2017.02.06

欲望から自由になれ-ガンディー『獄中からの手紙』NHK100分de名著2017年2月

NHK『100分de名著』2017年2月は、ガンディー「獄中からの手紙」です。

実に昨年6月の「五輪書」以来の『100分de名著』でしょうか。
たまには、お勉強してみようというわけです。

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(画像:『獄中からの手紙』他、参考にした本)

名著62 「獄中からの手紙」
第1回 2月6日放送 政治と宗教をつなぐもの
歴史の転換点となった「塩の行進」の意味を読み解き、近代人が回避してきた「政治と宗教の本来の関係」を見つめなおしていく。
第2回 2月13日放送 人間は欲望に打ち勝てるのか
「獄中からの手紙」にも描かれたガンディーの生き方を通して、「人間は欲望とどう向き合っていけばよいか」を見つめていく。
第3回 2月20日放送 非暴力と赦し
ガンディーの非暴力思想に込められた深い意味を読み解いていく。
第4回 2月27日放送 よいものはカタツムリのように進む
ガンディー思想の根底に流れている宗教観や労働観など、奥深い思想を読み解いていく。

【指南役】中島岳志(東京工業大学教授)
【朗読】ムロツヨシ(俳優)

「プロデューサーAのおもわく。」より

「歩く」「食べない」「糸紡ぎ車を回す」といった日常的行為を通して、政治の中に宗教を取り戻そうとしたガンディー。彼の人生は「宗教的な対立や抑圧を起こすことなく、政治と宗教の有機的なつながりをつくるにはどうしたらよいか」「すべての生命の意味を問い、近代社会の問題や人間の欲望と対峙しながら、具体的な政治課題を解決していくことは果たして可能か」といった壮大な課題に取り組み続けた人生でした。その精髄が込められた「獄中からの手紙」を読み解くことで、「宗教と政治の本来の関係とは?」「自分の欲望とどう向き合うのか?」「非暴力は現実に立ち向かえるのか?」といった現代にも通じるテーマを深く考えていきます。

○NHKテレビテキスト
「100分 de 名著」獄中からの手紙 2017年2月(2017年1月25日発売)
欲望から自由になれ
よいものはカタツムリのように進むのです。


【名著】
『獄中からの手紙』ガンディー/著 森本達雄/訳 岩波文庫 2010/7/17


【指南役・中島岳志さんの著作】
『ガンディーからの<問い> ―君は「欲望」を捨てられるか』 日本放送出版協会 2009.11
―2008年12月放送『NHK知るを楽しむ 私のこだわり人物伝』「マハトマ・ガンディー 現代への挑戦状」番組テキストに加筆、禅僧・南直哉さんとの対談を終章「ガンディーの〈問い〉を考える」として追加したもの。


 ●ガンディーのイメージ

実は、ガンディーと言えば(私の世代では、「ガンジー」の方が馴染みがありますね)、もちろん「インド独立の父」として「マハートマ」と呼ばれる人権擁護派の民族解放運動の指導者として有名なわけですが、私としては、ソロー⇒ガンディー⇒キングといった「非暴力不服従主義」の歴史的な流れのなかの一人といった印象を持っていました。
ソローを敬愛する私にとっては、そういうふうな見方に傾いてしまいます。

『平和をつくった世界の20人』(岩波ジュニア新書)などはそういう流れの本のように思います。
「第Ⅰ部 非暴力を選ぶ」では、ソローに始まり、ガンディー、キング、アンデルソン・サー(ブラジルのミュージシャン)と続いています。
(ソローをイギリスに紹介したソローの伝記本の著者ソルトも登場しています。
 イギリスに留学した時、ガンディーは母の教えを守り菜食主義者で、菜食主義者のソルトの本を読み知り合いになっているそうです。)

今回初めて『獄中からの手紙』を読み、その他のガンディーに関する本をいくつか読んで、必ずしもそうではないことを知りました。

特に、政治家(政治運動家)的なガンディーではなく、宗教家としてのガンディーが感じられました。

今回、本書巻末の訳者・森本達雄さんの解説によりますと、政治がらみで服役中の刑務所からの手紙ということで、政治に絡む議論を避けたため、宗教色の強い内容となったといいます。
しかし、当然そういう制限があったとはいえ、やはりガンディーのめざすもの、思想の中心にあるのは、信仰に基づくストイックな生き方にあるということでしょう。

宗教の根本にある真理に基づく政治をめざした、ということのようです。


 ●『バガヴァッド・ギーター』について

以前、私のメルマガ『楽しい読書』でインドの古典を取り上げた際、『バガヴァッド・ギーター』も紹介しました。
2014(平成26)年4月30日号(No.126)-140430-「生き方の秘訣-古代インドの宗教詩編-『バガヴァッド・ギーター』」

このとき、『ギーター』がガンディーの愛読書であることをしりました。

『ギーター』は、インドの二大英雄叙事詩『マハーバーラタ』のなかの一章です。
『ギーター』の訳者・上村勝彦さんはこう書いています。

『マハーバーラタ』は人間存在の空しさを説いた作品である。... しかし、作中人物たちは、自らに課せられた苛酷な運命に耐え、激しい情熱と強い意志をもって、自己の義務を遂行する。この世に生まれたからには、定められた行為に専心する。これこそ『ギーター』の教えるところでもある。》『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦/訳 岩波文庫「まえがき」 p.16

ガンディーが『ギーター』から学んだものは、こういうところかと思います。

自己の義務(ダルマ)の遂行は、不完全でも、よく遂行された他者の義務に勝る。本性により定められた行為をすれば、人は罪に至ることはない。(47)
何ものにも執着しない知性を持ち、自己を克服し、願望を離れた人は、放擲(ほうてき)により、行為の超越の、最高の成就に達する。(49)》『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦/訳 岩波文庫 第18章 p.137

インド人の哲学者アニル・ヴィディヤーランカール氏の著作『ギーター・サール バガヴァッドギーターの神髄』(長谷川澄夫/訳 東方出版)には、

... ギーターは、一般にはヒンドゥー教の聖典と認められているが、それは正しくない。ギーターで説かれている宗教は、世界の全ての人々のためであり、我々はそれを普遍宗教という名で呼ぶことができる。》p.196
とあります。


 ●本書の内容

1930年の「塩の行進」ののち投獄された時に、サッティヤーグラハ闘争の拠点アーシュラム(修道場)の同志たちに書き送った、信条や戒律に関する論文です。
以下の15通の手紙と釈放後、雑誌に発表された論文からなります。

1.真理
 ――サティヤー(真理)の他には何一つも存在しない。神は一つ、それぞれの人に合わせて違った姿で現われる。
2.アヒンサー=愛
 ――アヒンサーとは「不殺生」「不傷害」の意。政治闘争の場での「非暴力」の意味に用いた。(訳者注)
   アヒンサーの道は剣の刃渡りに似ている。肉体の限界を認識しつつ、日々、力の限り理想に向って精進する。
3.ブラフマチャリヤ=純潔・禁欲・浄行
 ――完全なブラフマチャリヤ(無私)なくして、アヒンサー(あまねく万人への愛)の成就はあり得ない。
4.嗜欲(味覚)の抑制
 ――いかに困難であろうと、理想に到達しようと不退転の努力をすること⇒人間生存の目的。
5.不盗(アステヤ)
 ――最高の真理はそれ自体で存在する。真理は目的であり、愛はそこに至る手段。
6.無所有即清貧
 ――不盗に関連する。富者は知足の精神を広めるよう、率先して無所有を励行する。
   完全な自己放棄の理想に到達し、肉体が存続する限り奉仕する。奉仕が生命の糧。
7.無畏
 ――「無畏」とは恐れなきこころ、真勇を意味する(訳者注)。
   真理を求め、愛を心に抱き続けるためには、無畏をなくす。
8.不可触民制の撤廃
 ――嗜欲の抑制同様、新しい戒律。不可触民のみならず、あらゆる生きとし生けるものを己の命のように愛することで成就する。
9.パンのための労働
 ――トルストイの言葉「人は生きるために働かねばならない」。
   パンのための労働は、非暴力を実践し、真理をあがめ、ブラフマチャリアの戒律を自然行為たらしめようとする人にとって、真の喜び。
10.寛容即宗教の平等(一)
 ――樹の幹は一つでも枝葉が無数にあるように、真の完全な宗教は一つ。
11.寛容即宗教の平等(二)
 ――他の宗教のどの聖典にも同じ基本的な精神性を見出した。双方が互いの見解の違いを宥恕(ゆうじょ)する。
12.謙虚
 ――検挙は戒律になりえない、アヒンサーに不可欠の条件。謙虚は人間性そのものの一部。
13.誓願の重要性
 ――誓いを立てるのは、不退転の決意を表明すること。
   古今東西の人間性についての経験は、不撓の決意なくして進歩は望めないことを物語る。
   世のビジネスはすべて、人は約束を守るものだとの想定の上に成り立っている。
14.ヤジュニャ=犠牲
 ――報酬を望まずに行う他人の幸福にささげる行為。強力な信仰心が必要。
   「おまえ自身のことは、いささかも思いわずらうな。いっさいの悩みを神に委ねよ」―すべての宗教の訓(おし)え。
15.ヤジュニャ(承前)
 ――自己犠牲の生活こそは芸術の最高峰、真の喜び。
   純粋(まこと)の献身は、無条件に人類への奉仕に生命をささげるもの。
16.スワデシー=国産品愛用
 ――私たちに課せられた法(のり)〔行動規範〕。
   国産品愛用主義は、純粋なアヒンサー〔愛〕に根差した無私の奉仕の教理。


これらに示されているガンディーの厳しい戒律や考えは、一に己に対してであり、二にアーシュラム(修道場)のメンバーに対するもので、一般人に対するものではありません。
また、ここで、考えておくべきことは、インドの、ヒンドゥーの社会に於ける文化的な背景です。

輪廻という考えがあります。
日本にも仏教を通して伝えられています、六道輪廻というものです。
天・人間・修羅・畜生・餓鬼・地獄と人は死んでも生まれ変わる(輪廻転生)。

輪廻というものは、言ってみれば、一生を回し車のなかで走り続けるハムスターのようなものかもしれません。
そう見なせば輪廻し続けるのは苦痛でもあり、その輪廻を抜けるためには修行をし悟りをひらけばよい、そうすれば輪廻を抜ける(解脱)ことができるというのです。


ガンディーが死を恐れず断食に挑むのは、ある意味で、死んでもまた生まれ変われる、善行を積んで死ぬ時は、地獄に落ちるのでも畜生に生まれるのでもなく、また人間に、あわよくば天に生まれ変われるかもしれないから、という見方もできるのです。

また、ガンディーの戒律の厳しさも、ヒンドゥーの上位カーストの「再生族」の男子の理想の生き方である四住期――師についてヴェーダ聖典や宗教を学ぶ学生期、結婚し家長となり子を育て一般社会人として活躍する家住期、家庭的社会的な務めを果たし終えると人里を離れ、森に入り修行をする林住期、そしてすべてを放擲し遍歴を続け解脱を求める遊行期を迎える――の先にあると考えることもできます。

そういう背景を考えますと、このような厳しさも、われわれの考えるものほどではない、とも言えるでしょう。
もちろん、厳しい内容であることは事実ですけれど。

理想の先に勝利があると考えられるならば、この戦いも難しいものではないのかもしれません。


 ●宗教について

私が一番興味深く読んだのは、宗教の根本は一つだということ。

宗教には、キリスト教やイスラム教、仏教、ヒンドゥー教等様々あるけれども、それらの根源は一つであり、それぞれの人びとに合わせて異なる姿を示している、という考え方です。

ちょうど一本の樹は幹は一つですが枝葉が無数にあるように、真(まこと)の完全な宗教は一つですが、それが人間という媒体をとおして表されるときには多となるのです。》「10.寛容即宗教の平等(一)」p.70

わが家は真言宗ですが、法事の際にお坊さんの法話で、山の頂上は一つでもそこまで登る道はいくつもある、そのようにそれぞれの宗教や宗派もめざすものは同じでも行く道は異なるものだ、ということでした。
(このお話について、『ガンディーからの<問い>』のなかで、ガンディーのたとえ話の一つとして紹介されていました。)

弘法大師空海の密教によりますと、(ごくいい加減な表現になっているとは思いますが、簡単にいえば)大日如来という根本仏があり、他の仏は皆その化身で、それぞれの人びとに合わせて姿を変えて現れたものだ、といいます。
ブッダ(お釈迦様)は、聴く人の能力や素質に合わせて、その時々の状況に合わせて教えを説いた(対機説法)といいます。
それと同じ発想で、その延長線の考え方でしょう。

印パの分離独立につながった宗教的な対立の問題に関して、ガンディーの言わんとするものも、正にそういうものではないか、という気がします。

その辺のお話が私の興味を惹くポイントでした。

岡倉天心は、インドの人と世界宗教会議のようなものを催したと聞きます。
世界の諸宗教をまとめようという、そういう背景となる何かがインドの人たちの中にあるのかな、という気がします。


 ●多神教と一神教

『ガンディーからの〈問い〉』の対談で、禅僧の南直哉さんは、ガンディーの主張に反論することになるかも、と言いながら《「諸行無常」と「絶対神」が同じ頂上に至るわけがない。そんなのは幻想です。》(p.179)とおっしゃっています。
確かに理念的に頂上を究めて行こうとすると、そうかもしれません。

しかし、出発点的に人間が幸せに生きてゆくにはどうすればいいのか、といった――一種「地べたの真理」とでもいうのでしょうか――そういったものを見つめる時、様々な宗教にある黄金律(ゴールデン・ルール)には、共通した項目が見られるのも、現実です。
そこには共有できるものがあるのではないか、という気がするのです。

南さんも、宗教同士が《もし本当に協力し合いたいなら、「共通の真理」じゃなくて、「共通の問題」を見出さなければいけない。それによって折り合えるんです。》(p.182)とおっしゃっています。
これがそれにあたるのでしょう。


一神教と多神教的なヒンドゥー教や仏教との違いは、確かに相いれない部分があります。

多神教的な世界の人々から見れば、一神教の神の存在の絶対性というのは理解しがたいですし、逆に、一神教の人々からみれば、他の宗教は邪教以外の何ものでもなく、他の神の存在は悪魔以外の何者でもないわけで、受け入れがたいものがあるでしょう。
それをいっしょくたにされたら、信仰が成り立ちませんから。

密教の大日如来の発想もキリスト教の影響だとも言われているようです。
それでも、基本的に多神教的な風土があるので、その枠組のなかで納得できる解釈が成り立つのでしょう。

岡倉天心の世界宗教会議といったものも、多神教的な世界に生きているインドの人たちには共感されたようですが、他の国の宗教人からは今一つだったようです。


 ●足るを知る

ガンディーもソローも、知足(足るを知る)という『老子』等の中国の古典に出てくる考えと同じように、過度な欲望が人の心を狂わせたり、迷わせたりする、だから、必要以上のものを欲するな、欲望をコントロールせよ、ということを教えたのだと思います。
そういう点では同じ思想です。

ガンディーが鉄道のような近代文明を否定したとも言います。

これもソローは『ウォールデン 森の生活』で、歩いて一日かかる移動を鉄道なら一時間に短縮できるかもしれないが、その料金を払うために一日働かねばならないのなら、自分は歩いてゆくというふうに書いています。
また、毎朝一杯のコーヒーを楽しむ生活の豊かさを得るために、余計な労働を強いられるのなら、目の前にあるおいしい自然のままの水を楽しめばよい、とも書いています。


ガンディーの教えというものがあるとすれば、それは、人権侵害や民族の分裂、あるいは他民族の支配からの解放や宗教の衝突など様々な問題の源は、すべて過度な欲望(物欲であれ名誉欲であれ)に振りまわされている人間の心にある、ということでしょう。
大事なことは、人生の真実を知ることであり、物事の真理を究めること――それがどんなに難しいことであって、諦めることなく努力し続けよ、ということ教えではないでしょうか。

 ・・・

さて、中島さんはどのように読み説いて下さるのでしょうか。
楽しみにしています。

【『バガヴァッド・ギーター』に関する本】
『バガヴァッド・ギーター』上村勝彦/訳 岩波文庫 1992/3/16
―学術的にも定本となっている感の一書。訳注・解説が豊富。『バガヴァッド・ギーターの世界』と併読すると理解しやすいか。

『バガヴァッド・ギーターの世界 ヒンドゥー教の救済』上村勝彦/著 ちくま学芸文庫 2007.7.10
―NHKラジオ文化セミナーのテキストを基にした1998年NHKライブラリー版の文庫化。『マハーバーラタ』中の一巻である『バガヴァッド・ギーター』の解説書。仏教との比較で理解を誘う。

『ギーター・サール バガヴァッドギーターの神髄』アニル・ヴィディヤーランカール/著 長谷川澄夫/訳 東方出版 2005.7.11
―『ギーター』700詩編から150詩編を選び、サンスクリット語原文・カタカナ読み・和訳・解説・原語フレーズを添えて、『ギーター』のエッセンスを、心の問題として生き方の助言を解説する。
CD付き・改訂新版 2007/10/10

【その他の関連書】
『平和をつくった世界の20人』ケン・ベラー&ヘザー・チェイス/著 作間和子、淺川和也、岩政伸治、平塚博子/訳 岩波ジュニア新書 2009/11/21
―1 非暴力を学ぶ 2 平和を生きる 3 多様性を大切にする 4 あらゆる命を重んじる、5 地球環境を大切にする、の5部。ソロー、ガンディー、キング、マザー・テレサ、シュヴァイツァー、レイチェル・カーソン等々の生き方と言葉を紹介。


『M.K.ガンディーの真理と非暴力をめぐる言説史 ヘンリー・ソロー、R.K.ナラヤン、V.S.ナイポール、映画『ガンジー』を通して』加瀬佳代子/著 ひつじ書房(シリーズ文化研究2) 2010.2
―ソロー⇒ガンディー⇒キングといった非暴力の思想の〈歴史的事実〉に関して、ガンディーの非暴力の思想が、ヘンリー・D・ソローの影響を受けたものかについてのくだりを興味深く読んだ。
 ガンディーがイギリス留学時、菜食主義者のソローの伝記の著者であるソルトと出会っているという事実はあるが、ガンディーがソローの「市民の抵抗」を読んだのは、1907年だという。
 ガンディーのイギリス留学は3年で、その後南アで初めて人種差別に合い、人種差別と闘うことになるのであり、留学当時にソルトからソローのことを聞いていた可能性はあっても、そのシンプルライフの思想には関心を持ったとしても、市民的不服従の考えと行動に興味を持ったかどうかは何とも言えません。


『ウォールデン 森の生活(上下)』ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 今泉吉晴/訳 小学館文庫 2016/8/5
―2年間ウォールデン池のほとりの小屋での自給自足の生活実験から導かれた省察録。


『市民の反抗―他五篇 』ヘンリー・デイヴィッド・ソロー 飯田実/訳 岩波文庫 1997/11/17
―誰にでもできるけれど誰もやらなかった抗議行動を語る、市民的不服従の講演録「市民の反抗」他エッセイ5編。


*他のNHKテレビ「100分 de 名著」の記事:
1 2011年11月放送:2011.10.31
アラン『幸福論』喜びは、行動とともにある!
2 2011年12月放送:2011.12.6
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3 2012年1月放送:2012.1.5
吉田兼好『徒然草』両面から物事を見よ!-「100分 de 名著」NHK
4 2012年2月放送:2012.1.29
新渡戸稲造『武士道』日本的思考の根源を見る-「100分 de 名著」NHK
5 2012年3月放送:2012.3.6
仏教は「心の病院」である!NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』2012年3月
6 同:2012.4.2
NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』を見て本を読んで
7 2012年4月放送:2012.4.3
紫式部『源氏物語』NHKテレビ100分de名著
8 2012年5月放送:2012.5.2
確かな場所など、どこにもない―100分 de 名著 カフカ『変身』2012年5月
9 2012年6月放送:2012.6.6
<考える葦>パスカル『パンセ』NHK100分 de 名著2012年6月
10 2012年10月放送:2012.10.2
鴨長明『方丈記』NHK100分 de 名著2012年10月
11 2012年12月放送:2012.12.5
<心で見る努力>サン=テグジュペリ『星の王子さま』NHK100分de名著2012年12月
12 2013年1月放送:2013.1.11
呪文に頼るのもよし?~100分de名著『般若心経』2013年1月
13 2013年2月放送:2013.2.5
待て、そして希望せよ~NHK100分de名著『モンテクリスト伯』2013年2月
14 2013年3月放送:2013.3.28
どんな時も、人生には、意味がある。フランクル『夜と霧』~NHK100分de名著2013年3月(再放送)
15 2013年4月放送:2013.4.11
真面目な私とあなた―夏目漱石『こころ』~NHK100分de名著2013年4月
16 2013年5月放送:2013.5.20
水のように生きる『老子』NHK100分de名著2013年5月
17 2013年6月放送:2013.6.5
生きる喜びは、どこにあるのか?『戦争と平和』トルストイ~NHK100分de名著2013年6月
18 2013年7月放送:2013.7.9
哲学とは、愛である『饗宴』プラトン~NHK100分de名著2013年7月
19 2013年11月放送:2013.11.10
「物語」に終わりはない『アラビアンナイト』~NHK100分de名著2013年11月
20 2013年12月放送:2013.12.11
切り離された者たちへ~ドストエフスキー『罪と罰』~NHK100分de名著2013年12月
21 2014年1月放送:2014.1.21
花とは何か~『風姿花伝』世阿弥~NHK100分de名著2014年1月
22 2014年3月放送:2014.3.4
戦わずして勝つ『孫子』~NHK100分de名著2014年3月
23 2014年12月放送:2014.12.3
生きるべきか、死ぬべきか-シェイクスピア『ハムレット』~NHK100分de名著2014年12月
24 2015年4月放送:2015.3.29
自分を救えるのは自分自身である-NHK100分de名著『ブッダ 最期のことば』2015年4月
25 2015年5月放送:2015.5.5
何もないことを遊ぶ『荘子』-NHK100分de名著2015年5月
26 2015年6月放送:2015.6.2
運命と人間―ギリシア悲劇/ソポクレス「オイディプス王」NHK100分de名著2015年6月
27 2015年7月放送:2015.6.30
ラフカディオ・ハーン/小泉八雲『日本の面影』NHK100分de名著2015年7月
28 2015年8月放送:2015.8.5
自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月
29 2015年9月放送:2015.9.1
恋と革命~太陽のように生きる-太宰治『斜陽』NHK100分de名著2015年9月
30 2015年10月放送:2015.10.7
処世訓の最高傑作「菜根譚」NHK100分de名著2015年10月
31 2016年1月放送:2016.1.4
真面目なる生涯~内村鑑三『代表的日本人』NHK100分de名著2016年1月
32 2016年4月放送:2016.4.4
弱者(悪人)こそ救われる『歎異抄』NHK100分de名著2016年4月
33 2016年5月放送:2016.5.1
人に勝つ兵法の道-宮本武蔵『五輪書』NHK100分de名著2016年5月
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2016.11.04

BBC版クリスティー「そして誰もいなくなった」11月27日放送開始

アガサ・クリスティーの代表作のひとつ、名探偵ポアロもミス・マープルも登場しない、ノン・シリーズの長編「そして誰もいなくなった」のドラマが日本初放映されます。

いつも通りのNHK・BSプレミアムで、全3回の放送です。

そして誰もいなくなった

BSプレミアム 11月27日(日)放送スタート 毎週日曜 午後9時

アガサ・クリスティーの名作、日本初放送!!/謎の人物から小さな無人島の邸宅に招かれた10人の男女。次々と人が消えていく衝撃のミステリー! イギリスで放送され大絶賛された新作ドラマ。

原題:And Then There Were None
制作:2015年 イギリス


離れ島に集められた10人の男女が一人一人と殺されてゆきます。
状況は、有名なわらべ歌に則ったもので、見立て殺人です。
集められた人々はみな、その過去に殺人の罪を犯した人々だったのです。
報復のための殺人か? それとも、神になり変わった制裁なのか? ……

超有名な名作をいかに料理しているのか、楽しみです。


原作:「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティー 青木久惠/訳 ハヤカワ文庫―クリスティー文庫 2010/11/10


*過去のクリスティー記事:
2015.10.17
クリスティー原作ドラマ「トミーとタペンス」NHKテレビで放送
2013.3.20
名作~推理編14クリスティー“自殺偽装”事件~左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii355号
2012.12.20
名作~推理編『検察側の証人』クリスティー~左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii343号
2012.6.27
私とクリスティ:『七つの時計』-ファンクラブ機関誌から

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2016.05.26

『文房具図鑑』山本健太郎くんは左利きの小学生(当時)

以前から噂では聞いていましたが、なんと左利きというではありませんか、というわけでここでも取り上げておきましょう。

(情報源:いつものガボちゃんブログ 2016年05月24日左右性も検証してる? から)

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(画像:左利き発言・左手書き てがきびと・いろは出版・ねとらぼ より)

小学生(《この春からは中学生だけど》)文房具研究家・山本健太郎くん

平成15年5月6日生まれ。1年近くかけて手書きでつくった「文房具図鑑」がニフティの「デイリーポータルZ」で取り上げられて話題に。その後、テレビやラジオに出演するなど注目を集めている。
<出演した主なWEBサイト・番組>
ニフティ「デイリーポータルZ」、TBS「白熱ライブビビッド」、日本テレビ「スッキリ!!」「ズームイン!!サンデー」「所さんの目がテン!」、ニッポン放送「戸田恵子オトナクオリティ」

2016年3月21日
TBS 白熱ライブ ビビット

2016年3月25日発売
「文房具図鑑 その文具のいい所から悪い所まで最強解説」1500円(税抜)いろは出版


2015年10月20日
夏休みの宿題で作った文房具図鑑がすごい - デイリーポータルZ:@nifty
2015年12月29日
文房具図鑑を作った小学生、その後すごいことに - デイリーポータル Z - nifty
2016.01.28
小学生が作った“文房具図鑑”いろは出版での制作秘話を公開 スッキリ
2016年3月
小学6年生が作った「すごい文房具図鑑」は書籍になってもすごかった
2016年3月16日
コクヨ「てがきびと」 第15号「溢れる好奇心を緻密に書く人」山本健太郎


 ●《紙に引っかかる気がする》

上↑の「てがきびと」のインタヴューから――

健太郎くんは細字のペンや硬めの鉛筆なんて好きじゃないでしょ?》という問いに、
最近の子は、筆圧が低く、3B・4Bの柔らかいものを使う子が多いといい、
僕は筆圧強いんですけど、逆に3Bとか4Bとか使うのが好きなんです。ペンでも細字だと紙に引っかかる気がするし。ガッガッって書きたいの。》と返答しています。

この《ペンでも細字だと紙に引っかかる気がするし。》という発言は、やはり左手書きによるものではないか、と推察します。

いつも(このブログやメルマガ等で)書いていますように、左手で書くとどうしても左から右へ鉛筆を動かす場合に不都合な面があります。
鉛筆を押すような書き方になり、硬めの鉛筆では芯の先が紙面に突き刺さったり引っ掛かったりしがちです。
左手書き特有の問題です。

私は、芯の柔らかいものを推奨しています。


「てがきびと」のサイトに紹介されていた画像に、ハサミを紹介するくだりで、《左手用もほしい/(自分は左ききだし)》と書かれています。

本を見ていないので、他にどのような記述があるのか存じませんが、このような左利きのユーザー視点のコメントが含まれていることを期待しています。


 ●左利きの現実

もう一つ、ペンにしろハサミにしろそれぞれの製品のロゴの類がみな横書きなので、右利きの人が持つときの方向で図示されています。
この辺が、左利きの私から見ますと、通常使うときとは“逆向き”表示で、ちょっと馴染めません。
(私がサイトに画像を挙げる際には、できるかぎり、左手で持つときの方向を採用するように心掛けています。もしくは縦置きで。)

Dsc050817_108

(画像:鉛筆と持ち方補助具)

左利きの人が使用する持ち方に準じて左から右へ向って描くと、ロゴの文字が逆立ちしてしまうので、見づらいと思われるのかもしれません。

でも、それが左手使いの左利きの人たちの“現実”なのです。
そういう事実を右利きの人たちに知っていただきたい、という気持ちがあります。

右利きの人たちの常識をひっくり返したいものです。

もし次回があれば、そういう左利きユーザーの視点をいっぱい取り込んだものにしていただきたいものです。

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2016.05.01

人に勝つ兵法の道-宮本武蔵『五輪書』NHK100分de名著2016年5月

NHK『100分de名著』2016年5月は、宮本武蔵「五輪書」です。

今回初めて読んでみました。

以前から書名は知っていました。
薄っぺらい本だということも。
読む気になれば、すぐに読めると高をくくって、今まで読まずにいたというところです。

今回読んでみますと、色々なことが分かりました。
また著名な古典といえども、色んな見方があるものだと、改めて認識させられました。

 ・・・

名著54 五輪書
第1回 5月2日放送 兵法の道はすべてに通じる
「兵法は全てに通じる」と説く宮本武蔵独自の兵法論を学ぶことで、現実社会を生きる私達にも通じるメッセージを読み解いていく。
第2回 5月9日放送 自己を磨く鍛錬の道
「水の巻」に即して、「自己鍛錬の方法」「専門の道を極める方法」を学んでいく。
第3回 5月16日放送 状況を見きわめ、活路を開け!
戦い方の根本を説く「火の巻」から、現代のビジネスやスポーツ等の分野にも応用できる「状況を見極め、活路をひらいていく方法」を読み解いていく。
第4回 5月23日放送 己が道に徹して、自在に生きよ!
武蔵が「少もくもりなく、まよひの雲の晴れたる所」と表現する「空」のあり様を明らかにし、「より大きなところから自分自身を見つめる視点」や「偏りや歪みから解き放たれた、自在なありよう」がどんなものかを学んでいく。

【講師】魚住孝至(放送大学教授)
【出演】チョウ・ヨンホ(俳優)
【司会】伊集院光,礒野佑子
【語り】山本美穂,【声】宇垣秀成


「プロデューサーAのおもわく。」より

「五輪書」は、単に剣術や兵法の書にとどまりません。武蔵自身「何れの道においても人にまけざる所をしりて、身をたすけ、名をたすくる所、是兵法の道なり」と書いている通り、その極意は、社会のあらゆる道にも通じるものであるといいます。... 番組では魚住さんを指南役として招き、「五輪書」を、宮本武蔵の生き様を交えながら、分りやすく解説。武蔵の思想を現代社会につなげて解釈するとともに、現代の私たちが生きていくためのヒントを読み解いていきます。

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
宮本武蔵「五輪書」 2016年5月
独りの道を貫け!
己を磨き続ければ、自在な境地へと達する。


【講師・魚住 孝至さんの著作】
『宮本武蔵「五輪書」 ビギナーズ 日本の思想』宮本 武蔵 魚住 孝至 角川ソフィア文庫 2012/12/25


『宮本武蔵―「兵法の道」を生きる』魚住孝至 岩波新書 2008/12/19

【私が読んだ本】
『五輪書』宮本武蔵/著 渡辺一郎/校注 岩波文庫 1985/2

『実戦 五輪書』柘植久慶/著 原書房 1994
―冒頭に著者が『五輪書』の梗概とみなす「兵法三十五箇条」を置き、その後本編を原文・現代語訳・著書解説で示す。
 剣術経験はないが、ナイフによる“二刀流”の格闘実戦の経験から、武蔵の剣術及び兵法の要点を解き明かす。

 ●意外に悪評もある古典

『五輪書』について色んな人の本を見ていますと、毀誉褒貶といいますか、「あの本は中身がない」とけなす人もあり、剣豪の書いた古典として名著だという人もあり、と従来の古典のイメージとはずいぶん異なった印象を受けました。

従来古典の名著と言いますと、人により好き嫌いから好悪の評価が分かれることはありますが、これほど著作そのものの価値評価が分かれる例は存知ません。

これはどういうことなのかと自分なりに読んでみますと、「はは~ん」と思うところがあります。
一つは、やはり具体的な記述よりも、精神論的な、基本中の基本といった抽象論的な部分、これは言葉では言い表せないといった記述がある、ということです。

言葉では言い表せない、文章では書けない、といった記述が何カ所か見られます。
例―

一流の太刀筋、此書に書き顕はすもの也。此道いづれもこまやかに心の儘(まま)にはかきわけがたし。》「水の巻」
此儀濃(こま)やかに書分けがたし。》「火の巻」<一 三つの先といふ事>
さまざま心のゆく所、書付くるにあらず。》「火の巻」<一 つかをはなすといふ事>
今初而(はじめて)此利を書記す物なれば、あと先とかきまぎるる心ありて、こまやかにいひわけがたし。》「火の巻」
(岩波文庫『五輪書』渡辺一郎/校注より)

というように再三書かれていて、確かに言葉では言い表し難いことも多いとは思いますが、そうはいってもそこを表現するのが著作というものでしょう、という気もします。

もう一つは、やはり読む側の期待値というものが非常に高いという面があり、それに比較するとどうなんだ、という問題があるのでしょう。
なんと言いましても宮本武蔵と言えば、「巌流島の決闘」や京都・一乗寺下がり松での兵法家・吉岡一門との戦い等を思い起こす、生涯無敗の剣豪ですので、その奥義をしたためた書となりますと、おのずから期待も高まるものです。

ところが、一対一の戦いよりは、もっと大きな集団の戦いについて書いていたり、どうも剣術の本というより「兵法の書」になっているわけです。
また、剣術指南書というより、心の持ち方やものの学びについての抽象的・精神論的な大きなくくりの書になっています。

具体的な記述もあるのですけれど、(例えば、「水の巻」での刀の持ち方や構えといったこと等)、全体に心構えの重要性を述べたり、鍛練を求める言葉で締めくくったり、これは書き著せないので口伝するとしたり、今一つすっきりしない面もあります。
こういったところが評判を下げる要素なのかな、という気がします。

口伝となる部分は、理解できます。
人により体格も力量も違い、経験も理解力も異なります。
戦いの場も状況も様々であり、そこに共通して通用する何か魔法のような極意や秘伝があるとは思えません。
ケース・バイ・ケースで、マン・ツー・マンでなければ伝えられないものがあるはずです。

全体を通じていえば、未完成?な部分(「空の巻」には具体的な解説がありません。これは元々「ない」のか、あるいは「空」=「無い」の意なのか)もあり、写本自体の精度が悪いのか(私が読んだのは、いわゆる細川家本による)、はたまた元々名文家ではなかったのか、文人といわれる著述家の先生方から見れば、言葉遣いや言い回し等にものの足りなさを感じるところがあるのかもしれません。


 ●まことの兵法の道とは

講師の魚住さんの著作『宮本武蔵―「兵法」の道を生きる』によりますと、武蔵は『五輪書』以前に、いくつかの剣術書を書いているようで、『五輪書』は必ずしも今私が上に書いたような若書きのような著作ではなさそうです。

24歳で円明流という一流をたて、『兵道鏡』という剣術の奥義書を書いて、有力な弟子に与えていたそうです。
その後、29歳で例の巌流島での佐々木小次郎との決闘に勝ち、それ以後「天下一」の剣豪として、決闘の類は辞め、兵法の道を究める方向に進んだようです。

剣術だけでなく、書や画、茶の湯等広く教養を身に付けていった、と言います。

そして50代に入り、弟子の稽古の備忘録として書かれた14カ条のもの(魚住さんがいうところの『兵法書付』)があり、それは『兵道鏡』をさらに一歩進めたものでした。
60歳を前にして武蔵は、熊本・細川家の客分となり、『兵法三十五箇条』を藩主に呈上します。

これらは、のちの『五輪書』に通じるものでもあったと言います。

このように、『五輪書』にはその前身となる剣術書の類があり、それらを下敷きに死を目前にした武蔵が己の求めてきた兵法の道を窮める一書に仕立て上げた、というのです。

武蔵が求めたまことの兵法の道とは何か。
それが『五輪書』にしたためられているのです。

「武士道とは、死ぬことと見つけたり」といった言葉がありましたが、武蔵は死ぬことは武士でなくても誰にでもできることであり、本当の兵法の道とはそうではなく、

... 先(ま)づ、武士は文武二道といひて、二つの道を嗜む事、是(これ)道也。縦(たと)ひ此道ぶきようなりとも、武士たるものは、おのれおのれが分際程は、兵の法をばつとむべき事なり。... 武士の兵法をおこなふ道は、何事におゐても人にすぐるゝ所を本とし、あるいは一身の切合(きりあい)にかち、あるいは数人の戦(たたかい)に勝ち、主君の為、我身の為、名をあげ身をたてんと思ふ。是、兵法の徳をもつてなり。... 何時(いつ)にても、役にたつやうに稽古し、万事に至り、役にたつやうにおしゆる事、是兵法の実(まこと)の道也。》「地の巻」

(1)文武両道を備えるように努め、(2)不器用でも自分なりにできる限り努力し、(3)何事においても人に優れ、(4)切り合いに勝ち戦いに勝ち、(5)名を上げ身を立てること、すなわち「人にまさる」を目指して「朝鍛夕練」――日夜精進することだ、と言います。


 ●人にまさる

『五輪書』から印象に残った部分を書いてみます。

 ・・・

「地の巻」冒頭、武蔵は兵法を大工にたとえています。(<一 兵法の道、大工にたとへたる事>)

大将は大工の統領だ。
大工の統領は設計から材料選び、人の配置まで心を配って建物を作る。
士卒は大工だ。
自分で道具をどぎ、その道具を駆使して仕事を仕上げる。
兵法も同じだ、と。

そして「地の巻」の最後に、9カ条の兵法の道を行なう法を述べます。
第一に、よこしまになき事をおもふ所
第二に、道の鍛練する所
第三に、諸芸にさはる所
第四に、諸職の道を知る事
第五に、物毎(ものごと)の損得をわきまゆる事
第六に、諸事目利を仕覚ゆる事
第七に、目に見えぬ所をさとつてしる事
第八に、わづかなる事にも気を付くる事
第九に、役にたゝぬ事をせざる事

ひと目見れば分かりますように、正に基本的な事柄ばかりです。

何事にも気を配り、教養を身に付け、視野を広げ、ムダなことはせず、鍛練に励む。
誰でもその気になればできることでもあります。
そうは言ってもそれを究めるとなると、また話が別です。

「人に勝つ」ということは、「人よりもまさる」ことだというわけです。


 ●「勝つ」ということ「切る」という思い

武蔵は、まず兵法とは「敵に勝つ」こと、二天一流の目的は「敵を切る」ことだと明確に記しています。
「勝つ」

何(いずれ)にても勝つ事を得る心、一流の道也。》「地の巻」<一 此一流、二刀と名付くる事>
此法をおこなふ事、武士のやくなりと心得て、けふはきのふの我にかち、あすは下手にかち、後は上手に勝つとおもひ、... 一身を以て数十人にも勝つ心のわきまへあるべし。》「水の巻」
剣術実(まこと)の道になつて、敵とたゝかひ勝つ事、此法聊(いささ)か替る事有るべからず。我兵法の智力を得て、直(すぐ)なる所をおこなふにおゐては、勝つ事うたがい有るべからざるもの也。》「火の巻」
物毎(ものごと)に勝つといふ事、道理なくしては勝つ事あたはず。わが道におゐては、少しもむりなる事を思はず、兵法の智力をもつて、いかやうにも勝つ所を得る心也。》「風の巻」<一 他流におゐて、つよみの太刀といふ事>

「きる」
敵をきるものなりとおもひて、太刀をとるべし。》「水の巻」<一 太刀の持ちやうのこと>
いづれのかまへなりとも、かまゆるとおもはず、きる事なりとおもふべし。》「水の巻」<一 五方の構の事>
先(ま)づ太刀をとつては、いづれにしてなりとも、敵をきるといふ心也。》「水の巻」<一 有構無構のおしへの事>
唯人をきりころさんとおもふ時は、つよき心もあらず、勿論よはき心にもあらず、敵のしぬるほどと思ふ義也。》「風の巻」<一 他流におゐて、つよみの太刀といふ事>

何事に置いても、目的をしっかりと持つことが重要です。
ゴールをしっかりと見極められないと、何をしていいのか分かりません。

武蔵は、「人をきる」こと、「敵に勝つ」ことを根本に置いて話を組み立てています。
その辺がこの書が明快なものにしている点でしょう。

反面、そのためなら手段を選ばずといった姿勢も見られ、文人からは評判が悪いのかもしれません。

勝負において勝利を至上とする考えは、『孫子』の兵法にも通じる当然の戦略でもあると思うのですけれど……。


 ●心は空

「風の巻」で、他流との違いを書いています。
ここで、

我兵法のおしへやうは、初而(はじめて)道を学ぶ人には、其わざのなりよき所をさせならはせ、合点のはやくゆく理を先におしへ、心の及びがたき事をば、其人の心をほどくる所を見わけて、次第次第に深き所の理を後におしゆる心也。》「風の巻」<一 他流に、奥表といふ事>

といい、しかし、自分の教える兵法に特別な「奥口」はないといいます。

武蔵は、奥義や入口も構えの極意もない、ただ心の持ち方、兵法の徳をわきまえること、これが兵法における肝心なことだ、といいます。

我一流におゐて、太刀に奥口なし、構(かまえ)に極(きわま)りなし。唯心をもつて其徳をわきまゆる事、是兵法の肝心也。》「風の巻」

これが、最後の未完と思われる「空の巻」につながります。
空といふ心は、物毎のなき所、しれざる事を空と見たつる也。勿論空はなきなり。ある所をしりてなき所をしる、是則ち空也。... 武士は兵法の道を慥(たしか)に覚へ、其外(そのほか)武芸を能(よ)くつとめ、武士のおこなふ道、少しもくらからず、心のまよふ所なく、朝々時々におこたらず、心意二つの心をみがき、観見二つの眼をとぎ、少しもくもりなく、まよひの雲の晴れたる所こそ、実の空としるべき也。》「空の巻」

体力・精神力・知力など稽古や勉強を重ね、経験を積み、すべての面で人間力を磨き上げることが、勝つことにつながるという、宮本武蔵の言葉は、やはり思いものを感じます。

誰もが思いつくような当たり前のこと、基本中の基本かもしれませんが、それを言葉に書き著すことが大事です。
書いたものがあれば、時にこれを復習することができます。

頭の中で分かったつもりでいるとは、大きな違いがあります。
チェックするものがある事の重要さを認識しておくべきでしょうね。

フランクリンが『自伝』で書いているように、十三徳を表にして毎日チェックした、というのと同じです。
管理の際にリストと突き合わせてチェックしたり、巡回のたびにサインや印鑑を押したりするのと何でしょう。


 ●武道具は手にあふやうにあるべし

私が一番心に残った言葉は、

人まねをせず共、我身に随ひ、武道具は手にあふやうにあるべし。》「地の巻」<一 兵法に武具の利を知るといふ事>

道具は自分の身に合ったものを使え、という教えです。

私は左利きで、世の多くの道具は右利きの人が右手で使う、あるいは右構えで使うことを前提としたもので、その点でいつも物足りなさを感じています。

「物足りなさ」と少し穏やかな表現をしていますが、本当はもっと腹正しく憤りを感じています。
剣豪や士卒のように、直接命を賭けてる、命をやりとりしているわけではないのですが、実際に生活の不便さや時には身の危険にも発展する問題でもあるのですから。

道具は大切です。
自分に合ったものでなければ、色々と問題があります。

右利きの人は、もうそれだけで有利です。
ところが、自分が恵まれた存在であることをこれらの人の多くが意識していません。

恵まれた存在であることの自覚がないので、他の人の苦労が見えないのです。

原始時代は自分で使う道具は自分で作ったのでしょうね。
その時代の方がよかった、というつもりはありませんけれど、考え込んでしまう事実でもあります。

 ・・・

さて、今回はどのようなお話が展開するのか楽しみです。


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31 2016年1月放送:2016.1.4
真面目なる生涯~内村鑑三『代表的日本人』NHK100分de名著2016年1月
32 2016年4月放送:2016.4.4
弱者(悪人)こそ救われる『歎異抄』NHK100分de名著2016年4月

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2016.04.04

弱者(悪人)こそ救われる『歎異抄』NHK100分de名著2016年4月

NHK『100分de名著』2016年4月は、「歎異抄」です。

久しぶりに読んでいる名著の登場ということで書いてみます。

講師は比較宗教学者の釈徹宗さん。
著書など全く読んでいないのですが、どのように読み説かれるのか楽しみです。


名著53 歎異抄
第1回 4月4日放送 人間の影を見つめて
親鸞の人となりや弟子・唯円が「歎異抄」が執筆した背景を紹介しながら、人間の「影」を見つめ続けた親鸞の教えに迫っていく。
第2回 4月11日放送 悪人こそが救われる!
親鸞の思想の核心である「悪人正機」と「他力」という言葉に込められた深い意味を読み解き、自らの悪を深く自覚した人、社会の底辺で生きる弱者や愚者こそが救われるという、親鸞の教えの核心に迫っていく。
第3回 4月18日放送 迷いと救いの間で
唯円の反論を丁寧に読み解き、迷いと救いの間の緊張関係をたじろがずに受け止めていく親鸞の生き方を学んでいく。
第4回 4月25日放送 人間にとって宗教とは何か
「歎異抄」後序、流罪記録に記された親鸞の信仰人としての生き様を通して、「人間にとって宗教とは何か」を考えていく。

【講師】釈徹宗…相愛大学人文学部教授。比較宗教学者。
【出演】かもめんたる(お笑いコンビ)
【親鸞の声】志賀廣太郎(俳優)
【語り】小口貴子

「プロデューサーAのおもわく。」より

同じ信徒の中からも多くの「異義」が出され混迷を深めていた状況を嘆いた門弟の一人、唯円が、師・親鸞から直接聞いた言葉と、信徒たちによる異義への唯円自身の反論を記したのが「歎異抄」です。/... 比較宗教学者の釈徹宗さんは、「歎異抄」の最大の魅力は、「常識的な日本人の宗教観や倫理観とは相容れない表現が続出し、読む者をなかなか着地させてくれない」ところだといいます。/... なすすべもない苦悩や悲嘆に直面せざるを得ない現代、「歎異抄」を現代的な視点から読み直しながら、「自分自身の闇に向き合うというのはどういうことか」「思い通りにならない現実とどう向き合えばよいのか」といった実存的な問いを掘り下げ、「人間はどう生きていけばよいのか」という根源的なテーマを考えていきます。

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
歎異抄 2016年4月

■講師:釈 徹宗
信じる心は一つである
何もできないとわかるとき、親鸞の言葉が浮き上がる
■今月のテーマ
絶対絶命の時に浮上する言葉
『歎異抄』に収められた親鸞の言葉と、苦悩と矛盾に満ちたその生涯から、現代社会を生きるためのヒントを探る。

【講師・釈 徹宗さんの著作】
『図解でやさしくわかる 親鸞の教えと歎異抄』釈 徹宗/著 ナツメ社 2012/8/11

 ・・・

『歎異抄 ―現代語版― 浄土真宗聖典』浄土真宗教学研究社 浄土真宗聖典編纂委員会/編纂 本願寺出版社(1998)
―真宗本願寺による、現代語版『歎異抄』。訳注、付録・蓮如上人書写本(カタカナ文)。読みやすい現代語訳。

『歎異抄 現代語訳付き』親鸞/述 千葉乗隆/訳註 角川ソフィア文庫 新版(2001)
―十条までの親鸞の法語を前篇とし、十条後半を後篇への序文とし、十一条の異義への批判を後篇とする。原典に訳注・要旨を添えた前半と読みやすい現代語の後半の二部構成。

『歎異抄』梅原猛/著 講談社学術文庫(2000)
―梅原『歎異抄』研究の原点。本文各条(原文・訳注・こころ=要旨および解説)、巻末解説。大活字版。元本は1970年発行。

『出家とその弟子』倉田百三/作 新潮文庫 改版(2003)、岩波文庫(1990)
―大正6年発表、倉田百三26歳の戯曲。そのせいか、後半の若き僧唯円の恋の悩みを巡る親鸞とのやり取りが主なテーマとなっている。個人的には、冒頭の唯円幼少時、その父と親鸞の悪人と往生に関するやり取りは、興味を持って読んだが、後半はややセンチメンタリズムに落ちている感じがするのが、残念。

 ・・・

『歎異抄』については、以前メルマガ『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』で取り上げています。
今回はその一部を転載し、加筆修正して紹介にかえましょう。

2008(平成20)年8月31日号(No.9)-080831-『歎異抄』弱きを救う阿弥陀さま


 ●『歎異抄』

日本の仏教のなかで最も知られている著作『歎異抄』――。

この本は、今でこそ最もよく知られる、よく読まれる宗教書、仏教書の一つでありますが、広く世間に知られるようになったのは、明治の半ばすぎのことで、百年ほど前の話だそうです。

浄土真宗の僧侶で西洋哲学を学び、宗門改革に尽力した清沢満之(きよざわ・まんし)が“発掘”し、その影響を受けた人たちによって注目されるようになったといいます。

特に、倉田百三の戯曲『出家とその弟子』(大正六年刊)があまねく日本人に知らしめるのに大いに役立ったのではないか、と梅原猛はその著書の中で書いています。
(『梅原猛著作集9・三人の祖師』小学館 2002「『歎異抄』と本願寺集団」371-372p)

この書物は、親鸞の死後、その教えを誤って伝える信者が増えたことを嘆いた直弟子、唯円(ゆいえん)が本当の親鸞の教えを伝える目的で、自分自身が直接聞いた親鸞の言葉をまとめたもの、といわれます。

しかるに、そういう経緯から書かれたこの書物が宗門においてもなぜ秘せられていた(といわれている)のか、その理由の一つが悪人正機説にある、とされています。

浄土教の流行がわが国におよぼした影響は大きい。中でも浄土真宗は、親鸞自身の意図とは別に、思いがけない方面に影響した。自力の拒否、戒律の放棄は独善的な、閉ざされた教団を成長させた。.../また一般に浄土教は現実逃避の傾向が強い。日本人が正面から現実の問題と取組むことを回避する態度を助長したのも、浄土教であった。したがって封建的勢力に協力し、社会の近代化を妨げた責任の一端もここにある。...》(渡辺照宏/著『日本の仏教』岩波新書(1958)「III さまざまな流れ/アミダ信仰」204p)


浄土真宗の「南無阿弥陀仏」と念仏を唱えるだけで極楽浄土にゆけるという教えは、末法の世に生きる恵まれない境遇にある者にとっては、救いであったでしょう。

人間は弱いものです。
弱い者には逃げ場所が必要です。
その逃げ場所を提供してくれる阿弥陀さまは、まさに救いです。

「善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや。」(第三条) 「善人ですら極楽浄土へ行くことができる、まして悪人は、極楽浄土へ行くのは当然ではないか。」》(『梅原猛著作集9・三人の祖師』小学館 2002 「現代語訳『歎異抄』」梅原猛/訳 647p)
  


 ●悪人

「悪人」の本来の意味としては、
杉浦明平(すぎうら・みんぺい)さんが『歎異抄 古典を読む』(岩波現代文庫 2003、「3 善人なをもて往生をとぐ、いはんや悪人をや」42p-)に書いておられるように、
殺生や肉食妻帯を禁じる等の仏教の戒律を守れない人々――山で獣や鳥を撃つ猟師、海や川で貝や魚を獲る漁師、酒を売る商人といった人たち。

さらにいえば、田畑で作物を取る農民も生き物を殺しているわけですし、当然それを食べる人間はみな同じ穴の狢です。
酒以外のものを作ったり売ったりする職人や商人も銭金にこだわるわけで、これも戒律からは外れているでしょう。
あるいは、肉欲に負けた一般庶民などの凡夫たち。

これらすべてをさし、現代的な(心も含めた)「犯罪者」を意味するのではない、のでしょう。

しかし、一歩進めて、現代的解釈であっても、「悪人」を責めるものではないように思います。


 ●いっとき逃げることが許されても良い

(たとえそれが言い訳であったとしても)“末法の世ゆえに仕方なく”悪事を働いた者が、悪人であってもお救いくださるという、阿弥陀さまのお力に頼ろうとすることは決して間違いではないのだ、という理屈は、弱い人間の心を強く打つものがあります。

確かに、現実逃避型の、現状肯定の思想であり、非改善・非改革の消極的な生き方ともいえます。

しかし、人間には時にそういう逃避的な生き方を選ぶ瞬間があってもよい、のではないでしょうか。

一時的にいじめから逃げるのも、一つの便法です。

同様に人生において、いっとき逃げることが許されても良い、のではないでしょうか。


故に、悪人でも、いや悪人ゆえに救われるという宗教家が現れてもいいはずです。

眼の前に救わねばならない人がいるならば、どのような手段を用いても救う、という行為もまた、宗教家の勤めであるような気がします。

もちろんその咎は、その宗教家自らがかぶることになりますが…。


 ●念仏をとりて信じたてまつらんとも、またすてんとも、面々のおはからひなり

さらにこの本の第二条の末尾で、教条について説明した後、

親鸞は、

「このうへは、念仏をとりて信じたてまつらんとも、またすてんとも、面々のおはからひなりと云々。」
といいます。

なんとスゴイ言葉でしょう。
念仏を信じるのも捨てるのも自由です、あなたが自分で決めなさい、というのです。

当たり前といえば当たり前です。
しかし、弟子として信者として彼の言葉を求めてきた者に対して、こういう言葉で返す師。

これは並みの師ではいえない言葉でしょう。

第六条には、《「親鸞は弟子一人ももたずさふらう。」》と「私は弟子を一人も持っていません」とまで言い切るのです。

念仏を信じる人は親鸞自身も含めてみな、阿弥陀さまのお力にすがり、救っていただく同朋です、と。

理屈はその通りなんですが、あえてこう言う。

これほど平等、公正な師がいるでしょうか。
愚民凡夫といえども、人を人として扱ってくれる師が。

 ・・・

社会学者・上野千鶴子さんは、

「一時期この薄い文庫本をどこに行くにも持ち歩いていた。」
といいます。
なぜなら、
「慰めだったからである。」
「いつでも手の届く場所にあるだけで、安心である。」

(『図書』第697号 2007年4月臨時増刊 岩波文庫創刊80年記念「私の三冊」12p)

『歎異抄』とは、そんな存在の本なのです。


●法然と親鸞

法然が始めた専修念仏による浄土宗をさらに推し進めたのが、親鸞です。
法然の革新的な仏教をさらに人間的なものにした、という印象を持っています。

古今東西、宗教における救いといえば、まずは「悔い改めよ」から始まり、姿勢を正すことから入るものです。
しかし、親鸞は阿弥陀様の御慈悲にすがりなさいというだけです。

法然の他力は、既存の仏教の枠組の中での革新であり、基本的に真面目に念仏を唱えるという多少の自力的な要素が残っているように思えます。
しかし、親鸞の唱える絶対他力は、すべてを阿弥陀仏にゆだね、救いも含めてすべてをお任せする姿勢です。

また布教の在り方も、和讃といった庶民に受け入れられる形でやさしく説くなど、一般庶民に寄り添った姿勢が広い支持を得たのでしょう。

この機会にまた読んでおきたい古典です。


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15 2013年4月放送:2013.4.11
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16 2013年5月放送:2013.5.20
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17 2013年6月放送:2013.6.5
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19 2013年11月放送:2013.11.10
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処世訓の最高傑作「菜根譚」NHK100分de名著2015年10月
31 2016年1月放送:2016.1.4
真面目なる生涯~内村鑑三『代表的日本人』NHK100分de名著2016年1月
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2016.01.04

真面目なる生涯~内村鑑三『代表的日本人』NHK100分de名著2016年1月

NHK『100分de名著』2016年1月は、内村鑑三「代表的日本人」です。

内村鑑三は、宗教家(無教会主義のキリスト教徒)で思想家です。
同じくキリスト教徒で思想家・教育家、国際連盟事務局次長として活躍し『武士道』の著者としても有名な新渡戸稲造とは、札幌農学校の同窓生でした。
『代表的日本人』は、そんな彼の代表的な著作の一つで、偉大な日本の先人たちを世界に紹介した日本人論です。

名著50・内村鑑三「代表的日本人」
第1回 1月6日放送 無私は天に通じる

西郷隆盛の生き方を通して、無私に生きるときに開かれる強さや自己を超えた大きな存在に寄り添う生き方の意味を考える。

第2回 1月13日放送 試練は人生からの問いである
上杉鷹山と二宮尊徳の生き方を通して、試練を好機に変えていく「誠意」の大事さを学んでいく。

第3回 1月20日放送 考えることと信ずること
中江藤樹と日蓮の生き方から、真摯に考えぬき真摯に信じぬいたからこそ得られる「ゆるぎない座標軸」の大切さを学んでいく。

第4回 1月27日放送 後世に何を遺すべきか
「代表的日本人」と「後世への最大遺物」をつないで読み解くことで、内村が私たちに何を遺し伝えようとしたのかを深く考えていく。

「プロデューサーAのおもわく。」

番組では、批評家の若松英輔さんを講師に招き、現代的な視点から「代表的日本人」を解説。現代に通じるメッセージを読み解き、価値感が混迷する中で座標軸を見失いがちな私達の現代人が、よりよく生きるための指針を学んでいきます。

【ゲスト講師】若松英輔…「井筒俊彦―叡智の哲学」「生きる哲学」「内村鑑三を読む」等の著作で知られる批評家。
【朗読】筧利夫(俳優)…映画「踊る大捜査線シリーズ」「THE NEXT GENERATION パトレイバー」等に出演。


○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
内村鑑三「代表的日本人」2016年1月
若松英輔 講師

西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮という『代表的日本人』の生涯を通して、内村鑑三はみずからの精神的自叙伝を書いた。講演録『後世への最大遺物』にも触れ、人生の意味を「継承される使命」のなかに見出す。生きがいなき現代の、迷える「魂」を救済する一冊。
人はみな「永遠」を生きる/真面目な生き様は、後世へと受け継がれる


【講師・若松英輔氏の著作】
『内村鑑三をよむ』(岩波ブックレット 2012/7/6)


 ●明治期の「三大日本人論」

明治時代、世界にデビューした近代日本。
その日本を世界に紹介した先人達がいました。

英語を駆使し、日本文化論・日本人論の名著を現した人たち――新渡戸稲造(1862~1933)『武士道 Bushido:The Soul of Japan』1900(明治33)年、岡倉天心(覚三)(1862~1913)『茶の本 The Book of Tea』1906(明治39)年、そして内村鑑三(1861-1930)の『代表的日本人 Representative Men of Japan』(『日本および日本人』Japan and The Japanese 1894(明治27)/1908(明治41)年再版時改題)。

これらは明治期の日本人による「三大日本人論」とも呼ばれます。

先の2著は、過去にこの番組で紹介済みです。

「武士道」2012年2月
「茶の本」2015年1月

*参照『お茶でっせ』記事:
2012.1.29
新渡戸稲造『武士道』日本的思考の根源を見る-「100分 de 名著」NHK
2015.1.5
小なるものの偉大~岡倉天心『茶の本』NHKテレビ「100分de名著」2015年1月

今回は、ついに「代表的日本人」が登場します。


(以下の文は、メルマガ『レフティやすおの楽しい読書』2009(平成21)年12月31号(No.29)-091231-『代表的日本人』内村鑑三―I for Japanの文章を元に、一部加筆修正しています。)

 ●挫折のなかから立ち上がる人

内村鑑三はキリスト教徒ですが、英文で書いたこの本で、世界の人々に向けて、世界における日本の地位を高める意味で書かれたものであり、かつ自身の日本人としての出所を示すものでもあったのでしょう。

内村鑑三は、『余は如何にして基督信徒となりし乎』のなかで、

... 人はその国を一歩出て個人以上である。彼は彼自身の中に彼の国民と彼の民族を担う。彼の言葉と行為はただ彼のものとしてだけでなく、彼の民族と彼の国民のそれとしてもまた判断される。かくてある意味では、異郷における滞在者はいずれも彼の国の全権公使である。... 》(鈴木俊郎/訳 岩波文庫 初1938,1993 「第七章 基督教国にて―慈善家の間にて」p.128より)
と述べています。

自分の言葉により、極東の野蛮国と目されていた日本が、世界に誇り得る文化を持ち、優れた人物を輩出した国であることを、世界中に知らしめるために書かれたものである、という事実がわかるでしょう。


西郷隆盛(1827-77)、上杉鷹山(1751-1822)、二宮尊徳(1787-1856)、中江藤樹(1608-48)、日蓮上人(1222-82)
この五人を日本人の代表として取り上げ、それぞれの小伝とともに、彼らがいかに優れた精神の持ち主であり、辺境の国に生まれ、異端の教えを受けたものであっても、決してキリストの教えを受けたものに負けない気高い精神を持ち、精進を重ねた聖人であることを紹介します。

彼らの多くは、後に新渡戸稲造『武士道』によって示されるような武士道精神に則った人物であり、彼らの信奉した武士道精神は、内村に言わせれば、キリスト教信徒となる礎―接ぎ木の台木となりうるもの、あるいは、それ以上であったのです。

さらに、日蓮上人に対しては、世に受け入れられぬ自らの信仰とその社会との戦いを投射し、自らを鼓舞しているように思われます。
ただし、内村鑑三はこう書いています。

戦闘的でない日蓮、これが我々の理想とする宗教家である。》(『代表的日本人』「仏僧 日蓮上人/八 人物評」p.191より 岬龍一郎/訳 PHPエディターズ・グループ 2009)


彼は、アメリカ留学や帰国後の教育勅語不敬事件など様々な挫折を経て、そのたびに立ち上がり、より良き日本、よりよき社会の実現のために、己の信じるところのキリスト教布教の社会活動を続けました。

彼は墓碑銘として、以下の言葉を遺しています。

余は日本の為め I for Japan;
日本は世界の為め Japan for the World;
世界は基督の為め The World for Christ;
基督は神の為め也 And All for God;

また内村鑑三は、講演録「後世への最大遺物」には、こんな言葉を残しています。

アノ人はこの世の中に活きているあいだは真面目なる生涯を送った人であるといわれるだけのことを後世の人に遺したい


今日、世界の中で日本が、そして日本人に何ができるか、を問われている時代でもあります。

それは、我々日本人一人一人の生き方を問われているとも言えます。

そんな私たちに、内村鑑三はどんな言葉を残してくれたのでしょうか。
改めて考える時期に来ているのかもしれません。

 ・・・

若松英輔講師が、どのように「代表的日本人」を読み説くのか。
また、私のおススメ本の一つでもある「後世への最大遺物」についてもふれるとのこと、大いに楽しみです。


*【内村鑑三「代表的日本人」】
『代表的日本人』鈴木範久/訳 岩波文庫〔新版〕1995/7/17
―目次
1 西郷隆盛―新日本の創設者
2 上杉鷹山―封建領主
3 二宮尊徳―農民聖者
4 中江藤樹―村の先生
5 日蓮上人―仏僧

『代表的日本人』岬龍一郎/訳 PHPエディターズ・グループ(2009)
[Kindle版]

『代表的日本人 対訳』稲盛和夫/監訳 講談社インターナショナル(2002)
―稲盛和夫の序文。日本語英語対訳本。


*【内村鑑三のその他の著作】
『余は如何にして基督信徒となりし乎』鈴木俊郎/訳 岩波文庫(1973)
―幼少時から、札幌農学校でのキリスト教入信、渡米後の生活、大学生活とそこで得た回心の経験、キリスト教国アメリカの現状など、帰国までの日々を綴る自伝的半生記。

『後世への最大遺物 デンマルク国の話』岩波文庫(1976改版)
―カネも事業も、思想も教育も後世の人たちに遺せない並みの人間が唯一遺せるものは何か、人生における最大の価値ある行いとは何かを教える「後世への最大遺物」。
 他に「デンマルク国の話」収録。


*他のNHKテレビ「100分 de 名著」の記事:
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3 2012年1月放送:2012.1.5
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2015.10.17

クリスティー原作ドラマ「トミーとタペンス」NHKテレビで放送

NHKテレビの「トミーとタペンス<全6回>」が明日18日から始まりますね。

この情報は、クリスティ・ファンクラブの数藤会長からの報告で知りました。

NHKのサイト「トミーとタペンス」から―

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トミーとタペンス<全6回>

アガサ・クリスティー原作のおしどり夫婦が活躍する探偵ドラマ。
日本初放送!

「秘密機関」(3話完結)
「NかMか」(3話完結)

今年2015年、生誕125年を迎えるミステリーの女王アガサ・クリスティーが生みだし、エルキュール・ポワロ、ミス・マープルと並んで愛される
「おしどり探偵」ことトミーとタペンスの夫婦が活躍するミステリー・ドラマ。

1950年代のイギリス。
第二次世界大戦後の復興から東西冷戦の時代に、冒険好きの妻タペンスと彼女を支える夫トミーが難事件に挑む。
50年代のおしゃれなファッションとノスタルジックな雰囲気のなかで、ユーモアを交えながらハラハラドキドキのドラマが展開する。
イギリスで制作され、BBCで放送したばかりの作品を日本初放送!
1作品を3回に分けて放送します。(2作品全6回)

原題:Agatha Christie’s Partners in Crime
制作:2015年 イギリス


・トミーとタペンス(1)[新]<全6回>「秘密機関(1)」
列車で乗り合わせた女性が行方不明に。トミーとタペンスは事件の謎を追うが…。

第二次世界大戦後の1952年。
ロンドン在住の夫婦、トミーとタペンスはパリに出かける。
帰りの列車の中で乗り合わせた若い女性が食堂車に行った後、タペンスは銃声と悲鳴を聞いたような気がした。
女性はそのまま戻らなかった…。
不審に思ったタペンスは、女性が残した1冊の本を手掛かりに行方を調べようとするが、次々と危険な目にあう。

トミーとタペンス(2)「秘密機関(2)」
失踪した女性、ジェーンの行方を調べ始めたトミーとタペンスはスパイ事件に巻き込まれて…。

トミーとタペンス(3)「秘密機関(3)」
ブラウンが誰かを探り当てたトミーとタペンスは、暗殺の標的である国務長官のもとへ急ぐが…。

トミーとタペンス(4)「NかMか(1)」
トミーは軍情報部幹部のおじから極秘任務を命じられる。

トミーとタペンス(5)「NかMか(2)」 スパイの正体を調べるため潜入捜査を始めたトミーとタペンス。次々と起こる事件に翻弄される。

トミーとタペンス(6)「NかMか(3)」[終]
スパイNの要求は核兵器とソ連の政治犯との交換。期限は2日しかない。
--

以上、六回放送のようです。


原作では、「秘密機関」は、第一次大戦後、二人の年齢を合わせても45にもならないという若い二人が再会し、仕事のない戦後の生活の中で出会った冒険のお話です。

「NかMか」は、第二次大戦中、戦争のため、息子とも娘とも離れた、中年になった二人が、ドイツのスパイを探る冒険に誘われるお話です。

クリスティーもまた、戦時下では、祖国のためを思う愛国者だったということでしょうか。

それとも家族を思うがゆえ、だったのでしょうか。

しかし、話の内容は、男女カップルの冒険ものとはいえ、ミステリの女王らしいちょっとした謎解きありの楽しめるものになっています。

「NかMか」は、トミーとタペンスものの中では唯一未読で、実はごく最近読んだばっかりだったので、偶然に驚いています。


<トミーとタペンス>もの
1.秘密機関 (長編)
 戦後再会した二人の青春冒険もの


2.おしどり探偵 (短篇集)
 冒険好きの若い二人トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が探偵事務所を開き、ホームズやポアロなど名探偵たちのマネをして事件を解決する


3.NかMか (長編)
 中年になった二人のスパイ冒険もの


4.親指のうずき (長編)
 「トミーとタペンスはどうしていますか」の読者の声に応えて書かれた、老年期に入った二人の冒険で、クリスティー晩年の傑作


5.運命の裏木戸 (長編)
 生前のクリスティーが最後に書いた作品
 正直始めて読んだ時、さすがのクリスティーも衰えたか、と思わせた作品で、タイトルがタイトルだっただけに…。
 登場人物がみな、80、90代というのビックリしましたが、書いた時クリスティー自身が80代ですから、これも当然かも


(ポアロ最後の事件『カーテン』とマープル最後の事件『スリーピング・マーダー』は、第二次世界大戦頃に書かれ、死後公開のこととして保管されていた原稿)

 ・・・

昨日16日、
『ポワロ』の声・熊倉一雄さん死去 88歳
の報が入ってきました。

テレビの<ポアロ>ものもスーシェさんが全作を演じ終え、熊倉さんのポアロもそれに伴い、おしまいになったのでした。

まあ、待っていたわけではないでしょうが、結果的には、あの仕事を終えてからのこの日ということで、感慨深いものがあります。

ご冥福をお祈りいたします。

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2015.10.07

処世訓の最高傑作「菜根譚」NHK100分de名著2015年10月

NHK『100分de名著』10月は、2014年11月「菜根譚」の再放送です。

名著38「菜根譚」
第1回 10月7日放送 逆境を乗り切る知恵
 《誰もが陥る「逆境」にどう立ち向っていくか?
第2回 10月14日放送 真の幸福とは?
 《新しい「幸福論」を再構築しようとしている
第3回 10月21日放送 人づきあいの極意
 《およそ人とかかわるあらゆる局面で、どう振舞ったらよいかを具体例とともに細かく指南している
第4回 10月28日放送 人間の器の磨き方
 《「自分の心を見つめること」「ゆとりをもつこと」「中庸」「高い志」などを、人間的な成長に不可欠なものとして提示する

ゲスト講師 湯浅邦弘(ゆあさ・くにひろ) 大阪大学・大学院教授

「プロデューサーAのおもわく。」より

「菜根譚」が時代をこえて読みつがれるのはなぜでしょうか。中国哲学が専門の湯浅邦弘大阪大学教授は、その理由を、「洪自誠が本流から外れて不遇をかこったからこそもちえた冷徹な視点があり、そこから時代を超えた普遍性、鋭い人間洞察が生まれた」と語ります。/ 番組では湯浅邦弘さんを指南役として招き、「菜根譚」の世界を分り易く解説。様々な言葉を現代社会につなげて解釈するとともに、そこにこめられた独特の【幸福論】や【交際術】、また、現代にも通じる【人格の磨き方】をひもといていきます。

○NHKテレビテキスト
「100分 de 名著」「菜根譚」2015年10月
湯浅邦弘


【ゲスト講師・湯浅邦弘さんの『菜根譚』の入門書】:
1.『菜根譚 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』角川ソフィア文庫 2014/10/25
―本文主体の入門書。前後集357条中主要な136条を選んで、現代語訳・書き下し文・原文・解説を付け、書き下し文の漢字にはすべてルビ(振り仮名)を付けて読みやすくしている。要所にコラムも配置し、全体の解説も付けて初心者にもやさしく紹介している。

2.『菜根譚―中国の処世訓』中公新書 2010/2
―背景解説を含む入門書。『菜根譚』の時代背景、内容の思想の解説、中国の処世の書の歴史紹介。


【原典全訳】
1.『菜根譚』洪自誠/著 今井 宇三郎/訳 岩波文庫 1975/1/16
―原文・書き下し文・語釈・現代語訳。初句を抽出した一覧目次。

2.『菜根譚』中村 璋八, 石川 力山/訳 講談社学術文庫 1986/6/5
―儒学・道教の中村、仏教・禅宗専攻の石川両氏による語義が充実した訳書。内容を端的にまとめた目録を目次とする。


(底本のテキストの違いにより、条の区切りが異なり条数が違ったり配列のずれがあり、講談社学術文庫版では、前集は岩波文庫版と同じ222条ですが後集が134条となっています。
 “湯浅”角川版は、他のテキストを参考に一部文字を改め、条の区切りは結果的に岩波版と同じになったという。)


 ●『菜根譚』について

湯浅邦弘さんの『菜根譚 ビギナーズ・クラシックス 中国の古典』の解説によりますと―

『菜根譚』は、明代の末の頃の人で儒家を自称する洪自誠による儒・道・仏の三教融合の思想に基づく処世訓です。
中国では儒家であっても道教(老荘思想)や仏教を排するものではなく、重要な思想とされているそうです。
そうは言っても儒家としての道徳心を基本としており、道教や仏教を批判する条もあります。

『菜根譚』は、前後二集、それぞれ222条と135条、都合357条からなり、前集は主に儒家の思想に見られる常識的な道徳を説き、後集は老荘思想や仏教の色合いのある俗世を超えた深遠な境地を説いています。
それぞれの条は、みな二行から数行と短い簡潔な文章からなっており、それぞれは独立したもので、どこからでも読めるものとなっています。
内容としては、著者の体験――実際の生活の中から、および読書から得たよりよく生きるための知恵を語る処世訓です。

湯浅さんの上記の本では「洪自誠の読書生活」と題された後集54条にこうあります。

明け方の窓の下で『易経』を読み、松葉の露で句読点を打つための朱墨を擦(す)る。昼間は机の上に仏典を置いて語り合いながら、宝磬(ほうけい)を打って音色を竹林の風に響かせる。/【読み下し文】易(えき)を暁窓(ぎょうそう)に読(よ)んで、丹砂(たんしゃ)を松間(しょうかん)の露(つゆ)に研(みが)く。経(きょう)を午案(ごあん)に談(だん)じて、宝磬(ほうけい)を竹下(ちくか)の風(かぜ)に宣(の)ぶ。

それだけに、単なる知識の受け売りではなく、真実味のある教訓となっているのでしょう。

日本でも中世以降、多く読まれてきたといいます。
近年でも有名人の愛読書として、『松下幸之助の菜根譚』や『野村克也の『菜根譚』』といった本が出ているそうです。

湯浅さんは「あとがき」で、人生は思い通りにならないもので、そういう逆境の時にこそ言葉が支えになるもので、そんなときどんな心の持ち方が必要か、また逆境に陥らないために普段ならどのような心構えが必要かを教えてくれるのが『菜根譚』で、《逆境に立ち向かう古典》だと書かれています。


 ●気になった条

私の気になった条をいくつか紹介しておきましょう。

「君子の心と才知」

君子の心の持ちようは、青天白日のごとく、すべてを他人にさらけ出すようにする。また君子の才能や智恵は、珠玉を包み隠しておくがごとく、他人には容易に知られないようにする。(前集三)
人付き合いでは、心はオープンに、才能はあからさまにしない。

「人生を磨く砥石を」

耳にはいつも聞きづらい忠言や諫言を聞き、心にはいつも受け入れがたいことがあって、それではじめて、道徳に進み、行動をただしくするための砥石となるのである。もし、言葉がすべて耳に心地よく、ことがらがすべて心に快適であれば、それは、この人生を自ら猛毒のなかに埋没させてしまうようなものである。前集五
「良薬は口に苦し」。
自分に厳しく、自己を制御するところに成長がある、というところでしょう。

「一歩を譲る」

世の中を渡っていくのに一歩を譲る気持ちが大切である。一歩を退くのは、のちのち一歩を進めるための伏線となる。人を待遇するのに少し寛大にする心がけが望ましい。他人に利を与えるのは、実は将来自分を利するための土台となる。(前集一七)
「譲り合う心ひとつで事故はゼロ」というところでしょうか。
あるいは、「情けは人のためならず」というところでしょうか。

「方と円の生き方」

治世にあっては四角張って生き、乱世にあっては丸く生き、末の世にあっては、四角と丸の生き方を併用しなければならない。善人を待遇するには寛大に、悪人を待遇するには厳格に、普通の人を待遇するには寛大・厳格を併用するのがよい。(前集五〇)
世の中の状況に合わせて言動を変え、人によっても変える、臨機応変に対応せよと言う。

「徳を養う三つの心がけ」

人の小さな過失を責めたてず、人のプライバシーをあばかず、人の過去の悪事をいつまでも覚えていない。この三つのことを守れば、自分の道徳心を養い、また、危害を遠ざけることができる。(前集一〇五)
湯浅さんの解説
三つのことを守れない人は、他人を許すという道徳心を養うことができず、他人からも、仕返しを受けることとなるのです。》p.103

正にそういうことでしょう。

また、“自身の気を制御せよ”(前集三八)とも言います。
気を平静にしておけば、災難も自分を侵すことがない、と。

前集は、見方によれば功利的な感じもなくもないのですが、一歩を譲るとか控えめにとか、あるいは中庸、分をわきまえるといった道徳的な教訓という傾向があります。
まさに処世の言葉そのもの、と言っていいでしょう。


 ●心に響いた条

次は、一番と言ってもいいほど好きな、心に響いた条を―

「喜びの心」

暴風雨の日には、鳥や獣でさえも悲しそうである。天気晴朗の日には、草木でさえもうれしそうである。これにより、天地に一日も和気がなくてはならず、人の心に一日も喜びの精神がなくてはならないことがわかるのである。(前集六)》p.26

本当に天気がいい日は気持ちもいいものですし、心にもそういう「和気」が欲しいものです。

「長続きする幸せ」

苦しんだり楽しんだりして修練し、その修練をきわめた後に得た幸福であって、はじめて長続きする。疑ったり信じたりして考え抜き、考え抜いた後に得た知識であって、はじめて本物となる。(前集七四)》p.83

苦しんで得た、考え抜いた知識こそ本物だ、というのは実感のある言葉です。

「彼岸に至る」

人生の幸不幸の境目は、みな人の心が作り出すものである。だから釈迦もいう、「利欲に向かう心が強すぎると、さながらそれは燃えさかる炎の海。貪欲に心がおぼれてしますと、さながらそれは苦しみの海。心を少し清浄にすれば、火焔も池となり、はっと目覚めれば、苦界を渡る船も彼岸に至る」と。心持ちが少し異なるだけで、こうも境界が異なってくる。よくよく考えなくてはならない。(後集一〇九)》p.210
人生はすべて、心の持ち方だという。
人生の幸不幸の境界を作り出しているのは、他人や周囲のものごとではない。自分自身の心のあり方である。人は、禍福が外からやってくると思っているかもしれないが、実は、禍福を招いているのは、わが心である。》湯浅邦弘『菜根譚―中国の処世訓』中公新書 p.241

その心ですが、本来は自然なままであれば、もっといいのですよね。

「心に適う」

たまたま気持ちにぴったり合ったところ、それこそが佳境となり、人の手を加えない天然の物であってこそ、真のはたらきが見られる。もしわずかでも人工的な作為を加えれば、趣は減ってしまう。唐の詩人は白楽天も言っている。「心は無事の時が楽しく、風は自然に吹いてくると爽やかである」と。なんと味わいがあることか、この言葉は。(後集八三)》p.203
ありのままをありのままに楽しめれば、本当にいい気分になれるものです。

他にも色々ありますが、きりがないので、今辺で。

 ・・・

再放送ですが、前回の放送は見そびれているので、今回は楽しみにしています。

*他のNHKテレビ「100分 de 名著」の記事:
1 2011年11月放送:2011.10.31
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2 2011年12月放送:2011.12.6
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』悲しみを、乗り越えよ-「100分 de 名著」NHK
3 2012年1月放送:2012.1.5
吉田兼好『徒然草』両面から物事を見よ!-「100分 de 名著」NHK
4 2012年2月放送:2012.1.29
新渡戸稲造『武士道』日本的思考の根源を見る-「100分 de 名著」NHK
5 2012年3月放送:2012.3.6
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6 同:2012.4.2
NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』を見て本を読んで
7 2012年4月放送:2012.4.3
紫式部『源氏物語』NHKテレビ100分de名著
8 2012年5月放送:2012.5.2
確かな場所など、どこにもない―100分 de 名著 カフカ『変身』2012年5月
9 2012年6月放送:2012.6.6
<考える葦>パスカル『パンセ』NHK100分 de 名著2012年6月
10 2012年10月放送:2012.10.2
鴨長明『方丈記』NHK100分 de 名著2012年10月
11 2012年12月放送:2012.12.5
<心で見る努力>サン=テグジュペリ『星の王子さま』NHK100分de名著2012年12月
12 2013年1月放送:2013.1.11
呪文に頼るのもよし?~100分de名著『般若心経』2013年1月
13 2013年2月放送:2013.2.5
待て、そして希望せよ~NHK100分de名著『モンテクリスト伯』2013年2月
14 2013年3月放送:2013.3.28
どんな時も、人生には、意味がある。フランクル『夜と霧』~NHK100分de名著2013年3月(再放送)
15 2013年4月放送:2013.4.11
真面目な私とあなた―夏目漱石『こころ』~NHK100分de名著2013年4月
16 2013年5月放送:2013.5.20
水のように生きる『老子』NHK100分de名著2013年5月
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生きる喜びは、どこにあるのか?『戦争と平和』トルストイ~NHK100分de名著2013年6月
18 2013年7月放送:2013.7.9
哲学とは、愛である『饗宴』プラトン~NHK100分de名著2013年7月
19 2013年11月放送:2013.11.10
「物語」に終わりはない『アラビアンナイト』~NHK100分de名著2013年11月
20 2013年12月放送:2013.12.11
切り離された者たちへ~ドストエフスキー『罪と罰』~NHK100分de名著2013年12月
21 2014年1月放送:2014.1.21
花とは何か~『風姿花伝』世阿弥~NHK100分de名著2014年1月
22 2014年3月放送:2014.3.4
戦わずして勝つ『孫子』~NHK100分de名著2014年3月
23 2014年12月放送:2014.12.3
生きるべきか、死ぬべきか-シェイクスピア『ハムレット』~NHK100分de名著2014年12月
24 2015年4月放送:2015.3.29
自分を救えるのは自分自身である-NHK100分de名著『ブッダ 最期のことば』2015年4月
25 2015年5月放送:2015.5.5
何もないことを遊ぶ『荘子』-NHK100分de名著2015年5月
26 2015年6月放送:2015.6.2
運命と人間―ギリシア悲劇/ソポクレス「オイディプス王」NHK100分de名著2015年6月
27 2015年7月放送:2015.6.30
ラフカディオ・ハーン/小泉八雲『日本の面影』NHK100分de名著2015年7月
28 2015年8月放送:2015.8.5
自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月
29 2015年9月放送:2015.9.1
恋と革命~太陽のように生きる-太宰治『斜陽』NHK100分de名著2015年9月
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2015.09.01

恋と革命~太陽のように生きる-太宰治『斜陽』NHK100分de名著2015年9月

NHK『100分de名著』9月は、名著47「斜陽」太宰治です。

なんと第4回のスペシャル・ゲストに、『火花』で芥川賞を受賞したばかりの太宰好きで有名なお笑い芸人ピース・又吉さんが出演するそうです。
楽しみです。


名著47「斜陽」
第1回 9月2日放送 「母」という名の呪縛
第2回 9月9日放送 かず子の「革命」
第3回 9月16日放送 ぼくたちはみんな「だめんず」だ
第4回 9月23日放送 「太宰治」の中にはすべてが入っている

【ゲスト講師】高橋源一郎…作家、明治学院大学教授。代表作「さようなら、ギャングたち」「優雅で感傷的な日本野球」など。
【朗読】伊勢佳世…俳優。映画「プライド」、ドラマ「チームバチスタ3」等に出演。
【ナレーション】加藤有生子
第4回【スペシャルゲスト】又吉直樹(お笑いタレント)…小説「火花」で第153回芥川賞受賞。

プロデューサーAのおもわく。

番組では、作家・高橋源一郎さんを講師に迎え、「斜陽」を新しい視点から捉えなおし、時代に対する痛烈な批判、既存の価値観にとらわれない新しい生き方など、現代に通じるメッセージを読み解きます。


○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
太宰治『斜陽』 2015年9月
高橋源一郎 NHK出版 (2015/8/22)


(紹介文)
社会を変えるのは、女だ!/「人間は、恋と革命のために生まれてきたのだ」――かず子
「革命」を起こすのは、女だ!/1947年(昭和22年)に発表された『斜陽』は、戦後の混乱期に没落していく貴族階級の一家を描き、爆発的ブームを巻き起こした。既存の親子関係、男女関係が崩れゆくなか、家族は何を頼りに生きたのか──。主人公「かず子」の姿に、現代女性の生き方を探る。


 ●読んでいて腹が立つ

いつも思うのですが、太宰の小説を読んでいると、腹が立ってきます。

ですから、普段は読みません。

昔、一度は読んでおこう、と何作か読んだものでした。

その中では、『斜陽』だけが割といい印象を受けました。
短編では、教科書で読んだ初めて太宰であった「走れメロス」ぐらいでしょうか。

読んでいてこれだけ嫌な気分にさせるというのは、ある意味それだけ人の感情に訴える力がある作家だ、ということなんでしょうけれど。


で、何が腹が立つかです。

男がだらしなさ過ぎて、どうにもやりきれないのです。
もちろん、そういう男もありですし、それはそれでもいいのですが、私の理想とは程遠いものがあります。

まあ、だらしない、頼りない男でもいいのですが、私の思う男像としては真面目であって欲しい、誠実な人間であって欲しいのです。

真面目にやっていてもダメな人ならそれはそれで致し方ないと思うのです。
私自身のように。

でも、その気になればできそうなのにやらない、という態度が腹が立つのです。
最低限度やるべきことはやれよ、とか。
守るべき一線というものがあるだろう、と思うのです。

まあ、自分がダメな男なので、そんな自分の姿を見せつけられるようで、気に入らないのかもしれません。


それに対して女性は、まあ、がんばっているというか、男が頼りない分がんばらざるを得ないと言いますか。
ちょっとどうかと思う女性もいますが。


ちなみに私が好きな作家の例を挙げますと、その一人にディック・フランシスがいます。
彼の小説の主人公は、皆弱さも持っていますが、それを克服しようと努力し、不撓不屈の精神で悪に真っ向から挑んでゆきます。

そういう男らしさに感動し、自分もそうなりたいものだと願うのです。

大衆小説と純文学の違いがありますし、そして読者としては、当然そこに求めるものも異なってはいるのですけれど…。


 ●母は強し

一方、女性の主人公は違います。
単純ですが、母は強し、というのでしょうか。

「ヴィヨンの妻」でもそうです。
ラストで、《「人非人でもいいじゃないの。私たちは、生きていさえすればいいのよ」》と言い切る強さを持っています。


『斜陽』の主人公「かず子」は、太宰の小説の登場人物のなかでは、比較的好きな部類です。

昔読んだときの記憶でも、『人間失格』とかどうにもやるせない小説が多いなか、この作品は、とにかくかず子が子を身籠って生きてゆこうと部分が印象的で、死ぬことばかり考えているような人物が多いなか、光っていたように思います。

私生児と、その母。/けれども私たちは、古い道徳とどこまでも争い、太陽のように生きるつもりです。

斜陽とはいえ、たとえ残照であれ、日の光のなかにいるうちは、希望があるということでしょう。
どのような形であれ、生き残ることを目指す人間は美しい、と私は信じています。

そういう点では、希望の持てる小説ではないでしょうか。


『斜陽』は、太宰版の「桜の園」(チェーホフ)と言われているそうで、そちらも読みました。
「桜の園」は戯曲でコメディ仕立てになっています。
没落する貴族の悲喜劇で、ラスト、新たな生活に希望を抱く無邪気な若い娘と去りがたい年配者のコントラストが面白いお話でした。

それに比較して、『斜陽』の方は、死によって決着をつける人々と、恋とその結果である子供に希望を託すかず子のこれからの生き方に期待感が持てる、弱くとも光を感じさせるラストでした。


私個人としては、やはりこのお母さまが美しく思われます。
貴族らしく美しいけれど、それだけで生きてゆくことは難しいわけで、語り手のかず子との対照は、なかなか印象的なものがあります。

時代とともに死んでいく人と、新時代に新たに生き直そうとする人。

革命という言葉も出て来ますが、私には単なる「母は強し」像に思えて、もう一つ発表当時の受け止め方とは異なってきているのか、という気がします。


 ●太宰治という作家について思うこと

物語における主人公とは、ある目的を持っていて、それを実現する存在です。
実現までの過程に作者の意向が反映されます。

死んで行く人、生き残る人、それら登場人物の姿に作者は何かしら思いを込めているのです。

人は、生まれた限りいつかは死ぬことになります。
途中、病気やケガ等の不慮の事故がない限り、寿命を全うするまで生きてゆくわけです。

多くの宗教は、自ら命を絶つという行為を禁じています。
どのような状況にあっても、神なり天なり仏なり大いなるものを信じて、その生を受け入れるべきだ、と教えています。

しかるに、太宰は、自殺を選びました。
自身の半生を描いた処女作と言われる作品の題名を「思い出」とし、最初の作品集の書名を『晩年』と名付けた太宰は、当初から人生を“早退”する覚悟でいたのでしょうか。

『津軽』の冒頭に、《「正岡子規三十六、尾崎紅葉三十七、斎藤緑雨三十八、国木田独歩三十八、長塚節三十七、芥川龍之介三十六、嘉村礒多三十七」》と作家たちの死んだ年齢を挙げています。
そして《「おれもそろそろ、そのとしだ」》と言います。
のちの行動は確信犯だったということでしょうか。


太宰という人は、破滅型の人生を生きた人ですが、文学者としてはうまいのかなあ、と思います。

自分のような人間が、地方の名家、大地主の家に「津島のオズカス(三男坊や四男坊をいやしめていう津軽地方の言葉)」(『津軽』より)として生まれたことを引け目に感じていたのか。
いかんせん死に取り憑かれていたためか、そういう文学しか残せなかったのが残念です。

「走れメロス」や「駈込み訴え」、あるいは「お伽草子」等の短編は、虚構性ストーリー性も豊かで、非常に楽しめる内容です。
こういうものをもっと書いてゆけば、また違った面を発揮する文学者となっていたのではないでしょうか。


私は、人はまず生き残ること、生き抜くことが一番大切なことだと思っています。
そういう意味で、作家として見たとき、太宰治という人は本当に残念な終わり方をしたものでした。


*以前読んだ本:
・『斜陽』新潮文庫 改版 2003/05

*今回読んだ本:
・『カラー版 日本文学全集34 太宰治』筑摩書房 1968.5.15
―斜陽 人間失格 津軽 思い出 ヴィヨンの妻 他11篇収録。

*『斜陽』を含む文庫本:
太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫 1994/3)
―第1創作集『晩年』(昭和11年刊)から死の直前の「如是我聞」にいたるまで収録。

太宰治全集〈9〉 (ちくま文庫 1989/5)
―最晩年の代表作「斜陽」「人間失格」「桜桃」「グッド・バイ」4等全18篇を収録。

斜陽・人間失格・桜桃・走れメロス 外七篇 (文春文庫 2000/10)
―他に「ヴィヨンの妻」など。年譜(奥野健男)作品解説・作家評伝(臼井吉見)。

*参考:『チェーホフ全集11』チェーホフ/著 松下裕/訳 ちくま文庫 1993.10.21
―かもめ ワーニャおじさん 三人姉妹 煙草の害について 桜の園 収録。


*他のNHKテレビ「100分 de 名著」の記事:
1 2011年11月放送:2011.10.31
アラン『幸福論』喜びは、行動とともにある!
2 2011年12月放送:2011.12.6
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』悲しみを、乗り越えよ-「100分 de 名著」NHK
3 2012年1月放送:2012.1.5
吉田兼好『徒然草』両面から物事を見よ!-「100分 de 名著」NHK
4 2012年2月放送:2012.1.29
新渡戸稲造『武士道』日本的思考の根源を見る-「100分 de 名著」NHK
5 2012年3月放送:2012.3.6
仏教は「心の病院」である!NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』2012年3月
6 同:2012.4.2
NHKテレビ「100分 de 名著」ブッダ『真理のことば』を見て本を読んで
7 2012年4月放送:2012.4.3
紫式部『源氏物語』NHKテレビ100分de名著
8 2012年5月放送:2012.5.2
確かな場所など、どこにもない―100分 de 名著 カフカ『変身』2012年5月
9 2012年6月放送:2012.6.6
<考える葦>パスカル『パンセ』NHK100分 de 名著2012年6月
10 2012年10月放送:2012.10.2
鴨長明『方丈記』NHK100分 de 名著2012年10月
11 2012年12月放送:2012.12.5
<心で見る努力>サン=テグジュペリ『星の王子さま』NHK100分de名著2012年12月
12 2013年1月放送:2013.1.11
呪文に頼るのもよし?~100分de名著『般若心経』2013年1月
13 2013年2月放送:2013.2.5
待て、そして希望せよ~NHK100分de名著『モンテクリスト伯』2013年2月
14 2013年3月放送:2013.3.28
どんな時も、人生には、意味がある。フランクル『夜と霧』~NHK100分de名著2013年3月(再放送)
15 2013年4月放送:2013.4.11
真面目な私とあなた―夏目漱石『こころ』~NHK100分de名著2013年4月
16 2013年5月放送:2013.5.20
水のように生きる『老子』NHK100分de名著2013年5月
17 2013年6月放送:2013.6.5
生きる喜びは、どこにあるのか?『戦争と平和』トルストイ~NHK100分de名著2013年6月
18 2013年7月放送:2013.7.9
哲学とは、愛である『饗宴』プラトン~NHK100分de名著2013年7月
19 2013年11月放送:2013.11.10
「物語」に終わりはない『アラビアンナイト』~NHK100分de名著2013年11月
20 2013年12月放送:2013.12.11
切り離された者たちへ~ドストエフスキー『罪と罰』~NHK100分de名著2013年12月
21 2014年1月放送:2014.1.21
花とは何か~『風姿花伝』世阿弥~NHK100分de名著2014年1月
22 2014年3月放送:2014.3.4
戦わずして勝つ『孫子』~NHK100分de名著2014年3月
23 2014年12月放送:2014.12.3
生きるべきか、死ぬべきか-シェイクスピア『ハムレット』~NHK100分de名著2014年12月
24 2015年4月放送:2015.3.29
自分を救えるのは自分自身である-NHK100分de名著『ブッダ 最期のことば』2015年4月
25 2015年5月放送:2015.5.5
何もないことを遊ぶ『荘子』-NHK100分de名著2015年5月
26 2015年6月放送:2015.6.2
運命と人間―ギリシア悲劇/ソポクレス「オイディプス王」NHK100分de名著2015年6月
27 2015年7月放送:2015.6.30
ラフカディオ・ハーン/小泉八雲『日本の面影』NHK100分de名著2015年7月
28 2015年8月放送:2015.8.5
自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月

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2015.08.05

自然淘汰による進化「生命の樹」-ダーウィン『種の起源』NHK100分de名著2015年8月

NHK『100分de名著』8月は、名著46「ダーウィン種の起源」です。

プロデューサーAのおもわく。

ダーウィンが「種の起源」によって解き明かした自然のあり方を解説しながら、【生き物たちの驚異】【生命の素晴らしさ】【科学的な発見の面白さ】などを考えていきます。

第1回 8月5日放送 「種」とは何か?
ダーウィンが既存の世界観にどう挑んでいったかを明らかにしながら、「種の起源」で説かれる進化論の発想の原点に迫っていく。
第2回 8月12日放送 進化の原動力を解き明かす
「進化論」の基本概念をわかりやすく解説することで、生命の不思議さや驚異、そのあり方を科学的に解明することの意味を考えていく。
第3回 8月19日放送 「不都合な真実」から目をそらさない
反論に対するダーウィンの回答をつぶさにみていくことで、科学的思考の面白さ、大切さを学んでいく。
第4回 8月26日放送 進化論の「今」と「未来」 「進化論」にまつわる数々の誤解を解くとともに、現代の人間観にとって「進化論」がどのような意味をもっているかを解き明かしていく。

【ゲスト講師】長谷川眞理子(総合研究大学院大学教授)…行動生態学者・進化生物学者。ダーウィンや進化論に関する著書多数。
【ダーウィンの声】水島裕(声優)…代表作「一球さん」真田一球役、「銀河英雄伝説」ナイトハルト・ミュラー役。
【ナレーション】墨屋那津子

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
ダーウィン『種の起源』 2015年8月
長谷川 眞理子 NHK出版 (2015/7/25)


(紹介文)
キリスト教的世界観が強固だった時代に、「種」とは共通の祖先から分岐してきたとし、「自然淘汰によって生物は進化する」という画期的な理論を打ち立てたダーウィン。/すべての生物が「生命の樹」という連鎖でつながっているとする、ダーウィンの生命観・自然観を見つめ直す。
命はつながっている
進化とは、進歩ではない。/多様性を生んだドラマである。


『種の起源』"On the Origin of Species"(1859)チャールズ・ダーウィン/著
(正式な書名)
ON THE ORIGIN OF SPECIES BY MEANS OF NATURAL SELECTION, OR THE PRESERVATION OF FAVOURED RACES IN THE STRUGGLE FOR LIFE
『自然淘汰による種の起源―生存闘争における有利な品種の保存』


『種の起源』[上下] 渡辺政隆/訳 光文社古典新訳文庫(2009)
―「初版」の比較的読みやすい新訳。


*【講師・長谷川眞理子のダーウィン&『種の起源』関連書】:
『名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』』ジャネット・ブラウン/著 長谷川眞理子/訳 ポプラ社 2007/9
―ダーウィンの伝記の著者であるブラウンが『種の起源』の誕生の経緯から出版当時の社会の反響、その後の評価等を解き明かした小著を長谷川眞理子さんが翻訳した。

『ダーウィンの足跡を訪ねて』長谷川眞理子/著 集英社新書 2006/8/12
―長谷川さんがダーウィンの関連の地を実際に訪ねた記録。


『ダーウィン著作集 1 人間の進化と性淘汰 1』長谷川真理子/訳 文一総合出版(1999)
―人間の進化についての著作「人間の由来」の翻訳。


『ダーウィン著作集 2 人間の進化と性淘汰 2』長谷川真理子/訳 文一総合出版(2000) 
『ダーウィン著作集 別巻1 現代によみがえるダーウィン』長谷川真理子、三中信宏、矢原徹一/著 文一総合出版(1999)
―鼎談・なぜダーウィンを読むのか 現代に生きるダーウィン ダーウィンとナチュラル・ヒストリー ダーウィンの性淘汰の理論とヒトの本性 『ダーウィン著作集』編集委員による解説。

*メルマガ『レフティやすおの楽しい読書』
2010(平成22)年4月30号(No.33)-100430- ダーウィン『種の起源』―進化理論を確立   
http://archive.mag2.com/0000257388/20100430074000000.html 

↑の文章を基に、加筆しています。


 ●『種の起源』とダーウィンの進化論について

『種の起源』初版発行から150年後の2009年に出版された新訳版の訳者・渡辺政隆さんは、その解説にこう書いています。

生物の進化は、地球の長い歴史のなかで一回しか起こらなかった物語である。... ダーウィンは、仮説を構築し、傍証を積み上げるという歴史科学の方法を確立することで進化学を科学にした。... 》渡辺政隆「本書を読むために」P.416-417より(『種の起源(上)』ダーウィン/著 渡辺政隆/訳 光文社古典新訳文庫)
 
... 進化学はすべての生物学の根幹をなしている。そしてそのすべてのルーツは『種の起源』初版にある。その端緒を開いたダーウィンの偉業は、ますます評価が高まることはあっても忘れ去られることは決してない。つまり『種の起源』を読まずして生命を語ることはできないのだ。》同 P.422-423より

--
『種の起源』は、初めに、栽培植物・飼育動物における人為的な品種改良から説き起こし、自然状況下における動植物の「変化をともなう由来」
(ダーウィンの用語。当時は「進化」evolutionという言葉はまだ使われておらず「変成」と呼ばれていた。)
について解説してゆく。

進化のメカニズムである「自然淘汰」について述べたのち、この学説の難点を自ら検証してゆく。

遺伝の法則も、地球の歴史も科学的に解明されていない中では、思弁にすぎないともいうべき「自然淘汰」説という自説を、
これでもかとばかりに、自身が世界中のナチュラリストの応援をもとに収集した様々なデータで持って実証しようと試みる。
--

講師である長谷川眞理子さんの訳書の序文では、こう書いています。

... パズル全体の完成予想図を最初に示したのがダーウィンであり、『種の起源』は、いくつもの図柄をつなぎ合わせ、全体としてはこういうものが見えてくる、ということを、論理的に、実証的に積み上げているのである。/... パズルの全体像として、ダーウィンが描けなかった部分も、もちろんある。それでも、これだけ大きな視野を持って生物学の諸現象をつなぎ合わせようとした人物の書物には、数々の興味深い指摘が隠されているのである。》長谷川 眞理子「はじめに」p.4-5より(『名著誕生2 ダーウィンの『種の起源』』ジャネット・ブラウン/著 ポプラ社)

再び渡辺さんの言葉を紹介しますと、

... ダーウィンはじつに多角的な視点から自説の論証を行なっていることがわかる。しかもそれぞれの視点は、『種の起源』出版からおよそ一〇〇年後に、進化の総合説として統合された諸分野をほぼ網羅していることがわかる。本書『種の起源』は、いうなれば透徹した頭脳の持ち主ダーウィンが認めた「預言の書」なのだ。... 》渡辺政隆「下巻のための訳者まえがき」p.12-3(『種の起源(下)』光文社古典新訳文庫)

巻末に、最終章で「異論の要約」がまとめられています。
このように、ダーウィンは非常に用意周到です。

科学者の態度と言えばそれまでなのでしょうけれど。

結論としてダーウィンは書いています。

種の起源に関して本書で述べた見解もしくはそれに類似した見解が一般に受け入れられれば、自然史学に相当規模の革命が起きるだろうとおぼろげながら予測できる。... 》同書「第14章 要約と結論」p.395

それだけの自信を持って書いているということなのでしょう。


 ●「私はそう確信している。」

--
本書のなかで、ダーウィンは、たびたび一つの言葉を使っています。
それは、「私はそう確信している。」という言葉です。

『種の起源』序文「はじめに」をこう締めくくっています。

「自然淘汰」は生物種に変更をもたらす、唯一ではないが主要な手段である。私はそう確信している。》(上記『種の起源(上)』p.23より)

最初にアイデアを得てから20年以上にわたって公開することなく、自らの中で育ててきた進化理論。

しかし、それは当時の社会にあっては必ずしも受け入れられないものであったのです。
なぜならダーウィンの説は、当時、キリスト教神学によって人間と他の動物の間にあるとされていた厳然とした隔たりをなくすものだったからです。

 ヒトの先祖はサルである、サルが進化したものがヒトである

といった誤解を与えかねないものだったからです。(正しくは、ヒトとサルは共通の祖先を持つ、ということ。)
それを発表するにあたって、彼がどのような気持ちでいたかが、この言葉に象徴されているように思うのです。

世間が何をどう言おうと、受け入れようと拒否しようと、自然淘汰による進化が現在の生物をつくったのだ、と「私はそう確信している。」
―と。
--


 ●「生命の樹」

ダーウィンは『種の起源』の第4章に「生命の樹」と呼ばれる図を挙げている。
縦軸に地質年代を置き、下から順に古代から現代へ、横軸に各属から枝分かれした種を示す。
それぞれの属の共通祖先からいくつかの種に枝分かれしてゆく姿がえがかれ、いくつかの種は絶滅し、縦軸の途中で消えてゆく。
生き延びた枝からまたいくつかの種が枝分かれして、現代に到達する。

自然淘汰説によれば、現存するすべての種は、各々の属の祖先種と連鎖している。... そうやって遡っていくと、それぞれの大きな綱の共通祖先へと収束していくはずである。すると結果的に、すべての現存種と絶滅種のあいだをつなぐ中間的で移行的な環の数は、とてつもない数でなければならないことになる。しかしこの学説が正しいとしたら、間違いなくそれだけの数の生物がこの地上に生息してきたのである。》『種の起源(下)』「第9章 地質学的証拠の不完全さについて」p.77 より

それらはまさに、
... 一本の幹から伸びた枝が分枝を繰り返していって、枝を広げた大木になるようなものである。》同書「第10章 生物の地質学的変遷について」p.133 より
 
「自然淘汰」による進化とは、「生存闘争」に有利な種が生き延びてゆく、という「自然淘汰の作用による変化を伴う由来」という学説で説明できるものだ、と言うのです。
自然淘汰説が基盤としている考え方は単純である。個々の新しい変種、最終的には個々の新種が生み出され維持されるのは、競争相手となる種類よりも何らかの利点を有しているからである。一方、そうした利点のない種類は、ほぼ必然的に絶滅することになる。これが基本的な考え方なのだ。... 》同書「第10章 生物の地質学的変遷について」p.137 より


 ●サル

宗教的な争いが起こったとき、ヨーロッパ人がキリスト教の教えを受け入れ、特別な存在としての人間を受け入れる見方を取るのは、ヨーロッパにはサルがいなかったからではないか、という解釈もあるようです。
四足獣と人間のあいだを埋める存在としてサルがあると考えれば、そういう見方も納得できます。
特に、日常的にサルを目にしている(たとえばわれわれ日本)人のような立場から言えば。

古典新訳文庫版『種の起源(下)』の「訳者あとがき」で、渡辺さんが書いていますが、日本では進化論に対する違和感が少ないのは、

キリスト教原理主義の力が弱いこと。輪廻転生を唱える仏教の影響や、八百万の神を讃えるアニミズム的な宗教観が深く根付いていること。猿がいつも身近にいて、親近感があったこと(サルが生息していない土地に住むに住むヨーロッパ人にとって、サル、それも大型類人猿との最初の出会いは衝撃的だったはずだ)。明治の文明開化、富国強兵策に、進化論、それも特に社会進化論が合致したこと等々。》p.431-2

しかし日本では、進化論が正しく理解されているとは言えないと渡辺さんは続けて書いています。

まあ、今回、この「100分de名著」を通して、理解が進めば、という気がします。

また、科学の見方・考え方というものも改めて見つめ直したいものです。


*その他の参考文献:
『ビーグル号世界周航記 ダーウィンは何をみたか』荒川秀俊/訳 講談学術文庫(2010)
―ダーウィンが進化論にたどり着くヒントを得た航海の記録。細密な銅版画でみせる、学生向け『航海記』のエッセンス。

『ダーウィン『種の起源』を読む』北村雄一/著 化学同人(2009)
―『種の起源』を読み解く科学ジャーナリストによる入門書。

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