名著と名作の違い
私の読書論-27-初心者のための読書の仕方を考える(11)
最初の一冊の選び方(8) 本選び(選書)の方法 III
―第73号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記
★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2012(平成24)年1月15日号(No.72)-120115- 私の読書論-27-初心者のための読書の仕方を考える(11)
最初の一冊の選び方(8) 本選び(選書)の方法 III
本誌では、古典の名著・名作を紹介しています。
この「名著」と「名作」の違いを、改めて確認しておきましょう。
「名著」とは、「名高い著書」「優れた著書」のことで、いわゆる“リアル”な本です。
フィクション(虚構)ではないものを指します。
主に、科学や思想、宗教、哲学等の論文、およびその解説書の類を言います。
ビジネス関係の本の自己啓発書なども、こちらに含まれるケースが多いようです。
また、文字通り「ノンフィクション」もあれば、「ドキュメンタリー」もあります。
「日記」や「自伝・伝記」も、基本的には嘘を書かないという前提の下に書かれているとされていますから、これも含みます。
本屋さんの区分で言えば、「教養書」と呼ばれるものです。
(ただし「日記」や「自伝・伝記」は、文学作品として扱うケースもあります。
この場合は「名作」、本屋の区分では「文芸書」となります。
ややこしいですね!)
一方「名作」は、「名高い作品」「優れた作品」。
すなわち、作りもの、虚構、創作です。
「小説」や「戯曲」、「詩」、「短歌」、「俳句」などの文学作品。
本屋の分類では、「文芸書」となります。
(もちろんこの言葉は、文学作品―本以外にも、絵画や彫刻等の美術、音楽、映画等の他のジャンルの芸術作品一般に使います。)
で、問題は、「随筆・エッセイ」の類です。
創作的な「随筆・エッセイ」もあります。
一般には、「随筆」は《見聞・経験・感想などを気の向くままに記した文章》―『広辞苑』第六版。
「エッセイ」は《自由な形式で書かれた、思索性をもつ散文》―同。
思索性を基準に、「名著」と「名作」を分けるのが、わかりやすいかと思います。
すると、「随筆」は「名作」、「エッセイ」が「名著」ということになります。
もちろん、こんなふうに単純に分けられるという保証はありません。
実際には、非常に複雑といわねばなりません。
(先ほどの「日記」や「自伝・伝記」も同様でした。)
例えば、昨年惜しくも亡くなられた北杜夫さんの<どくとるマンボウ>シリーズはどうでしょうか?
ユーモア系のエッセイとしては文芸的でもあり、時に非常にシリアスで思索性に満ち、名著と呼びたい作品もいくつかあります。
*北杜夫『どくとるマンボウ航海記』
―出世作。最初のエッセイ。海外渡航がまだ珍しかった敗戦後の時代、アジア、アフリカ、ヨーロッパを巡るマグロ漁の調査船船医としての体験を描く。
同『どくとるマンボウ青春記』
―文学にあこがれ、山に登る…寮生活の若き日々。旧制高校時代の<古き良き時代>の青春の記録。
「エッセイ」の語源となっている、モンテーニュの「エセー」は、文学的作品ともされながら、哲学書の範疇にも入っています。
そうすると、「名作」で「文芸書」であり、「名著」で「教養書」です。
*モンテーニュ『エセー』
エセー〈1〉人間とはなにか 荒木 昭太郎/訳(中公クラシックス)
―3巻107章『エセー』新版を、〈1〉人間とはなにか〈2〉思考と表現〈3〉社会と世界 とテーマ別に全3巻に編集した選集の第1巻。
エセー〈1〉宮下志朗/訳 白水社
―文中に(a)(b)等の第1版以降の追加の履歴を示す記号を付した従来のものとは異なり、自然に読める翻訳としたシリーズの第1巻。
一見簡単そうで、実は個別に見るとややこしい。
現実というものは、そういうものなんでしょうね。
単純にはいきません。
※本誌で取り上げた本:
『これが「教養」だ』清水真木(しみず・まき)/著 新潮新書 2010
―「教養」とは何か? 本来の意味は? 現代においては? を解き明かす。
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※本稿は、『レフティやすおの作文工房』より
2011.12.31「名著と名作の違い」を転載したものです。
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