"不動にされた男"リンカーン・ライム―『魔術師』
ジェフリー・ディーヴァー『魔術師(イリュージョニスト)』The Vanished Man(2003) 池田真紀子訳 文藝春秋(2004.10)
現代の安楽椅子探偵、ニューヨーク市警捜査顧問、犯罪学者リンカーン・ライム(&アメリア・サックス)シリーズ第五作。
今回は「デヴィッド・カッパーフィールドとハンニバル・レクターを合わせたような」犯人、イリュージョニスト"マレリック"との頭脳対決。
次々とマジックの出し物に見立てた連続殺人が発生する。
ライムとアメリアはこの事件に取り組む。マジックやイリュージョンに関する情報を求めて、ひとりのイリュージョニストの卵、カーラに協力を依頼する。
そうそうにライムは次なる犯行を予知し、アメリアは犯人を追い詰める。が、今一歩のところで逃げられる。
そして大胆にも犯人はライムを襲撃する。
この危機を脱したライムたちは、ついに犯人の名前にたどりつき、犯人の狙いが逮捕された極右武装組織の指導者の脱走に関わることであると知るが…。
脱出王と呼ばれた稀代のマジシャン、ハリー・フーディーニに魅せられた男、事故で妻を亡くし、やけどを負い、イリュージョニストとしての生命を絶たれた、損傷した左手を持つ男ウィアーは、復讐の炎を燃やす。
犯人は幾度も窮地に陥りながらも、慎重に準備をされた何重にも仕組まれたトリックにより、警察の手を逃れる。しかも本当の狙いがライムにもわからない。…
毎度のことながら、安楽椅子探偵としての頭脳比べとしての本格謎解きの醍醐味と、この辺のジェット・コースター・サスペンスには振り回される。でも一気に読んでしまう。二段組五百ページを越す分厚い本がまったく負担にならない。
『コフィン・ダンサー』に並ぶの凄腕の悪役の登場で、物語はいやがうえにも盛り上がる。ディーヴァーお得意の大どんでん返しのイリュージョンも大いに冴え渡る。シリーズ屈指のできばえであろう。
しかも人間ドラマとしてもアメリアとカーラの抱える女性問題、カーラの弟子と師匠の人間関係、ライムと犯人とのやり取りなどなど、多彩な人生模様を見せてくれる。
カーラが師匠のもとを去るシーンも記憶に残る。
・・・
―左利きの視点から―
左手の薬指と小指がくっついてひとつになったという特徴を持つ犯人、それはまさしくハンニバル・レクターを意識している。
そして、首から下は左手の薬指を動かすことしかできないライムと対比させている。
私はひそかにライムを「左利き(左手使い)の名探偵」のひとりに上げているのだが、ハンニバル、そしてこのウィアーは左手に特徴のある犯人ということになる。
今回このミステリの軸となっているマジックにおける「効果(エフェクト)」―観客の目に映るもの―と「手段(メソッド)」―陰で行われている演者の仕掛け―とは、いいかえれば「見かけ」と「本質」だ。
利き手・利き側というものも、「見かけ」―実際に使っている手・側―と「本質」―その人が持っている潜在的な資質―とに分けて考えるべきだ。
右手を使っていてもそれは「見かけ」にすぎず、本当は(その人の「本質」が)右利きかどうかはわからない。
同様に左手・左側を使っていても、左利きとは限らない。
たとえば大リーグのイチローや松井秀喜、サッカーの中村俊輔など。
ところが、世間一般では右手・右側を使えば右利き、左手・左側を使えば左利きという場合がある。
これは「利き」と「使い」の混同だ。
右手を使うのは「右手使い」であって、「右(手)利き」ではない。
だから右手を使うようになったからといって、「右利きになっちゃった」わけではない。「右手使い」になっちゃっただけで、本質は変わらない。
「利き」とは優位性である。どちらが得意であるか、より速いか、より正確か、より巧みか、…といった本来持っている普遍的な性質だ。
正しい利き手、利き側認識を持って欲しい。
(いやあ、またしても、話がそれてしまった…。)
※本稿は、gooブログ「レフティやすおの新しい生活を始めよう!」に転載して、gooブログ・テーマサロン◆左利き同盟◆に参加しています。
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