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2015.10.07

処世訓の最高傑作「菜根譚」NHK100分de名著2015年10月

NHK『100分de名著』10月は、2014年11月「菜根譚」の再放送です。


名著38「菜根譚」 第1回 10月7日放送 逆境を乗り切る知恵
 《誰もが陥る「逆境」にどう立ち向っていくか?
第2回 10月14日放送 真の幸福とは?
 《新しい「幸福論」を再構築しようとしている
第3回 10月21日放送 人づきあいの極意
 《およそ人とかかわるあらゆる局面で、どう振舞ったらよいかを具体例とともに細かく指南している
第4回 10月28日放送 人間の器の磨き方
 《「自分の心を見つめること」「ゆとりをもつこと」「中庸」「高い志」などを、人間的な成長に不可欠なものとして提示する


ゲスト講師 湯浅邦弘(ゆあさ・くにひろ) 大阪大学・大学院教授


「プロデューサーAのおもわく。」より


「菜根譚」が時代をこえて読みつがれるのはなぜでしょうか。中国哲学が専門の湯浅邦弘大阪大学教授は、その理由を、「洪自誠が本流から外れて不遇をかこったからこそもちえた冷徹な視点があり、そこから時代を超えた普遍性、鋭い人間洞察が生まれた」と語ります。/ 番組では湯浅邦弘さんを指南役として招き、「菜根譚」の世界を分り易く解説。様々な言葉を現代社会につなげて解釈するとともに、そこにこめられた独特の【幸福論】や【交際術】、また、現代にも通じる【人格の磨き方】をひもといていきます。

○NHKテレビテキスト
「100分 de 名著」「菜根譚」2015年10月
湯浅邦弘


 


【ゲスト講師・湯浅邦弘さんの『菜根譚』の入門書】:
1.『菜根譚 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』角川ソフィア文庫 2014/10/25
―本文主体の入門書。前後集357条中主要な136条を選んで、現代語訳・書き下し文・原文・解説を付け、書き下し文の漢字にはすべてルビ(振り仮名)を付けて読みやすくしている。要所にコラムも配置し、全体の解説も付けて初心者にもやさしく紹介している。


2.『菜根譚―中国の処世訓』中公新書 2010/2
―背景解説を含む入門書。『菜根譚』の時代背景、内容の思想の解説、中国の処世の書の歴史紹介。


 


【原典全訳】
1.『菜根譚』洪自誠/著 今井 宇三郎/訳 岩波文庫 1975/1/16
―原文・書き下し文・語釈・現代語訳。初句を抽出した一覧目次。


2.『菜根譚』中村 璋八, 石川 力山/訳 講談社学術文庫 1986/6/5
―儒学・道教の中村、仏教・禅宗専攻の石川両氏による語義が充実した訳書。内容を端的にまとめた目録を目次とする。


 


(底本のテキストの違いにより、条の区切りが異なり条数が違ったり配列のずれがあり、講談社学術文庫版では、前集は岩波文庫版と同じ222条ですが後集が134条となっています。
 “湯浅”角川版は、他のテキストを参考に一部文字を改め、条の区切りは結果的に岩波版と同じになったという。)


 


 ●『菜根譚』について


湯浅邦弘さんの『菜根譚 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』の解説によりますと―


『菜根譚』は、明代の末の頃の人で儒家を自称する洪自誠による儒・道・仏の三教融合の思想に基づく処世訓です。
中国では儒家であっても道教(老荘思想)や仏教を排するものではなく、重要な思想とされているそうです。
そうは言っても儒家としての道徳心を基本としており、道教や仏教を批判する条もあります。


『菜根譚』は、前後二集、それぞれ222条と135条、都合357条からなり、前集は主に儒家の思想に見られる常識的な道徳を説き、後集は老荘思想や仏教の色合いのある俗世を超えた深遠な境地を説いています。
それぞれの条は、みな二行から数行と短い簡潔な文章からなっており、それぞれは独立したもので、どこからでも読めるものとなっています。
内容としては、著者の体験――実際の生活の中から、および読書から得たよりよく生きるための知恵を語る処世訓です。


湯浅さんの上記の本では「洪自誠の読書生活」と題された後集54条にこうあります。


明け方の窓の下で『易経』を読み、松葉の露で句読点を打つための朱墨を擦(す)る。昼間は机の上に仏典を置いて語り合いながら、宝磬(ほうけい)を打って音色を竹林の風に響かせる。/【読み下し文】易(えき)を暁窓(ぎょうそう)に読(よ)んで、丹砂(たんしゃ)を松間(しょうかん)の露(つゆ)に研(みが)く。経(きょう)を午案(ごあん)に談(だん)じて、宝磬(ほうけい)を竹下(ちくか)の風(かぜ)に宣(の)ぶ。

それだけに、単なる知識の受け売りではなく、真実味のある教訓となっているのでしょう。


日本でも中世以降、多く読まれてきたといいます。
近年でも有名人の愛読書として、『松下幸之助の菜根譚』や『野村克也の『菜根譚』』といった本が出ているそうです。


湯浅さんは「あとがき」で、人生は思い通りにならないもので、そういう逆境の時にこそ言葉が支えになるもので、そんなときどんな心の持ち方が必要か、また逆境に陥らないために普段ならどのような心構えが必要かを教えてくれるのが『菜根譚』で、《逆境に立ち向かう古典》だと書かれています。


 


 ●気になった条


私の気になった条をいくつか紹介しておきましょう。


「君子の心と才知」


君子の心の持ちようは、青天白日のごとく、すべてを他人にさらけ出すようにする。また君子の才能や智恵は、珠玉を包み隠しておくがごとく、他人には容易に知られないようにする。(前集三)

人付き合いでは、心はオープンに、才能はあからさまにしない。


「人生を磨く砥石を」


耳にはいつも聞きづらい忠言や諫言を聞き、心にはいつも受け入れがたいことがあって、それではじめて、道徳に進み、行動をただしくするための砥石となるのである。もし、言葉がすべて耳に心地よく、ことがらがすべて心に快適であれば、それは、この人生を自ら猛毒のなかに埋没させてしまうようなものである。前集五

「良薬は口に苦し」。
自分に厳しく、自己を制御するところに成長がある、というところでしょう。


「一歩を譲る」


世の中を渡っていくのに一歩を譲る気持ちが大切である。一歩を退くのは、のちのち一歩を進めるための伏線となる。人を待遇するのに少し寛大にする心がけが望ましい。他人に利を与えるのは、実は将来自分を利するための土台となる。(前集一七)

「譲り合う心ひとつで事故はゼロ」というところでしょうか。
あるいは、「情けは人のためならず」というところでしょうか。


「方と円の生き方」


治世にあっては四角張って生き、乱世にあっては丸く生き、末の世にあっては、四角と丸の生き方を併用しなければならない。善人を待遇するには寛大に、悪人を待遇するには厳格に、普通の人を待遇するには寛大・厳格を併用するのがよい。(前集五〇)

世の中の状況に合わせて言動を変え、人によっても変える、臨機応変に対応せよと言う。


「徳を養う三つの心がけ」


人の小さな過失を責めたてず、人のプライバシーをあばかず、人の過去の悪事をいつまでも覚えていない。この三つのことを守れば、自分の道徳心を養い、また、危害を遠ざけることができる。(前集一〇五)

湯浅さんの解説


三つのことを守れない人は、他人を許すという道徳心を養うことができず、他人からも、仕返しを受けることとなるのです。》p.103

正にそういうことでしょう。


また、“自身の気を制御せよ”(前集三八)とも言います。
気を平静にしておけば、災難も自分を侵すことがない、と。


前集は、見方によれば功利的な感じもなくもないのですが、一歩を譲るとか控えめにとか、あるいは中庸、分をわきまえるといった道徳的な教訓という傾向があります。
まさに処世の言葉そのもの、と言っていいでしょう。


 


 ●心に響いた条


次は、一番と言ってもいいほど好きな、心に響いた条を―


「喜びの心」


暴風雨の日には、鳥や獣でさえも悲しそうである。天気晴朗の日には、草木でさえもうれしそうである。これにより、天地に一日も和気がなくてはならず、人の心に一日も喜びの精神がなくてはならないことがわかるのである。(前集六)》p.26

本当に天気がいい日は気持ちもいいものですし、心にもそういう「和気」が欲しいものです。


「長続きする幸せ」


苦しんだり楽しんだりして修練し、その修練をきわめた後に得た幸福であって、はじめて長続きする。疑ったり信じたりして考え抜き、考え抜いた後に得た知識であって、はじめて本物となる。(前集七四)》p.83

苦しんで得た、考え抜いた知識こそ本物だ、というのは実感のある言葉です。


「彼岸に至る」


人生の幸不幸の境目は、みな人の心が作り出すものである。だから釈迦もいう、「利欲に向かう心が強すぎると、さながらそれは燃えさかる炎の海。貪欲に心がおぼれてしますと、さながらそれは苦しみの海。心を少し清浄にすれば、火焔も池となり、はっと目覚めれば、苦界を渡る船も彼岸に至る」と。心持ちが少し異なるだけで、こうも境界が異なってくる。よくよく考えなくてはならない。(後集一〇九)》p.210

人生はすべて、心の持ち方だという。


人生の幸不幸の境界を作り出しているのは、他人や周囲のものごとではない。自分自身の心のあり方である。人は、禍福が外からやってくると思っているかもしれないが、実は、禍福を招いているのは、わが心である。》湯浅邦弘『菜根譚―中国の処世訓』中公新書 p.241

その心ですが、本来は自然なままであれば、もっといいのですよね。


「心に適う」


たまたま気持ちにぴったり合ったところ、それこそが佳境となり、人の手を加えない天然の物であってこそ、真のはたらきが見られる。もしわずかでも人工的な作為を加えれば、趣は減ってしまう。唐の詩人は白楽天も言っている。「心は無事の時が楽しく、風は自然に吹いてくると爽やかである」と。なんと味わいがあることか、この言葉は。(後集八三)》p.203

ありのままをありのままに楽しめれば、本当にいい気分になれるものです。


他にも色々ありますが、きりがないので、今辺で。


 ・・・


再放送ですが、前回の放送は見そびれているので、今回は楽しみにしています。


 



「NHK100分de名著」カテゴリ:
NHK100分de名著



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