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2015.08.05

自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月

NHK『100分de名著』8月は、名著46「ダーウィン種の起源」です。

プロデューサーAのおもわく。

ダーウィンが「種の起源」によって解き明かした自然のあり方を解説しながら、【生き物たちの驚異】【生命の素晴らしさ】【科学的な発見の面白さ】などを考えていきます。

第1回 8月5日放送 「種」とは何か? ダーウィンが既存の世界観にどう挑んでいったかを明らかにしながら、「種の起源」で説かれる進化論の発想の原点に迫っていく。
第2回 8月12日放送 進化の原動力を解き明かす 「進化論」の基本概念をわかりやすく解説することで、生命の不思議さや驚異、そのあり方を科学的に解明することの意味を考えていく。
第3回 8月19日放送 「不都合な真実」から目をそらさない 反論に対するダーウィンの回答をつぶさにみていくことで、科学的思考の面白さ、大切さを学んでいく。
第4回 8月26日放送 進化論の「今」と「未来」 「進化論」にまつわる数々の誤解を解くとともに、現代の人間観にとって「進化論」がどのような意味をもっているかを解き明かしていく。

【ゲスト講師】長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)…行動生態学者・進化生物学者。ダーウィンや進化論に関する著書多数。
【ダーウィンの声】水島裕(声優)…代表作「一球さん」真田一球役、「銀河英雄伝説」ナイトハルト・ミュラー役。
【ナレーション】墨屋那津子

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
ダーウィン『種の起源』 2015年8月 長谷川 眞理子 NHK出版 (2015/7/25)

 

(紹介文)
キリスト教的世界観が強固だった時代に、「種」とは共通の祖先から分岐してきたとし、「自然淘汰によって生物は進化する」という画期的な理論を打ち立てたダーウィン。/すべての生物が「生命の樹」という連鎖でつながっているとする、ダーウィンの生命観・自然観を見つめ直す。
命はつながっている
進化とは、進歩ではない。/多様性を生んだドラマである。

 

『種の起源』"On the Origin of Species"(1859)チャールズ・ダーウィン/著
(正式な書名)
ON THE ORIGIN OF SPECIES BY MEANS OF NATURAL SELECTION, OR THE PRESERVATION OF FAVOURED RACES IN THE STRUGGLE FOR LIFE
『自然淘汰による種の起源―生存闘争における有利な品種の保存』

 

『種の起源』[上下] 渡辺政隆/訳 光文社古典新訳文庫(2009)
―「初版」の比較的読みやすい新訳。

 

 

*【講師・長谷川眞理子のダーウィン&『種の起源』関連書】: 『名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』』ジャネット・ブラウン/著 長谷川眞理子/訳 ポプラ社 2007/9
―ダーウィンの伝記の著者であるブラウンが『種の起源』の誕生の経緯から出版当時の社会の反響、その後の評価等を解き明かした小著を長谷川眞理子さんが翻訳した。

『ダーウィンの足跡を訪ねて』長谷川眞理子/著 集英社新書 2006/8/12
―長谷川さんがダーウィンの関連の地を実際に訪ねた記録。

 

『ダーウィン著作集 1 人間の進化と性淘汰 1』長谷川真理子/訳 文一総合出版(1999)
―人間の進化についての著作「人間の由来」の翻訳。

 

『ダーウィン著作集 2 人間の進化と性淘汰 2』長谷川真理子/訳 文一総合出版(2000) 
『ダーウィン著作集 別巻1 現代によみがえるダーウィン』長谷川真理子、三中信宏、矢原徹一/著 文一総合出版(1999)
―鼎談・なぜダーウィンを読むのか 現代に生きるダーウィン ダーウィンとナチュラル・ヒストリー ダーウィンの性淘汰の理論とヒトの本性 『ダーウィン著作集』編集委員による解説。

 

 

*メルマガ『レフティやすおの楽しい読書』
2010(平成22)年4月30号(No.33)-100430- ダーウィン『種の起源』―進化理論を確立   
http://archive.mag2.com/0000257388/20100430074000000.html 

↑の文章を基に、加筆しています。

 

 ●『種の起源』とダーウィンの進化論について

『種の起源』初版発行から150年後の2009年に出版された新訳版の訳者・渡辺政隆さんは、その解説にこう書いています。

生物の進化は、地球の長い歴史のなかで一回しか起こらなかった物語である。... ダーウィンは、仮説を構築し、傍証を積み上げるという歴史科学の方法を確立することで進化学を科学にした。... 》渡辺政隆「本書を読むために」P.416-417より(『種の起源(上)』ダーウィン/著 渡辺政隆/訳 光文社古典新訳文庫) 
... 進化学はすべての生物学の根幹をなしている。そしてそのすべてのルーツは『種の起源』初版にある。その端緒を開いたダーウィンの偉業は、ますます評価が高まることはあっても忘れ去られることは決してない。つまり『種の起源』を読まずして生命を語ることはできないのだ。》同 P.422-423より

--
『種の起源』は、初めに、栽培植物・飼育動物における人為的な品種改良から説き起こし、自然状況下における動植物の「変化をともなう由来」
(ダーウィンの用語。当時は「進化」evolutionという言葉はまだ使われておらず「変成」と呼ばれていた。)
について解説してゆく。

進化のメカニズムである「自然淘汰」について述べたのち、この学説の難点を自ら検証してゆく。

遺伝の法則も、地球の歴史も科学的に解明されていない中では、思弁にすぎないともいうべき「自然淘汰」説という自説を、
これでもかとばかりに、自身が世界中のナチュラリストの応援をもとに収集した様々なデータで持って実証しようと試みる。
--

講師である長谷川眞理子さんの訳書の序文では、こう書いています。

... パズル全体の完成予想図を最初に示したのがダーウィンであり、『種の起源』は、いくつもの図柄をつなぎ合わせ、全体としてはこういうものが見えてくる、ということを、論理的に、実証的に積み上げているのである。/... パズルの全体像として、ダーウィンが描けなかった部分も、もちろんある。それでも、これだけ大きな視野を持って生物学の諸現象をつなぎ合わせようとした人物の書物には、数々の興味深い指摘が隠されているのである。》長谷川 眞理子「はじめに」p.4-5より(『名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』』ジャネット・ブラウン/著 ポプラ社)

再び渡辺さんの言葉を紹介しますと、

... ダーウィンはじつに多角的な視点から自説の論証を行なっていることがわかる。しかもそれぞれの視点は、『種の起源』出版からおよそ一〇〇年後に、進化の総合説として統合された諸分野をほぼ網羅していることがわかる。本書『種の起源』は、いうなれば透徹した頭脳の持ち主ダーウィンが認めた「預言の書」なのだ。... 》渡辺政隆「下巻のための訳者まえがき」p.12-3(『種の起源(下)』光文社古典新訳文庫)

巻末に、最終章で「異論の要約」がまとめられています。
このように、ダーウィンは非常に用意周到です。

科学者の態度と言えばそれまでなのでしょうけれど。

結論としてダーウィンは書いています。

種の起源に関して本書で述べた見解もしくはそれに類似した見解が一般に受け入れられれば、自然史学に相当規模の革命が起きるだろうとおぼろげながら予測できる。... 》同書「第14章 要約と結論」p.395

それだけの自信を持って書いているということなのでしょう。

 

 ●「私はそう確信している。」

--
本書のなかで、ダーウィンは、たびたび一つの言葉を使っています。
それは、「私はそう確信している。」という言葉です。

『種の起源』序文「はじめに」をこう締めくくっています。

「自然淘汰」は生物種に変更をもたらす、唯一ではないが主要な手段である。私はそう確信している。》(上記『種の起源(上)』p.23より)

最初にアイデアを得てから20年以上にわたって公開することなく、自らの中で育ててきた進化理論。

しかし、それは当時の社会にあっては必ずしも受け入れられないものであったのです。
なぜならダーウィンの説は、当時、キリスト教神学によって人間と他の動物の間にあるとされていた厳然とした隔たりをなくすものだったからです。

 ヒトの先祖はサルである、サルが進化したものがヒトである

といった誤解を与えかねないものだったからです。(正しくは、ヒトとサルは共通の祖先を持つ、ということ。)
それを発表するにあたって、彼がどのような気持ちでいたかが、この言葉に象徴されているように思うのです。

世間が何をどう言おうと、受け入れようと拒否しようと、自然淘汰による進化が現在の生物をつくったのだ、と「私はそう確信している。」
―と。
--

 

 ●「生命の樹」

ダーウィンは『種の起源』の第4章に「生命の樹」と呼ばれる図を挙げている。
縦軸に地質年代を置き、下から順に古代から現代へ、横軸に各属から枝分かれした種を示す。
それぞれの属の共通祖先からいくつかの種に枝分かれしてゆく姿がえがかれ、いくつかの種は絶滅し、縦軸の途中で消えてゆく。
生き延びた枝からまたいくつかの種が枝分かれして、現代に到達する。

自然淘汰説によれば、現存するすべての種は、各々の属の祖先種と連鎖している。... そうやって遡っていくと、それぞれの大きな綱の共通祖先へと収束していくはずである。すると結果的に、すべての現存種と絶滅種のあいだをつなぐ中間的で移行的な環の数は、とてつもない数でなければならないことになる。しかしこの学説が正しいとしたら、間違いなくそれだけの数の生物がこの地上に生息してきたのである。》『種の起源(下)』「第9章 地質学的証拠の不完全さについて」p.77 より

それらはまさに、

... 一本の幹から伸びた枝が分枝を繰り返していって、枝を広げた大木になるようなものである。》同書「第10章 生物の地質学的変遷について」p.133 より

 
「自然淘汰」による進化とは、「生存闘争」に有利な種が生き延びてゆく、という「自然淘汰の作用による変化を伴う由来」という学説で説明できるものだ、と言うのです。

自然淘汰説が基盤としている考え方は単純である。個々の新しい変種、最終的には個々の新種が生み出され維持されるのは、競争相手となる種類よりも何らかの利点を有しているからである。一方、そうした利点のない種類は、ほぼ必然的に絶滅することになる。これが基本的な考え方なのだ。... 》同書「第10章 生物の地質学的変遷について」p.137 より

 

 ●サル

宗教的な争いが起こったとき、ヨーロッパ人がキリスト教の教えを受け入れ、特別な存在としての人間を受け入れる見方を取るのは、ヨーロッパにはサルがいなかったからではないか、という解釈もあるようです。
四足獣と人間のあいだを埋める存在としてサルがあると考えれば、そういう見方も納得できます。
特に、日常的にサルを目にしている(たとえばわれわれ日本)人のような立場から言えば。

古典新訳文庫版『種の起源(下)』の「訳者あとがき」で、渡辺さんが書いていますが、日本では進化論に対する違和感が少ないのは、

キリスト教原理主義の力が弱いこと。輪廻転生を唱える仏教の影響や、八百万の神を讃えるアニミズム的な宗教観が深く根付いていること。猿がいつも身近にいて、親近感があったこと(サルが生息していない土地に住むに住むヨーロッパ人にとって、サル、それも大型類人猿との最初の出会いは衝撃的だったはずだ)。明治の文明開化、富国強兵策に、進化論、それも特に社会進化論が合致したこと等々。》p.431-2

しかし日本では、進化論が正しく理解されているとは言えないと渡辺さんは続けて書いています。

まあ、今回、この「100分de名著」を通して、理解が進めば、という気がします。

また、科学の見方・考え方というものも改めて見つめ直したいものです。

 

*その他の参考文献:
『ビーグル号世界周航記 ダーウィンは何をみたか』荒川秀俊/訳 講談学術文庫(2010)
―ダーウィンが進化論にたどり着くヒントを得た航海の記録。細密な銅版画でみせる、学生向け『航海記』のエッセンス。

『ダーウィン『種の起源』を読む』北村雄一/著 化学同人(2009)
―『種の起源』を読み解く科学ジャーナリストによる入門書。

 

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NHK100分de名著

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