極的で具体的な方法を伝授すること、だそうです。

特別な不幸――恐怖政治や戦争、社会の貧困といった大きな問題、個人的には病気やケガ等、あるいは親しい人の死等の、単純には乗り越えられない種類の不幸は取り上げない。
あくまでも個人の力で改善できる問題に置いて、です。

そして、多くの人はそのような日常的な不幸を抱えて生きている、というのです。
では、そのような日常的な不幸に陥る原因はどこにあるのでしょう。

 

第一部「不幸の原因」では、「不幸だと感じている人々」がどのような状況にあるか、を分析し原因を追究します。

第1章「何が人びとを不幸にさせるのか」では、

不幸の心理的な原因は、明らかに、多種多様である。》p.22

といい、その原因を一つずつ挙げ、第2章「バイロン風の不幸」第3章「競争」第4章「退屈と興奮」第5章「疲れ」第6章「ねたみ」第7章「罪の意識」第8章「被害妄想」第9章「世評に対するおびえ」と、分析してゆきます。

トルストイ『アンナ・カレーニナ』の冒頭で、

幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである。 》(中村融訳 岩波文庫)

と書いていますが、それと同じようなものでしょう。

 

たとえば第2章「バイロン風の不幸」では、

人生は、ヒーローとヒロインが、信じがたいような不運を乗り越えたのちにハッピーエンドで報われる、といったメロドラマの類推で考えられるべきではない。》p.33

といいます。
第3章「競争」では、

成功は幸福の一つの要素でしかないので、成功を得るために他の要素がすべて犠牲にされたとすれば、あまりにも高い代価を支払ったことになる》p.54

といいます。
第4章「退屈と興奮」では、

前の晩が楽しければ楽しいほど、翌朝は退屈になる》p.66

といい、

総じてわかることは、静かな生活が偉大な人びとの特徴であり、彼らの快楽はそと目には刺激的なものではなかった、ということだ。》p.70

ともいい、

幸福な生活は、おおむね、静かな生活でなければならない。なぜなら、静けさの雰囲気の中でのみ、真の喜びが息づいていられるからである。》p.74

といいます。
第5章「疲れ」では、

きちんととした精神を養うことで、どれほど幸福と効率がいまやすかは、驚くほどである。きちんとした精神は、ある事柄を四六時中、不十分に考えるのではなく、考えるべきときに十分に考えるのである。》p.79

といいます。
たとえば心配事に関しても、

最悪の場合でも、人間に起こることは、何ひとつ宇宙的な重要性を持つものはないからである。》p.84

といい、取り越し苦労を否定します。
第6章「ねたみ」では、

他人と比較してものを考える習慣は、致命的な習慣である。何でも楽しいことが起これば、目いっぱい楽しむべきであって、これは、もしかしてよその人に起こっているかもしれないことほど楽しくないんじゃないか、などと立ち止まって考えるべきではない。》p.95-96

といいます。
第7章「罪の意識」では、

他人に対して心の広い、おおらかな態度をとれば、他人を幸福にするだけではなく、本人にとっても限りない幸福の源となる。》p.117

といい、

おのれの能力を最も完全に発揮するときに最大の幸福が訪れる。》p.121

といいます。
第8章「被害妄想」では、被害妄想を治すことが

幸福獲得の重要な部分である。というのは、私たちは万人が自分を虐待していると感じているかぎり、幸福になることはまるで不可能だからだ。》p.124

といい、被害妄想の予防薬となる四つの公理を挙げています。
第9章「世界に対するおびえ」では、世評に対する恐れは、

抑圧的で、成長を妨げるもので(略)真の幸福を成り立たせている精神の自由を獲得することは不可能である。》p.151-152

といい、幸福にとって不可欠なのは、

私たち自身の深い衝動から生まれてくる》p.152

ことがら――趣味や楽しみ、希望等によるのだと言います。

幸福は同じような趣味と、同じような意見を持った人たちとの交際によって増進される。》p.151

と。

 

第二部「幸福をもたらすもの」で、幸福になる秘訣を説きます。

第10章「幸福はそれでも可能か」では、幸福には2種類あると言います。
一つは、どんな人にも得られるが、もう一つは、読み書きのできる人にしか得られないものだといいます。
前者のそれは、動物にも見られる単純な喜び――生存における快適な充足といったものです。
それに引き換え、後者は、科学者の尊敬に値する業績のような、困難を克服したのちに得られる成功の喜び――自己の能力を高く評価する、といったものです。
しかしこのような成功を一般の人間が獲得するのは難しいものです。
そこで注目すべきは、「趣味に熱中すること」といいます。
それでも、このような趣味や道楽は、現実からの逃避の手段とも言えます。

根本的な幸福は、ほかの何にもまして人や物に対する有効的な関心とも言うべきものに依存している。》p.170

といいます。
そして、この人への関心は愛情であり、

幸福に寄与する愛情は、人びとを観察することを好み、その個々の特徴に喜びを見いだす類の愛情である。》p.170

といい、最後に

幸福の秘訣は、(略)あなたの興味をできるかぎり幅広くせよ。そして、あなたの興味を惹く人や物に対する反応を敵意あるものものではなく、できるかぎり友好的なものにせよ。》p.172

といいます。
第11章「熱意」では、幸福な人の最も一般的な特徴として「熱意」を取り上げます。

人間、関心を寄せるものが多ければ多いほど、ますます幸福になるチャンスが多くなり、また、運命に左右されることが少なくなる。》p.176

といいます。
一つを失っても別のものがある、というわけ。すべてのものに興味を持つには人生は短すぎるけれど……。

熱意こそは、幸福と健康の秘訣である。》p.192

、と。
第12章「愛情」では、

人生に対する一般的な自信は、ほかの何にもまして、正しい愛情を、必要なだけ、ふだん与えられているところから生まれる。》p.195

といいます。
ものごとへの熱意の源となる精神の習慣としての愛情において最上のものは、

相互に生命を与えあうものだ。おのおのが喜びをもって愛情を受け取り、努力なしに愛情を与える。》p.202

といいます。
ところが現代は、人との付き合いにおいて用心深さが必要とされる状況にあり、しかし、

愛における用心深さは、ことによると、真の幸福にとって致命的なものであるかもしれない。》p.205

といいます。
第13章「家族」では、

両親の子供に対する愛情と、子供の良心に対する愛情は、幸福の最大の源の一つ》p.206

となりうるにもかかわらず、現代では大きな不幸の源になっている、といいます。
それでも、

個人的に言えば、私自身は、親としての幸福は私の味わった他のどんな幸福より大きいと思っている。》p.218

といいます。
そして、

私たちは、よい人間関係は両方の側にとって満足すべきものでなくてはならないと信じている。》p.222

といい、

本当に子供幸福を希(こいねが)う親は、(略)衝動によって正しく導かれることだろう。》p.225

といいます。
第14章「仕事」では、「仕事」の役割としては、第一に

退屈の予防策として望ましいものだ。》p.231

といい、第二の利点は、

成功のチャンスと野心を実現する機会を提供してくれる。》p.232

といいます。
成功したいという欲望があれば、その仕事に耐えられるといい、

目的の持続性ということは、結局、幸福の最も本質的な成分の一つであるが、(略)これは主として仕事を通して得られる。》p.232

といいます。
そして、

一つの重要な仕事を見事にやり遂げた幸福を、人から奪えるものでは何ひとつない。》p.237-238

といい、

首尾一貫した目的(略)は、幸福な人生のほぼ必須の条件である。そして、(略)主に、仕事において具体化されるのである。》p.241

といいます。
第15章「私心のない興味」では、生活の根底をなしている主要な興味ではなく、二次的な興味について語られます。
これは、主要な仕事での疲れや活力を取りもどすための気分転換、余暇を満たす興味といった意味でしょう。

仕事以外の興味をたくさん持っていれば、持っていない場合よりも、仕事を忘れるべきときに忘れることが断然やさしくなる。》p.244

といいます。
そういう「思考のチャンネルを切り替えること」ができる

魂の偉大さを持ちうる人は、心の窓を広くあけて、宇宙の四方八方から心に風が自由に吹き通うようにするだろう。》p.250

といい、

賢明に幸福を追求する人は、(略)いくつかの副次的な興味を持つように心がけるだろう。》p.253

といいます。
第16章「努力とあきらめ」では、古代中国の『論語』でも、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』においても語られる、古今東西で指摘されてきた「中庸」という教義について語ります。

純粋に個人的な希望は、無数の形で挫折するものであって、避けがたいものかもしれない。》p.260-261

といいます。
人生においては、ことを達成することができず、その努力を半ばで諦めなければならない場合があるということです。

中庸を守ることが必要である一つの点は、努力とあきらめのバランスに関してである。》p.254

といい、

日ごとに信じがたくなる事柄を日ごと信じようとする努力(略)を捨て去ることこそ、確かな、永続的な幸福の不可欠の条件である。》p.265

といいます。
最終章の第17章「幸福な人」は、いよいよ「まとめ」の章です。

外的な事情がはっきりと不幸ではない場合には、人間は、自分の情熱と興味が内へではなく外へ向けられているかぎり、幸福をつかめるはずである。》p.267

といい、

やはり、人生は生きがいがあるのだ、と感じられるように自分に教え込むとよい。》p.270

といいます。さらに、

幸福な人生は、不思議なまでに、よい人生と同じである。》p.271

といい、

私は、本書を快楽主義者として、言い換えれば、幸福を善と見る人間として書いた。》p.271

といいます。
これはおおむね、健全な道徳家の推奨する行為と同じだが、私の推奨してきた人生態度と道徳家のそれとでは少し異なる部分があるとも言います。

私たちは、愛する人びとの幸福を願うべきである。しかし、私たち自身の幸福と引き換えであってはならない。》p.272-273

といいます。
自己否定の教義にくみすることなく、世界への興味を持つことで、自己もまた生命の流れを一部であることを認識し、自己と世界を統合したものと実感できる、といいます。
最後に、

幸福な人とは、客観的な生き方をし、自由な愛情と広い興味を持っている人である。また、こういう興味と愛情を通して、そして今度は、それゆえに自分がほかの多くの人びとの興味と愛情の対象にされるという事実を通して、幸福をしかとつかみとる人である。》p.268

といい、

幸福な人とは、(略)自分の人格が内部で分裂してもいないし、世間と対立してもいない人のことである。(略)自分は宇宙の市民だと感じ、(略)宇宙が与える喜びをエンジョイする。》p.273

といい、子孫という生命の連続を信じ、死を恐れない、生命の流れと結合し、大いなる歓喜を見出している、と結論します。

 

簡単にいえば、幸福な人とは、自分の内に閉じこもらず、自らを客観的に見、広く外に目を向け、興味を持って人や社会と対立することなく友好的につきあい、未来につながる生き方で人生をエンジョイする人のことである、といえるのではないでしょうか。
幸福な人生とは、よく生きることである、と。

 

 

 ●よく生きる――幸福こそ最高善である

ソクラテスは、

最も尊重しなければならなぬのは生きることではなくて、善く生きることだ

といい、そのあと続けて

善く生きることと立派に生きることと正しく生きることとは同一である

といいました(プラトン著『クリトン』山本光雄訳 角川文庫)。

「善く生きる」とは、「立派に生きること」「正しく生きること」「美しく生きること」でもあり、「生きがいのある人生」のことであり、「自分にとって望ましい生き方」ということであり、すなわち「幸福に生きる」ことだと言います。

古代ギリシア人は、真・善・美を重んじたといいます。
「真」とは「善」であり「美」である(「真」=「善」=「美」)ということで、人もそのように生きるべきだということでしょう。

「幸福に生きること」が人生における「真理」なのだ、と。

 

アリストテレス『ニコマコス倫理学』(光文社古典新訳文庫[上巻]第一巻第八章)には、

幸福とはよい人生を送り、立派にやっていくこと

といい、

というのも、[われわれの説では、幸福とは]或る種の善き生であり、善き行為であると大体は語られていたからである。

といいます。
さらに、

われわれにとって幸福は、尊敬に値する、完璧なもののひとつである、ということである。》(第一巻第十二章)

と。
結論として、人間にとっての幸福こそ、「最高善」なのだ(第一巻第七章)、といいます。

 

本書のラスト(第二部「第17章」)でも、ラッセルは

幸福な人生は、不思議なまでに、よい人生と同じである。

といい、「幸福は善だ」と書いています。

古代西洋哲学以来の考え方なのでしょう。
そして、それが真実なのではないでしょうか。

 ・・・

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*私が読んだ本: 『ラッセル 幸福論』B. ラッセル/著 安藤貞雄/訳 岩波文庫 1991/3/18

 

 

*「三大幸福論」他の二点: アラン『幸福論』白井健三郎/訳 集英社文庫

 

 

『ヒルティ 幸福論』(全三巻)岩波文庫
[第一部] 草間平作/訳 改版 1961/1/1

 

*その他の参考文献:

・プラトン/著『ソクラテスの弁明―エウチュプロン,クリトン』山本光雄/訳 角川文庫 改版 1989/06
―ソクラテス裁判の朝の出来事を語る「エウチュプロン」と裁判後処刑を待つある一日の出来事を描く「クリトン」を併せて収録。

 

 

・アリストテレス/著『ニコマコス倫理学(上)』渡辺邦夫, 立花幸司/訳 光文社古典新訳文庫 2015/12/8

 

「NHK100分de名著」カテゴリ:
NHK100分de名著

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新渡戸稲造『武士道』日本的思考の根源を見る-「100分 de 名著」NHK
5 2012年3月放送:2012.3.6
仏教は「心の病院」である!NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』2012年3月
6 同:2012.4.2
NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』を見て本を読んで
7 2012年4月放送:2012.4.3
紫式部『源氏物語』NHKテレビ100分de名著
8 2012年5月放送:2012.5.2
確かな場所など、どこにもない―100分 de 名著 カフカ『変身』2012年5月
9 2012年6月放送:2012.6.6
<考える葦>パスカル『パンセ』NHK100分 de 名著2012年6月
10 2012年10月放送:2012.10.2
鴨長明『方丈記』NHK100分 de 名著2012年10月
11 2012年12月放送:2012.12.5
<心で見る努力>サン=テグジュペリ『星の王子さま』NHK100分de名著2012年12月
12 2013年1月放送:2013.1.11
呪文に頼るのもよし?~100分de名著『般若心経』2013年1月
13 2013年2月放送:2013.2.5
待て、そして希望せよ~NHK100分de名著『モンテクリスト伯』2013年2月
14 2013年3月放送:2013.3.28
どんな時も、人生には、意味がある。フランクル『夜と霧』~NHK100分de名著2013年3月(再放送)
15 2013年4月放送:2013.4.11
真面目な私とあなた―夏目漱石『こころ』~NHK100分de名著2013年4月
16 2013年5月放送:2013.5.20
水のように生きる『老子』NHK100分de名著2013年5月
17 2013年6月放送:2013.6.5
生きる喜びは、どこにあるのか?『戦争と平和』トルストイ~NHK100分de名著2013年6月
18 2013年7月放送:2013.7.9
哲学とは、愛である『饗宴』プラトン~NHK100分de名著2013年7月
19 2013年11月放送:2013.11.10
「物語」に終わりはない『アラビアンナイト』~NHK100分de名著2013年11月
20 2013年12月放送:2013.12.11
切り離された者たちへ~ドストエフスキー『罪と罰』~NHK100分de名著2013年12月
21 2014年1月放送:2014.1.21
花とは何か~『風姿花伝』世阿弥~NHK100分de名著2014年1月
22 2014年3月放送:2014.3.4
戦わずして勝つ『孫子』~NHK100分de名著2014年3月
23 2014年6月放送:2014.6.1
目前の出来事・現在の事実『遠野物語』NHK100分de名著2014年6月
24 2014年12月放送:2014.12.3
生きるべきか、死ぬべきか-シェイクスピア『ハムレット』~NHK100分de名著2014年12月
25 2015年4月放送:2015.3.29
自分を救えるのは自分自身である-NHK100分de名著『ブッダ 最期のことば』2015年4月
26 2015年5月放送:2015.5.5
何もないことを遊ぶ『荘子』-NHK100分de名著2015年5月
27 2015年6月放送:2015.6.2
運命と人間―ギリシア悲劇/ソポクレス「オイディプス王」NHK100分de名著2015年6月
28 2015年7月放送:2015.6.30
ラフカディオ・ハーン/小泉八雲『日本の面影』NHK100分de名著2015年7月
29 2015年8月放送:2015.8.5
自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月
30 2015年9月放送:2015.9.1
恋と革命~太陽のように生きる-太宰治『斜陽』NHK100分de名著2015年9月
31 2015年10月放送:2015.10.7
処世訓の最高傑作「菜根譚」NHK100分de名著2015年10月
32 2016年1月放送:2016.1.4
真面目なる生涯~内村鑑三『代表的日本人』NHK100分de名著2016年1月
33 2016年4月放送:2016.4.4
弱者(悪人)こそ救われる『歎異抄』NHK100分de名著2016年4月
34 2016年5月放送:2016.5.1
人に勝つ兵法の道-宮本武蔵『五輪書』NHK100分de名著2016年5月
35 2017年2月放送:2017.2.6
欲望から自由になれ-ガンディー『獄中からの手紙』NHK100分de名著2017年2月
36 2017年3月放送:2017.3.5
永久の未完成これ完成である〈宮沢賢治スペシャル〉NHK100分de名著2017年3月
37 2017年4月放送:2017.4.4
人生は実に旅である―三木清「人生論ノート」NHK100分de名著2017年4月
38 2017年6月放送:2017.6.4
大乗仏典『維摩経』NHK100分de名著2017年6月
39 2017年7月放送:2017.7.3
ジェイン・オースティン『高慢と偏見』-NHK100分de名著2017年7月
40 2017年11月放送:2017.11.6
努力で幸福になれる―ラッセル「幸福論」NHK100分de名著2017年11月

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