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2012.03.07

雑談のネタ本、それ以上でも以下でもなく~『「右」と「左」の面白ネタ事典』北嶋廣敏

二月の初めに出た本です。

まだ全部読み終えたわけではないのですが、
本は読んでる途中が一番面白い…というわけで、書いておきます。

北嶋廣敏/著『「右」と「左」の面白ネタ事典 必ず誰かに話したくなる!』 (PHP文庫 2012.2.3)


目次
第1章 なぜ時計の針は右回りなのか?『暮らし』の中の「右」と「左」
第2章 男性と女性、どちらに左利きが多いのか?『利き手』をめぐる「右」と「左」
第3章 心臓は思っているほど左寄りではない?『脳と体』にかかわる「右」と「左」
第4章 なぜ洋服は男物が「右前」で、女物が「左前」なのか?『しきたり・マナー』にちなむ「右」と「左」
第5章 飛行機はなぜ左側から乗るのか?『陸海空の交通』についての「右」と「左」
第6章 相撲の「東西」は昔「左右」だった?『スポーツ・芸能』に見られる「右」と「左」
第7章 なぜ「右遷」ではなく「左遷」なのか?『言葉』にまつわる「右」と「左」
第8章 仏像のパンチ・パーマは左右どちら巻きか?『神道・仏教』についての「右」と「左」
第9章 フクロウの耳は左右で位置が異なる?『動植物』にかかわる「右」と「左」
第10章 坂本龍馬はなぜ右手を懐に入れているのか?「右」と「左」の『人物エピソード』


ちょっとした雑談の時に役立つネタとなりそうな、左利きの話題も含めて、「右」と「左」に関する話題を、既存のあれこれの本から集めて紹介したものです。

私は左利きライフ研究家として、「左右学」や「右と左」に関する本も一応目を通すようにしています。

もちろん本書にも「左利き」に関するネタも色々登場します。
特に「第2章 男性と女性、どちらに左利きが多いのか?『利き手』をめぐる「右」と「左」」という章題になっており、ここを中心に左利きの話題があちこちに散らばっています。

ただ、あくまでも寄せ集めのネタ本です。
巻末の参考文献にある本からの情報の二次使用による、「二次加工本」です。

本書自体は、学術書ではないので、それでどうだということはありません。
気軽に「話のネタ」にしてもらえばいいわけです。

気軽に読んで楽しんでもらえることを願っている。/また知人との雑談や、酒の席などで、「話のネタ」としてでも利用してもらえればたいへん嬉しい。
「はじめに」p.5より

とはいえ、やはり「怪しい」―信憑性に疑問のある―話は避けるに越したことはないと思います。

特に私のように、「左利き」問題の啓蒙や認知に気を遣っているものとしましては、あまりに「怪しい」情報が独り歩きすることは避けたいもの、と考えています。


 ●二次加工本としては…

「二次加工本」の場合に問題となりますのは、どのような元ネタから作られているか、です。

本書の場合、巻末の文献リストを見ますと、比較的新しい本も多くそれなりの努力は見えますが、古い本もかなり散見できます。

例えば、どっか国で事故を起こした原発並みに40年近くの歳月が過ぎているような本もあります。

以下は、ざっと調べた結果です。(全32点中19点)

1972年刊『右きき世界と左きき人間』マイケル・バーズリー 西山浅次郎訳 TBS出版会(発売・産学社)
1976年『反対称―右と左の弁証法』ロジェ・カイヨワ 塚崎幹夫訳 思索社
1980年『右と左―対称と非対称の世界』坪井忠二 サイエンス社 サイエンス叢書
同年刊『右手の優越』R・エルツ 吉田禎吾、内藤莞爾訳 垣内出版(その後、ちくま文庫に―リストは文庫版)
同年刊『左利きの本―右利き社会への挑戦状』ジェームス・ブリス/ジョセフ・モレラ 草壁焔太訳 講談社
1987年刊『右利き・左利きの科学』前原勝矢 講談社/ブルーバックス

(20年以内)
1992年刊『新版・自然界における左と右』M・ガードナー 坪井忠二、児島弘訳 紀伊国屋書店
1994年刊『左利きは危険がいっぱい』スタンレー・コレン/著 石山鈴子訳 文藝春秋
1995年刊『左手のシンボリズム』松永和人 九州大学出版会(リストは「新版」)
同年刊『「左と右」で自然界をきる』根平邦人 三共出版
1997年刊『左右を決める遺伝子―からだの非対称性はなぜ生じるのか』柳澤桂子 講談社ブルーバックス
1998年刊『生物界の左と右』根平邦人 共立出版

(10年以内)
2004年刊『左右の民俗学 (歴史民俗学資料叢書 第2期第5巻)』礫川 全次編 批評社
2005年刊『右と左のはなし - 自然界の基本構造』塚崎幹夫 青土社
2006年刊『左右/みぎひだり あらゆるものは「左右」に通ず!』國文学編集部編 學燈社
同年刊『「左利き」は天才?―利き手をめぐる脳と進化の謎―』デイヴィッド・ウォルマン 梶山あゆみ訳 日本経済新聞社
同年刊『非対称の起源 偶然か、必然か』クリス・マクマナス 大貫昌子訳 講談社ブルーバックス
2008年刊『左対右 きき手大研究』 八田武志 化学同人 DOJIN選書
2009年刊『暮らしのなかの左右学』小沢康甫 東京堂出版


19点の結果から推定しますと、
「40年以内20年以上前」6点、「20年以内10年以上前」6点、「10年以内」7点
と、それぞれほぼ同率です。

かなり古い本が占めている、と言えます。
全体的に見ても、半分ぐらいは古い本だろう、と推定できます。

古くても、しっかりした内容のものから適切に拾っていれば、問題はないわけです。


しかし、私が知っている情報から推察したことを言いますと―

例えば、
左利き短命説に関して
「第2章 男性と女性、どちらに左利きが多いのか?『利き手』をめぐる「右」と「左」」
<左利きの人は短命である!?> とあります。

ここでは、コレンの著作・1994年刊『左利きは危険がいっぱい』石山鈴子訳 文藝春秋
から「第12章 左手利きは早死なのか?」辺りの情報を拾っています。

しかし、2007年刊『変な学術研究1』エドゥアール・ロネ 高野優/監訳 柴田淑子/訳、早川書房 ハヤカワ文庫


(科学ジャーナリストによるおもしろ科学研究の雑学本といった内容)でも、左利き短命説を取り上げていますが、ここではコレン以降の研究結果を扱っています。

本書では、この内容には当然触れていません。
参考文献として利用していないからです。
この辺は残念です。

そこで、私の思うに、確かに情報の拾い方そのものに問題はないようだが、全体に情報が古く、なかには気を付けた方がいいものも含まれているのではないか、ということです。


要するにどんな本をネタ本に使うかで、こういう「二次加工本」の内容が規定されるわけです。

そこで、「どのような本をネタ本に使えるか」という能力が、こういう「二次加工本」の著者に求められます。


 ●同種の既刊本と比べると…

同種の既刊本に、
1994年刊『【右】の不思議?【左】のナゾ! おもしろショックの隠れた法則』不思議データ調査室編 青春出版社 青春BEST文庫

目次
序章 不思議あふれるワンダーランド〔右〕と〔左〕の世界へようこそ!
第1章 自然界をも支配する〔右〕と〔左〕のマカ不思議法則
第2章 驚異の小宇宙・脳をめぐる〔右〕と〔左〕の知られざる真実
第3章 ヒトの体を自在にあやつる〔右〕と〔左〕の超神秘パワー
第4章 日常生活に秘められた〔右〕と〔左〕の奇妙な暗号
第5章 まさか、こんなところにも!?〔右〕と〔左〕のおもしろ謎学


1998年刊『[右]と[左]の気になる面白話』びっくりデータ情報部編 KAWADE夢文庫 河出書房新社

目次
第1章 チキンの左脚のほうがうまいってホント?
第2章 なんでエスカレーターでは右側を空けるんだろう?
第3章 そういえば、なぜ腕時計は左腕にするの?
第4章 視線をそらす方向でその人の気質がわかる
第5章 左利きのほうがセックスがうまいといわれるワケ
第6章 電車の運転席が左になった当時の事情とは
第7章 道を右左で教えてくれない街があるらしい
第8章 カタツムリが右巻きになる秘密をご存じか

といった本がありました。

 

これらに比べますと、「○○調査室」や「××情報部」といった怪しげなもの?でなく、著者が「個人」で、その略歴も明記され、「怪しさ」はかなり減っています。
内容を比べましても、かなり「怪しさ」が減殺されている感じがします。


例えば、「ホルン」の項では、
本書では、「第6章 相撲の「東西」は昔「左右」だった?『スポーツ・芸能』に見られる「右」と「左」」<左手で操作するホルンは左利き用の楽器?>
で、「右手の形を変えることで音程を変えていた」p.178 としています。

ところが、1998年刊『[右]と[左]の気になる面白話』びっくりデータ情報部編 では、
「第3章 そういえば、なぜ腕時計は左腕にするの?」<なぜホルンはわざわざ左手で演奏するのか?>では、その辺に触れていません。


以上、他にも色々と書きたいことがありますが、この辺にしておきましょう。
(第一まだ読みかけですし、断定的なことは言えません。)


 ●左右学の本、他

本書の参考文献とはなっていませんが、左右学の本として以下のような本があります。

1995年刊『左右学への招待―自然・生命・文化』西山賢一 風濤社
2005年刊『左右学への招待 世界は「左と右」であふれている』西山賢一 光文社文庫(上記からの新版・文庫化)

こちらは、オリジナルの研究や所見によるもので、「一次本」と言えるでしょう。


他に、最近私が読んだ本に
『謎山トキオの謎解き分析―右と左の50の謎』丸山健夫 日科技連出版社 2010.12
という本があります。

副題に「右と左の50の謎」とありますように、大学教授が女子大生を相手に左右の謎を解明するというお話仕立てになっています。
基本的には「問題解決のトレーニング本」なのですが、その素材に「右と左」の謎を活用し、「調べる道具」を紹介しながら謎解きを進めてゆきます。

左利きライフ研究家としましては、多少甘いんじゃないかと思う部分もあるのですが、なかなか勉強になりました。
(またいずれ紹介したいものです。)

謎山トキオの謎解き分析―右と左の50の謎 丸山 健夫


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※本稿は、gooブログ「レフティやすおの新しい生活を始めよう!」に転載しています。
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