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2015.06.30

ラフカディオ・ハーン/小泉八雲『日本の面影』NHK100分de名著2015年7月

NHK『100分de名著』7月は、「小泉八雲『日本の面影』」です。

名著45 小泉八雲「日本の面影」 第1回 7月1日放送 原点を訪ねる旅
小泉八雲の人となりや執筆の背景を掘り下げながら、八雲が異文化日本を見つめた熱いまなざしに迫っていく。
第2回 7月8日放送 古きよき日本を求めて
目に見えない「霊的なもの」を感受する八雲独自の直観で探り当てた、古きよき日本の深層に迫っていく。
第3回 7月15日放送 異文化の声に耳をすます
五感を駆使し、異なる声に耳をすませ続けた八雲の「異文化理解の方法」を明らかにしていく。
第4回 7月22日放送 心の扉を開く
「日本の面影」が傑作「怪談」に結実するまでの軌跡を追い、八雲が目指した「魂の理想」を描き出す。

【ゲスト講師】池田雅之(早稲田大学教授)…比較文学者。小泉八雲に関する著書多数。
【朗読】佐野史郎(俳優)…小泉八雲の大ファン。世界各地で小泉八雲の朗読を行っている。

プロデューサーAのおもわく。

7月の「100分de名著」では、優れた紀行文学であり、卓越した日本文化論としても読み解ける「日本の面影」を通して、「日本とは何か?」そして「異文化を理解するとはどういうことか?」をあらためて見つめなおしたいと思います。

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
小泉八雲『日本の面影』 2015年7月
池田 雅之

日本人の優しさを愛する/心を開き、耳をすませて、異文化に向き合う。
消えゆく日本を愛する/アイルランドの父とギリシャ人の母の間に生まれたラフカディオ・ハーン。アメリカで通信記者として活躍していた彼はなぜ、日本に帰化して小泉八雲となったのか。『怪談』と並び称される八雲の代表作『日本の面影』に描かれた明治の日本のありかたから、近代日本の歩みの意味を考える。


 

●最初の日本についての書

明治期日本に滞在し、日本についての書物を書き残した西洋人は何人もいます。
今回取り上げられるラフカディオ・ハーン(帰化後の日本名・小泉八雲)もその一人でした。
他には彼の良きアドバイザーともなり、高等教育を受けていない彼を教師に推薦したお雇い外国人の一人、東京帝国大学の教授B・H・チェンバレン(『日本事物誌 1・2』高梨健吉訳 平凡社 東洋文庫 他)などです。

ただそれらの人たちとハーンの違いは、ハーンは日本人の女性と結婚し、日本に帰化し、日本人として亡くなり、仏式の葬式で送られたという事実です。
それだけ日本を愛していたのでしょう。

そんな彼がものした日本についての最初の書物が『日本の面影』(上下二巻)です。

彼は日本に来る前から、日本について調べていたようです。
日本についての本を書くことも、当初から予定に入っていました。

そういう彼が、実際に接したのが鎌倉や最初の赴任地・松江の、近代化とは無縁の世界であった昔ながらの日本と、そこに住む純朴な日本人でした。
そこに魅力を感じ、日本人とは異なる視点から、より純粋な日本を見出したのでしょう。

 

●代表作『怪談』

ハーンの代表作と言えば、やはり『怪談』でしょう。
これは元々あった古いお話を再話したものです。
最初は誰かから聞き、その後本を探し、妻・節の語りを通して、自分のものにして上で、書き著したもの。

私と『怪談』との出会いで明らかなものは、中学校時代の英語の教科書でしょう。
「むじな」の話はよく覚えています。
もちろん、それ以前に「耳無し芳一」「雪女」等のお話は何かで知っていました。

そんな知ってはいるけれど実際に読んだことのなかった作品を、高校一年の時に、角川文庫版『怪談・奇談』という本で読みました。

そのなかで、私の印象に残った一番の作品は、「鳥取の布団の話」でした。

「あにさん、寒かろう」「おまえ、寒かろう」と声を掛け合う、健気な兄弟愛のお話――。
ただ怖いだけではなく、庶民の哀歓を描いたお話が語られています。
私の子供のころは、高度成長に入ろうという時代で、まだまだ貧しさの残る風景があちこちにありました。
ここに描かれる世界に共感できるものがあったように思います。

 

その後いつしかこの本をなくし、読む機会もないままに50代になりました。
読書メルマガでハーンの『怪談』を取り上げるにあたり、『怪談』他いくつかの本を読みました。

それら参考にした書物のなかに、今回の番組講師・池田雅之さんの訳本もありました。

*メルマガ『レフティやすおの楽しい読書』
2009(平成21)年6月30日号(No.20)-090630-『怪談』ラフカディオ・ハーン/小泉八雲

 

●『日本の面影』

このとき初めて、ハーンの生涯と作品について色々と知りました。

その際、最もよく読んだのが、講師・池田雅之さんの訳本だったのです。
角川ソフィア文庫の二冊(2009年当時)とちくま文庫の小泉八雲コレクション三巻でした。

今回は、ソフィア文庫から『日本の面影』二冊目も登場し、参考資料が整った感じです。

番組ではどのようにこの書物を読み説かれるのか、楽しみです。

 ・・・

今回改めて読んだ、池田雅之さんのハーン論『ラフカディオ・ハーンの日本』(角川選書)で、一番心に残っているのが、ハーンが東京帝大の英文学講師だった時の「最終講義」の一節です。
私の個人的な思い入れがあってのことですが。
意訳しますと、
「どんなに忙しくても毎日十分ぐらいは文学作品の創作に時間をさけ、一日五行ずつでも書け、一年たてば、かなりの仕事量になる。」
というものです。

将来日本の文学界を背負って立つであろうエリート学生たちに対するハーンからの助言です。
これはそのまま彼が、若いころから実践し続けていたやり方でした。
その成果が、彼の著作なのでした。

毎日少しずつでも勉強を続けなさい。

教育者としても実にすばらしい人物で、私も肝に銘じたい忠告です。

★講師・池田雅之さんのハーン論 『ラフカディオ・ハーンの日本』池田雅之/著 角川選書 2009/12/10
 ハーンの幼少時のトラウマからギリシア的な多神教やアイルランド気質といったものがからみ、彼の幽霊好き怪談好きが生まれたようで、しかし、それら怪談奇談の再話を通して新たな文学作品に昇華した背景を究める。
第1章 ハーンの日本発見―漂泊・幽霊・Old Japan
第2章 教育者としてのハーン―想像力・共感・霊性
第3章 ハーンが現代に語りかけるもの―共生・循環・アニミズム

 

★講師・池田雅之さんの訳本【角川ソフィア文庫】『新編 日本の面影(2)』池田雅之/訳 2015/6/20
 妻・小泉節子の聞き書き「思い出の記」を併録。

『新編 日本の面影』池田雅之/訳 2000
 『知られぬ日本の面影』から、代表的な文章「東洋の第一日目」「盆踊り」「英語教師の日記から」(抄)「日本海に沿って」「日本人の微笑」「さようなら」などを再編集して収録。懐かしき古きよき日本の姿が保存されている。

 

『新編 日本の怪談』池田雅之/訳 2005
 『怪談』の諸作始め、他の著作から集めた再話もの怪奇談42編。内匠尽語楼/編纂『狂歌百物語』をハーン自らが解説したエッセイ「妖怪のうた」とハーンの描いた絵も収録。他に縮緬本「日本おとぎ話集」など、めずらしい作品も多く収録されている。

 

 

★講師・池田雅之さんの訳本【ちくま文庫・小泉八雲コレクション】『妖怪・妖精譚』池田雅之/編訳(2004)
 「泉の乙女」他、アメリカ時代のものから日本時代の『怪談』まで代表的な八雲の再話ものの怪奇談を集めた選集。巻末に八雲入門書ともいうべき、小泉節子「思い出の記」を収録。

 

 

『さまよえる魂のうた』池田雅之/編訳(2004)  
 自伝的エッセイ8編と、東京帝国大学での英文学講師時代の講義録から、読書論としても非常に優れた「読書について」や「生活と文学の関係」「文章作法の心得」、最終講義「日本文学の未来のために」など16編、萩原朔太郎「小泉八雲の家庭生活」を収録。

 

 

『虫の音楽家』池田雅之/編訳(2005)
 初期の「鳥取の布団の話」「子を捨てた父」の再話を含む「日本海に沿って」や「加賀の潜戸」、後期の「焼津にて」など八雲が愛した虫や海といった自然に関するエッセイなど21編、長男・小泉一雄の手になる「父「八雲」を憶う」(一部抜粋)を収録。

 

 

『日本の面影 ラフカディオ・ハーンの世界』山田太一/著 岩波現代文庫(2002)
 ハーン(小泉八雲)を主人公にしたNHKテレビ・ドラマのシナリオ。初めて日本人と出会ったニューオーリンズ時代から日本での日々まで、その生涯をうまく取り込み、一本のドラマに仕上げている。セツの『思い出の記』と読み合わせると一段と興味深い。

 

 

『怪談・奇談』平川祐弘/編 講談社学術文庫(1990)
 『怪談』他、日本に関する著述に収録された怪談話を収録。巻末付録に八雲の所蔵本から原話と推定される日本語文献を収録。

 

 

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NHK100分de名著

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