ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売
新潮社から8月31日に発売予定に上がっています。
『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ 椎名誠、渡辺葉・訳 新潮モダン・クラシックス 8月31日発売/1944円
●完訳版?
現在、新潮文庫から出ている『十五少年漂流記』は300ページ足らずで、ダイジェスト版の翻訳です。
今回の訳書は、480ページということで、どうやら完訳版のようです。
ちなみに、椎名誠、渡辺葉・父娘共訳というのも、話題の一つでしょう。
ダイジェスト版でも、お話そのものは十分楽しめます。
そうは言っても、やはり著者の書いたそのままのものというのでしょうか、オリジナルのままの小説を読むのが本道ではないか、という気がします。
冗長な部分をカットして、現代風に読みやすくすることが、間違いとは言い切れません。
ただそのためには、それにふさわしい人物の手によってダイジェストされなければ、本質を外したものになってしまいかねません。
その辺の判断も難しいものです。
それなら始めから完訳にしておけば無難でしょう。
さほど長すぎないのなら、そのままでいいと思います。
たとえば、文庫本で全8巻『モンテクリスト伯』を一巻にダイジェストするということは、人を得れば、間違いではないと思います。
それでも完訳を読むほうが正道だろうという気はしますが。
それに比べれば、本書などはダイジェストするほどの意味もないでしょう。
これを小学校低学年用に、というのなら別ですが。
ということで、新訳本に少し期待です。
●三大名作+ワン以外のものを!
それにしても、ヴェルヌの本を出してくれるのは、嬉しいことですし、先ほども書いたように、完訳で出すというのならそれもいいことです。
しかし、ヴェルヌ・ファンとしては、三大名作+ワン(『地底旅行』『海底二万里』『八十日間世界一周』+『十五少年漂流記』)の新訳はもういいこれぐらいで十分です。
この十何年間に岩波文庫、光文社古典新訳文庫、新潮文庫等で原著挿絵入りの新訳本が出版されました。
創元SF文庫で歿後100年記念で、『月世界へ行く』の新版、『地軸変更計画』を復刊しました。
文遊社が『永遠のアダム』『ジャンガダ』『黒いダイヤモンド』『緑の光線』といった作品を復刊してくれました。
新訳短編を併載したり一部改訳が施されたり等もあり、嬉しい企画でした。
復刊もいいのですけれど、できれば新訳で出していただきたいものです。
特に〈ヴェルヌ全集〉はかなり昔の翻訳ですので。
しかししかしです。
ヴェルヌには未訳の、本邦未紹介の作品がまだまだたくさんあります。
もちろん、三大名作ほどの内容のものではないかもしれません。
とはいえ、それらもヴェルヌの作品であり、実際に三大名作以外の作品を読んだ経験から言っても、それなりに楽しめる作品があるはずです。
全部とは言いません。
いくつかおもしろそうな作品を見繕って紹介していただけないものでしょうか。
小説には、時代を写す鏡の役割もあります。
その当時の人々の生活や風俗や思想、見方・考え方等が反映されているものです。
それらを知る意味でも役に立つものです。
ぜひ、ヴェルヌの〈新作〉紹介を!
*参照:メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2009(平成21)年7月31日号(No.22)-090731-『十五少年漂流記』夏の文庫100冊から
*【ヴェルヌの小説以外の最近出版された本】:
『ジュール・ヴェルヌ伝』フォルカー・デース 石橋正孝訳 水声社 (2014/05)
―本邦初のヴェルヌの評伝。力作です。ヴェルヌの伝記のなかで最も信頼に足ると言われるものです。
当時の社会状況を知っていれば、また彼の作品をより多く読んでいれば、楽しさも増します。
『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝 左右社 (2013/3/25)
―これも力作。元は学術論文ということで、ちょっと読みづらく感じたり、ヴェルヌの原稿をまな板に載せているため、それらを(邦訳がない、もしくは手に入りにくいため)未読の人には分かりにくかったりします。
小説家ヴェルヌと編集者エッツェル、二人のジュールのあいだを巡る出版の秘密をめぐる“冒険”です。
『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”』東洋書林 (2009/03)
―これは見て楽しい本です。図版で見るヴェルヌの世界といってもいいかもしれません。
『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社(1995)
―ヴェルヌの小説の表現を通して当時のフランス帝国主義を考えるという論文。
巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介。
*『お茶でっせ』記事:
【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売
・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む
・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版
【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』 <
・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増!
・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫
・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』
*参照:・『レフティやすおの左組通信』
「ジュール・ヴェルヌ Jules Verne コレクション」
「趣味」カテゴリの記事
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- レフティやすおの楽しい読書379号-告知-私の読書論191-<町の本屋>論(8)産経新聞記事11/9産経WESTより(2024.12.15)
- レフティやすおの楽しい読書378号-告知-クリスマス・ストーリーをあなたに~(14)-2024-デイモン・ラニアン「三人の賢者」(2024.11.30)
- レフティやすおの楽しい読書377号-告知-私の読書論190-<町の本屋>論(7)産経新聞10/27朝刊記事より (2024.11.15)
- レフティやすおの楽しい読書376号-告知-中国の古典編―漢詩を読んでみよう(31)陶淵明(8)村人たちと(2024.10.31)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 2025(令和7)年、明けましておめでとうございます。(2025.01.07)
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- 週刊ヒッキイ第677号-告知-『左組通信』復活計画[35]『LL』復刻(8)LL91996年夏号(2024.12.21)
- レフティやすおの楽しい読書379号-告知-私の読書論191-<町の本屋>論(8)産経新聞記事11/9産経WESTより(2024.12.15)
- 週刊ヒッキイ第676号-告知-楽器における左利きの世界(27)まつのじん(2)(2024.12.07)
「海外SF」カテゴリの記事
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- 光文社古典新訳文庫から完訳版『十五少年漂流記 二年間の休暇』ヴェルヌ/鈴木雅生訳 が発売(2024.07.28)
- [コラボ]私の読書論186-<左利きミステリ>第5回海外編(後)ホームズ以後--楽しい読書368号(2024.06.15)
- 私の読書論183-トールキン『指輪物語』70周年-楽しい読書364号(2024.04.15)
- 私の読書論181-私の年間ベスト3・2023年〈フィクション系〉(後)初読編-楽しい読書360号(2024.02.15)
「古典(名著名作)」カテゴリの記事
- 2025(令和7)年、明けましておめでとうございます。(2025.01.07)
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- レフティやすおの楽しい読書379号-告知-私の読書論191-<町の本屋>論(8)産経新聞記事11/9産経WESTより(2024.12.15)
- レフティやすおの楽しい読書378号-告知-クリスマス・ストーリーをあなたに~(14)-2024-デイモン・ラニアン「三人の賢者」(2024.11.30)
- レフティやすおの楽しい読書377号-告知-私の読書論190-<町の本屋>論(7)産経新聞10/27朝刊記事より (2024.11.15)
Comments