<夏の文庫>フェア2025から(3)新潮文庫・『ボッコちゃん』星新一-楽しい読書394号
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【最新号】
2025(令和7)年8月31日号(vol.18 no.14/No.394)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(3)新潮文庫・
『ボッコちゃん』星新一~いのち輝く未来社会は?~」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年8月31日号(vol.18 no.14/No.394)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(3)新潮文庫・
『ボッコちゃん』星新一~いのち輝く未来社会は?~」
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今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
<夏の文庫>フェア2025から――。
今年も、一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介します。
今回は最終回となります。
今年のテーマは、大阪関西万博の年ということで、
「大阪」もしくは、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」
ということで、大阪ものの小説や「いのち」に絡んだ作品を紹介して
きました。
三本目の今回は、未来社会ということで、星新一さんのSF系の
ショートショート集『ボッコちゃん』を取り上げます。
角川文庫夏フェア2025 | カドブン
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/
ナツイチ2025 広くて深い、言葉の海へ| web 集英社文庫
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/
よまにゃチャンネル - ナツイチ2025 | 集英社文庫
https://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/yomanyachannel/
新潮文庫の100冊 2025
https://100satsu.com/
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◆ 2025年テーマ:<大阪関西万博2025> ◆
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(3)
~ いのち輝く未来社会は? ~
新潮文庫―『ボッコちゃん』星新一
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●新潮文庫の100冊 2025
新潮文庫の100冊 2025
https://100satsu.com/
今回も対象書目100冊から、気になる本、既読書目を上げておきます。
▼シビレル本(20冊)
ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー ブレイディみかこ
ようこそ地球さん 星新一
砂の女 安部公房
変身 フランツ・カフカ/著 高橋義孝/訳
梟の城 司馬遼太郎
老人と海 ヘミングウェイ/著
シャーロック・ホームズの冒険 コナン・ドイル/著 延原謙/訳
百年の孤独 ガブリエル・ガルシア=マルケス/著 鼓直/訳
▼愛する本(19冊)
塩狩峠 三浦綾子
雪国 川端康成
こころ 夏目漱石
きらきらひかる 江國香織
月と六ペンス サマセット・モーム/著 金原瑞人/訳
吾輩も猫である 赤川次郎/著 、新井素子/著 、石田衣良/著 、
荻原浩/著 、恩田陸/著 、原田マハ/著 、村山由佳/著 、
山内マリコ/著
春琴抄 谷崎潤一郎
博士の愛した数式 小川洋子
▼考える本(20冊)
罪と罰〔上〕ドストエフスキー/著 工藤精一郎/訳
罪と罰〔下〕ドストエフスキー/著 工藤精一郎/訳
注文の多い料理店 宮沢賢治
沈黙 遠藤周作
車輪の下 ヘッセ/著 高橋健二/訳
ボッコちゃん 星新一
金閣寺 三島由紀夫
センス・オブ・ワンダー レイチェル・カーソン/著 上遠恵子/訳
星の王子さま サン=テグジュペリ/著 河野万里子/訳
▼泣ける本(22冊)
新編 銀河鉄道の夜 宮沢賢治
蜘蛛の糸・杜子春 芥川龍之介
小泉八雲集 小泉八雲/著 上田和夫/訳
キッチン 吉本ばなな
ハムレット ウィリアム・シェイクスピア/著 福田恆存/訳
オズの魔法使い ライマン・フランク・ボーム/著 河野万里子/訳
▼ヤバイ本(19冊)
ロリータ ウラジーミル・ナボコフ/著 若島正/訳
インスマスの影―クトゥルー神話傑作選― H・P・ラヴクラフト/著
南條竹則/編訳
江戸川乱歩名作選 江戸川乱歩
人間失格 太宰治
異邦人 カミュ/著 窪田啓作/訳
遠野物語 柳田国男
結構既読があるようです。
昔に読んだっきりのも含めて、ですが。
●『ボッコちゃん』星新一
今回は、大阪・関西万博のテーマ「いのち輝く未来社会」から、
未来社会を描いた作品が多い、SF系のショートショート集である、
星新一さんの最初の文庫本である『ボッコちゃん』を取り上げましょう。
この作品を初めて読んだのは、もう何十年も前のことです。
この本が出た頃ですから、初版が昭和46年ですので、高校二年ぐらい。
「あとがき」によりますと、この本は星さんの自薦作品集で、
初めての文庫本で、新潮社から出版された二冊の本『人造美人』
『ようこそ地球さん』と他社の本の中から
主に初期の短い“ショートショート”作品を、
それもバラエティを多くするように収録した、といいます。
ミステリーもあれば、SFもあれば、ファンタジーも、寓話がかったもの、
童話めいたものも。すべて、星さんの関心のある分野だそうです。
星さんは、旧著であっても、時代によって古びることのないように、
常に文章の表現を見直し、手直しをしていたそうです。
たとえば、「電話のダイアルを回して」のような文章があれば、
「ダイアル」というものが時代に合わない表現ですので、書き改める――
といったように。
『ボッコちゃん』星新一 新潮文庫 1971/5/25
(Amazonで見る)
●表題作「ボッコちゃん」
表題作の「ボッコちゃん」は、
単行本になった時は『人造人間』(昭和36年)という表題でしたが、
「ボッコちゃん」のタイトルの方が星さんは好きといいますか、
お気に入りだったそうです。
前年に発売された「ダッコちゃん」という名の女の子のビニール製の
お人形がありました。
大人気を博したもので、貧乏だった我が家にもありました。
それと紛らわしいということで、『人造人間』になったといいます。
ダッコちゃん、ボッコちゃん、ね!
本当のところは、ロボットの人形だから「ボッコちゃん」。
この作品が完成して、星さんは、作家としてやっていける、
という感触を持つことができた、といいます。
《「書き終わった時、内心で『これだ』と叫んだ。
自己を発見したような気分であった。大げさな形容をすれば、
能力を神からさずかったという感じである」
(「星くずのかご」No.1)》『星新一 空想工房へようこそ』
最相葉月/監修 新潮社 とんぼの本 2007/11/1
「最相葉月column(2)」より
《「これは自分でも気に入っており、そのごのショート・ショートの
原型でもある。自己にふさわしい作風を発見した。自分では
この作を、すべての出発点と思っている。私の今日あるは
『ボッコちゃん』のおかげである」(『気まぐれ博物誌・続』)》
同上「最相葉月column(2)」より
《星さんの口から聞いたことですが、先生が一番お好きな作品は、
「ボッコちゃん」とのことでした。(略)》
同上・「chapter4 エス氏のDNA/ショートショートの遺伝子
江坂遊」<考察一>より
*参照:
『星新一 空想工房へようこそ』最相葉月/監修 新潮社 とんぼの本
2007/11/1
(Amazonで見る)
これが、のちのショートショートの神様? を生み出すきっかけとなった
名作の生まれた瞬間だったようです。
ぜひ、その記念碑的作品を味わってみましょう。
・・・
「ボッコちゃん」は、バーのマスターが自作したロボットでした。
歩いたりはできないので、カウンターのなかで、
お客さんの相手をするだけ。
でも、そっけない対応しかできず、ただただ酒を飲むだけ。
(「お世辞をいわない女のロボット」というキャラクター像が最初から
設定されていた、と思われるそうです。)
何とかものにしたいと思った青年客、あまりにも対応がひどいので、
ついにボッコちゃんにすすめる酒に毒を入れて飲ませます。
マスターは、ボッコちゃんの飲んだお酒を……。
●集中一番、世界でも一番の名作「おーい でてこーい」
本作品中でオチまで覚えているのは、集中一番の名作だと思っている
「おーい でてこーい」です。
「おーい でてこーい」は、今まで読んだショートショートのなかでも、
いえ、他の作家さんの作品も含めて、長編も含めた全小説作品中でも、
文句なしに一番だと思っている作品です。
なんというのでしょうか、スケール感といいますか、
まさに底なしの恐ろしいオチの作品でした。
●完全殺人もの「殺し屋ですのよ」
当時二番目?! にすごいと思ったのが、「殺し屋ですのよ」でしょうか。
完全殺人もののミステリーの傑作でしょう。
思いつけば、簡単なネタですが、思いつくまでが大変、という
完全トリックです。
なかでもこの登場人物とお話の進め方、というのでしょうか。
その辺の組み合わせで読ませる作品でしょう。
タイトルの「~ですのよ」が、良い味を出しています。
●輝ける未来? のかずかす「生活維持省」「ゆきとどいた生活」
「生活維持省」――理想的な生活を維持するために、
どうしても避けられないものは? という作品。
本来なら、もっと恐ろしいお話になっても良いはずなのですが、
穏やかな心清々しいような結末です。
お役人さん自身がこういう事態に出くわしたとき、
こんな風に反応できる人は、単に洗脳された結果なのか、
それとも、そこまで社会の在り方が成熟していれば、
人は素直にそういう状況にさも悟りきったような反応ができる、
ということなのか、どうなのでしょう。
「ゆきとどいた生活」――すべて機械が準備してくれる生活、
自分はその場にいるだけで良いのですが……。
こっちは、もっと単純で皮肉な結末を描いています。
●発明家の落ちた落とし穴「冬来たりなば」
SFによくあるテーマの異星人とのファースト・コンタクトものも、
この短編集にもいくつかありますが、
これは商業主義と発明家の経済不案内ぶりが面白いところでした。
いかにも叙情的なタイトルとのギャップが皮肉な一編です。
来春の支払いの約束をして、商品を置いてゆくのですが……。
●悪魔や魔法使いの願い事もの「悪魔」
悪魔や魔法使いの願い事ものというテーマの作品があります。
冒頭の一編がそんなひとつで、「悪魔」。
凍った池の氷を割り、魚釣りをしている男。
一つの壺を拾い上げます。そこから出てきたのは、悪魔。
助けてもらったお礼に何でも欲しいものを出してやる、といいます。
欲張りな男は、金貨を求めます。
そして、際限なく欲望を膨らませた結果は……。
●一番の叙情作?「月の光」
こんな風に書いてゆきますと、切りがありませんので、
最後に一編、今回気に入った作品を一つ紹介しておわりとしましょう。
集中一番の叙情的な作品といっても良いかもしれないと思った作品です。
60歳近い品の良い老人は愛するペットを飼っています。
その子は15歳の混血の少女。
15年前生まれたばかりのこの子を貰い、
それ以来言葉を使わず育ててきました。
餌は必ず自分が与え、召使いを部屋にも入らせなかったのです。
《このペットの美しいからだのなかには、愛情ばかりがいっぱいに
つまっている。そして、それ以外のものはなにもない。この静かな
部屋のなかにも、世の中のみにくいことは、なにひとつしみ込んで
いないのだ。》p.45
《甘い、夢のような夜。だが、彼はこれを、あらゆる遊びを断った
十数年をつぎ込んで得たのだ。その忍耐と努力を思えば、決して
不当なものと呼ぶことはできない。》p.46
召使いは70過ぎの老人のみで、飼い主がすべての世話をしていました。
あるとき、その飼い主の老人が自動車事故に遭い、重態で、
「餌をやらないと」といっていた、と病院から連絡が来ます。
召使いは、初めて餌をやろうと部屋に入ります。
ペットは怖がって隠れます。
餌を置いておいても食べず、いつしか弱ってゆくペット。
そして、飼い主の死、どう伝えたらいいのだろうか、と悩む召使い。
しかし……。
理想的な生活がちょっとしたことで崩壊する、というパターンです。
人権的にどうか、というところですが、
まあ、その辺はおとぎ話ということで。
美しくも悲しい物語、というところでした。
●新たなる未来につながる第一歩「最後の地球人」
いよいよラストの一編を紹介しましょう。
人口爆発に悩む地球人。
人間の生活スペース確保のためにすべての生物も犠牲にし、
食料も人工のものにとって代わり、それでも限界に達し……。
しかしいつしか人口が減り始め、人間の時代も終わろうとします。
最後に残った男女に一人の子が生まれ、保育器のなかで育てられます。
ついに最後の女が死に男も死を迎えます。
残ったのは保育器の中の子供だけ、その子は男でも女でもなかった。
《(略)一人しかいない人間にとって、一つしかない生物にとって、
性の区別など意味がなかった。(略)》
薄暗い保育器の中で、その子は声を上げたのです。
その瞬間からすべて――新たな未来が始まるのでした。
実に印象的な作品です。
まさにこの作品集50作を締めくくるにふさわしい内容の一編でした。
●まとめ
昔はどういう読み方をしていたのか、という気がしてきました。
覚えている作品が、「おーい でてこーい」と「殺し屋ですのよ」ぐらい
ですので、その印象からいいますと、ミステリー的なものの方が、
SFSFした作品よりも、グッときたのではないか、と考えられます。
SFショートショートは、結構読んでいたような気がします。
創元SF文庫のフレドリック・ブラウンのような作品など。
ミステリー的なショートショートでは、
ヘンリー・スレッサーの「走れ、ウィリー」が一番だ、
という印象があります。
*参照:
『ミステリマガジン(Hayakawa's Mystery Magazine)』1970年11月号
(No.175) 掲載
「走れ、ウィリー」 Run, Willie, Run ヘンリー・スレッサー
『世界ショートショート傑作選(1)』各務三郎編 講談社文庫 1978/11/15
ということで、今回改めて何十年ぶりかで再読して、
「小学生から読める本」としても知られる
星新一さんのショートショート集は、やはり偉大だという気がしました。
かなり読んできた人には、ちょっと古くさく感じられる部分もあります。
しかし、新鮮な驚きもある作品集だと実感しました。
もう一度、1000編もあるという、星作品を楽しんでみたいものです。
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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2025から(3)新潮文庫・『ボッコちゃん』星新一~いのち輝く未来社会は?~」と題して、今回も全文転載紹介です。
いよいよ2025年の新潮・角川・集英社<夏の文庫フェア>も、最終回となりました。
何十年かの久しぶりの再読です。
やっぱりおもしろいのが星さんのショートショートです。
人生のことも少しは分かるようになって、少しは読み方も変わるかと思いましたが、昔の記憶がなくなっているので、まったく新しい作品にふれたような印象でした。
ほんの一部の作品だけは記憶にありましたが、これら作品は、今回読んでもやはり「すごい!」ものでした。
また、星さんの作品をポツポツとでも読んでみようかという気持ちになりました。
まだ、1000編もあるというので、当分読むものに困ることなさそうです。
いや、それ以前に自分にその時間があるのかな、という感じですね、ハイ。
・・・
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおの新しい生活を始めよう』に転載しています。
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