« July 2022 | Main | September 2022 »

2022.08.31

新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(3)集英文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸-「楽しい読書」第325号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-322号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年8月31日号(No.325)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(3)集英文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸」

 

------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2022(令和3)年8月31日号(No.325)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(3)集英社文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2022から――。

 当初は、年一回7月末に、
 三社の文庫フェアから一冊ずつ紹介していました。

 近年は、読書量の減少もあり、
 自分にとっての“新規の作家を発掘”しようという試みもあり、
 7月、8月の月末二回程度に分けて紹介してきました。
 
 で、今年は一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介しよう
 と思います。

 一号遅れましたが、三回目――最終回は、集英社文庫です。

 

新潮文庫の100冊 2022
https://100satsu.com/

角川文庫 カドブン夏フェア2022
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

集英社文庫 ナツイチ2022
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/

220711natu-no-bunko2022

 

~<夏の文庫>三社フェア2022・第一回~

2022(令和3)年7月15日号(No.322)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)
新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)」
2022.7.15
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)新潮文庫『老人と海』
-「楽しい読書」第322号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/07/post-0bc97e.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/a3c96264c4e3a66832a5f013d7dfd965

~<夏の文庫>三社フェア2022・第二回~

2022(令和3)年7月31日号(No.323)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(2)角川文庫『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』森鴎外」
2022.7.31
新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(2)
角川文庫『山椒大夫~』森鴎外-「楽しい読書」第323号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/07/post-b6a16c.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/68c6961aff920da9831353e34d8a34e3

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 ◆ 2022テーマ(3)<ピープル>シリーズへのオマージュ ◆
  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
  (3)集英社文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●恩田陸「あとがき」より

恩田陸さんの本を読むのは、これが3冊目。
一冊目は、左利きミステリの中編を含む連作長編
『三月は深き紅の淵を』 (講談社文庫)
二冊目は、『ライオンハート』 (新潮文庫) でした。
今回が三冊目。
<夏の文庫>フェアの<新顔作家>テーマといってもいいでしょう。

<集英社文庫 ナツイチ2022>からは、この恩田陸さんの
『光の帝国 常野物語』を取り上げます。

集英社文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸 2000/9/20

220729hikari-no-teikoku

220729hikari-no-teikoku-2

この作品は、以前から読んでみたいと思っていた作品で、
ようやく手に取ることになりました。

なぜこの作品に興味を持っていたか、といいますと、
恩田さん自身が「あとがき」にも書かれていますように、
ある作家の代表作へのオマージュ作品だったからです。

その作家と作品とは、
若い頃から私の好きな作家だったゼナ・ヘンダースンという、
アメリカの1950年代から60年代にかけて活躍した女性SF作家で、
その代表作が私の大好きな作品だった、
<ピープル>シリーズという一連の短編連作シリーズでした。

恩田さんの弁によれば、

《子供の頃に読んだお気に入りのSF》

で、

《宇宙旅行中に地球に漂着し、
 高度な知性と能力を隠してひっそり田舎に暮らす人々を、
 そこに赴任してきた女性教師の目から描くという短編連作で、
 穏やかな品のいいタッチが印象に残っている。》

という作品です。

恩田さんは、この<ピープル>シリーズへのオマージュとして
この『光の帝国 常野物語』を書かれたわけで、
この短編集は、<ピープル>シリーズ同様に、
一話毎に主人公を変えて書かれた一連の短編集です。

<常野物語>としては、以後第2弾の長編『蒲公英草紙 常野物語』
第3弾の長編『エンド・ゲーム 常野物語』が書かれています。

 

◎<常野物語>シリーズ第2弾
『蒲公英草紙 常野物語』恩田 陸 集英社文庫 2008/5/20

◎<常野物語>シリーズ第3弾
『エンド・ゲーム 常野物語』恩田 陸 集英社文庫 2009/5/20
―『光の帝国 常野物語』の「オセロ・ゲーム」の主人公、拝島暎子と
 娘の時子の活躍する長編

 

 ●『光の帝国 常野物語』

出版社の紹介文から――

《穏やかで知的で、権力への志向を持たずに生きる常野の一族。
 人を見通し、癒し、守る、
 その不思議な能力は何のために存在するのか。
 優しさと哀しみに満ちた壮大なファンタジー。(解説・久美沙織)

 膨大な書物を暗記するちから、遠くの出来事を知るちから、
 近い将来を見通すちから―「常野」から来たといわれる彼らには、
 みなそれぞれ不思議な能力があった。
 穏やかで知的で、権力への思向を持たず、
 ふつうの人々の中に埋もれてひっそりと暮らす人々。
 彼らは何のために存在し、どこへ帰っていこうとしているのか?
 不思議な優しさと淡い哀しみに満ちた、常野一族をめぐる連作短編集。
 優しさに満ちた壮大なファンタジーの序章。》

これでだいたいのイメージはつかめたでしょうか。

 

“宇宙船が壊れ、地球に不時着した異星人たちは、
(地球人から見れば)特殊能力を持ち、それ故に迫害されたり、
狩られたりし、地球人から隠れて生きのびている”
という設定は、<ピープル>シリーズと同じです。

彼らは、東北の山の中の一画<常野(とこの)>に隠れ住む。
このように<常野>は、地名であり、彼ら一族を示す名前でもあります。

その一族の一連のお話ということで<常野物語>と命名されています。

この本の収録作は、

「大きな引き出し」
(引っ越ししてきた常野族の一家の中学一年の姉・春田記実子と
 小学四年の弟・光紀のお話。光紀がその能力を覚醒させる。)

「二つの茶碗」
(三宅篤はその人の未来が見えるという娘と結婚することになるお話。)

「達磨山への道}
(人生の転機に登ると重要な場面が現れるという達磨山に
 倉田泰彦は友人の克也と登る。)

「オセロ・ゲーム」
(夫を奪われた拝島暎子は、“裏返”されそうになる危機を
 娘の時子に助けられる。助けられる。)

「手紙」
(常野について調べていた『達磨山への道』の泰彦の父親・篤彦に
 高校時代の友人たちが調査報告をする手紙の数々。
 長命族の「ツル先生」登場。)

「光の帝国」
(戦時中、『手紙』のツル先生の分教場に流れてきた先生と
 子供たちの悲劇。)

「歴史の時間」
(『大きな引き出し』の記実子と級友の矢田部亜希子の話。)

「草取り」
(ふつうの人には見えない街や人にはびこる「草」を取る男のお話。)

「黒い塔」
(「歴史の時間」の亜希子と十年ぶりに再会した記実子のお話)

「国道を降りて…」
(故郷に招待された常野一族の天才的チェリスト・川添律と
 フルート奏者・田村美咲のお話。
 美咲は「歴史の時間」のみさきの生まれ変わりか?)

 

全体に暗い話も多く、感動的なお話もあるものの、
今のところ、何かが起こる前の胸騒ぎを感じさせるような、
ちょっと中途半端な気持ちにさせる内容でしょうか。

これから何かが始まる、その前夜の静けさのような……。

 

 ●ゼナ・ヘンダースンの<ピープル>シリーズ

恩田さんがリスペクトした元ネタの
ゼナ・ヘンダースンの<ピープル>シリーズは、
二冊の本にまとまっています。

詳細は、もう一つのメルマガ
『左利きを考える 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第624号(No.624) 2022/8/13
「2022年8月合併号―8月13日 国際左利きの日
 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY―」
2022.8.13
2022年8月13日左利きの日INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY合併号
-週刊ヒッキイ第624号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2022/08/post-54feef.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/e993c67c3ad6bbfb1ae083afb30873aa

をご覧いただくとよいかと思います。

来月3日発行の次号でも引き続き、紹介しています。
そちらも参照いただけるとよりよくご理解いただけると思います。

 

第625号(No.625) 2022/9/3
「2022年8月13日国際左利きの日合併号(続)
左利きとアイデンティティ ~《ピープル》シリーズから考える」
2022.9.3
2022年8月13日国際左利きの日合併号(続)左利きとアイデンティティ
-週刊ヒッキイ第625号

 

*ゼナ・ヘンダースン<ピープル>シリーズ
1.『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1

2.『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン/著 宇佐川晶子, 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF 500 ピープル・シリーズ) 1977/12/1

220812people

 

それぞれの短編につなぎとなる文章を挿入して、
一つの長編のように仕立てられています。

 

 ●恩田さんの<常野物語>シリーズ

ゼナ・ヘンダースンの<ピープル>シリーズと
恩田さんの<常野物語>の根本的な違いは、
前者が疎外された人たちの立場から書かれた作品が多く、
これは、彼女が教師としての経験を活かしたものと思われます。
(戦時中、日系人の収容所で教えていたという。)

そういう異文化との接触がこういう作品傾向につながっている、
と考えてもよいでしょう。

 

それに対して、恩田さんの作品は、基本的な枠組みを借り、
<常野物語>の原型を作り、
その上にご自分のオリジナル・ストーリーを広げています。

どちらかというと、異星人の物語というより、
そこから出発してよりSFっぽい、
「新たな人類の誕生」といった方向に向かっているような印象です。

これはその後の<常野物語>の第2弾、第3弾となる『蒲公英草紙』や
『エンド・ゲーム』という長編を見ていますと、そう感じます。

 

『蒲公英草紙』は、
『光の帝国 常野物語』の第一話「大きな引き出し」につながる、
その昔の明治時代のお話で、春田家のご先祖の他人の人生を受け入れ、
記憶に残す役割の人々の物語。

人は亡くなっても、その人を知っていた人たちの記憶の中に生きている、
というお話です。

また、『エンド・ゲーム』は、『光の帝国』第四話「オセロ・ゲーム」の
拝島暎子と時子の母と娘を主人公にした物語で、
実は新たな人類の誕生しているのでは、と思わせる物語です。

 

 ●『光の帝国 常野物語』

改めて、『光の帝国 常野物語』を見てゆきますと、
<ピープル>シリーズの設定を借用しながら、
その作品世界の方向とは、異なる恩田SFの世界を、
恩田さんのオリジナルストーリーを展開しています。

作品としてのテイストは、全く異なるものの、
<ピープル>シリーズの持つ
ヒューマンな暖かい味わいも一部残っていますが、
やはり、オリジナルな傾向が出ている作品集というイメージです。

正直、<ピープル>シリーズの愛好家としては、
<ピープル>シリーズへのリスペクト作品と考えたとき、
オリジナル作品の味わいと比較して、もう一つ残念な作品集でした。

私の評価としましては、「特に読む必要はない」
といってしまうと何ですが、まあ、そういう印象です。

これはこれでいいのですけれど、ね。
比較してしまうと……、そういう評価になるのです。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ★創刊300号への道のり は、お休みします。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から (3)集英文庫『光の帝国 常野物語』恩田陸」と題して、全文紹介です。

著者の恩田さんが「あとがき」で、元ネタとしてゼナ・ヘンダースンの<ピープル>シリーズというアメリカのSF作品の連作短編について書かれています。
実は、このシリーズが高校生ぐらいの時に読んで、以来、私の愛好する作品でした。
それだけに、この恩田さんの<常野物語>についても期待がありました。

反面、その期待があるだけに、味わいが「別物じゃん!」という感じで、こういう感想になってしまいました。

しかし、これはこれで、恩田さん自身のオリジナル・ストーリーであり、「楽しめるシリーズだ」と改めて書いておきます。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

 

 

| | Comments (0)

2022.08.15

2022(令和4)年版夏休み特別編・読書感想文を書く-「楽しい読書」第324号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-322号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年8月15日号(No.323)
「夏休み特別編・読書感想文を書く
―2008(平成20)年8月15日号(No.8)―加筆再録」


------------------------------------------------------------------
◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
------------------------------------------------------------------
2022(令和3)年8月15日号(No.323)
「夏休み特別編・読書感想文を書く
―2008(平成20)年8月15日号(No.8)―加筆再録」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今年も本来ですと、毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2022―
 第三回集英社文庫編をお送りするところですが、
 予定を変更して、昔配信しました第8号の、
 夏休み特別編の読書感想文の書き方に関する文章を再録します。

 夏休みと言えば、読書感想文の宿題が定番です。
 簡単なようで難しいのがこの宿題。

 私も小中高と苦労しました。
 その後左利きの活動を通して文章の書き方も少しは学びました。
 ブログやメルマガを書くことで実践も続けてきました。
 今では“それなりの書き方”は理解しているつもりです。

 再掲載に当たり、いくらか手を入れました。
 例文なども考えて、工夫してみました。

 元の文章は14年前のものですので、
 どこまでお役に立つか分かりませんが……。

------------------------------------------------------------------

 「2008(平成20)年8月15日号(No.8)-080815-
  夏休み特別編2・読書感想文を書く」 より加筆再録

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 夏休み特別編・読書感想文を書く
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 夏休み特別編集でお送りしています。
 今回は感想文の書き方について書いてみます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 夏休み特別編・読書感想文を書く 2022(令和4)年版
 『レフティやすおの楽しい読書』流
  「読書報告書」的読書感想文の書き方
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

かつてこの「楽しい読書」の別冊編集後記を掲載していた
『作文工房』では、
過去に読書感想文の書き方といった記事を書いています。

・2005年02月16日(水) 読書感想文を書く(テーマ:作文と読書)
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-10000797778.html
・2005年08月24日(水)
読書感想文の書き方―レフティやすおのアドバイス
(テーマ:作文と読書)
http://ameblo.jp/lefty-yasuo/entry-10003729088.html

毎年かなりのアクセスを記録していました。

そこで、今回は、この夏休みのど真ん中の時期に、
私なりの読書感想文の書き方といったものを紹介してみましょう。


 ●「読書報告書」的な読書感想文の書き方

夏休みといえば、読書感想文―。

そんな決まりがあるかのように、読書感想文の宿題が出ます。
で、この感想文を書くと言うのが、結構苦痛だったものです。

普段から日常の授業のなかで
きちんとした読書指導と作文指導を受けている子供たちならば、
読書感想文の宿題など全く気にならないはずです。

それどころか大喜びしてもおかしくないでしょう。
なぜなら得意なことだからです。

そうではなく、読書感想文が苦手だ、苦になるというのは、
そういう適切な指導を受けていないからです。

ところがそういう学校や先生ほど、
この長期休暇中に読書感想文の宿題を出すようです。

せめてこんなときぐらい本を読まそう
という考えなのでしょうが、
それではかえって本嫌いを作りかねないように思うのですが…。

で、ここでは
本格的な正道の読書感想文の書き方というより、
邪道かもしれませんが、いってみれば、
本を読んだという事実を証明するための
「読書報告書」的なものの書き方を考えて見ましょう。


 ●基本的な設計図

本を読んで読書感想文を書きなさい、
自由に自分の好きなように書いていいのですよ、

といわれても、

普段から書きなれていない人、
初心者にはなかなか書けないものです。

でも、読書感想文には、実は一定の形式があるものなのです。
それを知っていれば、特に書くことに困ることはありません。

パターンはいくつかあると思います。
幸い昨今では「感想文のお手本」のような本も売っています。
パラパラッとそういう本を見てみるのもいいでしょう。


さて、実践―。

ではどうすればいいか、
まず一定の設計図を描いてみればよい、といいます。


【基本的な設計図】とは、

第一段階:導入部
・その本を選んだ理由―なぜこの本を読もうと思ったか、を書く。
・あらすじを書く―どんなお話か、何が書いてあるのか、
 大体のところを紹介する。

第二段階:内容
・具体的な例を挙げる―引用と感想。自分がどういう点に、
 何をどういうふうに感動したか、感心したか、興味を持ったか、
 面白いと思ったか、などを示す。

第三段階:まとめ
・著者の狙いは何か―著者は何を言いたかったのか、
 何を伝えようとしているのか。
・自分はどう感じたか、どう考えたか―本を読む前と比べて、
 読み終えて何がどう変ったか。

これで形はわかりました。


 ●報告者(あなた)の反応を記す

次に内容です。

簡潔な報告書を書くときの方法の一つに、
問いを設定し、それに答える、という方法があります。

適切な問いを発見できれば、それに答えるだけで、
必要なこと・重要なことが何であるかを導き出せるものです。


対象に対する具体的な質問を問い掛けてみる。

報告を受ける人が求めていること・知りたいと思うことは何か、
を考えながら、
その答えを導き出せるような問いを用意して、
それに答える形で、何を書けばよいかを見極めてゆくのです。


本の場合、何を読んだか、どんなお話だったか、これは基本です。
しかし、あらすじをだらだら書くのは無駄です。

報告を受ける人(先生)が本当に知りたい―伝えて欲しいのは、
報告者(あなた)の反応です。

この本を「なぜ選んだのか」であり、
この本の「どの点にどう反応したか」―「どう解釈したか」です。


 ●読むときにメモを取る

そこで、読むときはメモを取る準備をしておきます。
感想文を書くための「材料集め」です。

自分の本なら、鉛筆で線を引くなりしてもかまいません。
借りた本なら、短冊(付箋)をたくさん用意しておきます。

気になるところにはすべてマークします。

初心者は、線を引いて読むと、本が真っ黒になります。
付箋をつけて読むと、本が付箋だらけになります。

なぜなら、初めはどこが重要かの判断がつかないからです。

でも、それらのなかから、さらに絞ってゆけばいいのです。

そして、最終的には、あるポイントに絞って書くのです。
せいぜい二三点に絞って書くのです。

自分で「どうしてもこのことを伝えたい」、
と思うことだけに絞るのです。


長さに規定がある場合はそれにあわせなければなりません。

それでも、大体はそれで十分です。

では、始めてみましょう!


 ●例――森鴎外「最後の一句」

ここでは、弊誌

2022(令和3)年7月31日号(No.323)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から
(2)角川文庫『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』森鴎外」

で読みました『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』から
「最後の一句」を例に書いてみます。

角川文庫『山椒大夫・高瀬舟・阿部一族』森鴎外

220729sanshoudayuu-kadokawa

 ・・・

本編では、孝行娘が自分の命をなげうって
父を助けようとする行動が描かれています。

しかしその「献身」的行動ではなく、お白洲での取調で、
彼女が最後につけ加えた「最後の一句」――

 《「お上(かみ)の事には間違(まちがい)はございますまいから」》p.76

が、奉行所の役人たちに与えた影響が問題となっています。

 《白洲を下がる子供等を見送って、佐佐は太田と稲垣とに向いて、
  「生先(おいさき)の恐ろしいものでござりますな」と云った。
  心の中には、哀な孝行娘の影も残らず、
  人に教唆(きょうさ)せられた、おろかな子供の影も残らず、
  只(ただ)氷のように冷かに、刃のように鋭い、
  いちの最後の詞(ことば)の最後の一句が反響しているのである。》p.76

役人として、世の秩序を守ることを心掛けているはずの人々であっても、
現実の世では、実際には色々とお定め通りに事を行うことは難しいもの。

それを十分知っているからこその、
この一句に対しての反応だったでしょう。


 《献身の中に潜む反抗の鋒(ほこさき)は、
  いちと語(ことば)を交えた佐佐のみではなく、
  書院にいた役人一同の胸をも刺した。》p.76

というのも無理はないのです。


鴎外がこの小説に
「最後の一句」という作品名を与えた理由もそこにあるのでしょう。

娘いちの思い定めたような厳しい決意が感じられる一句で、
それを痛切に思い知らされた役人たちの物語でもあります。

私もこういう場で、確固たる一句を発言できるような
心の強さと自分への厳しさを持ちたいものですね。

 ・・・

――以上、感想文の例文として成り立っているかどうか、
  怪しいところもありますが、
  何かしらヒントにはなったのではないか、という気がします。

 ・・・

昨今では、
ネットで「読書感想文 書き方」といったキーワードで検索しますと、
いくつものレベルに合わせた参考書が見つかります。
それらを参考にするのもいいでしょう。


*(例)

・『ちびまる子ちゃんの読書感想文教室』貝田 桃子、さくら ももこ (著)
(ちびまる子ちゃん/満点ゲットシリーズ) 集英社 2017/7/14

・『ドラえもんの国語おもしろ攻略 読書感想文が書ける』藤子 F不二雄
(著), 宮川 俊彦 (監修)
(ドラえもんの学習シリーズ) 小学館 2013/7/11

・『小学1・2年生 スラスラ書ける読書感想文』永岡書店 2021/6/18
上條 晴夫 (監修)

・『脚本家が教える読書感想文教室』主婦の友社 2020/7/2
篠原明夫 (著)

 などなど……

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ★創刊300号への道のり は、お休みします。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「夏休み特別編・読書感想文を書く―2008(平成20)年8月15日号(No.8)―加筆再録」と題して、全文紹介です。

以前からこの時期には、季節柄一度は書いておきたいと思っていたのが、「読書感想文の書き方」でした。

昔、書いたものがあり、結構アクセス数があったという記憶があり、またこちらのブログでも書いておきたいという気持ちがありました。

今回、もう一つの方のメルマガの8月13日の「国際左利きの日」の特別編のメルマガ原稿書きに追われてしまったこともあり、この際、昔の文章に一部手を入れてごまかしてやれという気になりました。

加筆もしているので、全くの再録ではなゐので、と言い訳しておきます。

本誌がおもしろいと思われた方は、ぜひこの機会に購読登録をよろしくお願いいたします。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

| | Comments (0)

2022.08.13

2022年8月13日左利きの日INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY合併号-週刊ヒッキイ第624号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』別冊編集後記

第624号(No.624) 2022/8/13
「2022年8月合併号―「8月13日は国際左利きの日」―」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第624号(No.624) 2022/8/13
「2022年8月合併号―「8月13日は国際左利きの日」―」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今月、8月13日(土)は、世界的な左利きの日
 「国際左利きの日」INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY です。

 毎年、この前後に、この「左利きの日」を記念した
 新たなブログ記事を書いてきました。

 今年も何か書く予定でいましたが、
 そうしますと、三週続けて左利きについて書くことになります。
 正直今の私には、その余力がありません。
 そこで、メルマガを一ヶ月通じての合併号とすることで、
 一つの記事で済ませることにしました。

 勝手ながらご容赦ください。

┏ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┓
2022年8月合併号
―「8月13日は国際左利きの日(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)」― 
   左利きとアイデンティティ
┗ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┛      

 ●1976年から47回目の2022年8月13日「国際左利きの日」

今年も8月13日「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」
が近づいています。

毎年毎年書いていることですが、
日本語で「左利きの日(8月13日)」とネット検索しますと、
難儀なほど、多数の
《1992年8月13日、イギリスにある「Left-Handers Club」により制定》
という記事が出てきます。

日本語版 Wikipedia「左利きの日」の受け売りが大半なのでしょう
けれど、困ったことです。
最も昔からやっているのですよ、といいたいのです。

なにしろ同じ「Wikipedia」でも英語版で
「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」で検索しますと、

英語版Wikipedia「International Lefthanders Day」
https://en.wikipedia.org/wiki/International_Lefthanders_Day

冒頭に、
《International Left Handers Day is an international day
observed annually on August 13 to celebrate the uniqueness
and differences of left-handed individuals.
The day was first observed in 1976 by Dean R. Campbell,
founder of Lefthanders International, Inc.》
と出てきます。

210813international-lefthanders-daywikip

(画像:英語版ウィキペディアの「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」の項目冒頭――下線部分の筆者訳:「国際左利きの日」は「レフトハンダー・インターナショナル」の創設者ディーン・R・キャンベルによって1976年に最初の祝祭が行われた)

それ以外にも、いくつものサイトで
この「1976年キャンベル起源説」が出てきます。

私自身、昔購読していたのが、
このキャンベルさんがチェアマンをしていた
「LEFTHANDERS INTERNATIONAL」という組織が発行する
「LEFTHANDER MAGAZIN」という左利きの人のための雑誌でした。

これは、1991(平成3)年3月発行の
『モノ・マガジン』1991年4月2日号 No.188
「特集/左を制するものは時代を制す/左利きの商品学」
(ワールド・フォトプレス)に掲載されていたもので、
1993(平成5)年に、英語を勉強して連絡を取り、
定期購読していたものでした(1993年11・12月号~1996年3・4月号)。

そこには、アメリカでのイベントのリポートなども掲載されていました。

ちなみに、雑誌で知ったイギリスの左利き用品専門店
「Anything Left-Handed」の顧客が参加できる、
前述の「Left-handers Club」の会員になり、
機関誌「The Left-hander」も定期購読していました
(1994(平成6)年No.16~1997年10月No.27)。

 

もちろん現在、世界的に唯一かもしれない、活動中の
「lefthandersday」サイト「https://www.lefthandersday.com/」では、
自身が始めた1992年を起源としています。

今年のサイトには、
《Welcome to the official site for the 30th annual Left Handers Day! August 13th is a chance to tell your family and friends how proud you are of being left-handed, and also raise awareness of the everyday issues that lefties face as we live in a world designed for right-handers.》
「30th」と書かれています。

これはあくまでも、先週の<号外>でも書きましたように、
そちら側の「主張」です。

本当の歴史的事実は、違います。

 

 ●記念日制定の趣旨は同じ――左利き生活向上のため

キャンベルさんもご自身左利きで、
アメリカのカンザス州トピカで左利き用品店を始め、
開店一周年のこの8月13日に、左利きの人のための会(前述の)
「LEFTHANDERS INTERNATIONAL」を開設、
左利きの人の生活向上のために左利き用品の普及を目指して、
この記念日を制定したわけです。

ですから、制定の趣旨は同じです。

 

この「国際左利きの日(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)」は、
本来外国の記念日ですから、日本語で調べるだけではなく、
英語で「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」と調べれば、
より正確であろう情報に出会える、と考える方が自然でしょう。

と、私なら思うのですが、
大半の人は、日本語で調べただけで納得してしまうのでしょうか。

結果として、多くの人が間違った情報を広めています。
裏付けにこだわらない、という態度は、不思議です。

 

 ●私の左利きの活動のきっかけも……

上にも書きましたように、「左利きの日」制定の趣旨は、
左利きの人の生活向上を願って、左利き用品を普及させることでした。

そういう目的を持っています。
この日を機会に、左利きの人について、その生活について考えてもらう。

左利きの人の生活上の不便や困り事を解決する手段の一つとして、
道具を工夫すること、左利きの人に使いやすい道具を用意すること、
があげられます。

もちろん、そういう物理的な問題解決だけではなく、
といいますか、それ以前の問題として、
左利きについて知ってもらい、左利きに忌避感をもたないように、
という精神的な問題解決の面もあります。

また道具の開発や普及のためには、
多数派である右利きの人たちの協力や理解が必要です。
左利きの人だけで解決できる問題ではありません。

そういう意味からも、左利きの人のみならず、
右利きの人の側の意識改革が必要になります。

その機会としての「左利きの日」でもあるのです。

とはいえ、
まずは具体的な生活上の利便性の向上を図らねばなりません。

私が左利きの活動を始めたのも、左利きとして生きてきたなかで、
苦労したこと、不都合に感じたことなどの多くは、
道具を得ることで解決できるという意識があり、
上にも紹介しました1991年3月発行の
『モノ・マガジン』1991年4月2日号・左利き特集号 でみた
左利き用品の数々を集め、実際に使ってみて、
いいものはまわりの左利きの人に紹介しよう、と考えたからでした。

左手・左利き用品――道具から始まったのですね。

そういう意味では、「国際左利きの日」や
「左利きグッズの日」の制定の趣旨と同じ方向性ですね。

 

 ●左利きというコンプレックス

ただ、それ以前に、
精神性の問題も重要であることに変わりはありません。

私は「左利きである」ということにコンプレックスを持っていました。
「いました」と過去形で書きましたが、
本当は今でも根強く残っています。

それがそもそもの左利き活動の推進力であり、源泉でもあったわけです。

では、
そもそも左利きであることに関するコンプレックスとは何だったのか、
そして、
それはどういう形で現在の活動につながっているのでしょうか。

これを語り始めると長くなります。

今簡単に言えることは、
二十代に読んだ、箱崎総一先生の著書、
『左利きの秘密』(立風書房・マンボウブックス 1979)

Hidarikiki-no-himitu_20200812154601

によって、
「間違っているのは自分ではなく社会の方だ」
と認識できたこと。

「変えるべきなのは、自分自身ではなく社会の方だ」ということ。

「右利き(偏重/優先)社会に順応できない左利きの自分自身ではなく、
 そういう左利きの人を容認できない――
 受け入れられない社会の方に問題があるのだ」
ということですね。

この社会の在り方を変えていかなければならない、
という思いが、左利き活動に進ませたのです。

 

 ●ゼナ・ヘンダースン《同胞(ピープル)》シリーズ

ここで、すこし話題を変えましょう。

左利きとアイデンティティについて考えて見ます。

ゼナ・ヘンダースンというアメリカのSF作家さんがいました。
1950年代から60年代にかけて主に活躍した人といっていいかと思います。
実際には、70年代に入っても活躍していたようですが、
日本で知られる代表作は大半が1950~60年代の短編です。

いちばんの人気作であり代表作といえるのは、
<ピープル>シリーズと呼ばれる一連の短編シリーズで、
『果てしなき旅路』(短編をまとめて長編に仕立ててある)と
『血は異ならず』(短編集)の2冊が出ています。

220812people

*ゼナ・ヘンダースン<ピープル>シリーズ
1.『果てしなき旅路』ゼナ・ヘンダースン/著 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF ピープル・シリーズ 1978/7/1

2.『血は異ならず』ゼナ・ヘンダースン/著 宇佐川晶子, 深町眞理子/訳
ハヤカワ文庫 SF 500 ピープル・シリーズ) 1977/12/1

私がこの作品が好きなのは、ここに登場する人たちが、
みな、社会から疎外された「一人ぼっち」の孤独な存在で、
その理解者との出会いとそれによる、
精神的な「孤独からの解放」を描いたような作品だったから、でしょう。

自分でそういう理由を自覚できたのは、
図書館で見つけた赤木かん子さんの本を読んだからでした。

『こころの傷を読み解くための800冊の本 総解説』
赤木 かん子/著 自由國民社 2001/5/1

220812kokoro-no-kizu-800

この本の紹介文はこうなっています。

 《アダルト・チルドレン(AC)という言葉は
  90年代初めにブームになりましたが、
  今ひとつ、理解しづらいものでした。
  そのアダルト・チルドレンの理解に役に立つように、
  そしてその理解によって、
  本人もまわりの人も少し楽になれることを願って、
  小説やマンガや児童書やミステリや専門書など、
  幅広い分野から本を集めて紹介します。
  生きにくいと感じて、アルコール依存、虐待、共依存…など、
  さまざまな問題を抱えている、そんな人たちの、
  こころの傷を読み解くために―。》

 《「アダルト・チルドレン(AC)――
  子ども時代に必要な愛情と安らぎを得られずに育ち、
  傷ついた心を抱え、癒されぬまま大人になっている人たち」
  をテーマにしたブックガイド。》

220812kokoro-no-kizu-8002

この本の中の「第2章 アイデンティティ」<差別>で、
『果てしなき旅路』が取り上げられていました。

お話そのものは、《故郷》の星が破滅の危機に陥り、
宇宙船で脱出した異星人《同胞(ピープル)》たちが
新たな生活の場を求めて移動中、地球に突入する際に、宇宙船が壊れ、
散り散りになった彼らは、世界中(大半がアメリカの山中)に
ばらばらに住み着きます。

自分たちの優れた能力(人類から見れば超能力)を封印して、
地球人らしく振る舞うことで、地球人の社会に順応しようとするのです。

超能力の持ち主であることが分かれば――異星人という、
地球人とは違った存在だと分かれば――社会から排除されたり、
抹殺されたり、迫害されるという歴史があったからです。

しかし、真の自分を偽り、身を隠すような生き方は、
心が苦しむものです。

「人とは違う」という事実は、
特に大人の事情が理解できない子供には多大な影響を与えます。
結果的に様々な問題を引き起こすことになるのです。

この本に関する説明文を読んだ時、
初めて自分がどういう理由でこの本を好んでいたのか、
ということが理解できました。

 

 《数家族で放り出され、谷間に住みついた一族は
  自分のアイデンティティには悩まなくてすみました……
  でも子どものときに、一人ぼっちになり、
  つまり自分が何者なのか教えてもらえなかったために悩み、怯え、
  うっかり力をつかっては気味悪がられ、
  そのために州中の学校で拒否されて、
  自分は“違うのだ”ということで絶望してその谷へやってきて
  同朋とめぐりあった女教師のような人々の物語……、
  ピープルがピープルと出会い、自分は一人ではないということ、
  本当の自分をさらけだして生きてもいいのだということを知った時
  どんなに嬉しかったか、という話が、ある晩、ある山のふもとで
  交替で語られるのです。
  それは個人の歴史であると同時に一族の歴史であり、
  集まってきた人々すべてを共感で満たし、
  今までの傷を癒やす作業でもあるのでした――。》p.69

要するに、社会から受け入れられず、迫害を受けている人々が、
同じ立場の人や思いやりのある理解者という味方を得て、
精神的に立ち直り、新たな人生に取り組んでいく、という物語です。

こういう背景は、ある意味で左利きであること――
右利きの「普通の人」とは違うということで、
色々な嫌な思いを経験してきた私自身と重なるものがあったのです。

 

続けてこう書いています。

 《これって……そのまんま、ACの物語でしょう?/
  私はこれが、大好きでした。このテの話が……。
  自分はまわりと違う、という孤独感と孤立感に悩まされ、
  不安で不幸な人々が自分と同じ人々と出会い、救われ、解放され、
  幸福になる……そういう話が――。そうしてそのテの物語を、
  “ピープル・タイプ”と呼んでいました。それは今考えればみな、
  アダルト・チルドレンの物語だったのです。/
  当時のSF作家たちは超能力者だけではない
  いろいろなSF的手法を使って、
  ACの癒やしの物語を紡いでいたのでした。なぜか……?!
  彼ら自身がそうだったから……、そしてそうやって
  自分自身を癒やそうとしたのではないかと私は思います。》p.69

 

220812kokoro-no-kizu-8003-hatesinakitabi

《自分はまわりと違う、という孤独感と孤立感に悩まされ、
 不安で不幸な人々》

まさに、当時の私は、そういう「不幸な左利きの一人」だったのです。

そんな
《人々が自分と同じ人々と出会い、救われ、解放され、幸福になる》
としたら、どうでしょうか。

こんな素晴らしいお話は他にはありませんよね。

 ・・・

ここまで書いたところで、もうかなりの行数になりました。
本来は、
「左利きとアイデンティティ」について書くつもりだったのですが、
前半に少し行数をとられてしまったようです。

 

「国際左利きの日」について語ることも大事なのですが、
「なぜ制定されたのか?」という根本的な部分が
「左利きの人の生活向上には適切な道具は大事だよ」
だけで終わっています。

それ以前に、
「どうして左利きの人は必要な道具が手に入れにくいのか」
という部分が説明されていない、ように思います。

必要なのに、適切な道具が手に入れにくいのか、
それは、
「左利きの人の必要とする道具がどういうものかよく知られていない」
という理由が、一つあります。

それは、
「左利きの人の必要なものが右利きの人の必要なものとは違うのだ」
という事実が知られていないからでしょう。

それは、結局、右利きの人と左利きの人との「違い」の認識の問題です。

それが左利きとアイデンティティに関わることだと思うのです。
その辺をお話ししたかったのですけれど。

もう一度、来月の第一土曜日発行分で、
今回の続きを書きたいと思います。

ゼナ・ヘンダースンさんの<ピープル>シリーズと
赤木かん子さんの本の記述をもう少し紹介して、
作品を通して具体的な「疎外者」の意識を、
私のような左利きの人が感じていたであろうそれと比較して、
考えていただけるようにしようと思っています。

 ・・・

 要は、ゼナ・ヘンダースンさんの<ピープル>シリーズについて
 語りたいだけなのかもしれません……。

 

*参照:「レフティやすおのお茶でっせ」
 過去の「8月13日は<国際左利きの日>」の関連記事

カテゴリ:8月13日国際左利きの日

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 「★600号までの道のり」は、お休みです。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「2022年8月合併号―8月13日 国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY―」と題して、今回も全紹介です。

ゼナ・ヘンダースンについて少し書いておきます。

私の好きなSF作家の一人で、短編派の作家では、ロバート・F・ヤングと並ん部存在というところです。
以前、ハヤカワ文庫50周年の時に、もう一つのメルマガ『レフティやすおの楽しい読書』で「ハヤカワ文庫の50冊」という企画をやった際にあげた「【私のお気に入り7】」に、
ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』に次いで、
2.ゼナ・ヘンダースン『果しなき旅路』 3.ロバート・F・ヤング『ジョナサンと宇宙クジラ』 にあげています。
他には、
4.ロバート・ネイサン『ジェニーの肖像』 5.シャーリイ・ジャクスン『野蛮人との生活―スラップスティック式育児法』 6.クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』 7.ルイス・ギルバート『フレンズ―ポールとミシェル』 です。

というように、非常に愛好する作家の一人で、世界的な大作家さんでもなければ、世界の名作文学というわけではないかもしれません。
しかし、単にお話がおもしろいとか、表現や文章がうまいとか、センス・オブ・ワンダーに優れているとか、なんやかんやといった小説のもつ面白さだけではなく、プラスアルファの部分が非常に心に響く作品を書く作家さんという印象です。

ぜひ、機会を作って読んでいただきたい作家さんの一人です。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』〈左利きメルマガ〉カテゴリ

--

| | Comments (0)

2022.08.06

左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii(号外)8月13日合併号のお知らせ

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』

(号外)8月13日合併号のお知らせ

「別冊編集後記」ではないのですが、次号への誘導といいますか、客引きの呼び込みのようなものです。

メルマガの号外を転載しておきます。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(号外)8月13日合併号のお知らせ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

弊紙は、<週刊hikkii>という名のとおり、
本来は毎週土曜日発行の週刊誌でした。

今年は、8月13日「国際左利きの日 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」
が、土曜日に当たるということでもあり、
ちょっと疲れてきていることもあり、
今月は手抜きで、本日第一土曜と第三土曜の月二回発行を、
13日の月一発行で勘弁していただこうと思います。

8月13日に「2022年8月合併号―8月13日 国際左利きの日
 INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY―」をお送りします。

ちなみに、1976年の第1回から47回目の記念日になります!

毎年この日に関しては、ブログ等で書いていますように、

日本語版 Wikipedia「左利きの日」等で紹介されている、

《1992年8月13日、イギリスにある「Left-Handers Club」により制定》
という、1992年イギリス・レフトハンダーズクラブ説は、
この会の「主張」であって、真実ではありません。

(私の英語読解力に誤りなければ)正しくは、
アメリカのカンザス州の州都トピカの左利き用品店のオーナー、
ご自身左利きのキャンベルさん(Dean R. Campbell)が、
開店一周年を機に左利きの人の会(Lefthanders International)を始め、
左利きの人の生活向上のために左利き用品の普及を目指し、
開店記念日の8月13日を
「国際左利きの日」(INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY)という
記念日に制定したのです。

イギリスの「Left-Handers Club」は、
イギリスの左利き用品専門店「Anything Left-Handed」の顧客を
もとにした左利きの人の会です。
「Anything Left-Handed」は、2018年に開店50周年を迎えたという、
1968年創業の老舗ですが、
当初は右利きの人が始めた隙間狙いの業態でした。
その後、左利きの人がオーナーとなり現在に至るのでした。
ロンドンという大都会での営業ということで、
宣伝に知恵を絞らなくても、結構経営的には、そこそこだったのでしょうね。

一方、州都とはいえ、アメリカの田舎での営業ということで、
1975年に開業した後発のお店であるキャンベルさんちは、
色々な工夫と宣伝が必要だったのかもしれません。
そこで、こういうイベントを考案されたのでしょうか。

イギリスの方は、キャンベルさんちが一足先に始めた
この記念日にのっかったという形でしょうか。
(ほんとうのところは存知ませんが。)

また来週の合併号で、これらのことは書いてみる予定ですが、
とにかく、
日本での「1992年イギリス制定」説は、なんとかしたいものです。
読者の皆様もご協力いただけると幸いです。

別にイギリスの人がマネしたとかパクったとか非難するつもりはなく、
単純に「もっと長い歴史があるのですよ」と強調したいのです。

 

 

210813international-lefthanders-daywikip

(画像:英語版ウィキペディアの「INTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY」の項目冒頭――下線部分の筆者訳:「国際左利きの日」は「レフトハンダー・インターナショナル」の創設者ディーン・R・キャンベルによって1976年に最初の祝祭が行われた) 

 

*参照:「Anything Left-Handed」の歴史

左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
第525号(No.525) 2018/9/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その23―
左利き者の証言から~ (特別編)ALH50年史概略(前編)」

●2018.8.29
8月16日イギリスの左利き専門店“Anything Left-Handed”50周年
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2018/08/816anything-lef.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/78163f651ba5307f93c67fb4d0a40994

 

*参照:「レフティやすおのお茶でっせ」
 過去の「8月13日は<国際左利きの日>」の関連記事

カテゴリ:8月13日国際左利きの日

[29]・2021.8.12
8月13日「国際左利きの日」を前に、左利きメルマガ「週刊ヒッキイ」創刊600号達成
goo「新生活」版

[28]・2021.8.7
「左利き差別」問題と「みにくいアヒルの子」-週刊ヒッキイ創刊600号記念号
goo「新生活」版

[27]・2020.8.12
2020年8月13日は1976年の制定から45回目の国際左利きの日

[26]・2019.8.13
8月13日は国際左利きの日-1976年の制定より今年は44度目

[25]・2018.8.13
8月13日国際左利きの日ILHDとAKB48Team8左利き選抜のことなど

[24]・2017.8.13
8月13日はハッピーレフトハンダーズデー!

[23]・2016.9.1
8月13日は〈国際左利きの日〉特別編-左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii第474,475,476号

[22]・2016.8.14
昨日(8月13日)アメブロで「今日は左利きの日」をやってました

[21]・2016.8.10
今年もやります!8月13日レフチャス(LEFTEOUS)の日―国際左利きの日

[20]・2015.8.12
明日8月13日は1976年制定から40回目の国際左利きの日

[19]・2014.8.12
8月13日は39回目の国際的な<左利きの日>&LEFTEOUS2014年

[18]・2013.8.13
8月13日<国際左利きの日>企画「ヒダリキックマガジン」で始まる!

[17]・2013.9.2
『グリグリくりぃむ』左利き選手権:<国際左利きの日>情報5

[16]・2013.8.28
ブログネタ「両利きになる練習したことある?」:<国際左利きの日>情報4

[15]・2013.8.19
雑学フェアにて~渡瀬けん著『左利きの人々』:<国際左利きの日>情報3

[14]・2013.8.18
レフチャス(LEFTEOUS)day2013:<国際左利きの日>情報2

[13]・2013.8.13
8月13日<国際左利きの日>企画「ヒダリキックマガジン」で始まる!

[12]・2012.8.12
8月13日は37度目の“左利きの日”

[11]・2011.8.13
国際“左利きの日”を迎えて&週刊ヒッキイ273号特別編「個人モデル」から「社会モデル」へ

[10]・2010.8.21
今週の-週刊ヒッキイhikkii225名作の中の左利き(番外編)はさみ

[9]・2010.8.14
今週の-週刊ヒッキイhikkii224《矯正/直す》表現に思う(5)前編

[8]・2010.8.13
13日の金曜日はナント…左利きの日

[7]・2009.8.22
今週の週刊ヒッキイ―第193号「<左利きプチ・アンケート>再版第33回」

[6]・2008.8.13
33回目の8月13日国際左利きの日

[5]・2007.8.14
少数派の気持ち伝える「左利きの日」企画開催される

[4]・2006.8.13
きょう8月13日は≪国際≫左利きの日です

[3]・2005.8.13
今年も今日8月13日はINTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY

[2]・2004.8.13
きょう8月13日はINTERNATIONAL LEFTHANDERS DAY 「左利きの日」

[1]・2004.8.12
明日8月13日は「左利きの日」 

 ・・・

ということで、合併号のお知らせでした。

ホント、お知らせだけとつもりでしたが、
ついつい何やかやと書いてしまいました。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

ではまた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』〈左利きメルマガ〉カテゴリ

 

 

| | Comments (0)

« July 2022 | Main | September 2022 »