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2025.09.15

私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ(1)-楽しい読書395号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)

【最新号】

2025(令和7)年9月15日号(vol.18 no.15/No.395)
「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ
から(1)『夜間飛行』」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年9月15日号(vol.18 no.15/No.395)
「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ
から(1)『夜間飛行』」
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 今回は久しぶり? に「私の読書論」として書いてみます。
 今回で200回ぐらいになるかと思います。
 どういう範疇で書くかというのは難しすぎて、混乱を生むだけです。
 適当が一番だと思うので、もう番号は振らないで、そのままで行こう
 と思います。これからもよろしく!

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 - 私の読書論 -

  ~ 好きな作家の一人 ~

  岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著
    野崎 歓/訳 から(1)『夜間飛行』
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●サン=テグジュペリの思い出

好きな作家の一人である、サン=テグジュペリを取り上げるのは、
『星の王子さま』以来かも知れません。

*参照:
2008(平成20)年4月号(No.4)-080430-星になった少年『星の王子さま』

 

↓にも書いたように、

『レフティやすおのお茶でっせ』2025.8.24
『NHK100分de名著』152「人間の大地」サン=テグジュペリ
2025年8月放送中
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/08/post-9ba848.html

サン=テグジュペリという作家さんは、
中学一年の時に、『星の王子さま』の冒頭の絵に関して、
「大人はわかってくれない」を教えてくれた、
という意味で興味を持つようになった人でした。

実際には、20代になったころにやっと
岩波少年文庫版の『星の王子さま』を買い、読んだのでした。

他の作品に触れたのは、さらにずっとずーっと後年のことです。

正確には調べないと分からないのですが、
古典や名著・名作を読むようになった50代以降のことでしょう。

堀口大學訳の新潮文庫『夜間飛行』
(処女作「南方郵便機」とのカップリング)だったと思います。
次に読んだのが、同じく新潮文庫の堀口大學訳『人間の土地』。

それで本当に好きになりました。

元々飛行機に対するあこがれを持つ少年でした。
自由に空を飛んでいる飛行機が好きで、
空を見上げてる子だったところがあります。

大阪東部上空は、伊丹空港に着陸する飛行機が通過するところでもあり、
大きな飛行機が時折爆音をさせて通過することがありました。
また、八尾空港という小型機専門の飛行場もあり、
交通情報など上空から報告するような飛行機も飛んでいました。

 

 ●初期の飛行機乗りの作家

飛行機が好きで、飛行機乗りの作家の書く小説も好きで、
色々読んでいます。

『かもめのジョナサン』で有名な、リチャード・バック。
『イリュージョン』が好きでした。
ほかにはかわいいフェレットの物語にも、飛行機ものがありました。

小説ではないですが、1954年にピューリッツァー賞を受賞した、
チャールズ・リンドバーグの著作『翼よあれがパリの灯だ
(The Spirit of St. Louis)』-
大西洋無着陸飛行に初成功した時のノンフィクションです。
前半が準備の日々、後半が実際の冒険行という構成で、
準備が大事だということを教えてくれます。
リンドバーグの夫人で、女性飛行機乗りの草分けだった、
アン・モロウ・リンドバーグさんの『海からの贈り物』もいい本でした。

そういうなかでもっとも初期の飛行機乗りの作家が
サン=テグジュペリでしょう。

 

 ●最高の名作カップリング

偶然、本屋さんに行った5月、
まさかと思っていた、この本がありました。

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『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著 野崎 歓/訳
岩波文庫 赤N516-2 2025/5/19
(Amazonで見る)

――『星の王子さま』の新訳本『ちいさな王子』の訳者でもあるフランス
 文学者でこの番組の指南役でもある野崎さんの手になる、代表作二作
 『夜間飛行』と『人間の大地』の黄金のカップリング新訳本。

 

その前に、ミシェル・ビュッシというフランスの作家の本、
『だれが星の王子さまを殺したのか』(集英社文庫)を読み、
『夜間飛行』とか『人間の大地』を再読してみたいな、
と思っていたところでしたから。

でも『夜間飛行』の本は持っていないし、
『人間の土地』は持っていますが、どうしようかと思っていたのです。
堀口大學訳は、文章が正直古びてきている印象がありました。

以前読んだなかでは、光文社古典新訳文庫の二冊、
二木麻里さんの訳の『夜間飛行』は「解説」も楽しかったですし、
渋谷豊さん訳の『人間の大地』も今どきな印象がありましたので、
これらを探そうか、と思っていました。

そこにズバリ、この二作のカップリングの本が出た、というわけです。
今までありそうでなかったこのカップリング。
これに『星の王子さま』が加われば、最高の一冊となります。
でも『星の王子さま』は、カバーからあれが欲しいですし……。

 

 ●『夜間飛行』について

『夜間飛行』は、1900年生まれのサン=テグジュペリの31歳の時の
作品で、1929年に第一長篇小説『南方郵便機』が出版されたのちに
の、1930年頃から執筆された、と光文社古典新訳文庫版、二木麻里訳
『夜間飛行』の巻末年表にあります。
サン=テグジュペリの第二作です。

当時彼は、アエロポスタル社の南米路線アエロポスタ・アルヘンティーナ
社のブエノスアイレスで支配人として従事していたのでした。
まさにこの小説の主人公の立場でした。

この作品はアンドレ・ジッドの序文を添えて出版され(岩波文庫版では
未収録、光文社古典新訳文庫版では本文の後に、みすず書房
『サン=テグジュペリ・コレクション』版は冒頭に)フェミナ賞を受賞。
すぐに映画化されてヒットして、同名の香水まで発売されました。

主人公リヴィエールのモデルになったとされ、本書を捧げられた
ディディエ・ドーラさん(当時サン=テグジュペリが働いていた会社の
上司、路線開発者)の「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」が
みすず書房版には収録されています。

そこにはこんな文章があります。
ドーラさんは、彼の飛行機乗りとしての経歴や操縦ぶりに
決して満足していたわけではなかったようです。
それでも彼を採用したのは、

 《(略)サン=テグジュペリがその高潔な心のなかで、
  飛行機というものが、やがては人間たちのあいだに新しい関係を
  築き上げるに役立つことになる、最高度に象徴的な道具であることを
  理解していたということを。》

と。さらに続けて、

 《飛行機は、まもなく彼独自のものとなる文学的世界に入り込むため
  に、おそらくは無意識にであろうが、彼が内心で探し求めていた
  理想的な機械だったのである。》 pp.106-7
   (『サン=テグジュペリ・コレクション 2 夜間飛行』
     山崎庸一郎/訳 みすず書房 より、ディディエ・ドーラ
    「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」

 

 ●『夜間飛行』――優れた職業小説

内容ですが、アルゼンチンのブエノスアイレスにある、航空郵便会社の
支配人リヴィエールと事務員や監督官、飛行場主任、そして飛行士たちと
のある一夜の物語です。
嵐に遭遇し、事故にあったと思われる飛行機と飛行士、それを各地からの
無線連絡を通して知るリヴィエール。
迷い悩みながらもそれを隠してふるまい、難しい決断を下します。
航空郵便事業の成功のために。

一見非情に徹する冷徹な上司と映るリヴィエールですが、心の内には、
当然のごとく、様々な葛藤があります。
嵐により事故に遭ったと思われる飛行士の妻が事務所にやって来ます。
何もしてやれないのは分かっていながら、面会を断らないリヴィエール。
これといった話もできないまま、帰って行く妻。

 

最終的にリヴィエールは、事故に遭った便の荷をのぞき、
ヨーロッパ便を出発させます。
飛行士はいいます。

 《「馬鹿なリヴィエールめ。このおれが……怖がってるだなんて思って
  いやがる!」》

 

飛行を辞めることは、事業を終わらせることになるのです。
夜間飛行を続けることこそ、航空郵便の優位さを維持できる唯一の方法
なのですから。

 《勝利……敗北……。そんな言葉に意味はない。生命はそんなイメージ
  よりも下にあって、すでに新たなイメージを準備し始めている。
  一つの勝利が民衆を弱体化させ、一つの敗北が別の民衆を目覚め
  させる。リヴィエールが喫した敗北と引き換えに、真の勝利が引き
  寄せられるのかもしれない。進行していく出来事だけが重要だ。》

最後の段落――。

 《 そしてリヴィエールはゆったりした足取りで仕事に戻り、その
  厳めしい視線を浴びて社員たちはうつむく。偉大なリヴィエール、
  勝利者リヴィエールは、自らの勝利の重みを背負っている。》

 

まあ、一つの優れた職業小説だと思っています。

リヴィエールは、偉大な支配人。
南米からアフリカ、ヨーロッパへと続く、郵便の航空路を維持している
のです、その厳格な仕事ぶりで。

しかし、彼一人が偉大なわけではありません。
彼の元に従う様々な役職の人々がいての成功です。
もちろん、その最先端に立つのは、飛行士たちです。
危険をものともせず、夜の闇に飛び立ってゆく……。

それを支えるのは、家庭では妻であり、会社では飛行場主任であり、
監督官であり、最終的には支配人なのでしょう。

仕事に身を捧げるという言い方は、古くさいかも知れません。
しかし、人間にとって、仕事=働くということは、厳粛なものであって、
生半可な気持ちでは続けられるものではない、ということでしょう。

特に、最先端の分野において、第一級の存在であり続けるためには。

実体験に基づく小説とはいえ、ここまでリアルな印象を抱かせる臨場感に、
その描写の凄さを感じさせます。
その印象をより強める構成の巧みさも見事の一言です。

文庫本で120ページ強の中編ですので、ぜひ御一読を!

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参照:
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『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著 野崎 歓/訳
岩波文庫 赤N516-2 2025/5/19
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『NHKテキスト 100分de名著 サン=テグジュペリ『人間の大地』
 2025年8月』 [講師] 野崎 歓
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『夜間飛行』サン=テグジュペリ/著 堀口 大学/訳 新潮文庫 1956/2/22
――「序」アンドレ・ジッド、処女作「南方郵便機」を併録
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『人間の土地』サン=テグジュペリ/著 堀口 大学/訳 新潮文庫 1955/4/12
(Amazonで見る) ――名訳で知られる堀口大學さんの訳書。ただ訳語や言葉の言い回しに
どうしても時代色が感じられます。宮崎駿さんの解説とカバー・挿絵が
楽しめます。

『夜間飛行』アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ/著 二木 麻里/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-2 2010/7/8
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『人間の大地』サン=テグジュペリ/著 渋谷豊/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-3 2015/8/6
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『戦う操縦士』サン=テグジュペリ/著 鈴木雅生/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-4 2018/3/7
(Amazonで見る)

『サン=テグジュペリ・コレクション 2 夜間飛行』山崎庸一郎/訳
みすず書房 2000/7/20
――本書を捧げられた相手、ディディエ・ドーラさんの
「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」を収録
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『サン=テグジュペリ・コレクション 3 人間の大地』山崎庸一郎/訳
みすず書房 2001/8/1
(Amazonで見る)

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本誌では、「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ から(1)『夜間飛行』」と題して、今回も全文転載紹介です。

好きな作家サン=テグジュペリの黄金のカップリングの一冊である、岩波文庫版『夜間飛行・人間の大地』の紹介の一回目は、前半の『夜間飛行』。
彼の著作のなかで一番の小説です(といってもほかには『南方郵便機』ぐらいしか知りません)。
『星の王子さま』は、童話(あるいは寓話)です。
『人間の大地』は、哲学的エッセイというところです。
純粋な小説と呼べるものは、この『夜間飛行』ぐらいというところでしょう。

この三作が私の思う彼のベスト3です。
まあ、たいていの人はそういうところでしょうね。

四人目の翻訳家による、四度目の<再読>というところでした。

 ・・・

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