2019.11.30

クリスマス・ストーリーをあなたに(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ

―第260号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

 

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★ 2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」

 

◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------
2019(令和元)年11月30日号(No.260)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)
『その雪と血を』ジョー・ネスボ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 毎年、この時期恒例の
 「クリスマス・ストーリーをあなたに」の9回目です。

 昨年は、正確には「クリスマス・ストーリー」ではなく、
 ディケンズの『クリスマス・キャロル』以前の古典、
 小説といいますか、エッセイ風の作品、
 ワシントン・アーヴィングの『昔なつかしいクリスマス』
 を紹介しました。

 今回は、また現代編で、しかもエンタメ。

 昨年文庫化された翻訳作品です。

 

★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡
 ☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡

-クリスマス・ストーリーをあなたに (9)- 2019

  ~ クリスマスの夢…と悲劇 ~

   『その雪と血を』ジョー・ネスボ

 ☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡★彡

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

~過去の私のおススメの〈クリスマス・ストーリー〉~

【短篇】
トルーマン・カポーティ
 「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」

1◆2011(平成23)年11月30日号(No.70)-111130-善意の季節
『あるクリスマス』カポーティ

・『誕生日の子供たち』トルーマン・カポーティ/著 村上春樹/訳
文春文庫 2009.6.10
―クリスマス短編「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」収録
 「―思い出」はクリスマスの懐かしい、でもちょっと切ない思い
 出を振り返る愛情あふれる物語で、少年に与えられたクリスマス
 の贈り物、「ある―」は逆に、少年が与えたクリスマスの贈り物
 の思い出話といえる抒情的名編

 

アガサ・クリスティー「水上バス」

2◆2012(平成24)年11月30日号(No.94)-121130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 アガサ・クリスティー『ベツレヘムの星』から

・『ベツレヘムの星』アガサ・クリスティー/著 中村能三/訳
ハヤカワ文庫―クリスティー文庫(2003/11/11)
―おススメ短篇「水上バス」を含む、クリスマスにまつわる小説と
 詩を集めた、クリスティーが読者に贈るクリスマス・ブック

 

コニー・ウィリス
 「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」

4◆2014(平成26)年11月30日号(No.140)-141130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『ひいらぎ飾ろう@クリスマス』コニー・ウィリス」
5◆2015(平成27)年11月30日号(No.164)-151130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
『まれびとこぞりて』コニー・ウィリス」

「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」収録短編集:
・『マーブル・アーチの風』コニー・ウィリス/著 大森望/編訳
早川書房・プラチナ・ファンタジイ(2008.9.25)
―もう一つのクリスマス・ストーリー「ニュースレター」も収録

「まれびとこぞりて」収録短編集:
・『混沌【カオス】ホテル (ザ・ベスト・オブ・コニー・ウィリス)』
 コニー・ウィリス/著 大森望/訳 ハヤカワ文庫SF1938 2014.1.25

 

【中編】
チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』
チャールズ・ディケンズ『鐘の音』

0◆2008(平成20)年12月クリスマス号(No.11)-081206-
『クリスマス・キャロル』善意の季節

6◆2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」

・『クリスマス・キャロル』ディケンズ/著 中川敏/訳 
集英社文庫 1991/11/20
―訳者の解説と木村治美の鑑賞など、資料も豊富。

・『クリスマス・ブックス』ディケンズ/著 ちくま文庫 1991/12
―落語調訳「クリスマス・キャロル」小池滋/訳、
 「鐘の音」松村昌家/訳

・『クリスマス・ブックス』田辺洋子/訳 渓水社 2012
―前期(1843-48)のクリスマス中編5編を収録。「クリスマス・キャ
 ロル」「鐘の音」「炉端のこおろぎ」「人生の戦い」「憑かれた男」

 

【長編】
ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』

3◆2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-  
クリスマス・ストーリーをあなたに~
 『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム

・『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム/著
田村隆一/訳 扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
―『オズの魔法使い』の作者ライマン・フランク・ボームの描く
 サンタ・クロースの生涯を描く、サンタさん誕生物語

 

【追記】2019.12.1-----
新潮文庫12月の新刊で、この作品が新訳で登場しています。

『サンタクロース少年の冒険』
ライマン・フランク・ボーム/著 畔柳和代/訳 矢部太郎/イラスト 2019/11/28

 

カバーと挿絵はなんと矢部太郎さんが担当。

以下に、動画でコメントが!

サンタクロース少年の冒険 新刊案内のサイト

-----

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

~「クリスマス・ストーリーをあなたに」9 [2019] ~

『その雪と血を』ジョー・ネスボ/著 鈴木恵/訳
 ハヤカワ・ミステリ文庫 2018/11/20

―ノルウェーを代表するサスペンス作家が描くパルプ・ノワール。
 第8回翻訳ミステリー大賞および第5回読者賞をダブル受賞した。

 

 

191128sonoyukitotiwo

191128sonoyukitotiwo2

 

 ●『その雪と血を』ジョー・ネスボ
 ●犯罪小説×クリスマス・ストーリー
 ●雪のオスロの街で……
 ●悲しいけれど美しいラスト
 ●「物事は解釈である」――自分の物語を生きる
 ●まずは読んでほしい

 

191128mayonaka

―『その雪と血を』の続編ではないが、共通する世界の物語―

『真夜中の太陽』ジョー・ネスボ/著 鈴木恵/訳
ハヤカワ・ミステリ 2018/8/7

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、毎年この時期恒例の、私のお気に入りの、あるいは「これは」という代表的なクリスマス・ストーリーを紹介しています。

今年は「クリスマス・ストーリーをあなたに~(9)『その雪と血を』ジョー・ネスボ」」と題して、ノルウェーの世界的ベストセラー・ミステリ作家の評判の高いパルプ・ノワールを紹介しています。

ミステリのあらすじ紹介は、ネタバレとしてあまり書けないものなのです。
でも書かないと伝えられない。
痛し痒しというところで。

今回は、かなりのところまで書いてしまいました。
そうしなければ、良さを伝えることができないからです。

 

この小説の主人公のように、人間は皆、自分なりに物語を作って生きているのでしょうか。

人生も歴史も、この世の出来事も世界そのものも、「何事も解釈だ、解釈に過ぎない」という考え方があります。

人は自分なりの解釈で物語を作り主人公を演じている――それを生きているのでしょうか。

うーん、わかりません。

 ・・・

では、詳細は本誌で!

 

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

| | Comments (0)

2019.02.15

私の読書論116-楽しみのための読書〈怪盗ニック〉退場

―第241号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2019(平成31)年2月15日号(No.241)-190215-
「私の読書論116-楽しみのための読書〈怪盗ニック〉退場」

------------------------------------------------------------
 ●エンタメ小説のすすめ
 ●読書の楽しみ
 ●著者紹介
 ●ユニークな怪盗
 ●高二の出会い
 ●なぜ98セントで買えるおもちゃのネズミを盗むのか
 ●ホワイダニットの推理物語
------------------------------------------------------------

Kaitounikku2

(画像:創元推理文庫版「全仕事」第1集と第6集)

Kaitounikku

(画像:今手元にある〈怪盗ニック〉本。ポケミス版2弾3弾とホックのオールスター・キャラクター集合版)


本誌は、「私の読書論116-楽しみのための読書〈怪盗ニック〉退場」と題して、
サマセット・モームの『読書案内』にある〈楽しみのための読書〉をテーマに、私の思い出のエンタテイメント小説の一つである、アメリカの短編推理小説の巨匠だったエドワード・D・ホックの人気シリーズ・キャラクター〈怪盗ニック〉のついて書いています。

「価値のないもの、もしくは誰も盗もうとは思わないもの」しか盗まない、というユニークな怪盗。
怪盗ルパンの昔から、怪盗は一流の探偵に変身するものです。
ニックもその例にもれず、謎めいた盗みの依頼のうらにある秘密を暴きます。

40年に渡る全仕事87編を全6冊に収録した『怪盗ニック全仕事』も、今年1月に出た第6巻にて完結。
高校生時代から読み始めた思い出の〈怪盗ニック〉ともついにお別れの時が来ました。

さびしいような残念なような……。
でも私には読み返すという楽しみが残っています。

 ・・・

では、詳細は本誌で!

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

*参照:
『読書案内 ―世界文学―』サマセット・モーム 西川正身訳 岩波文庫 1997.10.16 "BOOKS AND YOU" 1940

『怪盗ニック全仕事1』エドワード・D・ホック 木村二郎訳 創元推理文庫 2014.11.28

『怪盗ニック全仕事6』エドワード・D・ホック 木村二郎訳 創元推理文庫 2019.1.25 


| | Comments (0) | TrackBack (0)

2019.01.10

ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV(カルパチア)と(シュトーリッツ)を読む

↓の記事で紹介しました、ヴェルヌの本をお正月に読みました。

2018.10.29
おまたせ!ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV 第三回配本10月31日発売

 

『カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 (ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション)』ジュール・ヴェルヌ 著 新島進 訳

 

インスクリプトのサイト

Carpathes_storitz

 

(画像:100ページ超の〈驚異の旅〉あらすじ紹介掲載『文明の帝国』、ヴェルヌの作品と時代を図版で紹介『ジュール・ヴェルヌの世紀』、集英社文庫ヴェルヌ・コレクション版『カルパチアの城』と第9章を抜粋した吸血鬼アンソロジー『ドラキュラドラキュラ』)

 

上の画像にある本で、あらすじは知っていたものの、いざ読むとやはりヴェルヌらしい作品です。

初期のいわゆる“SFの父”的な科学冒険小説の名作群(『地底旅行』・『海底二万海里』・『月世界』二部作・『八十日間世界一周』など)とは確かに一味違う内容ですが、ヴェルヌ印といったものがきちんと刻されています。
科学とイマジネーションとの融合とでも言えばいいのでしょうか。

 

でも、それだけではありませんでした。
ヴェルヌの作家としてのもう一つの顔とも言うべきものを見た気がします。
(これは、近年翻訳された『二十世紀のパリ』ほか、いくつかの作品等でも言えることですけれど……。)

 

『カルパチアの城』は、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』でドラキュラの里?として有名な地、カルパチアにある古城を舞台に迷信に生きる村人たちを恐怖に落とし込む(ことで隠棲を隠ぺいする)貴族との対決を描いています。
最初の主人公・林務官ニック・デックはあえなく打ちとられますが、もう一人の主人公となる、結婚相手の歌姫ラ・スティラを亡くしたフランツ・ド・デレク伯爵は、この城がラ・スティラを追い回していた因縁の男ロドルフ・ド・ゴルツ男爵の居城と知り、城に向かいます。
そこで彼が目にしたものは、亡くなったはずの歌姫の最後の舞台の場面と同じ歌う姿……。

読んでいる途中で、ガストン・ルルーの『オペラ座の怪人』(1910年刊で、ずっと後のこと)を思い出しました。

ちなみにブラム・ストーカーの『ドラキュラ』は1897年、本書はそれより前の1892年刊。

『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』は、画家マルク・ヴィダルの兄アンリが、弟の結婚に立ち合うために向う旅の移動の道筋をたどるヴェルヌらしい地理的紹介に始まり、船旅の途中で見かける不審な人物の登場で、今後の展開をうかがわせます。
親フランスで反ドイツ/プロシアのハンガリー人の心情を背景に、結婚を申し込み断られたドイツ/プロシア人の伝説の科学者の息子シュトーリッツの横恋慕による、マルクと許嫁のハンガリー人医師の娘ミラへの復讐の物語。

すでにネタバレになっていますが、ウェルズの『透明人間』(1897)に対してヴェルヌの透明人間物語(執筆は最晩年―1905年死去。死後の1910年に息子のミシェルによる改作版。ヴェルヌのオリジナル版は1985年刊―本書はこちらの翻訳、ミシェル版の終章も収録)です。

 

 ●それぞれの結末

この2作、それぞれに結末に特徴があります。

ヴェルヌの諸名作では、基本的に行って戻る物語で、主人公は人間的に変化しません。
単なる観察者として〈驚異の旅〉を経験するだけです。

しかし、この二つの作品で主人公(または中心人物)は、意外な事態を迎えます。
そういう点では悲劇といってもいいでしょう。

 

『カルパチアの城』では、一人目の主人公ニックは危機に直面しつつも幸い恋人の看病もあり回復しますが、二人目の主人公デレク伯爵は、歌姫の二度目の死に直面する悲劇に見舞われます。

『ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密』では、中心人物である花嫁ミラは、透明人間になって復讐をしかけるシュトーリッツの餌食となり、何と透明人間になってしまします。
張本人は、花嫁の兄との戦いに敗れ、透明人間の秘密とともに死に絶えます。

かくして美貌の花嫁は、声とふれることのできる実体とを残して、その姿は誰の目にも映ることのできない身となります。

 

物語の結末には、二つあると言えるでしょう。

一つは、「取ってつけた結末」――結末のための結末。
物語の結構をつけるためだけの形の上での結末。
おとぎ話の「めでたしめでたし」的なもの。

言ってみれば、『シュトーリッツ』におけるヴェルヌの息子ミシェルが手を入れたバージョン(ミシェル版)の結末がそれ。

二つ目は、「行き着くべきゴールとしての結末」――それを示したいがためにここまで物語ってきたという内容的な〆となる結末。
『シュトーリッツ』ヴェルヌ版のラストはそういうものでしょう。

 

私の個人的な感想ですが、多分ヴェルヌは問題提起として、こういう状況を書きたかったのではないでしょうか。
いかなる悲劇的状況をもかえることができるのが、人の思いというものだと。
人間の、家族の絆というものだ、と。

人の目に見えない身体のヒロインが、輝ける一家の魂となるのです。

今の暮らしにも慣れていくだろうし、くり返すが、誰の眼にも、淑やかにほほ笑むミラが見えるようなのだ……。ミラは言葉をかけたり、手で触れたりすることで自分がそこにいることを示した!(略)彼女は家の魂だった――魂のように眼には見えないのだ!》「19章」p.329

人は慣れるものなのです。
そして、姿が見えないといっても、人の心も所詮は見えないものなのです。
見えないものであっても見えるように思うのが、人の心――気持ちであり思いでしょう。

 

そういえば、ヴェルヌと同様、私の大好きなもう一人のフランス人作家サン=テグジュペリは、『星の王子さま』(内藤濯訳 岩波少年文庫)の中にこんなことばを書き残しています。

王子さまはキツネから《「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目には見えないんだよ」》と教えられ、“ぼく”に《「だけど、目では、なにも見えないよ。心でさがさないとね」》。さらに《「たいせつなことはね、目に見えないんだよ……」》と伝えます。

 

このヴェルヌの“見えない花嫁”こそ、“永遠の美女”そのもの――記憶のなかの美女――であり、それは『カルパチアの城』のラ・ティスラ像にもいえることで、“あの一瞬”を記録した録音と画像がこわれる運命のモノ(物体)であるのに対して、人の頭の中の記憶は決してこわれることのない理想的な“永遠の像”なのではないでしょうか。

 ・・・

従来、ヴェルヌは晩年になって厭世的になったとされてきました。
しかし、『二十世紀のパリ』を読んでから、実は初期から厭世的といいますか、楽観的な科学信奉者ではなかったと知り、さらにいくつかの新たな邦訳作品を通して、ヴェルヌの作家としての真情といったものが単純なものではなかったと思うようになりました。

本当のヴェルヌ像を教えてくれる、さらなる邦訳作品の出現を期待してやみません。

 ・・・

(インスクリプトのサイトより)
元祖ヴァーチャルアイドルと見えない花嫁……。本巻では、東欧を舞台にしたゴシック小説的幻想味あふれる後期の傑作二篇を収録。「カルパチアの城」はブラム・ストーカーの「ドラキュラ」に先立つこと五年、吸血鬼伝説の本場トランシルヴァニアを舞台に、作家が推敲を重ねた自信作。ホフマン、ポーやルルーの「オペラ座の怪人」などを好む方々には特におすすめの完訳版。レオン・ブネットの挿画40枚収録。
「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」は、H・G・ウェルズ「透明人間」の向こうを張ってヴェルヌが書いた透明人間もの。本作は息子のミシェル・ヴェルヌが書き換えた版(未訳)が長く読まれてきたが、今回がジュール・ヴェルヌのオリジナル版本邦初訳となる。唖然呆然の最終章のみ、ミシェル・ヴェルヌ版を併録した。
二作ともに、不在の女性への狂恋が物語を貫いており、美しきヴォーカロイドとも言うべきラ・スティラを追い求める二人の男(「カルパチアの城」)、完璧な令嬢ミラへの倒錯的愛に身を捧げるヴィルヘルム・シュトーリッツの、身の毛もよだつ透明人間ストーカーなど、さまざまな意味での現在性を孕んだ「〈独身者機械〉小説」(新島進)であり、ヴェルヌの最も21世紀的な小説。面白さ抜群の二篇を練り上げられた訳文と詳細な註を付して贈る。

両篇が秘めるヴェルヌらしさは決して他に引けをとらず、そして、なにより作品がきわめて現代的な、それもまさに今、二一世紀に通じるテーマを扱っていることを強調しておかなければなりません。[…]見えない花嫁と元祖ヴァーチャル・アイドル。[…]この二篇に共通かつ中心的なモチーフはなにかと問われれば、それは「不在の女性への熱情」ないしは「男性の一方的な女性への情念」ということになるはずです。二作合わせて四人の独身者と、独身者機械となった二人の花嫁[…]。この究極の独身者性は、視覚と聴覚による仮想現実に囲まれているわれわれ現代人の「戸惑い」を先どりしているのではないでしょうか。(「訳者あとがき」より)

【目次】
カルパチアの城
ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密
ミシェル・ヴェルヌ版第一九章
訳註
解説 石橋正孝
訳者あとがき
細目次

 

*『お茶でっせ』ジュール・ヴェルヌの記事: 【ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション】
・2018.10.29 おまたせ!ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV 第三回配本10月31日発売 ・2017.11.21 ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』を読む ・2017.4.7 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』を読む ・2017.1.23 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』1月20日発売

【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売 ・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む ・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版 【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2017.1.22 ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む ・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売 ・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売 ・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』 ・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増! ・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫 ・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2018.10.29

おまたせ!ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV 第三回配本10月31日発売

毎回出版まで待たされる、「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」の第三回配本がようやく発売されます。

 

『カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 (ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション)』ジュール・ヴェルヌ 著 新島進 訳

インスクリプトのサイト

アマゾンにも出ています。

 

 

「カルパチアの城」「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」の2作収録。

「カルパチア――」は、吸血鬼「ドラキュラ」の里とも言うべき、トランシルヴァニアを舞台とした作品で、ブラム・ストーカーの名作『ドラキュラ』出版の5年前の作品だそうです。

「ヴェイルヘルム――」は、H・G・ウェルズ『透明人間』の向こうを張って書いたという作品で、息子のミシェルが書き替えた版が流布していた(未訳)そうで、今回ヴェルヌのオリジナル版が本邦初訳になるといいます。
しかも、参考としてミシェル版の最終章も併録とのこと。

「訳者あとがき」からの言葉によりますと、21世紀に通じるテーマを扱った両作品で、視覚と聴覚によるヴァーチャルな、仮想現実に囲まれている現代人の「戸惑い」を先取りしている、といいます。

なかなか楽しみな一冊です。

 ・・・

『カルパチアの城』は、私の子供のころに既訳があります。
アポロ計画で「人類ついに月に立つ」のころ、集英社からコンパクトブックス版〈ヴェルヌ全集〉全24巻のうちの一冊として出版されました。

その後、集英社文庫〈ジュール・ヴェルヌ・コレクション〉(14巻)の一冊として再刊されました。

今回は、新たな研究のもと、新訳決定版として、原著挿絵付きで登場。
さらに、未訳の「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」とのカップリングです。

Karupatianosiro

 

Karupatianosiro1

(画像:集英社文庫版『カルパチアの城』と「カルパチアの城」の一部を収録した吸血鬼小説アンソロジー『ドラキュラドラキュラ』種村季弘編、河出文庫、目次と解説)

 

181031v_9784900997725

(サイトより)
元祖ヴァーチャルアイドルと見えない花嫁……。本巻では、東欧を舞台にしたゴシック小説的幻想味あふれる後期の傑作二篇を収録。「カルパチアの城」はブラム・ストーカーの「ドラキュラ」に先立つこと五年、吸血鬼伝説の本場トランシルヴァニアを舞台に、作家が推敲を重ねた自信作。ホフマン、ポーやルルーの「オペラ座の怪人」などを好む方々には特におすすめの完訳版。レオン・ブネットの挿画40枚収録。
「ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密」は、H・G・ウェルズ「透明人間」の向こうを張ってヴェルヌが書いた透明人間もの。本作は息子のミシェル・ヴェルヌが書き換えた版(未訳)が長く読まれてきたが、今回がジュール・ヴェルヌのオリジナル版本邦初訳となる。唖然呆然の最終章のみ、ミシェル・ヴェルヌ版を併録した。
二作ともに、不在の女性への狂恋が物語を貫いており、美しきヴォーカロイドとも言うべきラ・スティラを追い求める二人の男(「カルパチアの城」)、完璧な令嬢ミラへの倒錯的愛に身を捧げるヴィルヘルム・シュトーリッツの、身の毛もよだつ透明人間ストーカーなど、さまざまな意味での現在性を孕んだ「〈独身者機械〉小説」(新島進)であり、ヴェルヌの最も21世紀的な小説。面白さ抜群の二篇を練り上げられた訳文と詳細な註を付して贈る。

両篇が秘めるヴェルヌらしさは決して他に引けをとらず、そして、なにより作品がきわめて現代的な、それもまさに今、二一世紀に通じるテーマを扱っていることを強調しておかなければなりません。[…]見えない花嫁と元祖ヴァーチャル・アイドル。[…]この二篇に共通かつ中心的なモチーフはなにかと問われれば、それは「不在の女性への熱情」ないしは「男性の一方的な女性への情念」ということになるはずです。二作合わせて四人の独身者と、独身者機械となった二人の花嫁[…]。この究極の独身者性は、視覚と聴覚による仮想現実に囲まれているわれわれ現代人の「戸惑い」を先どりしているのではないでしょうか。(「訳者あとがき」より)

【目次】
カルパチアの城
ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密
ミシェル・ヴェルヌ版第一九章
訳註
解説 石橋正孝
訳者あとがき
細目次

--
★2019.1.10 ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションV(カルパチア)と(シュトーリッツ)を読む --

 

*『お茶でっせ』ジュール・ヴェルヌの記事: 【ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション】
・2017.11.21 ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』を読む ・2017.4.7 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』を読む ・2017.1.23 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』1月20日発売

【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売 ・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む ・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版 【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2017.1.22 ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む ・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売 ・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売 ・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』 ・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増! ・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫 ・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2018.06.15

の読書論107-私をつくった本・かえた本(6)高校時代後半・ミステリマガジン編

―第225号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
私の読書論107-私をつくった本・かえた本(6)
高校時代後半・ミステリマガジン編

本誌では、「私の読書論107-私をつくった本・かえた本」の6回目。
高校時代後半です。

『ミステリ・マガジン』を定期購読するようになった高校2年の夏休み以降のお話です。

この雑誌のお陰で、それまでの主に冒険・探検ものの小説を読むだけのお子ちゃま読書から、もう少し大人向けの幅広いエンタメ系の小説を読むようになりました。

また、単なるエンタメだけでなく、もう少し文学的な作品にも少しずつ幅を広げてゆくようになったのも、この雑誌の影響が大きかったように思います。

月間の文芸雑誌ですので、主に短編の小説が中心ですが、ときに長編小説の連載もありました。

それだけではなく、雑誌ならではの連載コラムというものがあり、色々な書き手のエッセイに触れることもできました。
“海外ミステリ専門誌”となってはいますが、海外ミステリの話題だけではなく、海外(特にアメリカ)の文化を紹介するようなコラムもあり、楽しめました。

総合的に「文化」というものを観察、考察する姿勢を教えられたような気がします。


 ●雑誌という書物、定期購読という行為

雑誌というものは、雑多な情報を掲載した書物という意味なのでしょうけれど、そこにこそ魅力があるのです。

思えば私は、小学生のころに『小学○年生』を買い続け、雑誌をとるという習慣を身に付け、中学生ごろから新聞を読むこととともに、『週刊少年マガジン』をとり、高校生で『ミステリ・マガジン』をとり、と雑誌購読を続けてきました。

この雑誌と新聞を読むこと――そこに書籍の読書も加わり、それらが自分を形作る大きな力になった、と思われます。


『(週刊・月刊)少年マガジン』は高校卒業まで。
『ミステリ・マガジン』は、80年代の前半ぐらいまで、定期購読。

その後は、仕事が忙しくなったこと、自分の小説の好みと世間の流行りが乖離し始めたこと等の理由で、定期購読する雑誌はなくなりました。

買わなくなっただけで、『ミステリ・マガジン』は、図書館で時おり借りて読んできました。
全ページ目を通すことはなくなりましたが、気になるところはつまみ読みして、即(つ)かず離れずの関係です。


NHKの英語・英会話講座のテキストを複数、数年間定期購読したことがあるように、他の雑誌(複数)を一時的に購読したこともありました。

プータロー時代は、父の取っていた『PHP』を読んでましたし、やなせたかしさん編集の『詩とメルヘン』もときに読んでいました(投稿もしました!)。
仕事に追われていたときは、アイドル系の『CM-NOW(ナウ)』で、目と心の保養?


書籍の読書も人間形成に大きな影響力を持っていますが、雑誌の力も大きなものがあると思います。

自分にふさわしい雑誌と出会えるかどうか、というのも、人生の大きな分岐点の一つでしょう。

 ・・・

詳細は本誌で!

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』
http://www.mag2.com/m/0000257388.html

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

*参考:
【『ミステリ・マガジン』早川書房】

(最新号)―私の“読者欄”投稿「私の書評」掲載号―
ミステリマガジン 2018年 07 月号 2018/5/25

Hmmakachan

【創元推理文庫『怪奇小説傑作集』全5巻】

Kaikishousetukessakushuu

『怪奇小説傑作集 1』ブラックウッド、他 平井呈一/訳 (1969)


『怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版]』創元推理文庫 2006/1/31

『赤ちゃんはプロフェショナル!』レニー・エアース 宇野輝雄/訳
(ハヤカワ・ノヴェルズ 1970)


(ハヤカワ文庫 NV 114 1977/6)

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2018.05.26

『ミステリ・マガジン』7月号読者欄「読者の書評」に掲載される

5月25日発売の『ミステリ・マガジン』2018年7月号(729)(早川書房)の読者のお便り欄「響きと怒り」の<読書の書評>に、私の投稿が掲載されました。

「『アガサ・クリスティー完全攻略〔完全版〕』霜月蒼」

です。

Hmm20187_sf_yasuo_sc

(画像:表紙と読者欄)

Hmm20187_yasuo_363x336

(画像:私の投稿)

この本は、霜月蒼さんが<クリスティー文庫>に収録されたクリスティー全作品約100点を読んで採点した書評です。
今年4月に、クリスティーの全著作および関連書を収録する早川書房<クリスティー文庫>に収録されました。

その本を、半世紀にわたるクリスティー“半熟”ファンである私が、ファンの立場から見た評価を書いてみました。
元々の文章は2400字程度のものでしたが、読者欄向けに掲載可能な上限を1000字程度と推定、できる限り圧縮したショート・バージョン(最終1100字程度)を作成し、投稿しました。

掲載にあたり、さらに150字程度カットされましたが、一部のカットと細部の変更のみで、ほぼ全面採用でした。

採用される自信はありましたが、やっぱり「うれしい!」ですね。


【掲載文】

「読者の書評」

□『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』/霜月蒼

 作品評価に関しては、ウェストマコット名義その他を含めて、おおむね妥当な線で信頼できる印象ですが、半世紀に渡るクリスティー“半熟”ファンとしては不満が残ります。
 まずは5段階評価☆〇・五点『ビッグ4』。氏の論評は《「こどもむけ冒険ものがたり」みたいなもの》で、短篇連作の個々のパートも《ミステリとしても見るべきところがまったくない。トリックは、「トリック」というのも気の引ける程度のものだ》。結論は、エンタテインメント小説の研究者以外は読む必要なし。出来が悪いのみならず消費期限切れ、というもの。リアルでシリアスな名作スリラーを知る現代人には鑑賞に絶えない、という点は納得できますが、クリスティーの「初期冒険ものファン」、「ポアロ・ファン」 ――特に「ポアロ&ヘイスティングズ・ファン」 にとっては、楽しめる「必読の一冊」「ビッグ・ボーナス」以外の何ものでもありません。
 なぜなら(1)ポアロ&ヘイスティングズのやりとりの妙、再三にわたる窮地からの脱出劇。(2)ポアロの兄や愛しの君の登場というサービスぶり。(3)個々の短篇ネタに関しても、チェスのエピソードでは、自称“左利きミステリ研究家”の私も納得の左利きトリックを扱い、偶然に頼るのではなく蓋然性の高いトリックを仕掛けています。
 次に『マギンティ夫人は死んだ』では《ハードボイルド・ミステリみたいな読み心地》等高い評価の中、《玉に瑕》としてオリヴァ夫人の登場を《必然性もまるでない》読者サービスとして批判されています。しかし必然性を指摘するなら、高名な探偵として乗り込みながら見事に空振りするポアロを探偵役に据えなくてもいいのです。探偵役は、地元の警視の尊敬する、引退した几帳面な性格の先輩刑事でいい。それでこそハードボイルド・ミステリ的な展開になります。クリスティーは、私生活を語らなかった人で、作中のオリヴァ夫人を介して創作作法や作家としての裏話をファンにサービスしているのです。中期以降の重要なお楽しみの一つで『ポアロとグリーンショアの阿房宮』でもそうでした。
 最後に、『茶色の服の男』について、ある名作の先駆である点を指摘していないので、クリスティー・ファンのみならずミステリ・ファンに対しても、この作品を読む楽しみを伝えきれていない、と言えます。
 霜月氏の仕事は貴重なものですが、<クリスティー文庫>入りする上では、今一つ、というのが私の評価です。


【注】
◆ウェストマコット名義 ⇒ クリスティーがミステリではない普通の小説――恋愛ものや親娘もの等――を刊行する際に使用した名義
◆クリスティー“半熟”ファン ⇒ 霜月さんのように、全作完全攻略していない、完熟ではないという私の読者としての立場を表す
◆5段階評価☆〇・五点 ⇒ 霜月さんの評価は★一つの場合「アガサを愛する貴方むけ」としており、要するに作品の出来は良くないがファンなら楽しめるという意味で、0.5点はそのような「クリスティー・ファンでも読む必要なしの駄作」という意味になる
◆“左利きミステリ研究家” ⇒ <左利き>にまつわるミステリについて、メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』で「名作の中の左利き~推理小説編」として、文学作品を扱った「名作編」に引き続き、2011年から2017年まで27回に渡って紹介したほか、ブログでも取り上げた
*参照:
第278号(No.278) 2011/9/17「名作の中の左利き~推理小説編-1-推理小説と左利きについて」


『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』霜月蒼 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫 2018/4/18)

『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』2018年7月号(729) 早川書房 2018/5/25


『レフティやすおのお茶でっせ』
★カテゴリ : 左利きミステリ
★カテゴリ : 海外ミステリ
★カテゴリ : 国内ミステリ

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2018.01.31

私の読書論102-私の年間ベスト2017(後編)フィクション系

―第216号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2018(平成30)年1月31日号(No.216)-180131-
「私の読書論102-私の年間ベスト2017(後編)フィクション系」

本誌では、「私の読書論102-私の年間ベスト2017(後編)フィクション系」と題して、昨年読んだ本のうち、フィクション系の55冊の中からおススメの一冊を選んでいます。

前回同様、内要は、本誌を見てのひ・み・つ――ということですが、サービスで「ベスト3ぐらい」をネタばらししておきましょう。


『高慢と偏見(上下)』オースティン 小尾芙佐訳
 光文社古典新訳文庫
―唯一の女性訳者の手になる翻訳。19世紀初頭の女性たちの身分(階級)違いの恋愛と結婚を鮮やかに描いた物語。


『アーサー王宮のヤンキ―』マーク・トウェイン 大久保博訳
 角川文庫-トウェイン完訳コレクション-
―現代(19世紀)のアメリカ人がアーサー王の時代のイギリスにタイムスリップ、科学力で民主主義の国を建設しようするが……。SF的設定で描く風刺小説。


『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子訳
 東京創元社
―家族の問題をテーマにした、重く暗く陰湿な犯罪を描く、ラストに少し明るさを感じさせるアイスランドの警察小説。

<巨匠の最期の名人芸>
『最後の旋律』エド・マクベイン 山本博訳
 ハヤカワ・ミステリ
―一つの犯罪を追う複数の刑事たちがそれぞれのアプローチから犯人にたどり着く名人芸の警察捜査小説。

さて、「ベスト1」は?

 ・・・

分量的にはかなり長くなり、二回に分けたい気分ですけれど、中身は少ないので、一回で行きました。
ご容赦ください。

 ・・・

詳細は本誌で!

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』


| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.11.21

ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』を読む

下↓の記事での紹介後も発売が遅れていました、ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』をようやく読み終えました。

 

2017.6.25
ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』7月31日発売予定

 

Joukideugokuie_hoka

(画像:『蒸気で動く家』『八十日間世界一周』他ヴェルヌの本)

 

ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション 第IV巻(第2回配本)
蒸気で動く家 ─北インド横断の旅─

荒原邦博・三枝大修訳[完訳]
挿画:レオン・ベネット
解説:石橋正孝

原著刊行:1880年/〈教育娯楽雑誌〉1879年12月1日号~1880年12月15日号連載


『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション IV 蒸気で動く家』 荒原邦博・三枝大修/訳 インスクリプト(2017/8/21)

 

170731_maison_vapeur_002_300x227

 

Joukideugokuie

(画像:『蒸気で動く家』挿絵)

 

舞台は、19世紀のインド。
ヴェルヌ作品でインドが扱われるのは、『八十日間世界一周』に次いで二度目です。

ベンガル湾側の東インドの主要都市カルカッタ(当時の都市名、現コルカタ)から、デカン半島の東岸、インド洋側の主要都市ボンベイ(当時の都市名、現ムンバイ)をめざす、〈鋼鉄の巨象〉に引かれた〈蒸気で動く家〉(スチーム・ハウス)によるマンロー大佐一行の冒険の旅と、シパーヒーの反乱(セポイの反乱)の指導者の一人インド人の太守ナーナー・サーヒブの反乱軍再編と復讐の物語。

カルカッタからボンベイをめざす旅は、『八十日間世界一周』でのインド編での旅の逆のパターンとなります。

訳注によりますと史実とは異なるようですが、マンロー大佐は、反乱を指揮していたナーナー・ハーヒブの妻(ラーニ(王妃))を戦闘の末、殺したとし、一方、ナーナー・ハーヒブは、マンロー大佐の妻と母親を含む王立軍の家族を惨殺したとし、それぞれが復讐心を抱く関係に設定しています。

この1857年に始まる反乱から10年後、マンロー大佐を慰安しようと友人たちが計画した冒険の旅は、象を模した蒸気機関のロボット〈鋼鉄の巨象〉がパゴダを模した二両の客車を牽引する〈蒸気で動く家〉で、日常的な生活空間とともにインドの平原を横断しようというもの――早い話がキャンピングカーによる移動です。
この凝った作りの〈蒸気で動く家〉は、ブータンのラージャがインド横断鉄道会社の鉄道技師バンクスにきまぐれで製作を依頼したが、亡くなり、彼がマンロー大佐のお金で買い取ったものだったのです。

ホッド大尉は喜びを抑えられず、/「移動する家だ!」と叫んだ。「車にもなれば、蒸気船にもなる! あとは翼さえあれば、飛行装置に変換して空も飛べるぞ!」/「いつかはそうなるよ、ホッド君」大真面目に技師が答えた。/「わかってるさ、バンクスよ」と大尉も同じくらい真剣に答えた。「どんなことだって、できるようになる! だがどうしようもないのは、そういうものすごい発明を見たくても、二百年後に生き返れるわけじゃないってことだ! 人生は毎日が楽しいわけじゃないが、俺は単に好奇心好奇心を満たすためだけに一〇世紀生きたっていい!」

途中、ヒマラヤの高山タウラギリのふもとまで行き、虎狩り他の狩猟をしたり、マンロー大佐の慰安と仲間たちの保養をする予定です。

ところが、大佐は途中で思い出の戦闘の地をたどり、逃亡中のナーナー・ハーヒブの行方を探り、妻や母親の復讐を秘かに期待していたのでした。
一方、逃亡中のナーナー・ハーヒブも、大佐に妻とインド独立戦争(植民地支配者のイギリス側から見れば反乱)の犠牲者たちの復讐をする機会を狙っていました。

この二つの話が交錯するのが、ラストのエピソードですが、そこに至るまでの道中の冒険もまた、資料と想像力を駆使したヴェルヌ小説のお楽しみでもあります。

 ・・・

難しい作品分析は、「解説」や「訳者あとがき」の先生方にお任せするとして、ミッシェル・セールの『青春 ジュール・ヴェルヌ論』やフランスのヴェルヌの遊園地の象等で、名のみ知られていた作品がこうして翻訳されたことは非常にうれしいことでした。

蒸気で動く巨象が牽引するパゴダを模した客車の車列という、乗り物の面白さと、それによる異境の地を旅する冒険、そして復讐譚……。

100枚を超える原著挿絵も、古き良き時代の冒険物語を演出してくれて、正に私の心のなかにあるヴェルヌの世界そのもの、といっていいものです。

楽しめる一冊でした。

 
 ●作品の背景について

現代の感覚から言えば、植民地支配と反乱という構図は、帝国主義そのものという感じで、それを擁護するかのような小説かもしれません。
しかし、フランス人の記述者をたて、反乱軍に対する見せしめのための凄惨な処刑も紹介し、イギリス王立軍のやり方を支持する書き方はしていません。

一方で、太平楽に虎退治や見世物のための猛獣狩りと狩猟に明け暮れる支配者側のヨーロッパ人たちの姿を描き、どちらにも与することのできそうな内容です。

こういうふうな植民地主義、帝国主義批判という立場からの見方をするのが現代的な感覚なのかもしれませんけれど、やはりそれは少し違うような気がします。

ヴェルヌは『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』(1889)では、カナダ人の独立戦争をフランス系カナダ人の側から描いてもいました。
『海底二万海里』のネモ船長は、インド独立運動の中心人物だったとされていました。

帝国主義や植民地政策の在り方の是非など、当時の一般市民レベルでどの程度の情報や知識が共有されていたのかも、私にはわかりません。
ヴェルヌの含めて、当時の作家たちもどの程度の認識を持っていたのでしょうか。

まあ、その辺の事情は分かりかねますが、作家といえどもその時代に生きているかぎり、時代の思想の影響を免れることはできません。

それらのことは頭の片隅におく程度にして、私たちは素直にストーリーを楽しんでいいのではないでしょうか。

 

 ●解説のヴェルヌ作品の題名について

石橋さんの「解説」では、ヴェルヌの諸作品の題名が、原著の訳題になっています。
これは、石橋さんの頭の中では原題で整理されているのでしょう。
でも、読者のために日本語訳の題名で紹介されているのでしょう。

邦訳のある作品――特に日本で従来から一般化している邦題を併記してもらうほうが、新たに既刊のヴェルヌ作品を読みたいと思う人には親切な気もします。
(「訳者あとがき」の荒原さんは、従来の訳題併記。)

 

 ●『マチアス・サンドルフ』(旧訳『アドリア海の復讐』)新訳のこと

「解説」中で、『マチアス・サンドルフ』(旧訳『アドリア海の復讐』集英社ヴェルヌ全集/集英社文庫ヴェルヌ・コレクション)が、『シャーンドル・マーチャーシュ』の題名で、本書の訳者の一人でもある三枝大修さんによる新訳として、新井書院から刊行予定とあります。

この作品は、ヴェルヌ版『モンテ・クリスト伯』とも呼ばれる作品です。
新井書院は、一巻本『モンテ=クリスト伯爵』(オペラオムニア叢書)を出版している版元なのですね。

私の好きなヴェルヌ作品の一つでもあり、これも楽しみです。

 

*** 初心者向け私のおすすめヴェルヌ作品(現行本から)*** 『八十日間世界一周』岩波文庫(原書挿絵多数入り)
『地底旅行』岩波文庫(原書挿絵多数入り)(原題:『地球の中心への旅』)
『海底二万里』新潮文庫(原書挿絵全数葉入り)
『二年間の休暇』/『十五少年漂流記』集英社文庫ヴェルヌ・コレクション、創元SF文庫(原著挿絵数葉入り)
『神秘の島』/『ミステリアス・アイランド』集英社文庫ヴェルヌ・コレクション(ネモ船長の最期)

*** 私のヴェルヌ作品お気に入りベスト5 *** 1 『アドリア海の復讐』(集英社コンパクトブックス・ヴェルヌ全集版はなくしたけど、集英社文庫ヴェルヌ・コレクション版を持っています! ヴェルヌ版『モンテクリスト伯』。)
2 『地底旅行』(最初にふれたヴェルヌ作品、巨大きのこの森を歩む一行の挿絵が記憶に焼きついている!)
3 『悪魔の発明』創元SF文庫(原題:『国旗に向かって』。昔、角川文庫版で読んだ。ミサイル兵器を使用するマッド・サイエンティストもの。)
4 『気球に乗って五週間』集英社文庫ヴェルヌ・コレクション(記念すべき〈驚異の旅〉処女長編。)
5 『二〇世紀のパリ』集英社(幻だった初期作品。ヴェルヌの原典を知る意味でも重要かつ興味深い。)

 

*【ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション】:
『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』石橋正孝/訳 インスクリプト 2017/1/20
―「ガン・クラブ三部作」(旧訳題名『月世界旅行』『月世界探検』(『月世界へ行く』創元SF文庫)『地軸変更計画』創元SF文庫)の世界初の合本。砲弾による月探検二部作とその後のプロジェクト。

 

 

〈全巻構成〉
第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円 [新訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円 [完訳 世界初の合本]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円 [本邦初の完訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊) 予価:5,500円 [本邦初の完訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊) 予価4200円 [新訳、本邦初訳]

 

*【ヴェルヌのその他の〈驚異の旅〉】
ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族: 1837 ― 38 年 ケベックの叛乱』大矢タカヤス訳 彩流社 2016.10

 

ジュール・ヴェルヌ『海底二万海里』[上下]新潮文庫

*【ヴェルヌ関連参考書】:
『ジュール・ヴェルヌ伝』フォルカー・デース 石橋正孝訳 水声社 (2014/05)
―本邦初のヴェルヌの評伝。力作です。ヴェルヌの伝記のなかで最も信頼に足ると言われるものです。
 当時の社会状況を知っていれば、また彼の作品をより多く読んでいれば、楽しさも増します。

 

 

『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝 左右社 (2013/3/25)
―これも力作。元は学術論文ということで、ちょっと読みづらく感じたり、ヴェルヌの原稿をまな板に載せているため、それらを(邦訳がない、もしくは手に入りにくいため)未読の人には分かりにくかったりします。
 小説家ヴェルヌと編集者エッツェル、二人のジュールのあいだを巡る出版の秘密をめぐる“冒険”です。

 

 

『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”』東洋書林 (2009/03)
―これは見て楽しい本です。図版で見るヴェルヌの世界といってもいいかもしれません。

 

 

『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社(1995)
―ヴェルヌの小説の表現を通して当時のフランス帝国主義を考えるという論文。原書からの挿絵も多数収録。
 巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介。
 本書『名を捨てた家族』の解説でも触れられています。

 

 

『水声通信 no.27(2008年11/12月号) 特集 ジュール・ヴェルヌ』水声社 2009/1/6
―1977年『ユリイカ』以来の雑誌特集。本邦初訳短編「ごごおっ・ざざあっ」、ル・クレジオ他エッセイ、年譜、《驚異の旅》書誌、主要研究書誌。

 

 

『青春 ジュール・ヴェルヌ論』ミッシェル・セール 豊田彰/訳 法政大学出版局 1993/03
―昔に読んだ本。

 

 

 

*『お茶でっせ』記事:
【ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクションの過去の記事】
・2017.4.7 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』を読む ・2017.1.23 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』1月20日発売 【文遊社版<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売 ・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む ・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版 【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2017.1.22 ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む ・2016.10.8 待望のヴェルヌ新刊『名を捨てた家族1837-38年ケベックの叛乱』 ・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売 ・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売 ・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』 ・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増! ・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫 ・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.06.23

ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』7月31日発売予定

当初5月末発売という予定より刊行が遅れている【ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション】のIV巻『蒸気で動く家』でしたが、やっと発売予定日が決まったようです。

 

INSCRIPT『蒸気で動く家』のサイト

ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション 第IV巻(第2回配本)
蒸気で動く家 ─北インド横断の旅─

荒原邦博・三枝大修訳[完訳]

2017年7月31日書店発売予定 
定価:5,200円+税
A5判丸背上製 かがり綴カバー装
本文9ポ二段組 508頁
挿画:107葉
ISBN978-4-900997-71-4
装幀:間村俊一
カバー装画:堀江栞
挿画:レオン・ベネット

 

170731_maison_vapeur_002_300x227

(画像:出版社サイトより)

本邦初の完訳紹介というこの作品は、いくつもの評論等で名のみ有名でした。
今回のコレクションの中でも目玉の一つと期待していた作品だけに、発売日が待たれます。

ヴェルヌ作品では、楽しみの一つである原書の挿絵も107枚収録ということで、大いに楽しめる一冊になりそうです。

サイト紹介文より――

ヴェルヌのテクストは、「蒸気で動く家」(スチーム・ハウス)という機械を物語の明示的な動因としながらも、その乗り物が「ヒマラヤ」で停車し、蒸気機関の推進力が一時的に断たれて単なる「ハウス」と化すと、今度は「ヒマラヤ」そのものを文学機械として顕在化させる。そして、『蒸気で動く家』という作品は、一見すると『八十日間世界一周』におけるインド横断の発展であるように見えながら、実際に生じているのはその逆の事態なのだ。『蒸気で動く家』という「機械」が、それまでの〈驚異の旅〉連作を引き受け直し、「ヒマラヤ」との「組み合わせ」によって全体の意味づけを変質させ、またそのことによって〈驚異の旅〉というプログラムがプログラムであったことをも事後的に証明する──すなわちシリーズの延命を可能にするのである。この操作の中にこそ小説家としてのヴェルヌの天才があり、『蒸気で動く家』はよく知られたヴェルヌ作品とは似ても似つかないものでありながら、紛れもない傑作としてつねに新たな読者の前に開かれているのである。(「訳者あとがき」より)

 

【追記】

その後も発売が遅れていましたが、ようやく8月21日に発売されたようです。
Amazonにも書影を添えて出ています。

『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション IV 蒸気で動く家』
荒原邦博・三枝大修/訳 インスクリプト(2017/8/21)

2017.8.29(確認)

 

*『おちゃでっせ』記事:
2017.11.21
ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション第2回配本『蒸気で動く家』を読む

 

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.03.26

アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』を読む

前作『湿地』につづき、二年連続で北欧ミステリの“ガラスの鍵”賞を受賞し、さらにミステリの本場イギリスの“CWAゴールドダガー”賞を受賞したという名作で、『湿地』は日本でも好評を博し、期待値が上がっての登場です。
私も前作は大いに楽しみました。

2017.3.22
アーナルデュル・インドリダソン『湿地』を読む


期待を持って臨んだこの作品も、期待以上、といっていい出来でした。

『緑衣の女』アーナルデュル・インドリダソン 柳沢由実子訳 創元推理文庫 2016/7/11

地元のパーティで赤ちゃんがしゃぶっていたものを人骨(肋骨の一部)と医学生が見抜く、という発端がなかなかです。
それは、子供が工事中の新興住宅地で見つけ、宝物としていたものだった。
アイスランド・レイキャヴィクの警察のベテラン犯罪捜査官エーレンデュルと、前作でも登場した二人の同僚、シグルデュル=オーリとエリンボルクが捜査を担当する。
かなりの年代物(戦前のものか?)と判明し、考古学者による発掘が行われる。
手を挙げた状態で埋められていたことから、被害者は埋められた時点ではまだ生きていたと考えられる、という。

かつてこの場所の近くにはサマーハウスが建てられていて、イギリスやアメリカ軍のキャンプのバラックも設置されていた。
当時の生存者から、この地のそばにあるスグリの木立の辺りでよく“いびつ”な“緑衣の女”の姿が見られたという証言を得る。
さらに、サマーハウスの持ち主の婚約者が失踪していること、どうやら子を身ごもっていたらしいことも判明します。
はたして遺骨の主は誰なのか、また犯人はいかなる人物なのか……。

事件?の捜査と並行して、悲惨なDV(家庭内暴力)の様子が語られます。
妻の連れ子の娘と夫との男兄弟二人の目の前で、夫は妻を言葉と肉体で暴行します。

それに加えて、捜査官エーレンデュルの麻薬中毒の妊娠中の娘から救助の要請の電話が入り、彼は探索の結果、血まみれの姿の娘で発見します。
生死の境をさまよう娘に付き添い、忌わしい記憶となっている少年時代の思い出を語るエーレンデュル……。

この三つの話を交えて語られるのは、家族とは、家族の絆とは何か、愛とは、人と人との関係とは何かといったことであり、子育てや教育の力とは、といった人生の疑問の数々です。


救いのないDV描写は苛烈ですが、ミッケリーナという女性の存在が救いになっているように感じました。
ラストも悲劇的な中に何かしらホッとするところもあるように思います。

こういうDVを受け入れてしまう女性に関して、色々な意見があるかもしれませんが、私には理解できるところがあります。
ある種の人たちにとって人生というものは、受け入れるしかないものであり、ただ耐え忍ぶしかないものなのです。
嵐がゆきすぎるのを身を低くして、ただただ我慢して時がたつのを待つだけ、なのです。

人をして、そういう人生を送らせてはいけないのだ、ということです。
そのためには子供のころの育て方が重要なのだ、ということです。


前作では強姦事件、今回はDVとかなり厳しい状況を取り上げていますが、その根底にあるこの作家の家族の在り方をテーマにする姿勢にとてもいい印象を持っています。

ミステリ的にも、冒頭の謎といい、中盤の展開といい、ラストの意外性(謎の解決そのものというよりそれ以外の面で)といい、非常によくできた作品でした。

エーレンデュル自身に関しても、次作への興味を持たせるラストでもありました。

*次作:
『声』柳沢由実子訳 東京創元社 2015/7/29


*前作:
『湿地』柳沢由実子訳 創元推理文庫 2015/5/29

| | Comments (0) | TrackBack (0)

より以前の記事一覧