ヨーロッパ精神の始原~『アエネーイス』ウェルギリウス
―第103号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
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2013(平成25)年4月30日号(No.103)-130430-
ヨーロッパ精神の始原~『アエネーイス』ウェルギリウス
先月は春の訪れということで、古代ギリシアの恋愛小説の古典『ダフニスとクロエー』を紹介しましたが、今月はまたローマにもどります。
本誌では、ウェルギリウス『アエネーイス』をなぜ読むのかという点を中心に書いています。
ここでもう一度、ウェルギリウス『アエネーイス』について書いておきましょう。
2010年に日本で邦訳が出たスペインの作家のフェリクス・J・パルマのベストセラー『時の地図』(ハヤカワ文庫NV1227-1228)の上巻p.253に、ウエルズの『タイムマシン』を紹介する文章があり、こんな一文が見られます。
《未来で座礁したままもとの時代にもどれなくなっては大事なので、しかたなくタイムトラベラーはアイネイアスやオルフェウスやヘラクレスの範に倣って、いまやモーロックの天下となった地下世界におり、タイム・マシンを探した。... 》
ここで訳者は、<アイネイアス>にのみ、()付きで訳注をつけています。
それは、《ギリシャ=ローマ神話に登場するトロイアの英雄。冥界に導かれてローマ帝国建設のお告げを受ける》というものです。
これでおわかりかと思いますが、『アエネーイス』の主人公<アイネイアス>は、大部分の日本人にとって訳注が必要な未知の存在だ、ということです。
ところが、西洋では上の例を見てもわかるように―上の作家もスペインの人です―、<アイネイアス>の存在はごく常識の範囲だ、ということです。
現在、世界では西洋文明の影響を無視できません。
そして、その西洋文明の源流古代ギリシアにあるのです。
さらに古代ギリシアから現代に至るには、古代ローマを経ているという事実があるのです。
今の日本ではこの古代ローマがあまり注目されていないように感じます。
古代ギリシアの哲学も古代ローマを経て、ヨーロッパ全域に広がったといえるのではないでしょうか。
それにも関わらず、カエサルを除けば、まずほとんど無視されていると言っていいでしょう。
世界文学史年表には、ウェルギリウス『アエネーイス』の名が掲載されています。
しかるに、日本の一般の人にはまず読まれていません。
ホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』は有名ですし、文庫本でも出版され、読んでいる人も多いでしょう。
ところがそれを本歌取りしたとも言われる、古代ローマ建国の叙事詩、ウェルギリウス『アエネーイス』は、昔は岩波文庫から出ていたようですが、今は出ていません。
古代ローマを代表する大詩人といわれるウェルギリウスですが、ダンテの『神曲』の地獄・煉獄の案内人として名のみ知られているだけ、と言っていいでしょう。
こういう状況で本当に西洋文明を理解できるのでしょうか。
現代の西洋文明と敵対する世界状況を理解できるのでしょうか。
私は疑問だと思っています。
まあ、そういう大きな世界的な危機的状況との関連は横に置いておいたとしても、文学的に見ても、面白いものがあります。
それは、文学の、芸術の流れといったものについて考えるときに、です。
その辺のお話は、またいずれ「私の読書論」の方で考えてみましょう。
・フェリクス・J・パルマ『時の地図』上巻 ハヤカワ文庫NV1227,1228(2010)
・ウェルギリウス『アエネーイス』京都大学学術出版会 西洋古典叢書(2001/04)
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