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2004.02.17

『横書き登場』屋内池誠

『横書き登場―日本語表記の近代―』屋内池誠 岩波新書

もう何年前のことになるのか、私は英国の左利きの会に出した手紙で、日本語について説明し大いに感心されたことがある。
日本語は縦にも横にも書ける使い勝手のよい便利なことばであり、特に縦書きの場合は右から左へと筆記してゆくので、左手書きにはすこぶる都合がよい。書いた文字の上をこすって汚すこともなく、書き終えた部分が見えているので、誠に便利である。

ところがこの縦書きと横書きが併用されるようになったのはつい最近(?)のことだという。なんと幕末以降、明治にかけて始まったものでまだ200年も経っていないのだ。

幕末に欧米の文化が大量に流入し、欧米の横文字文化に触れた人々が、知識階級が横文字のスタイルをそのまま取り入れて左から書く左横書きを、一般大衆は横書きのスタイルのみを真似て日本古来の一行一字の縦書きを踏襲した右横書きを始めた。

これらがその後の国粋主義などと絡み合い、複雑に主導権争いを続けながら、今日の左横書きと縦書きの併用に移行してきたと言う。

本書に科学的に見てどちらが便利か検証したページがあるが、人間の視界が横に広いといってもえんえんと続く横書きは読みづらく、縦書きも同様で、大差はない。手書きの際、手首をつけて書くとき横書きが有利と言うだけで、手を体から離して使う場合はどちらも同じで、ここでも大差はない。結局は慣れによるところが大きく、有意差はないという結論であった。

しかし今日では、国語辞書にも横書き版が登場するぐらいに横書きが大勢を占めてきた。
読む方においては、活字の分野では小説やエッセイなどの書籍や新聞雑誌でもまだまだ縦書きが重宝されているが、技術系のものでは当然ながら横書きが主流となっている。
一方、書く方では圧倒的に横書きが主流となりつつある。特に手書きでは、右利きの人が多いせいもあり、手が汚れないあるいは字を汚さない、書いた後が見えるという点から横書きが便利であり、外国語やアラビア数字をそのまま使える点でも優れており、用紙の点でも横書きが一般化してきている。またワープロパソコンの発達普及により、一般書類でも横書き全盛となりつつある。

最初にあげたように、縦書きと言うのは手書きの際左利きには非常に優しいものである。これが廃る傾向にあると言うのは、非常にさびしいものを感じる。
左利きとしては機会がある限り縦書きを取り入れたいと思いつつ、ここでは横書きに甘んじている…。

最後にひとつ―
横書きで左利きの人が困ること。
それは書類やテストで、用紙の右側に記入欄があるもの。マークシート方式などで問題番号が手で隠れて記入欄を間違えることがある。

伝表などの書類でもチェック欄が右に寄っていると行を間違うことが少なくない。常に上から順番に消化していかないと、保留項目があったり途中に行があいていたりすると、ついうっかり間違うことになる。(今小学校で流行っているらしい百マス計算というものでも、配慮が足りないと、左手書きの子には不利になる―これは別ネタで書きたかったなあ。)

私も何度か、このような間違いをしでかしている。これは単に私がうっかり八兵衛であるせいばかりではないのである。(ホントにこれは、いいわけではないのだ!)


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