依頼人は左利き―ホームズの名推理「黄いろい顔」より
* 推理小説(ミステリ)と左利き―名探偵ホームズの場合 *
めずらしくホームズとワトスンが散歩に出ていた間に依頼人が訪問していました。その依頼人が忘れていったのがひとつのパイプです。
そのパイプの特徴からホームズは依頼人のことを色々と推理してゆきます。
「 … ほかにも何か変わったところがあるのかい?」私はホームズがまだパイプをひねくりまわしては、例によって考えこんでいるので尋いてみた。すると彼はパイプを持ちなおし、医学の教授が骨の講義でもするように、細長いひとさし指でコツコツたたいてみながら、「パイプというものは、時々きわめて面白いことを教えてくれる。懐中時計とくつひもを除けば、おそらくこれほど個性を現わすものはあるまい。もっとも今の場合は、そう大して重要な特徴も現われてはいないが、それでもこのパイプの持主が筋骨たくましい男で、左ききで、歯なみが丈夫で、ものごとに無頓着な性癖があり、経済上の苦労のない男だくらいのことはわかる」
いつもながらのホームズの名推理をワトスンが聞き出します。
「この男はランプやガスの火でパイプを吸いつける癖がある。 … ランプで吸いつければ、どうしたってガン首が焦げるに決ってる。そしてこのパイプでは右がわが焦げているところから、持主が左ききだと推定したわけさ。君のパイプをランプで吸いつけてみたまえ。右ききの君には左がわへ火をもってゆくのがいかに自然だか、よくわかるから。
むろん右ききだって左の手で吸いつけることがないとはいえないが、それはときたまのことだ。ふだんは右手を使うにきまっている。このパイプなんか、もっぱら左手ばかり使ってある。それからこの吸口は歯でかんであるが、これは筋骨たくましい精力家で、丈夫な歯をもっている証拠だ。 … 」
さすが、名探偵、お見事な推理です。
かくして依頼人の登場と続くのですが、あとは本を読んでのお楽しみということで…。
この事件ではめずらしくホームズの推理もはずれ、以後彼がその力を過信したときの戒めの言葉とせよとワトスンに言います。時代背景をたくみに取り入れた一編で、ラストほろりとさせる夫婦愛に満ちた素敵な依頼人のお話でした。
「黄いろい顔」The Yellow Face(『ストランド』誌1893年2月発表)コナン・ドイル 延原謙訳 新潮文庫『シャーロック・ホームズの思い出』より
* 本書は、左利きがからむ推理小説『左ききの名画』R・オームロッド、『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾 とともに、レフティやすおの本屋・左利きの本棚/小説で読む左利きで紹介しています。
* 推理小説(ミステリ)と左利き に関する記事 * ・2005.6.14 左投手は危険がいっぱい―『サウスポー・キラー』水原秀策 お茶でっせ版、新生活版 ・2005.5.18 左手が大活躍?する映画「ボーン・コレクター」お茶でっせ版、新生活版 ・2005.4.4 左利きが手掛かりになる推理小説―クリスティー「厩舎街(ミューズ)の殺人」 お茶でっせ版、新生活版 ・2005.1.30 左利きアンケート13回推理物のテレビ・ドラマの〈左利きが犯人〉をどう思いますか、のお知らせ お茶でっせ版、新生活版 ・2004.9.24 『男たちの絆』マイクル・Z・リューインお茶でっせ版
※本稿は、gooブログ「レフティやすおの新しい生活を始めよう!」に転載して、gooブログ・テーマサロン◆左利き同盟◆に参加しています。
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 2025(令和7)年、明けましておめでとうございます。(2025.01.07)
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- 週刊ヒッキイ第677号-告知-『左組通信』復活計画[35]『LL』復刻(8)LL91996年夏号(2024.12.21)
- レフティやすおの楽しい読書379号-告知-私の読書論191-<町の本屋>論(8)産経新聞記事11/9産経WESTより(2024.12.15)
- 週刊ヒッキイ第676号-告知-楽器における左利きの世界(27)まつのじん(2)(2024.12.07)
「左利き」カテゴリの記事
- 2025(令和7)年、明けましておめでとうございます。(2025.01.07)
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- 週刊ヒッキイ第677号-告知-『左組通信』復活計画[35]『LL』復刻(8)LL91996年夏号(2024.12.21)
- 週刊ヒッキイ第676号-告知-楽器における左利きの世界(27)まつのじん(2)(2024.12.07)
- 週刊ヒッキイ第675号-告知-『左組通信』復活計画[34]『LL』復刻(7)LL81996年春号(2024.11.16)
「左利き関連本」カテゴリの記事
- 2025(令和7)年、明けましておめでとうございます。(2025.01.07)
- レフティやすおの楽しい読書380号-告知-私の読書論192-私の年間ベスト3-2024年〈リアル系〉『都筑道夫の小説指南』(2024.12.31)
- 週刊ヒッキイ第677号-告知-『左組通信』復活計画[35]『LL』復刻(8)LL91996年夏号(2024.12.21)
- 週刊ヒッキイ第676号-告知-楽器における左利きの世界(27)まつのじん(2)(2024.12.07)
- 週刊ヒッキイ第675号-告知-『左組通信』復活計画[34]『LL』復刻(7)LL81996年春号(2024.11.16)
「海外ミステリ」カテゴリの記事
- 2025(令和7)年、明けましておめでとうございます。(2025.01.07)
- レフティやすおの楽しい読書378号-告知-クリスマス・ストーリーをあなたに~(14)-2024-デイモン・ラニアン「三人の賢者」(2024.11.30)
- レフティやすおの楽しい読書375号-完訳版ヴェルヌ『十五少年漂流記 二年間の休暇』を読む【別冊 編集後記】(2024.10.15)
- 『左組通信』復活計画[32]『LL』復刻(5)LL6 1995年秋号-週刊ヒッキイ第671号(2024.09.21)
- 光文社古典新訳文庫から完訳版『十五少年漂流記 二年間の休暇』ヴェルヌ/鈴木雅生訳 が発売(2024.07.28)
Comments