自分を救えるのは自分自身である-NHK100分de名著『ブッダ 最期のことば』2015年4月
この4月から放送時間が変更になり、水曜日夜10時から(最初のころの時間)―(水)午後10:00~10:25/Eテレ(教育)―となり、見やすくなります。
名著42「ブッダ 最期のことば」 第1回 4月1日放送 涅槃への旅立ち
第2回 4月8日放送 死んでも教えは残る
第3回 4月15日放送 諸行無常を姿で示す
第4回 4月22日放送 弟子たちへの遺言
○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
「ブッダ 最期のことば」2015年4月
佐々木 閑 NHK出版 2015/3/25
正しい教えは滅びない
自分を救えるのは、自分自身である
●「マハーパリニッバーナ・スッタンタ」
パーリ語の原始仏典(「大般涅槃経」)を読み説く内容です。
邦訳原典としては、
・中村元訳『ブッダ最後の旅―大パリニッバーナ経』岩波文庫
・渡辺照宏『涅槃への道 仏陀の入滅』ちくま学芸文庫
―パーリ文『マハー・パリニッバーナ・スッタンタ』の本文に準拠し、漢訳阿含部『遊行経』、その異訳『涅槃経』を合わせて参照した翻訳と解説。
等があります。
「マハーパリニッバーナ・スッタンタ」は、ブッダが死を前に生まれ故郷へ帰ろうとした旅の途上で死を迎え、弟子たちに残した言葉をクライマックスに、その死後遺骨を分配するまでを描く経典です。
ブッダの死出の旅の実録と言えるかどうかは不明ですが、人間ブッダを描く記録としてもかなりドラマチックな要素を持っており、一読の価値があると思います。
ブッダの最期の旅を語りながら、ブッダの教え―仏教の本質や基本的な教えを知らしめる経典でもあります。
例を挙げれば、
〈第一章・一ニ〉三学(戒・定・慧の教え)=仏教の修行のすべて
〈第二章・二〉四諦(苦集滅道)=仏教の真理、苦について知り苦をなくす方法を実践する
〈第二章・九〉三宝(仏・法・僧への帰依)=始祖ブッダ(仏)、ブッダの説いた教え(法)、教団(サンガ/僧)への信仰
〈第二章・二五〉教師の握拳=ブッダの教えに隠し事はない
〈第二章・二六〉自灯明・法灯明=(自らを拠り所とし、法を拠り所として、他のものを拠り所としない)=法に従い、自己を抑制し、修行に励め
等々です。
●有名な言葉「自灯明・法灯明」「怠らず努めるがよい」
本書の中で、最も有名なことばとしては、主に二つ。
一つは、〈第二章・二六〉「自灯明・法灯明」。
自分と法を拠り所として、それ以外のものを頼るな、というものです。
中村訳は「島」、渡辺訳は「燈明」で、原語は同じ綴りの言葉で、どちらの意味にも取れるのだそうで、現地の感覚では「島」と読むほうがふさわしいそうです。
渡辺訳は、漢訳仏典等で日本人の意識にも合う「燈明」をとっています。
*
中村元訳
《「それ故に、この世で自らを島とし、自らをたよりとして、他人をたよりとせず、法を島とし、法をよりどころとして、他のものをよりどころとせずにあれ。」》
渡辺照宏訳
《「アーナンダよ、それ故に、自分自身を燈明とし、自分自身をよりどころとするがよい。他のものをたよってはいけない。法(真理)を燈明とし、法をよりどころとするがよい。他のものをたよってはいけない。」》
もう一つは、遺言とも言われる言葉、〈第六章・七〉「(諸行無常だから)怠ることなく、努めよ」です。
中村元訳では、《『怠ることなく修行を完成なさい』》で、
渡辺照宏訳では、《「怠らず努めるがよい」》となっています。
*
中村元訳
《『もろもろの事象は過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成なさい』》
渡辺照宏訳
《「もろもろの現象は移ろいゆく。怠らず、努めるがよい。」》
●人間的な面と民主的な部分
もう一つ付け加えておきたいこととして、第三章の(二)に、《○○は楽しい、××は楽しい》といった記述が出て来ます。
これを渡辺照宏さんは、自然への賛美で現世への告別の言葉という意味にとっておられるそうで、奈良康明さんも卓見と言い、「美しい」という訳が善いのでは書かれています。
(『ブッダ最後の旅をたどる』奈良康明/著 大法輪閣)
私も、同感です。
いかにも人間的なブッダ(釈尊)像が垣間見えるようで、嬉しく思います。
もう一つ上げれば―
「自灯明・法灯明」に先立つ部分、第二章の(二五)に、「教師の握り拳」というくだりが出て来ます。
ブッダ(釈尊)が私はすべての教えを伝えた、隠すものはない、というお話です。
インドのバラモンの師匠などは、ここからは秘義といって、師が死の直前に一部の弟子にのみ伝授する場合があるそうで、それに引き比べて、ブッダにはそういう面はないというのです。
そういう公平性があるというのです。
そう言えば、本経の冒頭に、衰亡を来たさないための七つの法が示されています。
ここで、民主的な教団の運営について説いているのです。
古代の段階でありながら、ブッダは現代から見れば意外に民主的、公平性のある教えを説いていたと言われています。
●自分を救えるのは、自分自身である
仏教というものは、基本的に自助努力の教えで、「自灯明・法灯明」などもその辺が現れていると言えるのでしょう。
人生は苦なり(一切皆苦)ということで、マイナス思考の宗教のように思われるのですが、そうではなく、苦とはその人自身が作り出すもので、心の持ち方で乗り越えられるもの、克服できるものだ(奈良康明『ブッダ最後の旅をたどる』による)、ということなのです。
真実(法)を知り、克服する方法(教え)をうけ、実践すればいいのだ、と。
自分を救えるのは自分自身である、ということなのではないでしょうか。
*【『大パリニッバーナ経』の解説書・入門書】 ともに講義や講座のテキストを基にした一般向けの初歩的入門書です。
・『ブッダ最後の旅をたどる』奈良康明/著 大法輪閣 2012/9/6
―中村元訳「ブッダ最後の旅-大パリニッバーナ経-」をテキストに用いた連続講義録。最晩年のブッダの死出の旅を偲びつつ、人間ブッダの心の襞に寄り添い、その深い教えを説き明かす。
・『ブッダ最後のことば』田上太秀 NHK出版 2013.6.25
―中村元訳パーリ語版『ブッダ最後の旅―大パリニッバーナ経』、著者訳大乗仏典『ブッダ臨終の説法―大般涅槃経』を基に、新旧二つの『涅槃経』を比べながら、ブッダの“遺言”「無常だから怠けるな」の意味を解説する。
*【講師・佐々木閑氏の NHK「100分de名著」の本】・『NHK「100分de名著」ブックス 般若心経 』
・『NHK「100分de名著」ブックス ブッダ 真理のことば』
※
私の読書メルマガ『古典から始める 楽しい読書』では、昨年から原始仏典を取り上げ、紹介しています。
・2014(平成26)年9月30日号(No.136)-140930-「原始仏教(2)原始仏典(1)スッタニパータ(前編)」
・2014(平成26)年10月31日号(No.138)-141031-「原始仏教(3)原始仏典(1)スッタニパータ(後編)」
・2015(平成27)年1月31日号(No.144)-150131-「原始仏教(4)原始仏典(2)『ダンマパダ』(前編)」
・2015(平成27)年2月28日号(No.146)-150228-「原始仏教(5)原始仏典(2)『ダンマパダ』(後編)」
・2015(平成27)年3月31日号(No.148)-150331-「原始仏教(6)原始仏典(3)『大パリニッバーナ経』(前編)」
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