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2013.07.09

哲学とは、愛である『饗宴』プラトン~NHK100分de名著2013年7月

第1回の放送は済みましたね。
最近は放送をほとんど見ていないのに書き続ける、「NHK100分de名著」第何弾目かの記事です。

 ・・・

「NHKテレビ100分de名著」2013年7月は、プラトン『饗宴』です。

第1回 7月3日放送 世界最古の恋愛論
第2回 7月10日放送 愛と欲望の正体
第3回 7月17日放送 愛の奥義とは
第4回 7月24日放送 理想を求める心

○NHKテレビテキスト「100分 de 名著」
プラトン『饗宴』2013年7月 [語り手] 納富信留
2013年6月25日発売

愛することが哲学だ
“美”を求めて“共”に生きる――それが人のいとなみである。


古代ギリシアの哲学者プラトンの初期の“ソクラテス対話篇”と呼ばれる一連の作品の一つ。

これらの作品は、一般には「哲学書」と分類されますが、文学作品としても楽しめるものです。
その辺が、読みやすい哲学書と言われるゆえんでもあるでしょう。

特にこの作品『饗宴』は、これら一連の作品の中でも、第一級の文学作品と言えるでしょう。


 ●『饗宴』

悲劇詩人アガトンの優勝を祝う酒宴に、アルキビアデスとソクラテスが二人して駆けつけたときのお話です。

喜劇詩人アリストパネスら各人がそれぞれ“愛・恋・愛の神エロース”に関する自慢のお話を一つずつ話してゆくのですが、そこに登場するのが、ソクラテスです。

そして、哲学とは「知を愛し求めること」だ、と語るのです。
ここに至って初めて、哲学書らしくなるという寸法ですね。

『饗宴』は遊興気分のただよう愉快な対話篇である。/談論の場の設定からして遊びの気配が濃い。/...『饗宴』は酒の席での議論をつづった対話篇なのだ。/... 話柄も話しぶりも、罪のないおしゃべりというか、放談というか、そんなものに近い。》p.60-61
エロス論とは、きまじめな対話、高潔な倫理、立派な哲学と水と油なのだ。/プラトンはそのことをよく承知していて、だからこそ、酒席の、遊興気分のなかで議論が進行するように舞台をしつらえもしたのだった。》p.66
長谷川宏/著『いまこそ読みたい哲学の名著 自分を変える思索のたのしみ』光文社文庫 2007.4.20

「『饗宴』プラトン 古代ギリシャのエロス」


... 「シュンポシオン」というギリシア語はもともと「一緒に飲む」という動詞の名詞で、作品の舞台は酒席に設定され、しかも飲み仲間たちが次々と、恋の神「エロース」賛美の演説を試みる仕掛けになっている。プラトーンのこの作品も酒と恋が種なのである。/
プラトーンはあらゆる文体をこなす言葉の達人で、荘重な調子も、軽やかな、おふざけ調も意のままであったらしいが『饗宴』では、登場する七人の演説者たちの話し振りを、それぞれに使い分けて、パロディー(もじり)の天才としての面を遺憾なく発揮している。/
だから『饗宴』という作品は、この上もなく、にぎやかで、華麗であって、キェルケゴールも言っている。「一連の演説は、あたかも巧みに細工した水晶のグラスの中の酒のようであり」、それが示す「無限の屈折、光の海」は、読者を「陶然たる酔いに誘う。」(『イロニーの概念』第二章第二節a)
》p.257

斎藤忍随/著『ギリシア文学散歩』岩波現代文庫 2007.8
「IX プラトーン」


 ●片割れを求め続ける人間たち

この作品に登場する愛のお話として、最も有名なのは、アリストパネスの語る物語―

中でも文句なく面白くて、誰をも夢中にさせてくれるのは、第四番目の演説者アリストパネースの話である。昔々、人間は今とは違って、背中合わせの顔が二つ、耳が四つ、手足が計八本、セックスの印が二つという仕組でできていて、球の恰好をしていた。彼等があまり強すぎたので、神はその弱体化をはかって、かたっぱしから真二つに断ち切り、今の形の人間ができ上った。もとと比べれば不完全な、こうした片割れを探し求めて一体になろうとする。それが恋というもので、それを司る神がつまり「エロース」なのである。》p.257
しかし片割れの人間は、うようよしている。昔の片割れを見つけ出すのは容易ではあるまい。恋は盲目、違った相手と一緒になれば、それこそ、いつもしっくり行かず、喧嘩ばかりということにもなる。喜劇詩人は恋愛賛美をよそおいながら、実は恋愛の愚を笑い飛ばしているのではなかろうか。》p.258 斎藤忍随/著『ギリシア文学散歩』岩波現代文庫 2007.8 「IX プラトーン」


『饗宴』から引いてみましょう。


... このような大昔から、相互への恋(エロース)は人々のうちに植えつけられているのであって、それは人間を昔の本然の姿へと結合する者であり、二つの半身を一体にして人間本来の姿に直そうとする者である。/
したがって、ぼくらは【ひらめ】(訳文傍点)のように一つのものを二つに断ち切られたのだから、一人一人が人間の割符というわけだ。だから誰でも自分の割符を探し求めるのだ。...
》p.115

『プラトン 筑摩世界文学大系3』筑摩書房(1972)
「饗宴」鈴木照雄/訳
筑摩世界文学大系〈3〉プラトン (1972年)


人間は元々三種あった―男男、女女、男女(おめ)。

三番目の男女の片割れ同士は互いに求めあうと、普通の男女の恋人同士となるが、女女の片割れだった者は、同性愛の女となる。

ところが、男男の片割れは、本来最も男らしい存在なので、男性的なものを追求し、少年時代は大人の男を愛するが、この者たちは、最優秀の者どもである、というのですが…。

... アリストパネスは喜劇の作者であって、その目的は人を笑わすことにある。この点では彼は天下一品で、... どこまで真剣なのか、どこからがふざけなのか見当がつかない。プラトンは「饗宴」の中でこの詩人につかみ所のない愛に関する途轍もない真面目なようなふざけたような演説をさせているが、さすがはプラトンである。恐らくここにアリストパネスの悲しみがあるのであろう。》》p.613
『ギリシア喜劇II アリストパネス(下)』ちくま文庫1986.8.26  高津春繁「解説」


 ●「知を恋い、求める者」

そしていよいよ佳境に入り、ソクラテスの登場です。

... 第六番目の演説者、真打ち格のソークラテースの話も、もちろん面白い。「恋」とは元来、欠けたるものを求め、充実をはかることだから、恋の神「エロース」は、普通考えられているような美少年ではなく、美を欠き、「ごつごつとして汚らしく、靴もはかぬ」というていたらくになる。その上、また完全な知の所有者でもない筈だから、「知を恋い、求める者」(philosophos)という規定も受けなければならなくなる。そこでこの神に本当にあやかる者といえば、なりふりかまわず、ただ完全な美を知り、見るために前進する。ルネッサンスの神秘主義的プラトニストで、この作品に注釈を加えたマルシリオ・フィチーノは「美は神の顔である」と言ったが、ソークラテースの説く美は、そういった類の美かもしれない。/ だが、『饗宴』は真打ちの演説が終っても終りにならない。突然、へべれけに酔った美青年が笛吹きの女やお伴をつれて乱入して来た。彼もまた即席の演説を試みる。ただし彼のはソークラテース礼讃演説である。彼は心底からソークラテースに傾倒している。いや、その打ち込み方はギリシアに普通のペデラスティ(少年愛)である。若い彼は年上のソークラテー スに恋い焦れている。けれども一向に、普通のようには相手にしてもらえないのが恨みである。ソークラテースは森に住む笛の神マルシュアースだ。半身は人間、半身は山羊のこの神は決して美しい神ではないが、その笛で誰をもうっとりさせる。ソークラテースは言葉の名手で誰をも酔わす。/酔ってはいるが、演説は的確で機知に富み、青年の才気がなみなみならぬことを示している。この酔漢青年は誰であろうか。あのアルキビアデースである。アテーナイを不幸なシシリー遠征に駆り立てたあの驕児である。... 》p.258-9
斎藤忍随/著『ギリシア文学散歩』岩波現代文庫 2007.8 「IX プラトーン」
騒ぎはつづき、やがて一人、また一人と酔いつぶれ、起きているのはソクラテスただ一人になる。そうなって、ソクラテスは立ち上がり、そっとその場を去っていく。/その幕切れが印象ぶかい。》p.75
長谷川宏/著『いまこそ読みたい哲学の名著 自分を変える思索のたのしみ』(光文社文庫 2007.4.20) 「『饗宴』プラトン 古代ギリシャのエロス」


かくして『饗宴』は終了します。


ソクラテスのお話は、古代ギリシア語のphilosophia(フィロソフィア)「愛知」とは何かを意味するお話でもあったのです。

プラトンの対話篇『饗宴』の中で、ソクラテスは独自の愛の理論を展開しています。愛するものは、その愛の対象をなんとか自分のものにしようともとめます。ということは、知を愛しもとめる者というのは、まだ知(知識)をもっていない、もっていないからこそ、ひたすらそれを愛しもとめるのだ、と言うのです。知をもっていないことを無知と言います。つまり愛知者は無知であり、無知だからこそ知を愛しもとめるのだ、というわけです。... 》p.39
木田元『反哲学入門』(新潮文庫 2010.6.1) 「第一章 哲学は欧米人だけの思考法である」


 ・・・

『饗宴』は、プラトンのソクラテス対話篇の中で、一連の対話篇への入門書的な位置にあると言ってもよいでしょう。
そういう取っつきやすい、読みやすい一編です。

哲学と言うとうっとうしい敬遠したいという人も少なくないかもしれません。
しかし、プラトンの対話篇は、分かりやすく、かつ非常に刺激的な一面があり、読み始めるとやめられないとも言えます。

後期の作品は、「イデア論」といった独自色が強くなり、難しく感じるかもしれませんが、その点初期の作品である本書及び『ソクラテスの弁明』『クリトン』、そして『パイドン』辺りは、比較的読みやすく、かつ超有名な作品です。
未読の方は、ぜひ一度チャレンジして欲しいものです。


★プラトン『饗宴』
饗宴 (新潮文庫)プラトーン


饗宴 (岩波文庫)プラトン

饗宴 恋について (角川ソフィア文庫)プラトン


★『ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン』プラトーン/著 田中美知太郎/訳 池田美恵/訳 新潮文庫(改版2005)

以上の文章は、以下↓のメルマガの文章を基に加筆・修正したものです。

*参照:
(メルマガ)『古典から始める レフティやすおの楽しい読書』
2012(平成24)年5月31日号(No.82)-120531-恋について『饗宴』プラトン

*他のNHKテレビ「100分 de 名著」の記事:
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