謀迷戯驚怪、五目短編集『ジャック・リッチーのあの手この手』を読む
他社の短編集が『このミステリーがすごい!』で第一位になるなど、人気の短編作家の久しぶりの短編集。
今回は、監修者の小鷹信光氏がリッチーの息子さんから入手した資料等から選んだ、全23編日本未紹介のオリジナル短編集。
『ジャック・リッチーのあの手この手』ジャック・リッチー/著 小鷹 信光/監修・翻訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2013/11/8)
監修の小鷹さんは、全23編を第一部「謀之巻 はかりごと」、第二部「迷之巻 まよい」、第三部「戯之巻 たわむれ」、第四部「驚之巻 おどろき」、第五部「怪之巻 あやし」の五部に分類し、巻頭の「前口上」と巻末の「収録作品解題」の文章でそれぞれの作品について解説されています。
これを読むのも楽しみです。
[収録作品]
▼第一部「謀之巻 はかりごと」
儲けは山分け
寝た子を起こすな
ABC連続殺人事件
もう一つのメッセージ
学問の道
マッコイ一等兵の南北戦争
リヒテンシュタインの盗塁王
▼第二部「迷之巻 まよう」
下ですか?
隠しカメラは知っていた
味を隠せ
ジェミニ74号でのチェス・ゲーム
▼第三部「戯之巻 たわむれ」
金の卵
子供のお手柄
ビッグ・トニーの三人娘
ポンコツから愛をこめて
▼第四部「驚之巻 おどろき」
殺人境界線
最初の客
仇討ち
保安官が歩いた日
▼第五部「怪之巻 あやし」
猿男
三つ目の願いごと
フレディー
ダヴェンポート
リッチーの短編小説は、オチとヒネリで読ませるアイデア・ストーリーが主体です。
この短編集では、基本的にはミステリを中心に、SFやホラー的なものからウェスタンやロマンス風の味付けのものまで、多彩なバリエーションが楽しめます。
私の好みの一つは、冒頭の第一部「謀之巻 はかりごと」に登場する、シリーズ・キャラクター<ターンバックル刑事>もの3編から、まず過去の犯罪を暴く“迷宮課”もの「寝た子を起すな」。
次に「ABC連続殺人事件」は、迷推理型の一編なのですが、執事や双子といった人物を配して、結構本格的な連続殺人テーマの謎解きものをなぞり、おもしろく仕上げています。
ミステリ系では他に、第二部「迷之巻 まよう」の「味を隠せ」(“夫と妻に捧げる犯罪の定石くずし”と小鷹氏)、第四部「驚之巻 おどろき」の「最初の客」(強盗事件の裏)に「保安官が歩いた日」(人間、評判は大事ってことか)。
人間の持つおかしさを感じさせるのが、第二部「迷之巻 まよう」の「下ですか?」(飛び降り自殺を説得する刑事のやり取り)と第三部「戯之巻 たわむれ」の「金の卵」(“私立探偵捜査小説の定石茶化し”と小鷹氏)。
第四部「驚之巻 おどろき」の「仇討ち」(こういうまとも?な感じが好きです。オチもいい)。
そして一番の好みは、ロマンス系です。
第三部「戯之巻 たわむれ」の「ビッグ・トニーの三人娘」「ポンコツから愛をこめて」、第五部「怪之巻 あやし」の「猿男」。
オチやヒネリはないのですが、逆に新鮮な感じがします。
あと、第五部「怪之巻 あやし」の「三つ目の願いごと」と「フレディー」が、また意外にいいですね、オチ。
ホント、楽しめる短編集でした。
私のベスト3は、「下ですか?」「味を隠せ」「保安官が歩いた日」。
裏ベスト3は、「仇討ち」「ビッグ・トニーの三人娘」「猿男」。
【ジャック・リッチーの短編集】
クライム・マシン (河出文庫)
カーデュラ探偵社 (河出文庫)
10ドルだって大金だ (KAWADE MYSTERY)
ダイアルAを回せ (KAWADE MYSTERY)
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