クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-「道」もうひとつのサンタ物語-楽しい読書355号
古典から始める レフティやすおの楽しい読書【別冊 編集後記】
2023(令和5)年11月30日号(No.355)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-
シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」
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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2023(令和5)年11月30日号(No.355)
「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-
シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」
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今年もはやクリスマス・ストーリーの紹介の季節となりました。
昨年は古典編でしたので、今回は現代編です。
といいましても、必ずしもつい最近の作品というのではなく、
過去の現代編でもそうでしたが、二十世紀の後半や
前半の作品も含まれていました。
今回もそういう一つと思われる作品で、正確な発表年代は不明です。
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-クリスマス・ストーリーをあなたに (13)- 2023
~ もうひとつのサンタ物語 ~
シーベリン・クィン「道」
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●過去の ~クリスマス・ストーリーをあなたに~
一回毎、一年ごとに【古典編】と【現代編】を交互に紹介してきました。
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【古典編】
チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』『鐘の音』
ワシントン・アーヴィング『昔なつかしいクリスマス』
ライマン・フランク・ボーム『サンタクロースの冒険』
メアリー・E・ペン「ファンダーハーフェン老人の遺言状」
クリストファー・モーリー「飾られなかったクリスマス・ツリー」
【現代編】
トルーマン・カポーティ「あるクリスマス」「クリスマスの思い出」
アガサ・クリスティー「水上バス」
コニー・ウィリス「ひいらぎ飾ろう@クリスマス」「まれびとこぞりて」
梶尾真治「クリスマス・プレゼント」、ジョー・ネスボ『その雪と血を』
ドナルド・E・ウェストレイク「パーティー族」
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参照:
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.11.27
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:
『レフティやすおの楽しい読書』BNから
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/11/post-1995dd.html
●サンタクロース誕生物語
今回は、角川文庫の昭和53(1978)年発行の
クリスマス・ストーリーのアンソロジー全二巻のうち、
『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』に収録されている作品
シーベリン・クィン「道」を紹介します。
実は、もうひとつの「サンタ物語」です。
サンタクロースの誕生物語というのが、結構色々あります。
以前紹介しました、『オズの魔法使い』の作者
ライマン・フランク・ボームの『サンタクロースの冒険』も、
そういうものの一つです。
*参照
2013(平成25)年11月30日号(No.117)-131130-
クリスマス・ストーリーをあなたに~
『サンタクロースの冒険』ライマン・フランク・ボーム
『サンタクロースの冒険』
The Life and Adventures of Santa Claus (1902)
ライマン・フランク・ボーム/著 田村隆一/訳 和田誠/イラスト
扶桑社エンターテイメント(1994.10.30) [文庫本]
新訳版で――
『サンタクロース少年の冒険』矢部 太郎/イラスト 畔柳 和代/訳
新潮文庫 2019/11/28
●シーベリン・クィン「道」荒俣宏訳
『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』長島良三/編 角川文庫
1978(昭和53)/11/30
(画像:角川文庫版のクリスマス・ストーリーのアンソロジー全二巻『贈り物 クリスマス・ストーリー集1』、『クリスマスの悲劇 クリスマス・ストーリー集2』)
ボームのサンタ物語は、オズの作者らしく、
童話っぽいファンタジーでした。
一方こちらのシーベリン・クィンの作品は、
パルプ・マガジンの作家だけあって、
おとな向けのリアル系のファンタジーです。
パルプ・マガジンといいますのは、
アメリカの1920年代あたりから始まった、安っぽい紙に印刷され、
ドラッグストアなどで売られていた、お手頃値段の、
主に労働者や子供向けのミステリやSF、怪奇・幻想小説などを掲載した
娯楽読み物雑誌の総称です。
今では文学史にも登場するダシール・ハメットにしろ、
新潮文庫にも収録されたH・P・ラヴクラフトなども、
ここを舞台に活躍していた作家でした。
そういう雑誌に長短いくつもの作品を発表していたのがクィンです。
本編収録アンソロジーの巻末の編者・長島良三さんの
「解説・作者紹介」によりますと、1925~1952年にかけて、
怪奇・幻想小説、冒険小説、探偵小説など145篇を書きまくった
といいます。
本編もそういう一つです。
私は、本編をこの作品集以前にどこかで読んだ記憶があります。
たぶん雑誌、『SFマガジン』だったかと思います。
1970年代だったでしょう。
その時もこういうサンタクロースの誕生までを描く物語という、
クリスマス・ストーリーもあるんだなあ、と思ったものでした。
●ストーリー「一 ベツレヘムへの道」
主人公はヘロデ王に仕え、闘技場で多くの剣闘士たちと戦い、
勝ち抜いてきた剣闘士だった男。
ノルウェー式の単純なクラウスという名を
クラウディウスと呼ばれる北方人。
奉仕の期間を終え、故郷に帰る途中、ヘロデ王の私兵が、
ユダヤ人の女から抱いている赤子を奪い殺すところを見る。
その後、エジプトへ逃げる赤子をつれた夫婦を襲う私兵を殺し助ける。
そのとき、赤子の声が心に聞こえる――
《「クラウス、クラウス」やさしくその声は響くのだった。
「なんじが余に慈悲を与えたゆえに、なんじの生命を
幼児の自由のために投げ捨てたゆえに……余はなんじに告げる。
なんじが余のためになすべき仕事を果たし終えるまで、
なんじは決して死の暗き翼に包まれることなきを……」》p.199
《なんじは汝の生命と引きかえに幼子の生命を守った。
それはなんじの両親の賜物。(略)笑い合う幸福な子供たちが、
永久になんじの良心と愛の美しさを称えることだろう。
そして人々が、余の生誕日を祝うかぎり、なんじは永遠にすべての
幼な子の心に生きるのだ」》p.200
《「なんじの名を子供たちが口にするかぎり……」/
「わしは万能の英雄になるのだろうか」/
「幼い時代のなつかしい思い出を胸にいだくすべての人類によって
称えられる愛の英雄……」》pp.200-201
●「二 カルバリへの道」
その結果、彼は追われる身となり、避難所としてローマ軍の兵士となり、
ヘロデ王の後継者の追っ手に捕まることなく、
いつしか、ローマのユダヤ提督ピラトとともに
イェルサレムの胸壁に立つ百人隊長となる。
ユダヤの僧侶たちは、総督を意のままにしようとするが、ピラトは
一個の軍隊しか持たず、彼らを屈服させることができないことを歎く。
今、ガリラヤから来た説教師がユダヤの王を名乗っているという話が、
ピラトの悩みだという。
しかし、クラウディウスは、彼は我々はみな兄弟、神を畏れ、王を敬い、
ローマ皇帝のものはローマ皇帝に返すのだ、という。
ところが大祭司カヤパは、彼は謀反を企てているので、
帝国への反逆を説いた人物として、十字架刑にかけよ、
と圧力をかけているという。
街の人々からイエスは救世主だと言われているなかで、
ゴルゴタの丘で三人の十字架刑が行われる。
ピラトは、「こはイエス、ユダヤの王なり」と書いたものを
受刑者の頭の上に掲げるように、クラウディウスに持たせる。
クラウディウスは、茨の冠をかぶせられた血まみれの男に
施しの水を与え、足を砕けというカヤパの言葉に逆らい、
人間らしい死に方を与えてやれと、槍を心臓に打ち込む。
その時、彼は声を聞く。
この預言者こそ、そのむかし、
エジプトへ逃げる夫婦を助けたときの赤子だったと知る。
その後、地震に襲われ足を痛めた女を助けるが、
その女は、その朝、処刑された預言者のあとを追うため
卑しい職業を捨てた売春婦だった。
彼女は恐ろしい病に犯されていたが、
十字架を背負って丘を上る途中の彼に声をかけ、
主の治療を受け、治った、元の汚れのない乙女のように清らかとなった、
という。
しかし、彼女を蔑むクラウディウスに、また声が聞こえる。
《「女をさげすむのではない。余は彼女に慈悲を垂れた。
そしてなんじも――余も――彼女を必要とするのだ。
クラウス、彼女をなんじのものとするのだ》pp.222-223
こうしてクラウスは、彼女をウナと名付け、妻とする。
《「いとしい妻よ、主はいわれたぞ。わしにはおまえが必要だとな」
(略)「主ご自身もおまえが必要だと、そういわれたぞ。
わしたちは主のお声を聞き、主に召されるときはいつでも、
喜んで応えるのだ。(略)」》p.227
●「三 長い長い道」
ピラトと共に過ごしたクラウディウスは、ピラトの死後、
武勇の誉れ高い強者を必要とするローマへ。
今や、かの預言者は広くヨーロッパで信仰されていた。
しかし、クラウスは言う。
《「この世に生きる人間のうちでも、僧侶ぐらい
性質を変えん人種はおらんな。あの薄汚い奸計を弄して
主を十字架にかけたのは、カヤパとその一党だったし、近ごろでは
主が生命とひき替えにされた真実を偽りに変え、
秘に付してしまっているのは、なんと主の神官であり奴隷であると
自称する僧侶たちなのだからな!」》p.233
ときは移り変わり、ある年のクリスマス、
二人はライン川沿いの小さな町に仮の小屋を設け暮らしていた。
その年の収穫は少なく、農家はその日の飢えをしのぐのがやっとで、
クリスマスの宴を祝う気力さえなかった。
貧しい家の子供たちを喜ばせるためにクラウスは、
小さな橇を削り出した。
それを見たウナは、もっと作るようにいい、
自分は倉にある蓄えでお菓子を作るという。
冷たいクリスマス・イヴ、クラウスは赤いマントをまとい、
ささやかな贈り物を積んだ小さな橇を子供たちの家に届けてまわった。
寒さに眠れなかった一人の子供だけがその姿を見かけた。
子供はその体験を語った。
だれもが口をそろえて、聖(サンタ)クラウスと呼んだ。
しかし、聖職者たちは、町の統治者に堕天使の汚れた企みに違いない
と非難し、取り押さえるように進言する。
町の人の知らせに、二人は脱出に成功し、北の国へと逃避行を続ける。
こうして二人は北欧のラップランドをこえ、土地の人が寄りつかない、
九つの小さな丘が環状に取り囲む谷間に辿り着く。
そこには、古い言い伝えにより人々が恐れる小人たちが住んでいた。
しかし彼らは隣人のために奉仕することを願っていた。
すると、クラウスに再び、あのなつかしい声がこう告げた。
《「クラウス、なんじにはこの小さき者たちの手助けが要る。
なんじの足もとに開ける道を、彼らとともに歩め」》
クラウスは、彼らの職工としての腕を活かし、
おもちゃと作るように提案する。
できた贈り物は自分が、
お前たちの名を呼んで歓んでくれる子供たちのもとに届ける、と。
小人たちをのせて魔法の橇でさらなる北方の地に赴き、一軒の家を建て、
そこでウナの指導もあって、彼らはおもちゃ作りに精を出す。
そして、ふたたびクリスマスの季節が来る。
クラウスは、できあがったおもちゃを魔法の橇に乗せ、
八頭のトナカイを呼び寄せて、おもちゃを配ってゆく。
配り終えたクラウスは家に帰り、妻のウナや小人たちと宴を催し、
子供たちの幸福を祈りながら、杯を重ねるのだった。
《今日でもクラウスは現に生きている。
毎年十億人もの幸福な子供たちが彼の訪れを待っている。
彼はもう百人隊長クラウディウスでもなければ、
北方の戦士クラウスでもない。幼な子を守護する慈愛ぶかい聖者、
サンタクロースなのだ。彼の職務は、二千年前のあの夜、
主が選びたもうたもの。彼の道は、救世主の生誕日が人々に
祝われるかぎりもどることを知らない、長いながい道――》p.242
―終わり―
●リアルでホットな物語
サンタクロースのモデルになったといわれるのが
「聖(セント)ニコラス」または「聖(セント)ニコラウス」。
小アジア(現在のトルコ)のミラという町の司教で、
町の貧しい人たち、特に小さな子供たちを大事にして、
死後、聖人としてあがめられ、亡くなった12月6日は、
「聖ニコラウスの祭日」とされた、とか。
クリスマスやサンタクロースに関しては、色々なお話があります。
だれもがこういう起源についてのお話を書いてみたい、
と思うものでしょう。
クィンもそういう一人だったようです。
彼のお話は、リアルなファンタジーと言えるのではないでしょうか。
「講釈師、見てきたようなウソをつき」とかいいますが、
エジプトへ逃げようとする赤ちゃん連れの夫婦を襲う兵士との戦闘、
ゴルゴタの丘でのイエスの磔の場面など、リアルに描きつつ、
だんだんとイエスの声を通して、
ファンタジーの世界へと導いてゆきます。
リアルでホットな物語という気がします。
機会があれば、一度読んでみても損はないでしょう。
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本誌では、「クリスマス・ストーリーをあなたに~(13)-2023-シーベリン・クィン「道」もうひとつのサンタ物語」と題して、今回も全文転載紹介です。
本文中でも紹介していますが、過去の「~クリスマス・ストーリーをあなたに~」で紹介した作品をリストアップしてみました。
『レフティやすおのお茶でっせ』2023.11.27
クリスマス・ストーリーをあなたに~全リスト:『レフティやすおの楽しい読書』BNから
クリスマス・シーズンの読書ガイドの足しにでもしていただけると嬉しく思います。
・・・
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