2017.01.22

ヴェルヌ『名を捨てた家族 1837-38年ケベックの叛乱』を読む

昨年、出版予定の紹介をしました↓ジュール・ヴェルヌの新刊を読みました。

2016.10.8 待望のヴェルヌ新刊『名を捨てた家族1837-38年ケベックの叛乱』

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(画像:ヴェルヌ『名を捨てた家族』表紙と扉)

ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族: 1837 ― 38 年 ケベックの叛乱』大矢タカヤス訳 彩流社 2016.10

1889年刊、本邦初訳(ただし、明治時代に翻訳あり、との情報も)。

従来紹介されてきたヴェルヌの作品と言えば、主にSFの祖としての科学冒険小説の類でした。
三大名作『地底旅行』『海底二万里』『八十日間世界一周』、あるいは『月世界旅行』(及び『月世界へ行く』)や『十五少年漂流記』(『二年間の休暇』)といった作品群です。
あるいは、文遊社から復刊された一連の短篇と冒険ものの作品――『永遠のアダム』『ジャンガダ』『黒いダイヤモンド』『緑の光線』――とも少し違います。

今回は、イギリスの植民地となった19世紀前半のカナダを舞台にした、フランス系カナダ人の独立のための武装蜂起を描く歴史的な物語です。

 ・・・

イギリスとの争いに敗れた結果、フランス王ルイ十五世によってイギリスに割譲された旧フランス植民地のフランス系住民が、イギリス政府の植民地支配の圧政に対抗するべく立ち上がった改革派の1825年のクーデターは、金で情報を売った賭け事好きの弁護士シモン・モルガスの密告によって全員が逮捕され、処刑あるいは懲役刑となり、制圧される。
裁判の途中で彼が密告者であることが判明、裏切者の正体が知られ、約束通り釈放されたものの、もはや彼とその一家に居場所はなく、僻地を転々とする日々。
彼を信じる妻ブリジェットと二人の息子ジョアンとジャンだったが、シモンが自殺し、そのポケットから札束が見つかり、真実が知らされ彼らを打ちのめす。

本書は、それから12年後のお話です。

生き残りの改革派は、あらたに武力闘争を開始する。
その中心に立ち、改革派を鼓舞する人物こそ、抵抗運動の先頭に立つ本書の主人公〈名なしのジャン〉であり、教会を通じて抵抗するべく宣教を続ける神父ジョアンでした。

各地で一斉蜂起すれば勝算あり、と考えていた彼ら改革派でしたが、最初のサン=ドゥニで勝利を得るも、翌日そのすぐ南のサン=シャルルでは敗走。
かろうじて逃げ出したものの幹部級の多くは、負傷し散り散りとなる。

捲土重来を図るべく、アメリカ国境にほど近い、ナイアガラ瀑布へつづく川にあるナヴィ島に逃げ込むが、そこにも政府軍が押し寄せる。

裏切者の妻であり息子であることが暴露された母子は、非難する人々に追われるように島を去ってゆく。

「息子よ」と彼女は言った。「赦してあげなさい!……私たちに赦さない権利はないのです!」/「赦せですって!」とジャンは叫んだがその不当さに抗って彼の存在全体が憤っていた。「私たちがやったのではない罪を私たちのせいにする者たちを赦すのですか、それを償おうと私たちができる限りのことをやったのに! 裏切りの罪を妻にまで、子供たちにまで追いまわす者たちをゆるすのですか、子供の一人はすでに彼らにその血を与えました、もう一人にも自分たちのために血を流せと要求する者たちを赦すのですか! いやです!……絶対にいやです! 私たちに触れると汚れるというこの愛国者たちとはこちらから一緒にはいられません! 行きましょう、お母さん、行きましょう!」/「息子よ」とブリジェットは言った、「苦しまなくてはならないのです!……それがこの世での私たちの取り分なのです!……贖罪なのです!……」》p.329「第二部 第十一章 贖罪」

政府の攻撃軍が渡河を始めるとき、守備陣にジャンが戻ってくる。
母の死に際の言葉に、父の罪を償う任務に返ってきたのだったが……。

 ・・・

後半、砦に監禁された〈名なしのジャン〉を奪回すべく、ジョアン神父が死刑を宣告されたジャンに面会を求め、ついに脱走を敢行し、成功します!
さらに、主人公たちを乗せた船がナイアガラ瀑布にのまれてゆく、衝撃のラスト。
これらの場面は、さすがヴェルヌという感じです。

また、原住民(インデアン)のヒューロンのマホガニス族の血を引く公証人とその第二書記のコンビは、ヴェルヌの作品でときに登場する狂言回しで、お笑いコンビになっています。

ヴェルヌの作品では、『海底二万里』の主人公ネモ艦長(船長)は、インドの独立派の人間と設定され、植民地解放派の物語として共通するものでしょうか。
今回ヴェルヌは、フランス愛国者として、フランス系住民の植民地解放物語の悲劇を描いています。

なかなかの感動編です。

ヴェルヌの新たな面が見られたかも、という作品でした。
既紹介作品の新訳もよいのですが、こういう新しい出会いを期待しています。

ぜひ、これを機に、ヴェルヌの未紹介作品を次々と邦訳していただければ、と思います。


☆★彡
ちなみに、ヴェルヌ本の新企画本が出ています。(うれしいけれど、内容もお値段も素晴らしい!)

*【ヴェルヌ本の新企画】:
『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション II 地球から月へ 月を回って 上も下もなく』
石橋正孝/訳 インスクリプト 2017/1/20
―「ガン・クラブ三部作」(旧訳題名『月世界旅行』『月世界探検』(『月世界へ行く』創元SF文庫)『地軸変更計画』創元SF文庫)の世界初の合本。砲弾による月探検二部作とその後のプロジェクト。

〈全巻構成〉
第I巻(第4回配本)ハテラス船長の航海と冒険 荒原邦博・荒原由紀子訳(18年春刊) 予価:5,500円 [新訳]
第II巻(第1回配本)地球から月へ 月を回って 上も下もなく 石橋正孝訳(17年1月刊) 特大巻:5,800円 [完訳 世界初の合本]
第III巻(第5回配本)エクトール・セルヴァダック 石橋正孝訳(18年秋刊) 予価:5,000円 [本邦初の完訳]
第IV巻(第2回配本)蒸気で動く家 荒原邦博・三枝大修訳(17年5月刊) 予価:5,500円 [本邦初の完訳]
第V巻(第3回配本)カルパチアの城 ヴィルヘルム・シュトーリッツの秘密 新島進訳(17年11月刊) 予価4200円 [新訳、本邦初訳]


*【ヴェルヌの参考書】:『ジュール・ヴェルヌ伝』フォルカー・デース 石橋正孝訳 水声社 (2014/05)
―本邦初のヴェルヌの評伝。力作です。ヴェルヌの伝記のなかで最も信頼に足ると言われるものです。
 当時の社会状況を知っていれば、また彼の作品をより多く読んでいれば、楽しさも増します。

『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝 左右社 (2013/3/25)
―これも力作。元は学術論文ということで、ちょっと読みづらく感じたり、ヴェルヌの原稿をまな板に載せているため、それらを(邦訳がない、もしくは手に入りにくいため)未読の人には分かりにくかったりします。
 小説家ヴェルヌと編集者エッツェル、二人のジュールのあいだを巡る出版の秘密をめぐる“冒険”です。

『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”』東洋書林 (2009/03)
―これは見て楽しい本です。図版で見るヴェルヌの世界といってもいいかもしれません。

『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社(1995)
―ヴェルヌの小説の表現を通して当時のフランス帝国主義を考えるという論文。原書からの挿絵も多数収録。
 巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介。
 本書『名を捨てた家族』の解説でも触れられています。

『水声通信 no.27(2008年11/12月号) 特集 ジュール・ヴェルヌ』水声社 2009/1/6
―1977年『ユリイカ』以来の雑誌特集。本邦初訳短編「ごごおっ・ざざあっ」、ル・クレジオ他エッセイ、年譜、《驚異の旅》書誌、主要研究書誌。


*『お茶でっせ』記事:
【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売
・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む
・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版
【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】
・2016.7.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売
・2015.8.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売
・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』
・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増!
・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫
・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

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2017.01.15

私の読書論89-私の年間ベスト2016(後編)フィクション系

―第191号「#レフティやすおの楽しい読書」別冊 編集後記

★古典から始める レフティやすおの楽しい読書★
2017(平成29)年1月15日号(No.191)-170115-
「私の読書論89-私の年間ベスト2016(後編)フィクション系」


本誌では、今年読んだ本100冊あまりのうち、フィクション系の本約50冊足らずの中から今年のベストを選んで紹介しています。

思いのほかダラダラとした内容になってしまい、申し訳ありません。
もう少しコンパクトにまとめたかったのですが、時間的に難しくなってしまいました。


今年はミステリだけでなく、SFを久しぶりに読みました。
他にも怪奇と幻想系のものも。

なかでも今年の一番のお気に入りの作家は、フェルディナント・フォン・シーラッハでした。

三冊の短篇集と二冊の長編を読みました。

刑事弁護士としての体験を基にした法廷小説、犯罪ものの小説を記録でも読んでいるかのごとくに、淡々と簡潔に短い文章で綴っています。
内容が凄いのです。

こんな人生があるのだ、という驚き。

ぜひ読んで頂きたいものです。

 ・・・

 ●私の2016年〈フィクション系〉ベスト3ぐらい

『ミスティック・リバー』デニス・ルヘイン 加賀山卓朗訳 ハヤカワミステリ文庫


『火星の人〔新版〕上下』アンディ・ウィアー 小野田和子訳 ハヤカワ文庫SF

そして、フェルディナント・フォン・シーラッハの3作―

『犯罪』酒寄進一訳 創元推理文庫


『罪悪』酒寄進一訳 創元推理文庫


『コリーニ事件』酒寄進一訳 東京創元社 2013/4/11


さて、以上から私のベスト1は?

 ・・・

詳細は本誌で!


*本誌のお申し込み等は、下↓から
(まぐまぐ!)『(古典から始める)レフティやすおの楽しい読書』


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2016.11.04

BBC版クリスティー「そして誰もいなくなった」11月27日放送開始

アガサ・クリスティーの代表作のひとつ、名探偵ポアロもミス・マープルも登場しない、ノン・シリーズの長編「そして誰もいなくなった」のドラマが日本初放映されます。

いつも通りのNHK・BSプレミアムで、全3回の放送です。

そして誰もいなくなった

BSプレミアム 11月27日(日)放送スタート 毎週日曜 午後9時

アガサ・クリスティーの名作、日本初放送!!/謎の人物から小さな無人島の邸宅に招かれた10人の男女。次々と人が消えていく衝撃のミステリー! イギリスで放送され大絶賛された新作ドラマ。

原題:And Then There Were None
制作:2015年 イギリス


離れ島に集められた10人の男女が一人一人と殺されてゆきます。
状況は、有名なわらべ歌に則ったもので、見立て殺人です。
集められた人々はみな、その過去に殺人の罪を犯した人々だったのです。
報復のための殺人か? それとも、神になり変わった制裁なのか? ……

超有名な名作をいかに料理しているのか、楽しみです。


原作:「そして誰もいなくなった」アガサ・クリスティー 青木久惠/訳 ハヤカワ文庫―クリスティー文庫 2010/11/10


*過去のクリスティー記事:
2015.10.17
クリスティー原作ドラマ「トミーとタペンス」NHKテレビで放送
2013.3.20
名作~推理編14クリスティー“自殺偽装”事件~左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii355号
2012.12.20
名作~推理編『検察側の証人』クリスティー~左利きで生きるには 週刊ヒッキイhikkii343号
2012.6.27
私とクリスティ:『七つの時計』-ファンクラブ機関誌から

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2016.10.08

待望のヴェルヌ新刊『名を捨てた家族1837-38年ケベックの叛乱』

私の知っている限りでは、ソローの日記などを出している彩流社から10月18日発売予定です。

念願の未訳の、過去の復刊/改訳等でなく、全く知られていなかった作品の登場です。
嬉しいの一言です。

『地底旅行』『海底二万里』『悪魔の発明』といったSFの祖といわれるヴェルヌらしい名作というより、冒険小説作家的な面が前面に出た作品のようです。

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(書影画像:出版社サイトより)

ジュール・ヴェルヌ『名を捨てた家族: 1837 ― 38 年 ケベックの叛乱』大矢タカヤス訳 彩流社


文遊社同様、ちょっとお値段がお高いのですが、仕方ないのでしょう。
昨今の翻訳小説冬の時代では。

出版社の同書宣伝文によりますと、

SFの先駆者ジュール・ヴェルヌの知られざる
歴史小説!
虐げられたフランス系カナダ人の闘いと誇りを描く
異色作!!/
19世紀前半カナダ、フランス系住民は大英帝国政府の
圧政に苦しんでいた。
民族の自由と尊厳を守るため立ち上がる住民たち。
そんな彼らの希望となっていたのは、カリスマ性をそなえ、
颯爽と現れ民衆を導く青年「名なしのジャン」だった。
しかし、彼にはけっして明かしてはならない
過去があった……。/
史実をもとに描かれる、恋、スリル、闘い、そして
裏切りと真の絆。
先住民を含む多彩な登場人物が躍動する、
歴史小説にして冒険活劇。
本邦初訳!!

訳者は、デュマ『モンテ= クリスト伯爵』の新訳を果たした「大矢 タカヤス」さん。

1889年の作、本邦初訳(ただし、明治時代に翻訳あり、との情報も)。

版元の紹介文にもありましたが、手持ちの巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介している、杉本淑彦さんの『文明の帝国』「主要小説のあらすじ」によりますと、フランスからイギリスに委譲されたカナダを舞台にした、イギリスからの独立を目指す人々の冒険物語です。
もっと詳しく書かれていますが、読む楽しみを残しておきましょう。


*【ヴェルヌの参考書】:
『ジュール・ヴェルヌ伝』フォルカー・デース 石橋正孝訳 水声社 (2014/05)
―本邦初のヴェルヌの評伝。力作です。ヴェルヌの伝記のなかで最も信頼に足ると言われるものです。
 当時の社会状況を知っていれば、また彼の作品をより多く読んでいれば、楽しさも増します。

『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険 ジュール・ヴェルヌとピエール=ジュール・エッツェル』石橋正孝 左右社 (2013/3/25)
―これも力作。元は学術論文ということで、ちょっと読みづらく感じたり、ヴェルヌの原稿をまな板に載せているため、それらを(邦訳がない、もしくは手に入りにくいため)未読の人には分かりにくかったりします。
 小説家ヴェルヌと編集者エッツェル、二人のジュールのあいだを巡る出版の秘密をめぐる“冒険”です。

『ジュール・ヴェルヌの世紀―科学・冒険・“驚異の旅”』東洋書林 (2009/03)
―これは見て楽しい本です。図版で見るヴェルヌの世界といってもいいかもしれません。

『文明の帝国 ジュール・ヴェルヌとフランス帝国主義文化』杉本淑彦 山川出版社(1995)
―ヴェルヌの小説の表現を通して当時のフランス帝国主義を考えるという論文。原書からの挿絵も多数収録。
 巻末100ページを費やし、ヴェルヌの〈驚異の旅〉シリーズ全作品及び初期作品のあらすじを紹介。


*『お茶でっせ』記事:
【文遊社<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・2014.7.19 文遊社ジュール・ヴェルヌ復刊第四弾『緑の光線』7月30日発売
・2014.1.13 文遊社ヴェルヌ復刊シリーズ第3弾『黒いダイヤモンド』年末に発売 
・2013.10.17 ジュール・ヴェルヌ『ジャンガダ』を読む
・2013.8.6 ジュール・ヴェルヌ『永遠のアダム』を読む&『ジャンガダ』出版
【その他の<ヴェルヌ>の過去の記事】:
・201607.25 角川文庫から新訳ジュール・ヴェルヌ『海底二万里』(上下)7月23日発売
・2015.08.10 ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』椎名誠、渡辺葉・父娘共訳31日発売
・2013.6.2 ジュール・ヴェルヌの本2点『〈驚異の旅〉または出版をめぐる冒険』『永遠のアダム』
・2012.10.25 テレビの威力か?HPジュール・ヴェルヌ・コレクションにアクセス急増!
・2007.8.24 ジュール・ヴェルヌ『海底二万里(上)』岩波文庫
・2004.10.18 偕成社文庫版ジュール・ヴェルヌ『神秘の島』と映画『80デイズ』
・2004.7.2 復刊された『グラント船長の子供たち』

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2016.06.07

『ミステリマガジン』2016年7月号創刊60周年記念号を読む

前回の『ミステリマガジン』の記事:
2016.6.6 『ミステリマガジン』2016年7月号創刊60周年記念号を買う

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(画像:「創刊60周年記念号」を手にニッコリの筆者)

特集は、「創刊60周年記念号」です。

本誌にゆかりの内外著名作家の再録や新訳の〈短編競作〉、人気コラムニストによる選りすぐりの名編を再録した〈コラム・アンコール〉、本誌にまつわるミステリ史と人物ファイルで綴る「60年史」松阪健さんの選んだ年間この一冊「60年60冊」〈資料と研究〉

〈短編競作〉では、久しぶり?に海外作家の作品4作を交えて。
〈コラム・アンコール〉では、都筑道夫さん、田中小実昌さん、青木雨彦さん、瀬戸川猛資さん、児玉清さん、そして小鷹信光船長といった今や伝説になってしまった人々と現役組と。
〈資料と研究〉の「60年史」はもう少し詳しくてもよかったのでは? 「60年60冊」も力作。

これから二カ月かけてじっくり読ませてもらおうと思います。

とにかく、おめでとうございます。


 ●『ミステリマガジン』の思い出、イラストレーター編

今回、私は『ミステリマガジン』の思い出として、イラストレーターさんのことを書いてみましょう。

一番始めに挙げるべきは、やはり真鍋博さんです。70年代からの表紙他。
次に、ユーモアスケッチ等の畑農照雄さん。
幻想と怪奇等の楢喜八さん。
ハードボイルドやクライム系?等の山野辺進さん。

最後に私の一番好きだった人を挙げますと、それは怪盗ニックやイラストマップ等の桜井一さんです。
小説家に転身されたと思ったら、突然亡くなられて……。

この辺の方々が記憶に残るベスト5でしょうか。

またHMM回顧の機会がございましたら、ぜひともイラストレーターさんの特集をお願い致します。

『ミステリマガジン』2016年7月号創刊60周年記念号

Hayakawa Online News【通巻717号】より

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ミステリマガジンが創刊60周年を迎えました
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
アメリカのミステリ専門誌「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の
日本版として、1956年に誕生したミステリマガジンが
今月25日発売の2016年7月号をもって、創刊60周年を迎えました。

今回の記念特集号では60年の歴史を振り返る年表に加え、
名作家たちによる短篇やコラムの再録をお届けします。
ロス・マクドナルド、トマス・H・クックの初訳、
ジョン・チーヴァー、片岡義男、皆川博子の再録のほか、
田口俊樹によるコーネル・ウールリッチの新訳を収録。
どれも60年という節目を飾るに相応しい内容となっています。

特集のほかに、今年来日した北欧作家
『猟犬』のヨルン・リーエル・ホルスト氏のインタビューと
〈エーランド島四部作〉のヨハン・テオリン氏による
特別講演の誌上再現記事にもご注目下さい。

ついに還暦を迎えたミステリマガジン。
これもひとえに読者の皆様のおかげです。
次の70年、80年、そして100年と
これからのミステリマガジンをどうぞよろしくお願いいたします。


*過去の『ミステリマガジン』の記事:
・2014.5.7 『ミステリマガジン』2014年6月号創刊700号と思い出のコラム
・2014.5.26 私の投書が『ミステリ・マガジン』読者欄に掲載されました


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2016.06.06

『ミステリマガジン』2016年7月号創刊60周年記念号を買う

まずは、60周年おめでとうございます。

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(画像:2014.6<創刊700号記念特大号>と2016.7<創刊60周年記念号>)

ここまでの頑張りは特筆ものです。
『SFマガジン』と並んで、孤高の雑誌と言ってもよいでしょう。

途中いくつかのライバル誌が登場しましたが、そのすべてをことごとく退けてきたのはひとえに、制作者(作家、訳者、コラムニスト、書評家、イラストレーター、編集者諸氏並びに経営陣、営業担当等社員等)及び印刷製本等製作者、広告主の皆様方一同、その情熱の賜物でしょう。
もちろん、私たち愛読者の力もありますが。

 
 ●海外/翻訳ものはオワコンか?

1970年9月号〈E・S・ガードナー追悼特大号〉以来のHMMオールドファンである私の中ではオワコン化しつつある本誌ではありますが、“最後”の〈○十周年/○百号記念号〉だろうと思い、購入に踏み切りました。

数年前のリニューアルで、『SFマガジン』同様、メディア・ミックスの国内海外を含めた情報と文芸(作品)の、ミステリ専門誌となりました。

さらに隔月刊化されてからは、大きく国内作品に偏重したミステリ誌となりました。
海外情報こそ今まで同様といった感じですが、作品に関しては、まったくと言っていいほど掲載されなくなりました。
一度など、一作のみ、それもページ数にして本文2ページのみ、という号もありました。

今でもアマゾンでは《この雑誌について》の欄に《海外ミステリの高級専門誌》と書かれています。
こんな看板はもうとうの昔に下ろされています、よね。


ここまで説明すれば、海外/翻訳もの好きの私がオワコン扱いする理由もおわかりでしょう。

様々な事情があるのでしょう。
版権の問題とか、読者の傾向とか。

そもそも雑誌や書籍の売り上げも落ちている。
特に紙のものが。

本屋さんでも海外の翻訳もののスペースが極端に減っています。
数年前の何分の一かに激減です。

そういう状況で、HMMも海外ものだけでは誰も読んで/買ってくれない、ということなんでしょう。

これは単に本誌に関する話だけではなく、早川書房の翻訳書自体がそうなんでしょう。

雑誌で赤が出ても、書籍が売れれば、雑誌を出す意義もあるというものです。
しかし、掩護射撃するはずの雑誌が足を引っ張る中で? 本体もダメとなりますと……。

かつて〈海外文学の早川〉という看板を挙げていました。
今のように紙の本の売れ行き自体が落ちている中で、特に海外/翻訳ものが読まれない/売れない時代では、どうにもならないのでしょう。

仕方がないとはいえ、残念至極です。
私なりに応援しているのですけれど、ネ。


 ●代替わりした老舗洋食店

で、もう一度書きます。

最近の本誌は、まったく困ったものです。
老舗の洋食店として通い続けていたのに、代替わりしたら和食中心の店に代わっていたようなものです。

メニューを見ると、一応洋食らしい品目も掲げてありますが、前菜やデザート類で、肝心のメインディシュは和食ばかり。

これでは詐欺だ、とは言いませんが、先代や先々代が見たらどう思うだろうと気になります。
第一、昔の馴染み客はどうすればいいんでしょうか。

年寄のぼやきだと一蹴されるのでしょうか。

昔も、小林信彦さんの『大統領の密使』矢作俊彦さんの『リンゴゥ・キッドの休日』等がありました。

和食がダメというわけではありません。

一つは配分であり、もう一つはお店としての“らしさ”です。
後者は「伝統」と言い替えることもできるでしょう。

そこを勘違いしては、新規の客は取れても馴染み客は去ってゆきます。

行く末短い客だから切ってもいいと考えるのか、逆に最期を楽しく全うしてもらおうと感謝の気持ちを抱くのかでしょう。

 ・・・

内容については、後篇で――。

『ミステリマガジン』2016年7月号創刊60周年記念号

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2015.12.09

パパイラス船長、ハードボイルド小説研究家・小鷹信光氏死去

昨夜(12月8日)、長らく『HMM(ハヤカワ・ミステリ・マガジン)』連載コラムで親しんだ小鷹氏の訃報を聞きました。
享年79。
『HMM』で現在3号連続の『KODAKA NOBUMITU'S MYSTERY MAGAZINE』が連載中(現在発売中の1月号に創刊第2号掲載)で、これの<創刊号>「編集後記」で、膵臓の腫瘍発症と書かれていて、病気療養中とは知っていましたが、残念なことです。
来年発売予定の3月号で3号の最終となる予定ですが、まさかそれが「追悼号」になる(?)とは。

<創刊号>(『HMM』2015年11月号)の冒頭の連載コラム「ペーパーバックを繰りながらあの頃の話をしよう」の冒頭に、《小鷹信光ミステリマガジン》のことを《おそらくこれが、私の最後の晴舞台となるだろう》と書かれています。
本当にそうなってしまったようで、非常に悲しい思いです。

同じこの号の「編集後記」で《人生最高のご褒美をいただいた思いでいっぱいです》と書かれているのが、せめてもの慰めです。

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(画像:小鷹信光ミステリマガジン創刊号表紙)

*【小鷹信光ミステリマガジン】連載:
創刊第1号『ミステリ・マガジン(HMM)』2015年11月号

第2号『ミステリ・マガジン(HMM)』2016年1月号


私にとっては、1970年の終わり、『HMM』連載のアーヴィング・ストーン「クラレンス・ダロウは弁護する」の翻訳が最初の出会いだったかと思います。
そして最も印象に残っているのが、「パパイラスの舟」の連載コラムでした。


『HMM』オールド・ファンとなってしまった私にとって、小鷹さんの連載コラムは、現在『HMM』を読む最大の楽しみ(昨今は海外ミステリの翻訳掲載が極端に減り、ある意味では唯一の楽しみかもしれない)だったのですけれど……。

訃報ニュースの見出しにもなっていた、松田優作主演の今や“伝説”のテレビドラマ『探偵物語』の原案の小鷹氏でもあったのですが、この“原作”小説もあまり顧みられませんが、なかなか優れたハードボイルド探偵小説です。
この機会に再刊されることを望みます。

*探偵【工藤俊作】シリーズ(幻冬舎文庫):
『探偵物語』1998/10

『探偵物語/赤き馬の使者』1999/2

『新・探偵物語』2001
『新・探偵物語/国境のコヨーテ』2001

*私のお気に入り小鷹氏の著作:
『“新パパイラスの舟”と21の短篇』論創社 (2008/11)
―「ミステリマガジン」連載“架空アンソロジー・エッセイ”+テーマ別短篇小説21編


*最近の訳書:
『チューリップ ダシール・ハメット中短篇集』草思社 (2015/11/12)
《ハードボイルド小説の日本での紹介者・小鷹信光個人訳に、評論・解説を付す。/ハードボイルド精神とは何か? 遺作と編者特選短篇を集めた愛蔵版。》


ご冥福をお祈り致します。

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2015.10.17

クリスティー原作ドラマ「トミーとタペンス」NHKテレビで放送

NHKテレビの「トミーとタペンス<全6回>」が明日18日から始まりますね。

この情報は、クリスティ・ファンクラブの数藤会長からの報告で知りました。

NHKのサイト「トミーとタペンス」から―

--
トミーとタペンス<全6回>

アガサ・クリスティー原作のおしどり夫婦が活躍する探偵ドラマ。
日本初放送!

「秘密機関」(3話完結)
「NかMか」(3話完結)

今年2015年、生誕125年を迎えるミステリーの女王アガサ・クリスティーが生みだし、エルキュール・ポワロ、ミス・マープルと並んで愛される
「おしどり探偵」ことトミーとタペンスの夫婦が活躍するミステリー・ドラマ。

1950年代のイギリス。
第二次世界大戦後の復興から東西冷戦の時代に、冒険好きの妻タペンスと彼女を支える夫トミーが難事件に挑む。
50年代のおしゃれなファッションとノスタルジックな雰囲気のなかで、ユーモアを交えながらハラハラドキドキのドラマが展開する。
イギリスで制作され、BBCで放送したばかりの作品を日本初放送!
1作品を3回に分けて放送します。(2作品全6回)

原題:Agatha Christie’s Partners in Crime
制作:2015年 イギリス


・トミーとタペンス(1)[新]<全6回>「秘密機関(1)」
列車で乗り合わせた女性が行方不明に。トミーとタペンスは事件の謎を追うが…。

第二次世界大戦後の1952年。
ロンドン在住の夫婦、トミーとタペンスはパリに出かける。
帰りの列車の中で乗り合わせた若い女性が食堂車に行った後、タペンスは銃声と悲鳴を聞いたような気がした。
女性はそのまま戻らなかった…。
不審に思ったタペンスは、女性が残した1冊の本を手掛かりに行方を調べようとするが、次々と危険な目にあう。

トミーとタペンス(2)「秘密機関(2)」
失踪した女性、ジェーンの行方を調べ始めたトミーとタペンスはスパイ事件に巻き込まれて…。

トミーとタペンス(3)「秘密機関(3)」
ブラウンが誰かを探り当てたトミーとタペンスは、暗殺の標的である国務長官のもとへ急ぐが…。

トミーとタペンス(4)「NかMか(1)」
トミーは軍情報部幹部のおじから極秘任務を命じられる。

トミーとタペンス(5)「NかMか(2)」 スパイの正体を調べるため潜入捜査を始めたトミーとタペンス。次々と起こる事件に翻弄される。

トミーとタペンス(6)「NかMか(3)」[終]
スパイNの要求は核兵器とソ連の政治犯との交換。期限は2日しかない。
--

以上、六回放送のようです。


原作では、「秘密機関」は、第一次大戦後、二人の年齢を合わせても45にもならないという若い二人が再会し、仕事のない戦後の生活の中で出会った冒険のお話です。

「NかMか」は、第二次大戦中、戦争のため、息子とも娘とも離れた、中年になった二人が、ドイツのスパイを探る冒険に誘われるお話です。

クリスティーもまた、戦時下では、祖国のためを思う愛国者だったということでしょうか。

それとも家族を思うがゆえ、だったのでしょうか。

しかし、話の内容は、男女カップルの冒険ものとはいえ、ミステリの女王らしいちょっとした謎解きありの楽しめるものになっています。

「NかMか」は、トミーとタペンスものの中では唯一未読で、実はごく最近読んだばっかりだったので、偶然に驚いています。


<トミーとタペンス>もの
1.秘密機関 (長編)
 戦後再会した二人の青春冒険もの


2.おしどり探偵 (短篇集)
 冒険好きの若い二人トミーとタペンスのベレズフォード夫妻が探偵事務所を開き、ホームズやポアロなど名探偵たちのマネをして事件を解決する


3.NかMか (長編)
 中年になった二人のスパイ冒険もの


4.親指のうずき (長編)
 「トミーとタペンスはどうしていますか」の読者の声に応えて書かれた、老年期に入った二人の冒険で、クリスティー晩年の傑作


5.運命の裏木戸 (長編)
 生前のクリスティーが最後に書いた作品
 正直始めて読んだ時、さすがのクリスティーも衰えたか、と思わせた作品で、タイトルがタイトルだっただけに…。
 登場人物がみな、80、90代というのビックリしましたが、書いた時クリスティー自身が80代ですから、これも当然かも


(ポアロ最後の事件『カーテン』とマープル最後の事件『スリーピング・マーダー』は、第二次世界大戦頃に書かれ、死後公開のこととして保管されていた原稿)

 ・・・

昨日16日、
『ポワロ』の声・熊倉一雄さん死去 88歳
の報が入ってきました。

テレビの<ポアロ>ものもスーシェさんが全作を演じ終え、熊倉さんのポアロもそれに伴い、おしまいになったのでした。

まあ、待っていたわけではないでしょうが、結果的には、あの仕事を終えてからのこの日ということで、感慨深いものがあります。

ご冥福をお祈りいたします。

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2015.09.23

“わが友フランシス”息子フェリックス単独作『強襲』を読む

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今は亡きイギリス・ミステリ界の巨匠ディック・フランシスの御子息フェリックスさんの単独作品がついに邦訳されました。

『強襲』フェリックス・フランシス 北野寿美枝/訳 イースト・プレス (新・競馬シリーズ) 2015/1/24


単独と書いたのは、すでに父と息子の二人鷹での共著作品が4作発表されていたからです。

父ディック・フランシスは、2000年発行の第39作『勝利』を以って、長年連れ添った伴侶であり創作上でもよきパートナーであった妻メアリーさんの死後、休筆。
ところがその後、2006年『再起』で復帰を果たし、愛読者であったわれわれフランシス・ファン、及び一般のミステリ・ファンをあっと言わせました。
さらに翌年からは息子フェリックスさんとの共著という形で、従来通り年一作、2007年第41作『祝宴』、2008年第42作『審判』、2009年第43作『拮抗』、2010年第44作『矜持』を発表。
そして、このフェリックスさんの単独作品が2011年に登場した、というわけです。


 ●フェリックスの作品

その後も調べてみますと―

Felix Francisのホームページの〈BOCKS〉によりますと、

2012 Bloodline
2014 Damage
2015 Front Runner

アマゾンには、もう一冊"Refusal"という作品が出ています。

"Damage"の〈なか見!検索〉をのぞいてみますと、〈also by Felix Francis〉のもとに、GAMBLE/BLOODLINE/REFUSALの三冊の書名が上がっています。

正確には、

2012 Bloodline
2013 Refusal
2014 Damage
2015 Front Runner

と、毎年新作を発表してきたようです。


このホームページでさらに注目すべき点は、この〈BOCKS〉のページの〈Felix Francis〉の項目に、単独作3冊と、共著4作以外に、復帰作"Under Orders"(邦訳名『再起』)も加えられています。

その下に〈Dick Francis〉の項目があり、39冊が掲げられています。

ディック・フランシスの復帰作『再起』も、クレジットされてはいないけれど、共著だったという含みのようです。


 ●〈'Dick Francis' novels〉

彼のtwitterによりますと、"Author of the 'Dick Francis' novels"とあります。

〈'Dick Francis' novels〉という表現を使っているのですね。
〈ディック・フランシス(長編)小説〉、即ち〈ディック・フランシス風(長編)小説〉もしくは〈ディック・フランシス形式の(長編)小説〉という意味でしょうか。

しかし、その言葉は間違っていません。
本書を読んでの印象は、正に「ディック・フランシスのテイストを持った(長編)小説」だったからです。

ある人曰く、
現物を見て思わず笑ってしまった。ハードカバーで、表紙もなんとなく似ている。/翻訳だって、[...]そもそも作家からしてそうなのだけど、いい大人たちが揃って「ディック・フランシスごっこ」をやっているかのようだ。ついつい、ニヤついてしまう。
*【新・競馬シリーズ】 フェリックス・フランシス『強襲』を読むなど

正にその通りで、漢字二文字のタイトルも訳者も同じで、カバーのデザインも馬の写真を使い、そっくりです。

内容的にも、非常に優れたミステリに仕上がっている、とまでは言えないかもしれませんが、今まで邦訳されることがなかったというのが不思議に思える程度には、感心する内容です。

確かにまったくの新人の作品とすれば、ディック・フランシスの亜流で新味のないミステリ、と判断されそうです。


どの世界、どこの国でもそうだと思うのですけれど、「親の七光り」というものがあります。
これだけ偉大な父の名を持つ人物の作品をここまで放置するという例も珍しいのではないでしょうか。

今までの版元である早川書房の問題(版権取得や過去の作品の売上等)なのか、翻訳もの出版に関わる問題なのか。
どちらにしても非常に残念なことでした。

それでも、まあ、今回出版されましたので、オールド・ファンとしましては、やれやれというところですか。


 ●気になったシーン

さて、本書についての感想を書いておきましょう。

私がすぐ横に立っているときにハーブ・コヴァクが殺された。いや、“処刑された”というほうが当たっているだろう。[...]
巻頭いきなりこれです。 この殺人から始まる一連の事件に“私”が巻き込まれ、その解決に向かって犯人と戦うお話です。

主人公は、その後幾つものピンチを迎え、そのたびに疑心暗鬼になりながらも、自分の信じる道をへこたれることなく、自力で切り抜けてゆきます。
このあたりの展開は従来通りの〈'Dick Francis' novels〉の展開そのものというところでしょうか。


一つだけ言いたいことは、ラスト近くの章のある場面です。
ネタばれになるかもしれませんが、どうしても書いておきたいのです。

それは、主人公が犯人に処刑されそうになる場面で、馬に乗って逃げ、反撃するところです。
(馬が乱入してくるこのシーンは、その昔見た『うる星やつら』のなかで突然「暴れ牛」が登場するシーンを思い出しましたね。なんでやねん!って。)

馬で逃げ反撃するこのシーン、私は、父ディック・フランシスの処女作『本命』のラスト近くのシーンを思い出しました。

息子フェリックスがこれを覚えていて、リスペクトとしてこういうシーンを入れたのかどうかわかりませんが、私にはうれしい展開でした。

第二十章のラスト、“私”と警官のこんなやり取りがあります。
どこかのまぬけが競馬場で馬を盗み》その捜索に駆り出されているという警官に、《その件なら協力できるかもしれない》と答えるのです。

ここで私なら次のように書いたことでしょうね。

「馬の名前は?」
「えー、アドミラル、だ」
「アドミラル。いい子だ。《私が今立っている場所のすぐ外にいる》」

この「アドミラル」という名は、『本命』で活躍する〈名馬〉の名前です。
フランシスの描く名馬のなかにあって、最初に登場した名馬であり、そして最高の名馬でしょう。

フランシス・ファンならこういう遊びに『興奮』することは確かでしょう。

 ・・・

本書は、読者の評判もいいようです。
問題は売上ですが…。

ぜひ次作以降も翻訳されることを願ってやみません。

出版もまた賭けです。
フェリックスも書いています。

「でも、それってちょっとした賭けじゃない?」[...] 人生そのものがちょっとした賭けだ。/表が出れば勝ち、裏が出れば負ける。》『強襲』「エピローグ」p.390

がんばってね、イースト・プレスさん、北野寿美枝さん。
みんな応援しましょう!


記事タイトル中の“わが友フランシス”は、青木雨彦氏の人気コラム『夜間飛行』の「ディック・フランシス編」に付されていたものを拝借しました。

*参考:
本命 (ハヤカワ・ミステリ文庫 競馬シリーズ)

本命 [Kindle版]


夜間飛行―ミステリについての独断と偏見 青木雨彦/著 (講談社文庫 1981/5)


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2014.05.26

私の投書が『ミステリ・マガジン』読者欄に掲載されました

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(画像:読者欄“響きと怒り”)

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(画像:贈られてきた掲載誌とポケミス最新刊)


何十年振りかで私の投書が雑誌に掲載されました。

(思い起こせば、36歳のときの小学館の広報誌以来ですね。
 ということは正確に言えば、24年ぶりでしょうか。)

先月創刊700号を迎えた、私の愛読誌である『ミステリ・マガジン』2014年7月号読者欄“響きと怒り”です。

ここに載るのは、四回目ぐらい?ですが、
二十代以来でしょうか。

ここ十年ぐらい、新聞の読者の投書欄(左利きについて)、およびこの雑誌の読者欄(趣味のミステリについて)に何度か投書していますが、悲しいかな、空振りばかりでした。
久しぶりにヒットです。

先月号(2014年6月号)で創刊700号を迎えた『ミステリ・マガジン』の愛読者として、<私の思い出のコラム>について書いた文章です。

【創刊700号記念特大号】
『ミステリマガジン』2014年6月号(700号)
【投書掲載号】
『ミステリマガジン』2014年7月号(701号)


文面を転載しておきます。

↓のブログ記事の一部を省略してまとめたものです。

『レフティやすのお茶でっせ』2014.5.7
『ミステリマガジン』2014年6月号創刊700号と思い出のコラム


(1)は私の元原稿。
(2)掲載文面。

(1)
『ミステリマガジン』創刊700号をおめでとうございます。
購入は2010年6月号<ディック・フランシスの弔祭>追悼号以来。
高二の夏休み、1970年9月号<E・S・ガードナー追悼特大号>(173号)で出会って以来十二、三年?定期購読。
その後は仕事の多忙、巨匠たちの死、モダン・ホラーの流行等の理由で購読中止。
以後、図書館で借りて読む状況です。
それでもポケミス1500番、400号、500号(601号は買いそびれ)は持っています。
今回は「思い出のコラム」―私も都筑さん瀬戸川さん雨さん…小鷹パパイラス船長等皆様と同様。
他にはカー「陪審席」。
片岡義男「マッドMAD自身」他、平尾圭吾「紐育の日本人」(BNで読んだ?)―アメリカを感じさせるコラムが記憶に残っています。
特筆すべきは太田博編集長の各号前節です。ミステリのなんたるかを教えられました。
《ミステリの中に探偵小説あり、サスペンス小説あり、クライム・ストーリーあり、ハードボイルドあり、幻想と怪奇を専らにする小説などがあると考えたほうが、英米の形にこだわらないアンソロジストたちが現実に考えているように、無理がないと思われます。》『ミステリマガジン』1970年9月(173)号
これからも日本のミステリ界をリードする専門誌であり続けてください。

(2)
《ミステリマガジン》創刊七〇〇号をおめでとうございます。購入は二〇一〇年六月号「ディック・フランシスの弔祭」追悼号以来。高二の夏休み、一九七〇年九月号「E・S・ガードナー追悼特大号」(一七三号)で出会って以来十二、三年? 定期購読。その後は仕事の多忙、巨匠たちの死、モダン・ホラーの流行等の理由で購読中止。以後、図書館で借りて読む状況です。それでも一九八八年一月「ポケミス1500番記念」号、四〇〇号、五〇〇号は持っています。
 今回は「思い出のコラム」――私も都筑さん瀬戸川さん雨さん……小鷹パパイラス船長等、皆様と同様。他にはカー「陪審席」、片岡義男他、平尾圭吾「紐育の日本人」――アメリカを感じさせるコラムが記憶に残っています。特筆すべきは太田博編集長の各号前節です。ミステリのなんたるかを教えられました。
〈ミステリの中に探偵小説あり、サスペンス小説あり、クライム・ストーリーあり、ハードボイルドあり、幻想と怪奇を専らにする小説などがあると考えたほうが、英米の形にこだわらないアンソロジストたちが現実に考えているように、無理がないと思われます。〉
《ミステリマガジン》これからも日本のミステリ界をリードする専門誌であり続けてください。

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