『サンセット・ヒート』ジョー・R・ランズデール
最近好きな作家の一人(といってもまだ読んだのは4作目)アメリカの作家ジョー・R・ランズデールの最新作『サンセット・ヒート』 SUNSET AND SAWDUST(2004)北野寿美枝訳 早川書房 ハヤカワ・ノヴェルズ 2004年。
大恐慌に見舞われた1930年代のテキサス州東部の製材所のある町キャンプ・ラプチャーを舞台に、ひょんなことから治安官に任命された女性サンセット・ジョーンズが正義のために法執行者として奮闘する物語。
今でこそ自由と民主主義の国といわれるアメリカですが、1930年代のテキサス州東部、そこはアラバマ州に隣接するいわゆる黒人差別が有名なアメリカ南部に近い所、やはりそこでも黒人差別がまかり通っています。
さらに女性もまた黒人に負けず劣らず差別されています。
MWA賞受賞作『ボトムズ』や前作『ダークライン』では黒人差別の問題をバックにしていましたが、今回はプラス女性差別の問題を扱っています。
「おれが黒人だから嫌うのと同じように、あんたが女だからという理由であんたを嫌ってる連中がいる。まったく筋の通らないことだ。あなたとおれには身のほどってやつがあるらしいけど、おたがい、それをわきまえる気がないし、そのことを快く思わない連中が大勢いる。ある意味では、連中はものごとが自分たちの思いどおりに動くのが好きなんだ。黒人はこうあるべき、女はこうあるべきって具合に。おれはそうする気がなく、それは受け入れられない。あんたを襲うとしたら――襲うはずだとおれは思ってるけど――クランだ。ちがうかもしれないけれど、たぶんそうだ。」
―クランから一目置かれている森の黒人の大男ブル
1951年生まれのほぼ同世代の作家ですが、男性作家の描く女性像ですから、女性の方からはまた違った見方があるかもしれません。
主人公サンセット(燃えるような赤毛から付けられたあだ名)は、夫に殴られ強姦されそうになったとき隙を見て夫の銃で彼の頭を撃ち抜きます。そして義母の応援を受けて夫の任期を継いで治安官に就任します。
暴力をふるい妻を自分の意に従わせるような男に息子をさせたのは、自分がその見本になっていた、夫の暴力を受容して言いなりになっていたからだという義母。
「ピートは人が犬にすらしないような口のきき方を父親がわたしに向かってするのを見ながら育ち、父親がわたしを"矯正"するのを目にするようになった。ジョーンズは"矯正"と言いたがったのよ」
―夫の暴力に耐えた義母マリリン
息子を殺したサンセットを憎みながらも、女性として当然のことをしたと認め、孫娘の事もあり、職を必要とするサンセットを夫に代わる治安官に押す。
そして夫をたたき出す義母。夫は自分の製材所の大のこに身を投げ出して死を選ぶ。
治安官としての仕事を始めるに当たって助手に雇った男二人は美人のサンセットに好意を寄せる。一人はよそ者のギターを失くしたギター弾き。その男前に好意を寄せるサンセットだが、なんと娘も…。
黒人の畑から見つかった赤ちゃんの死体と夫の愛人でもあった売春婦の死体。
ここから事件は転がり始めます。
さらに、昔サンセットの母を捨てた男―サンセットを身ごもっていたことを知らず、女を捨てて消えた当時伝道師だったが道を踏み外した、サンセットの父親―が戻ってくる…。
大竜巻のなかでの暴行から始まり、イナゴの襲来のなかでの大立ち回りで一件落着、かと思われるのですが…。
「法執行者」という言葉が何度も登場するのが印象的です。法の執行というものがまだまだ人々に行き渡らない時代と地域を背景に、正義とは何か、男と女の心と身体の微妙な関係、人として生きることのむずかしさと大切さ、などなど色々感じさせられました。
途中幾度も腹を立てながら読み進んだお話でした。
それだけうまく物語に載せられたということでしょう。
ランズデール、また一段と好きになってしまいました。
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