『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』【別冊 編集後記】
第647号(No.647) 2023/8/12
「8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文」
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【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン
右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第647号(No.647) 2023/8/12
「8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文」
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今年も、暑い日が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか。
今年はまた一段と暑い夏となっています。
大阪でも連日35度以上、37度、38度という日もあります。
で、昨年同様、今年の八月も勝手ながら、合併号として、
第二土曜日(12日、<国際左利きの日>の前日)にお届けします。
・・・
8月13日<国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY>を前に、
この記念日について、および
この日に対するマスメディアの報道への注文(?)を
書いておきましょう。
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◆ 始まりは1976年アメリカ ◆
8月13日は「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」
-メディアに注文-
左利き問題への本質的な取り組みを根底に置いて欲しい
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●「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」について
昨年も書いたことなのですが、
8月13日は「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」です。
毎年この日に関しては、ブログ等で書いていますように、
日本語版 Wikipedia「左利きの日」等で紹介されている、
《1992年8月13日、イギリスにある「Left-Handers Club」により制定》
という、“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説は、
あくまでもこの会の「主張」であって、真実ではありません。
正しくは、1976年アメリカで始まった、が正解です。
英語の「International Lefthanders Day」
「International Lefthander's Day」等で検索しますと現れます、
英語版のWikipediaやその他の左利き系サイトには、
(私の英語読解力に誤りなければ)
1976年、アメリカ・カンザス州の州都トピカに開店した
左利き用品店のオーナー、ご自身左利きである、
ディーン・キャンベル(Dean R. Campbell)さんが、
開店一周年を機に左利きの人の会(Lefthanders International)を始め、
左利きの人の生活向上のために左利き用品の普及を目指し、
開店記念日にあたる<8月13日>を
「国際左利きの日」(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)という
記念日に制定したのです。
(画像:英語版ウィキペディアの「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」の項目冒頭――下線部分:「国際左利きの日」は「レフトハンダー・インターナショナル」の創設者ディーン・R・キャンベルによって1976年に最初の祝祭が行われた)
イギリスの「Left-Handers Club」は、
イギリスの左利き用品専門店「Anything Left-Handed」の顧客を
もとにした左利きの人の会です。
「Anything Left-Handed」は、2018年に開店50周年を迎えたという、
1968年創業の老舗ですが、
当初は右利きの人が始めた隙間狙いの業態でした。
その後、左利きの人がオーナーとなり現在に至るのでした。
ロンドンという大都会での営業ということで、
特に宣伝に知恵を絞らなくても、世界中からお客さんが集まり、
結構経営的には、そこそこだったのでしょうね。
一方、州都とはいえ、アメリカの田舎での営業ということで、
1975年に開業した後発のお店であるキャンベルさんの左利き用品店は、
色々な工夫と宣伝が必要だったのかもしれません。
そこで、こういうイベントを考案されたのでしょうか。
イギリスの方は、キャンベルさんちが一足先に始めた
この記念日にあとからのっかったという形でしょうか。
(ほんとうのところは存じませんが……。)
●<国際左利きの日>の日本での報道について
さて、この8月13日の<国際左利きの日>ですが、
当日、テレビのニュース番組やネットのSNS等で、
「今日は何の日?」的に紹介、取り扱われることがよくあります。
そんな今までに見たテレビや雑誌、ネットの報道や投稿等について、
私の思うところを書いてみます。
・・・
先ほども書きましたように、
この日のテレビ番組やネットの投稿などでよくあるのは、
「今日は何の日?」的なニュースです。
それらではもっぱら次のような扱いが為されてきました。
まずはこの記念日について、
(1)「8月13日は<国際左利きの日>ですといい、
左利き用品の普及や生活向上を考える記念日で、先に書きました、
“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説を紹介する。
次に、左利きの人の日常生活での不便について、
(2)左利きの人の日常の不便の具体的な例として、
左利きの人は右手用のハサミの扱いで困るとか、
自動改札機が使いにくいとか、ファミレスのお玉が使いにくい等――
左利きの人の証言を流す。
という形が多いのですね。
(2)に関しましては、もちろん間違いではないのですが、
そもそもなぜ子おような現象が起きるのか、
どのような理由でこれらの左利きの人の不便が生まれるのか、
という根本の考察が見られません。
現象面のみが取り上げられるだけで、
それでは根本的な解決にはつながりません。
ただ単に記念日を取り上げただけの、
「気遣いましたよ」というポーズだけの発信です。
●「左利きの日」についてのメディア・発信者への注文
ここで、私からの注文です。
(あ)“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説をやめ、
“1976年アメリカのキャンベル”説の正しい情報に差し替える。
(い)左利き用品の紹介の前に、なぜそのようなものが必要か、
を「利き手の違い」という本質から解説する。
(う)現状の社会は、右利き優先/偏重の社会――「右利き社会」だ、
という事実を示し、右利きの人は多数派ゆえに「恵まれた存在」だ、
という認識を明らかにする。
●誤りを正したいという願い
(あ)“1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ”説をやめ、
“1976年アメリカのキャンベル”説の正しい情報に差し替える。
冒頭に書きましたように、
日本語版 Wikipedia「左利きの日」等で紹介されている
「1992年イギリス制定」説を鵜呑みにしたかのような、
情報を垂れ流している人たちがいる、というのが
いつも気になっているのです。
とにかく、この日本での「1992年イギリス制定」説はなんとかしたい、
という願いです。
それは何も、イギリスの左利きの会の人がマネした、とかパクったとか、
非難するというのではなく、もっと単純に
「もっと長い歴史があるのですよ」と強調したいということです。
左利きの人たちは、
「もっと昔から不便を解消しようと努力してきたのだ」
という事実を明らかにしてほしいのです。
日本語版 Wikipediaをチェックする係の人もいるらしいのですけれど、
どこにいえばいいのかわかりません。
●利き手の違いという本質論を
(い)左利き用品の紹介の前に、なぜそのようなものが必要か、
を「利き手の違い」という本質から解説する。
テレビ番組の「左利きの日」のトピックとして、
左利きの不便について、右利き用の道具を左手で使ったり、
左利きの人のインタヴューを交えたりした動画を流す場合もあります。
左利きの不便について、現象面として確かにそのとおりなのですが、
そもそもなぜそういう状況になっているのか、
という本質について考えて欲しいのです。
前号
第646号(No.646) 2023/7/15
「週刊ヒッキイhikkii×楽しい読書コラボ企画:
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2023から(1)新潮文庫
左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』」
2023.7.15
左利きライフ研究家が読む――ブレイディみかこ『ぼくはイエローで…』
-週刊ヒッキイ第646号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/07/post-e456f6.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/bef4ad5a52cfa242388eb430fbc39b3f
で、ブレイディみかこさんの
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』のなかの、
エンパシーについて「自分で誰か人の靴を履いてみること」
という場面があります。
それに対して左利きの問題は、
「靴の左右を入れ替えて履く」ようなものだ、と書きました。
「右利き優先/偏重社会」で生きてゆく左利きの生活は、
左右の靴を入れ替えて履くような違和感があるものだ、という意味です。
以前、音楽に関しての号では、『マンウォッチング』にあった、
指組の例を挙げました。
第627号(No.627) 2022/10/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
楽器における左利きの世界(6)左利きは楽器演奏に不利か?」
2022.10.1
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)
楽器における左利きの世界(6)不利な楽器-週刊ヒッキイ第627号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/10/post-6d2221.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/7142edd7f782a8478966aa6006f16d06
指組も人により、決まった組み方があり、右手の親指が上になる人、
逆に左手の親指が上になる人がいます。
それを逆に組むと何かしら違和感があり、しっくりきません。
それが利き手の違いに似たようなものだ、と説明しました。
『マンウォッチング(上)』デズモンド・モリス 藤田統/訳
小学館ライブラリー13 1991/11/1
「動作」p.20の指組イラスト
昔、左利きの不便について右利きの人に話した際に言われたことは、
「(左利き用の道具がなくて不便だというけれど、
右手があるのだから、右手用を)右手で使えば済む問題」と。
「利き手・利き側とはなにか」という本質を知解していない発言です。
右利きの人に「どうして右手を使うのですか」と問いかけたとき、
こう答える人がいました。
「右手を使うように教えられたから」と。
例えば箸を使うとか字を書くとかの場合は、
そういうこともあるかもしれません。
実際に、字を書くのは右だけれど、箸は左という左利きの人がいます。
箸を使うというのは食事の際の行動で、早い段階から利用するものです。
一方、字を書くのは小学校に入る前、4、5歳ぐらいからでしょうか。
しかし、そもそも右利きの人の場合は、教えられなくても、
まず右手でものをつかむという行動に出ます。
左利きの子は、自然と左手が出ます。
教える教えないという段階よりも前に、そういう動作をするものです。
そういう利き手・利き側の性質をまずはしっかり理解できるように、
解説してほしいものです。
その上で、「右利き優先/偏重社会」で生きている
左利きの人の不便を伝えて欲しいのです。
●現状は「右利き優先/偏重社会」という「右利き天国」
(う)現状の社会は、右利き優先/偏重の社会――「右利き社会」だ、
という事実を示し、右利きの人は多数派ゆえに「恵まれた存在」だ、
という認識を明らかにする。
「左利きの不便」を裏から見れば、それは「右利きの便利」そのもので、
社会のあらゆる場面で、右利きを想定した状況が作られているのだ、
という事実をしっかり示し、右利きの人がいかに廻られた存在であるか、
ということを明確に示して、理解してほしいものです。
人は、自分が恵まれていると自覚したとき、余裕を持てたとき、
初めて人に「施す」という気持ちになるものです。
恵まれているからこそ、その一部でも人に分けてあげたい、
人と分かち合いたい、と思うものなのです。
右利きの恵まれた現状を知ることで、
他の立場の人への思いが生まれてくるものなのです。
今、右利きの人たちの多くは、自分たちの置かれている状況を、
「ふつう」と捉えているのではないでしょうか。
実は、それは「ふつう」ではなく、
主流派の、多数派の、優遇された立場なのだということを、
しっかり自覚して欲しいものです。
そういう報道をメディアの人たちには、心掛けて欲しい、
と私は思います。
●最後に――左利きの人のための実用書をもっと出版して欲しい
この手のニュースなどでは、
左利き用品のあれこれが紹介されるケースもあります。
それはいいのですけれど、たいていはありきたりなもので、
そんなの知ってるよ、というものも結構あります。
反面、左利きの本の紹介などはほとんど見られません。
その点をいつも残念に思ってきました。
ネットで、YouTubeなどの動画で、
なんでも勉強できる時代ではありますが、
いつでも手元に置いて参照できる紙の本の力は、
まだまだ捨てきれないものがあります。
昔から、左利きや利き手・利き側に関する科学的な研究本は
色々と出版されています。
とはいえ、最新の本といえるものがほとんどない状況です。
(2022年)
『左対右 きき手大研究』八田 武志/著 DOJIN文庫 2022/5/16
――日本の利き手研究の第一人者による、2008年発行のDOJIN選書版の
増補文庫版
(2021年)
『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き
「選ばれた才能」を120%活かす方法』加藤俊徳/著 ダイヤモンド社
2021/9/29
――左利き・利き側の科学解説書というより、<左利きの脳内科医>に
よる“左利き応援本”というのが本当のところでしょうか。
ただ最近では、ポツポツとではありますが、
左利き用の実用書の類いが出るようになっています。
左利き用のペン字練習帳とか、ギターのコード・ブックとか。
こういう本の方が、まさに実用性が高く、
科学的な解説書より需要があって、便利なものかもしれません。
(2021年)
『左利きギター専用! ギターコードブック』
ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス 2021/3/14
(2020年)
『左利き用 誰でも一瞬で字がうまくなる大人のペン字練習帳』
萩原 季実子/著 アスコム 2020/7/23
今年7月には、編み物の本が出ました。
編み物というのも、左利きの人にはむずかしいところがあるようです。
両手に針を持って編むものもあるでしょうけれど、
片手に針を持ってするという編み方もあるようです。
その場合、右手に針を持ってどうするこうする――
という教え方が基本になっているため、
左利きの人は二の足を踏むことも多いようです。
そういう人に朗報ですね。
(2023年)
『左利きさんのためのはじめてのかぎ針編み』佐野 純子/著
日東書院本社 2023/7/19
《手芸好きの左利きさん必携の一冊ができました!
【左利き専用】かぎ針編み入門書
編み物を諦めていた左利きの担当編集者が、
どうしても編めるようになりたくて作った一冊》
著者は、《右利きの母から初めて編み物を習》ったという、
文部省認定毛糸編物技能認定1級で、人形作家、左利きの佐野純子さん。
・・・
今後ともこういう左利きの人のための実用書が、
様々ジャンルにおいて出版されることを期待します。
・・・
毎年書いてきました過去の
<8月13日国際左利きの日>に関するブログ記事は、
以下↓のカテゴリからご覧になれます。
*『レフティやすおのお茶でっせ』〈8月13日国際左利きの日〉カテゴリ
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本誌では、「8月13日<国際左利きの日>を前に~メディアに注文」と題して、今回も全紹介です。
<国際左利きの日>を前に、この記念日をニュース等で取り上げてくださるテレビ番組や、メディア、SNS等で個人的に発信してくださる人たちには、感謝の気持ちを表明しておきましょう。
しかし、これらのせっかくの好意に、どうしても素直になれない自分がいます。
それはなぜかと考えますと、やはり本当のところ、どうも当事者である私の心に響かない部分がある、ということです。
正確な事実が反映されていなかったり、現象面を撫でるだけで、本質に踏み込まない報道になっているからではないか、と思います。
そこで、今回こういう注文を書いてみました。
ご理解いただけると嬉しいのですけれど……。
・・・
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