ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版
図書館で見つけたので読んでみました。
↓の記事でも紹介しました、
2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』
ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』の短編集(一短編と三中編収録)です。
『永遠のアダム』 ジュール・ヴェルヌ/著 江口清/訳(文遊社 2013.6.1)
これは、昔、パシフィカ版『永遠のアダム・エーゲ海燃ゆ (1979年) (海と空の大ロマン)』収録)、『洋上都市 (1979年) (海と空の大ロマン)』に収録されていた作品で、その復刊です。
私は、「永遠のアダム」「老時計師ザカリウス」の二中編は、古屋健三氏の訳本、集英社『ドクター・オクス』 ヴェルヌ全集〈第24〉ドクター・オクス (1969年) (コンパクト・ブックス)(「永遠のアダム」「ザカリウス師」)で読んでいます。
初読は、短編「空中の悲劇」と中編「マルティン・パス」の二編となります。
「永遠のアダム」は、没後(1905年)に発表された作品で、息子ミシェルの手になるものという説もあるそうですが、私にはわかりません。
作風が違うと言われれば、そうかもしれません。
ただ私は、ヴェルヌの作品をすべてを読んでいるわけではないので、ホントのところは何とも言えません。
内容は、『旧約聖書』の「ノアの方(箱)舟」等の世界各地によくある洪水伝説に基づく文明の変転に関するお話。
遠未来の世界で一人の学者が発見した文書は、文明を謳歌していた「現代」(ヴェルヌの時代)における大陸沈没と、その後の弧島での退行した生活の日々を綴ったものだった。
人類の歴史は、海に消えた伝説の大陸アトランティスの文明のように、栄枯盛衰を繰り返すものなのだろう、という。
「空中の悲劇」は、当時の気球開発の歴史を基にした創作、のちの(当時の)最新の科学技術の解説をストーリーに織り込む手法の一端をのぞかせる。
気球の探検を始めようとすると、一人の気球狂?が乗り込んできて大騒ぎ…、という冒険譚。
「老時計師ザカリウス」同様、一種のマッド・サイエンティストものといったところでしょうか。
結末は悲劇ですが、気球で旅する感じが、<驚異の旅>第一弾『気球に乗って五週間』を連想させ、楽しく読めました。
「マルティン・パス」は、科学的な要素のない素の冒険もの。
原住民とスペイン人、その混血人の対立を背景に、原住民の主人公マルティン・パスと、支配層であるスペイン人の娘(と判明する)との恋が巻き起こす悲劇を描く。
主人公が娘の父親とともに、連れ去られた娘を奪回するべく追跡するが…。
「老時計師ザカリウス」は、驕れる時計職人が破滅するという、科学の思いあがりを描いたマッド・サイエンティストもの。
スイスの高名な時計職人だったザカリウスの製作した時計が次々と止まり始め、それとともにザカリウスの命も衰えるという現象が起こる。
弟子の青年は師の娘と結婚を誓う仲だが、娘との結婚を条件に時計の命を取り戻させようという不思議な人物が登場し、一同は最後に残った時計台へ向うが…。
「空中の悲劇」「マルティン・パス」「老時計師ザカリウス」の三作は、それぞれ1851年、1852年、1854年の発表で、<驚異の旅>シリーズで人気作家となる以前の作品です。
それぞれ、以後のヴェルヌを彷彿とさせるところのある作品になっています。
そういう意味では読むに値する作品と言えるでしょう。
逆に言えば、<驚異の旅>と呼ばれるヴェルヌの奔放なイマジネーションに満ちた冒険物語を求める人には、ボリュームの点からも内容的にも物足りない作品集と言えるかもしれません。
ただ、それぞれ原書の挿絵が掲載されていて、その面では買いかもしれません。
(ヴェルヌの作品では、挿絵のウェイトは大きいですからね。)
私は、買うべきか否か迷っているというのが、実状と言えるでしょう。
うーん!?
★新刊ニュース★ 7月27日(28日?)、文遊社からヴェルヌ復刊の第2弾『ジャンガダ』が出版されました。
理由の一つは、ゲームになっているということのようです。
なんにしろ、長らく手に入りにくかったヴェルヌの本が手に取れ読めるのは、うれしいかぎりです。
『ジャンガダ』ジュール・ヴェルヌ/著 レオン・ベネット/イラスト 安東 次男/訳 文遊社(2013/7/27)
元本は、集英社コンパクトブックス版<ヴェルヌ全集>第20巻『ジャンガダ』のようです。
《「夜は美しく、大筏(ジャンガダ)は流れのままに進む」 イキトスの大農場主の秘めたる過去、身に覚えのない殺人事件、潔白を示す暗号は解けるのか!? アマゾンの川面が黒く、金色に光る……ジュール・ヴェルヌ、圧巻の長篇小説。レオン・ベネットによる、挿画84点を収録した完全版。書容設計:羽良多平吉 》
《イキトスの大農場主の秘めたる過去、身に覚えのない殺人事件、潔白を示す暗号は解けるのか!?アマゾンの川面が黒く、金色に光る―ジュール・ヴェルヌ、圧巻の長篇小説。 》
*参照:
・『レフティやすおの左組通信』
「ジュール・ヴェルヌ Jules Verne コレクション」
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