2008.06.19

文豪スティーヴンスンの大人のミステリ

久しぶりに本の話題でも。

新訳版が出版されたり、今年から始めました月刊メルマガ「レフティやすおの楽しい読書」で、青春時代からのお気に入りの愛読書の一つ『宝島』を取り上げることもあり(今月末発行予定の「レフティやすおの楽しい読書」第7号、登録は↓、もしくはサイドバーから→)、スティーヴンスンの本を、新訳による再読も含めていくつか読んでみました。

海洋冒険もの『宝島』や善悪二重人格を扱った『ジーキル博士とハイド氏』の二作が特に有名ですので、エンターテインメント系の作家と言う認識をお持ちの方が多いだろうと思います。

J・D・カーも絶賛するという、奇妙な発端が読ませるロンドン冒険奇談の連作短編集『新アラビア夜話』も書いています。

まさにそういう面を持つ人です。
ただそれは、一つはお金が必要であったことも理由としてあるようですが…。

で今回紹介しますのは、『宝島』創作のきっかけを作った張本人でもある義理の息子ロイド・オズボーンとの合作ミステリ二点です。

これらの作品は、今様のジェットコースター風のストーリイ展開のものや、現代社会を反映したらしいやたら人間の暗い面ばかり強調する心理的な“現代ミステリ”とは一味も二味も違った、まさに大人の読み物、芳醇なミステリ、もしくはミステリの源流、あるいは究極のミステリといえる物語です。


●その一、
『箱ちがい』国書刊行会 ミステリーの本棚(2000)
The Wrong Box(1889)

『宝島』創作のきっかけとなった義理の息子との最初の共作。
生き残った最後の一人が保険金を独り占めするという組合年金に入っている伯父を持つ従兄弟兄弟は、伯父が事故死したとカン違い、その死体をかくそうとするが…。
死体があちこちするストーリイも滑稽な登場人物たちもそれぞれに愉快で、見事なドタバタ・コメディです。
死体隠蔽と保険金詐欺が絡んでいる点では犯罪小説で、ミステリといえます。
しかし、実際には特に誰がどうなるというわけでもなく、(まあ実害がなかったとはいえませんが)奇妙な、ミステリともいえないミステリです。
さすがは文豪、序文にもあるように親バカでなく、息子の用意したらしいストーリイは設定も意外性に満ちています。その上にしっかりと肉付けを行い、楽しめる作品に仕上げ、見事な合作になっています。


●その二、
『難破船』駒月雅子/訳 ハヤカワ・ミステリ1771(2005)
The Wrecker(1992) 

継子との合作第二弾長編。芸術家気質のアメリカ人青年はパリに出て芸術家を目指すが、父の死で仕送りが止まる。幸いなことに、一足先に芸術をあきらめてアメリカに帰国後、実業家となっていた親友の助けを受け、共同経営者として実業界に乗り出す。あるとき難破船の競売情報を得るが、法外な値がつき、アヘンの密輸船と読んだ二人は、これを競り落とし、いざ難破船回収に赴くが、そこには意外な難破船の謎が待っていた…。
さすがに文豪の晩年の作品で、キャッチコピーに<大人版『宝島』>とありますが、単なる絵空事の謎解き小説に終わらないように、登場人物たちの背景をじっくり書き込んだ大人の読み物―芳醇なミステリに仕上がっています。
巻末エピローグにこの作品の成立までの経緯やその形式についてなど解説されているのですが、そこに書かれているように、十分に練られた主人公たちの生い立ちなどの背景がじっくりと書き込まれ、味わい深い作品になっています。

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2007.08.24

ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫

Jvkaiteinimanri
思わず買ってしまいました。
この本『海底二万里』の文庫本は三冊目(正確に言うと、三種類目というべきか)です。

最初は、集英社文庫<ジュール・ヴェルヌ・コレクション>の一冊、次が二年ほど前に買った角川文庫クラシックス版『海底二万海里』

角川文庫版は昔、兄が持ってた本で、読みかけたけれど、いろんな魚の種類や何やかやがむずかしく感じて読み通せなかった、悲しい思い出があります。
当時は、400ページを越えると読むのがしんどいと感じていた、情けない時代でした。
でもそんな中でも、ヴェルヌの本だけは読んでいたのに…。

この角川本をあえてまた買ったのは、原書の挿絵が数葉ながら収録されていたから。
縮刷されていてあまり良い印刷でもなく、不鮮明だったりするのですが、ないよりましということで。

集英社版には挿絵は一切ありません。
元版の<ヴェルヌ全集>には、日本人画家の挿絵が入っていたはずなのですが…。

今回この岩波文庫版を見つけて思わず買ってしまったのは、先に出ている『地底旅行』『八十日間世界一周』の二作品(もちろん私のジュール・ヴェルヌ文庫本コレクション?に入っています。)同様、原書の挿絵がかなり豊富に収録されているからです。

原書の挿絵が欲しいのなら、お子様向けの偕成社文庫版(全3巻)では、原書の挿絵をすべて収録していたはず。
こっちは判形も文庫本より大きく、その分、絵も見やすい。

ただ、私の場合は置き場所の問題もあり、こちらは買えません(残念!)。


この本、今回は上巻のみの発行で、下巻の発売はいつになるか、岩波のサイトでも不明。

来月期待しています。

とにかくそれまではペラペラ挿絵でも見ながらのお楽しみです。

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岩波書店
>今月の新刊一覧

海底二万里(上)
ジュール・ヴェルヌ 作
朝比奈 美知子 訳
岩波文庫
フランス文学[赤]
■赤569-4
■体裁=文庫判・並製・カバー・300頁
■定価 840円(本体 800円 + 税5%)
■2007年8月17日
■ISBN978-4-00-325694-7

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2007.07.22

異色作家短篇集(新装版)20 エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇

異色作家短篇集(新装版)第18巻『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』異色作家短篇集(新装版)19『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』に引き続き、

早川書房/刊 異色作家短篇集(新装版)第20巻 若島正/編『エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇』を読みました。

異色作家短篇集の掉尾を飾るオリジナル・アンソロジー三巻の第三弾、いよいよ最終巻になりました。米英をのぞく、世界中から集めた作品十一篇を収録

ハヤカワ・オンラインのページによると、以下のようになります。

地球は広い まだまだ続く 不思議な国への長い旅

世界には数多の異色作家が存在する。フランス、イタリアなどの西欧勢から、東欧、ラテン・アメリカ、さらには台湾やエジプトに至るまで、世界の鬼才が集う全十一篇で異色作家短篇集の有終を飾る。

【収録作品】容疑者不明(ナギーブ・マフフーズ)/奇妙な考古学(ヨゼフ・シュクヴォレツキー)/トリニティ・カレッジに逃げた猫(ロバートソン・デイヴィス)/オレンジ・ブランデーをつくる男たち(オラシオ・キローガ)/トロイの馬(レイモン・クノー)/死んだバイオリン弾き(アイザック・バシェヴィス・シンガー)/ジョヴァンニとその妻(トンマーゾ・ランドルフィ)/セクシードール(リー・アン)/金歯(ジャン・レイ)/誕生祝い(エリック・マコーマック)/エソルド座の怪人(G・カブレラ=インファンテ)


いやあ、やはり世界は広い、を痛感させられました。

18巻『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』、19巻『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』は、知った作家がずらっと並んでいて、たとえ一作二作でも既読の作家たちが大半でした。

さすがにこちらは違います。
知った人すらほとんどいない。
かすかに読んでるのが、クノーとレイぐらいか。

浅学ゆえに、二人のノーベル賞作家すら名前も知らない有様。
(一人は、ナギーブ・マフフーズ―1988年アラビア語圏初のノーべル賞受賞。二人目は1978年受賞アイザック・バシェヴィス・シンガー。)

こういうアンソロジーを読むことの利点の一つは、知らない作家に触れ、読書の間口を広げるきっかけを作れるところでしょう。

そういう意味では非常にうれしい一冊です。

全体の感じからいうと、ユーモアものが多いのかな、という気がしました。
ユーモアといっても、健全な、単純な笑いを誘うものばかりとは限りません…。


さて、私のベストは―

チェコ生まれでカナダに亡命したという、ヨゼフ・シュクヴォレツキーの「奇妙な考古学」
まあ、本格的なミステリ(本格もの、のではない!)ですが、チェコを舞台にした、ブルーフカ警部補のシリーズ作品。
かつて自分が手がけた事件を再捜査することになるが…。
考古学者が掘り出した殺人事件がからんでくるところが、面白い。

次は、やはり、ノーベル賞作家は違うのか?(というわけでもないのですが。)
ポーランド生まれでアメリカに移住した、アイザック・バシェヴィス・シンガー「死んだバイオリン弾き」
ポーランドのユダヤ教徒の娘に取り付いた死霊とその退治の物語だが、こういう土俗的?な感じがいい。

ここまでは比較的長めの短篇(中篇)がいい。


で、もう一つの中篇が、表題作の「エソルドの怪人」。

これが、編者の書いているように、映画狂の作者による<怪作>。
しかし、当方『オペラ座の怪人』も未読未見、『ファントム・オブ・パラダイス』も未見では、意味不明もいたしかたなし、か。
しゃれが多くて、よく訳したな、というのが唯一の感想といったところ。

私のベストの三番目を選ぶなら、これではなく、
トンマーゾ・ランドルフィ「ジョヴァンニとその妻」当たりか。
天才的な<音痴>夫婦のお話。

あと、アイデア的には、エリック・マコーマック「誕生祝い」か。

ほかに、フランケンシュタインを下敷きにしたユーモアSF「トリニティ・カレッジに逃げた猫」、奇人たちのお話「オレンジ・ブランデーをつくる男たち」、死体の金歯をいただく盗人のお話「金歯」なども、それぞれにおもしろく読みました。


昨今、海外ミステリの翻訳が盛んではありますが、これをきっかけに、英米に偏らず広く世界中の名作を掘り起こして紹介していただきたいものです。

私もこれを機に、もっと多くの様々な国々の色々な作家に触れてみようと思いました。


最後に、風見賢二の巻末解説「ぼくはこれで柔らか頭になりました」を楽しく読みました。

ほぼ同年代らしく、同じような本を読んできました。
私は風間氏とは違い、元々エンタメ系の読者でしたので、始めっからこういう本を読んできました。

最近は、かなり読む本も変わってきています。
今回いくつかの再刊されたものを読んでみても、面白いと感じるものも変わってきてはいるようです。

それでも、やはりこの異色作家短篇集的な作品が、自分にとって一番楽しめます。


他社の同様な、異色作家短篇集的な作品集も幾つか読んできました。

幸い私のようなオールド・ファンだけでなく、若い人たちの間でも、それなりに読まれているようです。

これからもこういう傾向の作品が継続的に紹介してもらえればいいのになあ、と願っています。



異色作家短篇集 新装版 20
エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇
The Phantom of the Essold and Other Stories
若島 正(編)
早川書房 2007.3.23刊

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2007.07.13

異色作家短篇集(新装版)19 棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇

異色作家短篇集(新装版)第18巻『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』に引き続き、

早川書房/刊 異色作家短篇集(新装版)第19巻 若島正/編『棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇』を読みました。

異色作家短篇集の掉尾を飾るオリジナル・アンソロジー三巻の第二弾、イギリス(アイルランドを含む)作家の作品十三篇を収録

ハヤカワ・オンラインのページによると、以下のようになります。

「ここに、そこに、あそこにも 隠れているぞ 目には見えない影法師」

【収録作品】時間の縫い目(ジョン・ウインダム)/水よりも濃し(ジェラルド・カーシュ)/煙をあげる脚(ジョン・メトカーフ)/ペトロネラ・パン--幻想物語(ジョン・キア・クロス)/白猫(ヒュー・ウォルポール)/顔(L・P・ハートリー)/何と冷たい小さな君の手よ(ロバート・エイクマン)/虎(A・E・コッパード)/壁(ウィリアム・サンソム)棄ててきた女(ミュリエル・スパーク)/テーブル(ウィリアム・トレヴァー)/詩神(アントニイ・バージェス)/パラダイス・ビーチ(リチャード・カウパー)


前巻のアメリカ篇とはかなり趣が変わっています。
前巻は、SF系のエンターテイメントが中心でした。

今回は、いかにもイギリスの怪奇幻想談といった雰囲気の小説が多くを占めています。

それにしても、前巻は、20~25年ぐらい昔を思い起こすラインナップでした。

今回は、もう少し遡って、25~30年、あるいは35年前の一般向けの本を読み始めた当時を思い出させるようなラインナップがそろっています。

ミステリマガジンやSFマガジン、創元推理文庫のアンソロジーなどで一作二作読んだような作家が並んでいます。

ウインダム(唯一?のSF系の作家によるSFですが)を筆頭に、カーシュ(この人だけは最近短編集を読みましたが)、メトカーフ、ウォルポール、ハートリー、エイクマン、コッパード、スパーク、バージェス。

ジョン・キア・クロス、ウィリアム・サンソム、ウィリアム・トレヴァーの三人が初顔でしょうか。


では、私のベストを紹介しましょう。

一番は、なんといっても表題作でもある、ミュリエル・スパーク「棄ててきた女」

短いけれど、こういうのはいいですね。
(でも、ホントに本邦初訳? どっかでこういうものを読んだような気もしますが…。)

この作家はなかなか興味深いものを書いていました。

記憶によれば、「落葉掃き」という作品がありました。

調べてみますと(ベッドの下這いずって探すの大変なんだから! 一部ネット翻訳アンソロジー/雑誌リスト:雑誌一覧:ミステリマガジン/EQMMによる。)、
The Leaf-Sweeper、『ミステリマガジン』1971年6月号や、角川文庫版の『クリスマス・ストーリー集1/贈り物』に収録されています。(二冊とも手元にあるにはあるんですが…。)

昔のノートを紐解きますと、私の71年度の『ミステリマガジン』掲載短編の<年間ベスト12>の7位に選んでいます。
(こんな遊びしてたんですね。ちなみに、1・エリン「画商の女」2・ラファティ「恐るべき子供たち」3・ラニアン「プリンセス・オハラ」4・フィニイ「ゲイルズバーグ...」5・ジャクスン「家じゅうが...」―みんな懐かしいですね。不思議と異色作家系が上位に入ってますね。本格的なミステリがない?)


次は、時間(異次元?)SFだけれど、シェイクスピアは本当にあのような名作群を一人で書いたのか、という謎に挑む、アントニイ・バージェスの「詩神」を興味深く読みました。

三番目は、同じく時間SFのジョン・ウインダム「時間の縫い目」
ちょっと平凡な選択になりますが。昔懐かしいほのぼの系です。

意外なところでは、消防士経験を生かしたウィリアム・サンソム「壁」
どうってことはないのですが、こういうところに混じっていると、おもしろく感じます。


本格的な怪談物は、それなりに面白いのですが、これはすごい! というレベルまでは…。
また、普通小説風の奇談?も、それなりにいいのですが、もう一つ突き抜けたものを感じません。

微妙に読み方・感じ方が昔と変わってきているような気がします。

ラストの(もろにSFミステリ系の)、リチャード・カウパー「パラダイス・ビーチ」がそこそこおもしろいと感じるのは、ちょっと自分としては許しがたいような気もしています。

怪奇小説は、昔はもっとおどろおどろしいもの、出るぞ出るぞ的なものが好きだったはずなのですが…。
でも、そういう作品は、異色作家短篇集のイメージとは違うからでしょうか。

これでいいのかなあ。


異色作家短篇集 新装版 19
棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇
The Girl I Left Behind Me and Other Stories
若島 正(編)
早川書房 2007.3.23刊

●2007.07.22 異色作家短篇集(新装版)20 エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇

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2007.06.21

異色作家短篇集(新装版)18 狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇

久しぶりに本の話題です。

早川書房/刊 異色作家短篇集(新装版)第18巻 若島正/編『狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇』を読みました。

異色作家短篇集の掉尾を飾るオリジナル・アンソロジー三巻の第一弾、アメリカ作家の作品十一篇を収録

ハヤカワ・オンラインのページによると、以下のようになります。

「11人がやって来て 大風呂敷を広げてみれば 煌めく才気が目を射抜く」

【収録作品】
ジェフを探して(フリッツ・ライバー)/貯金箱の殺人(ジャック・リッチー)/鶏占い師(チャールズ・ウィルフォード)/どんぞこ列車(ハーラン・エリスン)/ベビーシッター(ロバート・クーヴァー)/象が列車に体当たり(ウィリアム・コツウィンクル)/スカット・ファーカスと魔性のマライア(ジーン・シェパード)/浜辺にて(R・A・ラファティ)/他の惑星にも死は存在するのか?(ジョン・スラデック)/狼の一族(トーマス・M・ディッシュ)/眠れる美女ポリー・チャームズ(アヴラム・デイヴィッドスン)

で、読後の感想です。

まずは、予想以上のでき。
本邦初訳作品を集めてということで、どの程度過去のこのシリーズの雰囲気に溶け込めるのかという不安もありました。
その点ではよくできています。

(雑誌に埋もれた旧作を使って掘り出し物をそろえる選集を期待していた部分もあるのですが。)

序盤、50年代風のホラーやクライム・ストーリイなどでその気にさせて、
(「どんぞこ列車」で、オッチャンをちょっとほろっとさせたり)
実験小説風があったりしながら、中盤で一発食らわし、SF風で攪乱させた上で、ラスト二編で締める感じです。


私のお気に入りは、

本邦初紹介だろうという作家、ジーン・シェパードの「スカット・ファーカスと魔性のマライア」(浅倉久志/訳)
少年時代+魔法のお店ものの一篇というところか。

いかにも怪しい婆さんの言葉―
 <「じゃ、幸運を祈るよ、坊や。気をつけな、そいつは性悪女だからね」>
お決まりのラスト―
 <それからもしばらくのあいだ、私は捜索をつづけた。だが、あの店は二度と見つからなかった。>

二番目は、
巻末のアヴラム・デイヴィッドスン「眠れる美女ポリー・チャームズ」(古屋美登利/訳)

架空の王国を舞台にした、エステルハージ博士の連作シリーズの一篇という。
雰囲気も気に入りました。もう少し読んでみたいシリーズです。

見世物の眠れる美女もの。
ラストのオチがなくても私は十分楽しめました。
 <「こうして、いかに速く神話が作られ、伝説が始まっていくことか……ああ! まさか!」>
ポーの「ヴァルドマアル氏の病床の真相」などを引っ張り出したり、小細工も楽しめます。


三番目は、むずかしい。
表題作(トーマス・M・ディッシュ「狼の一族」)もいいですし、チャールズ・ウィルフォードの「鶏占い師」も、私はどっちかというと怪奇派で、こういう持って行きかたも好きです。
ジャック・リッチー「貯金箱の殺人」も、いかにも彼らしいという気がします。
ついでに、ハーラン・エリスン「どんぞこ列車」も付け加えておきましょうか。


三巻にわたる新アンソロジーの開幕第一弾だったのですが、エンタテイメント系で固めた感じのこのアメリカ篇、比較的知った名前が多く、まずは無難にスタートというところでしょうか。
次に期待が持てました。


異色作家短篇集 新装版 18
狼の一族 アンソロジー/アメリカ篇
His own Kind and Other Stories
若島 正(編)
早川書房 2007.1.24刊

●2007.7.13 異色作家短篇集(新装版)19 棄ててきた女 アンソロジー/イギリス篇
●2007.7.22 異色作家短篇集(新装版)20 エソルド座の怪人 アンソロジー/世界篇

書籍・雑誌, 海外ミステリ | | Comments (0) | TrackBack (0)

2006.02.26

クリストファー・プリースト『魔法』

爆弾テロに巻き込まれ負傷した報道写真家リチャード・グレイは、リハビリ中。記憶喪失に陥り、事故以前数週間の記憶がない。そこへスーザンという元ガールフレンドという人物が現れる。
彼は恋におち、彼女との会話と催眠療法のおかげで、徐々に記憶を取り戻すのだが…。

スーザンをめぐる奇妙な三角関係の物語の行く末は…?

クリストファー・プリースト『魔法』古沢嘉通訳 ハヤカワ文庫FT(FT378) 2004(平成16)
1995年刊早川書房<夢の文学館>の文庫化(訳文改稿) 原著1984,85年刊(85年再版による訳書)

まさに魔法の物語。
一転二転する物語における真実とは…。

とにかく読んでください。としか言えない。
ストーリイを紹介することはたやすいのだが、それでは多分何も伝わらないと思う。

第一部から第六部まで記述の視点となる人称を変え、この不思議な物語は語られる。
リチャードの視点から見た物語、スーザンの視点からの物語、三人称で語られる章…。
どれが真実の姿を映しているのか、まさに魔法の雲に包まれたようなストーリイである。

書名である「glamour(グラマー)」という言葉に多くの意味が込められている、という訳者と解説の法月綸太郎各氏のお話の通りであろう。

ジャンル的には、SFともファンタジーともメタ・フィクションとも言えそうで、記憶喪失を扱ったミステリとも言える。まあ、無難にいえば奇想小説と呼ぶのが一番ふさわしいのかもしれない。

とにかく、おもしろかった。

次はいよいよ、評判になった『奇術師』を読んでみよう!

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2006.01.06

"不動にされた男"リンカーン・ライム―『魔術師』

ジェフリー・ディーヴァー『魔術師(イリュージョニスト)』The Vanished Man(2003) 池田真紀子訳 文藝春秋(2004.10)
現代の安楽椅子探偵、ニューヨーク市警捜査顧問、犯罪学者リンカーン・ライム(&アメリア・サックス)シリーズ第五作

今回は「デヴィッド・カッパーフィールドとハンニバル・レクターを合わせたような」犯人、イリュージョニスト"マレリック"との頭脳対決。 

次々とマジックの出し物に見立てた連続殺人が発生する。
ライムとアメリアはこの事件に取り組む。マジックやイリュージョンに関する情報を求めて、ひとりのイリュージョニストの卵、カーラに協力を依頼する。

そうそうにライムは次なる犯行を予知し、アメリアは犯人を追い詰める。が、今一歩のところで逃げられる。

そして大胆にも犯人はライムを襲撃する。
この危機を脱したライムたちは、ついに犯人の名前にたどりつき、犯人の狙いが逮捕された極右武装組織の指導者の脱走に関わることであると知るが…。


脱出王と呼ばれた稀代のマジシャン、ハリー・フーディーニに魅せられた男、事故で妻を亡くし、やけどを負い、イリュージョニストとしての生命を絶たれた、損傷した左手を持つ男ウィアーは、復讐の炎を燃やす。

犯人は幾度も窮地に陥りながらも、慎重に準備をされた何重にも仕組まれたトリックにより、警察の手を逃れる。しかも本当の狙いがライムにもわからない。…


毎度のことながら、安楽椅子探偵としての頭脳比べとしての本格謎解きの醍醐味と、この辺のジェット・コースター・サスペンスには振り回される。でも一気に読んでしまう。二段組五百ページを越す分厚い本がまったく負担にならない。

『コフィン・ダンサー』に並ぶの凄腕の悪役の登場で、物語はいやがうえにも盛り上がる。ディーヴァーお得意の大どんでん返しのイリュージョンも大いに冴え渡る。シリーズ屈指のできばえであろう。

しかも人間ドラマとしてもアメリアとカーラの抱える女性問題、カーラの弟子と師匠の人間関係、ライムと犯人とのやり取りなどなど、多彩な人生模様を見せてくれる。
カーラが師匠のもとを去るシーンも記憶に残る。

 ・・・

―左利きの視点から―

左手の薬指と小指がくっついてひとつになったという特徴を持つ犯人、それはまさしくハンニバル・レクターを意識している。
そして、首から下は左手の薬指を動かすことしかできないライムと対比させている。

私はひそかにライムを「左利き(左手使い)の名探偵」のひとりに上げているのだが、ハンニバル、そしてこのウィアーは左手に特徴のある犯人ということになる。


今回このミステリの軸となっているマジックにおける「効果(エフェクト)」―観客の目に映るもの―と「手段(メソッド)」―陰で行われている演者の仕掛け―とは、いいかえれば「見かけ」と「本質」だ。

利き手・利き側というものも、「見かけ」―実際に使っている手・側―と「本質」―その人が持っている潜在的な資質―とに分けて考えるべきだ。

右手を使っていてもそれは「見かけ」にすぎず、本当は(その人の「本質」が)右利きかどうかはわからない。
同様に左手・左側を使っていても、左利きとは限らない。
たとえば大リーグのイチローや松井秀喜、サッカーの中村俊輔など。

ところが、世間一般では右手・右側を使えば右利き、左手・左側を使えば左利きという場合がある。
これは「利き」と「使い」の混同だ。

右手を使うのは「右手使い」であって、「右(手)利き」ではない。
だから右手を使うようになったからといって、「右利きになっちゃった」わけではない。「右手使い」になっちゃっただけで、本質は変わらない。

「利き」とは優位性である。どちらが得意であるか、より速いか、より正確か、より巧みか、…といった本来持っている普遍的な性質だ。

正しい利き手、利き側認識を持って欲しい。

(いやあ、またしても、話がそれてしまった…。)

※本稿は、gooブログ「レフティやすおの新しい生活を始めよう!」に転載して、gooブログ・テーマサロン◆左利き同盟◆に参加しています。

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2005.09.17

依頼人は左利き―ホームズの名推理「黄いろい顔」より

* 推理小説(ミステリ)と左利き―名探偵ホームズの場合 *

めずらしくホームズとワトスンが散歩に出ていた間に依頼人が訪問していました。その依頼人が忘れていったのがひとつのパイプです。
そのパイプの特徴からホームズは依頼人のことを色々と推理してゆきます。

「 … ほかにも何か変わったところがあるのかい?」私はホームズがまだパイプをひねくりまわしては、例によって考えこんでいるので尋いてみた。すると彼はパイプを持ちなおし、医学の教授が骨の講義でもするように、細長いひとさし指でコツコツたたいてみながら、「パイプというものは、時々きわめて面白いことを教えてくれる。懐中時計とくつひもを除けば、おそらくこれほど個性を現わすものはあるまい。もっとも今の場合は、そう大して重要な特徴も現われてはいないが、それでもこのパイプの持主が筋骨たくましい男で、左ききで、歯なみが丈夫で、ものごとに無頓着な性癖があり、経済上の苦労のない男だくらいのことはわかる」

いつもながらのホームズの名推理をワトスンが聞き出します。

「この男はランプやガスの火でパイプを吸いつける癖がある。 … ランプで吸いつければ、どうしたってガン首が焦げるに決ってる。そしてこのパイプでは右がわが焦げているところから、持主が左ききだと推定したわけさ。君のパイプをランプで吸いつけてみたまえ。右ききの君には左がわへ火をもってゆくのがいかに自然だか、よくわかるから。
 むろん右ききだって左の手で吸いつけることがないとはいえないが、それはときたまのことだ。ふだんは右手を使うにきまっている。このパイプなんか、もっぱら左手ばかり使ってある。それからこの吸口は歯でかんであるが、これは筋骨たくましい精力家で、丈夫な歯をもっている証拠だ。 … 」

さすが、名探偵、お見事な推理です。
かくして依頼人の登場と続くのですが、あとは本を読んでのお楽しみということで…。

この事件ではめずらしくホームズの推理もはずれ、以後彼がその力を過信したときの戒めの言葉とせよとワトスンに言います。時代背景をたくみに取り入れた一編で、ラストほろりとさせる夫婦愛に満ちた素敵な依頼人のお話でした。

「黄いろい顔」The Yellow Face(『ストランド』誌1893年2月発表)コナン・ドイル 延原謙訳 新潮文庫『シャーロック・ホームズの思い出』より

* 本書は、左利きがからむ推理小説『左ききの名画』R・オームロッド、『どちらかが彼女を殺した』東野圭吾 とともに、レフティやすおの本屋・左利きの本棚/小説で読む左利きで紹介しています。

* 推理小説(ミステリ)と左利き に関する記事 *
・2005.6.14 左投手は危険がいっぱい―『サウスポー・キラー』水原秀策 お茶でっせ版新生活版
・2005.5.18 左手が大活躍?する映画「ボーン・コレクター」お茶でっせ版新生活版
・2005.4.4 左利きが手掛かりになる推理小説―クリスティー「厩舎街(ミューズ)の殺人」 お茶でっせ版新生活版
・2005.1.30 左利きアンケート13回推理物のテレビ・ドラマの〈左利きが犯人〉をどう思いますか、のお知らせ お茶でっせ版新生活版
・2004.9.24 『男たちの絆』マイクル・Z・リューインお茶でっせ版

※本稿は、gooブログ「レフティやすおの新しい生活を始めよう!」に転載して、gooブログ・テーマサロン◆左利き同盟◆に参加しています。

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2005.09.05

『鬼警部アイアンサイド』 ジム・トンプソン

いやぁ、懐かしいですね。なんて言っても最近お若い人はご存知ないでしょうね。
40歳以上でしょうかね。

昔の人気テレビドラマです。もちろんアメリカのものです。本書巻末解説によると、日本では1969年4月より1975年9月まで6年にわたり放映されたそうです。
私が15歳から21歳までに当たります。(印象に残るわなぁ…。)
主役のレイモンド・バーとその声を担当した若山弦蔵のコンビは「ペリー・メイスン」でもおなじみです。(最高の組み合わせでしたねぇ。)
番組冒頭のテーマとナレーションといい、今も心に残っています。(再現しろと言われても困りますが…。雰囲気は覚えてますよ…。)

サンフランシスコ市警の嘱託警部というのでしょうか。下半身不随の車椅子の刑事。手足となる部下と助手、特別仕様のクルマを与えられて悪と戦う不屈の男ロバート・アイアンサイド―。

今のミステリで言えば、ディーヴァーのリンカーン・ライムの系統です。世代的にはお父さんに当たるといったところでしょうか。チーム構成もそっくりです。今回こうやって読んでみると。
イヴとアイアンサイドの感情などテレビではまったく印象に残っていませんが、このストーリーではまったくライムとアメリアです。
もちろんディーヴァーの作品では、プロファイリングや鑑識の方法など目新しい要素は取り入れていますが、基本的な構成は同じパターンを踏襲しています。

『鬼警部アイアンサイド』 ジム・トンプソン 尾之上浩司訳(ハヤカワ・ミステリ《ポケミス名作座》 2005年5月刊 原題Ironside 1967)

有力者のクズ息子が起こしたひき逃げ事件に関して、アイアンサイドに手加減を求める地方検事とその有力者を追い返した矢先、助手の黒人青年マークが傷害事件を起こす。しかもその相手が病院への搬送途中に死んでしまう。有力者が掘り出した情報では、彼は以前ボクシングの選手で彼のこぶしは凶器として扱われる。地方検事は正当防衛も認めず、マークを殺人犯として起訴すると留置所送りに。彼の無実を信じるアイアンサイドとその部下エドとイヴは昼夜を徹しての捜査を始める…。

誰よりも早く事故の現場に現れるという仕事熱心な民間の救急車会社の運転手、マークが殴り殺したとされる男の姉など、怪しげな人物が浮かび上がるが…。

ジム・トンプスンを読むのは初めてです。今やノワールの巨匠としてカリスマ的存在となった感のあるトンプスンですが、本書でもその片鱗が垣間見えるような気がします。(どこが? と聞かないでくださいね。)
彼の本領とは違うのでしょうが、テレビの設定を使ってのオリジナル・ストーリーとのこと、なかなくうまくまとめています。

それにしても、ラスト、アイアンサイドが犯人にタックルするところなんか、ディーヴァーの『ボーン・コレクター』のラストの部分を思い起こしました。(えっ、全然トンプスンと関係ない、ってなるほど。)

とにかく、昔懐かしいヒーローたちの活躍が読めるのはうれしいものです。

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2005.07.20

「燃える男」死す!―A・J・クィネルの訃報

昨日の夕刊で知ったのですが、あの『燃える男』の作者、A・J・クィネルが亡くなった。
マルタ観光局によると、10日、肺がんのため、療養先のマルタ共和国のコゾ島で死去、65歳。
謹んでご冥福をお祈りいたします。

1940年ローデシア生れの英国人。1980年『燃える男』でデヴュー。その後も『メッカを撃て』など多くのベストセラーを生み、冒険小説の第一人者となる。ながらく覆面作家として知られていたが、99年発表の『トレイル・オブ・ティアズ』で正体を明かす。

私にとってはやはり『燃える男』の作者だ。昨年末あたりに、二度目の映画化作品が公開されたもよう。テレビのCMは見た。映画は見ていない。
「守りたい。男に生きる希望をくれたのは、たった9歳の少女だった。」というコピー、覚えてらっしゃる方もいるだろう。
あの映画『マイ・ボディガード』の原作だ。
ヘラルド・オンラインHERALD ONLINE マイ・ボディガード

元外人部隊の傭兵として勇名をはせたクリーシィは50を前に生きる希望をなくしていた。そんな時、富豪の娘のボディガードとして再出発することになる。この少女との心の交流により、人生の希望をとりもどしたクリーシィだったが、少女の警護に失敗し、少女を殺されてしまう。
生き延びた彼は、自らを鍛えなおし孤独な復讐戦を始める…。
ここからの作戦の練り方、マフィアに迫るクリーシィ、そして彼を取り巻く人々の姿が読ませる。
感動の名作だ!
これぞ、男の文学ともいうべき冒険小説の金字塔。女性がどう読むかはわからないが…。

版元を変えながら、版を重ねている。未読の方はどうぞ。
私も、この機会に未読のものを読んでみようかな。

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2005.07.13

エド・マクベインが死んでいる

先週の金曜日、八日の夕刊にエド・マクベイン(本名エヴァン・ハンター)の訃報が出ていた。
七月六日、喉頭がんのため米コネティカット州の自宅で死去、享年七十八歳。慎んでご冥福をお祈りいたします。

エド・マクベインは、人気警察小説、87分署シリーズで有名なアメリカのミステリの巨匠。
1954年(ちなみに、私の生れた年)に発表した『暴力教室』(ハヤカワ文庫)で一躍人気作家となり、1956年に発表したミステリ『警官嫌い』(ハヤカワ・ミステリ文庫)で警察(捜査)小説というジャンルを確立し、以後このシリーズは晩年まで書き継がれ50作を越える人気シリーズとなった。他にも、ホープ弁護士シリーズ、エヴァン・ハンター名義の普通小説やミステリ風作品、カート・キャノン名義の酔いどれ探偵カート・キャノンものなど、著書多数。ヒッチコック監督の映画『鳥』の脚本家としても有名。

*
私が初めて氏の本を読んだのは、記憶をたどれば、角川文庫の青春小説『去年の夏』(1968/角川文庫版・井上一夫訳・昭和45年刊)だった。これは映画化もされた作品で、ミステリ作家になる人らしい、ちょっと犯罪のにおいのする小説だった(と思う)。『冬が来れば』(ハヤカワ・ノヴェルズ)という続編もある。これも持っている。(また、そのうち実物を出して調べてみよう。)

その後に読んだのが、例の87分署シリーズだ。
何冊か読んだ中で一番印象に残っているのが、分署の刑事バート・クリングの恋人が事件に巻き込まれ殺される『クレアが死んでいる』(ハヤカワ・ミステリ文庫)だ。そんなんありか、といった感じで当時純情な青年だった私にはショックだった。
恋人の知らない部分を探るという展開がスリリングだ。あなたはご自分のパートナーのことをどれだけ知っていますか?

第十作目の『キングの身代金』(ハヤカワ・ミステリ文庫)は、黒澤明監督によって『天国と地獄』というタイトルで映画化されたのは有名なお話。
またこのシリーズは、渡辺謙主演で「わが街」シリーズとしてテレビ・ドラマ化されている。

このシリーズは半世紀に渡って書かれ、日本でも人気が高く、継続して翻訳紹介されてきた。
そんな中でおもしろいと思うのは。「デフ・マン」の訳語の変遷だ。シリーズ屈指の悪役の名前なのだが、その昔は「つんぼ男」、その後「死んだ耳の男」、そして今ではカタカナにしただけの「デフ・マン」へと変わって来ている。
年代もののシリーズならでは話題だろう。

シリーズ外でおもしろかったのは、エヴァン・ハンター名義の『ハナの差』(ハヤカワ文庫)、コミカル・タッチの犯罪小説だった(よね?)。

幸い私には、まだ未読の氏の本がたくさんある。この機会にまたボチボチ読んでみようと思う。

*版元、早川書房のサイト:http://www.hayakawa-online.co.jp/

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2005.05.18

左手が大活躍?する映画「ボーン・コレクター」

5月15日のテレビの「日曜洋画劇場」(テレビ朝日系)で、「ボーン・コレクター」をやっていました。後ろの方を見ただけでしたが、原作の『ボーン・コレクター』ほか一連のリンカーン・ライムのシリーズのファンなのでちょっと書いておきましょう。

原作『ボーン・コレクター』は、名うての"どんでん返しスト"ジェフリー・ディーヴァーの1997年刊のベストセラー・ミステリ。
ここで「左利きの本だなぁ・小説編」用のメモを引用しましょう。

ジェフリー・ディーヴァー『ボーン・コレクター』池田真紀子訳 文藝春秋(1999年9月刊)
THE BONE COLLECTOR (1997)
映画化もされた傑作ミステリです。左利きの名探偵は出てきませんが、主人公のリンカーン・ライムは動かせるのが頭と首と「左手」の薬指だけという脊椎損傷による肢体障害者。彼は犯罪科学捜査のエキスパートでしたが、犯罪者の逆恨みによる爆弾事件で被害にあい、一線を退き、死を望む生活を続けていたのですが…。
変質狂の連続殺人犯対リンカーン・ライムとその手足となる科学捜査班との知恵比べ。

ライムは、ストラップで左手を固定した、エヴェレスト&ジェニングス製環境制御装置のパネルの上で薬指をほんのわずかに動かして数度クリックし、(略)

原作では、このように首から下は左手の薬指だけが動かせるという設定で、それゆえ私は<左手・左利き>仲間の一員として認知しています。

映画(1999年アメリカ映画、2000年日本公開)では、ライム役のデンゼル・ワシントンは左手の人差し指を使って機器を動かしていました。
また、彼の手足となって活躍する女警官アメリア・ドナヒー(原作ではアメリア・サックス)役には、左利きで有名な女優さんアンジェリーナ・ジョリー(「トゥームレイダー」では左手で銃を操っていました)が扮し、随所で左利きらしい所作を見せていました。

例えば、懐中電灯を手に歩く場面では左手に懐中電灯を、証拠を採取するときは左手または左手に持ったピンセットで、拳銃と懐中電灯を両手に突入するときは、ライトを右に(オヤジギャグですいません!)拳銃を左手に、ライムの額の汗を拭うシーンではタオルを左手に、また高いところの本を取るときは、おもいっきり左手を伸ばして、―というように。
一番の見せ場は、やはりライムとの心の交流を示す場面での左手に重ねる手でしょうか(と言いながら、実はよく見てなくて、左手に左手を重ねていたかどうか自信がありません)。

ラスト、右手を負傷した犯人がライムを襲う場面では、左手にナイフを握って大きく振りかぶります!
ここで、われらが?アメリアが現われ、左手に右手を添えて両手で包み込むように拳銃を持ち、両腕をいっぱいに伸ばして発射します。

いやあ、実によく左手が活躍する映画でした。こんな見方をする人は私ぐらいでしょうか。

ところで、原作ではアメリアは左利きという記述はなかったように思います。あれば、私のことですから、きっと見落とすことはないでしょう。
小説の場合、このライムのような状況にある人なら別ですが、通常、手を動かすシーンでも特に右左の描写はないものです。その点、映画やテレビドラマ、マンガといったヴィジュアル系の物語はその辺が明確になり、人物の利き手を確認できるので、楽しみ方が増えるというものです。

さて、ライムとアメリアのように、"特異な左手"を持つインテリ男性と女捜査官の取り合わせといって思い出すのは、『羊たちの沈黙』ですが、これも映画化されて人気を博したものでした。

…(以下、いずれ)

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2005.04.16

「自分勝手」が招く悲劇『焦熱の裁き』デイヴィッド・L・ロビンズ

最近読んだ海外ミステリからひとつ紹介しよう。
デイヴィッド・L・ロビンズ『焦熱の裁き』Scorched Earth (2002)村上和久訳 新潮文庫(2005.1)。
"怒りと哀しみの充満する町で救済を求める者たちの真実を追う感動のリーガル巨編。"―カバー裏表紙の紹介文より。

著者は戦争ものの小説で名をあげた作家でミステリはこれが初めてというが、ミステリとしても非常によくできた物語になっている。公正とは何か不正とは何かを考えさせる罪と罰の物語。
しかし、それ以上にこの小説を読み応えのあるものにしているのが、嫌々ながら公選弁護人にされた主人公の元検事補のナット・ディーズ、彼の級友でもある酔いどれ牧師のダービー、24年間保安官補を務めている黒人モンロー、インディアンの裁判所判事<鷹(ザ・ホーク)>などなど、それぞれの登場人物たちである。

最近の小説にしては改行の少ない、長い段落の文章を書く。しかも現在形を多用する文で、多少の違和感があり、読みにくいと感じる向きもあるだろう。そこは少し我慢していただければ、すごい世界が展開してゆく。

*
アメリカ南部ヴァージニア州のかつて南北戦争の戦場でもあったパマンキー郡、とうもろこし畑と製紙工場の町グッド・ホープ、雨が欲しい、心にも潤いが欲しい、そんな夏の物語。

雨は何かの発作ではない。空が突然何かの感情を爆発させたわけではない。悲しみでも一種の解放でもない。ただ雨が降っただけ。ありきたりで、当然の出来事だ。/ナットはぐっすりと眠っている。/雨は物陰に隠れないものすべてを包み込む。そして、その点で、雨は愛にとてもよく似ている。

ラストの結びの文章より。
悲惨な物語だが、読後感は決して悪くない。それは、再生を願って努力する人たちがいるから。その人たちを信じたいから。信じられると期待したいから…。

*
冒頭、愛し合う女と男、白人の妻と黒人の夫―クレアとイライジャ。
彼らが働く製紙工場で開かれた、<多様性委員会>に出席した二人。人種差別をなくし、みんな仲良くしてゆこうという集まり。

「われわれは相手の気持ちにもっと敏感になる方法を探す必要がある。これはなにも工場だけにかぎった話じゃない。社会全体についていえることだ」(略)「われわれはみんな、もっとクレアとイライジャのようになる方法を見つけなければならない。二人を見習って、もっと相手を受け入れるように」

席上、イライジャは静かな声で言う。「これはあんたらの問題だ」。クレアは言う。「悪いけど、私達はあなた達の理想像なんかじゃない」。

彼らの子が生れて十分で亡くなり、その遺体をクレアの唯一の親族である祖母が教会執事を務める、先祖の埋葬されたヴィクトリー・バプテスト教会の墓地に埋葬したことから事件が始まる。

教会執事たちの会合で彼らの二百年の伝統に従い、同胞ではない者の埋葬は拒否される。この地には、黒人専用のもうひとつのバプテスト教会があり、黒人達はそちらで礼拝をし、死者はその墓地に埋葬されるのだ。
ワデル夫妻の子ノーラの棺は掘り起こされ、親族のいない黒人墓地の見知らぬ人々のあいだに埋葬される。
伝統の力が差別を蘇らせてしまう。反対しなかった祖母、反対を押し切られた雇われの身の牧師…。

「われわれの世界は、いったいどこまで小さくなってしまうのかね?(略)われわれは、あらゆる扉を開かねばならんのかね?(略)わたしが彼や彼の親族といっしょに埋葬されたいわけじゃない。あのかわいそうな赤ん坊は、自分の同胞に囲まれた場所で眠りにつくべきだし、その場所はここではなく、道の先だ。わたしは赤ん坊のためにそれを望むことが罪だとは思わないし、また、わたしや、今夜わたしとここにいる善良な人たちのために、それと同じことを望むことも罪だとは思わない」(略)「わたしはそう固く信じている」

そして埋葬がすんだ夜、ヴィクトリー・バプテスト教会は何者かに放火され炎上。現場にいたイライジャは逮捕される。しかも現場からは保安官の娘の焼死体が発見される。
窮地に陥ったイライジャを救うべく颯爽と現れるはずの弁護士は…。

*
憎しみの炎が過去を一掃して、そのあとに再生される世界に愛は育まれるのだろうか。
罪とは、罰とは、公正とは、不正とは、あるいは神とは、信仰とは、そして故郷とは、人の心とは、夫婦とは、愛とは、思いやりとは…。色々なことを考えさせられる物語であった。

特に際立った悪人は出て来ない。しかし、みんな少しずつ「自分勝手」だ。そんな小さな「自分勝手」が積み重なって行くとどうなるのか、ここにその見本がある。利己主義に陥った人間たちが引き起こす悲劇である。

あえて書くと、黒人と白人の人種差別が前面に取り上げられているため、日本の読者の中には、アメリカは大変だねといった他人事のように受け取る人もいるかもしれない。しかし作者が言いたいのは、人種差別にしろ他の問題にしろ、その根本の原因は、人々の心のなかにある「自分勝手」な考え方―他を省みない自己中心的な考え方、利己主義にあるのだ、ということではないだろうか。私にはそう思える。

*
こういう手の小説では、巻頭の引用句が深みを添える。

人は失ったものだけを永遠に所有できる。 ヘンリク・イプセン『ブラン』

善と悪とを分ける境界線が通っているのは、国家と国家のあいだでも、階級と階級のあいだでも、党派と党派のあいだでもない。それはまさに人間の心のなかを通っているのである。 アレクサンドル・ソルジェニーツィン

なかなか、見事だ。

David L. Robbins: The Official Web Site
※『「レフティやすおの本屋」店長日記』「本店に『タオ』『焦熱の裁き』他計三点追加」
※『レフティやすおの本屋』本店「海外ミステリを貴方に」

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2005.04.04

左利きが手掛かりになる推理小説―クリスティー「厩舎街(ミューズ)の殺人」

最近読んだ本の中から、左利きが重要な手掛かりになっている推理小説を紹介しておきましょう。

今NHKでテレビアニメにもなっている、あのミステリの女王と呼ばれたアガサ・クリスティー名探偵ポアロものの中編に、「厩舎街(ミューズ)の殺人」(早川書房 クリスティー文庫『死人の鏡』(1937)収録)があります。
これには原型ともいうべき短編もあるのですが、こちらの方がうまく左利きを扱っています。枚数的に書き込む余裕があるので、当然といえば当然かもしれませんが。そして、最後の謎解きも見事です。この辺がミステリの女王と呼ばれるゆえんでしょうね。

爆竹が鳴り花火が打ち上げられるガイ・フォークス・デイの喧騒の中、ジャップ主任警部はポアロに「殺人にもってこいの夜だ」と話していた。その翌日、密室状況で発見された若きの女性の射殺死体には、不審な点が…。
一見は自殺と見られるが、右手にある拳銃で左側頭部を撃ち抜くことはできないと医者は言う。自殺に偽装した殺人事件なのか。
ポアロは被害者の様子を丹念に検分する。右手首の腕時計、机の左側に置かれたペン皿…。
左利きを示す証拠を次々と挙げてゆき、事件が実は他殺に見せかけた自殺であったことを突き止めます。
で、もうひとつの謎解きは、読んでからのお楽しみです。その名も<アタッシェケースの謎>!

ところで、ポアロといえば、ちょっとした左右のずれも気になるという左右対称、シンメトリーを好むことで有名です。
私もポアロほどではありませんが、左右対称の右利きにも左利きにも優しい道具が好きです。

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4.7 追記=gooブログがうまく投稿できず、同盟にTBできていません。

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2005.01.11

『探偵学入門』マイクル・Z・リューイン

マイクル・Z・リューイン『探偵学入門』THE RELUCTANT DETECTIVE AND OTHER STORIES (2001) 田口俊樹・他訳 早川書房 ハヤカワ・ミステリ 2004年刊

私の好きな作家イギリス、バース在住のマイクル・Z・リューインの初の短編集。全21編収録。

リューインの本は、"問題解決犬"ローヴァーの連作短編集『のら犬ローヴァー町を行く』2004.03.25、やパウダー警部補シリーズ第3作『男たちの絆』 2004.09.24 を紹介してきました。

今回は、まだリューインをお読みでない方には、ちょうど良い入門書となるでしょう。
今好調の〈探偵家族〉ルンギ一家ものが6本、パウダーもの1本(日本人女性が登場します)、ローヴァーものの中から最もミステリっぽい作品1本、副大統領ダニーもの2本、さらに新キャラクター、ハードマンもの1本、などシリーズ・キャラクターも勢ぞろいで、それ以外にも単発のおもしろい作品が並んでいます。

シリーズ・キャラクターでもれているのは、デヴュー作の主人公やさしい知性派探偵といわれるアルバート・サムスン(私のもっとも好きなキャラクターです。)ぐらい。

インディアナポリスを舞台とするものより、イギリスに移ってイギリスを舞台にしたもの多いのですが、これがまた、従来のアメリカを舞台にした作品とは違ったユーモアに満ちたものになっています。
最初はちょっとついていけないか、とも感じたのですが、さほどのことはありません。これもまたおもしろいものです。別の一面を見るのもいいものです。

私のおすすめは、税金対策で「探偵をやってみたら」依頼客が現れて事件調査をやるはめになリ…、という一本目、テレビの特番にある警察もののドキュメントのような、パトカーに一般市民が同乗する二本(パウダーものの「夜勤」とノン・シリーズの「女が望むもの」)、ローヴァーもの「恩人の手」も優しくていい気持ちにさせる、「少女と老人のおはなし」なども軽くていいし、探偵家族ものはそれぞれ愉快な登場人物たちが読ませます。

ストーリー・ノートや巻頭の「はじめに物語ありき」という序文など自作解説があり、リューイン・ファンもお買い得の一冊でしょう。

できれば新しいサムスンものが読みたい気もしますが…。

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2004.11.21

クリスティー文庫全100巻完結!

昨年から刊行が開始された早川書房クリスティー文庫全100巻が、11月18日発売分で完結しました。

今月発売分は、クリスティーの生んだ二大探偵の最後の事件2点、ポアロ『カーテン』、ミス・マープル『スリーピング・マーダー』、短編集2点、"神秘の探偵ハーリ・クィンの活躍"『謎のクィン氏』、"本国では慣例の「クリスマスにはクリスティー」"『クリスマス・プディングの冒険』、"クリスティーのビギナーとマニアにおくるハンドブック"2点、早川書房編集部・編『ビジュアル版アガサ・クリスティー99の謎』、われらがアガサ・クリスティー・ファンクラブ会長、数藤康雄・編『アガサ・クリスティー百科事典』、です。

文庫本より少し大きめサイズで、活字も大きめ、新訳も含めて、非常に読みやすいものになりました。従来の真鍋博画伯のイラスト表紙がお気に入りだった方には少しさびしいものになってはいますが、統一されたカバーも雰囲気は上々です。

私の老後は読書三昧で過ごしたいと思い、いくつかの本を大切に保存してきましたが、このクリスティー文庫は格好の的となりました。

過去に読んだものはまだ40冊ぐらいのはずで、半分以上はまったくの手付かずのままです。昔の記憶も薄れていますし、ほとんど白紙の状態で読むことができるでしょう。

縁側に腰掛けて日向ぼっこしながら、番茶にせんべいやおかきも良し。ウッドデッキでロッキングチェア、テーブルには紅茶と何とか言うお菓子でも良し。
寒くなれば掘りごたつに足を突っ込んで、あるいは暖炉の前で…。

かつてイギリスのクリスティーの版元の出版社では「クリスマスにはクリスティーを!」といってクリスマス・プレゼントにクリスティーの本を贈るキャンペーンを実施していました。
そんな出版社に応えるように晩年になってもクリスティーは毎年優れた作品を書き続けていました。

テレビでは今、クリスティー原作のアニメも放映中です。
今年はぜひ貴方も「クリスマスにクリスティー」の本をプレゼントされてはいかが?

*
私のおすすめクリスティー作品
<名作編>
アクロイド殺し(名探偵ポアロ)
オリエント急行の殺人(名探偵ポアロ)
ABC殺人事件(名探偵ポアロ)
ナイルに死す(名探偵ポアロ)
そして誰もいなくなった(ノン・シリーズ)
<最初の事件>
名探偵ポアロ:スタイルズ荘の怪事件
ミス・マープル:火曜クラブ(短編集)牧師館の殺人(初長編)
<最後の事件>
名探偵ポアロ:カーテン
ミス・マープル:スリーピング・マーダー
<マイ・フェイバリット>
茶色の服の男=初期のノン・シリーズの青春冒険ミステリ
親指のうずき=老境に入ったトミーとタペンスの冒険
謎のクィン氏=ミステリアスな探偵クィン氏の推理短編集

*
参考サイト
早川書房
早川書房 アガサ・クリスティー日本オフィシャル・サイトCHRISTIE TIME
アガサ・クリスティ・ファンクラブ

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2004.11.13

異色作家の異色長編『観光旅行』デイヴィッド・イーリイ

『観光旅行』THE TOUR(1967) デイヴィッド・イーリイ 一ノ瀬直二訳 ハヤカワミステリ文庫<クラシック・セレクション> 2004年6月刊 (1969.10刊 ハヤカワ・ノヴェルズ版の文庫化)

ながらく幻の長編と化していた作品です。というのはこの作家が日本で注目されたのはもうずいぶん昔、1970年代の話です。
主に短編作家ですが、その短編小説はこのジャンルでは「奇妙な味」といわれる異色作ばかりです。どちらかといえばブラックユーモア系かもしれません。
そしてたまに出す長編小説もまた同様に一口では表現できない、異色の作品です。
邦訳は『憲兵トロットの汚名』『蒸発』そしてこの『観光旅行』。

私はHMM(早川書房発行の海外ミステリ月刊誌『ミステリマガジン』の略称)で70年代にかなりの短編作品を読みました。一番おもしろかったという印象が強いのは最初に読んだ「大尉のいのしし狩り」というもので、ストーリイは忘れましたが、タイトルが忘れられません。

昨年その異色な短編を集めた作品集『ヨットクラブ』が出版され、好評を博しました。
その結果、この長編がハヤカワミステリ文庫の<クラシック・セレクション>の一冊として出版されることになったということでしょう。

*
さてストーリイはというと―
日常生活に飽きたアメリカの実業家を相手にした秘密の観光旅行の行き先は中南米と思しき密林に囲まれたバナナ国。そこではふだん体験することのできない、自分が映画か小説の中のヒーローにでもなったような実体験が味わえる。

主人公フロレンタインもまたそのような旅行を楽しむはずだったが、あるとき現地のアメリカ大使館員からこの旅行に関する調査報告を依頼される。この旅行会社はどうやら革命騒動にからんでいるらしいというのだが…。

かくして、旅行会社の社長に目を付けられた彼は誘拐され、密林の奥に連れ込まれる。
しかし、この秘密旅行で野性の何かに目覚めた彼はこの危機を脱し、現地人の部落に逃げ込むが…。

途中から大いに読者の期待を裏切る展開となり、ラストは怒涛の地獄のような世界に。
ところがこれがやはりどこか、映画のような非現実性を帯ながら進展して、何か爽快な読後感も漂う、まさにイーリイらしい仕上がりになっています。
傑作といえば傑作だし、そうではないといわれればそうかなという気持ちにもなるという、本当に奇妙な味の一冊です。

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2004.11.03

『サンセット・ヒート』ジョー・R・ランズデール

最近好きな作家の一人(といってもまだ読んだのは4作目)アメリカの作家ジョー・R・ランズデールの最新作『サンセット・ヒート』 SUNSET AND SAWDUST(2004)北野寿美枝訳 早川書房 ハヤカワ・ノヴェルズ 2004年。

大恐慌に見舞われた1930年代のテキサス州東部の製材所のある町キャンプ・ラプチャーを舞台に、ひょんなことから治安官に任命された女性サンセット・ジョーンズが正義のために法執行者として奮闘する物語。

今でこそ自由と民主主義の国といわれるアメリカですが、1930年代のテキサス州東部、そこはアラバマ州に隣接するいわゆる黒人差別が有名なアメリカ南部に近い所、やはりそこでも黒人差別がまかり通っています。
さらに女性もまた黒人に負けず劣らず差別されています。
MWA賞受賞作『ボトムズ』や前作『ダークライン』では黒人差別の問題をバックにしていましたが、今回はプラス女性差別の問題を扱っています。

「おれが黒人だから嫌うのと同じように、あんたが女だからという理由であんたを嫌ってる連中がいる。まったく筋の通らないことだ。あなたとおれには身のほどってやつがあるらしいけど、おたがい、それをわきまえる気がないし、そのことを快く思わない連中が大勢いる。ある意味では、連中はものごとが自分たちの思いどおりに動くのが好きなんだ。黒人はこうあるべき、女はこうあるべきって具合に。おれはそうする気がなく、それは受け入れられない。あんたを襲うとしたら――襲うはずだとおれは思ってるけど――クランだ。ちがうかもしれないけれど、たぶんそうだ。」

―クランから一目置かれている森の黒人の大男ブル

1951年生まれのほぼ同世代の作家ですが、男性作家の描く女性像ですから、女性の方からはまた違った見方があるかもしれません。

主人公サンセット(燃えるような赤毛から付けられたあだ名)は、夫に殴られ強姦されそうになったとき隙を見て夫の銃で彼の頭を撃ち抜きます。そして義母の応援を受けて夫の任期を継いで治安官に就任します。

暴力をふるい妻を自分の意に従わせるような男に息子をさせたのは、自分がその見本になっていた、夫の暴力を受容して言いなりになっていたからだという義母。

「ピートは人が犬にすらしないような口のきき方を父親がわたしに向かってするのを見ながら育ち、父親がわたしを"矯正"するのを目にするようになった。ジョーンズは"矯正"と言いたがったのよ」

―夫の暴力に耐えた義母マリリン

息子を殺したサンセットを憎みながらも、女性として当然のことをしたと認め、孫娘の事もあり、職を必要とするサンセットを夫に代わる治安官に押す。
そして夫をたたき出す義母。夫は自分の製材所の大のこに身を投げ出して死を選ぶ。
治安官としての仕事を始めるに当たって助手に雇った男二人は美人のサンセットに好意を寄せる。一人はよそ者のギターを失くしたギター弾き。その男前に好意を寄せるサンセットだが、なんと娘も…。

黒人の畑から見つかった赤ちゃんの死体と夫の愛人でもあった売春婦の死体。
ここから事件は転がり始めます。

さらに、昔サンセットの母を捨てた男―サンセットを身ごもっていたことを知らず、女を捨てて消えた当時伝道師だったが道を踏み外した、サンセットの父親―が戻ってくる…。

大竜巻のなかでの暴行から始まり、イナゴの襲来のなかでの大立ち回りで一件落着、かと思われるのですが…。

「法執行者」という言葉が何度も登場するのが印象的です。法の執行というものがまだまだ人々に行き渡らない時代と地域を背景に、正義とは何か、男と女の心と身体の微妙な関係、人として生きることのむずかしさと大切さ、などなど色々感じさせられました。

途中幾度も腹を立てながら読み進んだお話でした。
それだけうまく物語に載せられたということでしょう。
ランズデール、また一段と好きになってしまいました。

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2004.09.24

『男たちの絆』マイクル・Z・リューイン

マイクル・Z・リューイン『男たちの絆』LATE PAYMENTS (1986) 田口俊樹訳 早川書房ハヤカワ・ミステリ 1988年刊。 

<パウダー警部補シリーズ>第3作。失踪人課に移ってから2作目。
前作『刑事の誇り』当時は、彼リーロイ・パウダーと車椅子の女性部長刑事キャロリー・フリートウッド以外には半日勤務のパートのコンピューター係しかいなかったインディアナポリス市警失踪人課も彼らの精力的な活躍で飛躍的に所属刑事が増えた。

そんな一人、新米刑事ハワード・ハディックスが「左利き」です。
彼は、"立派な口髭をたくわえ、赤毛をクルー・カットにした健康気ちがいの二十五歳の青年"。

パウダーは彼のところまで行くと、肩越しにその仕事ぶりを眺めた。そして首を横に振り、口をすぼめて息を吸ってから言った。「駄目だな。おまえさんも右利きならなあ。左ぎっちょは字を書くのが遅くていかん」

パウダーは部下の車椅子の女性部長刑事に対しても、面と向かって「かたわ」といった言葉を使う男。
これだけ読むとなんと言う無礼な男と思われる方もおられるだろう。その傍若無人な態度は、確かに署内でも嫌われ者で評判は芳しくない、一部の上司の受けも良くない。しかしそれは彼の歯に絹着せぬ言動がいかに真実をついているかにある。人柄も実際は違う。

たとえば、「かたわの部長刑事」という上司の言葉に、「あの"かたわ"の部長刑事」は有能で、あんたにも引けをとらぬ、今みたいな不愉快な呼び方をしたら正式に苦情を申し立てるときっぱり言う。

「他意があって言ったんじゃないよ、パウダー」
「他意がなけりゃ初めから何も言わないほうがいい」

実は、彼自身非常に稀なある肉体的特徴を持っているのだ。(34章参照)

それが彼のひねくれた物言いや態度の原因となっているのかどうかはわからない。しかしそういう自分に与えられたもの故に、肉体的な特徴を持つ人に対する親愛の情というものがああいう物言いにつながっているように、私は感じる。

さて、事件は毎度のように多くの失踪人の相談者の訪問から始まる。
ある少年の父親が行方不明だ、いつも出かける時には書置きを置いてゆくのに今回はそれもないという。このインディアナ州では身障者の寿命がよそに比べて短いというデータが出ている、これは大量殺人事件のせいという車椅子のコンピューター技師の青年。新興宗教に娘がはまって戻らない、面会もできないという夫婦。などなど…。

気になることはどんなささいなことまでも、徹底的に調べるパウダーは自分の時間も惜しまず、事件の解決にあたる。
暇を見て一人暮らす少年の家を訪ねる。父の帰りを待って電話から離れない、学校にも行かない少年。保護センターに相談すればすぐに保護されてしまうだろう…。

一方、彼の息子の事もあった。前作で犯罪に加担しているらしいと知った彼は息子を告発し刑務所送りにしていたのだ。刑務所帰りで保護観察官の下に顔を出さないリッキー。わかれた妻は息子のかたを持つが…。「あなたは芯の芯までお巡りなのね。人間の心なんてこれぽっちも残ってないのね」

彼は「人は自分が最善と思ったことをするのさ」「ほかにどんな指針があるというんだね?」と言いつつも、おれは間違っていたかもしれないと息子とガールフレンドに和解を申し出る。そして事件の捜査に協力してもらう…。

こうした「男たちの絆」をバックに話は意外な方向に進み、謎は見事に解決される―という読み応えのある警察小説であった。

*
ところで、マイクル・Z・リューインは私の好きな作家である。
前に『のら犬ローヴァー町を行く』(3.25付記事)を紹介している。
一番好きなのが心優しい知性派私立探偵アルバート・サムスンのシリーズ。
そしてそれとこのパウダー・シリーズとがインディアナポリスを舞台にしたお話。前作ではサムスンの手を借りるシーンもある。でも、私はこのシリーズの肝心の第1作をまだ読んでいないので、その辺が残念だ。
今、ハヤカワ・ミステリから『探偵学入門』と言う初の短編集が出ている。ローヴァーものも含まれているし、初めてのかたにはリューイン入門書として最適かもしれない。
―と、付け加えておこう。

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2004.07.09

『貧者の晩餐会』イアン・ランキン

イアン・ランキン『貧者の晩餐会』BEGGARS BANQUET (C)2002 延原泰子・他訳 ハヤカワ・ミステリ 2004.3.15刊

今年、桐野夏生の『OUT』がノミネートされて話題になったMWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞を『甦る男』で受賞した、リーバス警部のシリーズでおなじみ、イギリスのミステリ作家、イアン・ランキンの短編集。

リーバス警部の活躍する7編を含む21の短編が収録されている。良きランキン入門書ともいうべき本。ふだんは分厚い長編ばかりでつい手が出なかったという人もこれなら気楽に読めるだろう。
個性的な警部リーバスものの謎解きもいいし、それ以外のミステリ短編もひねりといい落ちといい、大いに楽しめる。身の回りにあるネタを鮮やかに切り取って、切れ味鋭く人生の一断面を見せてくれる腕はすばらしい。

私の好みは、「唯一ほんもののコメディアン」(これは怖い)「深い穴」(ダガー賞最優秀短編賞受賞作/自信を持った"おれ"はどうしたんだろう)「自然淘汰」(最後の逆転が…)「不快なビデオ」("夫と妻にささげる犯罪"ものは数々あるが…)、リーバス警部ものでは「一人遊び」「聴取者参加番組」「イン・ザ・フレーム」といったとこか。

33p-「一人遊び ―リーバス警部の物語―」延原泰子訳

〈自分は正しい、正しい行動を取ったという満足感があったとはいえ、それと同時に、自分を救いがたい卑劣漢であるようにも感じた。それどころか、自分の母親に刑を言い渡したようにすら感じていた。〉

「正義」というものは難しい。自分の信じるところを貫くしかないのだろう。
私も自分を信じ、自分の信ずる道を歩んでゆこうと思う。

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2004.06.23

『最期の声』ピーター・ラヴゼイ

私の好きなイギリスのミステリ作家ピーター・ラヴゼイには、1991年刊の『最後の刑事』に始まるピーター・ダイヤモンド警視を主人公とする人気シリーズがあります。

最新第7作である本書『最期の声』では、19年連れ添った警視の糟糠の妻、愛妻ステフが殺されるという悲劇が起こります。しかも、その殺人現場に職務として訪れた警視が自らその遺体を確認することになります。

当然、夫である警視は捜査に加われません。それでも悲嘆の日々ののち、彼は単独で捜査を始めます。今まで彼が持つ唯一の実用的な技術―捜査術―の恩恵に浴することのなかった妻ステフのため、彼は問題が起きることも省みず、昔の同僚を頼りに独自の捜査を進めます。

「あの男は好き勝手に飛んでく砲弾だけど、かならず標的に命中する。優秀な刑事だわ。最高の刑事。」(ジョージナ・ダリモア副本部長)

そして、ついに単身犯人を追い詰めます。しかし警視は…。
ラスト、病院のベッドの上、混濁した意識のなかで警視は、愛妻ステフの声を聞きます。
(これがタイトルとなっている『最期の声』。)


私とほぼ同年齢で、私同様生き方のへたな、50歳を迎える警視(ただし、私との違いは、彼は仕事に関しては優秀であり、素敵な妻との幸せな結婚生活を営んでいることだ!)とこのステフとの日々のやり取りは、シリーズ第一作からとても好ましく、作品上もいい息抜きとなっていました。
とてもかなしい気分です。

警視のかんしゃくから職を追われた時、ロンドンでのつましい生活の日々。子供好きなのに子供のいない警視が身元不明の迷子のために事件を追うお話など、いろいろな場面が思い出されます。不遇なときも、常に彼のそばにはステフがいました。

「家内への気持ちは、初めて会った日からずっと変わっていなかった」
「その気になれば、手をつないだだろうな」

* ピーター・ラヴゼイ『最期の声』DIAMOND DUST (C)2002 山本やよい訳 早川書房 2004年刊

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2004.05.31

『見えないグリーン』ジョン・スラデック

『見えないグリーン』 INVISIBLE GREEN ジョン・スラデック 真野明裕訳 ハヤカワミステリ文庫 1977年作

娯楽のための読書の本である。

本格ミステリ、本格推理小説、本格探偵小説、などと呼ばれる本格もの。そのなかでも特に本格モノのファンが喜ぶ密室ものを扱った連続殺人もの。この密室ものの長編小説としては、世界的に有名な一冊である。

SF作家スラデックが書いた私立探偵サッカレイ・フィンの登場する本格もの、『黒い霊気』に次ぐ長編第2作。

エドワード・D・ホック編『密室大集合』という密室ものの短編傑作集の「まえがき」で紹介されている作家、編集者、批評家、ファンが選んだ古今の名作密室長編のリスト(全15作)の14番目(タイ)に挙げられているのが、本書である。

ちなみに上位5点を挙げると、『三つの棺』ジョン・ディクスン・カー、『魔の淵』ヘイク・タルボット、『黄色い部屋の秘密』ガストン・ルルー、『曲がった蝶番』ジョン・ディクスン・カー、『ユダの窓』ディクスン・カーター。

15作中半分ぐらいは読んだ事になるが、読んだ時期がばらばらなので、どれがおもしろかったという比較はできない。
ただあまり期待しすぎると、肩透かしにあうということだけは言える。

で、本書。これも密室の謎解きは例によって例のパターンともいうべきもので、それだけを取ればちょっと…、というものだが、新しいといえば新しい。

<素人探偵七人会>のメンバーが殺されてゆく連続殺人もの。会の主宰者である女性の探偵ごっこ(彼女がアメリカ人の探偵サッカレイ・フィンに事件の依頼をする。イギリス人社会におけるこのアメリカ人との対比もおもしろい。)など、いかにも興味深い小道具を随所にちりばめて、オーソドックスな探偵小説らしいムードを盛り上げているのが、楽しい。

本格もののファンは必読、楽しめます。

ただ、ピーター・ラヴゼイが私の好きなピーター・ダイヤモンド警視(同世代だ)シリーズで、同じような探偵小説好きの集まり「猟犬クラブ」のメンバーの密室殺人を扱った作品『猟犬クラブ』を発表しているが、私はあちらの方が好きだし、出来もいいと思う。

密室もの素人探偵小説愛好家もののパスティーシュ(?)としてはおもしろいが、その程度ではというのが私の印象。

「解説」の鮎川哲也もかなり高い評価をしているようだが、そこまで持ち上げるのもどうかなぁ…。

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2004.05.07

『サイレント・ジョー』T・ジェファーソン・パーカー

『サイレント・ジョー』 SILENT JOE T・ジェファーソン・パーカー 七搦理美子訳 早川書房

2001年MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞最優秀長編賞受賞作。

ハンディキャップを持つ青年が人生の真実を求める物語。

昼は保安官補として刑務所の看守として、夜は郡政委員である養父の護衛として働く物静かな(サイレント)ジョーはある日、目の前で養父を銃殺される。養父を護衛できなかったことを悔やみ、養父殺しの犯人を追及するが…。

硫酸ベイビーと呼ばれた少年ジョーの前に現れた理想の男ウィル・トロナ、しかし彼はより大いなる善のためには小悪も辞さない策略家でもあった。<友人には手を貸せ、敵はうまく利用しろ>。 いったい彼はどんな事件に関わっていたのか…?

24歳の主人公ジョーと養父、さらに実父、そして実母、愛するパートナーを失った養母との関わり。顔の傷跡というハンディキャップを克服して生きるジョーにとって初めての恋愛。これらの人間関係の緊張の中で、事件を追求するジョーの一人称で進められる物語は、ミステリとしてのおもしろさもさることながら、親子の人間物語としてのおもしろさ、ハンディキャップをいかに克服して生きるかというジョーの心の物語としてのおもしろさが光っている。罪と許しの物語でもある。

「そいつはただの傷痕だ。誰だって持っている。きみのは外にあるというだけのことだ」

そう、人はみな傷痕を持っている。今もうずく傷痕を。私も持っている、人の目にふれないところに。

美しい顔を見たときどう思うかという問いに、「その人は運がいいと思います」と答えるジョー。
私も右利きの人を見ると、そう思う。「運がいい人だ」と。

人間の美しさとは? 人間の罪とは? 人間の運とは? そんなことを考えさせられてしまった物語でした。

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2004.05.02

OUTはアウト/桐野夏生「OUT」エドガー賞逃す

以前こちらでも読後感想を書いた桐野夏生「OUT」(3/5) 。最優秀長編賞に日本人作家として初めてノミネートされていた、アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA賞/エドガー賞)が4月30日に発表されました。
残念ながら今回の受賞はなりませんでした。 
しかし、昨年発表された4作の中に選ばれただけでもすばらしいことです。(講談社インターナショナル刊の英訳版のこと。日本語版は1997年)
最優秀長編賞には英国の作家イアン・ランキン「甦る男」(日本語版・早川書房刊)。

映画のアカデミー賞の渡辺謙同様、桐野夏生の今後の活躍が海外でも期待されることでしょう。
日本のミステリに対する注目度も大いに上ることが期待されます。欧米に負けない作品が多く出版されている現在、今後の展開が楽しみです。映画でも日本のオリジナルがリメイクされてそこそこの成績を出しているようですし、期待は大です。
従来小説に関しては一方的な入超でした。今後どのように変わってくるのかは、ひとえによい翻訳家に恵まれるかどうかにかかってきます。日本人の活躍の場が増えそうです。逆翻訳家がこれからのねらい目かもしれません。

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2004.03.25

『のら犬ローヴァー町を行く』マイクル・Z・リューイン

『のら犬ローヴァー町を行く』 ROVER'S TALES マイクル・Z・リューイン (田口俊樹訳)早川書房 

マイクル・Z・リューインは私の好きな作家の一人で、<心優しき知性派>私立探偵アルバート・サムスンのシリーズが特にお気に入りです。

で、ローヴァーです。その名のとおり放浪者である一匹の犬を主人公にしたハードボイルド犬物語。
ちょっとサムスンに似ているかもしれませんね、その性格は。ただサムスンより、格闘では強いかも。

猫が嫌いで、徒党を組むのが嫌いで、家に縛られるのも嫌というまさに一匹狼ならぬ一匹犬。でも女性(雌犬です、当然)は好きで気に入った女性には優しく迫って…。若者をちょっとすぎた分別ある中年と言うところでしょうか。まだまだ若いものには負けない体力もある。気力もある。ちょっとおせっかいなところもあるが、悪いやつらは許せない。困ってるやつは見捨てて置けない。でもホントはちょっとロマンチストかも。

というわけでいく先々で出会う犬たちのトラブルに巻き込まれながら、時には人を懲らしめあるいは助け、独立心旺盛な一人前の自由犬として生きてゆく。

 世の中がよくなる可能性など、あってなきに等しいものかもしれない。それでも、自分が世の中にいなければ、その可能性はゼロになる。参加もせずに勝てるゲームなどありはしない。

38のエピソードからなる、小品。挿絵もかわいくて、犬好き、動物好き、人間嫌い(?)なら楽しめるかも。
とはいえお子様よりは大人向け、オッチャン向けかもしれません。
私の好みの一編は、やはり「プリンセス」ですね、ロマンティストですから。
寝る前にポツリポツリと一話ずつ読んでみるのが正しい本書の読書法かなぁ、と思います。

放浪する犬といえば、昔のテレビ番組で「名犬ロンドン物語」というのがありました。お話は……(この項続く?)

マイクル・Z・リューインのホームページ(日本語のあいさつ文がある)

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