産経新聞【明治の50冊】第一回『西国立志編』サミュエル・スマイルズ
産経新聞で今年から週一連載で明治時代の古典を紹介するコラム
【明治の50冊】が始まりました。
昨年末の発表から楽しみにしていたものです。
推薦する著作を応募するのは、年末のどさくさにまぎれて忘れてしましました。
(ちなみに、私の一推しは、幸田露伴「五重塔」でした。
物作りの職人の原点を感じる作品です。)
*【明治の50冊】について(産経新聞)
2017.12.13
連載「明治の50冊」決定 激動期…先人の知恵に学ぶ
明治維新から150年が過ぎ、再び明治時代のよう流れになっているといいます。
欧米の植民地化という国家的な危機に直面した初期から、
日露戦争後個人のない面に向い、後期には大逆事件から社会不安に…、と
(公→私→公)へと関心が変化している。
戦後も、復興から高度成長期、バブル崩壊後の相次ぐ震災や安保問題など。
同じように、(公→私→公)へと変化している、といいます。
そこで、
明治時代に出版された古典の名著・名作から、
現代にも通じる著作を現代に引き付けて読んでみよう、
という企画だそうです。
・・・
第一回―
2018.1.8 15:00(産経新聞)
(1)閉塞状況打開のカギに 読者を鼓舞
『西国立志編』サミュエル・スマイルズ著、中村正直訳
明治4年(1871)に出版された、
イギリスのサミュエル・スマイルズ"Self-Help"(『自助論』1859)の翻訳です。
余談ですが、この1859年という年には、
ジョン・マレー社という同じ出版社から三つの世界的な名著が生まれているといいます。
一つはこの『自助論』で、
他の二つは、ダーウィンの『種の起源』"On the Origin of Species"と、
ジョン・スチュアート・ミル『自由論』"On Liberty"です。
(他にも色んな本が出ていたのでしょうけれど。)
正直は、翌1872年、『自由論』も『自由之理(じゆうのことわり)』として翻訳出版しています。
・・・
知の教育者・福澤に対し、徳の教育者・中村正直といわれた人で、
儒学者で幕府の欧州留学団の先生役の一人として訪欧し、
幕府の消滅により帰国する際、贈られた本がこれだったそうで、
帰国の船中これを読み、感激した正直は翻訳を決意した、といいます。
慶喜公とともに静岡に移り住んだのち、
意気阻喪した幕臣たちの奮起を促す意味で翻訳紹介した、
というのです。
「天は自ら助くる者を助く」で始まる自己啓発本の古典的名著です。
この「天」は、元々は「神」を表す「GOD」でしたが、
いつしか「HEAVEN」に取って代わったといいます。
そして、漢学者だった正直は、この「天」を
中国は『老子』や『論語』における「天」と同一視し、
東西思想に共通する普遍的なものと解釈した、といいます。
古今の成功者の伝記を引用しながら、
地道な自助努力が成功への道であることを説いた本です。
《(略)『自助論』は
成功への心がまえが書かれているばかりでなく、
科学の発達史にもなっている。
わかりやすく具体的な例があげられ、
人間性あふれるエピソードが加わっているので、
親しみやすい読み物でもある。》
『明治の人物誌』星新一/著 新潮文庫(1998,原著1978)
「中村正直」p.16
訳本は、
『西国立志編』サミュエル・スマイルズ/著 中村正直/訳 渡部昇一/解説 講談社学術文庫527
<「天は自ら助くる者を助く」という精神を思想的根幹とした、三百余人の成功立志談>
私は抄訳本の
竹内均/訳・解説 三笠書房・知的生きかた文庫
『自助論 スマイルズの世界的名著 人生の師・人生の友・人生の書』
を読んだだけです。
それでもエッセンスは伝わってきます。
最近は、斎藤孝氏の現代語訳本も出ています。
星新一/著『明治の人物誌』新潮文庫(1998,原著1978)
― 星新一の父・星一に関わる明治の偉人たちの人物伝。
冒頭の一章が「中村正直」。
正直とスマイルズについてコンパクトにまとめられている。
他に野口英世、伊藤博文、新渡戸稲造、エジソンなど全十名。
講談社学術文庫『西国立志編』巻末の渡部昇一解説でもふれている。
《その人生をひとことでいえば、
維新、開国、文明開化という時期に
『Self-Help』を日本語に訳した。
そのために天がこの世に出現させた人物。
そうとしか私には思えないのである。》40p
『天ハ自ラ助クルモノヲ助ク 中村正直と『西国立志編』』平川祐弘/著 名古屋大学出版会(2006)
― 著者は、小泉八雲の研究者としても有名な比較文学の先生。
本書は『西国立志編』の影響を探る、著者の大学教授"卒業論文"。
一般読者にも読みやすい平易に書かれた文化の伝播の研究書。
イギリスの最盛期・ヴィクトリア時代の世界的名著"Self-Help"が、
日本で中村正直によって紹介され、日本産業化の国民的教科書となり、
数々の文化的影響を及ぼした。
さらに、イタリア・中国での影響と比較することで、
世界規模の文化間の関係を調べる。
付箋貼りながら読みだしたら、一冊丸ごと付箋だらけになる、
非常に興味深い一冊でした。
*参照:
『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2009(平成21)年5月31日号(No.18)-090531-『自助論』=『西国立志編』元祖自己啓発書
15日の第二回は、福澤諭吉『学問のすゝめ』でした。
第二回―
2018.1.15 10:00(産経新聞)
【明治の50冊】
(2)福澤諭吉『学問のすゝめ』 時代と格闘 文明開化宣言
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