ヒトにはなぜ利き手ができたか
9.9の記事「脳の性差と非利き手使い」、9.15「『脳を探検する』久保田競」に続いて、三たび久保田競『脳を探検する』(講談社 1998年刊)からの記事です。
今回は「ヒトにはなぜ利き手ができたか」というくだりを紹介します。
第2章 記憶の仕組みと創造の秘密 > ②右脳と左脳の独自性と共働のシステム > ★左右の脳と利き手の関係 > ヒトにはなぜ利き手ができたか
ヒトと利き手の関係はまだはっきりとはいえませんが、利き手が進化の過程でどう形成されたかはわかりつつあります。
京都大学霊長類研究所でのサルの観察による利き手の現れ方の調査の結果から、原猿という原始的なサルの仲間、ツパイやギャラゴでは、餌をとったり、木に登るのに左を使うことが統計的に多い。つまり左利きらしい。
少し高等なニホンザルでは、圧倒的多数が左利きで、8歳以上のサルの多くは左手を使う。8歳は野性では大人になる時期で、この頃に利き手が決定されるのだろうとわかった。
次に、類人猿のチンパンジーでは、一組の石をハンマーと台に使ってヤシの実を割る。すなわち道具を使う。ハンマーを持つ手はばらばらでも、割れた実のかけらを指でつまむときに、つまみ方で使う手がはっきり分かれる。ニホンザルがするように、人差し指と中指でつまむのは多く左手なのに、親指を使う高度なつまみ方をするときは右だった。
サルと類人猿の左利きの歴史のなかに、道具を使うという要素が取り入れられたときから、右利きの要素が現れたと考えられる。
これを脳の発達から言うと、餌をつかむ行為から左利きのサルの左手がうまく使えるようになり、それに対応する右脳が発達した。しかしサルは餌を食べるだけで加工もしない、道具も使わない。
一方、類人猿は食べ物を道具で割ったり、種を取ったり、皮をむいたりする。その時に、利き手だった左手でしっかりと保持し、自由になったあいている右手で細かい作業をするようになった。こうして右手と左脳が発達して来たと考えられる。
実際に古い化石などからそのことが裏付けられる。チョッパーというナイフの用をする石器時代の道具は右手で使いやすいように刃が付けられている。猿人が動物を右手で攻撃したことを示す化石もある。クロマニヨン人が残した洞窟画には左手の絵が多く発見されている。つまり右手で描いたものが多い。
このように、
人間ははるか昔の誕生時には既に右利きとしてこの世界に登場したようです。
***
人類(ヒト)は、種として発生したとき既に右手を利き手とする性質を持っていたということです。
決して、向かって右側にある対戦相手の心臓を突きやすいように右手に武器を持つようになり、右手が利き手になったわけではないのです。
人類は右利きとして生れた、のです。ということは右利きの人は平均的な人間ということなのでしょう。では、左利きの人は…?
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