勝間和代/著『読書進化論』:レフティやすおが読む
たまには本の話もしましょう。
最近読んだ本から、この頃一般紙にも顔を見せるようになった、勝間和代氏の『読書進化論』を取り上げてみます。
勝間和代/著『読書進化論 人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか』小学館101新書 001(2008)
私は普段ビジネス書は読みません。
当然、勝間氏の本を読むのも今回が初めてです。
本書は、私のようなビジネス書に縁のない人間でも、読書に興味がある、読書好き・本好きの人ならば、つい手を出したくなる書名です。
そういう意味ではうまく“のせられた”わけで、この本を出す意義があった、といえます。
即ち、読者層を広げるという著者の作戦が成功した一例といえることになります。
まず一読後の感想をいいますと、
非常に「元気になる」、「前向きにものごとに取り組もう」という気持ちになれる本だ
ということです。
これは現在、百年に一度の金融危機などといわれ、景気が落ち目で暗い時代には、うってつけかもしれません。
この本を読んで、元気をもらい、自己革新を行い、「成功への道」を歩まんと欲する人たちが生まれてくれば、これほど世の中の役に立つことはありません。
そういう意味では思った以上に、評価できる本である、といえそうです。
私がおもしろいと思った点を一つ一つ挙げてゆきましょう。
(1)本、読書について―
本は、著者の「与太話」、経験談だ(120p:第二章 進化している「読む」技術)
この点は、過去にも同じような表現をされた方がいるのかも知れませんが、ストレートに「与太話」と決め付ける表現をした人は、私の記憶にはありません。その点は目立っています。
与太話だから、鵜呑みにしないで自己検証が必要だとか、疑似体験で学ぶとか、その辺のことは既に言われてきたことで、これはどうということはありません。
(2)読後の処理について―
思考の六段階を経て頭の中に整理する(99-102p:第二章)
知識、理解、応用、分析、統合、評価を思考の六段階としている。
このように段階を踏んで、本から学んだ知識を整理して、いつでも使えるようにしておけ、という。
19世紀の哲学者ショウペンハウエルの「思索」(斉藤忍随/訳『読書について他二篇』岩波文庫)の冒頭に、知識は蔵書と同じで、整理が必要である、として下のように書いている。
「何か一つのことを知り、一つの真理をものにするといっても、それを他のさまざまの知識や真理と結合し比較する必要があり、この手続きをへて始めて、自分の知識が完全な意味で獲得され、その知識を自由に駆使することができるのである。」同じことでしょう。
(3)読者への影響について―
再現性を持たせる(52-53p:第一章 人を進化させる読書がある)
読者が読後に容易に再現できるものであることが重要だ、という。
“ご利益”のないものには人は寄り付かない、というのは、何事にもいえる正論です。
本も、読んだだけの元が取れなければ、誰も読もうとはしません。
特に現代のように、本と競合するメディアも娯楽も、それぞれにいくつもある時代においては。
しかも、十年先二十年先にじわじわと効いて来るというのではなく、今すぐに可能な即効性の高いものでなければ、人の心を捉えることができない時代でもあります。
(悲しいことですが…。)
(4)本の送り手について―
「プレイス」「プロモーション」に工夫が必要(162p- 第四章 「売る」仕組みを進化させる)
私自身、もう二十年以上前のことになりますが、二十代後半から三十代初めまで、まちの本屋で働いていた経験があります。
本屋を取り巻く状況については昔のことしか知りませんが、今でも基本的には同じような状況にあると見ていいのではないかと思います。
だから、感じるのですが、著者も出版社も取次(本の卸屋さん)も本屋の人たちに対して、十分な対応をしていないのではないか。
書店人の「思い」や「志」を十分汲み取っていないように思います。
まだまだ書店の力を活かしていないのが、現状でしょう。
書店人も努力不足の面がありますが、それ以上に書店人の思いを活かす配慮とアイディアを、本の作り手側・送り手側が怠っているように感じます。
元書店人としましては、勝間さんのような人が増えて、書店の見直しが進むことを期待します。
具体的には、ネットとの役割分担および統合や連動という点でも、書店側が送り手側と協力してネットをもっと有効に利用する必要があるでしょう。
たとえば、
ブログを使えば、個人店でもある程度のことはできるはずです。
取次がポータルサイトを用意して、書店のブログを競争させてもいいし、そこに著者や出版社が参加して盛り上げれば、書店業界そのものが活性化するのではないでしょうか。
そういう場所で一冊一冊の書籍情報を交換することで、読者に便宜をはかれれば、本の売上も伸びてゆくはずです。
(5)社会貢献について:
印税寄付プログラム<Chabo!>(終章 これから「読みたい」「書きたい」「売りたい」と思っているみなさんへ)
初めて知ったのですが、印税の20%を寄付に回すというのは、一つの卓見でしょう。
10%だとやはり平凡な印象を与えます。
20%は著者の本気度が伝わり、好感度も上ります。
以前は、本の後ろのカバーに「EYEマーク」というロゴのついた本がありました。
(最近はどうなんでしょうか、よく知りません。)
視覚障碍者のための音声訳、朗読サービスに自由にご利用いただけます、といった内容でした。
こういった社会貢献も、著者の社会性を示すチャンスでもあり、且ついずれは回りまわって自分の本の売れ行きにも貢献してくれるはずです。
・・・
最近の本を読んでいて、どうも物足りなさを感じることが少なくないのです。
この本も、ではどうか、と問われますと、ウーン、と考えてしまいます。
私は本を評価するときに、その本の重さを量ります。
文字通り重量です。
手にしたときに重い本は、やはり中身も重い。
軽い本は中身も軽い。
これは意外に使える見極め法です。
しかし、元々小著の場合は、違ってきます。
文庫や新書はそれなりに、手軽に読んでもらおう、という意図で作られていることが多いのです。
本書もそういう新書本です。
それなりの軽さは致し方ありません。
その点を考慮しますと、読者の求めるものにも寄りますが、まずは妥当なところか、と思われます。
値段的にも、分量的にも読みやすさも、軽さのなかでは手ごたえのあるほうではないでしょうか。
“勝間本”の入門書としても、まずは最適なのではないでしょうか。
とりあえず、書店で“勝間本”があれこれ露出している状況を見て気になっている人は、この辺からお読みになられても良いのではないか、という気がします。
もちろん、本に、読書に、書店に、書くことに興味のある方は、まずは一読の価値ありでしょう。
大半は知っていることでも、それはそれなりにあなたの知識を補強してくれるはずです。
ちなみに、巻末「私を進化させた20人の著者」中、私と接点があるのは、(強)文芸:新井素子、(中)文芸:筒井康隆、哲学・心理学:中島義道、(弱)哲学・心理学:河合隼雄、著書としては『OUT』『七瀬ふたたび』だけでした。
勝間さんとは、進化の方向がかなり違っているようです。
私の進化の方向は、こちらから↓
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※本稿は、アメブロ「レフティやすおの作文工房」に転載しています。
※本稿は、オンライン書店ビーケーワン:『読書進化論 人はウェブで変わるのか。本はウェブに負けたのか』にTBしています。
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