2017.02.15

私の読書論90-私をつくった本・かえた本(1)幼少期編

―第193号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2017(平成29)年2月15日号(No.193)-170215-
「私の読書論90-私を作った本・かえた本(1)幼少期編」

本誌では、今回からしばらく(思いついた時に、ですが)「私をつくった本・かえた本」の題で幼少期の読書関係の思い出を綴ってゆく予定です。

私という人間がどのような本に触れてでき上がってきたかについて書いてみよう、というわけです。

今回は、「幼少期編」として、小さいころから小学校時代あたりまで。
次回は、同じく小学校高学年からの予定です。

小学校時代の私を作ったのは、やはり一番は、小学館の学習雑誌でしょう。
これなくして語れない、というところです。

他に本と言えば、教科書ぐらいしか我が家にはありませんでした。

本のない家庭に育ったのです。

それでも、小学館『小学○年生』という学習雑誌は一年から六年まで買ってくれました。
それが我が家の家庭教育だったのでしょう。

あとは、お正月などに子供向けの雑誌を買ってくれるぐらいでした。

本関係以外では、やはりテレビ番組の影響が大きいんでしょうね。

 ・・・

詳細は本誌で!

*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

*本誌で取り上げた本:
『コンチキ号漂流記』トール・ハイエルダール/著 神宮輝夫/訳 (偕成社文庫 3010)1976/3
―お子様版。

『コン・ティキ号探検記』トール・ヘイエルダール/著 水口志計夫/訳 (河出文庫)2013/5/8
―完訳版。


『翼よ、あれがパリの灯だ』チャールズ・リンドバーグ/著 佐藤 亮一/訳 (ちくま少年文庫)1977/9
―お子様版。

『翼よ、あれがパリの灯だ』チャールズ・A. リンドバーグ/著 佐藤 亮一/訳 (恒文社)1991/10
―完訳版。↓の文庫版の復刊単行本(?)。

『翼よ、あれがパリの灯だ 上』チャールズ・オーガスタス・リンドバーグ/著 佐藤 亮一/訳 (旺文社文庫)1980/12

『翼よ、あれがパリの灯だ 下』チャールズ・オーガスタス・リンドバーグ/著 佐藤 亮一/訳 (旺文社文庫)1980/12
―お手持ち本はこれ。下のみ。半端ものを古本屋の100均で。

Tubasayo

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.02.08

ロバート・F・ヤング新短篇集『時をとめた少女』2月23日発売

映画『君の名は』等の人気に乗ろうと言うのか、手持ちの時間SFの類の作品集を次々企画に乗せているようです。

昨年末には、梶尾真治新版短篇集『美亜へ贈る真珠〔新版〕』が《12月緊急刊行決定!》されました。

『美亜へ贈る真珠〔新版〕』梶尾真治/著 (ハヤカワ文庫JA)2016/12/20


今度は、ヤングの新短篇集『時をとめた少女』が登場します。

『時をとめた少女』ロバート・F・ヤング/著 (ハヤカワ文庫SF)2017/2/23
小尾 芙佐、深町 眞理子、山田 順子、岡部 宏之/訳

たぶん、以前『SFマガジン』に掲載されたもの――たとえば、ヤング特集号(S-Fマガジン 1972年06月号 (通巻160号)
)とか――を編集したものでしょう。
(多くの訳者名が出ているからです。)

ヤングは、〈ボーイ・ミーツ・ガール時間SF!〉とどこかの本の惹句にありましたが、まさにそう呼ぶのがふさわしい一連の小説群が日本では受けています。

三上延さんの『ビブリア古書堂の事件手帖3 ~栞子さんと消えない絆~』(メディアワークス文庫 2012/6/21)でとりあげられ、人気が再燃したようです。


その後、ながらく出版予定のみ掲げられていた傑作選とも言うべき短篇集『たんぽぽ娘』が出版されました。

さらに、短篇を長編に書き改めたものが2作出版されました。


『ビブリア―』で気になった人たちというのは、あの一作だけで、残念ながら他の作品には興味を抱かなかったようで、私のようなオールド・ファンが期待したほど評判にはなりませんでした。

それでも、今回こういう形で新たな短篇集が出版されるというのは、やれやれ(一安心)、という思いです。

楽しみです。


【ロバート・F・ヤング短篇集】
『たんぽぽ娘』伊藤典夫/編訳 (河出文庫)2015/1/7


『ジョナサンと宇宙クジラ』伊藤典夫/編訳 (ハヤカワ文庫SF)2006/10


『ピーナツバター作戦』桐山 芳男/訳 (青心社Seishinsha SF Series)2006/12  


【ロバート・F・ヤング長篇化作品】
『時が新しかったころ』中村 融/訳 (創元SF文庫)2014/3/22


『宰相の二番目の娘』山田 順子/訳 (創元SF文庫)2014/10/31


(他にも、ヤングの短篇が収録されているアンソロジーがいくつかあります。)

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.02.06

欲望から自由になれ-ガンディー『獄中からの手紙』NHK100分de名著2017年2月

NHK『100分de名著』2017年2月は、ガンディー「獄中からの手紙」です。

実に昨年6月の「五輪書」以来の『100分de名著』でしょうか。
たまには、お勉強してみようというわけです。

170206gokuchu

(画像:『獄中からの手紙』他、参考にした本)

名著62 「獄中からの手紙」
第1回 2月6日放送 政治と宗教をつなぐもの
歴史の転換点となった「塩の行進」の意味を読み解き、近代人が回避してきた「政治と宗教の本来の関係」を見つめなおしていく。
第2回 2月13日放送 人間は欲望に打ち勝てるのか
「獄中からの手紙」にも描かれたガンディーの生き方を通して、「人間は欲望とどう向き合っていけばよいか」を見つめていく。
第3回 2月20日放送 非暴力と赦し
ガンディーの非暴力思想に込められた深い意味を読み解いていく。
第4回 2月27日放送 よいものはカタツムリのように進む
ガンディー思想の根底に流れている宗教観や労働観など、奥深い思想を読み解いていく。

【指南役】中島岳志(東京工業大学教授)
【朗読】ムロツヨシ(俳優)

「プロデューサーAのおもわく。」より

「歩く」「食べない」「糸紡ぎ車を回す」といった日常的行為を通して、政治の中に宗教を取り戻そうとしたガンディー。彼の人生は「宗教的な対立や抑圧を起こすことなく、政治と宗教の有機的なつながりをつくるにはどうしたらよいか」「すべての生命の意味を問い、近代社会の問題や人間の欲望と対峙しながら、具体的な政治課題を解決していくことは果たして可能か」といった壮大な課題に取り組み続けた人生でした。その精髄が込められた「獄中からの手紙」を読み解くことで、「宗教と政治の本来の関係とは?」「自分の欲望とどう向き合うのか?」「非暴力は現実に立ち向かえるのか?」といった現代にも通じるテーマを深く考えていきます。

○NHKテレビテキスト
「100分 de 名著」獄中からの手紙 2017年2月(2017年1月25日発売)
欲望から自由になれ
よいものはカタツムリのように進むのです。


【名著】
『獄中からの手紙』ガンディー/著 森本達雄/訳 岩波文庫 2010/7/17


【指南役・中島岳志さんの著作】
『ガンディーからの<問い> ―君は「欲望」を捨てられるか』 日本放送出版協会 2009.11
―2008年12月放送『NHK知るを楽しむ 私のこだわり人物伝』「マハトマ・ガンディー 現代への挑戦状」番組テキストに加筆、禅僧・南直哉さんとの対談を終章「ガンディーの〈問い〉を考える」として追加したもの。


 ●ガンディーのイメージ

実は、ガンディーと言えば(私の世代では、「ガンジー」の方が馴染みがありますね)、もちろん「インド独立の父」として「マハートマ」と呼ばれる人権擁護派の民族解放運動の指導者として有名なわけですが、私としては、ソロー⇒ガンディー⇒キングといった「非暴力不服従主義」の歴史的な流れのなかの一人といった印象を持っていました。
ソローを敬愛する私にとっては、そういうふうな見方に傾いてしまいます。

『平和をつくった世界の20人』(岩波ジュニア新書)などはそういう流れの本のように思います。
「第Ⅰ部 非暴力を選ぶ」では、ソローに始まり、ガンディー、キング、アンデルソン・サー(ブラジルのミュージシャン)と続いています。
(ソローをイギリスに紹介したソローの伝記本の著者ソルトも登場しています。
 イギリスに留学した時、ガンディーは母の教えを守り菜食主義者で、菜食主義者のソルトの本を読み知り合いになっているそうです。)

今回初めて『獄中からの手紙』を読み、その他のガンディーに関する本をいくつか読んで、必ずしもそうではないことを知りました。

特に、政治家(政治運動家)的なガンディーではなく、宗教家としてのガンディーが感じられました。

今回、本書巻末の訳者・森本達雄さんの解説によりますと、政治がらみで服役中の刑務所からの手紙ということで、政治に絡む議論を避けたため、宗教色の強い内容となったといいます。
しかし、当然そういう制限があったとはいえ、やはりガンディーのめざすもの、思想の中心にあるのは、信仰に基づくストイックな生き方にあるということでしょう。

宗教の根本にある真理に基づく政治をめざした、ということのようです。


 ●『バガヴァッド・ギーター』について

以前、私のメルマガ『楽しい読書』でインドの古典を取り上げた際、『バガヴァッド・ギーター』も紹介しました。
2014(平成26)年4月30日号(No.126)-140430-「生き方の秘訣-古代インドの宗教詩編-『バガヴァッド・ギーター』」

このとき、『ギーター』がガンディーの愛読書であることをしりました。

『ギーター』は、インドの二大英雄叙事詩『マハーバーラタ』のなかの一章です。
『ギーター』の訳者・上村勝彦さんはこう書いています。

『マハーバーラタ』は人間存在の空しさを説いた作品である。... しかし、作中人物たちは、自らに課せられた苛酷な運命に耐え、激しい情熱と強い意志をもって、自己の義務を遂行する。この世に生まれたからには、定められた行為に専心する。これこそ『ギーター』の教えるところでもある。》『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦/訳 岩波文庫「まえがき」 p.16

ガンディーが『ギーター』から学んだものは、こういうところかと思います。

自己の義務(ダルマ)の遂行は、不完全でも、よく遂行された他者の義務に勝る。本性により定められた行為をすれば、人は罪に至ることはない。(47)
何ものにも執着しない知性を持ち、自己を克服し、願望を離れた人は、放擲(ほうてき)により、行為の超越の、最高の成就に達する。(49)》『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦/訳 岩波文庫 第18章 p.137

インド人の哲学者アニル・ヴィディヤーランカール氏の著作『ギーター・サール バガヴァッドギーターの神髄』(長谷川澄夫/訳 東方出版)には、

... ギーターは、一般にはヒンドゥー教の聖典と認められているが、それは正しくない。ギーターで説かれている宗教は、世界の全ての人々のためであり、我々はそれを普遍宗教という名で呼ぶことができる。》p.196
とあります。


 ●本書の内容

1930年の「塩の行進」ののち投獄された時に、サッティヤーグラハ闘争の拠点アーシュラム(修道場)の同志たちに書き送った、信条や戒律に関する論文です。
以下の15通の手紙と釈放後、雑誌に発表された論文からなります。

1.真理
 ――サティヤー(真理)の他には何一つも存在しない。神は一つ、それぞれの人に合わせて違った姿で現われる。
2.アヒンサー=愛
 ――アヒンサーとは「不殺生」「不傷害」の意。政治闘争の場での「非暴力」の意味に用いた。(訳者注)
   アヒンサーの道は剣の刃渡りに似ている。肉体の限界を認識しつつ、日々、力の限り理想に向って精進する。
3.ブラフマチャリヤ=純潔・禁欲・浄行
 ――完全なブラフマチャリヤ(無私)なくして、アヒンサー(あまねく万人への愛)の成就はあり得ない。
4.嗜欲(味覚)の抑制
 ――いかに困難であろうと、理想に到達しようと不退転の努力をすること⇒人間生存の目的。
5.不盗(アステヤ)
 ――最高の真理はそれ自体で存在する。真理は目的であり、愛はそこに至る手段。
6.無所有即清貧
 ――不盗に関連する。富者は知足の精神を広めるよう、率先して無所有を励行する。
   完全な自己放棄の理想に到達し、肉体が存続する限り奉仕する。奉仕が生命の糧。
7.無畏
 ――「無畏」とは恐れなきこころ、真勇を意味する(訳者注)。
   真理を求め、愛を心に抱き続けるためには、無畏をなくす。
8.不可触民制の撤廃
 ――嗜欲の抑制同様、新しい戒律。不可触民のみならず、あらゆる生きとし生けるものを己の命のように愛することで成就する。
9.パンのための労働
 ――トルストイの言葉「人は生きるために働かねばならない」。
   パンのための労働は、非暴力を実践し、真理をあがめ、ブラフマチャリアの戒律を自然行為たらしめようとする人にとって、真の喜び。
10.寛容即宗教の平等(一)
 ――樹の幹は一つでも枝葉が無数にあるように、真の完全な宗教は一つ。
11.寛容即宗教の平等(二)
 ――他の宗教のどの聖典にも同じ基本的な精神性を見出した。双方が互いの見解の違いを宥恕(ゆうじょ)する。
12.謙虚
 ――検挙は戒律になりえない、アヒンサーに不可欠の条件。謙虚は人間性そのものの一部。
13.誓願の重要性
 ――誓いを立てるのは、不退転の決意を表明すること。
   古今東西の人間性についての経験は、不撓の決意なくして進歩は望めないことを物語る。
   世のビジネスはすべて、人は約束を守るものだとの想定の上に成り立っている。
14.ヤジュニャ=犠牲
 ――報酬を望まずに行う他人の幸福にささげる行為。強力な信仰心が必要。
   「おまえ自身のことは、いささかも思いわずらうな。いっさいの悩みを神に委ねよ」―すべての宗教の訓(おし)え。
15.ヤジュニャ(承前)
 ――自己犠牲の生活こそは芸術の最高峰、真の喜び。
   純粋(まこと)の献身は、無条件に人類への奉仕に生命をささげるもの。
16.スワデシー=国産品愛用
 ――私たちに課せられた法(のり)〔行動規範〕。
   国産品愛用主義は、純粋なアヒンサー〔愛〕に根差した無私の奉仕の教理。


これらに示されているガンディーの厳しい戒律や考えは、一に己に対してであり、二にアーシュラム(修道場)のメンバーに対するもので、一般人に対するものではありません。
また、ここで、考えておくべきことは、インドの、ヒンドゥーの社会に於ける文化的な背景です。

輪廻という考えがあります。
日本にも仏教を通して伝えられています、六道輪廻というものです。
天・人間・修羅・畜生・餓鬼・地獄と人は死んでも生まれ変わる(輪廻転生)。

輪廻というものは、言ってみれば、一生を回し車のなかで走り続けるハムスターのようなものかもしれません。
そう見なせば輪廻し続けるのは苦痛でもあり、その輪廻を抜けるためには修行をし悟りをひらけばよい、そうすれば輪廻を抜ける(解脱)ことができるというのです。


ガンディーが死を恐れず断食に挑むのは、ある意味で、死んでもまた生まれ変われる、善行を積んで死ぬ時は、地獄に落ちるのでも畜生に生まれるのでもなく、また人間に、あわよくば天に生まれ変われるかもしれないから、という見方もできるのです。

また、ガンディーの戒律の厳しさも、ヒンドゥーの上位カーストの「再生族」の男子の理想の生き方である四住期――師についてヴェーダ聖典や宗教を学ぶ学生期、結婚し家長となり子を育て一般社会人として活躍する家住期、家庭的社会的な務めを果たし終えると人里を離れ、森に入り修行をする林住期、そしてすべてを放擲し遍歴を続け解脱を求める遊行期を迎える――の先にあると考えることもできます。

そういう背景を考えますと、このような厳しさも、われわれの考えるものほどではない、とも言えるでしょう。
もちろん、厳しい内容であることは事実ですけれど。

理想の先に勝利があると考えられるならば、この戦いも難しいものではないのかもしれません。


 ●宗教について

私が一番興味深く読んだのは、宗教の根本は一つだということ。

宗教には、キリスト教やイスラム教、仏教、ヒンドゥー教等様々あるけれども、それらの根源は一つであり、それぞれの人びとに合わせて異なる姿を示している、という考え方です。

ちょうど一本の樹は幹は一つですが枝葉が無数にあるように、真(まこと)の完全な宗教は一つですが、それが人間という媒体をとおして表されるときには多となるのです。》「10.寛容即宗教の平等(一)」p.70

わが家は真言宗ですが、法事の際にお坊さんの法話で、山の頂上は一つでもそこまで登る道はいくつもある、そのようにそれぞれの宗教や宗派もめざすものは同じでも行く道は異なるものだ、ということでした。
(このお話について、『ガンディーからの<問い>』のなかで、ガンディーのたとえ話の一つとして紹介されていました。)

弘法大師空海の密教によりますと、(ごくいい加減な表現になっているとは思いますが、簡単にいえば)大日如来という根本仏があり、他の仏は皆その化身で、それぞれの人びとに合わせて姿を変えて現れたものだ、といいます。
ブッダ(お釈迦様)は、聴く人の能力や素質に合わせて、その時々の状況に合わせて教えを説いた(対機説法)といいます。
それと同じ発想で、その延長線の考え方でしょう。

印パの分離独立につながった宗教的な対立の問題に関して、ガンディーの言わんとするものも、正にそういうものではないか、という気がします。

その辺のお話が私の興味を惹くポイントでした。

岡倉天心は、インドの人と世界宗教会議のようなものを催したと聞きます。
世界の諸宗教をまとめようという、そういう背景となる何かがインドの人たちの中にあるのかな、という気がします。


 ●多神教と一神教

『ガンディーからの〈問い〉』の対談で、禅僧の南直哉さんは、ガンディーの主張に反論することになるかも、と言いながら《「諸行無常」と「絶対神」が同じ頂上に至るわけがない。そんなのは幻想です。》(p.179)とおっしゃっています。
確かに理念的に頂上を究めて行こうとすると、そうかもしれません。

しかし、出発点的に人間が幸せに生きてゆくにはどうすればいいのか、といった――一種「地べたの真理」とでもいうのでしょうか――そういったものを見つめる時、様々な宗教にある黄金律(ゴールデン・ルール)には、共通した項目が見られるのも、現実です。
そこには共有できるものがあるのではないか、という気がするのです。

南さんも、宗教同士が《もし本当に協力し合いたいなら、「共通の真理」じゃなくて、「共通の問題」を見出さなければいけない。それによって折り合えるんです。》(p.182)とおっしゃっています。
これがそれにあたるのでしょう。


一神教と多神教的なヒンドゥー教や仏教との違いは、確かに相いれない部分があります。

多神教的な世界の人々から見れば、一神教の神の存在の絶対性というのは理解しがたいですし、逆に、一神教の人々からみれば、他の宗教は邪教以外の何ものでもなく、他の神の存在は悪魔以外の何者でもないわけで、受け入れがたいものがあるでしょう。
それをいっしょくたにされたら、信仰が成り立ちませんから。

密教の大日如来の発想もキリスト教の影響だとも言われているようです。
それでも、基本的に多神教的な風土があるので、その枠組のなかで納得できる解釈が成り立つのでしょう。

岡倉天心の世界宗教会議といったものも、多神教的な世界に生きているインドの人たちには共感されたようですが、他の国の宗教人からは今一つだったようです。


 ●足るを知る

ガンディーもソローも、知足(足るを知る)という『老子』等の中国の古典に出てくる考えと同じように、過度な欲望が人の心を狂わせたり、迷わせたりする、だから、必要以上のものを欲するな、欲望をコントロールせよ、ということを教えたのだと思います。
そういう点では同じ思想です。

ガンディーが鉄道のような近代文明を否定したとも言います。

これもソローは『ウォールデン 森の生活』で、歩いて一日かかる移動を鉄道なら一時間に短縮できるかもしれないが、その料金を払うために一日働かねばならないのなら、自分は歩いてゆくというふうに書いています。
また、毎朝一杯のコーヒーを楽しむ生活の豊かさを得るために、余計な労働を強いられるのなら、目の前にあるおいしい自然のままの水を楽しめばよい、とも書いています。


ガンディーの教えというものがあるとすれば、それは、人権侵害や民族の分裂、あるいは他民族の支配からの解放や宗教の衝突など様々な問題の源は、すべて過度な欲望(物欲であれ名誉欲であれ)に振りまわされている人間の心にある、ということでしょう。
大事なことは、人生の真実を知ることであり、物事の真理を究めること――それがどんなに難しいことであって、諦めることなく努力し続けよ、ということ教えではないでしょうか。

 ・・・

さて、中島さんはどのように読み説いて下さるのでしょうか。
楽しみにしています。

【『バガヴァッド・ギーター』に関する本】
『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦/訳 岩波文庫 1992/3/16
―学術的にも定本となっている感の一書。訳注・解説が豊富。『バガヴァッド・ギーターの世界』と併読すると理解しやすいか。

『バガヴァッド・ギーターの世界 ヒンドゥー教の救済』上村勝彦/著 ちくま学芸文庫 2007.7.10
―NHKラジオ文化セミナーのテキストを基にした1998年NHKライブラリー版の文庫化。『マハーバーラタ』中の一巻である『バガヴァッド・ギーター』の解説書。仏教との比較で理解を誘う。

『ギーター・サール バガヴァッドギーターの神髄』アニル・ヴィディヤーランカール/著 長谷川澄夫/訳 東方出版 2005.7.11
―『ギーター』700詩編から150詩編を選び、サンスクリット語原文・カタカナ読み・和訳・解説・原語フレーズを添えて、『ギーター』のエッセンスを、心の問題として生き方の助言を解説する。
CD付き・改訂新版 2007/10/10

【その他の関連書】
『平和をつくった世界の20人』ケン・ベラー&ヘザー・チェイス/著 作間和子、淺川和也、岩政伸治、平塚博子/訳 岩波ジュニア新書 2009/11/21
―1 非暴力を学ぶ 2 平和を生きる 3 多様性を大切にする 4 あらゆる命を重んじる、5 地球環境を大切にする、の5部。ソロー、ガンディー、キング、マザー・テレサ、シュヴァイツァー、レイチェル・カーソン等々の生き方と言葉を紹介。


『M.K.ガンディーの真理と非暴力をめぐる言説史 ヘンリー・ソロー、R.K.ナラヤン、V.S.ナイポール、映画『ガンジー』を通して』加瀬佳代子/著 ひつじ書房(シリーズ文化研究2) 2010.2
―ソロー⇒ガンディー⇒キングといった非暴力の思想の〈歴史的事実〉に関して、ガンディーの非暴力の思想が、ヘンリー・D・ソローの影響を受けたものかについてのくだりを興味深く読んだ。
 ガンディーがイギリス留学時、菜食主義者のソローの伝記の著者であるソルトと出会っているという事実はあるが、ガンディーがソローの「市民の抵抗」を読んだのは、1907年だという。
 ガンディーのイギリス留学は3年で、その後南アで初めて人種差別に合い、人種差別と闘うことになるのであり、留学当時にソルトからソローのことを聞いていた可能性はあっても、そのシンプルライフの思想には関心を持ったとしても、市民的不服従の考えと行動に興味を持ったかどうかは何とも言えません。


『ウォールデン 森の生活(上下)』ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 今泉吉晴/訳 小学館文庫 2016/8/5
―2年間ウォールデン池のほとりの小屋での自給自足の生活実験から導かれた省察録。


『市民の反抗―他五篇 』ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 飯田実/訳 岩波文庫 1997/11/17
―誰にでもできるけれど誰もやらなかった抗議行動を語る、市民的不服従の講演録「市民の反抗」他エッセイ5編。


*他のNHKテレビ「100分 de 名著」の記事:
1 2011年11月放送:2011.10.31
アラン『幸福論』喜びは、行動とともにある!
2 2011年12月放送:2011.12.6
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』悲しみを、乗り越えよ-「100分 de 名著」NHK
3 2012年1月放送:2012.1.5
吉田兼好『徒然草』両面から物事を見よ!-「100分 de 名著」NHK
4 2012年2月放送:2012.1.29
新渡戸稲造『武士道』日本的思考の根源を見る-「100分 de 名著」NHK
5 2012年3月放送:2012.3.6
仏教は「心の病院」である!NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』2012年3月
6 同:2012.4.2
NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』を見て本を読んで
7 2012年4月放送:2012.4.3
紫式部『源氏物語』NHKテレビ100分de名著
8 2012年5月放送:2012.5.2
確かな場所など、どこにもない―100分 de 名著 カフカ『変身』2012年5月
9 2012年6月放送:2012.6.6
<考える葦>パスカル『パンセ』NHK100分 de 名著2012年6月
10 2012年10月放送:2012.10.2
鴨長明『方丈記』NHK100分 de 名著2012年10月
11 2012年12月放送:2012.12.5
<心で見る努力>サン=テグジュペリ『星の王子さま』NHK100分de名著2012年12月
12 2013年1月放送:2013.1.11
呪文に頼るのもよし?~100分de名著『般若心経』2013年1月
13 2013年2月放送:2013.2.5
待て、そして希望せよ~NHK100分de名著『モンテクリスト伯』2013年2月
14 2013年3月放送:2013.3.28
どんな時も、人生には、意味がある。フランクル『夜と霧』~NHK100分de名著2013年3月(再放送)
15 2013年4月放送:2013.4.11
真面目な私とあなた―夏目漱石『こころ』~NHK100分de名著2013年4月
16 2013年5月放送:2013.5.20
水のように生きる『老子』NHK100分de名著2013年5月
17 2013年6月放送:2013.6.5
生きる喜びは、どこにあるのか?『戦争と平和』トルストイ~NHK100分de名著2013年6月
18 2013年7月放送:2013.7.9
哲学とは、愛である『饗宴』プラトン~NHK100分de名著2013年7月
19 2013年11月放送:2013.11.10
「物語」に終わりはない『アラビアンナイト』~NHK100分de名著2013年11月
20 2013年12月放送:2013.12.11
切り離された者たちへ~ドストエフスキー『罪と罰』~NHK100分de名著2013年12月
21 2014年1月放送:2014.1.21
花とは何か~『風姿花伝』世阿弥~NHK100分de名著2014年1月
22 2014年3月放送:2014.3.4
戦わずして勝つ『孫子』~NHK100分de名著2014年3月
23 2014年12月放送:2014.12.3
生きるべきか、死ぬべきか-シェイクスピア『ハムレット』~NHK100分de名著2014年12月
24 2015年4月放送:2015.3.29
自分を救えるのは自分自身である-NHK100分de名著『ブッダ 最期のことば』2015年4月
25 2015年5月放送:2015.5.5
何もないことを遊ぶ『荘子』-NHK100分de名著2015年5月
26 2015年6月放送:2015.6.2
運命と人間―ギリシア悲劇/ソポクレス「オイディプス王」NHK100分de名著2015年6月
27 2015年7月放送:2015.6.30
ラフカディオ・ハーン/小泉八雲『日本の面影』NHK100分de名著2015年7月
28 2015年8月放送:2015.8.5
自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月
29 2015年9月放送:2015.9.1
恋と革命~太陽のように生きる-太宰治『斜陽』NHK100分de名著2015年9月
30 2015年10月放送:2015.10.7
処世訓の最高傑作「菜根譚」NHK100分de名著2015年10月
31 2016年1月放送:2016.1.4
真面目なる生涯~内村鑑三『代表的日本人』NHK100分de名著2016年1月
32 2016年4月放送:2016.4.4
弱者(悪人)こそ救われる『歎異抄』NHK100分de名著2016年4月
33 2016年5月放送:2016.5.1
人に勝つ兵法の道-宮本武蔵『五輪書』NHK100分de名著2016年5月
--

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.01.31

中国の古代思想を読んでみよう(11)『論語』を読む(後編)

―第191号「レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2017(平成29)年1月31日号(No.192)-170131-「古代中国編―
中国の古代思想を読んでみよう(11)『論語』を読む (後編)」

本誌では、私の心に響いた言葉と、『論語』に由来する成語成句を紹介しています。

後半の成句などは、もう少しきっちりと紹介したかったのですけれど、あれだけでも結構数が多く、それらをきちっと紹介するには時間が足りませんでした。

ごめんなさい、ですね。


前半の、『論語』『ニコマコス倫理学』(本当はヘシオドス『仕事と日々』だけど)、江國香織さんの『こうばしい日々』に出てくる言葉の共通性については、一度どこかで書きたかったことなので、今回書いてみました。

既にどなたかが語っていることかもしれませんけれど、大事な点ですよね。
人物評価という点で。

上・中・下それぞれ、最初から知る人・学んで知る人・知ろうともしない人、とでも言い換えましょうか。

『論語』は、四段階に分けています。
苦しみながら学ぶ人、という段階を3番目に入れています。

本誌では、せめて3段階の2番目(中)になりたいものと書いていましたが、案外、私はこれかもしれません。

 ・・・

詳細は本誌で!


*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

--
*本誌で取り上げた本:
『論語 増補版』加地伸行/全訳注 講談社学術文庫 2009/9/10
―儒教学者による独自の解釈を含む『論語』研究の成果。図版もあり、わかりやすい注釈、索引も充実。
―増補版は漢字検索が付いて、漢字一字から調べられるので便利。


『般若心経秘鍵』空海/著 加藤精一/編 角川ソフィア文庫 2011/5/25
―真言密教の立場から『般若心経』を解説した空海の著作の原文訓
 み下しと現代語訳、及び解説、名言を紹介。


『ニコマコス倫理学(上)』アリストテレス/著 渡辺邦夫・立花幸司/訳 光文社古典新訳文庫 2015/12/8
―古代ギリシア哲学の倫理学の代表的古典。哲学的幸福論の源流。


『こうばしい日々』江國香織/著 新潮文庫 1995/5/30
―児童向けとして書かれた小説だが、おとなこそ読むべきもの。「こうばしい日々」はアメリカへ移住した男の子の話。他一編。

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.01.23

『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』1月20日発売

先の記事↓で少し触れました、「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」及び、第1回配本、第II巻『地球から月へ 月を回って 上も下もなく(完訳ガンクラブ三部作)』について書いてみます。

2017.01.22 ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む

「ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション」全5巻の刊行が始まりました。

インスクリプト ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション

第1回配本『地球から月へ 月を回って 上も下もなく(完訳ガンクラブ三部作)』石橋正孝訳・1月20日刊行


完訳ガンクラブ三部作世界初の合本。/石橋正孝訳・解説 月面に向けて打ち上げられた砲弾列車。巨大な大砲に取り憑かれた愛すべき紳士たちが活躍するガンクラブ三部作、世界初訳の補遺、挿画128葉を収録した特大巻として刊行!

このシリーズは、《21世紀ヴェルヌ研究の世界的権威、石橋正孝によるヴェルヌ原文の校訂、最終ヴァージョンを確定した上での底本・定本化と全巻解説》という、A5版二段組み平均500ページ超の大部な“ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉”の傑作選です。

〈全巻構成〉
第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円 [新訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円 [完訳 世界初の合本]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円 [本邦初の完訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊) 予価:5,500円 [本邦初の完訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊) 予価4200円 [新訳、本邦初訳]

新訳(Iハテラス船長の航海と冒険、II地球から月へ、月を回って、上も下もなく、Vカルパチアの城)、初完訳(IIIエクトール・セルヴァダック(『彗星飛行』ジュニア版)、IV蒸気で動く家)、本邦初訳(Vヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密)という内容。
ほぼ初訳が後ろの三作。

私が今一番読みたいのは、「蒸気で動く家」です。
次に、宇宙ものらしい「エクトール・セルヴァダック」。

挿絵も豊富ということなので、その点も楽しみなコレクションです。

ただ、もう少し低価格になれば、ということと、もういくつか追加を期待したい、というところです。

今までに紹介された作品数は、〈驚異の旅〉全体の三分の二ぐらいではないでしょうか。
まだまだおもしろい作品があるのではないか、という気がするのですけれど。

ヴェルヌの作品ならなんでもいい、というつもりはありませんけれど、知らない作家の○○程度のできの作品よりは、という気持ちです。

 ・・・

第一回配本の『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』の三作は、砲弾による月探検二部作とその後のプロジェクト。
旧訳題名『月世界旅行』集英社コンパクトブックス ヴェルヌ全集、『月世界探検』ヴェルヌ全集(『月世界へ行く』創元SF文庫)、『地軸変更計画』創元SF文庫 の新完訳の世界初の合本の特大巻だそうです。

正直迷ってしまいますね。

第一回なので、既訳のものよりは、という感じでいます。
本邦初訳から始まるほうが嬉しさは倍増する、と思えるのですが。

まあ、文句ばっかりではいけません。
素直に喜びましょう。

手に取るのが楽しみです。

そして、これからも企画が継続することを祈りましょう!


*『お茶でっせ』記事:
【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売
・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む
・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版
【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2017.1.22 ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む
・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売
・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売
・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』
・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増!
・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫
・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

| | Comments (4) | TrackBack (0)

2017.01.22

ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む

昨年、出版予定の紹介をしました↓ジュール・ヴェルヌの新刊を読みました。

2016.10.8 待望のヴェルヌ新刊『名を捨てた家族1837-38年ケベックの叛乱』

170121nawosutetakazoku

(画像:ヴェルヌ『名を捨てた家族』表紙と扉)

ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族: 1837 ― 38 年 ケベックの叛乱』大矢タカヤス訳 彩流社 2016.10

1889年刊、本邦初訳(ただし、明治時代に翻訳あり、との情報も)。

従来紹介されてきたヴェルヌの作品と言えば、主にSFの祖としての科学冒険小説の類でした。
三大名作『地底旅行』『海底二万里』『八十日間世界一周』、あるいは『月世界旅行』(及び『月世界へ行く』)や『十五少年漂流記』(『二年間の休暇』)といった作品群です。
あるいは、文遊社から復刊された一連の短篇と冒険ものの作品――『永遠のアダム』『ジャンガダ』『黒いダイヤモンド』『緑の光線』――とも少し違います。

今回は、イギリスの植民地となった19世紀前半のカナダを舞台にした、フランス系カナダ人の独立のための武装蜂起を描く歴史的な物語です。

 ・・・

イギリスとの争いに敗れた結果、フランス王ルイ十五世によってイギリスに割譲された旧フランス植民地のフランス系住民が、イギリス政府の植民地支配の圧政に対抗するべく立ち上がった改革派の1825年のクーデターは、金で情報を売った賭け事好きの弁護士シモン・モルガスの密告によって全員が逮捕され、処刑あるいは懲役刑となり、制圧される。
裁判の途中で彼が密告者であることが判明、裏切者の正体が知られ、約束通り釈放されたものの、もはや彼とその一家に居場所はなく、僻地を転々とする日々。
彼を信じる妻ブリジェットと二人の息子ジョアンとジャンだったが、シモンが自殺し、そのポケットから札束が見つかり、真実が知らされ彼らを打ちのめす。

本書は、それから12年後のお話です。

生き残りの改革派は、あらたに武力闘争を開始する。
その中心に立ち、改革派を鼓舞する人物こそ、抵抗運動の先頭に立つ本書の主人公〈名なしのジャン〉であり、教会を通じて抵抗するべく宣教を続ける神父ジョアンでした。

各地で一斉蜂起すれば勝算あり、と考えていた彼ら改革派でしたが、最初のサン=ドゥニで勝利を得るも、翌日そのすぐ南のサン=シャルルでは敗走。
かろうじて逃げ出したものの幹部級の多くは、負傷し散り散りとなる。

捲土重来を図るべく、アメリカ国境にほど近い、ナイアガラ瀑布へつづく川にあるナヴィ島に逃げ込むが、そこにも政府軍が押し寄せる。

裏切者の妻であり息子であることが暴露された母子は、非難する人々に追われるように島を去ってゆく。

「息子よ」と彼女は言った。「赦してあげなさい!……私たちに赦さない権利はないのです!」/「赦せですって!」とジャンは叫んだがその不当さに抗って彼の存在全体が憤っていた。「私たちがやったのではない罪を私たちのせいにする者たちを赦すのですか、それを償おうと私たちができる限りのことをやったのに! 裏切りの罪を妻にまで、子供たちにまで追いまわす者たちをゆるすのですか、子供の一人はすでに彼らにその血を与えました、もう一人にも自分たちのために血を流せと要求する者たちを赦すのですか! いやです!……絶対にいやです! 私たちに触れると汚れるというこの愛国者たちとはこちらから一緒にはいられません! 行きましょう、お母さん、行きましょう!」/「息子よ」とブリジェットは言った、「苦しまなくてはならないのです!……それがこの世での私たちの取り分なのです!……贖罪なのです!……」》p.329「第二部 第十一章 贖罪」

政府の攻撃軍が渡河を始めるとき、守備陣にジャンが戻ってくる。
母の死に際の言葉に、父の罪を償う任務に返ってきたのだったが……。

 ・・・

後半、砦に監禁された〈名なしのジャン〉を奪回すべく、ジョアン神父が死刑を宣告されたジャンに面会を求め、ついに脱走を敢行し、成功します!
さらに、主人公たちを乗せた船がナイアガラ瀑布にのまれてゆく、衝撃のラスト。
これらの場面は、さすがヴェルヌという感じです。

また、原住民(インデアン)のヒューロンのマホガニス族の血を引く公証人とその第二書記のコンビは、ヴェルヌの作品でときに登場する狂言回しで、お笑いコンビになっています。

ヴェルヌの作品では、『海底二万里』の主人公ネモ艦長(船長)は、インドの独立派の人間と設定され、植民地解放派の物語として共通するものでしょうか。
今回ヴェルヌは、フランス愛国者として、フランス系住民の植民地解放物語の悲劇を描いています。

なかなかの感動編です。

ヴェルヌの新たな面が見られたかも、という作品でした。
既紹介作品の新訳もよいのですが、こういう新しい出会いを期待しています。

ぜひ、これを機に、ヴェルヌの未紹介作品を次々と邦訳していただければ、と思います。


☆★彡
ちなみに、ヴェルヌ本の新企画本が出ています。(うれしいけれど、内容もお値段も素晴らしい!)

*【ヴェルヌ本の新企画】:
『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』
石橋正孝/訳 インスクリプト 2017/1/20
―「ガン・クラブ三部作」(旧訳題名『月世界旅行』『月世界探検』(『月世界へ行く』創元SF文庫)『地軸変更計画』創元SF文庫)の世界初の合本。砲弾による月探検二部作とその後のプロジェクト。

〈全巻構成〉
第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円 [新訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円 [完訳 世界初の合本]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円 [本邦初の完訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊) 予価:5,500円 [本邦初の完訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊) 予価4200円 [新訳、本邦初訳]


*【ヴェルヌの参考書】:『ジュール・ヴェルヌ伝』フォルカー・デース 石橋正孝訳 水声社 (2014/05)
―本邦初のヴェルヌの評伝。力作です。ヴェルヌの伝記のなかで最も信頼に足ると言われるものです。
 当時の社会状況を知っていれば、また彼の作品をより多く読んでいれば、楽しさも増します。

『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝 左右社 (2013/3/25)
―これも力作。元は学術論文ということで、ちょっと読みづらく感じたり、ヴェルヌの原稿をまな板に載せているため、それらを(邦訳がない、もしくは手に入りにくいため)未読の人には分かりにくかったりします。
 小説家ヴェルヌと編集者エッツェル、二人のジュールのあいだを巡る出版の秘密をめぐる“冒険”です。

『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”』東洋書林 (2009/03)
―これは見て楽しい本です。図版で見るヴェルヌの世界といってもいいかもしれません。

『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社(1995)
―ヴェルヌの小説の表現を通して当時のフランス帝国主義を考えるという論文。原書からの挿絵も多数収録。
 巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介。
 本書『名を捨てた家族』の解説でも触れられています。

『水声通信 no.27(2008年11/12月号) 特集 ジュール・ヴェルヌ』水声社 2009/1/6
―1977年『ユリイカ』以来の雑誌特集。本邦初訳短編「ごごおっ・ざざあっ」、ル・クレジオ他エッセイ、年譜、《驚異の旅》書誌、主要研究書誌。


*『お茶でっせ』記事:
【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売
・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む
・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版
【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】
・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売
・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売
・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』
・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増!
・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫
・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2017.01.15

私の読書論89-私の年間ベスト2016(後編)フィクション系

―第191号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2017(平成29)年1月15日号(No.191)-170115-
「私の読書論89-私の年間ベスト2016(後編)フィクション系」


本誌では、今年読んだ本100冊あまりのうち、フィクション系の本約50冊足らずの中から今年のベストを選んで紹介しています。

思いのほかダラダラとした内容になってしまい、申し訳ありません。
もう少しコンパクトにまとめたかったのですが、時間的に難しくなってしまいました。


今年はミステリだけでなく、SFを久しぶりに読みました。
他にも怪奇と幻想系のものも。

なかでも今年の一番のお気に入りの作家は、フェルディナント・フォン・シーラッハでした。

三冊の短篇集と二冊の長編を読みました。

刑事弁護士としての体験を基にした法廷小説、犯罪ものの小説を記録でも読んでいるかのごとくに、淡々と簡潔に短い文章で綴っています。
内容が凄いのです。

こんな人生があるのだ、という驚き。

ぜひ読んで頂きたいものです。

 ・・・

 ●私の2016年〈フィクション系〉ベスト3ぐらい

『ミスティック・リバー』デニス・ルヘイン 加賀山卓朗訳 ハヤカワミステリ文庫


『火星の人〔新版〕上下』アンディ・ウィアー 小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF

そして、フェルディナント・フォン・シーラッハの3作―

『犯罪』酒寄進一訳 創元推理文庫


『罪悪』酒寄進一訳 創元推理文庫


『コリーニ事件』酒寄進一訳 東京創元社 2013/4/11


さて、以上から私のベスト1は?

 ・・・

詳細は本誌で!


*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』


| | Comments (0) | TrackBack (0)

2016.12.31

私の読書論88-私の年間ベスト2016(前編)リアル系

―第190号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2016(平成28)年12月31日号(No.190)-161231-
「私の読書論88-私の年間ベスト2016(前編)リアル系」


本誌では、今年読んだ本100冊あまりのうち、リアル系の本約50冊から今年のベストを選んで紹介しています。


今年は10月までは、まずまずいつも通りに本を読んで来れました。
ところが11月に入ってやけどをしてから、パッタリと読めなくなりました。

人間というものは、一か所でも痛いところがあれば、それだけで集中力がそがれるものですね。
まったくといっていいほど、本も読めない状況でした。

今年の後半がんばっていた本の原稿も書けないまま。

それでも、ディケンズのA5版2段組み500ページ超の『クリスマス・ブックス』や文庫本700ページの英雄ファンタジー長編を読みました。
そんなせいもあってか、思いのほか冊数は行かないままでした。

まあそれでも100冊超えたので、まあまあというところでしょうか。

中国の古典は結構分量のある全集もので読んでいましたので、数的には少なくても結構読みごたえはありました。
今年も、読書に関しては、まず充実した1年だったと思いました。

 ・・・

 ●私の2016年〈リアル系〉ベスト3ぐらい

村上春樹『職業としての小説家』スイッチ・パブリッシング 2015
 /新潮文庫 2016/9/28

心理学系の二冊↓

ケリー・マクゴニカル『スタンフォードの自分を変える教室』神崎朗子訳 大和書房 2008
 /だいわ文庫 2015/10/10


串崎真志『心は前を向いている』岩波ジュニア新書 2013/12/21

〈特別篇〉左利き系のこれ↓

箱崎総一『左利きの秘密』立風書房マンボウブックス 1979


さて、以上から私のベスト1は?

 ・・・

詳細は本誌で!


*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2016.12.15

私の読書論87-(本/文章を)書くこと(2)まず最後まで書く

―第189号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2016(平成28)年12月15日号(No.189)-161215-
「私の読書論87-(本/文章を)書くこと(2)まず最後まで書く」


本誌では、「(本/文章を)書くこと」と題して、第二回目(二回の予定です)〈まず最後まで書く〉をお届しています。

とりあえず何が何でも最後まで書き終えることの重要性について書いています。

それと、書き直すことを恐れず、自分の納得のいくまで、とことん書き直すということ、ですね。

(1)まず最後まで書く、最後まで書けばそのあとは、(2)とことん書き直す

 ・・・

書き直す、という項で、最近読んだ二冊の小説作法的な本――

(1)村上春樹さんの『職業としての小説家』(スイッチ・パブリッシング 2015/新潮文庫 2016)

(2)スティーヴン・キングさんの『書くことについて』(田村義進訳 小学館文庫 2013)

にふれています。

いずれ、これらの本をネタにまた文章や小説の書き方について、書いてみたいと思っています。

本誌でも書きましたように――御二方は、片や純文学系、片やエンタメ系とジャンルは異なりますが、常に新作が注目され、実際に売れる――世界的なベストセラー作家であることは変わりません。
また年齢的にも近く(村上春樹さんは1949年生まれ、キングさんは1947年生まれ)、生い立ちや作家になるまでの経緯は異なりますが、作家として成功する以前から結婚していたこと、妻が良き第一読者であったこと、生活に追われる中で自分の夢の実現として書き始めたこと(あるいは、書き続けたこと)、書かずにはいられないこと、読むのが好きだということ、といった数々の共通点もあります。

売れる作品を書ける人、できのいい作品を書ける人には、おのずと共通する作法があるようです。
その辺を探ってみたいものです。

 ・・・

詳細は本誌で!


*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

--
*本誌で取り上げた本:
外山滋比古『思考の整理学』ちくま文庫 1986/4/24


村上春樹『職業としての小説家』スイッチ・パブリッシング 2015
【新潮文庫 2016】


スティーヴン・キング『書くことについて』田村義進訳 小学館文庫 2013

| | Comments (0) | TrackBack (0)

2016.11.30

クリスマス・ストーリーをあなたに~ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』

 ―第188号「古典から始める レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2016(平成28)年11月30日号(No.188)-161130-
「クリスマス・ストーリーをあなたに~
ディケンズ『クリスマス・ブックス』から『鐘の音』」

本誌では、ディケンズの前期のクリスマス・ストーリー中編5編を集めた『クリスマス・ブックス』から第二作『鐘の音』を紹介しています。

161130the_chimes


(画像:渓水社版『クリスマス・ブックス』より『鐘の音』挿絵)

実は、前回のメルマガ配信から今回までの期間中に、やけどをしました。
朝食のマグカップいっぱいの熱いコーヒーをこぼしたのです。
太ももに手のひら大のやけどを負いました。
なんとか順調に治りつつあります。

でも、結構痛くて、集中力が続かず、思い通りに読書も進まず、このメルマガの原稿書きも苦戦しました。
もっと大きなケガや大病を抱えて懸命に生きている人も大勢いらっしゃるでしょうに、この程度のケガで弱音を吐いていては情けないのですけれど。

まあ、痛い時は痛いと言わせて下さい。
普段は結構、我慢しているのですから。

カチカチ山や因幡の白ウサギのお話も、ホントは残酷な話だったんだなあ、と皮がはがれて初めて、つくづく思いました。


ではでは。

 ・・・

詳細は本誌で!


*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』

--
*本誌で取り上げた本:
『クリスマス・ブックス』ちくま文庫 1991/12
―落語調訳「クリスマス・キャロル」小池滋訳、
 「鐘の音」松村昌家訳


『クリスマス・ブックス』田辺洋子/訳 渓水社 2012
―前期(1843-48)のクリスマス中編5編を収録。「クリスマス・キャロル」「鐘の音」「炉端のこおろぎ」「人生の戦い」「憑かれた男」

| | Comments (0) | TrackBack (0)

より以前の記事一覧