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2022.10.31

中国の古典編―漢詩を読んでみよう(19)漂白の魂―曹植(1)-楽しい読書329号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-327号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年10月31日号(No.329)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(19)漂白の魂―曹植(1)」

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年10月31日号(No.329)
「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(19)漂白の魂―曹植(1)」
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 「中国の古典編―漢詩を読んでみよう」の19回目です。

 今回は、曹操の息子で、父・曹操、次男・曹丕(そうひ)と共に
 「三曹」と呼ばれる、四男・曹植(そうしょく)の詩を紹介します。

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◆ 漂白の魂 ◆
 中国の古典編―漢詩を読んでみよう(19)
   三曹(さんそう)から曹操の息子
  ~ 四男・曹植(そうしょく)「吁嗟篇(うさへん)」 ~
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

今回の参考文献――

『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
 江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
「六、抵抗と逃避のあいだに――三国時代から魏へ」より

 

 

 ●曹植

まずは、四男の曹植(192-232)から。

曹植は、杜甫が出現するまでは、
中国最高の詩人として尊敬されていた、といいます。

ところが、
後継者争いに巻き込まれて不運な人生を送ることとなりました。

先に即位していた次男の曹丕(文帝)によって地方を転々とさせられ、
それ故に、曹丕は記録上、悪役となりがちだ、といいます。

曹丕の死後、息子の曹叡(そうえい)が即位し、明帝となり、
曹植はこの明帝にも疎まれ、地方官として各地を転々とし、
41歳で亡くなります。

(この明帝の時代に、日本から使者が死者が来た、
 と『魏志倭人伝』に出ているそうです。)

 

 ●曹植の詩

 《自分自身の人生・境遇と、
  そこから来る不遇感や憤りをエネルギー源にして、
  いろいろの題材を取り上げ、さまざまの手法を開拓しました。
  言ってみれば曹植によって、“これが漢詩だ”という、
  漢詩の基本型が確立され、後世に受け継がれていった、
  そういう意味で大きな存在です。
  南朝時代には、「曹植は偉大な詩人であり、
  倫理・道徳の世界における孔子に匹敵する」
  とまで絶賛されています。》p.308

   『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
    江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
   「六、抵抗と逃避のあいだに――三国時代から魏へ」より

 

 ●曹植「吁嗟篇(うさへん)」

吁嗟篇  吁嗟篇(うさへん)  曹植

吁嗟此転蓬  吁嗟(ああ) 此(こ)の転蓬(てんぽう)
居世何独然
  世(よ)に居(を)ること 何(なん)ぞ独(ひと)り然(しか)るや
長去本根逝  長(なが)く本根(ほんこん)を去(さ)りて逝(ゆ)き
夙夜無休閑  夙夜(しゆくや) 休閑(きゆうかん)無(な)し

東西経七陌  東西(とうざい) 七陌(しちはく)を経(へ)
南北越九阡  南北(なんぼく) 九阡(きゆうせん)を越(こ)ゆ
卒遇回風起  卒(には)かに 回風(かいふう)の起(おこ)るに遇(あ)ひ
吹我入雲間  我(われ)を吹(ふ)いて雲間(うんかん)に入(い)らしむ

自謂終天路
  自(みづか)ら謂(おも)へらく 天路(てんろ)を終(を)へんと
忽然下沈淵
  忽然(こつぜん)として 下(くだ)つて淵(ふち)に沈(しず)む
驚飆接我出  驚飆(けいひよう) 我(われ)を接(むか)へ出(い)で
故帰彼中田
  故(ことさら)に彼(か)の中田(ちゆうでん)に帰(かへ)らしむ

当南而更北  当(まさ)に南(みなみ)すべくして更(さら)に北(きた)し
謂東而反西  東(ひがし)せんと謂(おも)ふに 反(かへ)つて西(にし)す
宕宕当何依
  宕宕(とうとう)として 当(まさ)に何(いず)くにか依(よ)るべき
忽亡而復存  忽(たちま)ち亡(ほろ)びて復(ま)た存(そん)す

飄颻周八沢  飄颻(ひようひよう)として八沢(はつたく)を周(めぐ)り
連翩歴五山  連翩(れんぺん)として五山(ござん)を歴(へ)たり
流転無恒処  流転(るてん)して恒処(こうしよ)無(な)し
誰知吾苦艱  誰(たれ)か我(わ)が苦艱(くかん)を知(し)らん

願爲中林草  願(ねが)はくは中林(ちゆうりん)の草(くさ)と為(な)り
秋隨野火燔  秋(あき) 野火(やか)に随(したが)つて燔(や)かれん
糜滅豈不痛  糜滅(びめつ) 豈(あに) 痛(いた)ましからざらんや
願与根荄連  願(ねが)はくは根荄(こんがい)と連(つら)ならん
            

本編は、41歳でなくなった彼の晩年にあたる、
あちこちを転々としていた時代の作。

曹植の人生を知った上で読むと、大変共感でき、
同様の境遇にあればまさに他人事とは思えない、と宇野さんの解説。

第一句に出てくる「転蓬(てんぽう)」という植物がテーマ。
和名を「ころがりぐさ」といい、球状に生長して枯れると根から離れ、
風に吹かれて転がる草で、西部劇なんかに出てくる転がっている草。
さすらいの生活の悲しみのたとえだ、といいます。

「吁嗟篇」とは、「吁嗟」は嘆き悲しみこと、「~篇」は「~の歌」で、
「歎きの歌、悲しみの歌」の意。

このような自分の境遇を愁えた詩が多く、
曹植の顔が見えるといっていい、と宇野さんの解説。

 

第一段では、ころがり草のあわれを述べる導入部。

 「ああ、ころがりぐさよ。
  この世に過ごしていて、どうしてお前だけがそうなのか。
  遙か遠くに元の根本から離れて転がってゆき、
  朝早くから夜遅くまで休むことができない」

第二段

 「東へ西へと七つのあぜ道を渡り、
  南へ北へと九つのあぜ道を越えてゆく。
  突然、つむじ風巻き起こり、
  わが身を吹いて雲の中に吹き入れてしまった」

ここでころがりぐさを「我」といい、作者と一体化する。
以下、ころがりぐさの動きにご注目、と。

第三段は、空から降りて上昇するという上下の動き。

 「ああ、これで空の果てまで行きつけると思った途端、
  ふいに下界に落ちて深い淵に沈んでしまった。
  と思うと、今度は突風が私を吹き上げ、
  ご丁寧にもとの畑に帰してくれようとする」

第四段は、水平の動き。

 「これから南へ行く筈が、逆にどんどん北へと飛ばされた。
  東へ行こうと思えば逆に西へ飛ばされる。
  どこに行くのか果てしもなく、何を頼りにしていいのか。
  ふと消えたかと思うと、どっこいやっぱり生きていた」

第五段は、さらに動きが拡大していく。

 「ふわりふわりと八つの沼をめぐり、
  ひらりひらりと五つの山岳を通る。
  さすらい続けて落ち着き場所がない。
  いったい誰が私のこの難儀をわかってくれるだろう」

「八沢(はったく)」「五山(ござん)」と、ここまで拡大して来ると、
単なるころがりぐさの描写と思う人はいない。

第六段は、苦し紛れに「もう死にたい」と痛ましく結ぶ。

 「出来ることなら森の中の草になり、
  秋になったら野火に焼かれてしまいたい。
  焼けただれるのはまことに痛く苦しいが、
  たといそうなるとしても、
  あちこち転がるよりは元の根っことつながっていたいんだ」

ここでいう「根っこ」は、やはり曹丕がいる宮廷を指すのでしょう。
まさに自身の人生を歌った詩という感じです。

従来の詩におけるたとえは、
その時代の誰が読んでもわかる最大公約数的なものや、
自分の機知やユーモアを誇るためのものでした。

ところが、この曹植の詩にいたって、
作者自身の人生に根ざしたものに変わった、といいます。

先にも書きましたように、同様の境遇にある人が読むと、
他人事とは思えないというのも、よく分かります。

人生、成功する人ばかりではないので、
こういう詩は多くの人の心に残るものとなるのでしょう。

 

 ●曹植は文学界の孔子

曹植は、文学界の孔子といわれるそうです。
孔子は、儒教の体系を確立した人。

 《古今東西を問わず、文学や芸術の或る形式が出はじめた時、
  最も早い段階でその典型を確立してしまう天才というか、
  大物が現れますよね。和歌でいえば、柿本人麻呂、能なら世阿弥、
  俳句なら芭蕉とか。それぞれの初期にいろんな可能性を模索し、
  或る形式を決定し、構成のお手本を作った。
  曹植は漢詩の世界でまさにそういう人です。》p.212

   『漢詩を読む 1 『詩経』、屈原から陶淵明へ』
    江原正士、宇野直人/著 平凡社 2010/4/20
   「六、抵抗と逃避のあいだに――三国時代から魏へ」より

 

さて、そういう曹植についてですが、
もう一つ二つ紹介するつもりでしたが、それは次回ということに。

 ・・・

メルマガ減量作戦を進めたいということで、今回はこの辺で。

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 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

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本誌では、「中国の古典編―漢詩を読んでみよう(19)漂白の魂―曹植(1)」と題して、今回も全文転載紹介です。

今回は、曹操と共に「三曹」と呼ばれる四男の曹植の一回目として、漂白の魂を歌う「吁嗟篇」を紹介しました。

長年の課題であるメルマガの軽量化をめざし、今回は、一編だけの紹介としました。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
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2022.10.15

<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161-私の自作左利きミステリ-「楽しい読書」第328号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-328号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年10月15日号(No.328)
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち+自作紹介」

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年10月15日号(No.328)
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち+自作紹介」
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 × × × × × × × × × × × × × × × ×
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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン
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第628号(No.628) 2022/10/15
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」
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 今回は、私の発行しているメルマガ
 <週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>の三度目のコラボ企画です。

 決して過去二回の企画が好評だったというわけではありませんが、
 二本同じ日に出すのが、苦痛といえば苦痛。
 で、まあ、手抜きといえば手抜き。
 私の好みの問題といえば好みの問題です。

 というわけで、スタートしましょう。

 <楽しい読書>編では、全く同じ内容ではつまらないので、
 一部をカットして、後半に「私の左利きミステリ」を紹介します。

 

*過去のコラボ企画

【第一回】
・左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第577号(No.577) 2020/8/15
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)
×レフティやすおの楽しい読書(No.276)

2020.8.15
ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)-週刊ヒッキイ第577号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ed8cea.html

・レフティやすおの楽しい読書
2020(令和2)年8月15日号(No.276)
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)
×左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii(No.577)

2020.8.15
ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)-「楽しい読書」第276号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ec0ad2.html

【第二回】
・左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第595号(No.595) 2021/5/15
「楽しい読書コラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」
・古典から始める レフティやすおの楽しい読書
2021(令和3)年5月15日号(No.294)
「週刊ヒッキイコラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」

2021.5.15
私の読書論144-<左利きミステリ>その後
-週刊ヒッキイ595号&楽しい読書294号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/05/post-e0ec7a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/400a7921be1d016f8bfbff350762971a

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  ★ <週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画 ★
 『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
 『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』

  前半=【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち
後半=「私の自作左利きミステリ」紹介
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弊誌『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』編では

前半の<左利きミステリ>紹介編は、目次と作品名のみ掲示し、
(内容詳細は、『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』をご覧ください。
 もしくは、同誌「編集後記」ブログを!)
後半の「私の自作左利きミステリ」を紹介します。

 

 ●第二回コラボ【左利きミステリ入門】の続き
 ●<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>
 ●最強のライバルと最大のライヴァル
 ●短編ならでは左利きミステリ
 ●今は二度目のリバイバル・ブームなの?

 

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
【左利きミステリ入門】
   海外編「20世紀以降」<ホームズのライヴァルたち>
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<左利きミステリ>の登場人物・分類表

◆:左利きの探偵
▲:左利きの被害者
●:左利きの犯人
▼:左利きの容疑者
■:左利きのその他の事件関係者

<左利きミステリ>としての紹介の都合上、
作品のネタバレとなるケースがあります。
基本的に、キーポイントとなる読みどころに関しては
問題が起きないように留意しながら紹介していますが、
ときに一部ネタバレになる場合もありますが、ご容赦ください。

 

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1.<隅の老人>▲被害者は左利き
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1904(アメリカ)
バロネス・オルツィ「ミス・ペブマーシュ殺人事件」
『隅の老人[完全版]』作品社 平山雄一訳 2014/1/31

右手にペンを持った被害者のダイイング・メッセージは……
召使いの証言「『奥様の字はいつも読みにくいんですよ。
左手で書くとこうなってしまうんですねえ』」

 

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2.<思考機械>■(番外編――切断された「左手人差し指」の謎)
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1906(アメリカ)
ジャック・フットレル「余分な指」
『思考機械 [完全版] 第二巻』平山雄一訳 作品社

外科医のもとに、労働をしたことのない手を持つ若い女性が
「左手の人差し指の第一関節で切断していただきたいのです」と

 

━━━━━━━━━━━━━━
3.<思考機械>●犯人は左利き
━━━━━━━━━━━━━━

1907(アメリカ)
ジャック・フットレル「壊れたブレスレット」
『思考機械 [完全版] 第二巻』平山雄一訳 作品社

思考機械 対 賢い娘
住所を書いてといわれても、左手に鉛筆を持ったまま躊躇する女

 

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4.<ソーンダイク博士>▼左利きの容疑者
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1909(イギリス)
オースチン・フリーマン「アルミニウムの短剣」
"John Thorndyke's Case"
『ソーンダイク博士の事件簿I』大久保 康雄訳 創元推理文庫 1977/8/19

左後方からの短剣による刺し傷から、左利きの人物が容疑者に

 

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5.<怪盗紳士アルセーヌ・ルパン(リュパン)>●左利きの犯人
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1911(1913)(フランス)
モーリス・ルブラン「赤い絹の肩掛け」
L'ECHARPE DE SOIE ROUGE "JE SAIS TOUT"誌 79号(1911/08/15)
『リュパンの告白』(1913)井上勇訳 創元推理文庫 1966/3/24

『ルパンの告白―ルパン傑作集IX』 新潮文庫 1961/11/1

『世界短編傑作集2』江戸川乱歩編 創元推理文庫 1961/1/13

ガニマール警部は、リュパン(ルパン)から
犯人は左利きだから気を付けろと忠告を受け、危機を乗り切る

 

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6.<盲人探偵マックス・カラドス>■ワトソン役が左利き
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(1914)(イギリス)
アーネスト・ブラマ「ディオニュシオスの銀貨」
The Coin of Dionysius(第一短編集 "Max Carrados"(1914))
『マックス・カラドスの事件簿』吉田誠一訳 創元推理文庫 ‎1978/4/10

盲人探偵マックス・カラドス初登場の一編で、
観察眼に優れた従僕パーキンソンが、のちに「ワトソン役」となる
カーライルを語る部分で、左利きと

 

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7.<アブナー伯父(アンクル・アブナー)>●左利きの犯人
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

1917(1918)(アメリカ)
メルヴィル・デヴィッスン・ポースト「藁人形」The Straw Man
『アブナー伯父の事件簿(シャーロック・ホームズのライヴァルたち)』
菊池光訳 創元推理文庫 1978/1/20(2022年10月上旬復刊されます)

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『アンクル・アブナーの叡知』吉田誠一訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1976/1/1

*参照:『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第287号(No.287) 2011/11/19「名作の中の左利き~推理小説編
 -2-「藁人形」M.D.ポースト」

アメリカ開拓時代のウェスト・ヴァージニアを舞台とする時代ミステリ
左右を使わずに、座った位置関係から対座する人物が左利きだと示す

 

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8.<ソーンダイク博士>(惜しくも番外編? ▲左利きの被害者)
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(1918)(イギリス)
オースチン・フリーマン「消えた金融業者」
"The Great Portrait Mystery"(第3短編集)
『ソーンダイク博士の事件簿II』大久保 康雄訳 創元推理文庫 1980/3/28

左手の指を、死体入れ替わりトリックを見破るための証拠に仕立てよう
としているが……、今一歩で「左利きミステリ」の未熟児?

 

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9.<ソーンダイク博士>▲左利きの被害者
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(1925)(イギリス)
オースチン・フリーマン「砂丘の秘密」
短編集"The Puzzle Look"(1925)
『ソーンダイク博士の事件簿I』(創元推理文庫)

浜辺に残されていた服(左の袖口に油絵の具)と
道具(パレットナイフの磨り減り方から)から

 

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10.<ソーンダイク博士>●左利きの犯人
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(1927)(イギリス)
オースチン・フリーマン「ポンティング氏のアリバイ」
"The Magic Casket"(1927) 第6短編集
『ソーンダイク博士の事件簿II』(創元推理文庫)

自殺に偽装した首のナイフの傷跡の方向(被害者自身の左から右へ)と
左利きの犯人の手の動き(相手に向かって右から左へ)

 

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11.<盲人探偵マックス・カラドス>▲被害者の左手指欠損
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(1927)(イギリス)
アーネスト・ブラマ「フラットの惨劇」
"Max Carrados Mysteries" 第3短編集
『マックス・カラドスの事件簿』(創元推理文庫)

左手指に欠損のある被害者の死体の入れ替わりトリック

 

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12.<ルパン(バーネット)>(準左利きミステリ)●左右反転の謎
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(1928)(フランス)
モーリス・ルブラン「金歯の男」
『バーネット探偵社―ルパン傑作集VII』堀口大學訳 新潮文庫 1960/7/1

私立探偵バーネットを名乗るルパンの事件簿から
泥棒を目撃した神父は、神にかけて犯人の左側の金歯が光っていた、
と証言するが、容疑者の金歯は右側だった……

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
13.<アプルビイ>(準左利きミステリ)●左右反転像/鏡像
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(1956)(イギリス)
マイケル・イネス「本物のモートン」
"Appledy Talk Again"(1956) 第二短編集
 短編集『アプルビイの事件簿』大久保康雄訳 創元推理文庫

スコットランドヤードの警部アプルビイのショートショート・ミステリ
年代的には、<ホームズのライヴァルたち>からは外れていますが。

 

━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━

――2022年10月現在、
<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>の作品から発見したのは、
<左右の謎>ものの<準左利きミステリ>も含めて、以上13点です。

*チェックした<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>の本
(以下、略)

221014shr

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  ~「私の自作左利きミステリ」紹介~

 『右手狩り―左利きミステリの講義と実作―』

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 ●なぜ<左利きミステリ>か?

60歳の時に一念発起、二つの短編ミステリの賞に応募しました。
一次選考すら突破できず挫折しましたが、長編のネタを考えていました。
その後、
『書きたい人のためのミステリ入門』新井久幸 新潮新書 2020/12/17

221014kakitaihitono

(画像:[第一章 そもそも「ミステリ」ってどんなもの?] の伏線の説明に関して、犯人を限定する要素が「左利き」とするときの例を挙げている。)

を読み、改めて長編ミステリにチャレンジしてみよう、
という気持ちになり、考えたのがこのストーリーでした。

このアイデアは、ズバリ私が左利きで子供の頃から嫌な思いをしてきて、
特に右利きの人からいろいろ無理解な暴言を受けたりした結果、
「右利きの人に復讐したい」といった思いがあった、
ということが大きな要因でしょう。

それと、小説を書くときに、「自分の知っている世界で勝負しろ」
といった助言をよく聞いていたこともあります。
左利きの問題なら得意ですから。

 

 ●自作ストーリー『右手狩り―左利きミステリの講義と実作―』

【登場人物一覧】

・大林(おおばやし)大作(だいさく):名は体を表す、
  大柄な自称・名探偵、左利きの研究家でもある(左利き)
・幸出(こうで)理亜(りあ):大林名探偵の助手(左利き)
・淀川(よどがわ)正史(まさし):大林の地元の高齢者施設の
  探偵クラブの創設メンバー(右利き)
・長溝(ながみぞ)乱太郎(らんたろう):探偵クラブのメンバー(右利き)
・高木(たかぎ)春光(はるみ):探偵クラブのメンバー(右利き)
・右賀(うが)作法(さくのり):元人気テレビ番組のプロデューサー、
  現在はテレビのワイドショーのコメンテーターとして出演中、
  「左利きは無作法」と発言して、SNSが炎上する(右利き)
・山田(やまだ)隆盛(りゅうせい):第一被害者、右手の骨の男(右利き)
・右野(みぎの)正道(まさみち):第二被害者、右賀の元同僚、
  右賀と共に左利き排斥の言辞を弄する(右利き)
・右田(みぎた)多綱(たづな):右賀の意見をSNS上で擁護する
・左手(ゆんで)真弓(まゆみ):右賀の意見をSNS上で批判する
・太田(おおた)守(まもる):根暗の訪問セールスマン、折波の部下で
  いつも左利きをいじられている(左利き)
・折波(おりは)祐一(ゆういち):第三被害者、太田の上司で右賀派、
  左利きの部下・太田を毛嫌いしている(右利き)
・中立(なかだち)正義(まさよし):O坂府警の刑事(右利き)
・佐和(さわ)最高(もりたか):O坂府警の刑事、中立の部下(左利き)

【プロローグ】 犬も歩けば棒(ポー=POW=(動物の)足)に当たる
  台風のあとの山林で犬の散歩中、犬が「右手」をくわえてくる
【第一章】 論より証拠
  大林が地元の高齢者施設の探偵クラブで講義を行う
  <左利きミステリ>についての講義(その一)――概要を述べる
【第二章】 針の穴から天をのぞく
  解体現場の壁の穴の奥から切り取られた二つ目の右手が発見される
【第三章】 憎まれっ子世にはばかる
  左利きの太田守(おおた・まもる)が右利きの人を口撃する
【第四章】 仏の顔も三度
  三人目の右手を切り取られた死体が発見される
【第五章】 下手の長談義
  大林が地元の高齢者施設の探偵クラブで二度目の講義を行う
  <左利きミステリ>についての講義(その二)本事件を解説する
【第六章】 遠い親類より近くの他人
  名探偵みなを集めて「さて」と言い――真犯人は……

 ・・・

まだほんの概要だけで、登場人物の名前などは仮で詳細は未定です。

私が本来、書こうと思ったのは、

 左利きの独裁者が現れ、
 幼児期に左利きであることで虐待され虐待された仕返しとして、
 右手使用禁止令を出し、違反した者は、
 その右手を切り落とされる、という社会を描くことでした。

まあ、自分自身の復讐ですね、現実には無理ですから。

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本誌では、「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち+自作紹介」と題して、今回も全文転載紹介です。

ただし、前半の<週刊ヒッキイ>編の部分は目次のみの紹介で、詳細は「<週刊ヒッキイ>の編集後記」の方をご覧ください。

自作ミステリは、半分以上でっち上げのようなもので、詳細は未定です。
空想といいますか、妄想ですね。
でも、妄想も思い込んでゆけば、何かになるとも限りません。

 ・・・

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<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161-左利きミステリ-ホームズのライヴァルたち-週刊ヒッキイ第628号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』第628号 別冊編集後記


第628号(No.628) 2022/10/15
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」


 


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第628号(No.628) 2022/10/15
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」
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2022(令和3)年10月15日号(No.328)
「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161
 【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち+自作紹介」
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 今回は、私の発行しているメルマガ
 <週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>の三度目のコラボ企画です。


 決して過去二回の企画が好評だったというわけではありませんが、
 二本同じ日に出すのが、苦痛といえば苦痛。
 で、まあ、手抜きといえば手抜き。
 私の好みの問題といえば好みの問題です。


 というわけで、スタートしましょう。


 <楽しい読書>編では、全く同じ内容ではつまらないので、
 一部をカットして、後半に「私の自作左利きミステリ」を紹介します。


 


*過去のコラボ企画


【第一回】
・左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第577号(No.577) 2020/8/15
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)
×レフティやすおの楽しい読書(No.276)


2020.8.15
ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(1)-週刊ヒッキイ第577号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ed8cea.html


・レフティやすおの楽しい読書
2020(令和2)年8月15日号(No.276)
左利きの本を読む~ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)
×左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii(No.577)


2020.8.15
ツイッター【左利きミステリ入門】まとめ(2)-「楽しい読書」第276号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/08/post-ec0ad2.html


【第二回】
・左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第595号(No.595) 2021/5/15
「楽しい読書コラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」
・古典から始める レフティやすおの楽しい読書
2021(令和3)年5月15日号(No.294)
「週刊ヒッキイコラボ企画:私の読書論144<左利きミステリ>その後」


2021.5.15
私の読書論144-<左利きミステリ>その後
-週刊ヒッキイ595号&楽しい読書294号コラボ企画
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/05/post-e0ec7a.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/400a7921be1d016f8bfbff350762971a


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  ★ <週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画 ★
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  【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち
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 ●第二回コラボ【左利きミステリ入門】の続き


まずは、<左利きミステリ>について、


*<左利きミステリ>とは、
 左利きの人が主要登場人物である物語や、左利きの性質を
 トリックに活用した推理小説等のミステリの総称をいう。



 国内ミステリ : 東野圭吾『どちらかが彼女を殺した』
 海外ミステリ : エラリー・クイーン『シャム双子の秘密』


『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』で、
「名作の中の左利き/推理小説編」として紹介してきました。


 


【第一回】のコラボでは、
ツイッターで紹介した【左利きミステリ入門】のまとめでした。


そこでは、海外編として、19世紀以前の作品をツイッターで


 年代・国名・著者名・作品名・左利きの登場人物・
 左利きに関する記述の該当箇所


などの情報を紹介しました。
そのまとめ編でした。


 


【第二回】のコラボでは、「<左利きミステリ>その後」と題して、
過去の『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』の
「小説の中の左利き・推理小説編」やブログ等で紹介したもの以外に、
それ以降に見つけた
<左利きミステリ>(広義のミステリ)のあれこれを


 年代・作品名・著者名(短編の場合は、収録書籍名)


をリスト化して紹介しました。


今回は、【第一回】のツイッター版【左利きミステリ入門】の続きの
海外編「20世紀以降」版から
<ホームズのライヴァルたち>の作品の紹介です。


 


 ●<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>


さて、<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>
または、略して<ホームズのライヴァルたち>とは、


 月刊誌『ストランド・マガジン』で人気を博した
 名探偵<シャーロック・ホームズ>の推理譚に対抗して、
 他の雑誌や新聞紙上に登場した「名探偵」たちの活躍を描いた小説群


を指します。


最初に登場したのは、
アーサー・モリスンの名探偵<マーティン・ヒューイット>でした。


『シャーロック・ホームズの冒険』と『シャーロック・ホームズの回想』
に収録された作品をもって一旦退場した
コナン・ドイルのシャーロック・ホームズに代わって、
『ストランド・マガジン』の看板(二代目の名探偵)になったのでした。


『ストランド・マガジン』の成功に刺激され、『ピアスン』誌には、
オースチン・フリーマンが<ソーンダイク博士>ものを、
『ロイヤル』誌には、バロネス・オルツィが<隅の老人>ものを。


アメリカでは、『ボストン・アメリカン』紙に
タイタニックとともに最期を遂げたジャック・フットレルによる
名探偵――「まるで考える機械だ」という意味で<思考機械>。
他には、アメリカ開拓時代を舞台にした
メルヴィル・デヴィッスン・ポーストの<アブナー伯父>ものが有名。


 


 ●最強のライバルと最大のライヴァル


そして最強のライヴァルが登場します。
それは、G・K・チェスタトンのローマ・カトリックの小男の司祭
<ブラウン神父>。


第一短編集『ブラウン神父の童心』は、
世界初の推理小説といわれる「モルグ街の殺人」を初めとする、
ポーの推理もの短編集(他の名探偵<オーギュスト・デュパン>もの――、
「マリー・ロジェの謎」「盗まれた手紙」)、
ドイルのホームズものの第一短編集『――冒険』と並ぶ、
3大ミステリ短編集の一つです。


別の面で最大のライヴァルは、やはりこの人、
モーリス・ルブランの<怪盗紳士ルパン>でしょうか。


怪盗であり、時に探偵でもあり、「ホームズ」とも対決しています。


 


 ●短編ならでは左利きミステリ


<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>ものといいますと、
基本的に雑誌に掲載された読み切り短編のスタイルで、
新聞掲載作では何回かで読み終えるスタイルの短編で、
時に問題編と解答編とに分かれる場合もありました。


そういう短編の性質上、ワン・アイデアの謎解きものが多く、
左利きネタを人物の特定に利用する作品が結構ありました。


推理もののドラマやアニメなどでもそうですね。
この場合は、ビジュアル的にわかりやすく表現できるからですが。


 


 ●今は二度目のリバイバル・ブームなの?


そんな<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>ですが、
日本では、今、二度目のリバイバル・ブームとでもいうのでしょうか、
これらの短編集が次々と出版されています。


最初のリバイバルは、1970年代、当時海外ミステリの専門誌だった
『ミステリ・マガジン』(早川書房)で、ズバリ
 <シャーロック・ホームズのライヴァルたち>
という企画がありました。
この企画を進めた人物?押川曠さん編の
『シャーロック・ホームズのライヴァルたち』というアンソロジーが
三巻出版されました。


早川書房からは、他にも個人短編集として、
ポーストの『アンクル・アブナーの叡知』など出ています。


同時期に、もう一つの海外ミステリ専門文庫、創元推理文庫からも
<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>の個人短編集が、
『○○の事件簿』というタイトルで、一〇巻程度出ています。


一部、必ずしも時代的にライヴァルではない人も含まれていました。


そして、近年、またこれらの短編集の完全版といったものが、
各社から出版されるようになりました。


たとえば、
作品社からは、バロネス・オルツィ『隅の老人【完全版】』や
ジャック・フットレル『思考機械【完全版】』全二巻、
アーサー・モリスン『マーチン・ヒューイット【完全版】』。


国書刊行会からは、
R・オースティン・フリーマン『ソーンダイク博士短篇全集』全三巻。


論創海外ミステリからは(10年以上前になりますが)、
バロネス・オルツィ『レディ・モリーの事件簿』、
E・W・ホーナング『二人で泥棒を』『またまた二人で泥棒を』
『最後に二人で泥棒を』(ルパンに先立つ「泥棒紳士」ラッフルズ)。


創元推理文庫からは、
ロバート・バー『ヴァルモンの功績』
(元フランス警察、イギリスで私立探偵のウジェーヌ・ヴァルモン)。


――といったふうに。


 


━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━
【左利きミステリ入門】
   海外編「20世紀以降」<ホームズのライヴァルたち>
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<左利きミステリ>の登場人物・分類表


◆:左利きの探偵
▲:左利きの被害者
●:左利きの犯人
▼:左利きの容疑者
■:左利きのその他の事件関係者


<左利きミステリ>としての紹介の都合上、
作品のネタバレとなるケースがあります。
基本的に、キーポイントとなる読みどころに関しては
問題が起きないように留意しながら紹介していますが、
ときに一部ネタバレになる場合もありますが、ご容赦ください。


 


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1.<隅の老人>▲被害者は左利き
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1904(アメリカ)
バロネス・オルツィ「ミス・ペブマーシュ殺人事件」
『隅の老人[完全版]』作品社 平山雄一訳 2014/1/31


右手にペンを持った被害者のダイイング・メッセージは……
召使いの証言「『奥様の字はいつも読みにくいんですよ。
左手で書くとこうなってしまうんですねえ』」


 


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2.<思考機械>■(番外編――切断された「左手人差し指」の謎)
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1906(アメリカ)
ジャック・フットレル「余分な指」
『思考機械 [完全版] 第二巻』平山雄一訳 作品社


外科医のもとに、労働をしたことのない手を持つ若い女性が
「左手の人差し指の第一関節で切断していただきたいのです」と


 


━━━━━━━━━━━━━━
3.<思考機械>●犯人は左利き
━━━━━━━━━━━━━━


1907(アメリカ)
ジャック・フットレル「壊れたブレスレット」
『思考機械 [完全版] 第二巻』平山雄一訳 作品社


思考機械 対 賢い娘
住所を書いてといわれても、左手に鉛筆を持ったまま躊躇する女


 


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4.<ソーンダイク博士>▼左利きの容疑者
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


1909(イギリス)
オースチン・フリーマン「アルミニウムの短剣」
"John Thorndyke's Case"
『ソーンダイク博士の事件簿I』大久保 康雄訳 創元推理文庫 1977/8/19


左後方からの短剣による刺し傷から、左利きの人物が容疑者に


 


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5.<怪盗紳士アルセーヌ・ルパン(リュパン)>●左利きの犯人
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1911(1913)(フランス)
モーリス・ルブラン「赤い絹の肩掛け」
L'ECHARPE DE SOIE ROUGE "JE SAIS TOUT"誌 79号(1911/08/15)
『リュパンの告白』(1913)井上勇訳 創元推理文庫 1966/3/24


『ルパンの告白―ルパン傑作集IX』 新潮文庫 1961/11/1


『世界短編傑作集2』江戸川乱歩編 創元推理文庫 1961/1/13


ガニマール警部は、リュパン(ルパン)から
犯人は左利きだから気を付けろと忠告を受け、危機を乗り切る


 


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6.<盲人探偵マックス・カラドス>■ワトソン役が左利き
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(1914)(イギリス)
アーネスト・ブラマ「ディオニュシオスの銀貨」
The Coin of Dionysius(第一短編集 "Max Carrados"(1914))
『マックス・カラドスの事件簿』吉田誠一訳 創元推理文庫 1978/4/10


盲人探偵マックス・カラドス初登場の一編で、
観察眼に優れた従僕パーキンソンが、のちに「ワトソン役」となる
カーライルを語る部分で、左利きと


 


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7.<アブナー伯父(アンクル・アブナー)>●左利きの犯人
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1917(1918)(アメリカ)
メルヴィル・デヴィッスン・ポースト「藁人形」The Straw Man
『アブナー伯父の事件簿(シャーロック・ホームズのライヴァルたち)』
菊池光訳 創元推理文庫 1978/1/20(2022年10月上旬復刊されます)


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『アンクル・アブナーの叡知』吉田誠一訳 ハヤカワ・ミステリ文庫 1976/1/1


 


*参照:『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第287号(No.287) 2011/11/19「名作の中の左利き~推理小説編
 -2-「藁人形」M.D.ポースト」


アメリカ開拓時代のウェスト・ヴァージニアを舞台とする時代ミステリ
左右を使わずに、座った位置関係から対座する人物が左利きだと示す


 


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8.<ソーンダイク博士>(惜しくも番外編? ▲左利きの被害者)
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(1918)(イギリス)
オースチン・フリーマン「消えた金融業者」
"The Great Portrait Mystery"(第3短編集)
『ソーンダイク博士の事件簿II』大久保 康雄訳 創元推理文庫 1980/3/28


左手の指を、死体入れ替わりトリックを見破るための証拠に仕立てよう
としているが……、今一歩で「左利きミステリ」の未熟児?


 


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9.<ソーンダイク博士>▲左利きの被害者
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(1925)(イギリス)
オースチン・フリーマン「砂丘の秘密」
短編集"The Puzzle Look"(1925)
『ソーンダイク博士の事件簿I』(創元推理文庫)


浜辺に残されていた服(左の袖口に油絵の具)と
道具(パレットナイフの磨り減り方から)から


 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
10.<ソーンダイク博士>●左利きの犯人
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(1927)(イギリス)
オースチン・フリーマン「ポンティング氏のアリバイ」
"The Magic Casket"(1927) 第6短編集
『ソーンダイク博士の事件簿II』(創元推理文庫)


自殺に偽装した首のナイフの傷跡の方向(被害者自身の左から右へ)と
左利きの犯人の手の動き(相手に向かって右から左へ)


 


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11.<盲人探偵マックス・カラドス>▲被害者の左手指欠損
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(1927)(イギリス)
アーネスト・ブラマ「フラットの惨劇」
"Max Carrados Mysteries" 第3短編集
『マックス・カラドスの事件簿』(創元推理文庫)


左手指に欠損のある被害者の死体の入れ替わりトリック


 


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
12.<ルパン(バーネット)>(準左利きミステリ)●左右反転の謎
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(1928)(フランス)
モーリス・ルブラン「金歯の男」
『バーネット探偵社―ルパン傑作集VII』堀口大學訳 新潮文庫 1960/7/1


私立探偵バーネットを名乗るルパンの事件簿から
泥棒を目撃した神父は、神にかけて犯人の左側の金歯が光っていた、
と証言するが、容疑者の金歯は右側だった……


 


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13.<アプルビイ>(準左利きミステリ)●左右反転像/鏡像
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(1956)(イギリス)
マイケル・イネス「本物のモートン」
"Appledy Talk Again"(1956) 第二短編集
 短編集『アプルビイの事件簿』大久保康雄訳 創元推理文庫


スコットランドヤードの警部アプルビイのショートショート・ミステリ
年代的には、<ホームズのライヴァルたち>からは外れていますが。


 


━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━


――2022年10月現在、
<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>の作品から発見したのは、
<左右の謎>ものの<準左利きミステリ>も含めて、以上13点です。


 


*チェックした<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>の本
(上記、<左利きミステリ>に掲載したものは除く)


(イギリス)
アーサー・モリスン<マーティン(マーチン)・ヒューイット>
 短編集『マーチン・ヒューイットの事件簿』


H・C・ベイリー<犯罪捜査部顧問レジー・フォーチュン氏>
 短編集『フォーチュン氏の事件簿』


M・P・シール<貴族プリンス・ザレスキー>
 中短編集『プリンス・ザレスキーの事件簿』


G・K・チェスタトン<ブラウン神父>
 第一短編集『ブラウン神父の童心』第二短編集『ブラウン神父の知恵』
 第三短編集『ブラウン神父の不信』第四短編集『ブラウン神父の秘密』
 第五短編集『ブラウン神父の醜聞』
 <ブラウン神父>以外のミステリ短編集
 『奇商クラブ』1905 『知りすぎた男』1922 『ポンド氏の逆説』1936


――以上、創元推理文庫<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>


 


ロバート・バー<ウジェーヌ・ヴァルモン>
 短編集『ウジェーヌ・ヴァルモンの勝利』 国書刊行会 2010/10/26
――元フランスの刑事局長で、イギリスで私立探偵をやるフランス人


E・W・ホーナング<「泥棒紳士」ラッフルズ>
『二人で泥棒を』『またまた二人で泥棒を』
『最後に二人で泥棒を』論創海外ミステリ
――「ルパン」に先立つの「泥棒紳士」の事件簿全三巻


(フランス)
・モーリス・ルブラン<怪盗紳士ルパン(リュパン)>
 短編集『八点鐘―ルパン傑作集X』 新潮文庫


他に、江戸川乱歩編『世界推理短編傑作集(全五巻)』創元推理文庫


*参考文献:
『シャーロック・ホームズのライヴァルたち――名探偵読本〈5〉』
中島 河太郎・押川 曠/編 パシフィカ 1979/4/1


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(画像:パフィシカ版『名探偵読本5 シャーロック・ホームズのライヴァルたち』と創元推理文庫版『マーチン・ヒューイットの事件簿<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>』)
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 「★600号までの道のり」は、お休みです。


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本誌では、「<週刊ヒッキイ>×<楽しい読書>コラボ企画:私の読書論161-【左利きミステリ入門】ホームズのライヴァルたち」と題して、今回も全文転載紹介です。


コラボしている、私のもう一つのメルマガ『レフティやすおの楽しい読書』では、私の「自作左利きミステリ」を紹介しています。
といいましても完成品ではなく、これから書く予定の「こんな感じ」という簡単な概要です。
まあ、自己満の書いてみただけ、とも言えますけれど……ね。


221014kakitaihitono 


(画像:『書きたい人のためのミステリ入門』新井久幸 新潮新書 2020/12/17――[第一章 そもそも「ミステリ」ってどんなもの?] の伏線の説明に関して、犯人を限定する要素が「左利き」とするときの例を挙げている。)


 ・・・


弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。


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2022.10.01

左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)楽器における左利きの世界(6)不利な楽器-週刊ヒッキイ第627号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』第627号 別冊編集後記

第627号(No.627) 2022/10/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(6)左利きは楽器演奏に不利か?」

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  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第627号(No.627) 2022/10/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(6)左利きは楽器演奏に不利か?」
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 7月以来、久しぶりに、
 「左手・左利き用楽器」による左利き楽器演奏について考える、
 の6回目です。

 思うほど「左利きと楽器演奏」についての先行研究といったものが
 見つけられず、悪戦苦闘しているというところです。

 さて、前回はフルートについて書いてみました。

 今回は、ネットで拾った情報からひとつ取り上げてみます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界 (6)
  ◆ 右利きの人の思い込み? ◆
   ~ 「左利きだと楽器を弄るのに不利か?」から ~  
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●ネットで拾った情報から

↓のサイトの記事を見ながら考えてゆきます。

2007-07-08
左利きだと楽器を弄るのに不利か?(novtan別館)
https://nov1975.hatenablog.com/entry/20070708/p2

 《楽器で右利き左利きが問題になる場合のほとんどは
  弦楽器じゃないだろうか。
  それ以外の楽器について、少なくとも最終的な目的である、
  演奏することについてあまり右左の重みはないように思える。》

といい、それぞれの楽器の種類毎にコメントされています。

--
・弦楽器(バイオリン類)
  構造上逆向きにし辛い(特に集団で演奏すると逆の人は邪魔)
  ニュアンスが全て右手にかかってくる
  左利きだから諦めた人が結構いる
・弦楽器(ギター類)
  左利きを生かしてバカテクという路線も
  左用楽器はあまりない
・木管楽器
  どうせ全指使用なので変わらない
  手でニュアンスを出すことがほとんど無い
・金管楽器
  ホルンとその他のピストン・ロータリー楽器の差異。慣れの問題
  トランペットは左操作も可能。
  その他の楽器は指とバルブの関係が逆さまになるから難しいかも。
  持ち辛い
  トロンボーンはテナーなら左右変更可能。変だけど。
  いずれにしてもたいした操作じゃない
・ピアノ・鍵盤楽器
  どうせ全指(両手)使用。変わらない。
  ニュアンスは手にかかってくるけれども、
  右が主で左が従であることはない。
  ピアノは左手の方が鍵盤が重いから、力があると有利
・打楽器
  左右の均等さが命!
--

そして、

 《本当の最初の最初の時点を除けば、
  左利きであることで苦労することは多分なく、
  むしろ日常生活の中で後天的両手利きになっていれば、
  有利である可能性すらあります。》

と書いておられます。

 

 ●腕の動かしやすい方向の違い

私思うのですが、こういう利き手に絡む話題について意見するときは、
まず始めにご自身の利き手を明記した上で行っていただきたい、
と思います。

このサイトの書き手は、たぶん右利きの方なのでしょう。

右利きの方が、左利きの人の演奏のポイントを
想像で考えておられるのではないでしょうか。

そこには、抜けているポイントがあるように感じました。

それは、利き手という性質に対する理解における肝心なポイントです。

 

左利きの人の身体の動きにおける特徴は、

(1)左利きの人というのは、基本的に自分の意思に無関係に、
 「左手が先に動く」という性質を持っている、ということ。

(2)「左手の方が器用」で、自分の思いに従って巧みに動かせる、
 ということ。

(3)利き手・利き側の腕や指の動きの方向や
 回転の方向などの肉体的条件が、右利きの人とは逆になる、
 ということ。

 

(3)に関していいますと、
このシリーズの第一回で書きましたように、

 《もし両手にそういう役割分担がなかったとしても、
  手や腕の動きという観点からいいますと、
  左利きの人の場合、
  やはり左用のピアノというものが必要になるように思います。》

第614号(No.614) 2022/3/5
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(1)左利き演奏という選択肢」
2022.3.5
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)
楽器における左利きの世界(1)-週刊ヒッキイ第614号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/03/post-ef0097.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/6fa045b88142a10817aed582e054fdd4

 

そして、第二回で、その理由として、
「演奏時の腕の移動方向」について書いています。

第616号(No.616) 2022/4/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(2)演奏時の腕の移動方向」
2022.4.2
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)
楽器における左利きの世界(2)-週刊ヒッキイ第616号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/04/post-7b0072.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/90951982e3ad1c1498e325ea8915cd0f

 

人間の腕は、右手・右腕は、左から右への方向(→)が動かしやすく、
左手・左腕は、その逆に、
右から左への方向(←)が動かしやすいのです。

右利きの人が右手で書く横書きの文章(→)や、
横方向に線を引く場合(→)を考えていただければわかるでしょう。

左利きの人は、左から右への横書きのような動きが苦手です。

 

 ●音階は下がるより上がってゆく方が心は高まる

ピアノのような鍵盤楽器の場合、
左から右へ、ドレミファ~と音程が上がってゆきます。

右から左へは、ドシラソファ~と下がってゆきます。

音階は上がっていく方が、心は高揚してゆくように思います。
逆に、音階が下がっていくと、気分も堕ちてゆくように思います。

そして、ドレミファ~と音程が上がってゆくのは、
鍵盤では「左から右へ」です。

この動きは、「右腕の得意な動き」ですので、
右利きの人が有利といえます。

 

先ほどのサイトの方のご意見では、
ピアノ・鍵盤楽器などは、両手・両腕を使うので、

 《どうせ全指(両手)使用。変わらない。》

と断定されています。

しかし、こういう腕の動きを考慮しますと、
両手使うから変わらない、とはいいきれません。

 

 ●構えのしっくり感の方向も人それぞれ

木管楽器に関しても、
 
 《どうせ全指使用なので変わらない》

とありますが、第四回のフルートの例で紹介しましたように、

オランダの画家、ユディト・レイステル
(Judith Jans Leyster:1609ー1660) 描くところの
「フルートを吹く少年」という絵画では、
フルートの構えが左右逆だと指摘されていました。

《現代のフルートはキーが複雑で右に構えるしかありません。》
そうですが、
昔は、木管に穴を開けてあるだけなので、
左右どちらでも構えて吹けるものだったわけです。

右利きであろうと左利きであろうと、
自分の得意な構えで吹けたわけです。

第620号(No.620) 2022/6/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(4)昔の楽器」
2022.6.4
左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ(25)楽器における左利きの世界(4)昔の楽器-週刊ヒッキイ第620号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/06/post-a16d77.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e39a907352de2803051e12b4d7997497

 

 ●リコーダーの場合は

小学校などで使ったリコーダーでも、両手を使うといいますが、
実際は両手によって役割が違います。

通常の構えでいいますと、右手は低音部の穴を押さえ、
左手は高音部を押さえます。

右手はドからソまで5音、左手はラ・シ・ドの3音、
しかし穴を押さえる指を入れ替えたり、
ややこしい動きを要求されます。

こう書きますと、左手の動きの方が難しそうです。
しかし、実際はどうでしょうか。

基本的に、左手は多く保持に使われているように感じます。

右利きの人にとって、左手は補助の役割に使用されることが日常的です。

リコーダーの場合も、そういう意味合いで、
高音部の割り当てになっているのではないか、という気がします。

右手はできる限り自由に動かせる状況に置いておき、
左手は割り当ては3音のみで、
保持する役割を多く務めさせているように思うのです。、

 

 ●それぞれの楽器について

ピアノ・鍵盤楽器、木管楽器に関しては、
上記のようなポイントが見逃されているように感じました。

また、ピアノ・鍵盤楽器で、
「ピアノは左手の方が鍵盤が重いから、力があると有利」
とある点に関していいますと、
「利き手」=「力も強い」とは限りません。

私は、「利き手は繊細で、非利き手は豪快」という感じで、
力だけなら右手の方が出せる感じです。

 

弦楽器(バイオリン類)に関しては、たぶんその通りでしょう。

弦楽器(ギター類)は、「左用楽器はあまりない」だけで正解でしょう。

金管楽器は、各種楽器により、いろいろな検討課題がありそうです。

打楽器では、「左右の均等さが命!」とありますが、
楽器によっては打ち方であったり、バチの持ち方であったり、
異なるケースががあるのではないか、と何も知らないド素人は考えます。

よって、今後大いに検討すべきは、金管楽器かもしれません。

 

 ●「慣れの問題」というのは逃げの答え

この手の利き手用品問題を語るとき、いつも気になるのが、
この「慣れの問題」という決めつけです。

この言葉で解決したように思う人が多いのが、残念です。

確かに何かにつけ、新たな道具を利用するときには、
その道具がいかに自分の身(サイズ)にあったものであれ、
新品を使う時は、その道具に対する「慣し」が必要なものです。
そういう意味での「慣れ」は致し方ないのですが、
利き手の違いを無視して、
道具に身体をあわせるという「慣れ」に答えを求めるのは、
違うと思います。

「両手を使うから問題ない」というのもその延長にあります。
両手を使うといっても、両手にはそれぞれ役割があるものです。
利き手には利き手の、非利き手には非利き手の。

利き手は「作用する」手――働きかける手で、
非利き手は「受ける」手――補助したり、感覚を受け持つ手です。

わかりやすいのは、大工さんがかんなを掛けるとき、
右手に持ったかんなで木の表面を削り、
左手で削った表面を触って、削り具合をチェックするのだそうです。

また、点字を読む時は、利き手ではなく、
非利き手の方が優秀だというのです。

これらはどちらも、
利き手より非利き手方が感覚的に優れているから、だそうです。

こういうふうに、両手には、それぞれ異なる役割があるのだそうです。

 

あるいは、上の役割論がわかりにくいという人には、
こういう例を挙げてみましょう。

両手の指を組んでみてください。
すると、人はそれぞれ、いつも決まった組み方をします。

右手の親指が上に来る人もいれば、左の親指が上に来る人もいます。

そして、これを逆に組むと、何かしらしっくりこないとか、
気持ち悪いとか感じるものです。

だいたい上に来る指の側が利き手になっている人が多いようです。
「指組」などといって、これを専門に研究する学者もいました。

 

このように、人間の身体には、自然と決まった傾向があるのです。
それを、利き手・利き側の性質と呼んでもいいかもしれません。

それを無視して「慣れたらいっしょ」などというのは、
やはり暴論でしょう。
それを言ったら、何でもありになってしまいますよね。

障害者にもいうのでしょうか。

もう少し利き手について勉強してから発言して欲しいと思います。

 ・・・

というところで、今回は終了。
次回は、未定です。

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本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(6)左利きは楽器演奏に不利か?」と題して、今回も全紹介です。

前回はフルートの左利き用についてでしたが、今回はネットの左利き演奏に関する情報から紹介しました。

最後に、「●「慣れの問題」というのは逃げの答え」の項で、両手の役割について書きました。
これは、久保田競さんの著作によるもので、今は改めて調べる時間がないので割愛します。

また、指組に関しては、一つは、

『マンウォッチング(上)』デズモンド・モリス 藤田統/訳 小学館ライブラリー13 1991.12.20(1991/11/1)

冒頭の「動作」で触れられています。

220930manwatching-yubigumi

220930manwatching-yubigumi-2

もう一つは、

坂野 登『かくれた左利きと右脳』青木書店 1982/12/1

220930kakuretahidarikiki-to-miginou

等の著作で、坂野さんは指組みや腕組みが「かくれた利き手」を示すという研究をされていました。
時間があればもう少し本格的な解説をしたいところですが、今回はこの辺で。

 ・・・

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