文豪スティーヴンスンの大人のミステリ
久しぶりに本の話題でも。
新訳版が出版されたり、今年から始めました月刊メルマガ「レフティやすおの楽しい読書」で、青春時代からのお気に入りの愛読書の一つ『宝島』を取り上げることもあり(今月末発行予定の「レフティやすおの楽しい読書」第7号、登録は↓、もしくはサイドバーから→)、スティーヴンスンの本を、新訳による再読も含めていくつか読んでみました。
海洋冒険もの『宝島』や善悪二重人格を扱った『ジーキル博士とハイド氏』の二作が特に有名ですので、エンターテインメント系の作家と言う認識をお持ちの方が多いだろうと思います。
J・D・カーも絶賛するという、奇妙な発端が読ませるロンドン冒険奇談の連作短編集『新アラビア夜話』も書いています。
まさにそういう面を持つ人です。
ただそれは、一つはお金が必要であったことも理由としてあるようですが…。
で今回紹介しますのは、『宝島』創作のきっかけを作った張本人でもある義理の息子ロイド・オズボーンとの合作ミステリ二点です。
これらの作品は、今様のジェットコースター風のストーリイ展開のものや、現代社会を反映したらしいやたら人間の暗い面ばかり強調する心理的な“現代ミステリ”とは一味も二味も違った、まさに大人の読み物、芳醇なミステリ、もしくはミステリの源流、あるいは究極のミステリといえる物語です。
●その一、
『箱ちがい』国書刊行会 ミステリーの本棚(2000)
The Wrong Box(1889)
『宝島』創作のきっかけとなった義理の息子との最初の共作。
生き残った最後の一人が保険金を独り占めするという組合年金に入っている伯父を持つ従兄弟兄弟は、伯父が事故死したとカン違い、その死体をかくそうとするが…。
死体があちこちするストーリイも滑稽な登場人物たちもそれぞれに愉快で、見事なドタバタ・コメディです。
死体隠蔽と保険金詐欺が絡んでいる点では犯罪小説で、ミステリといえます。
しかし、実際には特に誰がどうなるというわけでもなく、(まあ実害がなかったとはいえませんが)奇妙な、ミステリともいえないミステリです。
さすがは文豪、序文にもあるように親バカでなく、息子の用意したらしいストーリイは設定も意外性に満ちています。その上にしっかりと肉付けを行い、楽しめる作品に仕上げ、見事な合作になっています。
●その二、
『難破船』駒月雅子/訳 ハヤカワ・ミステリ1771(2005)
The Wrecker(1992)
継子との合作第二弾長編。芸術家気質のアメリカ人青年はパリに出て芸術家を目指すが、父の死で仕送りが止まる。幸いなことに、一足先に芸術をあきらめてアメリカに帰国後、実業家となっていた親友の助けを受け、共同経営者として実業界に乗り出す。あるとき難破船の競売情報を得るが、法外な値がつき、アヘンの密輸船と読んだ二人は、これを競り落とし、いざ難破船回収に赴くが、そこには意外な難破船の謎が待っていた…。
さすがに文豪の晩年の作品で、キャッチコピーに<大人版『宝島』>とありますが、単なる絵空事の謎解き小説に終わらないように、登場人物たちの背景をじっくり書き込んだ大人の読み物―芳醇なミステリに仕上がっています。
巻末エピローグにこの作品の成立までの経緯やその形式についてなど解説されているのですが、そこに書かれているように、十分に練られた主人公たちの生い立ちなどの背景がじっくりと書き込まれ、味わい深い作品になっています。
箱ちがい (ミステリーの本棚)ロバート・ルイス スティーヴンスン
難破船 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)ロバート・ルイス・スティーヴンスン
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