『ミステリ・マガジン』7月号読者欄「読者の書評」に掲載される
5月25日発売の『ミステリ・マガジン』2018年7月号(729)(早川書房)の読者のお便り欄「響きと怒り」の<読書の書評>に、私の投稿が掲載されました。
「『アガサ・クリスティー完全攻略〔完全版〕』霜月蒼」
です。
(画像:表紙と読者欄)
(画像:私の投稿)
この本は、霜月蒼さんが<クリスティー文庫>に収録されたクリスティー全作品約100点を読んで採点した書評です。
今年4月に、クリスティーの全著作および関連書を収録する早川書房<クリスティー文庫>に収録されました。
その本を、半世紀にわたるクリスティー“半熟”ファンである私が、ファンの立場から見た評価を書いてみました。
元々の文章は2400字程度のものでしたが、読者欄向けに掲載可能な上限を1000字程度と推定、できる限り圧縮したショート・バージョン(最終1100字程度)を作成し、投稿しました。
掲載にあたり、さらに150字程度カットされましたが、一部のカットと細部の変更のみで、ほぼ全面採用でした。
採用される自信はありましたが、やっぱり「うれしい!」ですね。
【掲載文】
「読者の書評」
□『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』/霜月蒼
作品評価に関しては、ウェストマコット名義その他を含めて、おおむね妥当な線で信頼できる印象ですが、半世紀に渡るクリスティー“半熟”ファンとしては不満が残ります。
まずは5段階評価☆〇・五点『ビッグ4』。氏の論評は《「こどもむけ冒険ものがたり」みたいなもの》で、短篇連作の個々のパートも《ミステリとしても見るべきところがまったくない。トリックは、「トリック」というのも気の引ける程度のものだ》。結論は、エンタテインメント小説の研究者以外は読む必要なし。出来が悪いのみならず消費期限切れ、というもの。リアルでシリアスな名作スリラーを知る現代人には鑑賞に絶えない、という点は納得できますが、クリスティーの「初期冒険ものファン」、「ポアロ・ファン」 ――特に「ポアロ&ヘイスティングズ・ファン」 にとっては、楽しめる「必読の一冊」「ビッグ・ボーナス」以外の何ものでもありません。
なぜなら(1)ポアロ&ヘイスティングズのやりとりの妙、再三にわたる窮地からの脱出劇。(2)ポアロの兄や愛しの君の登場というサービスぶり。(3)個々の短篇ネタに関しても、チェスのエピソードでは、自称“左利きミステリ研究家”の私も納得の左利きトリックを扱い、偶然に頼るのではなく蓋然性の高いトリックを仕掛けています。
次に『マギンティ夫人は死んだ』では《ハードボイルド・ミステリみたいな読み心地》等高い評価の中、《玉に瑕》としてオリヴァ夫人の登場を《必然性もまるでない》読者サービスとして批判されています。しかし必然性を指摘するなら、高名な探偵として乗り込みながら見事に空振りするポアロを探偵役に据えなくてもいいのです。探偵役は、地元の警視の尊敬する、引退した几帳面な性格の先輩刑事でいい。それでこそハードボイルド・ミステリ的な展開になります。クリスティーは、私生活を語らなかった人で、作中のオリヴァ夫人を介して創作作法や作家としての裏話をファンにサービスしているのです。中期以降の重要なお楽しみの一つで『ポアロとグリーンショアの阿房宮』でもそうでした。
最後に、『茶色の服の男』について、ある名作の先駆である点を指摘していないので、クリスティー・ファンのみならずミステリ・ファンに対しても、この作品を読む楽しみを伝えきれていない、と言えます。
霜月氏の仕事は貴重なものですが、<クリスティー文庫>入りする上では、今一つ、というのが私の評価です。
【注】
◆ウェストマコット名義 ⇒ クリスティーがミステリではない普通の小説――恋愛ものや親娘もの等――を刊行する際に使用した名義
◆クリスティー“半熟”ファン ⇒ 霜月さんのように、全作完全攻略していない、完熟ではないという私の読者としての立場を表す
◆5段階評価☆〇・五点 ⇒ 霜月さんの評価は★一つの場合「アガサを愛する貴方むけ」としており、要するに作品の出来は良くないがファンなら楽しめるという意味で、0.5点はそのような「クリスティー・ファンでも読む必要なしの駄作」という意味になる
◆“左利きミステリ研究家” ⇒ <左利き>にまつわるミステリについて、メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』で「名作の中の左利き~推理小説編」として、文学作品を扱った「名作編」に引き続き、2011年から2017年まで27回に渡って紹介したほか、ブログでも取り上げた
*参照:
第278号(No.278) 2011/9/17「名作の中の左利き~推理小説編-1-推理小説と左利きについて」
・『アガサ・クリスティー完全攻略〔決定版〕』霜月蒼 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫 2018/4/18)
・『ハヤカワ・ミステリ・マガジン』2018年7月号(729) 早川書房 2018/5/25
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