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2022.07.15

新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)新潮文庫『老人と海』-「楽しい読書」第322号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書-322号【別冊 編集後記】

2022(令和3)年7月15日号(No.322)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)
新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2022(令和3)年7月15日号(No.322)
「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)
新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)」
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 今年も毎夏恒例の新潮・角川・集英社の
 <夏の文庫>フェア2022から――。

 当初は、年一回7月末に、
 三社の文庫フェアから一冊ずつ紹介していました。

 近年は、読書量の減少もあり、
 自分にとっての“新規の作家を発掘”しようという試みもあり、
 7月、8月の月末二回程度に分けて紹介してきました。
 
 で、今年は一号ごと三回続けて、一社に一冊を選んで紹介しよう
 と思います。

新潮文庫の100冊 2022
https://100satsu.com/

角川文庫 カドブン夏フェア2022
https://kadobun.jp/special/natsu-fair/

集英社文庫 ナツイチ2022
http://bunko.shueisha.co.jp/natsuichi/

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 ◆ 2022年テーマ(1)「老人の戦い」 ◆
  新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1)
  新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)
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 ●「新潮文庫の100冊 2022」から古典的な「名作」

新潮文庫は、三社のなかでは文庫の老舗でもあり、
海外文学から日本文学まで、
古典的な名作から現代の人気作家の作品まで、
また、小説やエッセイなどの文芸作品からノンフィクションまで、と
かなり幅広いジャンルから作品が選ばれています。

なかでも内外の古典的な名作――
特に、三社のなかでは際だって多くの海外作品を広く集めている、
という点が特徴でしょう。

 

まずは、「新潮文庫の100冊 2022」から
主な「古典的な名作」っぽい作品をピックアップしてみましょう。

(海外)
赤毛のアン―赤毛のアン・シリーズ1―
ルーシー・モード・モンゴメリ/著 村岡 花子/訳

あしながおじさん ジーン・ウェブスター/著 岩本 正恵/訳

異邦人 カミュ/著 窪田 啓作/訳

悲しみよ こんにちは フランソワーズ・サガン/著 河野 万里子/訳

グレート・ギャツビー フィツジェラルド/著 野崎 孝/訳

ジキルとハイド ロバート・L・スティーヴンソン/著 田口 俊樹/訳

シャーロック・ホームズの冒険 コナン・ドイル/著 延原 謙/訳

車輪の下 ヘッセ/著 高橋 健二/訳

十五少年漂流記 ジュール・ヴェルヌ/著 波多野 完治/訳

月と六ペンス サマセット・モーム/著 金原 瑞人/訳

罪と罰〔上〕 ドストエフスキー/著 工藤 精一郎/訳
罪と罰〔下〕 ドストエフスキー/著 工藤 精一郎/訳

変身 フランツ・カフカ/著 高橋 義孝/訳

星の王子さま サン=テグジュペリ/著 河野 万里子/訳

老人と海 ヘミングウェイ/著 高見 浩/訳

ロミオとジュリエット ウィリアム・シェイクスピア/著
 中野 好夫/訳

若きウェルテルの悩み ゲーテ/著 高橋 義孝/訳

(国内)
伊豆の踊子 川端 康成

海と毒薬 遠藤 周作

江戸川乱歩傑作選 江戸川 乱歩

金閣寺 三島 由紀夫

新編 銀河鉄道の夜 宮沢 賢治

黒い雨 井伏 鱒二

こころ 夏目 漱石

山椒大夫・高瀬舟 森 鴎外

塩狩峠 三浦 綾子

砂の女 安部 公房

痴人の愛 谷崎 潤一郎

人間失格 太宰 治

燃えよ剣〔上〕 司馬 遼太郎
燃えよ剣〔下〕 司馬 遼太郎

羅生門・鼻 芥川 龍之介

檸檬 梶井 基次郎

 

 ●新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)

ということで、例年のことなのですが、
新潮文庫では主に古典的な名作、
それも海外の作品を取り上げてきました。
今回もそういう作品を取り上げてみます。

それが、このヘミングウェイの晩年の作品といっていい、
『老人の海』です。

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アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)は、
1899(明治32)年7月21日、アメリカ・イリノイ州オークパークに、
医師の父と芸術家肌の母の長男に生まれる。

(この年には、彼同様ノーベル賞を受賞し、その後自殺した小説家、
 川端康成さんが6月14日に生まれています。)

1961(昭和36)年7月2日、猟銃により自殺、享年61歳。

 

『老人の海』(The Old Man and The Sea)発表は、1952(昭和27)年9月、
アメリカの「ライフ」誌の特別号に一挙掲載。

直後に出版され、翌53年5月、ピューリッツァー賞を受賞。
1954年10月、ノーベル文学賞を受賞。

51歳当時に書かれた作品で、
70年ほど前とはいえ、決して老齢とはいいがたい年齢です。

その辺はやはり作家なのでしょう、
しっかりと老人の漁師の肉体の状態や心情などを描いています。

 

 ●ストーリー

84日間不漁続きのキューバの老漁師が、85日目、一人で海に出る。
一気に挽回しようと沖まで出て大物を狙う。
その甲斐あって大物に出会い、二晩の格闘の末、仕留めるものの、
あまりの大きさに舟の横にくくりつけることしかできず、
港に戻るまでに次々と鮫に襲われ、ほとんど骨ばかりにされてしまう。
夜、疲労困憊の身体で帰り着いたものの、収穫は無し。
帆を巻き付けたマストを担いで、一人自分の小屋に戻り付く。

 ・・・

初めのうちの40日目まで、老人とともに漁に出ていた少年が、
翌朝老人の家を訪問する。
他の漁師が魚の骨の全長を測っている。

 《「鼻から尻尾まで十八フィート」》

 《「たいした代物だな」店主は言った。
  「初めてお目にかかったよ、あんな魚には。
   おまえが昨日釣り上げた二匹も、立派なものだったが」/
  「ぼくのなんか、どうでもいいよ」少年は言って、
  また泣き出した。》p.130
 
少年はこの老人から漁師としての仕事を教えられたのだった。
今でも本当は、一緒に漁にで出たかったのだが、
漁の運に見放された老人の舟に乗るのを辞め、ほかの舟に乗るように、
親からいわれていたのでした。

 《「(略)サンチアゴをそっとしておきたいんだ。
   みんなにそう言っといて。ぼく、また来るから」/
  「残念だったな、と言っといてくれ」/「ありがとう」》p.130

小屋に少年が戻ると、
舟や漁の後始末をしてくれている男に、頭は漁の仕掛けにでも、と老人。

「あの槍みたいな嘴は?」と少年が問うと、
「ほしけりゃ、おまえのものにするさ」と老人。

 《「(略)また一緒に漁に出ようよ。
   もっともっと、教えてもらいたいんだ」》p.132

老人は、漁の間、何度も「あの子がいてくれたら」と思いつつ、
一人奮闘するのです。
その独り言が、小説の軸になっていると言ってもいいでしょう。

双方が相思相愛といってもいい、すばらしい師匠と弟子の関係、
という感じでしょうか。

早くケガを治して、と色々と世話を焼く少年。
老人はまた眠りにつき、ライオンの夢を見る……。
(老人は少年くらいの年ごろ、アフリカ通いの船に乗っていて、
 夜になると砂浜を歩くライオンをよく見た、という。)

*新潮文庫
『老人と海』ヘミングウェイ 高見浩訳 2020/6/24

*参考:光文社古典新訳文庫
『老人と海』アーネスト ヘミングウェイ 小川 高義/訳 2014/9/11

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 ●この「老人」と「海」の関わりについて

私もいつしか老人の仲間入りをしていました。
特に昨年、腰を痛めてそれが左足に来て、
一か月、杖をついて歩いていた時期があったのですが、
それ以来、一気に自分が老人になったな、と自覚させられたものでした。

 

この小説の主人公の老人は、腕相撲のチャンピオンになったり、
漁師として長年漁獲を出してきたベテラン漁師。
愛する妻を亡くし、今は一人暮らし、
小屋には妻の形見のイエスとマリアの絵を飾っている。
かつては色づけした妻の写真を飾っていたが、
見ているとさびしくなるのでしまってある、という。

「老人」と「海」との交流――仕留めるまでの大魚との戦い、
シイラ、マグロ、トビウオ等の魚や鳥たち、そしてサメとの戦い、
海流や風など――孤独な戦いですけれど、何かしら読んでいると、
ジーンとくるものがあります。
そして幾度も少年がいたら、という繰り返す老人。

遅くなった長い漁の帰りに、村人のことを気遣う老人。

 《(略)村のだれにも心配をかけていなければいいが。
  もちろん、あの子だけは気を揉んでいるだろう。
  だが、おれの力はわかっているはずだ。年をくった漁師たちは、
  気を揉んでいるのが多いかもしれん。他にもたくさんいるかもな。
  おれはつくづくいい村に住んでいるんだ。》p.121

と。

釣り上げた大魚に対しても、サメに襲われたときには、
自分の身が襲われたように感じ、
サメを銛で突き、倒したときには、仇は取ってやった、と。

大魚にもかわいそうなことをした、
よっぽど、家で寝転んでいた方がよかったとも思いつつも
彼は思います。

《「だが、人間ってやつ、負けるようにはできちゃいない」(略)
 「叩きつぶされることはあっても、負けはせん」》p.109

漁の技のみならず、不屈の精神と、他を思う心情の深さが――
いってみれば、人生への<こだわり>の強さを持っている人、
ともいえそうです。
その辺が、この老人が愛されている理由なのではないでしょうか。

 

茂木健一郎さんの英語の著書
『生きがい ―世界が驚く日本人の幸せの秘訣―』
(邦訳版 恩蔵詢子訳 新潮文庫 令和4(2022)/05/01)

に、<こだわり>についてこう書かれています。

 《<こだわり>は本質的に私的なものであり、
  自分がやっていることへのプライドの表明である。
  要は、<こだわり>は、
  ものすごく小さな細部を尋常でなく気にする、
  その方法のことなのだ。》p.49

また、こうも書いています。

 《<こだわり>は本質的に、
  他人に合わせるという可能性を一切排除するくらいに、
  頑固で、自己中心的な得失であるように見える。》p.51

例として、こだわりのラーメンを出す店主をあげています。

 《しかし、実際には<こだわり>が目指すゴールは、
  つまるところコミュニケーションの成立である。》p.51

といいます。
店主で言えば、<こだわり>の先にある“報酬”は、客の笑顔だ、と。

さらに、

 《<こだわり>の重要な点の一つは、
  市場原理に基づいた常識的予測のはるか上を行くところに、
  自分自身の目標をおくことである。》p.52

と。

この老人の場合も、漁のやり方はもちろん、
人生の様々な場面での<こだわり>のあれこれが
この小説の中心に描かれているように思います。

 

私も老人となり、
色々と身体の不調や精神的に落ち込むこともあります。

しかし、この老人のように、
なにかしら「これは」という<こだわり>を、
心の強さを持って生きていきたい、と思いました。

 

 ●左利きの観点から

まあ、これ以下は余談になりますが――。

『老人と海』は、
私のライフワークと呼んでいる左利きライフ研究の方面で、
一度取り上げています。

『レフティやすおのお茶でっせ』2005.5.26
『老人と海』に見る右利きの人の左手観 「新生活」版

 

--
 八十四日も不漁続きの老人が
 ついに大きなカジキマグロを二昼夜かけて釣り上げたものの、
 帰る途中でサメに食われ、港に持ち帰ったのは骨だけだった、
 という短いけれどドラマティックな名作です。

 今回は作品についてどうこう言うつもりはありません。
 このなかで
  主人公が左手について色々と述べている部分
 が気になりました。その辺を紹介してみましょう。
 右利きの人の非利き手である左手に対する考え、
 左手観といったものが垣間見れそうです。
--

新潮文庫の福田恆存訳の旧訳版から――

 《その気になれば、どんなやつだってやっつけられる。
  だが漁には右手が大切だ、かれはそう思った。
  そして左手で二、三度勝負をこころみたことがある。
  しかし、かれの左手はいつも裏切者だった。
  自分の思いどおりには動かない。
  それからというもの、かれは左手を信用しなくなった。》

--
 …私は、若い頃、
 右手で書字や箸使いを幾度となくこころみたことがある。
 しかし、私の右手はいつも裏切者だった。
 自分の思い通りには動かない。それからというもの、
 私は右手のみならず自分のすべての能力を信用しなくなった。…
--

というように、
この作品のなかで老人が示す左手に対する考えを紹介しながら、
右手観と左手観の違いについて書いています。

 

*参考:
新潮文庫 福田恆存訳の旧訳版『老人と海』2003/5/1

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本誌では、「新潮・角川・集英社<夏の文庫>フェア2022から(1) 新潮文庫『老人と海』ヘミングウェイ(高見浩訳)」と題して、全文紹介です。

 

本文にも書きましたが、私もいつしか老人の仲間入りしてしまいました。
いつの間にか、もう戻れないぐらいのところまで来ています。
棺桶の方が近い、というところでしょう。

でも、この老人のように、精一杯大魚に挑んでみたい、という気持ちは残っています。
結果はどうあれ、そのチャレンジ精神というのは、大事です。
そして、単にチャレンジするだけでなく、実際にそれなりの成果をあげる、ということはなんとか実現したいものです。

AmazonのKindleという電子書籍も、著者が友人への贈答用などに使える紙版が出せるようになったそうです。
左利きの本を出すというのは、自費出版ならいざ知らず、現実にはなかなか難しいものです。

Kindleなら自分の力で出せるので、チャレンジしてみたいと思ってはいたのですが、友人に贈れないなあ、と躊躇する部分がありました。
こういうサービスが始まれば、そういう友人にも贈れれるし、チャレンジのハードルも下がりそうです。

「老人力」という言葉があるようです。
『老人と海』の主人公のように、最後まで諦めることなく、死ぬまでに何か一つでも「これは」というものを残すべく、奮闘してみたいものです。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
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