ローマの哲人~セネカ『生の短さについて』
―第105号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2013(平成25)年5月31日号(No.105)-130531-
ローマの哲人~セネカ『生の短さについて』
http://archive.mag2.com/0000257388/20130531120000000.html
・『生の短さについて 他二篇』セネカ 大西英文/訳 岩波文庫 2010.3.16
●日本の西洋哲学史とセネカ
本誌本文で紹介しましたように、中野孝次氏のセネカに関する著作『ローマの哲人セネカの言葉』(岩波書店 2003.9)
の中で、こんなふうに書いています。
氏は日本ではセネカの著作は、茂手木元蔵氏の訳業以外にほとんど何もない状況であるのに対して、氏が留学されていたドイツやイギリスなどでは比較的安価に、かつすべての著作が手軽に手に入れられる状況にあるのだ、と。
これはセネカの哲学というものが、『論語』のようなものだからで、『論語』を教養として身につけていた明治期の日本人は、セネカを必要としなかったからではないか、というふうに解釈されています。
しかし、これからの日本人にとってセネカは、役に立つ処世術としての価値があるだろう、と。
中野孝次氏が経験されたように、ドイツ始めヨーロッパ諸国ではセネカの哲学書というものが、比較的安価で気軽に手に入る状況にあるそうです。
これは、岩波文庫『生の短さについて 他二篇』大西英文氏の「解説」によりますと―
一つにはキリスト教との絡みがある、ということ。
博愛主義や神の試練、奴隷制批判、人類平等の思想といったセネカのストア哲学の思想とキリスト教の思想との間にある重なり―類似性が親近感を抱かせる。
もちろん、セネカはキリスト教徒ではないのですが、彼の描く神のイメージがそのままキリスト教の神のイメージとかぶるのです。
それが、のちのキリスト教発展の基盤ともなっている、ということでしょう。
もう一つの理由としては、欧米文化の基層として古代ギリシアやローマの文化が位置づけられていること、古典教育の伝統として連綿と続いているという点があるそうです。
一方、わが国では、哲学と言えば、本家本流の元祖・古代ギリシアの哲学―ソクラテスはじめ、プラトン、アリストテレスといったところであり、その後は、主だった近代の哲学者たちへと進んでしまいます。
しかし、歴史の流れとして、古代ギリシアの後には古代ローマがあり、中世から近代へとつながってゆきます。
確かに、大きな流れの中では、少なくともキリスト教徒でもない東洋のわれわれにとってはあまり大きな存在ではない、と解釈されるのでしょう。
古代ローマの文化にはオリジナルが少ない、とも言われるそうです。
哲学にしてもそうでしょう。
ローマの哲人と言われる人―キケロにしてもセネカにしても、ギリシア哲学をラテン語に翻訳紹介するような業績はあっても、自ら体系的な哲学を生みだしてはいません。
私の手元にある初心者向け<西洋哲学史>の本にも、セネカの文字はありますが、後期ストア派の哲学者の一人という程度の記述です。
著作にはまったく触れられていません。
*『概念と歴史がわかる 西洋哲学小辞典』生松敬三 木田元 伊藤俊太郎 岩田靖夫編(ちくま学芸文庫 2011.9)
古代ローマで挙げられているのは、マルクス・アウレリウスの『自省録』だけ。
それゆえ彼らの哲学は、無視されてしかたないような卑小なものに過ぎないのかもしれません。
しかし、だからと言って、無碍に捨ててしまってよいものとは言えないでしょう。
人によっては、何かしら大切なものがあるような気がします。
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