牧歌的純愛悲恋物語『ポールとヴィルジニー』光文社古典新訳文庫
『ポールとヴィルジニー』の新訳本が7月10日に出ています。
嬉しいことです。
(画像:新訳『ポールとヴィルジニー』と牧歌的恋愛小説の祖ロンゴス『ダフニスとクロエー』と北杜夫版『ダフニスとクロエー』と言われる『神々の消えた土地』)
読書メルマガで牧歌的恋愛小説の祖である、ロンゴスの『ダフニスとクロエー』を取り上げたとき、参考の一編として挙げました。
★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2013(平成25)年3月31日号(No.101)-130331- 牧歌的恋愛小説の祖~『ダフニスとクロエー』ロンゴス
http://archive.mag2.com/0000257388/20130331120000000.html
が、いざ探すと現行本が見当たりません。
仕方なく図書館の書庫の本借り出して読みました。
若い頃はどこの文庫でも出ていたと記憶しています。
実際に調べてみると岩波始め、新潮、角川、旺文社等の文庫から出ていました。
ところが今、書店で手に入る本がほとんどないことを非常に残念に思いました。
確かに文学史的に見て「これ」というほどの作品ではないのかもしれません。
ありきたりなストーリーで、通俗的な恋物語かもしれません。
小説としても、現代人の眼から見ると色々と突っ込みどころも見つかります。
しかし、伊藤左千夫『野菊の墓』と並ぶ幼馴染同士の牧歌的純愛悲恋物語です。
よくあるパターンの話でしょうけれど、いつの時代も愛され、求められる、心打つ一作だと思います。
だからこそ、二百年もの間生き残ってきたのです。
《あのナポレオンも愛読した》と帯にありますように、当時から愛され続けているのです。
『ポールとヴィルジニー』光文社古典新訳文庫 ジャック=アンリ・ベルナルダン・ド・サン=ピエール/著 鈴木雅生/訳
地図・挿絵(キュルメール版より木版画21点)入りがいいですね。
地図はオリジナルのようです。
こういうのを見ていると、はまってしまいます。
『宝島』や『十五少年漂流記』、『ロビンソン・クルーソー』『ガリヴァ旅行記』といった弧島もの秘島ものを思い浮かべます。
原著は1788年作品。
『自然の研究』第四巻に付けられた挿話だったものが好評を得て独立したという。
文学的な価値について、少し触れましたが、本作品は、西洋文明に対し反旗を翻すような作品でもあります。
西洋文明を批判する反西洋文明的な描写や話の展開が見られます。
西洋の文明社会からはみ出した人たちの子供たちである主人公は、自然の中で素直に自分の力で生きて行くことを学んで育ちます。
しかし、西洋文明社会を良しとする考えに負けて、娘を送り出してしまいます。
ところが、自然の中で暮らしてきた娘は、文明社会に馴染めず、帰ってきます。
ようやく島に帰還したとおもいきや、嵐に遭遇し、恋人の前で命を落とします。
師であり年の離れた友人でもあったという、「自然に還れ」でも有名なジャン=ジャック·ルソーの影響を受けているところがあるのでしょうか。
自然を愛し、自然に密着した働く人間の価値を描いた作品でもあります。
そういう意味でも、今また読まれるべき作品であるのかもしれません。
《... いいかい、ポール、善い行いというのは、徳と結びついた幸福なんだ。これこそがこの世でもっとも確実で、もっとも大きな幸福なんだよ。快楽、安逸、愉悦、富、名誉、そんなものは、この世を仮の宿とするはかない人間が追い求めるものではない。考えてもごらん、財産を求めてたった一歩踏み出しただけで、われわれは坂を転がり落ちるように不幸のどん底まで突き落とされてしまったではないか。... 》p.212こんな調子の文章が次々と展開され、ちょっと説教くさいところもありますが。
一度手に取ってもらえれば、と思います。
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