左手書き(左利き)に優しい改良版「ユニバーサル百マス計算」のすすめ
*左利き児童を落ちこぼれにする?百マス計算の危険性*
左利き児童に新たなバリアが出現か?
右手使い圧力をかわし、何とか左手筆記を容認された子供に新た壁が立ちふさがってきたかもしれません。
以前、2004.02.17付の記事「『横書き登場』屋内池誠」の中でもふれたように、左横書きは左手書き(左利き)の人にとって非常に厄介な面があります。試験などでは、問題と答えの記入欄の位置関係が左手書き(左利き)の人には優しくないのです。左手で隠れてしまって問題が見えない、問題番号が見えない、といった不都合が起きます。いちいち手をどけて確認しなければならないのです。その点右手書きの場合は記入する手で隠れるということはありません。常に問題用紙全体を視野に入れたままで回答してゆけます。
最近、百マス計算という計算練習が小学校で流行っているようです。数をこなして繰り返し練習するのが良いのは事実です。大いに進めて欲しいものです。
しかしこの百マス計算、従来のものでは左手筆記の児童には問題があるのです。
百マス計算自体は昔からあるそうですが、ここで簡単に説明します。
*参照―百マス計算で有名な陰山英男氏のサイト「陰山学級物語」
の「確かな学力を育てるポイント ―百ます計算のやり方」
10×10の升目を用意し、その外側に一番上の段一行と左横の縦一列を追加し、そこに任意の数字をいれ(これが問題になります)、左から順にそれぞれの交点に当たる升目にそれぞれの数字を足し算なり引き算なり掛け算なり割り算なりした結果の答を記入して埋めてゆく。これを毎回時間を計っておき、その時間を比べて進歩の具合を見るのです。
計算力と集中力を養うことになるようです。
基本的にはこの作業時間を比べるのはそれぞれの個人の間でだけです。前やり速くなったとか比べてみるだけの相対的な目安です。
そして、こうして出た数字というものは、本来個人の相対的な能力の向上を現すものであり、絶対的能力を現すものではないのです。
ところが、この数字を他の子と比べるとき問題が出てきます。
根本的に人と比べることが間違いだという人もいるでしょう。しかし学校で、一斉授業の中で行われたときにはどうでしょうか。
時間に差が出れば、気になるのは人の常。速い遅いが話題になることも十分予想されます。
単なる「計算+記入の総作業時間」を表すだけの数字が、その子の「計算能力を現す絶対値」となってしまう危険性があります。
現実に氏のサイトの掲示板に「うちの子は○分○秒でできるようになった」云々と誇らしげに実数を明記している親御さんもおられます。
あるとき、左利きの子供をお持ちの親御さんのための情報交換サイトの掲示板で次のような書き込みを見ました。
ある人曰く、「うちの子は計算が得意なはずなのに、百マス計算はいつも遅い。他の子と比べて多少ボーっとしているところはあるが、どうも変だと思ってよくよく観察してみると、左利きで左手書きのうちの子は答えを記入するたびにしょっちゅう左手を用紙の外へ動かしている。問題の数字を見るためすぐに左手をどけているのだ。こうして頻繁に左手を動かして問題に取り組んでいる。これでは時間がかかるのも仕方ない。
先生に話すと、左手書きの子にも対応した両横に縦一列の数字の入った問題用紙に改良してくれた。これでやっと右利きの子とまったく同じ条件でできるようになった。」といいます。
一方、まったく対応していないところもあるようです。先生によって異なった結果になっています。
このような「非左手書き対応問題用紙」を使っている限りは、究極的に見て左手書きの子が不利になるのは自明のことです。
その結果、自分の計算能力に疑問を持つ子が現れないと言い切れるでしょうか。自分は計算は苦手だと、落ちこぼれになってゆくことがないと言えるでしょうか。
私は昔、ハサミがうまく使えず悩んだことがありました。今でも鮮明に記憶として残っています。しかしそれが実は自分の利き手である左手に合っていない右手用の品物だったからと知ったのは、後年左手用のハサミを手に入れてからでした。
*左手書き(左利き)に優しい改良版「ユニバーサル(UD)百マス計算」を!*
先に示したようにちょっとした工夫をするだけで、左手書きの左利きの子も右手書きの右利きの子もまったく同じ条件で取り組むことができます。
何、大層なことではありません。縦列の問題を左だけでなく、右にも用意するだけのことです。
しかしこれで、利き手(筆記する手)に関わらず、まったく平等に同じ土俵で取り組めるのです。
まさに私の目指す利き手によって差別されることのない左右共存社会の実現です。
もっと簡単に言えば、ユニバーサルデザインというものです。
この「百マス計算」はユニバーサルデザインについての考え方の教材にもなります。一挙両得の勉強が可能になります。
今インターネットではこの百マス計算用の問題作成ソフトがダウンロードできるサイトがたくさんあります。しかし、左手書き児童に対応した形のものがどれほど出ているか大いに疑問です。
あまりにも多くてすべてを見たわけではありませんが、私の目にした見本ではすべて右手書き(右利き)用でした。左手書き(左利き)用の物を見つけることができませんでした。(パソコン上で使う分には、右手左手の使い手の問題はかなり解消されるのでしょうが、手書き用に利用しようとすれば…。)
また先の陰山氏の名を冠した市販の百マス計算問題集『<教育技術MOOK>陰山メソッド 徹底反復「百ます計算」』(小学館)でも非対応です。
それでなくてもさまざまな問題にぶつかるであろう左手書き(左利き)の児童が、こんなことで落ちこぼれになるとすれば、大いに社会の損失です。
そんな危険性を回避できる「左手書き(左利き)児童対応百マス計算」、いや単なる「ユニバーサルデザイン(UD)百マス計算」を、ぜひとも普及させたいものです。
蛇足:こういうことを書くと、「それ見たことか、やっぱり左手書きはよくない、右手使いにしなけりゃ」、と言い出す大人が出ないかと大いに心配になります。
*【「100ます計算」に関する記事】
(2004.6.16)改良版「UD百マス計算」が紹介されました
(2004.8.3)左利き対応100マス計算ドリル「文字がうかぶ100マス計算プリント 小学( )年生」
(2005.3.10)学研 10マス計算ドリル 左利き用 二種・たし算ひき算/かけ算わり算 発売中
(2005.2.9)10マス計算ドリル 左利き用2種 3月8日発売予定
*2008.4.30追記* 左手書字について―
・『左利きを考える レフティやすおの左組通信』
「左手で字を書くために―レフティやすおの左利き私論4―」
・『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
「左手書字の研究―実技編」(2008年より第三土曜日発行分に掲載)
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