『読書力』齋藤孝
齋藤孝『読書力』岩波新書(2002)を読んでみた。
「声に出して読みたい日本語」のシリーズがベストセラーになり一躍人気の絶頂の学者、齋藤孝の読書法―勉強法の入門書であり、総集編とも言うべき代表的な著作。
読書が人を作るという考えに立ち、読書立国日本の復活を、という著者の願いを込めた一冊。
日本は読書立国、かつての読書文化の伝統の復活を、熱く語っていることに共感を覚える。
読書で自己形成をという考えは、昔の日本人にとっては当たり前のことであったが、昨今はそうではないという。残念なことだ。
そんな本を読まなくなった人たちに、スポーツと同じようにひとつの技術として、読書を習慣化させるというのもうなずける。
本を読むのは楽しい、ということを知って欲しい、というのは私も同感だ。
そういう意味で、今、小学校や中学校で実施されている「朝読」―朝の読書運動はいいことだと思う。学校で本を読む習慣を身に付けるのは大切なことだ。強制はいかん、という批判もあると聞くが、必要な指導と不必要な指導がある。人間としての基本は身に付けさせるべきだ。読書は実際にやってみると楽しい。ほとんどの場合機会がないだけで、きっかけを与えてやれば習慣として身につくものだ。
ただ人間には得手不得手があるし、好みもある、その辺を工夫してやる必要はあるだろう。自分で読みたい本を選んで読めるという、朝読はいい方法だ。
私も中学の国語の時間に、学校の図書室で、そこにある本の中からどれでも好きな本を読んでいいという授業があって、それ以来図書室を利用するようになり、図書室の本を借りて帰って読むようになった。
体を動かす方が好きな生徒もいる。しかし、文武両道は成り立つものだ。スポーツ好きで読書好きという人間はいくらでもいる。時期が重なる場合に優先順位がつくだけだ。体力があれば本も読める。
*
本書は、広く読書というより、教科書読み、学校的勉強の技を身に付けたい人必読。
いわゆる娯楽のための読書ではなく、著者の言葉で言うと、「精神の緊張を伴う読書」ということになる。
小説で言うと、司馬遼太郎あたりが境目だという。おもしろいだけでなく文学的な価値もあるということだろうか。
大学に入る前にこれぐらいは読んでいて欲しいという、ひとつの目標数値として、文庫百冊、新書五十冊をめどとしている。
そこで、巻末に著者の選んだ文庫本百選がある。
基本的に中高生に読んで欲しい本といった選定である。言ってみれば、朝読の延長の本である。
私がこれら百選のうちの七点しか読んでいない(!)ので言うわけではないし、谷沢永一氏の言葉に乗るわけでもないが、一部個人的な選定に片寄っている部分があるようだ。もう少し標準的なものにしてもよかったのでは、という気がしないでもない。
自分の経験、思い入れが入るのはある意味で人間的で、齋藤孝を知る上で役に立つが…。
私が思うに、たとえば、星新一のショートショートは(ほっといても読みそうということで)はずしているのに、O・ヘンリーは入れている。いまさらO・ヘンリーはないだろう、という気もしないではない。確かに昔の人は「最後の一葉」とか「賢者の贈り物」とかは定番になっているが、今どうしても読むべきとも思えない。他にもっと読むべき本、あるいは読みやすい本はある。シャーロック・ホームズでもいいし、あるいはもう少し凝ってチェスタトンのブラウン神父ものなど読むほうがおもしろいし、ためになる。あるいはポーの短編とか。谷沢氏はモーパッサンを上げている。サマセット・モームでもいいかもしれない。
本を読み始めた中高生向けの読んでおくべき古今東西の古典名作のリストというわけでもなく、ややずれた位置の本があるような気がする。
本選びの際に参考にすればいい。
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本好きや読書に関心のある人も一度は読んでおくべき本。
今時の学生に関する記述で、ちょっと失望する人もいるだろう。こんな勉強法をしたなぁ、と感慨にふける人もいるだろう。
ちなみに、私の場合は、子供時代にはまだ三色ボールペンがざらにあるというわけではなかったので、もっぱら鉛筆と赤鉛筆、直線と波線の使い分け、キーワードは四角く括るといった方法であった。
音読は学校では当然のことだったし、家庭ではあまりしなかったが、ごく標準的な勉強法であったと思う。
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最後に、谷沢永一氏は、この本をレベルが低い等批判的に書いておられる(『本はこうして選ぶ買う』東洋経済新報社 2004)が、これはあくまで先ほども書いたように朝読の延長として読むべき本の選定、ならびに教科書読み、本を使った勉強法の技を「読書力」として、提示している本だと思う。
本を読むことに関してのビギナー、初心者向けの本。谷沢先生の読むレベルの本ではない。
そのように読めばよいと私は思う。
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