週刊ヒッキイhikkii257 見えぬけれどもあるんだよ
◆編集後記(のようなもの)◆
-見えないものを大切に-
利き手について、生まれたての赤ちゃんには利き手はない、とか
生まれたときは右利き左利き半々なんだ、
それが右手を使わせることで右利きになるんだ、といったことをいう人がいます。
私は、そうではなく、利き手は生まれたときにはもう既に決まっている、と考えています。
遺伝が関係している、と。
まあ、遺伝と言いましても、右利きの遺伝子や左利きの遺伝子があるといった単純なものではなく、
引鉄になるものが遺伝するとでも言いましょうか。
右利きになるのは、
右利きそのものを選んだのではなく、右利きにつながる何かを選んだ結果で、
左利きになるのは、
左利きそのものを選んだ結果でも、右利きそのものを選ばなかった結果でもなく、
右利きにつながる何かを選らばないで、他の何かを選んだ結果かもしれません。
その辺の成因については、ともかくとして、
赤ちゃんの利き手です。
赤ちゃんには利き手がないように見えるだけで、実は利き手は決まっている、のです。
それはちょうどこんなものです。
通りすがりにビルの工事現場を見て、どんなビルが建つのか「見える」人はいないでしょう。
でもどんなビルになるのかは、あらかじめ決まっています。
設計図はできているのです。
それに従って建築中なのです。
子供の利き手も同じです。
設計図はできていて、それに従って成長してゆくのです。
それは見えないだけです。
金子みすゞの童謡詩「星とたんぽぽ」にあるように、
「見えぬけれどもあるんだよ、/見えぬものでもあるんだよ。」
―なんですね。
その見えないものを大切にしてほしい、と私も思うのです。
その見えないものが見え始めたときになって、親たちは色々と悩むようです。
その見えなかったものが、どうやら「左利き」だったりすると…。
でも、見えなかったものが見え始める、ということは、
その時、既に工事が本格化している、ということです。
そこで手を加えるということは、本来の設計を勝手に変更することになります。
隣りが15階建てになったから、うちも10階建てを15階建てにしよう、
あるいは20階建てにしよう、とするようなものです。
既に設計図通り基礎工事が済んでいるものに勝手に継ぎ足すのは、危険です。
もちろん安全率を多めに掛けているので問題ない場合もあるでしょう。
しかし、ダメな場合もあるでしょう。
うまくいけばいいのですが、ダメなときはどうするのでしょう?
それと同じことを、左利きの子供についても考えるのです。
アカデミー賞を受賞した映画『英国王のスピーチ』の例もあります。
重度の吃音に悩むジョージ六世は、
幼少時、左利きとⅩ脚を「矯正」させられた苦い体験が一因だった、と言います。
あるがままに子供の姿を受け入れるのが一番だと思うのです。
左利きというのは、身体的な性質です。
背が高いとか低いとか、やせ型とか太り型とか、血液型の違いとかと同じです。
この子背が低そうだからといって、
牛乳を飲ませたら、バレーボールやバスケットボールをでもやらせたら背が高くなる、
というものでもありませんよね。
それはそれとして受け入れるしかないのです。
それを認めることで、長所として活かしてやれば、「輝く」のです。
「矯正」の「矯」という字には、
「ゆがみを正す。ためる。」という意味のほかに、
「うわべをかざる。いつわる。」という意味もあります。
左利きの子に右手を使わせて、「右利きに矯正する」ということは、
右手を使うことを正しい作法とする昔の考えから言えば、「欠点を正す」ことです。
けれど、
左利きの子供から見れば、「うわべをかざって、自分をいつわる」ことでもあるのです。
「角(つの)を矯(た)めて牛を殺す」(小さな欠点を直そうとして、かえって全体をだめにする)
ということわざもあります。
たかが利き手です。
右でも左でもいいじゃないですか!
でも、されど利き手です。
右利きの子は右利きとして、左利きの子は左利きとして、
そして、その中間的な子はその中間的な子として、
自分らしく生きる道を進ませてあげたいものです。
★左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii★
第257号(No.257) 2010/4/23「見えぬけれどもあるんだよ」
※【本誌で取り上げた本】
『みすゞさんへの手紙』矢崎節夫/選 JULA出版局 1998.7.24
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※本稿は、gooブログ「レフティやすおの新しい生活を始めよう!」に転載しています。
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