2025.11.01

楽器における左利きの世界(34)まつのじんさんのご意見(3)ウォーミングアップ-週刊ヒッキイ第697号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)

【別冊 編集後記】

第697号(Vol.21 no.20/No.697) 2025/11/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(34)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんの
ご意見から考える(3)ウォーミングアップ」

 

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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第697号(Vol.21 no.20/No.697) 2025/11/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(34)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんの
ご意見から考える(3)ウォーミングアップ」
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 8月以来の「楽器における左利きの世界(34)左利きの
 ヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんのご意見から考える」の
 三回目です。

第691号(Vol.21 no.12/No.691) 2025/8/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(33)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんの
ご意見から考える(2)右手と左手・他」
『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
2025.8.2
週刊ヒッキイ第697号-
楽器における左利きの世界(34)まつのじんさんのご意見(3)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/08/post-d94232.html

 

 過去6回に渡ってご紹介しました、
 左利きのヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんの
 左利きに関するサイト、エッセイ集の左利きに関する文章をヒントに、
 私なりに左利きにおける楽器の演奏について考えてみよう、
 という企画です。

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 ◆ <めざせ!実現!!左用ピアノ!!!>プロジェクト ◆

 {左利きの人は左利き用の楽器で演奏しよう!}

- 「左利きに優しい社会」づくりは左用楽器の普及から! -

 左利きと楽器演奏について考える

  左利きのヴァイオリニスト・まつのじん(松野迅)さんの
   ご意見から考える(3)ウォーミングアップ
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 ●まつのじん(松野仁)さんの左利きエッセイ

まつのじん(松野仁)さんの本とサイトの左利きエッセイは下のとおり

著作:
『すみれのスミレの花かご ヴァイオリンのある喫茶室』松野迅
 未來社 1992/1/1
(Amazonで見る)

a.「II マイ・プライベート・ライフ」<涙のひだりきき>

241207sumire-no-hankago

第676号(Vol.20 no.21/No.676) 2024/12/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(27)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(2)」
【最新号・告知】『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)
レフティやすおのお茶でっせ』2024.12.07
週刊ヒッキイ第676号-告知-楽器における左利きの世界(27)まつのじん(2)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/12/post-55f0a7.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/3b193894c6d7a3499fa16569f8282e7a

サイト:
 まつのじんのエッセイ&書評 Essays(Japanese)
b.「ゴーシュからの左右考」2019年7月27日
http://mjin.m1001.coreserver.jp/2019/07/27/%e3%82%b4%e3%83%bc%e3%82%b7%e3%83%a5%e3%81%8b%e3%82%89%e3%81%ae%e5%b7%a6%e5%8f%b3%e8%80%83/

2019727matunojin-website

第674号(Vol.20 no.19/No.674) 2024/11/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(26)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(1)」
【最新号・告知】『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)
レフティやすおのお茶でっせ』2024.11.02
週刊ヒッキイ第674号-告知-楽器における左利きの世界(26)まつのじん(1)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2024/11/post-9afc9f.html
https://blog.goo.ne.jp/lefty-yasuo/e/c61c87eab970c035e076d6c9e5e0876d

c.「左ききは、アカン!? WHO is LEFTY■(?の倒立像)」
(2019年8月13日)
http://mjin.m1001.coreserver.jp/%e3%83%92%e3%83%80%e3%83%aa%e3%82%b9%e3%83%88/

2019813-matunojin-lefty

 

 ●左(手)利きならでは! の動作

今回は、c.「左ききは、アカン!? WHO is LEFTY■(?の倒立像)」
から、主に「左利きヴァイオリニストあるある」についてのご意見を
みてみましょう。

第681号(Vol.21 no.4/No.681) 2025/3/1
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(29)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(4)」
『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
2025.3.1
週刊ヒッキイ第681号-告知-楽器における左利きの世界(29)まつのじん(4)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/02/post-4c221d.html

↑でも書いていますが、
基本的には、左手が利き手の左利きの人が、無理をして、
右手を右利きの人と同じように使って演奏することから来る、
違和感といいますか、不都合な部分が表に出ている状態を指している、
と考えられます。

私に想像できる範囲でしかお話しできませんが、
【演奏編】におけるまつのさんの「左利きアルアル」(1)~(31)

 《●左(手)利き弓弦楽器演奏者の「このような体験ありませんか?
 弓を右手にもつ「苦労」も満載ですが、左(手)利きならでは!!の
 動作もあります。》

は、ほぼ皆それに尽きるように感じられます。

上記メルマガでも筆者が書きましたように、

《左利きゆえに、利き手ではない右手に持った弓を
 繊細・微妙に動かすことは難しい》

という現実です。

 

 ●<ウォーミングアップ>が必要な左利き演奏家

次に「HOW TO PLAY for LEFTY VIOLINIST」のパートです。

例えば、弓の動きに関する項目――

冒頭、<突撃する弓>という段落で、
(1)(2)(3)について説明されています。

 《右(手)利きの方にとっては、どうして雑音が発生したり、
  演奏途中に右手の持つ位置が変わったりするのだろう》

という疑問に、

 《「着地点がわからないままジャンプしてしまったような感覚」》

と説明されています。
弓の長さの感覚が認識できていないのだ、と。

次の<ウォーミングアップ>では、
右利きの人には不要なウォーミングアップが必要だ、と。

これはよく左利きの人が右利き用の道具(例えば、一眼カメラのような)
を使うときに言う台詞「慣れればいっしょ」という言葉を連想させます。

筆者に言わせれば、右利きの人は、右利きの用の道具を使うとき、
そのような「慣れる」ための「ウォーミングアップ」は不要なのです。

それは自分の「身体に合っている」からです。

筆者が、初めて左手用のカメラ「京セラSAMURAI(サムライ)Z2-L」を
手にしたときのことを思い出します。


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その時、今までどのようなカメラを手にしたときも感じることの
できなかった「フィット感」を抱きました。
今初めて手にしたのに、もうずっと昔から使ってきたような手応えが
ありました。

新しいカメラで写真を撮るというのに、まったくの違和感なく、
手に、身体に馴染んだ状態で取ることができました。
まさに「自分のために作られたカメラだ」と実感したものでした。

「左利きの人は左利き用の道具を!」という思いを抱かせた体験でした。
左利き活動を始めるきっかけになったのは、当然のことと思えます。

それに対して、身体に合っていない道具を使う、
右弾きの左利きヴァイオリニストの場合は、
右利き用の楽器に「慣れる」ための「ウォーミングアップ」が欠かせない
ということになります。

以下まつのさんの「企業秘密」が明かされます。

例えば、

 《右手が把握(認識)できる距離感を手と脳で感じ取りながら、少しずつ
  距離を増し、弓先まで手元が認識できるよう広げてゆきます。》

とか。
そして、いよいよ、

 《仕上げのウォーミングアップ〈左(手)利き編〉の時》

が来たといいます。

 《うまくゆくと、音の出発点から〈左(手)利きコントロール〉の
  「見せ場」&「聴かせどころ」となるでしょう。》

 

 ●<自分の指なのに…>

ここで、指使いのうまい右利きの演奏家をみると、

 《手と弓が一体化している印象を受けます。》

と。

 《指先の細やかな動きが求められる楽器演奏は、
  脳と指先の関係が重要です。》

脳と指の関係、さらに、手と弓の関係についても語っておられます。

自分の指なのに、思うように動かせない、という不思議。
だからこそ、ウォーミングアップが必要なのだ、ということでしょう。

 

 ●<右手は今どこにいるのだろう…>

手(指)と空間の認識のようすを知るために、
眼を閉じて、両手の人差し指先を眼の高さで合わせてみましょう、
ぴったり合うといいですね、と。

 《どちらかというと利き手の指先の意識が高く、非利き手の指先を
  そこに近づけてゆくスタイルが多いのではないでしょうか。
  非利き手が空間をさまようことがよくあります。》

と。

 《ヴァイオリンやヴィオラ を演奏する時、音程を押さえる指や弓の
  当たるところを目視する余裕はありませんし、見たところで定まる
  というものではありません。むしろ見ない方が、
  直感力や空間の認識力が鍛えられます。》

と。

私たちは、利き手を中心に生活しているのだと思います。
利き手を意識しない人(主に右利きの人に多いようです)でも、
無意識の内に利き手を主体に使って、生活のすべてを規定している
ように思います。

一方、非利き手は、どちらかというと、見捨てられている、
あるいは、無視されていて、日常の用を満たす機会が与えられていない
ことが多いようです。

しかし、両手には、それぞれ役割があると言います。
利き手には利き手の、非利き手には非利き手の役割が。

知らず知らずに、使い分けしているのです。
右利きの人は右利きなりに。

左利きの人は左利きなりに、といいたいところですが、
左利きの人の場合は、ちょっと違ってくるようです。
それは、社会が右利き仕様になっていることが多いので、
左利き本来の姿としては、
ここで左手を利き手として使いたい場面であるのに、それができない。
そういう状況が生まれているのです。

まつのさんのヴァイオリンという楽器の場合もそうです。
本来は利き手ではない非利き手である右手を、
利き手のように使わなければいけない状況に追い込まれている。
一歩、利き手を非利き手のような使い方を余儀なくされている。

こういうケースは、楽器演奏だけではなく、
日常のありとあらゆるところで出くわしています。

筆者が問題とするのは、そういう部分です。

単なる不便で済むのなら、まだ良いのですが、
それが左利きの人の心、精神に及ぼす影響というものも、
かなりの部分あるのではないか、という気がしています。

 

 ●利き手は「心」を反映する

結論として、筆者は、当たり前と言えば、当たり前のことなのですが、

右利きの人たちと同じように、
「利き手で弓を持って演奏する」方が自然で、
左利きの人の場合は、左手に弓を持って弦を弾く、

そういう演奏スタイルこそが、自然だと思うのです。

演奏しようと思えば、利き手が先に動いてしまう、のですから。

「左利きの人は左弾きで!」

それが演奏に「心」を反映する一番の方法だ、と。
なぜなら筆者の持論、「利き手は心につながっているから」です。

無意識のうちに勝手に「心」を反映して動くのが、利き手。

「心」のままに意識的に動かそうとしないと、
意志的な動きができないのが、非利き手。

筆者はそのように理解しています。

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本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 楽器における左利きの世界(34)左利きのヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんのご意見から考える(3)ウォーミングアップ」と題して、今回は全紹介です。

無理からに筆者の持論にもっていっているのでは? と思われるかもしれませんが、それはありません。
「利き手は心につながっている」というのは、利き手の偏りの強い人なら、誰でも感じるところではないか、と思っています。

利き手の要件として「好み」というのがあります(もう一つは「巧みさ」です)。

なにかのとき、ついつい出る手が利き手。
何かしら使ってしまうのが、利き手というものです。
眼の前にモノが飛んできたとき、身を守るべく、手を上げて払う時など。

本文でも書いていますが、左利きの人が右用の道具類を使う時に「慣れたらいっしょ」という、この「慣れ」といわれるのは、まつのさんのいう「ウォーミングアップ」のことだったのだ、と理解できました。
誰でもある程度のウォーミングアップは必要だと思われるかも知れませんが、身体のあった道具を使う時には、不要なのだと思います。
右利きの人たちはそういう風にかる~く生きているのですよ。

左利きなのに、右利き用を使うから、そういう余計な作業が必要になるのだ、と。
これは筆者の実感なのです。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.10.31

私の読書論-わが友フランシス二代目(2)『虎口』フェリックス・フランシス-楽しい読書398号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書
(まぐまぐ!)

【別冊 編集後記】

2025(令和7)年10月31日号(vol.18 no.18/No.398)
「私の読書論-わが友フランシス二代目(2)
『虎口』フェリックス・フランシス 文春文庫」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年10月31日号(vol.18 no.18/No.398)
「私の読書論-わが友フランシス二代目(2)
『虎口』フェリックス・フランシス 文春文庫」
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 月末は古典の紹介ですが、今回は、前号に引き続き、
 今月の新刊である、フェリックス・フランシスの文春文庫版
 <新・競馬シリーズ>――五月に発売された『覚悟』に続く、
 第二弾『虎口』を取り上げます。

 前号でも書きましたように、
 作者フェリックス・フランシスは、父親があの偉大なミステリ作家
 ディック・フランシスで、その次男に当たる二代目作家です。

 父親の晩年、父親との共著者として、その名を刻み、
 父親の死後は後継者として、同様の<競馬ミステリ>の作者として、
 10年を超えるキャリアを積み上げて今日に至っています。

 彼のX(twitter)によりますと、 "Author of the 'Dick Francis' novels"
 (<ディック・フランシス(長編)小説>の作家)とあり、
 「ディック・フランシス風小説」の書き手、というところです。

 

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 - 私の読書論 -

  ~ わが友フランシス二代目フェリックス(2) ~

  <新・競馬シリーズ>第二弾
  『虎口』フェリックス・フランシス 加賀山卓朗訳 文春文庫
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●<新・競馬シリーズ>第二弾『虎口』

『覚悟』は、お父さんの作りあげた人気キャラクターの
<シッド・ハレー>を主人公に据えた作品でした。
日本でも知られたこの人物の作品を第一弾にしたのは、
営業的な配慮だったのでしょうけれど、
今回は、オリジナルの主人公が登場します。
これは、お父さんの時代からのこのシリーズのお約束の一つでもある、
毎作異なる主人公を立てて、競馬にまつわる事件に巻き込まれていく
という、従来からの伝統的な設定を踏襲したものとなっています。

 

『虎口』フェリックス・フランシス/著 加賀山 卓朗/訳 文春文庫
2025/10/7 (CRISIS (c)2018)
(Amazonで見る)

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(出版社の紹介文)

《話題沸騰! 新・競馬シリーズ第2弾。
フェリックス・フランシスの清新な魅力が冴える傑作。/英国競馬の聖地、ニューマーケットで発生した厩舎火災。犠牲となった名馬の馬主の依頼で、危機管理コンサルタントの私が調査に派遣された。焼けた厩舎は高名な調教師一家のものだったが、カリスマ調教師だった父のもと、三人の息子たちがいがみあう地雷原のような一族であった。ほどなくして火災の焼け跡から人間の遺体が発見され、それは問題児として疎まれていた末の娘のものであると判明した。そしてさらなる死が。/なぜ厩舎は焼かれなければならなかったのか? 長年にわたって音信不通だった問題児ゾーイはなぜ帰郷し、遺体で発見されたのか? 殺人者は一族にの中にいるのか? 調査を進める私にも危険はふりかかった――。/競馬場、厩舎、牧場から競売場までが集まる「競馬の故郷」ニューマーケットを舞台に展開する「新・競馬シリーズ」第2弾。スリラーの緊迫のなかに英国ミステリの香気を漂わせ、父ディックの『名門』『黄金』を彷彿させる快作!》

 

前作『覚悟』の裏側の帯に、

 《『虎口(仮)』厩舎放火事件に挑む 危機管理専門の若き弁護士
   フォスター。(2025年秋予定)
  『勝機(仮)』シッド・ハレー再登場。 新・競馬シリーズ中、
   話題の傑作。(2026年春予定)》

とあったうちの上の一作です。

<危機管理専門の若き弁護士>ハリイ・フォスターが主人公。
従来の主人公と同様、三十代半ば(ここでは37歳)、独身の青年です。

七年近く勤めた、退屈な田舎の弁護士の定番の仕事に飽きていた彼は、
ある日、法律雑誌の求人広告のラテン語の一文と電話番号だけの記事を
目に留め、調べてみます。

 《もっとワクワクする存在になりたいですか?》

この意味深な広告に反応した彼は、今の仕事に辿り着きます。
それは、危機管理専門の弁護士業でした。

この求人にまつわる謎解き、これができた人が受験資格を得る、
というものだったのです。
このへんの推理と探偵の過程は思わず引きつけられます。

隊員第7号(《007(ダブル・オー・セブン)と考えたい》p.13)と
なったハリイは、多彩で刺激的な人生をスタートさせました。
それから7年後の事件――。

 

 ●複雑な関係の大家族

今回の彼の担当は、アラブの国の新しいリーダー、シーク・カリムが
馬主となっている、ダービーの優勝候補であった有力馬プリンス・オブ・
トロイと他の馬が、厩舎の火事で亡くなった、という事件の調査でした。
焼け跡から、厩舎の経営者である調教師の娘の死体が発見されたのです。
しかもこの娘は、今までにも何かと問題を抱えていた、というのです。

この調教師一家は複雑な家族関係で、厩舎<カッスルトン・ハウス>の
当主(カリスマ調教師だった)オリヴァー・チャドウィックと三番目の
若い妻マリア(子供を流産し、その後精神的に不調で酒浸り)、
オリヴァーの最初の妻(癌で早くに亡くなる)の子が、長男のライアン
(元競馬の騎手だったが、予定より早くケガで引退、その後この厩舎の
跡継ぎとなるが、成績は父の代よりも上がらず経営状況は良くない、
妻スーザンとの間に娘がいる)と次男デクラン(別の厩舎の調教師、妻
アラベラ、二人に子供はいない)、オリヴァーの二番目の妻イヴォンヌの
子が、三男で騎手のトニイと長女で末っ子のゾーイ(29歳、二女の母親で
精神的に不安定で、失踪したり、自傷癖があったり、妄想癖があると診断
され、精神科病院に入院していた経歴がある、夫は自称不動産業者)。

という複雑な大家族で、息子たちはそれぞれ調教師として、騎手としての
力量に差があるようすで、また、それぞれの妻との関係では子供がいる
夫婦といない夫婦で、それぞれの関係をより複雑に――。

 

 ●家族間の秘密を巡る謎

ハリイは、馬主の要請でこの事件の真相を解明することを指示されて
います。
このややこしい関係の家族のなかに、何かしら隠された秘密があることに
気付きます。
しかも、その秘密を守るために、この憎みあう家族は一枚岩のように
団結しています。

複雑な家族関係のなかで、ハリイは、有力一馬主の代理人として、事件の
解決に向かって“探偵”としての役割を果たしてゆくことになります。

長らく実家であるこの厩舎に顔出ししていなかった娘が、なぜ厩舎内で
死んでいたのか?
有力馬を殺した火事の放火は誰の仕業なのか?
その動機は?
娘の死とはどういう関わりがあるのか?

これらの謎を突き止めるためにハリイは、被害に遭った馬主の代理人と
して警察の担当者と関わってゆきます。
その後、娘に会った最後の人物として次男のデクランが逮捕され、
今度は彼の弁護士として警察と関わってゆきます。

詳しいストーリーの紹介は、ミステリでもあり、新刊でもありますので、
この程度にしておきましょう。

 

 ●<本格“探偵”もの>の傑作

これらのオリヴァーの大家族の人々やそれぞれの厩舎の秘書や厩務員ら
との会話を通して事件の鍵を探ってゆくのですが、
あるとき不覚にもハリイは厩舎におびき出され、暴れ馬の馬房に閉じ込め
られる、という失態を犯します。
しかし、その前に偶然出会い、互いに一目惚れで恋仲となった、
オリヴァーの厩舎の秘書の姉ケイトの機転で、窮地を脱します。

フランシスの小説には必ずある、主人公が追い込まれる肉体的な窮地の
一回目がこれでした。

そして、最後の窮地が解決の場となります。
「名探偵 みなを集めて さてと言い」という謎解きの場面ですね。

――というように、今回の“冒険”は、<本格“探偵”もの>と
いっていい内容でした。

ケイトから、ここで何をしてるの? と聞かれハリイは答えます。

 《「ほかの人たちを危機から救うというか、そうしようと努めている。
  とりわけ、実際に起きた危機にかならずともなう広報対応が被害を
  拡大しないように。だけど今週は、広報担当というより探偵になった
  気分だね」》p.180

馬主の代理人として馬主の要望である、なぜ彼の有力馬が火事で死んだ
のかを突き止めることだ、と。
のちにケイトから「シャーロック・ホームズ」などとからかわれます。
対して彼は、彼女の質問に答える際、「初歩的なことだよ、ワトソン君」
と返します。

このへんのやり取りなどは、エンタメにおけるラブ・ロマンスの要素を
十分に楽しませてくれます。
このへんのところも、「ディック・フランシスの小説」にあった要素の
一つを踏襲しています。
(蛇足ですが書いておきますと、事件解決後、ハリイは、社内でも
 「エルキュール・ポアロ」と呼ばれるようになります。(p.450))

 

十三作あるフェリックス・フランシスさんの単独作品から――
邦訳済みの最初の一冊をのぞくと、十二作あるなかから、お父さんの
時代からの名キャラクター<シッド・ハレー>ものに次いで、二作目に
邦訳された作品というだけあって、謎解きものの傑作(秀作?)でした。

 

 ●「ディック・フランシスの小説」の後継者

巻末の(編集部N)さんの「解説」にもあるように、
お父さんディック・フランシスの作品は、
《スリラーやサスペンスと呼ばれる小説のお手本》(p.467)でした。

冒頭の一文から、いきなり事件の渦中に読者を放り込んでゆくその手法。
この「解説」のなかにも、いくつもの書き出し部分が引用されています。

そしてこの作品『虎口』も、それらを踏襲した延長線上にある一作です。

冒頭からいきなり、主人公の紹介とともに、殺人事件であることも
明記されています。

 《名刺にはハリソン・フォスター、法務コンサルタントと書かれている
  が、私はハリイとして広く知られ、危機管理を専門としてる。/
  そして当初誰も知らなかったが、今回の危機には殺人がからんで
  いた。》p.9

スリラーのお手本である「ディック・フランシスの小説」の後継者として
十分な働きぶりです。

次回の翻訳は、またしても<シッド・ハレー>ものが予定に上がって
います。
今後の売れ行きにもよりますが、上手くいけば、今後も継続して翻訳が
進む可能性もありです。

読書には、二つの側面があります。
一つは、単純に情報を得ること。
もう一つは、人生における“楽しみの時間”としての読書です。

「ディック・フランシスの小説」は、この後者の読書に属するもの
としても最上級に匹敵するものの一つでしょう。

それでいて、競馬に関する情報はもちろん、普通の人が知らない
新たな職業について知る機会をも与えてくれ、
かつ人生をどう生きるかという問題にも答えてくれる優れた小説だ、
と私は思っています。

 

エンタメというものは、ハラハラとドキドキ(スリルとサスペンス)と、
それにワクワク(ラブ・ロマンスの要素)を人の心に与える芸術です。

さらにゾクゾク(怖さ)が加わりますと、ホラーとなり、
最強のエンタメ!? になるかも知れません。

 

*参照:
『レフティやすおの楽しい読書』
2025(令和7)年10月15日号(vol.18 no.17/No.397)
「私の読書論-わが友フランシス二代目
『覚悟』フェリックス・フランシス 文春文庫」

【別冊 編集後記】
『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフやすおのお茶でっせ』
2025.10.15
私の読書論-わが友フランシス二代目『覚悟』フェリックス・フランシス
-楽しい読書397号

 

・『覚悟』フェリックス・フランシス/著 加賀山 卓朗/訳
文春文庫 フ 37-1 2025/5/8
(Amazonで見る)

251031-20255-kakugo

 

『左利きライフ研究家(本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
2015.9.23
“わが友フランシス”息子フェリックス単独作『強襲』を読む

【フェリックス・フランシス作品】
・『強襲』(新・競馬シリーズ) フェリックス・フランシス/著
北野寿美枝/訳 イースト・プレス 2015/1/24
(Amazonで見る)

 

251031-ff-3

(画像:フェリックス・フランシス/著、新・競馬シリーズ『強襲』『覚悟』『虎口』)

・『夜間飛行 ミステリについての独断と偏見』青木雨彦/著 早川書房
1976
(Amazonで見る)

 

(旧シリーズを概観するガイドブック)
・『ミステリマガジン 二〇一〇年六月号
 特集ディック・フランシスの弔祭』(早川書房刊)――追悼特集号

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(画像:『ミステリマガジン 二〇一〇年六月号 特集ディック・フランシスの弔祭』表紙、特集目次)

 

【ディック・フランシス作品から<シッド・ハレー>もの】
(筆者の所蔵する本)
『大穴』菊池光/訳 ハヤカワミステリ 1967
・ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-2 競馬シリーズ 1976/4/20
(Amazonで見る)

『利腕』菊池光/訳 早川書房 1981
・ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-18 競馬シリーズ 1985/8/1
(Amazonで見る)

・『敵手』ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-35 競馬シリーズ 2000/8/1
(Amazonで見る)

・『再起』北野 寿美枝 ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-41 2008/11/7
(Amazonで見る)

251031-df-ff-5

(画像:<シッド・ハレー>もの(筆者所蔵本)=ディック・フランシス著『大穴』『利腕』『敵手』『再起』、フェリックス・フランシス著『覚悟』)

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本誌では、「私の読書論-わが友フランシス二代目(2)『虎口』フェリックス・フランシス 文春文庫」と題して、今回も全文転載紹介です。

10月の新刊をその月の内に取り上げるなどということは、まずありませんでした。
そういう非常に稀な回となりました。

それだけ、期待値が大、ということでしょうね。
これもひとえにお父さんの偉大さでもあったわけですが、本人の努力ももちろん大です。
実際に過去の単独作品に失望していたら手に取らないわけですし、ましてやここで取り上げるなどということもなかったわけです。

できれば、次作もいち早く手に入れたいところです。
編集者Nさん並びに翻訳者の加賀山卓朗さん、よろしく!

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
〈メルマガ「楽しい読書」〉カテゴリ

 

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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.10.18

『左組通信』復活計画(40)左利き自分史年表(6)1995.7-1996―紙の時代(3)『LL』-週刊ヒッキイ第696号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
(『まぐまぐ!』
【別冊 編集後記】

第696号(Vol.21 no.19/No.696) 2025/10/18
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [40]
レフティやすおの左利き自分史年表(6)1995(平成7)7.-1996(平成8)
―紙の時代(3)『LL(Lefties' life)』」

 

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◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
【左利きを考えるレフティやすおの左組通信】メールマガジン

  右利きにも左利きにも優しい左右共存共生社会の実現をめざして
  左利きおよび利き手についていっしょに考えてゆきましょう!
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第696号(Vol.21 no.19/No.696) 2025/10/18
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [40]
レフティやすおの左利き自分史年表(6)1995(平成7)7.-1996(平成8)
―紙の時代(3)『LL(Lefties' life)』」
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 「左利き自分史年表」6回目です。

 年表といいながら、前回は、一年と半年分でした。
 活動量が増えてきたからか、実質月表のようになっています。
 今回は、どの程度書けるかわかりませんが、お付き合いください。

 過去の記録は、前回分のブログ記事から御覧頂けます。

 この年表は<左利きミステリ>を含む「左利き年表」になっています。
 こちらの記録も、過去のブログ記事から確認できます。

 

┏ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┓

ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [40]

  <レフティやすおの左利き自分史年表>(6)
 
  1995(平成7)7(夏)-1996(平成8)―紙の時代(3)
  『LL(Lefties' life レフティーズ・ライフ)』

┗ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ┛      

 

 ●「1995(平成7)6(春)-1996(平成 )―紙の時代(3)『LL』
  【左利きライフ研究家】レフティやすおの左利き自分史年表-5」

*(参照)――<紙の時代>

・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第602号(No.602) 2021/9/4
「創刊600号突破記念―
 私が影響を受けた左利き研究家・活動家(2)第二期・紙の時代―その1」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2021.9.4
私が影響を受けた左利き研究家・活動家(2)第二期・
紙の時代1(創刊600号突破記念)-週刊ヒッキイ第602号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/09/post-57d0e5.html
 ◆ 左利き用品の総カタログ的『モノ・マガジン』左利き特集号 ◆
  『モノ・マガジン』「左利き生活向上委員会」編集部A・K氏
 ●第二期・紙の時代―左手用カメラとの出会いに始まる
 ●『モノ・マガジン』左利き特集号がスゴかった!
 ●『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ』創刊
 ●左利き関連本あれこれ
 ●「左利き生活向上委員会」のA・K氏

・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第650号(No.649) 2023/10/7
「創刊19年に向けて―650号記念号―
 <左利きの人の自覚――意識の覚醒>が最も重要」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2023.10.7
<左利きの人の覚醒>左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii
創刊19年記念号-第650号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2023/10/post-158a3d.html
 ●左利き活動の「初心」は?
 ●「来た、見た、買(こ)うた」
 ●左利き活動の始まりは、1990年末「世界初左手用カメラ」購入
 ●右手用のハンディカムの違和感
 ●『モノ・マガジン』左利き特集号との出会い
 ●存在を知らなければ、「存在しない」のと同じ
 ●最初はハガキサイズの「左組通信」という紙媒体
 ●左利き活動の「初心」について――もう一度
 ●始まりは左利きの人の覚醒にある

 

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「1995(平成7)6(春)-199 (平成 ) 
  ―紙の時代(3)『LL(Lefties' life レフティーズ・ライフ)』
 【左利きライフ研究家】レフティやすおの左利き自分史年表-6」
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*(注)科学書――特に脳・神経科学に関する本につきましては、
 最も発達が著しく、発行年代の古い本の場合、情報として
 古くなってしまっているものがありますので、ご注意ください。

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(太文字=西暦(元号)年齢) レフティやすおの出来事 (茶文字=社会の出来事)(青文字=左利き・利き手関連文献
====================================================================

1995(平成7)41歳

7/1『「左と右」で自然界をきる』根平邦人/編著 三共出版
――素粒子の世界の対称・非対称から、生物界における左右性、人間の脳の
 非対称など、自然界を「左と右」のレベルから切り込む、左右学の本。
(Amazonで見る)

 

夏/『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ(LL)』第5号
LL5 1995(平成7)年 夏号
・前説The Compliments of the Summer Issue二年目に向けて
  Toward the second year
・From LHC (Left-handers Club/U.K.)
  レフトハンダーズ・クラブ(イギリス)より―
  新たなる希望!THE NEW HOPE!
・From LHI (Lefthanders International/U.S.A)
 レフトハンダーズ・インターナショナル(アメリカ)より―
  左利きの人をガッカリさせるもの
  THINGS THAT ARE FRUSTRATING FOR LEFTIES!
・左利きの生活 To Live In The Right-Handed World―
  こんな道具が不満です!
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
  その5―あなたは靴派? スリッパ派?―爪切りはさみセット
・知恵小僧の左熟語の基礎知識 なんの意味ダス!? その2
  Words & Phrase小学館『国語大辞典』より
・左利きの本だなぁ その2 激励編
  The Books on the Left-handedness―斎藤茂太著
  『左ききの人はなぜ才能があるのか―左ききの性格分析』
   KKベストセラーズ/ワニ文庫刊

 

7/31 斎藤茂太さんの著者『左ききの人はなぜ才能があるのか―
左ききの性格分析』を紹介したに『LL』第5号を送る
――まだまだ左利きには暮らしにくいが~、とお礼の葉書をいただく。

 

(1995.7)『左手のパズル』萩尾望都/文 東逸子/絵
[ファンタジー]
――チェロを弾く16歳の少年ジョシュアがたどった、数奇な運命。
 左と右を間違う左利きの少年の幼少時の秘密を解き明かす。
『左手のパズル』萩尾望都/文 東逸子/絵 新書館 1995/7/13
(Amazonで見る)

19957-hidarite-no-pazuru

(参照)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイ』
第185号(No.185) 2009/6/20「名作の中の左利き(3)『左手のパズル』」

 

8/25 『ヒトはなぜ指を組むのか 脳とこころのメカニズム』
坂野登/著 青木書店 1995/8/25
――《指組み・腕組みが表す利き脳の働きと、脳に依存するこころの仕組み
 を探険。》
(Amazonで見る)

参考:
『かくれた左利きと右脳』坂野登/著 青木書店 1982/12/1
(Amazonで見る) ――単純に言いますと、腕を組む時どちらの腕が上になるか(腕組み)、
両手の指を交互に組み合わせるときにどちらの手の親指が上に来るか
(指組み)で、その人の「利き脳」がわかる、という研究。

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10/31『左右学への招待―自然・生命・文化』西山賢一/著 風濤社
1995/10/31
――自然界や文化の中に存在する左右の不思議を解明しようとする研究。
(Amazonで見る)

 

((2005)平成17 文庫化・新版『左右学への招待 世界は「左と右」で
あふれている』西山賢一/著 光文社文庫 2005/12/6)
(Amazonで見る)

 

秋/『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ(LL)』第6号
LL6 1995(平成7)年 秋号
・前説 The Compliments of the Fall Issue道を切り開こう!
・左利きの生活 To Live In The Right-Handed World―
  私の簡単“左利き判別法”
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
  その6Left-handed tools & goods―左利き用万年筆の使い心地良さ!
・左利きの本だなぁ その3 お楽しみ編―
  『左利きの名画』ロジャー・オームロッド著 野中千恵子訳
    社会思想社 現代教養文庫〈ミステリ・ボックス〉
・<特集:左利きアンケート>From LHC (Left-handers Club/U.K.)
  レフトハンダーズ・クラブ(イギリス)より―
   ザ・レフトハンダーズ・クラブ1994年アンケート調査結果

 

11?/ (アメリカ)[犯]「待ちに待ったヒット」
(「キルディア物語」より)エドワード・D・ホック/著 中井 京子/訳
“The killdear Chronicle” (初出) EQMM midDecember 1995 
(邦訳)『EQ』1996年5月号
(収録短編集)『革服の男 英米短編ミステリ名人選集V』エドワード・D・
ホック/著 中井 京子ほか/訳 光文社文庫 1999/11/1
(Amazonで見る) ――ソフトボールの試合中に起きた事件。
《「(略)頭部の左側に打ちこまれていた。つまり、後ろから力一杯バット
 を振った犯人は左利きのバッターだったわけだ」》p.25

 

11/(テニス)伊達公子 WTAランキング4位(最高位)
――5/ フレンチオープン日本人女性初ベスト4。
7/ ウィンブルドン日本人女性初ベスト8。

 

(1995) (ドイツ)[参][傍]『朗読者』ベルンハルト・シュリンク
――たとえとして「左利き」を恥じる被告がいたら……
・『朗読者』ベルンハルト・シュリンク/著 松永美穂/訳 新潮文庫
2003/5/28
(Amazonで見る) 《... 考えてごらん、誰かが自分の意志で破滅しようとしている。
 そしてそれを救える手だてがあるとしたら、きみはやってみるかい?
... 裁判の場面を思い浮かべてごらんよ、左利きだということを告白
 しない限り、有罪になってしまう被告がいる。犯行は右手による
 もので、左利きならその犯行はあり得ない。しかし彼は左利きだという
ことを恥じている。君は裁判官に、何がどうなっているかを言うかい?
... 左利きやホモを恥じるべきかどうかという話じゃないんだ。
 被告が恥ずかしがっているということが問題なんだ。》p.159-160

*参照:第192号(No.192) 2009/8/8「名作の中の左利き ―その5―
 『朗読者』ベルンハルト・シュリンク/著」

 

冬/『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ(LL)』第7号
LL7 1995-96(平成7-8)年 冬号
・前説 The Compliments of the Winter Issue―出発点にもどって
  Get back to the starting point
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
  その7Left-handed tools & goods―世界初の左手用カメラ
  〈京セラSAMURAI Z2-L〉
・左利きの本だなぁ その4 雑誌/カタログ編―『モノ・マガジン』
  1991年4月2日号 No.188 ワールド・フォトプレス発行―
  特集/左を制するものは時代を制す/左利きの商品学
・左利きの生活 To Live In The Right-Handed World―
  怒りをことばに―「このはさみは欠陥です!」
・左利きの本だなぁ その5 雑誌/コラム編―『モノ・マガジン』
  1994年11月2日号 モノ・インタレスティング「左利き生活向上委員会」
・右側の席から/左側の席から (読者のお便りコーナー)
  Letters from the right/left side seats

241019-lh-7

 

(1996 平成8)42歳

1/1(音楽)globe「DEPARTURES」(作詞作曲小室哲哉)発売され
ヒットする~♪左利きも慣れたし 風邪も治った~

199611-globe-depatures

『DEPARTURES』globe (CD) エイベックス・トラックス
(Amazonで見る)

 

12/6『左ききの神経心理学』八田武志 医歯薬出版
左利きの研究専門書。1996年刊。20年余りにわたって収集した左利き・利き手研究に関する文献と自らの研究をまとめたもの。
(Amazonで見る)

220412hidarikiki-no-sinkeisinrigaku

 

春/『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ(LL)』第8号
LL8 1996(平成8)年 春号
・前説 The Compliments of the Spring Issue―
  見果てぬ夢を追い求めて “To dream the impossible dream,….
   This is my quest.”
・利き手差別をなくせ! Down with handism!
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
  その8 Left-handed tools & goods―てのひら≪掌中≫電卓/
  左利き用 ZELCO DOUBLE PLUS calculator No.10731
・左利きの本だなぁ その6 お楽しみ編―梅田香子『勝利投手』
  河出文庫/河出書房新社―≪日米プロ野球女性サウスポー対決その一≫
・右側の席から/左側の席から (読者のお便りコーナー)
  Letters from the right/left side seats―
  右側の席から/左側の席から/左利き用品メーカーより

241116-ll8

5/ 『ひだりぐみ通信』「第10号―ウェンガー/
レフトハンダー・ポケット・ナイフ 紹介号―」発行

19965-hidarigumituusin-no10-wen_20250516171601

(1996.6)『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾 (被)▲ (容)▼
――加賀恭一郎シリーズ。一部右使い左利きの妹の自殺偽装の殺人事件。
 警察官の兄が割り出した容疑者は…。容疑者も犯人も左利き?
『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾 講談社ノベルス 1996/6/1
(Amazonで見る)

『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾 講談社文庫‎ 1999/5/14
(Amazonで見る)

2005-dotiraka-dsc06628-2

『どちらかが彼女を殺した 新装版』東野圭吾 講談社文庫 2023/6/15
(Amazonで見る)

 

夏/『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ(LL)』第9号
LL91996(平成8)年 夏号
・前説 The Compliments of the Summer Issue―
  工作から始めよう、豊かな体験! ≪ありがとう、手≫
夏休み<アイデア>紙工作特集―
その①ゴム動力紙パック外輪船/その②風力帆掛け段ボール・カー
・左利きの生活 To Live In The Right-Handed World―
  あなたの刃はどっち向き? 左利き用ハサミ紹介
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
  その9 Left-handed tools & goods―サウスポー・カッターナイフ/
  田島製作所 LC504
・左利きの本だなぁ その7 お楽しみ編―ロスワイラー
  『赤毛のサウスポー』集英社文庫/集英社―
  ≪日米プロ野球女性サウスポー対決その二≫
・右側の席から/左側の席から (読者のお便りコーナー)
  Letters from the right/left side seats―左利き用品メーカーより

241221-ll9

8/ 『ひだりぐみ通信』「第11号―愛妻専科 左きき調理用品
 紹介号―」発行

19968-hidarigumituusin-no11-aisaisenka

(参照)・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第686号(Vol.21 no.9/No.686) 2025/5/17
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [37]
『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(10)
LL10 1996(平成8)年 秋号(後半)」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2025.5.17
週刊ヒッキイ第686号-
『左組通信』復活計画[37]『LL』復刻(10)LL10 1996年秋号(後)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/05/post-e40654.html

 

8/ 朝日新聞記者から左利きの記事のための電話取材を受ける
――左利き用品のメーカーさんから新聞を出している人がいると聞いた、と
O記者から。一人で一匹狼的に手作りで小冊子を作っているだけ、と話すと
それきり二度と電話もなく、記事が出たのかも知らずにいたところ、後日、
関東在住の左利き仲間の人が「このような新聞記事が出ていた」とコピーを
送ってきてくださり、初めてこの記事のための取材だったのだと気付き、
これならもっと宣伝しておくのだった、と悔やむ。

9/10 朝日新聞朝刊〈生活〉面「左利きにもっと愛を」(大阪版)
――左利きの不便を取り上げた新聞記事。左利き調理用品も紹介。私も
 メーカーさんからの紹介で 電話取材を受けたのだが、忙しくなると
 困るのでお断りした。

 

(参照)・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第688号(Vol.21 no.11/No.688) 2025/6/21
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [38]
『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(11)
LL11 1997(平成9)年 夏号 終刊号」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2025.6.21
週刊ヒッキイ第688号
-『左組通信』復活計画[38]『LL』復刻(11)LL11 1996年秋号(後)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/06/post-0c787f.html

 

9/ ネット上の左利きの会Japan Southpaw club(JSC)発足。

 

(1996) (アメリカ)(探)『死因』パトリシア・コーンウェル
 [検屍官ケイ・スカーペッタ]
<左利きの探偵>(スカーペッタが左利きと分かるシーンがある作品)
――狭いことで有名だった超音速機コンコルドの機内でのシーン。
 原書名"Cause of Death"
『死因』パトリシア・コーンウェル 相原真理子/訳 講談社文庫
1996/12/1
(Amazonで見る)

《(コンコルド機内で)「それじゃ、その問題は解決したわけだな」
 アスパラをつっついている私のほうへ身を寄せながら、ウェズリーが
 話を再開した。/「その問題って?」私はフォークを置いた。
 左利きなので、彼が邪魔なのだ。/「わかってるだろう。私たちが
 すべきことと、してはいけないことだ」ウェズリーの腕が私の胸に
 ふれた。...》pp.394-395

(参考)『検屍官研究』和田 奈津子 (編集) ワニブックス (1999/12/1)
(Amazonで見る)

 

秋/『Lefties' Lifeレフティーズ・ライフ(LL)』第10号
LL10 1996(平成8)年 秋号
・前説 The Compliments of the Fall Issue―
  特集“左利きを科学する”① 
特集“左利きを科学する”①―あなたの<左利き度>をしらべてみよう
・左利きの本だなぁ その8 お勉強編―前原勝也
 『右利き・左利きの科学 利き手・利き足・利き目・利き耳…』
  講談社ブルーバックス
・左利き用の道具を知っていますか? 使ったことがありますか?
  その10 いつもポケットにウェンガー―WENGERスイス・アーミー・
  ナイフ/レフトハンダー・シリーズ
・右側の席から/左側の席から (読者のお便りコーナー)
  Letters from the right/left side seats―
  左利き用品メーカーより/右側の席から
・左利きについて知るための本

250419-ll10

(参照)・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第684号(Vol.21 no.7/No.684) 2025/4/19
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [36]
『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(9)
LL10 1996(平成8)年 秋号(前半)」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2025.4.19
週刊ヒッキイ第684号-告知-
『左組通信』復活計画[36]『LL』復刻(9)LL10 1996年秋号(前)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/04/post-ee5368.html

・メルマガ『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』
第686号(Vol.21 no.9/No.686) 2025/5/17
「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [37]
『LL(レフティーズ・ライフ)』復刻(10)
LL10 1996(平成8)年 秋号(後半)」
・ブログ『レフティやすおのお茶でっせ』2025.5.17
週刊ヒッキイ第686号-
『左組通信』復活計画[37]『LL』復刻(10)LL10 1996年秋号(後)
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/05/post-e40654.html

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本誌では、「ホームページ『レフティやすおの左組通信』復活計画 [40]レフティやすおの左利き自分史年表(6)1995(平成7)7.-1996(平成8)―紙の時代(3)『LL(Lefties' life)』」と題して、今回は全紹介です。

今回は1995年の後半から1996年までの一年半となりました。
本文にも書いていますように、「年表」と言いながら、記入事項が多いこともあり「月表」のようになっています。

今後はどうなるのかわかりませんが、記入事項が増えるに付け、年表の進み方も遅々として進まないという事になりそうです。
しかしながら、後年のお役に立つように、できうる限りの事項について書き込んでおきたいという気持ちがあります。
そういう次第ですので、ご容赦を!

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
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『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.10.15

私の読書論-わが友フランシス二代目『覚悟』フェリックス・フランシス-楽しい読書397号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書
(まぐまぐ!) 

【別冊 編集後記】

 

2025(令和7)年10月15日号(vol.18 no.17/No.397)
「私の読書論-わが友フランシス二代目
『覚悟』フェリックス・フランシス 文春文庫」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年10月15日号(vol.18 no.17/No.397)
「私の読書論-わが友フランシス二代目
『覚悟』フェリックス・フランシス 文春文庫」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回は、五月に発売されました文春文庫の海外ミステリ、
 フェリックス・フランシスの『覚悟』を紹介します。

 作者フェリックス・フランシスは、父親があの偉大なミステリ作家
 ディック・フランシスで、その次男に当たります。
 すなわち二代目です。

 父親の晩年、父親と共著者として、その名を刻んできました。
 父親の死後は、その後継者として、同様の<競馬ミステリ>の作者と
 して、10年を超えるキャリアを積み上げています。

 彼のX(twitter)によりますと、

 "Author of the 'Dick Francis' novels"
 (<ディック・フランシス(長編)小説>の作家)とあります。
 要するに「ディック・フランシス風の小説」の書き手、
 ということでしょうか。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 - 私の読書論 -

  ~ わが友フランシス二代目フェリックス ~

  <競馬ミステリ>『覚悟』フェリックス・フランシス 文春文庫

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

●<新・競馬シリーズ>

文春文庫5月の新刊として登場したこの作品は、帯に曰く――

《伝説の名シリーズ、復活。
 ミステリ史に残る『利腕』『大穴』を嗣ぐ、誇り高き不屈の物語。
 英国ヒーローの正統。》

『覚悟』フェリックス・フランシス/著 加賀山 卓朗/訳
文春文庫 フ 37-1 2025/5/8
(Amazonで見る) 

251031-20255-kakugo

がそれ。

 

(文藝春秋プレスリリース)息子・フェリックス・フランシス『覚悟』
 伝説のディック・フランシス〈競馬シリーズ〉が奇跡の再起動!
 息子・フェリックス・フランシス『覚悟』、
 緑の背表紙で5月8日文春文庫で刊行

(本の話)
2025.05.16 書評
 「英国ヒーローの正統、伝説の名シリーズ復活。」加賀山 卓朗

 

前説でも書きましたように、
英国推理作家協会(CWA)ゴールド・ダガー賞や
アメリカ探偵作家クラブ(MWA)最優秀長編賞を受賞した『利腕』、
アメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞を受賞した『罰金』『敵手』、
またミステリ作家としての功績を称える、
CWAダイヤモンド・ダガー賞やMWA巨匠賞を受賞している
「あの偉大なミステリ作家ディック・フランシス」の息子さんです。

そして、協力者であった妻を亡くして以来、筆を折っていたディックの
晩年において父親の復活を助け、共著者の地位を得たのでした。
さらに父親の死後は、〈'Dick Francis' novels〉の後継者と
して、<新・競馬シリーズ>を継承し続けたのです。

彼の単独名義の著書『強襲』は、2011年の本国版に遅れること4年、
2015年に邦訳がなりました。
それまで彼らの邦訳作品を出版していた早川書房の装丁に似せた体裁で、
同じ翻訳者の手によって出版されたのでした。

それ以来、10年――。
ここでついに、この<新・競馬シリーズ>が日本でも翻訳され、
異なる版元である文春文庫でありながら、
かつてのハヤカワミステリ文庫の装丁にそっくりなカタチで、
読めるようになりました。

 

 ●名キャラクター、シッド・ハレー登場

次に、出版社の紹介文を掲げておきます。

 《落馬事故で左手を失った元騎手シッド・ハレー。
  その不屈の意志で競馬界最高の調査員として名を馳せた彼は、
  6年前に命がけの仕事から引退し、
  現在は妻子とともに平穏な生活を送っていた。
  だが競馬界の重鎮スチュアート卿から不正の疑惑のあるレースが
  頻発しているという相談を受ける。
  調査依頼を固辞したハレーだったが、翌朝、卿は変死を遂げた。
  自分は依頼を断るべきではなかったのか――?
  スチュワート卿の遺志を継ぎ、
  ハレーは卑劣な敵のひそむ闇に敢然と踏む込んでゆく。
  だが調査を阻止しようとする敵の魔手は彼の身辺に及ぶ……。
  名作『大穴』『利腕』『敵手』『再起』に登場した名キャラクター、
  シッド・ハレー登場。
  英国スリラーを代表する伝説の名作、〈競馬シリーズ〉。
  日本でも著名人や作家はじめ多くの読者に愛された
  ディック・フランシスの名シリーズが、
  長らく執筆の協力を務めてきたフェリックス・フランシスの手で
  よみがえる。〈新・競馬シリーズ〉、ここに始動。》

 

あの英雄<シッド・ハレー>が主人公、探偵役となる一編で、
フェリックス単独の第3作となります。

シッド・ハレーは、英国のテレビドラマの主人公としても知られます。
早川版のポケミス『大穴』(原著1965)で初登場しました。
落馬事故で左手に重症を負い引退した元騎手で、調査員となった男。

ディック・フランシスは、毎作異なる主人公を立てる人でしたが、
このシッドだけは、その後も『利腕』(先ほども紹介しましたように、
この作品で、イギリスとアメリカのミステリ大賞をダブル受賞。1979)、
『敵手』(1995)、そして復活作『再起』(2006、父子共著の始まり
ともいわれています)と続いています。

父ディックのお気に入りのキャラクターだったのでしょうか、
要所でこの人物を起用していました。

そのキャラクターが息子さんによって復活したのが、この作品です。

 

 ●良くも悪くもフランシス印!?

私もこの登場人物を起用した意欲作に大いに興味をそそられて、
買うことにしました。

以前『強襲』を、図書館で見つけて読んだときに感じたのは、
非情によく父親の諸作を研究して、『強襲』の場合は、
彼の単独作としての「処女作」でもありましたので、父親の処女作
『本命』を思い出させるような印象があった、と記憶しています。

そして、この印象的なヒーローの登場となる、彼自身の単独作としては、
三作目という本書『覚悟』です。

お父さんの一連の名作群と比べると、やはりもう一つ、という印象は
否めませんでした。
が、これは高望みというものかも知れません。

お父さんなら、もっと極度に困難な状況を設定し、
そこからの脱出劇を見せてくれたかも、というのは。

 

 ●二冊目の<新・競馬シリーズ>

47歳のなった元騎手で元調査員のシッドは、
英国競馬統括機構会長サー・リチャードから調査を依頼されます。

 《「できません」私が言った。「絶対に」/
  「だが、シッド、やるしかない」/「どうしてです?」/
  「健全なレースのために」/よく使われる戦術であった。》p.7

しかし、今の彼は再婚して一人の娘を持つ親として、
危険を伴う仕事から7年前に引退し、
デスクワークで金融取引を生業としています。
ところが、そのサー・リチャードが一見自殺に見える形で死亡します。
シッドが相談した、シッドの前妻の父親であるチャールズは、
彼が自殺するような人間ではないことを知っており、
サー・リチャードの疑惑が現実のことである可能性を否定できない、
と考え、彼に調査を進めることを進言します。

関係者に話を聞く内に、彼に調査を辞めるように、という脅迫の電話が
かかってきます。
警察に通報すると、主任警部が彼に言います。

 《「シッド・ハレーに何かしろと言えば言うほど、彼は反対のことを
  するとね」ニヤリとした。「脅して遠ざけようとすればするほど、
  執拗に迫ってくる」》p.69

こうしてシッドは事件に巻き込まれていきます。

 《チャールズが言ったことは正しかったのかもしれない。
  [一度探偵になった者は、ずっと探偵だ]([]内傍点)》p.205

よくできたストーリーです。
手慣れたという言葉がピッタリかも知れません。

 

 ●<新・競馬シリーズ>始動

この時点では三作目ですが、巻末のリストを見ますと、
コロナ禍の2020年をのぞいて、2011年の『強襲』から
2023年まで毎年、都合13作の新作を発表しています。

このうち、この『覚悟』を含めた三作が、今回文春文庫から
<新・競馬シリーズ>として刊行される予定となっています。

本書の帯の裏の方に、

 《競馬シリーズを心から愛する翻訳者と編集者が全力でお届けする
  「新・競馬シリーズ」。続々刊行!》

とあり、

 《『虎口(仮)』厩舎放火事件に挑む 危機管理専門の若き弁護士
   フォスター。(2025年秋予定)
  『勝機(仮)』シッド・ハレー再登場。 新・競馬シリーズ中、
   話題の傑作。(2026年春予定)》

と、二作が示されています。
これらの売上次第では、次の予定も上がってくるかも知れません。

 

まず、この新作に期待! です。

なんと、今調べてみますと、
2025年秋の予定だった、2018年作品の“Crisis”が、
『虎口』と仮題のまま、10月の新刊として出ていました。

 ・・・

『虎口』フェリックス・フランシス/著 加賀山 卓朗/訳
文春文庫 2025/10/7
(Amazonで見る) 

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 ●わが友フランシス二代目、フェリックス

「わが友フランシス二代目」についてふれておきましょう。
実は、これ「わが友フランシス」は、青木雨彦さん
(1932年11月17日‐1991年3月2日)という著述家・コラムニストの
『ミステリマガジン』に連載されていたミステリコラム「夜間飛行」の
ディック・フランシスについてのミステリ・エッセイの題名でした。

ダニエル・ロークという『興奮』(日本で最初に翻訳されたディック・
フランシス作品)の主人公に「魅かれた」といい、

 《おおげさにいえば、そこに、私の友人と呼ぶにふさわしい男を
  発見した。》

というのです。
(『敵手』のハヤカワミステリ文庫版の巻末にある、茶木則雄さんの
「解説」の冒頭に引用されています。)

私も主人公に似ているとはいいませんが、このフランシスの二代目、
1953年生まれのフェリックスさんとはほぼ同年代。

共著時代の訳書に掲載されている写真は、まだまだ若く、
それが今では孫に本書を捧げています、そういうお年頃なのです。

ということで、ちょっと似ているかも、と思いつつ、
長年、お父さんの作品を読んできた者として、
その息子さんも「わが友」といえそうな人物、という気になっています。

まあ、それだけのお話ですけれど、ね。

 

 ●復活を言祝ぐ

ちなみに書いておきますと、
私がディック・フランシスのファンになったのは、評判を聞いて
1972年に『興奮』、そして『大穴』を続けて読んだとき。
いっぺんにやられてしまいました。
それ以来、ずっと追いかけてきました。
39作目『勝利』(原著2000)で、途切れたときは、
年齢的にも致し方ないか、と思ったものの、非常に残念でした。
それだけに復活したときの喜びは、
言葉では言い表しがたいものがありました。

そして死後、日本では翻訳が途切れていた間も、
息子さんフェリックスは単独で書き続けていたことを知ったときの
驚きもまた、大きな驚きでした。

残念ながら、一作のみの紹介で終わってしましましたが、
このたび一部の作品が再度<新・競馬シリーズ>として登場したことは、
なにものにも代えがたい喜びです。

これからも「これは」という作品があれば、
ぜひ紹介していただきたいものです。

 

*参照:
『左利きライフ研究家(本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
2015.9.23
“わが友フランシス”息子フェリックス単独作『強襲』を読む

 

・『夜間飛行 ミステリについての独断と偏見』青木雨彦/著 早川書房
1976
(Amazonで見る) 

 

(旧シリーズを概観するガイドブック)
『ミステリマガジン 二〇一〇年六月号
 特集ディック・フランシスの弔祭』(早川書房刊)――追悼特集号

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(画像:『ミステリマガジン 二〇一〇年六月号 特集ディック・フランシスの弔祭』表紙、特集目次)

 

【ディック・フランシス作品から<シッド・ハレー>もの】
(筆者の所蔵する本)

『大穴』菊池光/訳 ハヤカワミステリ 1967
・ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-2 競馬シリーズ 1976/4/20
(Amazonで見る) 

『利腕』菊池光/訳 早川書房 1981
・ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-18 競馬シリーズ 1985/8/1
(Amazonで見る) 

『敵手』ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-35 競馬シリーズ 2000/8/1
(Amazonで見る) 

『再起』北野 寿美枝 ハヤカワ・ミステリ文庫 フ 1-41) 文庫 – 2008/11/7
(Amazonで見る) 

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(画像:<シッド・ハレー>もの(筆者所蔵本)=ディック・フランシス著『大穴』『利腕』『敵手』『再起』、フェリックス・フランシス著『覚悟』)

 

【フェリックス・フランシス作品】
『強襲』(新・競馬シリーズ) フェリックス・フランシス/著
北野寿美枝/訳 イースト・プレス 2015/1/24
http://www.amazon.co.jp/dp/4781612784/ref=nosim/?tag=hidarikikidei-22
(Amazonで見る) https://amzn.to/4nE9LT3

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(画像:フェリックス・フランシス/著、新・競馬シリーズ『強襲』『覚悟』『虎口』)

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本誌では、「私の読書論-わが友フランシス二代目『覚悟』フェリックス・フランシス 文春文庫」と題して、今回も全文転載紹介です。

日本では、2015年の『強襲』以来の<新・競馬シリーズ>の翻訳本です。
ディック・フランシスの死後も、期間をおかず、二代目のフェリックス・フランシスさんが書き継いできたのが、「'Dick Francis' novels」でした。
「ディック・フランシス風の小説」とでもいうのでしょうか、それともそのものズバリの「ディック・フランシスの小説」なのでしょうか。
すでに十三作発表しています。
まだ二作しか読んでいませんが、安定の仕上がりです。
早くも、新刊が出ています。手に入れました。
次作の予定も上がっています。
今度はまた<シッド・ハレー>ものとのこと。
大いに期待しています。

装丁を似せているのが、違う版元ながらファンを思う気持ちが伝わってきます。
早川さんも<シッド・ハレー>ものだけでも重版してもらえないものでしょうか。
新しいファンのためにも。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.10.04

親御さんへ―特別編:モノ・マガジン(特集)左利き道具指南-週刊ヒッキイ第695号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)

【最新号】

第695号(Vol.21 no.16/No.695) 2025/10/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 特別編:モノ・マガジン (2025年8-16.9-2合併号)
【特集】右利きにはわからない !? 左利き道具指南」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第695号(Vol.21 no.16/No.695) 2025/10/4
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 特別編:モノ・マガジン (2025年8-16.9-2合併号)
【特集】右利きにはわからない !? 左利き道具指南」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回も、前号に引き続き、
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―」の特別編
 として、8月1日に発売されました、
 『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス)2025年8-16.9-2合併号
 の<左利き特集>を、遅ればせながら取り上げます。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ
   ―特別編―

  ◆ 「右利きファシズム」に抗う! ◆

   モノ・マガジン (2025年8-16.9-2合併号)
   【特集】右利きにはわからない !? 左利き道具指南
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●『モノ・マガジン』左利き特集

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『モノ・マガジン: 恐竜大復活 (2025年8-16.9-2合併号)』
ワールド・フオト・プレス (2025/8/1)

【特集】右利きにはわからない !? 左利き道具指南

我々の生活空間は、ほとんどが「右利き仕様」。
一方、左利き用はというと……
時代とともに偏見はなくなってきているものの、
まだまだサイレントストレスを感じている人も多い。
そこでモノ・マガジンは身近なマイノリティーである左利きを応援する。
左利き用の便利グッズからユニバーサルデザインまで
たっぷりと集めたぞ。

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(Amazonで見る)

出版社 ‏ : ‎ ワールド・フオト・プレス (2025/8/1)
発売日 ‏ : ‎ 2025/8/1

 

――という内容で、カラーで全12ページ。
まず見開き2ページで
p.80-81「日本左利き協会 大路直哉さんインタビュー」。

次のページから左利き用品の紹介が始まります。

p.82「左利き用のミニ財布」、p.83「左利き文房具カタログ」、
p.84「左ききの道具店セレクション」、p.85「左利き料理道具カタログ」、
p.86「左利き雑学事典」、p.87「左利き生活雑貨スポーツカタログ」、
p.88「左利きミュージシャンの憂鬱」、p.89「左利きギターカタログ」、
pp.90-91「左利き・右利きを問わない ユニバーサルデザイン文房具」。

 ・・・

メインの特集は、「恐竜大復活」とありますように、
『ジュラシック・パーク』の新作映画に関するものです。

これは本屋さんでチラッと見て、そうか、と思い、題字の下にあった
左利きの特集の文字を見落としました。

で、まったく知らなかったのですね。

前号前々号で紹介しました、TBSラジオ「人権TODAY」のことを
日本左利き協会のサイトで見てみようと思い、のぞいてみると、
この特集号のことが紹介されていました。

ええ~っと思い、慌てて調べてみますと、もう発売期間を過ぎ、
次号が出ていました。
仕方なく、サイトに出ていたAmazonで購入。

お高くなりましたが、<左利きライフ研究家>という看板を上げている
手前、致し方ないところでしょう。

 

 ●p.80-81「日本左利き協会 大路直哉さんインタビュー」

今回の特集の冒頭、大路さんへの取材による記事が登場します。

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大路さんの記事に関していいますと、8月30日の放送されました、
TBSラジオ「人権TODAY」の日本左利き協会の大路直哉さんの回の、
サイト版の内容とほぼ同じ、といっていいものでした。

同じ時期に同じように取材を受けていれば、
当然ご自分の思いは同じなわけで、
その回答の内容も同じになるのは無理もないところです。

例の著書

『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』大路直哉
 PHP新書1367 2023/9/16 
――「第六章「右利き社会」から「左利きにやさしい社会」づくりへ」
230919hidarikiki-no-iibun-600

(Amazonで見る)

<右利きと左利きが共感する社会へ>という結論が語られています。

このへんは、過去二回のTBSラジオ「人権TODAY」の方を参照ください。

 

 ●左利き用の商品カタログ

以下のページからの商品カタログに関して軽く紹介しておきましょう。

p.82「左利き用のミニ財布」

革小物メーカー「ATELIER MOKU アトリエMOKU」
https://moku.info/

の左利きのための左利き仕様の財布――ファンからの左利き仕様の
リクエストが多く制作することになった、といいます。
「小さく薄い財布SAKU」の左利き仕様は、札入れとコインケースの
向きが反転していて、左手で取り出しやすい。
新作を出す度に「左利きはないのか?」という問い合わせがあり、
現在、定番品は、原則、左利き用が最初から用意されている、とのこと。

p.83「左利き文房具カタログ」

・書き心地を追求したドイツ生まれの万年筆――シュナイダー
 「TOMO」「RAY」
・定番カッターナイフのレフティモデル――オルファ
 「カッターナイフ レフティL型」
・左利きに嬉しい鉛筆削り――ブルネン「鉛筆削り「Office」左手用」
・利き手を問わずに軽い切れ味を実現!――コクヨ
 「ハサミ<サクサ>スリム・グルーレス刃」
・左利きのメモ書きとして使えるノート――ダイアログノート
 「左ききのダイアログノート(3冊セット)」
・左利きのためのファースト万年筆――ペリカン
 「万年筆ぺりカーノジュニア左利き用」

p.84「左ききの道具店 セレクション」――2018年8月13日にオープン
 したオンラインストア。不定期営業の「ときどきストア」も。
 左利き用のみならず「左右どちらでも使いやすい道具」「使い方によっ
 ては左利きに使いやすい道具」も。オリジナルブランド「HIDARI」も。
・分解して使える左手用キッチンハサミ
・カレースプーン「カレー賢人ヒダリー」
・財布「山藤(やまとう)マルチパーパス」
・左ききの扇子「Butterfly」・万年筆「Base」左手用
・左ききの道具店 左ききの手帳

p.85「左利き料理道具カタログ」
・調理が一層はかどる左右兼用アイテム――一藤金属
 「すくいやすく注ぎやすいレードル」
・至高の皮むき器の左手用モデル――飯田屋「エバーピーラー/左手用」
・スマートでコンフォータブルなバターナイフ――燕振興工業
 「バターナイフ」
・反時計回りに回すソムリエナイフ――プルテックス
 「ソムリエナイフ プルパロット/左手用」
・専用スプーンを使って毎日の習慣を盛り上げる――ミヨシ
 「ヨーグルトスプーンSNOPPO/左手用」
・切れ味と美しさを備えた左利き用の一本――貝印
 「旬Classic三徳 左利き用175mm」

p.86「左利き雑学事典」
・なぜ左利きは生まれるのか? いつ利き手は確立する?
・日本は10人にひとりが左利きその多くは「クロスドミナンス」
・「左利きの日」は、1年に2回ある!?
・天才肌が多い!? 左利きの偉人、才人たち
・日本の文献に書かれた最も古い左利きの人物とは?
・ホッキョクグマは、みんな左利き!?
・左利きだった坂本龍一のソロアルバムのタイトルは?
・左手を上げた招き猫は、人やお客を招く

「左利きの日」を取り上げ、
8月13日「国際左利きの日」の始まりについて、
 《8月13日は「国際左利きの日」として1976年にアメリカに存在した
  「Lefthanders International」が最初に制定した。》
と正しく記載しています。

そもそも私がこの「Lefthandaers International」について知ったのは、
↓の『モノマガジン』の左利き特集号だったのですから当然といえます。

『モノ・マガジン』1991年4月2日号(NO.188)
  <特集/左を制するモノは時代を制す!>「左利きの商品学」

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*参照:
第602号(No.602) 2021/9/4
「創刊600号突破記念―
 私が影響を受けた左利き研究家・活動家(2)第二期・紙の時代―その1」
『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
2021.9.4
私が影響を受けた左利き研究家・活動家(2)第二期・紙の時代1
(創刊600号突破記念)-週刊ヒッキイ第602号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/09/post-57d0e5.html

・『左利きライフ研究家~レフティやすおのお茶でっせ』2025.8.13
2025年8月13日は50回目の<国際左利きの日>INTERNATIONAL LEFTHANDERS
DAY
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/08/post-7486e1.html

 

p.87「左利き生活雑貨スポーツカタログ」
・左利きがスマートにお茶を注げる急須――白山陶器「茶和急須/左手」
・ミズノ「Mizuno Pro S-3 アイアン/左用」
・ジャストフィットなグラブで気分もプレイも上がる――ミズノ
 「オーダーグラブ」
・左手用のハサミで快適な剪定を!――坂源「庭園用ハサミ/左手用」
・飛距離アップにレフティ御用達ドライバー――ミズノ
 「ST-Z 230 ドライバー/左用」
・葉っぱのカタチにはワケがある!?――Kikkerland
 「どちらの手でも見やすい葉っぱのトランプ」

p.88「左利きミュージシャンの憂鬱」
・粉砕か、共存か!?左利きと楽器の関係――「モノマガジン」で連載を
 持つ、左利き右弾きの髙木大地さんによる、左利きと楽器の話。
「右利きファシズム」として、ピアノは右利き用――
 《ピアノと同じ鍵盤を持つシンセサイザーでは、左右を逆にする設定も
  可能で、左利きのためにカスタマイズすることもできる。》
ギターは《レフティも充実》。故PANTAさんは「右利きファシズム」
に抗っていた。自分はどっぷり浸かっていたことに気付いた、と。

p.89「左利きギターカタログ」
・左利きの天才ギタリストのシグネチャーモデル――エピフォン
 「Jimi Hendrix Love Drops Flying V Left-Hand」
・グランロックの荒々しさを蘇らせるサウンドが魅力――フェンダー
 「Kurt Cobain Jaguar Left-Hand」
・オールマイティに使える定番アコギの左利きモデル――ヤマハ「FG820L」
・フェンダーの美学と日本の職人魂の融合させた一本――フェンダー
 「Made in Japan Traditional 60s Stratocaster Left-Hand」

pp.90-91「左利き・右利きを問わない ユニバーサルデザイン文房具」
「誰もが快適に使える優しい文房具を目指して」 
 《利き手に関係なく、誰もが使いやすく日常生活における効率性や
  快適性が向上する文房具を集めてみた。》
 《普段何気なく使っている文房具、しかしこれらは圧倒的に人口の多い
  “右利き”利用を基本として作られている。ただ世の中には当然、
  左利きの人もいる訳で、ストレスを抱きながら使用していることも
  多い。そこでユニバーサルデザイン文房具の登場となるワケである。》
 《左利き右利き共生の答えがここにある。文房具を新たに購入する際は
  一度、その使い心地を試してみて欲しい。》
・左利きも右利きも納得の便利な定規――HIDARI「15cm定規」
・利き手を問わず快適に使える――HIDARI「ユニバーサルメジャー」
・右手でも左手でも、スマートな使用感が○――左ききの道具店
 「ユニバーサルクリアファイル」
・安心、安全に配慮したカバー付きの優しいハサミ――HARAC「カスタ」
・落としても安心、抜くのも簡単な優しい画鋲――コクヨ
 「プニョプニョピン」
・使いやすくてエコな針なしステープラー――コクヨ「ハリナックス」
・切る、折る、交換する際に安心感をプラス――コクヨ「フレーヌ」
・切り抜きをきれいに楽しく実現!――HARAC「ライン」
・握っても、置いても使えるハンドルデザイン――HARAC「ネイルプラス」

 

 ●ちょっとした工夫で……

今回の<左利き特集>を見て思うところを書いてみます。

冒頭の大路さんのお話から始まり、財布、文房具、<左ききの道具店>の
セレクション、料理道具、左利き雑学事典をはさんで、生活雑貨、
左利きミュージシャンのお話、唯一ともいうべき左利き楽器のギターの
カタログ、ユニバーサルデザイン文房具まで。

左利き用品に関して、ハサミのようなある一部の商品などは、
100円ショップでも手に入る、ともいわれます。

しかし、実態はまだまだ。
日常的に気軽に買い物ができるはずのコンビニでの普及率を見てみれば、
よくわかると思います。
ゼロに等しいのでは?(最近はあまり行かないのでよく知りませんが。)

ユニバーサル・デザインに関しても、左右性に関連する商品についての
一般の人の理解は十分ではないようです。
ちょっとした工夫で左右両用できる用になる商品というものが、
いくらでもあると思われます。
例としては、<左ききの道具店>さんのクリアファイルがあります。
切り欠きを両面にずらして入れているだけのことです。

もちろん、これだけのことでも手間は倍になるのかも知れませんけれど。

そういうように、
ユニバーサルデザインの可能性はもっと追求されるべきでしょう。

 

 ●ユーザーの使い方も十人十色

左利き専用品に関しましても、実際に使う人は、人色々です。

ユーザーの数でいえば、圧倒的に右利きの人が多いわけですが、
右利きの人がみんな、右手使いするかといいますと、
必ずしもそうとは言い切れません。
状況により、右手で使う時もあれば、左手で使うときもある、
というのが本当のところです。

私が左利きおよび左利き用品の使用に目覚めたきっかけとなった、
左手用カメラ「京セラSAMURAI Z-L/Z2-L」でも、
右利きの人が記録用に買った
(右手で作業をしながらでも左手のカメラで記録できる)、
という話をネットで知ったものです。

また、あれは右手でこれは左手、といった。
いわゆるクロスドミナンス的な使い方をする人もいます。

左利きの人が「右利き社会」になじむ過程で、右手使いになる、
という話はよく聞きますが、
右利きの人でも左手使いを強いられる場面もあります。
ケガをした場合などその例です。

故長嶋茂雄さんもそうでしたが、右半身マヒになることもあります。

半身麻痺になった場合、左利きの人ならもし利き手が使えなくなっても、
右利き用の商品はいくらでもありますから、
不得意の手でもなんとかなるかも知れません。

一方、右利きの人の場合は、利き手が使えなくなると、
代わりに非利き手である左手を使うことになります。
その時、現状のような世界では、左手用を探す必要があります。

昔のエッセイになりますが、岩井礼子さんの「はさみ」がそれです。

《脳梗塞で右半身マヒになった母が使っている左利きのはさみから
 昔の器用だった母の思い出を語る。》

「お父さん」が必死になって探してきたのがこの左手用のハサミでした。
右手で使った娘さんがこんなに切れないハサミを使っているのか、
というと、それは左用よ、左手で使うのよ、とお母さん。
改めて母の不自由さを思う、というお話でした。

*参照:
『最高の贈り物―’98年版ベスト・エッセイ集』日本エッセイストクラブ
/編 文春文庫 2001/8/1

 

(Amazonで見る)

(「文と友だち」同人・主婦)『随筆春秋』第8号

 

「多様性」がいわれる世の中ですが、
人は一様ではないのですから、誰もが取り残されることのない、
そういう世界に変えていきたいものです。

左利きも忘れずにいて欲しいものです。

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本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 特別編:モノ・マガジン (2025年8-16.9-2合併号)【特集】右利きにはわからない !? 左利き道具指南」と題して、今回は全紹介です。

『モノ・マガジン』の<左利き特集号>は、私自身3度目の紹介? です。

最初の出会いは、本文にも書いていますように、あの衝撃の大特集号でした。
あれを見て「左利き(用品)に目覚めた」という人は多いと思います。
非常に優れた特集でした。
まさに<総力特集>!? という感がありました。
二度目は、私のブログ(『レフティやすおのお茶でっせ』:現『左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃんレフティやすおのお茶でっせ』)を紹介していただいたものでした。
そして、三度目がこれ。
ずっと気にしてときどきはこの雑誌を見ていたのですが、今回は見つけられませんでした。
最近は本屋さんもすっかり減ってしまい、駅向こうまで行かないと行けない状況です。
近くのわが市の図書館にも置いているのですが、この頃は、いたずらがあるのか、開架の棚に最新号は置いていなくて、気軽に見ることができません。
難儀な時代になりました。

『モノ・マガジン』さんがかわらず、左利きをひいきにしていただけるのは、嬉しいかぎりです。
これからも定期的によろしく!

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』
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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.09.30

私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ(2)-楽しい読書396号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)

【最新号】

2025(令和7)年9月30日号(vol.18 no.16/No.396)
「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ
から(2)『人間の大地』」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年9月30日号(vol.18 no.16/No.396)
「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ
から(2)『人間の大地』」
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 今回は、サン=テグジュペリの岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』の
 二回目、黄金のカップリングのもう一つの作品、
 『夜間飛行』の次に出版された『人間の大地』です。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 私の読書論 -

  ~ 飛行機乗り作家の哲学的エッセイ ~

  岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著
    野崎 歓/訳 から(2)『人間の大地』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

●サン=テグジュペリの思い出

好きな作家の一人である、サン=テグジュペリは、
弊誌の4号目で扱った作家ですね。

*参照:
2008(平成20)年4月号(No.4)-080430-星になった少年『星の王子さま』

 

↓にも書いたように、

『レフティやすおのお茶でっせ』2025.8.24
『NHK100分de名著』152「人間の大地」サン=テグジュペリ 2025年8月放送中

 

サン=テグジュペリという作家さんは、
中学一年の時に、『星の王子さま』の冒頭の絵に関して、
「大人はわかってくれない」を教えてくれた、
という意味で興味を持つようになった人でした。

今回は、いよいよ小説や寓話や童話ではなく「哲学的エッセイ」とでも
呼ぶべき作品『人間の大地』です。

タイトルは、私なりの解釈では、
『(私たち)人間の星<地球>』といったところでしょうか。

 

 ●目次と概略紹介

まずは、目次を紹介しましょう。

『人間の大地』 目次

 1 定期路線 137-164
 2 仲間たち 165-190
 3 飛行機 191-196
 4 飛行機と惑星 197-215
 5 オアシス 216-225
 6 砂漠の中で 226-277
 7 砂漠の中心で 278-345
 8 人間たち 346-379

 

1章の前に

大地はわれわれ自身について、どれだけ本を読むよりも多くのことを教えてくれる。》野崎歓訳・岩波文庫版『人間の大地』p.135

という有名な書き出しで始まる文章「前口上」があります。
夜間、南米の航空路を飛ぶ飛行機の上から見た地上の明かり――
人の住む痕跡、それはまるで夜空に散らばる星のようで、
それらをつなげること、連絡を取ることを試みなければならない、
と語りかけます。

人間の大地での行いを振り返ってみよう、という試みです。

 

 1 定期路線 137-164

1926年ラテコエール社に 定期路線操縦士として入社した著者。
本書を捧げた先輩操縦士ギヨメから教わった話などが語られます。
 

そのときから、惑星のあいだで宇宙空間をさまよっているような気分になった。近づくことのできない百もの星々のただなかで、唯一の本当の星、われわれの星、なじみのある風景や大切な家や愛情がそこにだけ保たれている、ただ一つの星を求めて飛び続けた。/ただ一つの星、そこには……。(略)》野崎歓訳・岩波文庫版『人間の大地』p.157

 

 2 仲間たち 165-190

先輩操縦士メルモーズ、そしてギヨメの遭難のお話。
 

「妻は、ぼくがまだ生きていると信じているだろう。とすれば妻は、
  ぼくが歩き続けていると信じているだろう。仲間たちも、歩き続けて
  いると信じているだろう。みんなが信頼してくれている。だから
  歩くのをやめれば、ぼくはろくでなしということになる」
》p.182

雪の中、歩き続けるギヨメ。 

「救いをもたらすのは、一歩踏み出すことだ。さらにもう一歩。そうやってとにかくまた歩き出すんだ……」》p.186

自分を待っている人がいるから、歩き続け、生還する。

それが《人間であること、それはまさしく責任をもつことだ》(p.188)と。

 

 3 飛行機 191-196

機械は目的ではない。飛行機は目的ではなく道具である。》p.192

私たちは、技術の進歩について行けていない。
しかし、大事なことは、
新しい家を建てるのではなく、そこに住むことだ、と。

 

 4 飛行機と惑星 197-215

飛行機は一個の機械であるにせよ、分析の道具としてなんと役に立つことか!》p.197

飛行機で空からこの地上の世界を見るとき、
そこには、人の手の入っていない土地があることに気付く。
人は日常、街にしろ畑にしろ、その生活の場を辿っているだけで、
人の住む場所として、 

この惑星は湿潤で温暖なところだと思い込んできたのだ。》p.198

しかし、現実には――砂漠の上や海の上を飛ぶ飛行機乗りが知っている
現実は、人の住んでいない、あるいは、まったく人の手によって
汚されたことのない世界が広がっているのだ、ということ。

時には、白い砂漠に黒い石が落ちていて、それは空から落ちてきた、と。

 

 5 オアシス 216-225

飛行機のもう一つの奇跡とは、それが直接、神秘のただなかに降下させてくれることである。》p.216

アルゼンチンで実地に体験した神秘なおとぎ話。
飛行機で降りた地で出会った二人の娘を持つ夫婦の家に泊めてもらう。

夕食時、足下でシュウシュウという音がする。
なんとそれは「マムシ」だという、床下に巣を作っていて、
昼間は狩りをして夜には帰って来るのだ、といいます。

妖精のような少女たちとの出会い……。

 

 6 砂漠の中で 226-277

ムーア人によってさらわれてきて奴隷(バルク)にされた黒人男性には、
マラケシュに妻子がいます。
不帰順地帯にある中継基地の著者と整備士たちは、お金を出し合って、
彼を身請けし、返してやることにします。
帰る途中、一日の休みを得た彼は、寄付して貰ったお金を使って、
貧しい町の子供たちに金糸の履き物を配ってやります。
 

自由になった彼は、本質的な富を手にしていた。つまり愛される権利、北あるいは南へ歩いていく権利、自分の労働で糧を得る権利だ。だが、お金などいったい何の役に立つだろう……。深い飢えを感じる者のように、彼は人々のあいだで、人々とつながった一人の人間でありたいという欲求を感じていたのだ。(略)》p.273

 

 7 砂漠の中心で 278-345

リビア砂漠に不時着した著者と機関士プレヴォ。現在地点も分からず、
命の糧である飲み水もなく放浪を続けることとなります。
渇きによる死の直前、リビアのベドウィンに助けられます。

(略)またしても、川や木陰や人里は幸せな偶然の産物なのだと思えてくる。岩と砂ばかりではないか!》p.281
いやはや、この惑星には人間が住んでいるはずなんだが……。/「おーい! 人間!……」/(略)そんなふうに叫ぶ自分が滑稽に思える……。もう一度だけ叫んでみる。/「にんげーん!」》p.318

ギヨメのことを思い出す著者たち。

またもや、遭難したのはわれわれではないと実感する。遭難したのは、待っている人たちなのだ!(略)彼らに向かって駆けていかずにはいられない。ギヨメもまた、アンデスから戻ってきたとき、自分は遭難者たちを助けるために駆けつけたのだと語ってくれた!それが普遍的な真実なのだ。》p.323

プレヴォはいいます、自分一人なら寝てしまうのだが、と。 

重要なのは飛行機の操縦ではない。飛行機は目的ではなく、手段だ。命を懸けるのは飛行機のためではない。(略)/人間の仕事をし、人間の苦労を知る。風、星、夜、砂、海を相手にする。自然の力と駆け引きをする。(略)約束の地のように中継基地を待ち望み、星におのれの真実を求める。》p.334

著者はこの仕事に満足している、といいます。
後悔はしていない、勝負をして負けただけなのだ、
この仕事にはつきものだ、と。

飛行機で飛び、風を受ける、それを一度味わったものは、
自然のなかで得たこの糧を決して忘れない、と。
危険な生き方をすることではなく、

(略)わたしが愛するのは危険ではない。自分が何を愛しているのかはわかっている。それは生きることなのだ。》pp.335-336

この死を前に、生きることの意味を知るのです。 

われわれを救ってくれたリビアのベドウィンよ、(略)きみは「人間」であり、わたしの前に同時にありとあらゆる人間の顔で現れる。(略)きみは最愛の兄弟だ。そしてわたしもまた、あらゆる人間の内にきみを認めるだろう。/(略)わたしのあらゆる友、あらゆる敵が、きみを通してこちらに歩み寄る。するとわたしにはもはや、この世に一人の敵もいなくなる。》pp.344-345

そして、救ってくれた人に、人間の存在の価値を知るのです。

 

 8 人間たち 346-379

人間は絶望のどん底に落ちたとき、断念したときに、心に平安が訪れ、
自分を知るのだ、と著者はいいます。

われわれは何を知っているのか、われわれを豊かにしてくれる未知の条件があるということ以外に? 人間の真実はどこにある?》p.347

一つの例として、オレンジの木がその土地でしっかり根を張り、
実を結べば、その土地がオレンジの木にとっての真実だ、と。

大空での夜、砂漠での夜、といった経験は特殊なもので、
誰にでも与えられるものではないけれど、
人生の真実は、特定の人だけのものでもない。

人間の本質的な部分を引き出そうとするならば、しばしのあいだ分断を忘れる必要がある。(略)真実とは世界を単純化するものであって、混沌を生み出すものではない。真実とは普遍的なものを引き出す言葉なのだ。(略)》p.366

われわれの住むこの星、地球は人類をのせて宇宙を運ぶ一つの星。
同じ船の乗組員であるわれわれは運命をともにする仲間。

そんなわれわれを結びつける目標を求めるのがいい、といいます。

 

どんなに目立たないことであっても、自分の役割を自覚したとき、われわれは初めて幸せになれるだろう。そのとき初めて、心穏やかに生き、心穏やかに死ぬことができるだろう。なぜなら、生に意味を与えるものは、死にも意味を与えるのだから。》p.371

 ・・・

最後に、有名な列車のなかで見た少年のエピソードが語られます。

少年の未来の可能性について、人間がどこまで成長できるのか、
その可能性に期待する彼の“思想”というものを感じさせます。

死を前に、生に向かってどこまで歩けるのかを実地に試した人間である、
彼の思想を。

そして結びのことば――

「精神」だけが、その息吹が粘土の上に通うならば、「人間」を創造することができる。》p.379

 

このラストの章などは特に、宗教的な色彩が強い印象があります。

 

 ●圧巻の章

圧巻はなんといっても、第7章の砂漠での遭難の話です。

かつてギヨメがそうしたように、
著者も彼らの生還を信じて待つ人たちのために歩き続けるのでした。

このへんはやはり実際に体験した人でなければ書けない
状況と心理なのでしょう。

それまではどこか読んでいても今ひとつ入ってこない感じがありました。
訳書は違いますが、もう何度目かのこの作品ですので、いつか来た道、
慣れた道、でしたので。
しかし、さすがにこの章になりますと、ここまでの読書体験と相まって、
感動が重層的になって迫って来ます。

もし読むのがシンドイと感じていた人がいらっしゃれば、
少なくとも、ここまではガマンして読んでみましょう。
ここまで来れば、本当に「感動」の一言です。

 

 ●行動の書であり精神の書、そして希望の書

最初に読んだ? 堀口大學訳の『人間の土地』(新潮文庫)の
「訳者あとがき」(1955年)にこうあります。

世にも現実的な行動の書であると同時にまた、最も深遠な精神の書
必ずや読者の心に、自らの真実、自らの本然に対する《郷愁》をふるいおこし、生活態度に対しよき影響を与えずにはおかないと訳者は信じるものだ。》p.264

 

一方、今年2025年の
『NHKテキスト 100分de名著 サン=テグジュペリ『人間の大地』
2025年8月』の [講師] 野崎 歓 さんは、「希望の書」だといいます。
人間と世界への信頼を失うまいとする理想主義者サン=テグジュペリ
によって、世界大戦を前に、世界が分断されようとしている絶望の時代に
書かれた本書は、希望の灯を掲げようとした、と。

世界各地で戦争の火が消えないなか、
今こそこの本の「呼びかけ」がわれわれの元にまっすぐ届くのだ、と。

 ・・・

今回一番好きな言葉として心に残ったのは、先に紹介しました

自分が何を愛しているのかはわかっている。それは生きることなのだ。》pp.335-336

という部分ですね。

 

結局、彼は飛行機乗りとして現役のまま、この世を去ったのでした。
飛行士として“生きた”人生だった、と。

真剣に“生きる”ことを教えてくれる作品だと思います。

ぜひ何度でも読んでみてほしい、と思います。

 

参照:

『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著 野崎 歓/訳
岩波文庫 赤N516-2 2025/5/19
(Amazonで見る)

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『NHKテキスト 100分de名著 サン=テグジュペリ『人間の大地』
 2025年8月』 [講師] 野崎 歓
(Amazonで見る)

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『夜間飛行』サン=テグジュペリ/著 堀口 大学/訳 新潮文庫 1956/2/22
――「序」アンドレ・ジッド、処女作「南方郵便機」を併録
(Amazonで見る)

 

『人間の土地』サン=テグジュペリ/著 堀口 大学/訳 新潮文庫 1955/4/12
(Amazonで見る) ――名訳で知られる堀口大學さんの訳書。ただ訳語や言葉の言い回しに
どうしても時代色が感じられます。宮崎駿さんの解説とカバー・挿絵が
楽しめます。

 

『夜間飛行』アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ/著 二木 麻里/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-2 2010/7/8
(Amazonで見る)

 

『人間の大地』サン=テグジュペリ/著 渋谷豊/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-3 2015/8/6
(Amazonで見る)

 

『戦う操縦士』サン=テグジュペリ/著 鈴木雅生/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-4 2018/3/7
(Amazonで見る)

 

『サン=テグジュペリ・コレクション 2 夜間飛行』山崎庸一郎/訳
みすず書房 2000/7/20
――本書を捧げられた相手、ディディエ・ドーラさんの
「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」を収録
(Amazonで見る)

 

『サン=テグジュペリ・コレクション 3 人間の大地』山崎庸一郎/訳
みすず書房 2001/8/1
――『星の王子さま』『ある人質への手紙』を捧げられたレオン・
ヴェルトの「わたしが識っているままのサン=テグジュペリ」を収録
(Amazonで見る)

 

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(画像:サン=テグジュペリ『人間の大地』訳本――『サン=テグジュペリ・コレクション 3 人間の大地』みすず書房版、『人間の大地』光文社古典新訳文庫版、『人間の土地』新潮文庫版、『夜間飛行・人間の大地』岩波文庫版、『NHKテキスト 100分de名著 『人間の大地』サン=テグジュペリ 2025年8月号』)

 

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(画像:私の所蔵するサン=テグジュペリの本――『星の王子さま』岩波少年文庫版、オリジナル版、『戦う操縦士』光文社古典新訳文庫版、『人間の土地』新潮文庫版、『NHKテキスト 100分de名著 『人間の大地』サン=テグジュペリ 2025年8月号』、『夜間飛行・人間の大地』岩波文庫)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ から(2)『人間の大地』」と題して、今回も全文転載紹介です。

岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ の二回目で、最終回です。

過去に三度くらい読んでいるとはいえ、久しぶりに読んだもので、当初はちょっと読みにくさを感じていました。
過去の印象を思い出しながら読んでいましたが、本文にも書いていますように、第7章まで読み進みますと、過去の感動が甦りつつ、また新たに感動を覚えました。

野崎歓さんのことばに「理想主義者サン=テグジュペリ」とありましたが、こういう一生懸命さや誠実さ、熱情といった心情が、私の彼が好きなところかも知れません。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

 

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※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.09.20

親御さんへ―特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(後)-週刊ヒッキイ第694号

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)

【最新号】

第694号(Vol.21 no.15/No.694) 2025/9/20
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(後半)」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第694号(Vol.21 no.15/No.694) 2025/9/20
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(後半)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回も、前号に引き続き、8月30日の放送されました、
 TBSラジオ「人権TODAY」の日本左利き協会の大路直哉さんの回の、
 サイト版を元に、私なりの解釈と感想を交えて紹介する後半です。
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―特別編―

  ◆ 「左利き」と「右利き」の相互理解がある社会を目指す
    「日本左利き協会」 ◆

   ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(後半)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ●ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分

◆TBSラジオ
「人権TODAY」8月30日放送
https://www.tbsradio.jp/horio-human/

--
「まとめて!土曜日」内で8時22分頃から放送中。
人権に関わる身近な話題をテーマに掲げて、
ホットなニュースをお伝えしています。
--

2025.08.30 土曜日 08:45
社会・政治・経済
「左利き」と「右利き」の相互理解がある社会を目指す
「日本左利き協会」
人権TODAY
https://www.tbsradio.jp/articles/99980/

 

250830tbsjinkentoday-jla

がそれで、
《「左利き」を取り巻く環境の過去と現在について》
「日本左利き協会」発起人で、『左利きの言い分』の著者
大路直哉さんに取材したお話です。

 

 ●左利きへの寛容度が高くなった一方、新たな問題も、、、(前半)

《現在の「左利き」を取り巻く環境について》です。

大路さんのコメント――

 《左利きに対する寛容度っていうのは、私が幼少期だった1970年代と
  比べるともう雲泥の差ではあると思います。
  その一例としましても、よく左利き用品の話題が取り沙汰されます
  けど、今までは左利き用の道具は割高で困るとか、いろいろそういう
  人がいらっしゃったんですけど、今は100円ショップでも買えますし、
  選択肢はもう確実に広がってると思います。》

さて、大路さんのいう左利き用品についてですが、
一部の商品は確かに100円ショップでも買えるかも知れません。

しかし、選択肢の幅はどうでしょうか。
本当に広がっているのでしょうか?

例えば、ハサミ一つとっても、分かります。
右手用のハサミは選び放題です。
大中小から長刃のもの、シールののりが着きにくい加工をしたもの。
取っ手の部分の色一つとっても選び放題です。

ある左利きの少女の場合、親御さんは左利きだから左手用(取っ手が
黄色)をすすめました。
しかし、彼女は他の女の子たちと同じピンク(の取っ手)が欲しい
といい、右手用を選びました。

今のハサミは、二枚の刃の合わせがしっかりしていますので、
ただ切るだけなら右手用を左手で使っても問題ないでしょう。
しかし、逆の手で使うと切り取り線に沿って切ろうとするとき、
上の刃が邪魔をして線が見えません。
ハサミを傾けるか首を傾けるか、不自然な姿勢になります。

右手用というのは、
その名の通り右手で自然に持って切れる設計になっているものです。
左手用は、その通り左手で自然に持って切れるような設計になっている
ものなのです。

先日、久しぶりにホームセンターで、ハサミを調べてみました。
確かに各社から多種多様なハサミが販売されていました。
でも「左手用」と銘打たれたものは、一点だけでした。
残りの30種ほどのハサミは、みな右手用でした。
右手用に関しては、まさに選び放題です。
しかし、左手用は一種のみ、子供用と合わせても二種二点だけでした。
これが一つの現実です。

また一般的な日常の生活必需品は、左用が色々と出回ってきています。
その点はなるほど改善されてきましたよね。

しかし今、弊誌で取り上げているように、楽器などはどうでしょうか。
左用の鍵盤ハーモニカはありません。
左用のピアノもありません。
左用のヴァイオリンは、一部で発売されているのですが、
サイトを見ますと、音楽教室の先生でも知らない人が多いようで、
まだまだ一般的とはいえません。

楽器の世界で左利き用が一般化しているのは、ギターの類いぐらいです。
他はまったく右利きオンリーといっていい状況です。
この差別のひどさは、
左利きの音楽家のみなさまの多くが感じていることのようです。

しかし、世間一般では問題視されることはありません。
なぜなのでしょうか?

 

 ●道具を使うことは人間の証?

道具は、人間と他の動物を分ける象徴のようにいわれます。
道具を使うことこそが人間の証だとすれば、
その道具が右利き用しかなければ、左利きの人は人間のうちではない、
ということになるのでしょうか。

以前、私が左利きの道具の不便を右利きの人に訴えたときに、
こう言われました。

「左利きといっても右手があるのだから、右手を使えば済む問題」と。

これが、昔の世間の右利きの人たちの平均的な考え方だったように
思います。
「利き手」という性質を正しく理解されていなかったのです。

 

私の考えを書いておきます。

私は、二十代後半まで「左利きの自分が間違っているのだ」と
思い込んでいました。
なにしろ「左利きの子を右手使いになおす(直す/治す)」ことを
指して「矯正」と呼んだくらいですから。
「矯正」の正しい意味は知らなくても、「正しい」という字が
入っていますし、正しいことのように思えます。
「誤りや悪いことを正すのだ」という意味らしいということは、
小学生にも分かりますよね。
でも、本当は左利きが誤りでも悪いことでもないとしたら?

「左利きは悪いこと/誤り」という認識が「まちがい」だ、
と教えてくださったのが、1970年代に「左利き友の会」を主宰された
精神科医の箱崎総一先生でした。

「左利きがまちがっているのではなく、
 まちがっているのは左利きを受け入れない社会の方だ」

こうして私に生きる勇気を与えてくださったのは、
箱崎総一先生の著書『左利きの秘密』でした。

『左利きの秘密』箱崎総一 立風書房 マンボウブックス
(Amazonで見る)

Hidarikiki-no-himitu_20200812154601

 

そのなかで、ご自身の考える「左右同権」の物差しを示されています。

 《左利きに対する偏見と差別が真になくなるのは、左利きの人たちが
  何ら苦痛を強いられることなく生活していけるときである。
  それをはかる物差しは、結局、左利きのための道具・器具類の
  普及度である、と私は考える。/
  たとえ人々の頭の中から左利きに対するあやまった考えがなくなった
  としても、それだけでは左右同権の社会とはいえない。
  左利きの人たちが右利きのための道具や器具に囲まれて暮らしている
  かぎり、真の解放はありえないのだ。/
  こうしたことを考えるとき、わが日本の左利きにとってまだまだ
  けわしい前途が横たわっているといわねばならない。》(pp.61-62)

今現在の日本の状況と比較してどうでしょうか。
45年経っても、どこまで進展したのか、大いに疑問です。

確かに流れは“左利き解放”に向かっています。
しかしその歩みは遅々としたものである、と私には思えます。

昨年6月に出版されました
『左利きの歴史:ヨーロッパ世界における迫害と称賛』
(ピエール=ミシェル・ベルトラン/著 久保田 剛史/訳 白水社)
(Amazonで見る)

240627-hidarikiki-no-rekisi

 

という本には、ヨーロッパを中心にした西欧での、
左利きのまさに迫害と解放への歴史が綴られています。
その道は決して平坦でまっすぐなものではなく、
曲がりくねり山あり谷あり行ったり来たり、の激動の歴史でした。

 

 ●左利きへの寛容度が高くなった一方、新たな問題も、、、(後半)

 《ただ、その一方で日常生活において手の器用さが問われる動作が
  減って、ボタン操作だけで用が足せること多くなってるのは、人間の
  視線がないゆえの新しい「サイレントストレス」というのがあると
  私は考えています。》

「サイレントストレス」というのが、私には今ひとつよくわかりません。
右利き用の道具や機械、システム等に囲まれて生活してるゆえに感じる
左利きの人の不便をいうのでしょうか。
新しい「サイレントストレス」があるというのも、例えばそれは、
さらに進む機械化社会における、新たなる左利きの不便を指すようです。
それは、左利きの人も気付かない形で、社会の中に浸透している。
右利きの人は自分が多数派ゆえに、
自分の設計がそのまま世間で通用することが多いのです。
ところが、実はそれが右利き用だ(=左利きには不向き/不便だ)、
という事実を忘れているケースが多い、ということではないでしょうか。

恒藤さんの文章には、こんな右利きの不便が指摘されていました。

 《一方で、最近、右利きの人でもこの現象に気づくことも増えてきて
  います。例えば、スマートウォッチで改札を通る時、右利きの人は
  左手に時計をつけていることが多いので、手をクロスしないと改札に
  かざすことができず、不便さを感じることになると思います。》

大路さんの本にもあるように、この社会が「右利き社会」だという事実
――これが、右利きの人たちには理解されていないように思われます。
「これが当たり前」の社会だ、という認識があるのです。

そしてそれは、右利きの人だけでなく、左利きの人にもあるのです。

私たちのような旧世代――左利きゆえに偏見と差別に泣かされてきた世代
――は、ある程度「社会に問題がある」という認識を持っています。
若い世代は、「左利き=悪」というレッテルや、極端な先鋭的な社会的
圧力をあまり受けてこなかったので、この社会をまるごと
「こういうものだ」と受け入れてしまっている部分があるようです。

子供の頃の私自身、右手用のハサミを左手で使っているので不便なのだ、
という事実を知らないまま、「ハサミとはこういう切れないものだ」
と受け止めていたのと同じです。

 

 ●「右利き」と「左利き」の相互理解、共感力を育んでいきたい

最後に、大路さんが目指す社会について、です。

 《やっぱり右利きと左利きの相互理解、共感力を育むことっていうのに
  まず一点集約して進めていきたいんですけども、そうした相互理解を
  深めていく上で大切にしたい心がけのポイントっていうのは、次の
  3つだと思います。
  1つ目は、左利きを特別視しない。
  2つ目が、同情や単なる関心にとどまるのではなくて、実感を通して
  右利きと左利きが共感しあえる意識を共有する。
  そして3つ目が、そこから利き手の関心を越えて、右利きにとって
  身近な隣人である左利きの存在を通して深まる社会的包摂への理解
  です。
  とくに、3つ目の考えがない限り、なかなか右利きの人に関心を続け
  てもらうことは難しいんじゃないかなとも考えるところですね。》

「右利き」と「左利き」の相互理解、右利きの人に共感してもらう、
という点を上げています。
右利きの人が社会の多数派なので、右利きの人の共感、これ抜きには、
社会を改変してゆくことはできません。

「右利き」と「左利き」の相互理解は、絶対条件です。

しかし、それ以前にやはり私が一番問題に感じていることは、
「左利きの人の自覚」です。

左利きの人自身が「この社会の在り方に問題があるのだ」としっかりと
認識していなければ、問題として発信していけない、ということです。

右利きの人に共感してもらうにも、その共感の素(もと)となるものが
なければ、どうにもなりません。
「ここに問題があるのだ」とハッキリと発信してゆかなければ、
右利きの人の理解も共感も得られません。

大路さんは、「右利き」と「左利き」の相互理解は、この社会を
左利きにとってのやさしい社会へ変えるためだけのものではなく、
もっと広く「社会的包摂への理解」につながるものだ、といいます。

 《人間の多様性を認め合い誰一人取りこぼすことのないソーシャル・
  インクルージョン、つまり「社会的包摂」の精神そのものです。》
    大路直哉『左利きの言い分 右利きと左利きが共感する社会へ』
    PHP新書1367 2023/9/16 ――「第六章「右利き社会」から
             「左利きにやさしい社会」づくりへ」p.261
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 ●左利き専用と左右兼用

恒藤さんの文章から

 《最近では、ハサミなどの道具も左利き専用ではなく左右兼用のものが
  あり、利き手に関わらずそういった道具をシェアできたり、道具を
  通じて利き手を意識することにつながったりしています。》

道具には兼用できるものもあります。
また、「兼用」と「共用」という考えもあります。

「(左右)兼用」というのは、私なりに解釈しますと、
「右用にも左用にも変えられる構造を持つ」タイプ
――ここで紹介されていたものは、
「レイメイ藤井 ペン型はさみ・ペンカット」という製品です。
刃そのものが右刃と左刃の二辺になっていて、
ハンドル部分を入れ換えることで、
右用にも左用にも変えられるもの(購入時は右用に組まれています)。

小型のカッターナイフには、刃を裏返して入れれば、
右用を左用に変えられる、というものがあります。

ここで紹介されている定規は、
板状の二辺をそれぞれ右用の目盛りと左用の目盛りにすることで、
そのどちらの辺を使うかで右用にも左用にも変えられるものです。
二辺を整形しなければいけないので、コストアップになります。

 

「共用」というのは、文字通りどっちの手でも使えるタイプのもの――
例えばお箸などは、横書き文字のロゴや横長の絵柄を入れないかぎり、
どちらの手でも使えます。左右対称のスプーンなどもそうです。

ここで紹介されているカッターは、刃の出し入れ用のスライダーが
上部にある「縦型」のカッターです。
これは、先に例に挙げたカッターとは違い、そのままの状態で
どちらの手でも使えるものなので、私は「共用」と呼んでいます。

 《<左右兼用のカッター>刃の出し入れ用のレバーが中心についている
  ので、左右どちらの手でも刃の出し入れができる》

 

恒藤さんの〆の文章です。

 《今後はこうした動きがさらに広がっていき、利き手を意識する方が
  増え、右利きと左利きの相互理解が進んでいくことを願っています。》

 

 ●私の意見

最後に、もう一度、私の意見をまとめておきましょう。

(1)左利きの人自身が、左利きの問題を自覚し、社会に発信してゆく。
 それによって初めて、右利きの人への共感を求めることができます。
(2)道具や機械類に関しては、左右性のあるものは、
 一定の比率で左用を用意する。
 その際、費用の分担は、ユニバーサル・サービス料金制を導入し、
 全体で均等に負担する。
(3)社会は、多様性について、それぞれのグループの声の大小や
 圧力の強弱に関係なく、平等に対応する。

 

具体的には――

 左利きの人たちは、8月13日の<国際左利きの日>や
 2月10日の<左利きグッズの日>のような記念日を利用して、
 「左利き用の道具展」のようなイベントを繰り返し実行し、
 「左利きの不便」や、右利き偏重社会の構造が持つ、
 左利きの人に不合理な在り方を訴える機会を増やし、
 右利きの人たちの理解と共感を得る努力をする。

ことが重要だと考えます。

 

 ●「右利き生まれ」と「右利き育ち」

ここで一つ私の持論である仮説を――。

よく、左利きは全体の10%程度、といわれます。
この場合、正確には「左利き」というより「左手利き」と呼ぶ方が
よいと思われます。

大半の場合、問題視されるのは、
「手、もしくは腕」にまつわる作業について、ですから。

「左手利き」が10%で「右手利き」が90% という場合の、
「90%の右手利き」のなかには、「本当は右手利きではなかった人」が
いるのではないかというのが、ここで紹介する私の持論です。

 ・・・

右利きの人には、二種類ある、ということ。

一つは、「右利き生まれ」=「生まれつき右利きの人」。

 

この場合の「右利き」とは、私がいつもいっている利き手/利き側
(利き足/利き目/利き耳など)のテストで、
「強い右利き」に分類される人のことです。

もう一つは、「右利き育ち」=
「生まれたのちの教育や指導により、右利きになった人」。

元は、私のいう「中間の人」、利き手/利き側テストで、
「弱い右利き」や「弱い左利き」と分類される人。

ある程度、右もしくは左が使える人が、その後の指導や教育で、
練習の結果、主に特定の動作において右使いが身についた人。

それゆえ人により、その「右利き度」は異なり、
「○○は右だが、××は左」というように「利き」が混在する、
というようなケースです。

もし社会の圧力がなければ、それらの人は「右手利き」ではなく、
「左手利き」になっていたかもしれない、という仮説です。

日本人の多くは、日本語は話せるけれど英語は話せない、
というのは、素質ではなく、環境の力です。
それと同じような理屈です。

私の仮説では、
真に「右利き」(強い右利き――手や腕だけでなく、足や眼、耳などを
含めて右優位)は、半数超(50~60%)。
「中間の人」(弱い右利きと弱い左利き)は、三分の一程度(33%)。
真に「左利き」(強い左利き)は、その残り(5~10%)。

 

 ●選べない「生まれ」の違いでの差別を解消しよう

人は「生まれ」を選べません。
人権の問題に直面している人々の多くは、
この「自分が選ぶことができない事柄」で悩まされているのです。

「左利き」も同じです。

以前調べてみましたら、障害者手帳を持っている人の数は、
たしか全人口の数パーセントでした。
LGBTの人の数も、同じく数パーセントだと聞いたことがあります。
左利きのうちでも、「強度の左利き」はやはりそれぐらいだ、
という研究がありました。

これらそれぞれ全人口の数パーセントの人のために、あれやこれや面倒を
見るのは、社会的には「非効率」なことかも知れません。
しかし効率の良さだけが社会の重要な価値ではないはずです。

ときに、非効率な生き方も、重要な生き方になるはずです。

人種や民族、文化の違いなども含めれば、多様性の多くはそうです。

 

お釈迦様、ブッダは「生きとし生けるものは、幸せであれ」
(『ブッダのことば―スッタニパータ―』中村元訳 岩波文庫
「第一 蛇の章/八、慈しみ」(147) p.37)
(Amazonで見る)

と説いたそうです。

誰彼の区別なく、人も動物も生き物すべて、みんなが幸せになる権利を
持っているのです。
基本的人権というのは、そういうものなのではないでしょうか。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(後半)」と題して、今回は全紹介です。

人権の番組というところが、期待を抱かせるものでした。
「左利き」「利き手」の問題を、人権の立場から、取り上げてもらえるのは、うれしいことでした。

この機会に、左利きの人自身が積極的に問題点を訴えるようになっていただけると、私のいつもいうところの、「右利きだけでなく、左利きにも優しい社会」の実現に近づいてゆくのだ、と思います。

 ・・・

弊誌の内容に興味をお持ちになられた方は、ぜひ、ご購読のうえ、お楽しみいただけると幸いです。

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』

 

『レフティやすおのお茶でっせ』
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2025.09.17

はてなブログ始めました―『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』

9月15日より、はてなブログで

『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』
250915hatena-blog-lyb

を始めました。
これは、メインブログのこの

『左利きライフ研究家(元本屋の兄ちゃん)レフティやすおのお茶でっせ』
250915cocolog-blog-ly-o

からの転載を中心に投稿していました、gooブログ

『レフティやすおの新しい生活を始めよう!』
250915goo-blog-ly-a

の方が、今年2025年の11月でサービスが終了し、消滅することになったことに伴う処置です。

gooブログからはてなブログへ移転したのです。

メインブログのこのブログも従来の飾り気のないタイトル
『レフティやすおのお茶でっせ』から変更しました。


新しいはてなブログも、
タイトルが長くなりますが、これからもお付き合いのほどを!
m(__)m

レフティやすお 


--
※本稿は、レフティやすおの他のブログ『レフティやすおブログ【左利きライフ研究家:元本屋の兄ちゃん】』に転載しています。
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2025.09.15

私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ(1)-楽しい読書395号

古典から始める レフティやすおの楽しい読書(まぐまぐ!)

【最新号】

2025(令和7)年9月15日号(vol.18 no.15/No.395)
「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ
から(1)『夜間飛行』」

 

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◇◆◇◆ 古典から始める レフティやすおの楽しい読書 ◆◇◆◇
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2025(令和7)年9月15日号(vol.18 no.15/No.395)
「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ
から(1)『夜間飛行』」
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 今回は久しぶり? に「私の読書論」として書いてみます。
 今回で200回ぐらいになるかと思います。
 どういう範疇で書くかというのは難しすぎて、混乱を生むだけです。
 適当が一番だと思うので、もう番号は振らないで、そのままで行こう
 と思います。これからもよろしく!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 - 私の読書論 -

  ~ 好きな作家の一人 ~

  岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著
    野崎 歓/訳 から(1)『夜間飛行』
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

●サン=テグジュペリの思い出

好きな作家の一人である、サン=テグジュペリを取り上げるのは、
『星の王子さま』以来かも知れません。

*参照:
2008(平成20)年4月号(No.4)-080430-星になった少年『星の王子さま』

 

↓にも書いたように、

『レフティやすおのお茶でっせ』2025.8.24
『NHK100分de名著』152「人間の大地」サン=テグジュペリ
2025年8月放送中
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/08/post-9ba848.html

サン=テグジュペリという作家さんは、
中学一年の時に、『星の王子さま』の冒頭の絵に関して、
「大人はわかってくれない」を教えてくれた、
という意味で興味を持つようになった人でした。

実際には、20代になったころにやっと
岩波少年文庫版の『星の王子さま』を買い、読んだのでした。

他の作品に触れたのは、さらにずっとずーっと後年のことです。

正確には調べないと分からないのですが、
古典や名著・名作を読むようになった50代以降のことでしょう。

堀口大學訳の新潮文庫『夜間飛行』
(処女作「南方郵便機」とのカップリング)だったと思います。
次に読んだのが、同じく新潮文庫の堀口大學訳『人間の土地』。

それで本当に好きになりました。

元々飛行機に対するあこがれを持つ少年でした。
自由に空を飛んでいる飛行機が好きで、
空を見上げてる子だったところがあります。

大阪東部上空は、伊丹空港に着陸する飛行機が通過するところでもあり、
大きな飛行機が時折爆音をさせて通過することがありました。
また、八尾空港という小型機専門の飛行場もあり、
交通情報など上空から報告するような飛行機も飛んでいました。

 

 ●初期の飛行機乗りの作家

飛行機が好きで、飛行機乗りの作家の書く小説も好きで、
色々読んでいます。

『かもめのジョナサン』で有名な、リチャード・バック。
『イリュージョン』が好きでした。
ほかにはかわいいフェレットの物語にも、飛行機ものがありました。

小説ではないですが、1954年にピューリッツァー賞を受賞した、
チャールズ・リンドバーグの著作『翼よあれがパリの灯だ
(The Spirit of St. Louis)』-
大西洋無着陸飛行に初成功した時のノンフィクションです。
前半が準備の日々、後半が実際の冒険行という構成で、
準備が大事だということを教えてくれます。
リンドバーグの夫人で、女性飛行機乗りの草分けだった、
アン・モロウ・リンドバーグさんの『海からの贈り物』もいい本でした。

そういうなかでもっとも初期の飛行機乗りの作家が
サン=テグジュペリでしょう。

 

 ●最高の名作カップリング

偶然、本屋さんに行った5月、
まさかと思っていた、この本がありました。

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『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著 野崎 歓/訳
岩波文庫 赤N516-2 2025/5/19
(Amazonで見る)

――『星の王子さま』の新訳本『ちいさな王子』の訳者でもあるフランス
 文学者でこの番組の指南役でもある野崎さんの手になる、代表作二作
 『夜間飛行』と『人間の大地』の黄金のカップリング新訳本。

 

その前に、ミシェル・ビュッシというフランスの作家の本、
『だれが星の王子さまを殺したのか』(集英社文庫)を読み、
『夜間飛行』とか『人間の大地』を再読してみたいな、
と思っていたところでしたから。

でも『夜間飛行』の本は持っていないし、
『人間の土地』は持っていますが、どうしようかと思っていたのです。
堀口大學訳は、文章が正直古びてきている印象がありました。

以前読んだなかでは、光文社古典新訳文庫の二冊、
二木麻里さんの訳の『夜間飛行』は「解説」も楽しかったですし、
渋谷豊さん訳の『人間の大地』も今どきな印象がありましたので、
これらを探そうか、と思っていました。

そこにズバリ、この二作のカップリングの本が出た、というわけです。
今までありそうでなかったこのカップリング。
これに『星の王子さま』が加われば、最高の一冊となります。
でも『星の王子さま』は、カバーからあれが欲しいですし……。

 

 ●『夜間飛行』について

『夜間飛行』は、1900年生まれのサン=テグジュペリの31歳の時の
作品で、1929年に第一長篇小説『南方郵便機』が出版されたのちに
の、1930年頃から執筆された、と光文社古典新訳文庫版、二木麻里訳
『夜間飛行』の巻末年表にあります。
サン=テグジュペリの第二作です。

当時彼は、アエロポスタル社の南米路線アエロポスタ・アルヘンティーナ
社のブエノスアイレスで支配人として従事していたのでした。
まさにこの小説の主人公の立場でした。

この作品はアンドレ・ジッドの序文を添えて出版され(岩波文庫版では
未収録、光文社古典新訳文庫版では本文の後に、みすず書房
『サン=テグジュペリ・コレクション』版は冒頭に)フェミナ賞を受賞。
すぐに映画化されてヒットして、同名の香水まで発売されました。

主人公リヴィエールのモデルになったとされ、本書を捧げられた
ディディエ・ドーラさん(当時サン=テグジュペリが働いていた会社の
上司、路線開発者)の「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」が
みすず書房版には収録されています。

そこにはこんな文章があります。
ドーラさんは、彼の飛行機乗りとしての経歴や操縦ぶりに
決して満足していたわけではなかったようです。
それでも彼を採用したのは、

 《(略)サン=テグジュペリがその高潔な心のなかで、
  飛行機というものが、やがては人間たちのあいだに新しい関係を
  築き上げるに役立つことになる、最高度に象徴的な道具であることを
  理解していたということを。》

と。さらに続けて、

 《飛行機は、まもなく彼独自のものとなる文学的世界に入り込むため
  に、おそらくは無意識にであろうが、彼が内心で探し求めていた
  理想的な機械だったのである。》 pp.106-7
   (『サン=テグジュペリ・コレクション 2 夜間飛行』
     山崎庸一郎/訳 みすず書房 より、ディディエ・ドーラ
    「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」

 

 ●『夜間飛行』――優れた職業小説

内容ですが、アルゼンチンのブエノスアイレスにある、航空郵便会社の
支配人リヴィエールと事務員や監督官、飛行場主任、そして飛行士たちと
のある一夜の物語です。
嵐に遭遇し、事故にあったと思われる飛行機と飛行士、それを各地からの
無線連絡を通して知るリヴィエール。
迷い悩みながらもそれを隠してふるまい、難しい決断を下します。
航空郵便事業の成功のために。

一見非情に徹する冷徹な上司と映るリヴィエールですが、心の内には、
当然のごとく、様々な葛藤があります。
嵐により事故に遭ったと思われる飛行士の妻が事務所にやって来ます。
何もしてやれないのは分かっていながら、面会を断らないリヴィエール。
これといった話もできないまま、帰って行く妻。

 

最終的にリヴィエールは、事故に遭った便の荷をのぞき、
ヨーロッパ便を出発させます。
飛行士はいいます。

 《「馬鹿なリヴィエールめ。このおれが……怖がってるだなんて思って
  いやがる!」》

 

飛行を辞めることは、事業を終わらせることになるのです。
夜間飛行を続けることこそ、航空郵便の優位さを維持できる唯一の方法
なのですから。

 《勝利……敗北……。そんな言葉に意味はない。生命はそんなイメージ
  よりも下にあって、すでに新たなイメージを準備し始めている。
  一つの勝利が民衆を弱体化させ、一つの敗北が別の民衆を目覚め
  させる。リヴィエールが喫した敗北と引き換えに、真の勝利が引き
  寄せられるのかもしれない。進行していく出来事だけが重要だ。》

最後の段落――。

 《 そしてリヴィエールはゆったりした足取りで仕事に戻り、その
  厳めしい視線を浴びて社員たちはうつむく。偉大なリヴィエール、
  勝利者リヴィエールは、自らの勝利の重みを背負っている。》

 

まあ、一つの優れた職業小説だと思っています。

リヴィエールは、偉大な支配人。
南米からアフリカ、ヨーロッパへと続く、郵便の航空路を維持している
のです、その厳格な仕事ぶりで。

しかし、彼一人が偉大なわけではありません。
彼の元に従う様々な役職の人々がいての成功です。
もちろん、その最先端に立つのは、飛行士たちです。
危険をものともせず、夜の闇に飛び立ってゆく……。

それを支えるのは、家庭では妻であり、会社では飛行場主任であり、
監督官であり、最終的には支配人なのでしょう。

仕事に身を捧げるという言い方は、古くさいかも知れません。
しかし、人間にとって、仕事=働くということは、厳粛なものであって、
生半可な気持ちでは続けられるものではない、ということでしょう。

特に、最先端の分野において、第一級の存在であり続けるためには。

実体験に基づく小説とはいえ、ここまでリアルな印象を抱かせる臨場感に、
その描写の凄さを感じさせます。
その印象をより強める構成の巧みさも見事の一言です。

文庫本で120ページ強の中編ですので、ぜひ御一読を!

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参照:
250804-ningen-no-daiti

 

『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ/著 野崎 歓/訳
岩波文庫 赤N516-2 2025/5/19
(Amazonで見る)

『NHKテキスト 100分de名著 サン=テグジュペリ『人間の大地』
 2025年8月』 [講師] 野崎 歓
(Amazonで見る)

『夜間飛行』サン=テグジュペリ/著 堀口 大学/訳 新潮文庫 1956/2/22
――「序」アンドレ・ジッド、処女作「南方郵便機」を併録
(Amazonで見る)

『人間の土地』サン=テグジュペリ/著 堀口 大学/訳 新潮文庫 1955/4/12
(Amazonで見る) ――名訳で知られる堀口大學さんの訳書。ただ訳語や言葉の言い回しに
どうしても時代色が感じられます。宮崎駿さんの解説とカバー・挿絵が
楽しめます。

『夜間飛行』アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ/著 二木 麻里/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-2 2010/7/8
(Amazonで見る)

『人間の大地』サン=テグジュペリ/著 渋谷豊/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-3 2015/8/6
(Amazonで見る)

『戦う操縦士』サン=テグジュペリ/著 鈴木雅生/訳
光文社古典新訳文庫 Aサ 1-4 2018/3/7
(Amazonで見る)

『サン=テグジュペリ・コレクション 2 夜間飛行』山崎庸一郎/訳
みすず書房 2000/7/20
――本書を捧げられた相手、ディディエ・ドーラさんの
「『夜間飛行』に着想を与えた人物から見た」を収録
(Amazonで見る)

『サン=テグジュペリ・コレクション 3 人間の大地』山崎庸一郎/訳
みすず書房 2001/8/1
(Amazonで見る)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

本誌では、「私の読書論-岩波文庫『夜間飛行・人間の大地』サン=テグジュペリ から(1)『夜間飛行』」と題して、今回も全文転載紹介です。

好きな作家サン=テグジュペリの黄金のカップリングの一冊である、岩波文庫版『夜間飛行・人間の大地』の紹介の一回目は、前半の『夜間飛行』。
彼の著作のなかで一番の小説です(といってもほかには『南方郵便機』ぐらいしか知りません)。
『星の王子さま』は、童話(あるいは寓話)です。
『人間の大地』は、哲学的エッセイというところです。
純粋な小説と呼べるものは、この『夜間飛行』ぐらいというところでしょう。

この三作が私の思う彼のベスト3です。
まあ、たいていの人はそういうところでしょうね。

四人目の翻訳家による、四度目の<再読>というところでした。

 ・・・

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

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2025.09.06

週刊ヒッキイ第693号-親御さんへ―特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分

『左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii』(まぐまぐ!)

【最新号】

第693号(Vol.21 no.14/No.693) 2025/9/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(前半)」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
◇◆◇◆◇◆ 左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii ◆◇◆◇◆◇
  【左利きを考える レフティやすおの左組通信】メールマガジン
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第693号(Vol.21 no.14/No.693) 2025/9/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(前半)」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回は、

第691号(Vol.21 no.12/No.691) 2025/8/2
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25―
 楽器における左利きの世界(33)
左利きのヴァイオリニストまつのじん(松野迅)さんの
ご意見から考える(2)右手と左手・他」

『レフティやすおのお茶でっせ』2025.8.2
週刊ヒッキイ第691号-
楽器における左利きの世界(32)まつのじんさんのご意見(2)右手と左手
17:38 2025/07/25
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2025/08/post-d94232.html

 の続きで、「ご意見から考える(3)」をお送りする予定でしたが、
 先日少し情報を頂いた、あるラジオ番組について書いておこう
 と思います。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
 左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ
   ―特別編―

  ◆ 「左利き」と「右利き」の相互理解がある社会を目指す
    「日本左利き協会」 ◆

   ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(前半)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ●ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分

◆TBSラジオ
「人権TODAY」8月30日放送
https://www.tbsradio.jp/horio-human/

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「まとめて!土曜日」内で8時22分頃から放送中。
人権に関わる身近な話題をテーマに掲げて、
ホットなニュースをお伝えしています。
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2025.08.30 土曜日 08:45
社会・政治・経済
「左利き」と「右利き」の相互理解がある社会を目指す
「日本左利き協会」
人権TODAY
https://www.tbsradio.jp/articles/99980/

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がそれで、
《「左利き」を取り巻く環境の過去と現在について》
「日本左利き協会」発起人で、『左利きの言い分』の著者
大路直哉さんに取材したお話です。

関東中心の放送らしいので、放送は聞いていませんが、
サイトの情報を読みました。

実は、「日本左利き協会」の大路直哉さんからの紹介で、
私のところにも話を聞かせて、というお便りも頂きました。
(大路さんからはいつもお声がけいただいて恐縮です。)

今回は時間の余裕がないということで、お断りさせていただきました。
リモート等の現代的な取材にも適応できませんし、ね。

普段から考えていることを簡潔に話せばいいのでしょうけれど、
元々人前で話すのが苦手で、身構えてしまうのと、
臨機応変に対応できる人間ではないので、
こういう短期間・短時間での取材は苦痛以外の何ものでもありません。

もったいないといえばもったいない話なのですが、
致し方ない、と思っています。

あとで私がする発言――
「左利きの人自身が不都合な点をもっと社会に向かって発言すべき」
という言葉と矛盾するのですけれど、ね。

 

 ●「左利き」を人権の問題として

さて、番組内容についてです。

この番組の放送時間は、約6分と聞いています。

6分で、左利きの過去・現在・未来について語ろうというわけですので、
どうしても細部を詳細にふれて紹介することはむずかしく、
一般論的に概略することになります。

サイトでは実際の放送よりもある程度、説明できる部分もあるか
と思われますけれど、その点を踏まえてお読みください。

以下の文章で、私が突っ込み不足のように指摘し、
不満を述べることもあるかと思われますが、そういう事情があるのだ
という点をここで確認しておきたいと思います。

 ・・・

まず最初に書いておきたいことは、「人権の番組」だということ。
人権の問題について取り組んでいる人やグループについて取材して
紹介している番組だ、という点です。

なんと28年も続けている番組とのこと。

この、人権の問題として受け止める姿勢が、私にはうれしく思えました。
私には当然のことだとは思うのですが、
世の中はそんなに甘くはないのです、ホントのところ。

従来、テレビやラジオの番組といったマスコミから声がかかる場合、
たいていは、もっと単純な「一つのトピック」として、でした。

「今日は何の日? 左利きの日!」といった感じで、由来は? とか、
左利きの人に便利なグッズの紹介、とかで終わってしまう。

もちろん、それはそれで、何もないよりはいいのですけれど、
それで終わってしまって「365分の1」で済まされても困るのです。

右利きの人にとっては、たった一日だけ思い出せばいいだけの
「左利きの日」かもしれません。
しかし、私たち左利きの人にとっては、
毎日が、365日と何時間かのすべてが「左利きの日」なのですから。
それで終わらせられては……。

それはさておき、この番組の内容です。

 

 ●左利きの女性はお嫁にいけない!?

まずは、過去のお話です。

《かつての「左利き」を取り巻く環境について》――

大路さんの言うところは、

 《かつては左利きっていうのは親の躾の問題だと捉えられていて、
  異常だとかそういうことよりも、躾がなってるか、なってないか
  という観点で左利きっていうものが槍玉に挙げられていました。
  特にお見合いのときに、左利きの素振りを見せたりすると破談に
  なったりすることもあったと伝えられてます。
  また、今ではほとんどないと思うんですけど、拷問ともいえる
  左利きから右利きへの矯正の事例として、左手を使わせないように
  テープとか包帯でグルグル巻きにしたりして、左手を使うのは
  良くないっていう刻印付けみたいな感じで捉えられていた部分も
  ありました。
  大体1970年代ぐらいまでは、こういった話題が多かったと、
  いろいろな資料や私の少年期の実体験から感じますね。》

大路さんは、「親の躾の問題」とされています。
もちろん、そういう一面もありました。
「親の顔が見たい! 恥ずかしくないのか?」というような。

が、それだけではなく、
過去にはもっと強く否定的な見方があったことも事実です。

私自身、自分の小さい頃の話はあまりしたくないので、
最少限度のことしか書いてきませんでした。

大路さんは1967年生まれ、私は1954年生まれ、
と一回りほど違います。

大路さんの幼少期から小学生時代に当たる1970年代は、
日本における左利き解放の歴史における一大転換期に当たります。

アメリカ留学から帰国した精神科医の箱崎総一さんは、アメリカでは
見られなかった左利きに悩む患者さんが日本では多いことに気付き、
1968年に『左利きの世界』(読売新聞社)を出版し、
左利きについての啓蒙活動を始めました。
1971(昭和46)年には、箱崎さんは、<左利き解放運動>としての
「左利き友の会」を主宰されました(1975(昭和50)年、
左利き友の会『左利きニュース』42号をもって活動停止)。

1972(昭和47)年には、この「左利き友の会」をモデルにした、
広瀬正さんの左利きテーマのSF小説『鏡の国のアリス』出版。

さらにこの年にはイギリスの左利き研究家、マイケル・バーズリーさんの
『右きき世界と左きき人間』が翻訳出版されました。
1973(昭和48)年には、バーズリーさん『左ききの本』が翻訳出版。

そして夏に、麻丘めぐみさんの歌う「わたしの彼は左きき」
(作詞・千家和也 作編曲・筒美京平)が登場し、大ヒットします。

デパートに左利き用品コーナーができるなど、左利きがブームになり、
左利きのイメージ・アップと偏見の打破に大きな力となりました。

さらに、私もそうでしたが、左利きの子供にとって、
<左利きの英雄>の一人だった世界のホームラン王、
王貞治選手が日本で二人目、自身初の三冠王に輝きました(翌年も)。

1976(昭和51)年には、プロ野球・読売ジャイアンツに、
左打ちの安打製造機と呼ばれた張本勲選手が入団、王選手とともに、
ON砲に変わるOH砲として、〈左利きの時代〉を現す代名詞のように。

1977(昭和52)年には、大リーグ初の女性(左腕)投手の活躍を
描いた『赤毛のサウスポー』ポール・R・ロスワイラー
(稲葉明雄訳 集英社)が翻訳出版。
9月5日には、王貞治選手が、ホームラン世界新記録通算756号を達成し、
国民栄誉賞受賞の第1号に。
この年には、、日清食品のインスタントうどん「どん兵衛」が発売され、
左利きの山城新吾さんと川谷拓三さんの二人がそれぞれ左手箸で食べる、
かけ合い漫才のようなCMがヒットしました。

1978(昭和53)年には、王選手モデルにした強打者と対戦する
左腕投手を描く、ピンクレディー「サウスポー」
(作詞・阿久悠 作曲・都倉俊一)が発売され大ヒット。

1979(昭和54)年には、箱崎総一さんの
『左利きの秘密』(立風書房 マンボウブックス)が出版され、
「左利き友の会」の顛末や左利きについての解説などが語られました。
年末には、♪左ききのあなたの手紙~で知られる、
アリスの「秋止符」(作詞・谷村新司 作曲・堀内孝雄)も発売。

1980(昭和55)年末には、『左利きの本―右利き社会への挑戦状』
(ジェームス・ブリス/ジョセフ・モレラによるアメリカ版、後半は訳者
・草壁焔太による日本版の左利き本が講談社から出版されました。

 

1970年代前半の箱崎総一さんの「左利き友の会」の活動と新聞等での
報道、それに続く「わたしの彼は左きき」「サウスポー」の大ヒット、
王選手らの活躍、いくつかの左利き関連本の出版といった出来事は、
左利きの啓蒙やイメージアップに大きな影響を与えました。

*参照:
『左利きの世界』箱崎総一 読売新聞社
(Amazonで見る)

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『鏡の国のアリス』広瀬正(河出書房新社 1972/6/1)
(Amazonで見る)

 

(『広瀬正・小説全集・4 鏡の国のアリス』集英社文庫)
(Amazonで見る)

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『右きき世界と左きき人間』マイケル・バーズリー
 西山浅次郎訳 TBS出版会(発売・産学社)
(Amazonで見る)
(原著 Left-handed Man in a Right-handed World, 1970)

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『左ききの本』マイケル・バーズリー 西山浅次郎訳
 TBS出版会(発売・産学社)
(Amazonで見る)
(原著 The Left-handed Book―An Investigation
into The Sinister History of Left-Handedness,初出1966)

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麻丘めぐみ「わたしの彼は左きき」作詞・千家和也 作編曲・筒美京平
(Amazonで見る)

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『赤毛のサウスポー』ポール・R・ロスワイラー 稲葉明雄訳 集英社
(Amazonで見る)
(『赤毛のサウスポー』集英社文庫 1979/4/1)
(Amazonで見る)

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ピンクレディー「サウスポー」作詞・阿久悠 作曲・都倉俊一
(Amazonで見る)

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『左利きの秘密』箱崎総一 立風書房 マンボウブックス
(Amazonで見る)

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アリス「秋止符」作詞・谷村新司 作曲・堀内孝雄
(Amazonで見る)

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『左利きの本―右利き社会への挑戦状』ジェームス・ブリス/
ジョセフ・モレラ 草壁 焔太訳 講談社
(Amazonで見る) 

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第582号(No.582) 2020/11/7
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(2)
 「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(1)」
『レフティやすおのお茶でっせ』2020.11.7
左利きの人生を考える(2)「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(1)
-週刊ヒッキイ第582号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/11/post-2a8f44.html

第584号(No.58 x2) 2020/12/5
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(3)
 「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(2)」
『レフティやすおのお茶でっせ』2020.12.5
左利きの人生を考える(3)「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(2)
-週刊ヒッキイ第584号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2020/12/post-353947.html

第588号(No.588) 2021/2/6
「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その24―
 左利き本のために――左利きの人生を考える(4)
 「わたしの彼は左きき」の時代:1970年代(3)」
 ――1970年代は日本における左利き観の転換期だった
『レフティやすおのお茶でっせ』2021.2.6
1970年代は左利き観の転換期「わたしの彼は左きき」の時代
-週刊ヒッキイ第588号
https://lefty-yasuo.tea-nifty.com/ochadesse/2021/02/post-be0a5a.html

 

 ●私レフティやすおの幼少期のこと

私の幼少期は、1950年代の後半から1960年代にかけてでした。
まだ戦後が色濃く残る時代――観光地など人の集まる場所には、
白装束に兵隊帽をかぶった傷痍軍人といわれる人たちがいた時代でした。
民主主義や人権、社会福祉といった“進歩的”な考え方が、
必ずしも一般的ではなかった、ともいえそうな時代でした。

そんな幼少期の私の体験からいいますと、
「左利きは片○者だ」「左利きは頭がおかしい」といった、
左利きを身体障害者・精神障害者のように考える人がいたのは事実です。
そこまでいわないとしても、
「できそこない」人間的な意識はあったように思います。

また、左利きの子は親や教師のいうことを聞かない、根性曲がりや偏屈者
といった性格に難がある子と考える人もいました。
躾に似た見方として、右手使いが正しい作法であり、
左手使いは間違った作法、悪い例であるといった見方もありました。

たとえば、故・秋山孝さん(デザイナーでイラストレーターで
多摩美術大学教授でもあった、1952年生まれ)の著書
『左手のことば』(日貿出版社 1990)の巻末のエッセイで、
先生から右手で字を書くように言われた経験を語っています。
《先生の考えの中での「左手は悪」という既成概念に対する抵抗だね。》

大路さんも発言されているように、肉体的に左手を封じられて、
というケースもよく聞いています。
私の親は「自分の子供を叩くなんてできない」という人でしたので、
左手の人差し指に小さな灸の跡があるくらいです。

とにかく、左利きに対する偏見が残っている時代でした。
偏見があるので、差別にもつながってゆきます。

左利きであるというだけで、全人格を否定するような発言が、
大人たちのあいだから聞かされることがありました。
子供たちもそういう大人たちの影響を受けて、意味も分からないままに、
「ぎっちょ、ぎっちょ」とはやし立てたものでした。

それゆえ、私自身も「左利き=できれば隠しておいた方がいいこと」
といった意識は刷り込まれていました。

このように、過去の問題について語るのは、私自身、正直心が痛むので、
(大路さんのように)躾の問題としておく方が、
私のような被害者から見ますと、精神衛生上は良いのかも知れませんね。

【追記:2025/9/6】

『左ききでいこう!―愛すべき21世紀の個性のために―』(大路直哉・フェリシモ左きき友の会/編著 フェリシモ)の「chapter2 「フェリシモ左きき友の会」誕生以前に「左利き友の会」があった!?」の中に、箱崎「左利き友の会」のスローガン『左利き党宣言』六ヶ条が紹介されていました(p.49)。
1.一、右利きが優遇されている右手偏重の社会を改善しよう。
2.一、左利きの無理な矯正はやめよう。
3.一、左利きのための道具を安く作ろう。
4.一、左利きは異常でないという考え方を普及しよう。
5.一、左利きであるための劣等感を消し去るための精神衛生を普及しよう。
6.一、左利きの人権宣言をしよう。

昨今の左利きの状況を考えますと、これら六ヶ条のうちある程度成果が認められるものは、2番目の「矯正」云々と、3番目の「道具を安く」の一部は大路さん言うところの「100均でも」を当てはめれば、まずはありということにしておきましょう。
そして、私が左利きの過去に関して発言していたのは、この4および5「左利きは異常ではない」であり、「左利きであるための劣等感」に当たる部分です。
これが大きな問題として存在していたのです。
今ではかなり解消された、といっていいのかも知れません。
それゆえ、このへんのところを今の若い人たちはあまり意識されていないのではないか、という気がします。
過去にそういう問題があったのだという事実と、(主に年配の人で)今も苦しんでいる人が存在するということを、忘れないでいてほしいと思います。

――【追記】以上。

*参照:
『左手のことば』秋山孝 日貿出版社 1990.6
(Amazonで見る)

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『左ききでいこう!―愛すべき21世紀の個性のために―』(大路直哉・フェリシモ左きき友の会/編著 フェリシモ出版 2000/6/1)
(Amazonで見る) 

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 ●「左利き」だけ放課後に残って、右手で文字を書く練習をしたことも

めずらしく大路さん自身の左利き体験が語られています。

3冊の本(『見えざる左手』『左ききでいこう!』『左利きの言い分』)
を見ても、ほとんどご自身について語ることがなかっただけに、
今回、過去の左利きの実状紹介ということで初めて明かされた、
といっても過言ではないかも知れません。

人に聞いた話よりご自身の話の方がよいだろう、
という選択だったかと思います。

 《小学校に入学した直後の放課後に、数回、左利きの児童だけが
  集められて、右手で文字を書く指導っていうのがあったんです。
  当時の光景を思い出すと、1年生の担任教師の多くがベテランの
  先生だったわけです。
  とくに昭和1ケタ世代の人だったので、右利き社会ゆえに左利きを
  特別視した、ある意味老婆心だったと思うんですよね。》

左利きのメンバーだけで、右手で字を書く練習をする、
というお話を聞きますと、ドイツのノーベル賞作家ギュンター・グラス
さんの短篇小説「左ぎっちょクラブ」を思い出します。

私の経験を話しますと、私の左利きが直らないので心配した母親が、
小学校入学時に担任の先生に相談したとき、
「左利きは左利きのままでいい」という回答をえて、
それ以来、私の左利きは家でも学校でも公認されたものでした。
後年、色々な人に聞いてみたところ、これは、当時としては、
かなり進歩的な考え方だったようです。

のちに聞いた話では、同年代はおろか、もう少し下の世代でも
親や先生から右手使いを指導された、という人は少なくないのでした。
そういう意味では、私は恵まれた環境育ちだった、といえる方でしょう。

*参照:
『僕の緑の芝生』ギュンター・グラス 飯吉光夫訳 小沢書店 1993.10
(「左ぎっちょクラブ」1958を収録)
(Amazonで見る)

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《僕らの綱領には、右手が左手と同じになるまで、決して怠けぬこと、
 と書いてある。/この箇条がどれほど力強く決意にみちていようとも、
 こんな申し合わせはまったくのナンセンスである。
 こんなことできようはずがない。僕たちのクラブの最右翼は
 もうしばらくここから、こんな条件は削りとって、代わりに、
 われわれはわれわれの左手を誇りに思う、われわれは生まれつきの
 左ぎっちょを恥と思わない、とでも書き直すべきである
 と主張してきた。》

 

 ●今の若い人は、左利きを気にしていない?

以下は、この記事の担当者「恒藤泰輝」さんの言葉です。

 《近年では、
  このような矯正や左利きへの蔑視はなくなりつつありますが、
  まだまだ生活環境において左利きが不便さを感じることは多いです。
  私自身も左利きで、小さい頃からいろいろと不便に感じることが
  多かったです。/とくに不便だったのが、書道の毛筆です。》

恒藤さんのお便りから私の受けた感じでは、
左利きとしての「被害者意識」がかなり薄い、というものでした。

不便さはあるけれど、自分がちょっとガマンすれば済む問題、
と考えているような印象を受けました。

最近、お医者さんの受付で、左手にボールペンを持って書いている
20歳過ぎぐらいの女性がいました。
「ひだり?」と聞いたら、ハイとの返事。
「ぼくといっしょ、全部ひだり」といい、続けて、
「昔は色々言われた」といいますと、
「へえー」と心から驚いたような反応が見られました。

それ以上のお話はできませんでしたが、改めて、
今の若い左利きの人は、左利きを気にしていないらしい、と感じました。
本人だけでなく、まわりの人たちからも。

昔のように、問答無用で「左利き」=「悪」というレッテルが貼られる、
もしくはそれに近い状況ではなくなった、ということのようです。

それ自体は良いことだとは思うのですが、
それゆえに、左利きの人自身が、左利きの不便な部分を改善してゆこう、
という意欲や熱意というものが薄れてしまうのは、
やはり問題だと思うのです。

 ・・・

この番組の紹介は、この一回で済ませるつもりでしたが、
今まであまり書かなかった昔話など長くなってしまい、
次号で後半を紹介しながら、私の感想、および私の伝えたい考えを
述べたいと思います。

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本誌では、「左利きのお子さんをお持ちの親御さんへ ―その25― 特別編:ラジオ「人権TODAY」8月30日放送分(前半)」と題して、今回は全紹介です。

本文中にも書きましたが、大路さんが私のことも紹介していただき、取材の許可など連絡をいただきました。
ただ、諸般の事情もあり、残念ながらお断りしました。
一番の理由はやはり時間的な制約ですね。もうちょっと考えをまとめる時間がほしいところです。
限られた時間で簡潔に自分の考えを述べるというのは、やはり難しい。
普段から考えていることを結論だけ述べれば良いのでしょうけれど。

私は、左利きの人自身の行動が不足しているように感じています。
そこで私の結論的には、左利きの人自身がもっと発言して、右利きの人たちに状況を理解してもらい、右利きの人だけでなく左利きの人にも優しい社会、左右平等、左右共存の社会に変えてゆきましょう、となります。

 ・・・

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